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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E21D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E21D
管理番号 1254915
審判番号 不服2011-1440  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-21 
確定日 2012-04-02 
事件の表示 特願2006-322663号「急硬成分を含有してなる素子定着用カプセル」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月19日出願公開、特開2008-138360号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年11月29日の出願であって、平成22年10月26日付けで拒絶査定がされ、この査定に対し、平成23年1月21日に本件審判が請求されるとともに、審判請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成23年1月21日の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年1月21日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正の内容:補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により、特許請求の範囲の【請求項1】は、
「【請求項1】
セメントと、アルミノケイ酸カルシウムガラスと、石膏と、セメント、アルミノケイ酸カルシウムガラス、及び石膏からなる結合材100部に対して、10?100部の骨材と、水100部に、固形分濃度0.04?2部の割合で均一に分散させたミクロフィブリル化した繊維状セルロースと、水と、凝結遅延剤とを易破壊性の容器に含有してなる素子定着用カプセル。」
と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である骨材について、「セメント、アルミノケイ酸カルシウムガラス、及び石膏からなる結合材100部に対して、10?100部の」と限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平4-76200号公報(以下「刊行物1」という。)には、ボルト固着用無機カートリッジに関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「1.容器と該容器内に収容されたセメントと、該セメントとは隔離された硬化剤とからなるボルト固着用無機カートリッジにおいて、硬化剤が水を主成分としてなる液体で、かつ、その粘度が0.015?150ポアズ(20℃)の範囲にあることを特徴とするボルト固着用無機カートリッジ。」(特許請求の範囲)
(イ)「〔発明が解決しようとする課題〕
しかし、水ではボルト打設時、硬化剤容器が破壊されるとコンクリート孔内壁表面に、一部の水が吸収され、水比不足及びセメントと攪拌ムラになったり、上孔、横孔のボルト打設時、セメントプリミックスの孔外への流出量が多く、固着強度不足を生じたりする。また、逆に粘度が高すぎる水では、ボルトの打設不良及び攪拌ムラになり、固着強度不足を生じたりする。」(1頁右下欄13行?2頁左上欄1行)
(ウ)「本発明に用いる外容器及び内容器は、施工時ドリルに取りつけられたアンカーボルト等の回転挿入運動で簡単に破壊されるもので、例えば、ガラス、陶器、磁器、合成樹脂、紙等が挙げられる。溶封が容易なことから、ガラスが好ましい材料のひとつである。
本発明に用いるセメントは、ポルトランドセメント、アルミナセメント、ジェットセメント、酸化カルシウム及びそれらの混合品等(以下、ベースセメントと略記する)があり、該ベースセメントに無収縮剤、急硬剤等を混合しても使用できる。
本発明に用いる硬化剤は、セメントと反応し硬化させる性能を有しているものであり、水を主成分とし、該水に増粘剤を添加したものであって、その粘度が0.015?150ポアズ(E型粘度計による20℃での測定)の範囲の液体である。前記増粘剤はセメントとの硬化性に大きく影響しないものであり、例えば、ポリアクリルアミド、・・・等の水溶性樹脂、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等の高吸水性繊維、・・・、その他、でんぷん、ゼラチン、・・・等がある。
前記硬化剤の粘度は、・・・0.015ポアズ未満であると、コンクリート孔内壁表面に一部の水が吸収され、水比不足及び水とセメントとの攪拌ムラになったり、上孔、横孔のボルト打設時、セメントプリミックスの孔外への流出量が多く、固着強度不足が生じたりする。また、150ポアズを超えると、打設時の打設抵抗が大きいため、ボルトが孔底まで打設できなかったり、攪拌ムラになり、固着強度不足を生じたりする。粘度が、0.015?150ポアズの範囲に調整された前記硬化剤には、例えばAE剤、減水剤、促進剤、遅延剤、発泡剤等の混和材料を任意に混合することができる。前記硬化剤中の水分の量は、ベースセメント100重量部に対して、30?70重量部が好ましい。
また、砂、砂利等の骨材を外容器または内容器に充填することも可能であり、その充填量も任意に決められる。」(2頁左上欄20行?右下欄1行)
(エ)「実施例
第2図に示すカートリッジにおいて、外径11.0mm、全長180mmのガラス製内容器に、水11.0gと水溶性樹脂のポリアクリルアミド・・・0.08gを添加、混合、溶解し、その粘度(E型粘度計20℃)を15ポアズに調整した。この液体にAE剤及び減水剤・・・0.61gを添加、混合、溶解し、前記ガラス製内容器を密封し硬化剤管とした。該硬化剤管を、外径20.0mm、全長200mmのガラス製外容器に装填後、ジェットセメント25gと酸化鉄無収縮剤・・・25gを混合、充填し、前記ガラス製外容器を密封し、カートリッジを製造した。次に圧縮強度210kg/cm^(2)のコンクリートに、内径24mm、長さ200mmの横孔及び上孔の穿孔を行い、前記カートリッジを該孔内に装填し、先端を45度にカットした外径20.0mmの全ネジボルト・・・を電導ハンマードリルに装着し、回転と打撃を与えながら、孔底まで打設した。この時、セメントプリミックスの孔外への流出量を観察し、24時間養生後、固着強度を測定した。更に、固着強度測定後のボルトを引抜き、ジェットセメントと硬化剤の攪拌状態を観察した。」(2頁右下欄14行?3頁左上欄18行)
(オ)「〔発明の効果〕
本発明のボルト固着用無機カートリッジは、施工時、水比不足、攪拌ムラ、セメントプリミックスの孔外への流出及びボルトの打設不良が全くなく、しかも、安定した固着力が得られる。」(3頁右下欄1?5行)

・記載事項(ア)の「容器と該容器内に収容されたセメントと、該セメントとは隔離された硬化剤とからなるボルト固着用無機カートリッジ」のセメントは、記載事項(ウ)の「ポルトランドセメント、アルミナセメント、ジェットセメント、酸化カルシウム及びそれらの混合品等(以下、ベースセメントと略記する)」であるので、「ポルトランドセメント、アルミナセメント、ジェットセメント、酸化カルシウム及びそれらの混合品であるベースセメント」といえる。
・記載事項(ア)の「水を主成分としてなる液体で、かつ、その粘度が0.015?150ポアズ(20℃)の範囲にある」「硬化剤」は、記載事項(ウ)の「水を主成分とし、該水に増粘剤を添加した」ものであるので、「水を主成分とし、該水に増粘剤を添加した、粘度が0.015?150ポアズ(E型粘度計による20℃での測定)の範囲の硬化剤」といえる。
・記載事項(ア)の「ボルト固着用無機カートリッジ」は、「容器と・・セメントと・・硬化剤とからなる」ものであり、かつ、記載事項(ウ)の「外容器及び内容器」を用いて構成されたものであるので、「セメントや硬化剤を容器に収容してなるもの」といえる。
さらに、記載事項(ア)の硬化剤は、記載事項(ウ)の「硬化剤には、・・遅延剤・・等の混和材料を任意に混合することができ」るものであり、記載事項(ウ)の「外容器及び内容器」には、「砂、砂利等の骨材を・・充填することも可能」なものであるので、記載事項(ア)の「ボルト固着用無機カートリッジ」は、それらも収容するものであることは自明である。
そうすると、記載事項(ア)の「ボルト固着用無機カートリッジ」は、セメントと、砂等の骨材と、硬化剤と、遅延剤等の混和材料とを容器に収容してなるものともいえる。
・また、記載事項(ア)の「ボルト固着用無機カートリッジ」を構成する、記載事項(ウ)の「外容器及び内容器」は、「施工時ドリルに取りつけられたアンカーボルト等の回転挿入運動で簡単に破壊されるもので、例えば、ガラス、陶器、磁器、合成樹脂、紙等が挙げられる」ものであるので、「簡単に破壊できるガラス等の容器」ともいえる。

すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているものということができる。
「ポルトランドセメント、アルミナセメント、ジェットセメント、酸化カルシウム及びそれらの混合品であるベースセメントと、砂等の骨材と、水を主成分とし、該水に増粘剤を添加した、粘度が0.015?150ポアズ(E型粘度計による20℃での測定)の範囲の硬化剤と、遅延剤等の混和材料とを、簡単に破壊できるガラス等の容器に収容してなるボルト固着用無機カートリッジ。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平5-330875号公報(以下「刊行物2」という。)には、セメント混和材及びセメント組成物に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 アルミニウム以外の3価金属の酸化物を含有するアルミノケイ酸カルシウムガラスと、セッコウ類とを主成分とするセメント混和材。
【請求項2】 セメントと請求項1記載のセメント混和材を主成分とするセメント組成物。」
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、セメント混和材、特に早期強度や長期強度が要求される分野に使用されるセメント混和材及びセメント組成物に関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】従来より、カルシウムアルミネート、セッコウ類、及び凝結調整剤等をポルトランドセメントに混合して急硬性セメントとすることが知られている。この急硬性セメントを用いたモルタルやコンクリートは、急硬性を示すために、打設から数時間後には使用可能となる(特開昭47-99124号公報)。しかしながら、従来の急硬性セメントは、用途によって、初期の強度発現性が必ずしも十分とはいえなかった。」
(ウ)「【0025】本発明のセメント混和材を使用すると、短時間で硬化する傾向があるため、作業性を調節する目的で凝結調節剤を使用することは好ましい。
【0026】 凝結調整剤は、CASガラス中のCaO含有量が多く凝結時間の早い場合や、CASガラス中のCaO含有量が少なく凝結時間の遅い場合などに特に使用される。 凝結調整剤としては、・・・、クエン酸、グルコン酸、及び酒石酸又はこれらのカルシウム塩、ナトリウム塩、及びカリウム塩等の有機酸系化合物であり、・・・」
(エ)「【0029】ここで、他の混和材料としては、例えば、けい砂、天然砂、及び砂利等の骨材、ガラス繊維、カーボン繊維、及び鋼繊維等の繊維、・・・等が挙げられ、・・・」
(オ)「【0030】本発明において、各材料の混合方法は特に制限されるものではなく、各々の材料を施工時に混合してもよいし、あらかじめ一部もしくは全部を混合しておいても差支えない。」

すると、刊行物2には、次の発明(以下「刊行物2記載の発明」という。)が開示されているということができる。
「短時間で硬化する、アルミニウム以外の3価金属の酸化物を含有するアルミノケイ酸カルシウムガラスと、セッコウ類とを主成分とするセメント混和材とを主成分とするセメント組成物」

(3)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-1647号公報(以下「刊行物3」という。)には、コンクリート及び塗料に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 微生物によって生成された微生物セルロースを離解したものが混和剤として混入されていることを特徴とするコンクリート。」
(イ)「【0003】現在、コンクリートの使用目的に応じて、様々な混和剤が開発、実用化されているが、さらに、使用目的に対して効果的な混和剤が求められている。・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、コンクリートを打設する際の施工性を改良するには、コンクリートの流動性や粘性等が問題になるが、コンクリートは、その使用目的に応じて、必要な強度等や養生条件等から、前記混和剤を含めたコンクリートの組成を変えることにより、硬化前のコンクリートの流動性や粘性等がある程度決まってしまう。」
(ウ)「【0007】本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、流動性や粘性等を調整して施工性を向上したコンクリート・・・を提供することを目的とする。」
(エ)「【0009】
【作用】上記請求項1記載の構成によれば、コンクリート中に混入された微生物セルロースが、凝集しようとするセメントの粒子を分散させ、硬化する前のコンクリートの流動性を高めることができる。また、コンクリート中に混入された微生物セルロースが、繊維として絡み合うことで、コンクリートの粘性を高めることができる。」
(オ)「【0010】
【実施例】以下に本発明の第1実施例を説明する。第1実施例のコンクリートは、セメント、骨材、水等を練り合わせる際に、混和剤として、微生物セルロースを加えたものである。ここで、微生物セルロースについて説明する。微生物セルロースとは、一般的には、微生物がその培養の過程で菌体外に排出するセルロースのことを示すものである。
【0011】前記微生物セルロースを生成する菌としては、酢酸菌である・・・などが知られている。これらの酢酸菌は、主にD-グルコースを栄養源として細胞内に取り込み、生体内の物質交代の副産物として、セルロースをミクロフィブリルと呼ばれる幅数10から200オングストローム前後の細長い糸状の分子鎖の束として細胞外に排出する。
【0012】排出されたセルロース分子鎖は、集合して結晶化し幅20?50nmの微細なセルロース繊維となる。また、微生物セルロースは、前記酢酸菌の培養液面状で菌体自身を取り込みながら寒天状のゲルとなって積層してセルロース膜を形成する。」
(カ)「【0015】第1実施例においては、このような微生物セルロースの繊維を混和剤として、コンクリートに加えている。そして、混和剤は、上述のようにゲル状の物質として培養液から取り出された微生物セルロースをアルカリ溶液等で洗浄した後に、パルプ離解機等の離解機で分散した後に、乾燥したものである。すなわち、混和剤は、上述のような幅20nmから50nmの微生物セルロースの繊維からなるものである。
【0016】そして、微生物セルロースの繊維は、硬化前のアルカリ性を示すコンクリート中において、多数のOH基を有することにより、一部水素イオンが解離して、陰イオン化し、コンクリート中において陽イオン化したセメント粒子表面に吸着される。従って、周知の減水剤と同様に、セメント粒子表面への吸着により、拡散電気二重層を形成し、その静電気的反発力と、センメント粒子表面に吸着された微生物セルロース繊維の立体的保護作用とにより、センメント粒子を分散安定化する。
【0017】そして、混和剤として微生物セルロースの繊維が混入されたコンクリート中においては、センメント粒子が分散され、コンクリートの流動性を高めることになる。一方、微生物セルロースの繊維を水中に分散した場合に、微生物セルロースの繊維が高い親水性と保水性を有する繊維であり、さらに各繊維が絡み合うことにより、上述のようにゲル化することになり、微生物セルロースが混入された水は、その微生物セルロースの濃度によって高い粘性を示すことになる。
【0018】そして、コンクリート中において、微生物セルロース濃度を高めると、セメント粒子表面に吸着された微生物セルロース同士が絡み合い、セメント粒子同士をつなぐ架橋構造をとるようになり、コンクリートの粘性が増大する。」
(キ)「【0022】・・・本発明のコンクリートにおいて、セメントとしては、ポルトランドセメント、混合セメント、その他の特殊なセメント等の周知のセメントを用いることができる。
【0023】また、骨材としては、周知の川砂、山砂等の天然骨材や、人工骨材等を用いることができる。」

記載事項(ア)の「微生物によって生成された微生物セルロースを離解したもの」は、コンクリートに「混和剤として混入」するものであって、この混和剤について記載事項(カ)には「幅20nmから50nmの微生物セルロースの繊維」すなわちミクロフィブリル化した繊維状セルロースであることが示されている。
すると、刊行物3には、次の発明(以下「刊行物3記載の発明」という。)が開示されているということができる。
「コンクリートに混和剤として混入する、ミクロフィブリル化した繊維状セルロース」

3.本願補正発明と引用発明との対比
(1)両発明の対応関係
(a)引用発明の「ボルト固着用無機カートリッジ」は、本願補正発明の「素子定着用カプセル」に相当し、以下同様に、「簡単に破壊できるガラス等の容器」は、「易破壊性の容器」に、「容器に収容してなる」ことは、「容器に含有してなる」ことに、「遅延剤等の混和材料」は、「凝結遅延剤」に相当する。
(b)引用発明の「ポルトランドセメント、アルミナセメント、ジェットセメント、酸化カルシウム及びそれらの混合品であるベースセメント」と、本願補正発明の「セメントと、アルミノケイ酸カルシウムガラスと、石膏」とは、「セメントを含む結合材」である点で共通する。
(c)引用発明の「水を主成分とし、該水に増粘剤を添加した、粘度が0.015?150ポアズ(E型粘度計による20℃での測定)の範囲の硬化剤」と、本願補正発明の「水100部に、固形分濃度0.04?2部の割合で均一に分散させたミクロフィブリル化した繊維状セルロース」及び「水」とは、後者の「ミクロフィブリル化した繊維状セルロース」が、本願明細書【0017】の「ミクロフィブリル化した繊維の絡み合いにより三次元網目構造が形成され、増粘性により安定が得られる」ものであって、水に分散させて増粘剤として働くものであるから、「水に分散させる増粘剤と、水」である点で共通する。

(2)両発明の一致点
「結合材と、骨材と、水に分散させる増粘剤と、水と、凝結遅延剤とを易破壊性の容器に含有してなる素子定着用カプセル。」

(3)両発明の相違点
(ア)本願補正発明はセメントを含む結合材が、「セメントと、アルミノケイ酸カルシウムガラスと、石膏」であるのに対して、引用発明は、「ポルトランドセメント、アルミナセメント、ジェットセメント、酸化カルシウム及びそれらの混合品であるベースセメント」である点。
(イ)本願補正発明は骨材が、「セメント、アルミノケイ酸カルシウムガラス、及び石膏からなる結合材100部に対して、10?100部」配合されているのに対して、引用発明は、骨材(砂等)の配合割合が限定されていない点。
なお、刊行物1記載事項(エ)の実施例においては骨材を配合していない。
(ウ)本願補正発明は水に分散させる増粘剤が、「水100部に、固形分濃度0.04?2部の割合で均一に分散させたミクロフィブリル化した繊維状セルロース」であるのに対して、引用発明は、増粘剤の種類や配合割合が特に限定されておらず、ミクロフィブリル化した繊維状セルロースは具体的に示されていない点。

4.本願補正発明の容易推考性の検討
(1)相違点(ア)について
引用発明は、上孔、横孔のボルト打設時、セメントプリミックスの孔外への流出量を少なくすることを課題としたものであり(刊行物1記載事項(イ))、さらに「急硬剤等を混合」することも記載されているように(記載事項(ウ))、短時間で硬化する性質は望ましいものといえる。
そうすると、刊行物1記載の発明の「ベースセメント」として、刊行物2記載の発明の「短時間で硬化する、アルミニウム以外の3価金属の酸化物を含有するアルミノケイ酸カルシウムガラスと、セッコウ類とを主成分とするセメント混和材とを主成分とするセメント組成物」を採用して、相違点(ア)に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点(イ)について
骨材を結合材100部に対して、10?100部配合することは、例えば、特開平3-225000号公報に実施例1として、「普通ポルトランドセメント7kg、・・非結晶質Cl_(2)A_(7)1.5kg、・・無水セッコウ1.5kg、硅砂7kg」(すなわち、急硬性セメント等の結合材100部に対して70部配合。)のものや、特開平3-247900号公報に実施例1として、「骨材は・・早強性のセメントと骨材の合計100重量部に対し、50重量部配合」(同、100部配合。)のものが記載されている様に周知である。
骨材(砂等)の配合割合は、求められる強度等に応じて、当業者が適宜調整し得るものであるから、引用発明において、刊行物2記載の発明のセメント組成物を採用する際に、上記周知の配合割合を適用して、相違点(イ)に係る発明特定事項とすることは、引用発明を具現化するにあたり当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点(ウ)について
まず、増粘剤として「ミクロフィブリル化した繊維状セルロース」を採用することについて検討する。
刊行物3記載の発明の「コンクリートに混和剤として混入する、ミクロフィブリル化した繊維状セルロース」は、刊行物3記載事項(エ)に記載されているように「コンクリート中に混入されると微生物セルロースが、繊維として絡み合うことで、コンクリートの粘性を高める」作用を生じ、刊行物3記載事項(カ)に記載されているように「水中に分散した場合に、微生物セルロースの繊維が高い親水性と保水性を有する」ものであり、引用発明の増粘剤と同様の機能のものである。
そうすると、刊行物1記載の発明の「増粘剤」として、コンクリートの粘性を高める機能を有する、刊行物3記載の発明のミクロフィブリル化した繊維状セルロースを用いることは、当業者が容易になし得ることである。

次に、繊維状セルロースの配合割合について検討すると、刊行物3記載事項(イ)には「コンクリートを打設する際の施工性を改良するには、コンクリートの流動性や粘性等が問題になるが、コンクリートは、その使用目的に応じて、必要な強度等や養生条件等から、前記混和剤を含めたコンクリートの組成を変える」と、刊行物3記載事項(ウ)には「流動性や粘性等を調整して施工性を向上したコンクリート・・・を提供する」と、刊行物3記載事項(カ)には「微生物セルロースが混入された水は、その微生物セルロースの濃度によって高い粘性を示すことになる。」と記載されている様に、コンクリートの流動性や粘性は、その使用目的に応じて選定されるものであり、水の粘度、すなわち微生物セルロースの濃度はその流動性や粘性に影響する値であるので、水100部に対する濃度の割合をどれくらいにするかは、必要な粘度や、セメント等の混合しやすさに合わせて適宜設定しうることである。

(4)効果の予測性について
本願明細書【0007】に記載された「急硬セメントカプセルを使用することにより、素子を削孔内に定着する場合に、削孔の、垂直からのずれ角度が特に90度から180度の範囲にあるときの施工が容易になり、所定の引張力が得られる」という効果は、
(a)刊行物1記載事項(イ)の「上孔、横孔のボルト打設時、セメントプリミックスの孔外への流出量を少なくする」や、刊行物3記載事項(ウ)の「流動性や粘性等を調整して施工性を向上したコンクリート・・・を提供する」という、硬化剤成分、増粘剤を添加する引用発明や刊行物3記載の発明による効果、
(b)刊行物2記載事項(ウ)の「本発明のセメント混和材を使用すると、短時間で硬化する」という、硬化剤成分の硬化を早くする刊行物2記載の発明による効果、
(c)さらに、必要な強度を得るために骨材(砂等)の配合割合を調整する周知技術が本来有する効果、
から当業者であれば予測できた範囲のものであり、それらの組合せによる格別の効果もあるといえない。

(5)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2?3記載の発明、及び当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成23年1月21日の手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成22年9月24日の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
セメント、アルミノケイ酸カルシウムガラス、石膏、骨材、水100部に、固形分濃度0.04?2部の割合で均一に分散させたミクロフィブリル化した繊維状セルロース、水及び凝結遅延剤を、易破壊性の容器に含有してなる素子定着用カプセル。」

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?3とその記載事項は、前記の「第2 2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明の構成を全て含むとともに、本願発明の構成に更に限定を付加した本願補正発明が、前記「第2 4.」に記載したとおり、引用発明、刊行物2?3記載の発明、及び当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も本願補正発明と同様の理由により、引用発明、刊行物2?3記載の発明、及び当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
したがって、本願発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-08 
結審通知日 2012-02-09 
審決日 2012-02-21 
出願番号 特願2006-322663(P2006-322663)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E21D)
P 1 8・ 575- Z (E21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田畑 覚士  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 仁科 雅弘
中川 真一
発明の名称 急硬成分を含有してなる素子定着用カプセル  
代理人 松本 悟  
代理人 松本 悟  
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