ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G |
---|---|
管理番号 | 1254904 |
審判番号 | 不服2008-12228 |
総通号数 | 149 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-05-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-05-14 |
確定日 | 2012-04-02 |
事件の表示 | 特願2003-566086「相乗的安定剤混合物の製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月14日国際公開、WO2003/66719、平成17年 6月 9日国内公表、特表2005-517065〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成15年2月4日(優先権主張 2002年2月6日 (DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成16年8月5日に特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書が提出され、平成19年7月9日付けで拒絶理由が通知され、同年10月15日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年2月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月14日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、同年11月28日付けで前置報告がなされ、当審において平成22年9月29日付けで審尋がなされ、同年12月27日付けで回答書が提出され、平成23年6月3日付けで拒絶理由が通知され、同年9月7日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2.本願発明の認定 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年9月7日付け手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 一般式(I)、(II)および(III) 【化1】 [式中、nおよびmは、互いに独立して、0?100の数であるが、両方が0にはなり得ず、 R^(1)は、水素、C_(5)?C_(7)シクロアルキルまたはC_(1)?C_(12)アルキル基であり、R^(2)およびR^(3)は、互いに独立して、水素原子、C_(1)?C_(18)アルキル基であるか、またはそれらが結合している炭素原子と共に5?13員環、またはそれらが結合している炭素原子と共に式(IV) 【化2】 の基であり、 R^(4)およびR^(5)は、互いに独立して、水素またはC_(1)?C_(22)アルキル基、酸素ラジカルO^(*)、-OH、-NO、-CH_(2)CN、ベンジル、アリル、C_(1)?C_(30)アルキルオキシ基、C_(5)?C_(12)シクロアルキルオキシ基、C_(6)?C_(10)アリールオキシ基(ここで、アリール基はさらに置換されていてもよい)、C_(7)?C_(20)アリールアルキルオキシ基(ここで、アリール基はさらに置換されていてもよい)、C_(3)?C_(10)アルケニル基、C_(3)?C_(6)アルキニル基、C_(1)?C_(10)アシル基、ハロゲン、または置換されていないか、またはC_(1)?C_(4)アルキル置換されたフェニルである] の成分を、化合物(I)を65?95重量%画分で、化合物(II)を5?35重量%画分で、化合物(III)を0?10重量%画分で含んでなる光安定剤を製造する方法であって、式(V) 【化3】 [式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)およびR^(4)は、上に定義した通りであり、R_(6)^(-)はプロトン性酸の陰イオンである] の化合物を、式(VI) 【化4】 (式中、Xは塩素、臭素またはヨウ素原子である) のエピハロヒドリンと、相転移触媒であるポリエチングリコールの存在下に相転移反応させ、続いて重合反応で反応させ、不活性有機溶剤が、化合物(VI)に対して2:1?1:5の比で使用される、方法。」 第3.当審が通知した拒絶理由の概要 当審が平成23年6月3日付けで通知した拒絶理由通知における、本願発明についての拒絶理由の概要は以下のとおりである。 「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)本願発明1について …… ウ.…… 発明の詳細な説明において、本願混合物の製造に関して具体的な記載がなされているのは、段落【0130】-【0133】における、例2-4のみであるところ、これら例2-4で製造された生成物については「脆い、ほとんど無色の樹脂」であること(段落【0132】)、その融解範囲がそれぞれ「166-216(℃)」、「163-216(℃)」、「160-210(℃)」であること、その溶液粘度が2.00-2.23(mm^(2)/s)であることが示されているのみであり、生成物を構成する成分の比率や各成分の化学構造については何ら測定・分析等による確認がなされていない。 エ.…… そして、上記ウ.のとおり本願明細書中にはその具体例においてさえも生成物を構成する成分の比率や各成分の化学構造については何ら測定・分析等による確認がなされていないのであるから、本願明細書全体の記載に出願時の技術常識を参酌してみても本願混合物ができていることを確認することができない。 そうであるから、上記した例2-4の記載をもって、有機材料の安定化に有用な本願混合物が製造されていることが、発明の詳細な説明に裏付けられて記載されているとは言えない。 したがって、本願発明1が、本願出願時の技術常識を考慮したとしても、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるとはいえない。 オ.まとめ 以上のとおりであるから、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載したものとは認められない。」 第4.当審の判断 上記の当審が通知した拒絶理由(特許法第36条第6項第1号違反)が妥当なものであるかについて、以下に検討する。 4-1.本願発明は、「化合物(I)を65?95重量%画分で、化合物(II)を5?35重量%画分で、化合物(III)を0?10重量%画分で含んでなる光安定剤を製造する方法」に係る発明であって、有機材料の安定化に有用な成分(I)、 (II)及び化合物(III)の混合物を、個別に製造された成分の複雑で時間と経費のかかる混合によってではなく、巧妙な反応計画によりその場で製造する方法を提供することを、その発明の課題とするものと認められる(本願明細書段落【0001】-【0015】、【0128】)。 4-2.本願発明が、本願明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというためには、発明の詳細な説明の記載において、本願発明に係る方法により「化合物(I)を65?95重量%画分で、化合物(II)を5?35重量%画分で、化合物(III)を0?10重量%画分で含んでなる光安定剤」(以下、「本願安定剤」という。)が提供されたことが裏付けられるか、あるいは出願時の技術常識を参酌することにより、本願安定剤が提供されることが自明でなければならない。 そして、本願安定剤のような化学物質に関する発明においては、化学構造及び一般的な製造方法が示されたとしても、実際にその物ができるかどうかは予測がつかない分野であるから、その物が提供されたというためには、実際にその物が製造され、その物が確認されなければならない。 4-3.上記観点から、発明の詳細な説明の記載を検討する。 発明の詳細な説明において、本願安定剤の製造に関して具体的な記載がなされているのは、段落【0130】-【0133】における、例2-4のみであるところ、これら例2-4で製造された生成物については「脆い、ほとんど無色の樹脂」であること(段落【0132】)、その融解範囲がそれぞれ「166-216(℃)」、「163-216(℃)」、「160-210(℃)」であること、その溶液粘度が2.00-2.23(mm^(2)/s)であることが示されているのみであり、生成物を構成する成分の比率や各成分の化学構造については何ら測定・分析等による確認がなされていない。 そして、上述のとおり本願明細書中にはその具体例においてさえも生成物を構成する成分の比率や各成分の化学構造については何ら測定・分析等による確認がなされていないのであるから、本願明細書全体の記載に出願時の技術常識を参酌してみても本願安定剤ができていることを確認することができない。 そうであるから、上記した例2-4の記載をもって、有機材料の安定化に有用な本願安定剤が製造されていることが、発明の詳細な説明に裏付けられて記載されているとは言えない。 したがって、本願発明が、本願出願時の技術常識を考慮したとしても、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるとはいえない。 4-4.まとめ よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものとは認められないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第5.平成23年9月7日提出の意見書における審判請求人の主張について 審判請求人は、平成23年9月7日提出の意見書において、 「(a)まず、本願明細書の実施例において本願発明において特定されている混合物が得られていることを確認するために、実施例に記載された方法に従って製造された生成物について分析実験を行いました。その方法及び測定結果をここに添付します。この分析実験は、本願明細書に記載された実施例2を追試したものであります。 まず得られた生成物についてのHPLCダイアグラム、および常温GPCダイアグラムから、それらはいずれも成分(I)および(II)の成分が本願特許請求の範囲に包含されていることを示しています。これらのスペクトルは本願明細書の例2に関するものですが、例3および4についても近似した結果が得られます。 すなわち、実施例2の方法により得られる生成物は、本願発明において特定された成分の割合を満たしていることがわかります。 次に^(13)C-NMRスペクトルをみると、本願発明による混合物に含まれる炭素の典型的なシグナルを示しています。 すなわち、この実験結果からも明らかなように、本願明細書の実施例に記載されている方法に従って得られた生成物は、本願発明において特定された成分の比率や化学構造を満たしているものです。」と主張し、添付されたHPLCダイアグラム、GPCダイアグラム及び^(13)C-NMRスペクトルにつき、「実験」欄において、 「得られた混合物を、HPLCおよび常温GPCにより分析し、^(13)C-NMRで同定した。 得られたHPLCダイアグラムには、相対面積比3.04%であるRT=2.053分にジオール(=成分(II))、および相対面積比8.51%であるRT=5.956分にダイマー(=成分(I))が示されている。 得られたGPCダアグラムには、相対面積比3.03%であるRT=15.814分にジオール、および相対面積比10.68%であるRT=15.227分にダイマーが示されている。 このHPLCおよびGPCダイアグラムは、いずれも得られた混合物が65?95重量%の成分(I)および5?35重量%の成分(II)が含まれていることを明らかに示している。 ^(13)C-NMRスペクトルは、本願請求項1に示された混合物に対する典型的な炭素のシグナルを示している。特に、カルボニル領域(174?176ppm)には近似した化合物の混合物であることを示す、7つの個別のカルボニルピークが認められる。」と主張している。 しかしながら、上記HPLCダイアグラム及びGPCダイアグラムにおいては、各ピークに対応する成分について、それらの分離・精製及び各成分の構造解析を行っているわけではなく、上記「ジオール」及び「ダイマー」なるピークがそれぞれ本願発明における成分(II)及び成分(I)に対応する化学構造を有するものであることは確認されていない。 また、^(13)C-NMRスペクトルについても、得られた混合物をそのまま測定しているのみであり、上記「本願請求項1に示された混合物に対する典型的な炭素のシグナルを示している。」とした根拠も全く不明であるし、上記「特に、カルボニル領域(174?176ppm)には近似した化合物の混合物であることを示す、7つの個別のカルボニルピークが認められる。」なる主張についても、174?176ppmのカルボニル領域のピークが7つに分裂していることから、なぜ本願発明において特定された化学構造を満たしているといえるのかが不明である。 したがって、上記意見書に添付されたHPLCダイアグラム、GPCダイアグラム及び^(13)C-NMRスペクトルのデータをみても、依然として生成物を構成する成分の比率や各成分の化学構造について確認がなされているとはいえず、有機材料の安定化に有用な本願安定剤が製造されていることが確認されているとは認められないから、上記審判請求人の主張は採用することができない。 なお、仮に、更なる追加データの提出により、生成物を構成する成分の比率や各成分の化学構造が確認され、有機材料の安定化に有用な本願安定剤が製造されていることが確認され得るとしても、本来、そのようなデータは本願の出願当初の明細書において記載しておくべきものであって、特許出願後に補足・治癒すべきものではない。 第6.むすび 以上のとおりであるから、当審が平成23年6月3日付けで通知した拒絶理由(特許法第36条第6項第1号違反)は妥当なものであり、本願はこの理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-11-07 |
結審通知日 | 2011-11-08 |
審決日 | 2011-11-21 |
出願番号 | 特願2003-566086(P2003-566086) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(C08G)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松岡 弘子 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
小野寺 務 藤本 保 |
発明の名称 | 相乗的安定剤混合物の製造法 |
代理人 | 横田 修孝 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 吉武 賢次 |
代理人 | 紺野 昭男 |