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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1254905
審判番号 不服2008-21672  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-25 
確定日 2012-04-03 
事件の表示 特願2004-541089「皮膚及び外皮への塗布が意図された組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年4月15日国際公開、WO2004/030640、平成18年3月2日国内公表、特表2006-507258〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2003年10月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年10月2日、仏国、2002年11月25日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年5月29日付で拒絶理由が通知され、同年12月5日付で手続補正がなされるとともに同日に意見書が提出されたが、平成20年5月20日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年8月25日に拒絶査定不服審判がされるとともに同日に特許請求の範囲の手続補正がなされ、同年11月5日付で審判請求書の手続補正がなされ、平成22年12月28日付で審尋が通知され、平成23年7月11日に回答書が提出されたものである。

第2 平成20年8月25日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年8月25日付の手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
平成20年8月25日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「生理的に許容できる媒質中に、少なくとも1種の脂肪質の物質及び下記を含む少なくとも1種の複合顔料を含有する、口紅:
-無機コア、
-無機コアを少なくとも部分的に被覆している、少なくとも1種の有機顔料、及び
-有機顔料を無機コア上に固定するための、少なくとも1種の結合剤であって、シリコーン化合物又はチタン酸塩、アルミン酸塩若しくはジルコン酸塩カプラー及びそれらの混合物から選択される結合剤。」と補正された。

上記補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「皮膚、唇及び/又は外皮へ塗布することが意図された組成物」を「口紅」に減縮するとともに、「少なくとも1種の脂肪質の物質」を含むと減縮するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前である平成1年11月28日に頒布された「特開平1-294611号公報」(原査定の引用文献4。以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。

(1-1)「1.粉体表面を染料及びアクリル系高分子化合物で被覆することにより得られる着色顔料。
2.請求項1記載の着色顔料を配合したことを特徴とする化粧料。」(特許請求の範囲)

(1-2)「本発明は新規な着色顔料に関し、さらに詳しくは、耐水性・耐油性に優れ、皮膚、衣類等に染着することのない着色顔料及びこれを含有する化粧料に関する。」(1頁左欄下から5行?下から2行)

(1-3)「従来、化粧料等の着色剤として種々の染料・顔料が使用されている。このうち、染料は一般に有機化合物であり、色の種類が豊富であるので、メーキヤツプ化粧料等の製品の幅を広げることができるが、皮膚等に付着すると染着することから、製品に配合しづらいという欠点があつた。一方、顔料は一般に無機粉体であり、染着等の問題はないが、色の種類が限られており、所望の色調のものが得にくいという欠点があつた。
そこで、染料と顔料のそれぞれの特性を生かした着色剤を得るために、染料を顔料化することが試みられている。
しかしながら、従来行なわれてきた顔料化技術は、多くは染料と粉体の吸着による結合からなるものである為、耐水性・耐油性に劣り、満足すべきものが得られていないのが実情であつた。」(1頁右欄1行?2頁左上欄3行)

(1-4)「本発明者らは、斯る実情に鑑み、優れた耐水性及び耐油性を有する着色剤を得べく鋭意研究をおこなつた結果、染料と結合剤としての特定の高分子化合物とを用いて粉体表面を被覆すれば上記要望を満足し、しかも染着がなく発色も良好な着色剤が得られることを見出した。また、この着色顔料を配合することにより、従来にない色調を有し、塗布色がきれいで、化粧持続性も良好な化粧料が得られることを見出した。」(2頁左上欄5?14行)

(1-5)「本発明において使用される粉体としては特に限定されないが、使用可能なものとして例えば化粧用粉体が挙げられ具体的にはタルク、カオリン、マイカ、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム等の無機体質・白色顔料、黄酸化鉄等の無機有色顔料、ナイロン粉末、ポリエチレン末、スチレンパウダー、ポリテトラフルオロエチレンパウダー、シルクパウダー、結晶セルロース、N-ラウロイル-L-リジン等の有機粉末、雲母チタン、酸化鉄雲母チタン、オキシ塩化ビスマス等のパール剤等が好ましい。これら粉体は、化粧料等のその使用目的に応じて、一種または二種以上を選択して用いられる。」(2頁右上欄4行?同頁左下欄4行)

(1-6)「本発明において使用される染料としては、水溶性染料、油溶性染料のいずれでも良く、特に限定されないが、本発明着色顔料を化粧品に配合する場合には、色幅の広がり、安全性、粉体処理のしやすさ等を考慮すれば、好ましいものとして、赤色104号(1)、赤色105号(1)、赤色106号、赤色201号、赤色213号、赤色215号、赤色218号、橙色205号、橙色207号、黄色4号、黄色202号(1)、黄色406号、緑色3号、緑色202号、緑色204号、緑色205号、青色1号、青色205号、青色403号、褐色201号、紫色201号、紫色401号、黒色401号等のアルコール可溶性染料が挙げられる。」(3頁右上欄11行?同頁左下欄10行)

(1-7)「本発明に係る着色顔料を配合しうる化粧料は、製品形態、形状を問わず、粉末状・プレス状・液状・ステイツク状何れのものでもよく、例示すれば、粉白粉、フアンデーシヨン、ホホ紅、アイシヤドウ、口紅、アイライナー、マスカラ、アイブロウ等が挙げられる。
(中略)
本発明の化粧料には、上記着色顔料他、通常化粧品用原料として用いられる他の成分として、白色・体質・着色顔料、パール剤、天然鉱物、有機粉末、油剤、金属石ケン、界面活性剤、保湿剤、防腐剤、香料、その他各種添加剤等から適宜選択して構成される。」(4頁左上欄6行?同頁右上欄9行)

(1-8)「実施例5
ステイツク型口紅:
(組成)
No.1 ヒマシ油 45.3%
2 へキサデシルアルコール 25.0
3 ラノリン 4.0
4 ミツロウ(黄色) 5.0
5 オゾケライト 4.0
6 キヤンデリラロウ 7.0
7 カルナウバロウ 2.0
8 酸化防止剤,防腐剤 適量
9 酸化チタン 2.0
10 着色顔料(本発明品1) 5.5
11 〃 (本発明品10) 0.2
12 香料 適量
(製法)
A No.1?8を加熱溶解する。
B AとNo.9?11を混練した後、再溶解し、No.12を加え溶解する。
C Bを容器に充填成型する。
上記の如くして得られたステイツク型口紅は、皮膚への染着がなく、従来にない発色を有し、かつ色沈み等の色変化がなく、化粧持続性の良いものであり、しかも使用感も良好なものであつた。」(7頁左下欄下から3行?8頁左上欄7行)

(1-9)5頁第1表には、(本発明品1)及び(本発明品10)について以下のとおりの組成が示されている。
(本発明品1)
赤色105号(1) 0.1
エチルアルコール 100
メタクリル酸エステル共重合体(30%エタノール溶液) 10
タルク 96.9
(本発明品10)
赤色201号 0.1
エチルアルコール 100
メタクリル酸エステル共重合体(30%エタノール溶液) 10
タルク 96.9

(1-10)「以上詳述した如く、本発明は、粉体表面に、アクリル系高分子化合物を結合剤として染料を被覆させることにより、単に染料として使用するのみでは得られなかつた効果を有する着色顔料を提供するものである。
すなわち、本発明に係る着色顔料は、上記の如き構成からなるものであり、染料は水、油に対して不溶性のアクリル系高分子化合物の皮膜中に固溶化状態で存在し、かつ該皮膜と粉体とが強固に結合している為に、耐水性、耐油性に優れ、皮膚等への染着のみられないものである。而して、本発明により、従来染着性があることから使用しづらかつた染料を顔料化することが可能となつたものであり、従来にない発色の優れた着色顔料が得られるものである。また、本発明によれば、基材となる粉体を選ばないことから、化粧品に配合した場合にも使用感を損うことがなく、従来にない発色を有し、しかも使用感も良好な製品を提供することができる。
また、本発明の化粧料は、上記の如き着色顔料を配合したものであり、皮膚等への染着かなく、塗布色がきれいで、化粧持続性に優れたものである。しかも、従来にない発色を有するものが得られ、使用感も良好なものである。」(8頁右下欄4行?9頁左上欄14行)

(2)原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前である2002年3月6日に頒布された「欧州特許出願公開第1184426号明細書」(原査定の引用文献5。以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

(2-1)「[0001] The present invention relates to composite particles, a process for producing the composite particles, and a pigment, paint and resin composition using the composite particles. More particularly, the present invention relates to composite particles which are substantially free from desorption of an organic pigment from the surface thereof and contain no harmful element, a process for producing the composite particles, and a pigment, paint and resin composition using such composite particles.
[0002] As well known in the arts, inorganic pigments and organic pigments have been used as colorants for resins, paints, printing inks or the like according to applications thereof. Also, it is known that the inorganic pigments are usually excellent in light resistance, but are deteriorated in tinting strength, thereby failing to show a clear hue. Although some inorganic pigments exhibit a clear hue, many of such pigments contain as essential component, harmful metals such as lead, mercury, cadmium, chromium or the like. Therefore, it has been strongly required to replace these conventional inorganic pigments with alternate materials capable of showing a clear hue, from the standpoints of hygiene, safety and environmental protection.
[0003] On the other hand, it is known that the organic pigments usually show a clear hue, but are deteriorated in hiding power and light resistance.
[0004] Hitherto, in order to obtain pigments exhibiting excellent properties required for colorants, it has been attempted to combine the inorganic pigments with the organic pigments. For example, there have been proposed the method of co-precipitating chrome yellow and phthalocyanine blue together, the method of adhering an organic pigment to the surface of inorganic pigment particles (Japanese Patent Application Laid-Open (KOKAI) Nos. 4-132770(1992) and 11-181329(1999), etc.) or the like.
[0005] At present, it has been strongly required to provide composite particles which are substantially free from desorption of organic pigment from the surface thereof, and contain no harmful elements. However, such composite particles have not been obtained.」
(審決訳:[0001] 本発明は、複合粒子粉末、複合粒子粉末を製造する方法、及び複合粒子粉末を使用する顔料、塗料及び樹脂組成物に関する。特に、本発明は、その表面からの有機顔料の脱離が本質的になく、有害な元素を含有しない複合粒子粉末、複合粒子粉末を製造する方法、及び、そのような複合粒子粉末を使用する顔料、塗料及び樹脂組成物に関する。
[0002] 周知のとおり、無機顔料及び有機顔料は、その用途に応じて、樹脂、塗料、印刷インキ等の着色顔料として使用されている。また、無機顔料は、一般に耐光性は優れているが、着色力が小さく、鮮明な色相が得られにくいことが知られている。無機顔料の中には鮮明な色相を有するものもあるが、そのような顔料の多くは構成元素として鉛、水銀、カドミウム、クロミウム等の有害金属を含有している。したがって、衛生面、安全性面及び環境汚染防止の観点から、これら従来の無機顔料を鮮明な色相を呈する代替顔料に取り替えることが強く要求されている。
[0003] 一方、有機顔料は一般に色相は鮮明であるが、隠蔽力と耐光性が劣ることが知られている。
[0004] これまでに、着色顔料に必要な優れた特性を有する顔料を得るために、有機顔料と無機顔料とを組み合わせる技術が試みられた。例えば、黄鉛とフタロシアニンブルーとを共沈させる方法や無機顔料の粒子表面へ有機顔料を付着させる方法等が提案されている(特開平4-132770号公報(1992)、及び特開平11-181329号公報(1999))。
[0005] その表面からの有機顔料の脱離が本質的になく、有害な元素を含有しない複合粒子粉末が現在最も要求されている。しかしながら、そのような複合粒子粉末は未だ得られていない。)

(2-2)「[0012] Another object of the present invention is to provide a harmless pigment which is substantially free from desorption of organic pigment from the surface thereof.」
(審決訳:[0012] 本発明は、その表面からの有機顔料の脱離が本質的にない無害な顔料を提供することを別の目的とする。)

(2-3)「[0017] In a third aspect of the present invention, there are provided composite particles having an average particle diameter of 0.001 to 10.0μm, comprising:
white inorganic particles as core particles;
a gluing agent coating layer formed on surface of said white inorganic particle, comprising at least one selected from the group consisting of a silane-based coupling agent, a titanate-based coupling agent, an aluminate-based coupling agent, a zirconate-based coupling agent, an oligomer compound, a polymer compound and an organosilicon compound selected from the group consisting of:
(1) organosilane compounds obtainable from alkoxysilane compounds,
(2) polysiloxanes or modified polysiloxanes, and
(3) fluoroalkyl organosilane compounds obtainable form fluoroalkylsilane compounds; and
an organic pigment coat formed on said coating layer in an amount of from 1 to 500 parts by weight based on 100 parts by weight of said white inorganic particles.」
(審決訳:[0017] 本発明の第3の態様では、以下を含む、0.001?10.0μmの平均粒径を有する複合粒子粉末が提供される。
芯粒子粉末としての白色無機粒子、
シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコネート系カップリング剤、オリゴマー化合物、高分子化合物、及び次のものから成るグループから選ばれた有機ケイ素化合物、から成るグループから選ばれる、少なくとも1つを含む、前記白色無機粒子の表面上で形成された糊剤被覆。
(1)アルコキシシラン化合物から得られるオルガノシラン化合物、
(2)ポリシロキサン又は変性ポリシロキサン、及び
(3)フルオロアルキルシラン化合物から得られるフルオロアルキルオルガノシラン、及び
前記白色無機粒子の100重量部に対して1?500重量部の量の上記被覆の上に形成された有機顔料被覆。)

(2-4)「[0036] As the white inorganic particles used in the present invention, there may be exemplified white pigments such as titanium dioxide, transparent titanium dioxide and zinc oxide; pearl pigments such as titanium mica and muscovite; and extender pigments such as fine silica particles such as silica powder, white carbon, fine silicic acid powder and diatomaceous earth, clay, calcium carbonate, precipitated barium sulfate, alumina white, talc, transparent titanium oxide and satin white. The white inorganic particles may be appropriately selected from the above-described pigments according to properties required therefore or applications thereof, for example, the white pigments are preferably used in applications requiring a hiding power, and the pearl pigments are preferably used in applications requiring pearl-like gloss. In addition, transparent titanium dioxide, the extender pigments or pearl pigments are preferably used in applications requiring a transparency. Among them, the extender pigments are more preferred.」
(審決訳:[0036] 本発明で使用される白色無機粒子としては、二酸化チタン、透明な二酸化チタン及び酸化亜鉛等の白色顔料、雲母チタン、白雲母等のパール顔料、及びシリカ粉、ホワイトカーボン、微粉ケイ酸、珪藻土等のシリカ微粒子、クレー、炭酸カルシウム、沈降硫酸バリウム、アルミナホワイト、タルク、透明性酸化チタン及びサテンホワイト等の体質顔料が挙げられる。白色無機粒子は、したがって、要求される特性や用途に応じて上記顔料から適切に選択される。例えば、隠蔽力が必要とされる用途には白色顔料が好ましく使用され、真珠様の光沢が必要とされる用途にはパール顔料が好ましく使用される。さらに、透明性が必要とされる用途には透明な二酸化チタン、体質顔料あるいはパール顔料が好ましく使用される。それらの中で、体質顔料がもっと好ましい。)

(2-5)「[0045] The gluing agent used in the present invention may be of any kind as long as the organic pigment can be adhered onto the surface of the white inorganic particle there through. Examples of the preferred gluing agents may include organosilicon compounds such as alkoxysilanes, fluoroalkylsilanes and polysiloxanes; various coupling agents such as silane-based coupling agents, titanate-based coupling agents, aluminate-based coupling agents and zirconate-based coupling agents; oligomer compounds, polymer compounds or the like. These gluing agents may be used alone or in the form of a mixture of any two or more thereof. In the consideration of adhesion strength of the organic pigment onto the surface of the white inorganic particle through the gluing agent, the more preferred gluing agents are the organosilicon compounds such as alkoxysilanes, fluoroalkylsilanes and polysiloxanes, and various coupling agents such as silane-based coupling agents, titanate-based coupling agents, aluminate-based coupling agents and zirconate-based coupling agents.」
(審決訳:[0045] 本発明で使用される糊剤としては、白色無機粒子の表面へ有機顔料を付着できるものであれば何を用いてもよい。好ましい糊剤の例は、アルコキシシラン、フルオロアルキルシラン及びポリシロキサン等の有機ケイ素化合物、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤及びジルコネート系カップリング剤等の各種カップリング剤、オリゴマー化合物、高分子化合物等を含む。糊剤は、単独であるいは任意の二種以上の混合物の形で使用されてよい。糊剤による白色無機粒子の表面への有機顔料の付着強度を考慮すれば、より好ましい糊剤はアルコキシシラン、フルオロアルキルシラン及びポリシロキサン等の有機ケイ素化合物、及びシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤及びジルコネート系カップリング剤等の各種カップリング剤である。)

(2-6)「[0069] As the organic pigment used in the present invention, there may be exemplified various organic pigments ordinarily used as colorants of paints, inks and resin compositions, such as organic red-based pigments, organic blue-based pigments, organic yellow-based pigments and organic green-based pigments.
[0070] Examples of the organic red-based pigments may include quinacridon pigments such as quinacridon red, azo-based pigments such as permanent red, condensed azo pigments such as condensed azo red, perylene pigment such as perylene red or the like.」
(審決訳:[0069] 本発明で使用される有機顔料としては、赤色系有機顔料、青色系有機顔料、黄色系有機顔料及び緑色系有機顔料等の、一般に塗料、インク及び樹脂組成物の着色顔料として用いられている各種有機顔料があげられる。
[0070] 赤色系有機顔料としては、キナクリドンレッド等のキナクリドン顔料、パーマネントレッド等のアゾ系顔料、縮合アゾレッド等の縮合アゾ顔料、ペリレンレッド等のペリレン顔料等を含む。)

(2-7)「[0182] In addition, the composite particles of the present invention contain no harmful elements and compounds and, therefore, can provide a pigment which is excellent from viewpoints of not only hygiene and safety, but also environmental protection.
[0183] Thus, the composite particles of the present invention are substantially free from desorption of the organic pigment from the surfaces of the core particles and are harmless, and, therefore, are suitably used as a coloring pigment in various applications.」
(審決訳:[0182] また、本発明の複合粒子粉末は有害な元素及び化合物を含有していないので、衛生面や安全性面だけでなく環境汚染防止の観点から優れる顔料を提供することができる。
[0183] したがって、本発明の複合粒子粉末は、芯粒子粉末表面からの有機顔料の脱離が本質的になく、無害で、各種用途における着色顔料として好適である。)

これらの記載、特に、上記(1-1)、(1-8)、及び(1-9)からみて、引用例1には、
「1 ヒマシ油 45.3%
2 へキサデシルアルコール 25.0%
3 ラノリン 4.0%
4 ミツロウ(黄色) 5.0%
5 オゾケライト 4.0%
6 キヤンデリラロウ 7.0%
7 カルナウバロウ 2.0%
8 酸化防止剤,防腐剤 適量
9 酸化チタン 2.0%
10 着色顔料(タルクを赤色105号(1)及び
メタクリル酸エステル共重合体で被覆したもの) 5.5%
11 着色顔料(タルクを赤色201号及び
メタクリル酸エステル共重合体で被覆したもの) 0.2%
12 香料 適量
の組成からなるステイツク型口紅」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3 対比
そこで、以下に本願補正発明と引用発明とを比較する。

(1)引用発明の「1 ヒマシ油」、「3 ラノリン」、「4 ミツロウ(黄色)」、「5 オゾケライト」、「6 キヤンデリラロウ」、及び「7 カルナウバロウ」は、本願明細書段落[0018]?[0020]の口紅に含有してもよい脂肪質の物質として例示されている物質からみて、本願補正発明の「少なくとも1種の脂肪質の物質」に相当する。

(2)引用発明の「2 へキサデシルアルコール」は、上記2(1-7)に「本発明の化粧料には、上記着色顔料他、通常化粧品用原料として用いられる他の成分として、・・・、香料、その他各種添加剤等から適宜選択して構成される。」と記載されていることからも明らかなように、本願補正発明の「生理的に許容できる媒質」に相当する。
また、引用発明の「8 酸化防止剤,防腐剤」、「9 酸化チタン」、及び「12 香料」は上記のとおり通常化粧品に用いられる成分であり、本願明細書段落[0028]の「通常化粧品に使用される構成要素も含むことができる。」との記載からみて、引用発明がこれらを含有することは相違点とはならない。

(3)引用発明の「10 着色顔料(タルクを赤色105号(1)及びメタクリル酸エステル共重合体で被覆したもの)」、「11 着色顔料(タルクを赤色201号及びメタクリル酸エステル共重合体で被覆したもの)」は、上記(1-4)の「染料と結合剤としての特定の高分子化合物とを用いて粉体表面を被覆すれば上記要望を満足し、しかも染着がなく発色も良好な着色剤が得られることを見出した。」、(1-5)の「本発明において使用される粉体としては特に限定されないが、使用可能なものとして例えば化粧用粉体が挙げられ具体的にはタルク、・・・等の無機体質・白色顔料、・・・が好ましい。」、及び(1-6)の「本発明において使用される染料としては、・・・、赤色105号(1)、赤色106号、赤色201号、・・・等のアルコール可溶性染料が挙げられる。」との記載から、“染料である赤色105号(1)又は赤色201号”と“結合剤としてのメタクリル酸エステル共重合体”とを用いて“無機顔料であるタルク”の表面を被覆したものである。
そして、前記“染料である赤色105号(1)又は赤色201号”は、本願補正発明の「有機顔料」と「着色剤」である点で共通し、“結合剤としてのメタクリル酸エステル共重合体”は、本願補正発明の「シリコーン化合物又はチタン酸塩、アルミン酸塩若しくはジルコン酸塩カプラー及びそれらの混合物から選択される結合剤」と「結合剤」である点で共通する。
また、“無機顔料であるタルク”は、その表面が被覆されるものであるから、本願補正発明の「無機コア」に相当する。
そして、引用発明の“着色顔料”は、複数の物質が組み合わされて製造されているので、「複合顔料」であるといえる。

そうしてみると、引用発明の「10 着色顔料(タルクを赤色105号(1)及びメタクリル酸エステル共重合体で被覆したもの)」、「11 着色顔料(タルクを赤色201号及びメタクリル酸エステル共重合体で被覆したもの)」は、本願補正発明の「下記を含む少なくとも1種の複合顔料。
-無機コア、
-無機コアを少なくとも部分的に被覆している、少なくとも1種の有機顔料、及び
-有機顔料を無機コア上に固定するための、少なくとも1種の結合剤であって、シリコーン化合物又はチタン酸塩、アルミン酸塩若しくはジルコン酸塩カプラー及びそれらの混合物から選択される結合剤」と、無機コア、無機コアを少なくとも部分的に被覆している、少なくとも1種の着色剤、及び着色剤を無機コア上に固定するための結合剤とを含む少なくとも1種の複合顔料である点で共通する。

(4)引用発明の「ステイツク型口紅」は、本願補正発明の「口紅」に相当する。

以上のことを総合すると、両者は、
「生理的に許容できる媒質中に、少なくとも1種の脂肪質の物質及び下記を含む少なくとも1種の複合顔料を含有する、口紅:
-無機コア、
-無機コアを少なくとも部分的に被覆している、少なくとも1種の着色剤、及び
-着色剤を無機コア上に固定するための結合剤。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
「複合顔料」が、本願補正発明では、「無機コア、無機コアを少なくとも部分的に被覆している、少なくとも1種の有機顔料、及び有機顔料を無機コア上に固定するための、少なくとも1種の結合剤であって、シリコーン化合物又はチタン酸塩、アルミン酸塩若しくはジルコン酸塩カプラー及びそれらの混合物から選択される結合剤を含む複合顔料」であるのに対し、引用発明では、「無機コア、無機コアを被覆している染料、及び染料を無機コア上に固定するためのメタクリル酸エステル共重合体を含む着色顔料」である点。

4 判断

引用例1には、上記2(1-3)に「染料は一般に有機化合物であり、色の種類が豊富であるので、メーキヤツプ化粧料等の製品の幅を広げることができるが、皮膚等に付着すると染着することから、製品に配合しづらいという欠点があつた。一方、顔料は一般に無機粉体であり、染着等の問題はないが、色の種類が限られており、所望の色調のものが得にくいという欠点があつた。・・・多くは染料と粉体の吸着による結合からなるものである為、耐水性・耐油性に劣り、満足すべきものが得られていないのが実情であつた。」とあるように、従来、化粧料等の着色剤として染料や顔料が使用されているが、それぞれに優れた特性及び欠点があり、これらの特性を活かしつつ、かつ、欠点を補うための試みもなされているが、多くは染料と粉体の吸着による結合のため、耐水性、耐油性に劣るものであったという課題が示されている。
そして、上記2(1-2)に「耐水性・耐油性に優れ、皮膚、衣類等に染着することのない着色顔料及びこれを含有する化粧料に関する。」、(1-10)に「本発明に係る着色顔料は、上記の如き構成からなるものであり、染料は水、油に対して不溶性のアクリル系高分子化合物の皮膜中に固溶化状態で存在し、かつ該皮膜と粉体とが強固に結合している為に、耐水性、耐油性に優れ、皮膚等への染着のみられないものである。・・・また、本発明の化粧料は、上記の如き着色顔料を配合したものであり、皮膚等への染着かなく、塗布色がきれいで、化粧持続性に優れたものである。しかも、従来にない発色を有するものが得られ、使用感も良好なものである。」と記載されているように、引用発明の着色顔料は、前記課題を解決するために、染料と結合剤とを用いて粉体表面を被覆したものであり、そのことによって、耐水性、耐油性に優れ、染着がなく発色も良好なものであり、かつ化粧品にこの着色顔料を配合すると、色調、塗布色、化粧持続性などに優れ、染料と無機顔料とが強固に結合しているため皮膚等への染着のみられない化粧品が得られるものである。
以上のことから、引用発明の着色顔料は、有機色素である染料と無機顔料とを組み合わせて両者の特性を活用するとともに、結合剤を用いて有機色素を無機顔料に強固に結合させることで化粧品に配合した際に皮膚への染着を防ぐ、すなわち、無機顔料からの有機色素の脱離を抑制したものといえる。

一方、引用例2には、上記2(2-2)の「本発明は、その表面からの有機顔料の脱離が本質的にない無害な顔料を提供することを別の目的とする。」(審決訳)、(2-3)の「以下を含む、・・・複合粒子粉末が提供される。芯粒子粉末としての白色無機粒子、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコネート系カップリング剤、オリゴマー化合物、高分子化合物、及び・・・有機ケイ素化合物から成るグループから選ばれる少なくとも1つを含む、前記白色無機粒子の表面上で形成された糊剤被覆、・・・、及び前記白色無機粒子・・・の上記被覆の上に形成された有機顔料被覆。」(審決訳)、(2-4)の「本発明で使用される白色無機粒子としては、二酸化チタン、・・・等の白色顔料、・・・タルク、・・・等の体質顔料が挙げられる。」(審決訳)、及び(2-5)の「本発明で使用される糊剤としては、白色無機粒子の表面へ有機顔料を付着できるものであれば何を用いてもよい。」(審決訳)のとおり、“白色顔料などの白色無機粒子粉末の表面に、有機顔料を前記白色無機粒子粉末の表面に付着するためのシラン系、チタネート系、アルミネート系、又はジルコネート系カップリング剤、あるいは有機ケイ素化合物などから選択される少なくとも一種からなる糊剤被覆を形成し、その上に有機顔料被覆を形成した複合粒子粉末からなる顔料”が記載されている。
また、引用例2には、上記2(2-1)に「特に、本発明は、その表面からの有機顔料の脱離が本質的になく、有害な元素を含有しない複合粒子粉末、複合粒子粉末を製造する方法、及び、そのような複合粒子粉末を使用する顔料、塗料及び樹脂組成物に関する。周知のとおり、無機顔料及び有機顔料は、その用途に応じて、樹脂、塗料、印刷インキ等の着色顔料として使用されている。また、無機顔料は、一般に耐光性は優れているが、着色力が小さく、鮮明な色相が得られにくいことが知られている。・・・一方、有機顔料は一般に色相は鮮明であるが、隠蔽力と耐光性が劣ることが知られている。これまでに、着色顔料に必要な優れた特性を有する顔料を得るために、有機顔料と無機顔料とを組み合わせる技術が試みられた。・・・その表面からの有機顔料の脱離が本質的になく、有害な元素を含有しない複合粒子粉末が現在最も要求されている。しかしながら、そのような複合粒子粉末は未だ得られていない。」(審決訳)と記載されているように、有機顔料及び無機顔料はそれぞれに優れた特性及び欠点があり、これらの特性を活かしつつかつ欠点を補うための試みもなされているが、有機顔料の脱離が本質的になく、有害な元素を含有しない複合粒子粉末は得られていないという課題が示されている。
そして、上記2(2-7)に「本発明の複合粒子粉末は有害な元素及び化合物を含有していないので、衛生面や安全性面だけでなく環境汚染防止の観点から優れる顔料を提供することができる。したがって、本発明の複合粒子粉末は、芯粒子粉末表面からの有機顔料の脱離が本質的になく、無害で、各種用途における着色顔料として好適である。」(審決訳)とあるように、前記のように糊剤被覆を介して有機顔料被覆を形成することで、各種用途における着色顔料として好適な複合粒子粉末が得られることも示されている。
すなわち、引用例2に記載の複合粒子粉末からなる顔料は、有機色素である有機顔料と無機顔料とを組み合わせて両者の特性を活用するとともに、結合剤を用いて有機色素を無機顔料に結合させることで無機顔料からの有機色素の脱離を抑制したものといえる。

ここで、引用例2には、上記のとおり複合粒子粉末は無害であり、各種用途における着色顔料として好適であることが示されているが(上記2(2-2)、(2-7)参照)、上記2(2-1)の「本発明は、・・・複合粒子粉末を使用する顔料、塗料及び樹脂組成物に関する。」(審決訳)、及び(2-6)の「本発明で使用される有機顔料としては、・・・一般に塗料、インク及び樹脂組成物の着色顔料として用いられている各種有機顔料があげられる。」(審決訳)との記載にみられるように、その具体的な用途は、塗料、インク、樹脂組成物にとどまる。
しかしながら、引用例2に記載されているような、有機色素と無機顔料とを組み合わせて、有機色素の脱離を抑制し、塗布部位での染着を防止できるように改善した着色顔料が、前記塗料、インク、樹脂組成物などの用途とともに、化粧料などの広く着色剤が使用される分野に用いられることは、下記文献A?Cに示すとおり、当業者に広く知られたことである。

文献A:特開平11-12493号公報(原査定の引用文献1)
(A-1)「【特許請求の範囲】【請求項1】屈折率2未満の無機粉体と有機色素とを無機塩を用いて付着及び/又は固着させた複合粉体であって、前記無機粉体:前記有機色素の重量比が20:80?90:10であることを特徴とする複合粉体。」
(A-2)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、屈折率2未満の無機粉体と有機色素とを付着及び/又は固着させた複合粉体及びこれを含有する組成物に関し、更に詳しくは、色味の発色が良く、水や有機溶媒に対し色素が溶出するといったブリーディングが抑制された複合粉体及びこれを含有した発色に優れ、使用部位に染着しにくい組成物に関する。」
(A-3)「【0017】【発明の実施の形態】本発明の複合粉体は、化粧料、塗料、インキ、プラスチック、繊維、ゴムトナー等の各種組成物に一種又は二種以上を配合することができる。」

文献B:特開平11-181329号公報(審尋に記載された参考文献1)
(B-1)「【特許請求の範囲】【請求項1】次の成分(a)?(c)、(a)吸油量(JIS K5101測定法による)が50?300mL/100gの高吸油性無機顔料、(b)微粒子有機色剤、(c)環状シリコーンに溶解するオルガノポリシロキサン又はその誘導体、を含有する有機無機複合顔料。」
(B-2)「【0002】【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】無機顔料の表面に有機色剤を付着させた複合顔料は、それぞれ単純に混合した場合に比べて、彩度が高く、特に化粧品に配合した場合、外観色を鮮明にする効果が高い。複合化させる有機色剤が微粒子でかつ無機顔料表面に高分散に付着していると彩度はより高くなる。
【0003】ところで無機顔料表面に有機色剤を付着させる方法としては、無機顔料表面の電荷を利用して有機染料を吸着させる方法、あるいは多価イオンや界面活性剤を無機白色顔料表面に吸着させた後に染料を吸着させる方法が知られている。これらの方法を用いれば、無機顔料表面に、有機色剤を高分散に付着することができる。
【0004】しかしながら、これらの方法で得られた無機有機複合顔料は水中で有機色剤が脱離しやすく、また、無機顔料表面に付着させることのできる有機色剤の量も十分とはいえない。
【0005】一方バインダーを用いて無機顔料表面に有機色剤を付着させる方法も広く用いられている。かかるバインダーとしては水溶性高分子が一般的であるが、水溶性高分子は耐水性に劣るため、微量の水分で有機色剤が無機顔料表面から脱離したり、変色が生じる場合がある。また種々の高分子、例えばアクリル系高分子をバインダーに用いる方法も知られているが(特開平1-294611号公報)、特に微粒子の有機顔料を用いると溶媒中で凝集をおこしやすく、彩度の向上効果はあまり高くない。
【0006】したがって本発明は、彩度が高く、特に化粧品に配合した場合色調を鮮明にする効果が高く、更に耐久性にも優れた有機無機複合顔料を提供することを目的とする。」
(B-3)「【0017】本発明の有機無機複合顔料は、成分(a)?(c)が複合化した顔料であり、このうち(c)成分をバインダーとして(a)成分表面に(b)成分が高分散に付着したものであることが、彩度、化粧品等に配合した場合の色の鮮明さ及び耐久性等の観点から好ましい。」
(B-4)「【0021】本発明の有機無機複合顔料は、例えば化粧料、塗料、プラスチック、インキ、クレヨン、絵の具、トナー、日用雑貨品及び装飾品等に使用することができる。」

文献C:特開平10-17786号公報(審尋に記載された参考文献2)
(C-1)「【特許請求の範囲】【請求項1】20?100オングストロームの細孔をもつ無機結晶物を有機色素で処理して得られる着色顔料。」
(C-2)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、外観色が鮮明で、優れた分散性、耐水性及び耐光性を示す着色顔料に関する。」
(C-3)「【0015】本発明において、上記着色顔料を含有する組成物としては、特に制限されないが、化粧料組成物、塗料組成物、インク組成物等を挙げることができる。また、本発明の着色顔料及びこれを含有する組成物の用途としては、特に制限されないが、口紅、アイシャドー、頬紅、ネイルエナメル、アイライナー、マスカラ、ファンデーション、乳液等の化粧料、塗料、プラスチック、インキ、クレヨン、絵の具、トナー、日用雑貨、装飾品等幅広く用いることができる。」
(C-4)「【0028】(耐水性)イオン交換水10ml中に顔料0.5gを加え、1時間攪拌したときの上澄み液の着色度から、下記の水への溶出性評価基準により評価した。
上澄みが着色せず ・・・○
上澄みがわずかに着色・・・△
上澄みが明らかに着色・・・×」

そして、引用例1及び引用例2はともに、有機色素と無機顔料とを組み合わせて両者の特性を活用することを目的とし、結合剤を用いて有機色素を無機顔料に結合させることで無機顔料からの有機色素の脱離を防ぐという共通の課題と解決手段を有するものである。
また、化粧品に配合する着色剤が無害であるものが望ましいこと、肌等に移って染着を起こすようなものでないことが望ましいことは当業者に共通の技術課題である。
そうしてみると、引用発明の「10 着色顔料(タルクを赤色105号(1)及びメタクリル酸エステル共重合体で被覆したもの)」、「11 着色顔料(タルクを赤色201号及びメタクリル酸エステル共重合体で被覆したもの)」である着色顔料にかえて、引用例2に記載の“白色顔料などの白色無機粒子粉末の表面に、有機顔料を前記白色無機粒子粉末の表面に付着するためのシラン系、チタネート系、アルミネート系、又はジルコネート系カップリング剤、あるいは有機ケイ素化合物などから選択される少なくとも一種からなる糊剤被覆を形成し、その上に有機顔料被覆を形成した複合粒子粉末からなる顔料”を採用すること、すなわち、本願補正発明の「無機コア、無機コアを少なくとも部分的に被覆している、少なくとも1種の有機顔料、及び有機顔料を無機コア上に固定するための、少なくとも1種の結合剤であって、シリコーン化合物又はチタン酸塩、アルミン酸塩若しくはジルコン酸塩カプラー及びそれらの混合物から選択される結合剤」を含む複合顔料とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、引用例2の上記2(2-4)の「本発明で使用される白色無機粒子としては、二酸化チタン、・・・等の白色顔料、雲母チタン、白雲母等のパール顔料、及び・・・シリカ微粒子、・・・、タルク・・・等の体質顔料が挙げられる。」(審決訳)、(2-5)の「好ましい糊剤の例は、・・・ポリシロキサン等の有機ケイ素化合物、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤及びジルコネート系カップリング剤等の各種カップリング剤、オリゴマー化合物、高分子化合物等を含む。」(審決訳)、及び(2-6)の「赤色系有機顔料としては、・・・パーマネントレッド等のアゾ系顔料・・・等を含む。」(審決訳)に例示されている材料は、化粧品に通常使用されるものを含むものであり(例えば、引用例1の上記2(1-5)の無機顔料の具体例、前記特開平11-181329号公報のオルガノポリシロキサン、日本化粧品技術者会編、「最新化粧品科学-改訂増補II-」、平成4年7月10日、株式会社薬事日報社発行、346?347頁、「パーマネントレッド」参照)、これらから化粧品に用いるのに適したものを選択して採用することや、公知の材料から適切なものを選択して採用することは、当業者が当然行うことである。

次に、本願補正発明の効果について検討するに、本願明細書の例3に記載されている口紅は、「本願発明の複合顔料(複数)」が配合されているものの、明細書全体の記載を参酌してもここで使用されている複合顔料が具体的にどのようなものかは理解できない。
また、この口紅の効果などを確認したと認められる記載も見あたらない。
本願明細書には、本願補正発明の効果として、「本発明は、比較的強力な被覆力及び有機顔料の利点、特に色の比較的高い彩度の両方を有する少なくとも1種の複合顔料を含有する化粧品組成物の恩恵を受けることを可能にする。」(段落[0006])と記載されている。
しかしながら、これらの効果は、無機顔料に結合剤を用いて有機顔料を被覆したことにより奏される効果にすぎない。
また、本願明細書には、「加えて、有機顔料を、及び特にその色を適当に選択することにより、適当であるならば、無機コアの色を補強することが可能である。・・・無機コアのサイズは、最終複合顔料のサイズを変更するために、容易に変動することができる。・・・特にこれらの正確に分散されたナノメーターサイズの顔料は、比較的大きいサイズの顔料において認められる沈降の問題点を避けることを可能にする。複合顔料の屈折率は、無機コアの屈折率を変動することにより、容易に変更することもできる。結合剤の存在は、これが、顔料の製造時に有機顔料を表面上に固定すること、及び顔料の支持物への移りを低下することの両方を可能にする。」(段落[0007])とも記載されている。
しかしながら、これらも、引用例1の上記2(1-8)の「ステイツク型口紅は、皮膚への染着がなく、従来にない発色を有し、かつ色沈み等の色変化がなく、化粧持続性の良いものであり、しかも使用感も良好なものであつた。」、(1-10)の「また、本発明によれば、基材となる粉体を選ばないことから、化粧品に配合した場合にも使用感を損うことがなく、従来にない発色を有し、しかも使用感も良好な製品を提供することができる。また、本発明の化粧料は、上記の如き着色顔料を配合したものであり、皮膚等への染着かなく、塗布色がきれいで、化粧持続性に優れたものである。しかも、従来にない発色を有するものが得られ、使用感も良好なものである。」にあるように、既に解決されていたことであって、当業者が予測もし得ないことではない。

なお、審判請求人は、審判請求に伴い平成20年11月5日付け比較実験報告書を提出して本願補正発明の効果を主張しているが、そこに示された口紅は、いずれも前記明細書の例3に示された口紅とは異なる成分からなるものであり、これらの口紅が効果を奏するとしても、特定の組成からなるものに限られている。
そして、先にも示したとおり、本願明細書の記載を参酌しても例3の口紅に配合された複合顔料を理解することができないから、比較実験報告書による効果は出願当初の明細書の記載から当業者が推論できるものともいえず、本願補正発明の効果が示されているとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用例1?2に記載された発明及び周知の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 平成22年12月28日付け審尋に対する平成23年7月11日付け回答書の補正案について

請求人は、上記回答書で補正の提案をしているので、その点についても検討する。
回答書の補正案は、本願補正発明の無機コアをTiO_(2)に限定し、結合剤をポリシロキサンに限定するものである。
しかしながら、引用例2には、白色無機粒子として二酸化チタン、糊剤としてポリシロキサンを例示しており(上記(2-4)、(2-5)参照)、これらに特定することは格別困難を要することではない。
また、さらに実験を行って前記構成に基づく効果を主張しているが、上記「4 判断」で言及したのと同様に、特定の組成に関する効果に過ぎず、かつ、出願当初の明細書の記載から当業者が推論できるものでもない。
よって、回答書の補正案も引用例1?2に記載された発明及び周知の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するものであり、同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
平成20年8月25日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?23に係る発明は、平成18年12月5日付の手続補正より補正された特許請求の範囲の請求項1?23に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は以下のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「生理的に許容できる媒質中に、下記を含む少なくとも1種の複合顔料を含有する、皮膚、唇及び/又は外皮へ塗布することが意図された組成物:
-無機コア、
-無機コアを少なくとも部分的に被覆している、少なくとも1種の有機顔料、及び
-有機顔料を無機コア上に固定するための、少なくとも1種の結合剤であって、シリコーン化合物又はチタン酸塩、アルミン酸塩若しくはジルコン酸塩カプラー及びそれらの混合物から選択される結合剤。」

1 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記「第2 2 引用例」に記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は、前記「第2 3 対比」で検討した本願補正発明に対し、「口紅」を「皮膚、唇及び/又は外皮へ塗布することが意図された組成物」に広げるとともに、「口紅」の限定事項である「少なくとも1種の脂肪質の物質」を含有するとの構成を削除したものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、そのうちの構成要件をさらに限定したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 4 判断」に記載したとおり、引用例1?2に記載された発明及び周知の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例1?2に記載された発明及び周知の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1?2に記載された発明及び周知の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-25 
結審通知日 2011-10-31 
審決日 2011-11-17 
出願番号 特願2004-541089(P2004-541089)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 裕之福井 悟天野 貴子  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 ▲高▼岡 裕美
関 美祝
発明の名称 皮膚及び外皮への塗布が意図された組成物  
代理人 箱田 篤  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 平山 孝二  
代理人 浅井 賢治  
代理人 小川 信夫  

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