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審決分類 |
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 A23L 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A23L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A23L |
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管理番号 | 1254993 |
審判番号 | 不服2009-25692 |
総通号数 | 149 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-05-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-12-25 |
確定日 | 2012-04-04 |
事件の表示 | 特願2006-223854「β-クリプトキサンチンを有効成分とする骨形成促進剤」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月 7日出願公開、特開2006-325602〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は,2003年10月23日(優先権主張2002年10月25日,日本国)を国際出願日とする出願である特願2004-546461号の一部を平成18年8月21日に新たな特許出願としたものであって,以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。 平成21年 6月23日付け 拒絶理由通知書 平成21年 8月21日 意見書・手続補正書 平成21年10月 1日付け 拒絶査定 平成21年12月25日 審判請求書・手続補正書 平成23年 9月 2日付け 審尋 平成23年10月31日付け 回答書 第2 平成21年12月25日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成21年12月25日付けの手続補正は却下する。 [理由] 1 本件補正 平成21年12月25日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,本件補正前の請求項1ないし12,16及び20を削除し,本件補正前の, 「【請求項13】β-クリプトキサンチンを食品又は食品素材に添加することを特徴とする骨形成促進用の食品又は食品素材の製造方法。 【請求項14】β-クリプトキサンチン含有組成物を食品又は食品素材に添加することを特徴とする骨形成促進用の食品又は食品素材の製造方法。 【請求項15】β-クリプトキサンチン含有組成物が,温州みかんの処理物であることを特徴とする請求項14記載の製造方法。 【請求項17】β-クリプトキサンチンを配合することを特徴とする骨形成促進用の飼料用組成物の製造方法。 【請求項18】β-クリプトキサンチン含有組成物を配合することを特徴とする骨形成促進用の飼料用組成物の製造方法。 【請求項19】β-クリプトキサンチン含有組成物が,温州みかんの処理物であることを特徴とする請求項18記載の方法。」を, 「【請求項1】β-クリプトキサンチンを食品又は食品素材に添加する工程,及び,骨疾患の予防・治療のために用いられるものである旨の表示をする工程を含むことを特徴とする骨形成促進用の食品又は食品素材の製造方法。 【請求項2】β-クリプトキサンチン含有組成物を食品又は食品素材に添加する工程,及び,骨疾患の予防・治療のために用いられるものである旨の表示をする工程を含むことを特徴とする骨形成促進用の食品又は食品素材の製造方法。 【請求項3】β-クリプトキサンチン含有組成物が,温州みかんの処理物であることを特徴とする請求項2記載の製造方法。 【請求項4】β-クリプトキサンチンを配合する工程,及び,骨疾患の予防・治療のために用いられるものである旨の表示をする工程を含むことを特徴とする骨形成促進用の飼料用組成物の製造方法。 【請求項5】β-クリプトキサンチン含有組成物を配合する工程,及び,骨疾患の予防・治療のために用いられるものである旨の表示をする工程を含むことを特徴とする骨形成促進用の飼料用組成物の製造方法。 【請求項6】β-クリプトキサンチン含有組成物が,温州みかんの処理物であることを特徴とする請求項5記載の方法。」 と補正すると共に,本件補正後の特許請求の範囲,明細書及び図面(以下,「本願補正明細書」という。)中の段落【0009】及び【0010】の記載を特許請求の範囲に整合させる補正をするものである。 2 補正の適否 (1)補正の目的の適否 本件補正における請求項1ないし6に着目すると,本件補正前の請求項13ないし15の「骨形成促進用の食品又は食品素材の製造方法」,及び,本件補正前の請求項17ないし19の「骨形成促進用の飼料用組成物の製造方法」に,それぞれ「骨疾患の予防・治療のために用いられるものである旨の表示をする工程」を付加するものである。 この「骨疾患の予防・治療のために用いられるものである旨の表示」は,通常,「食品又は食品素材」又は「飼料用組成物」を包装する包装体や容器等に表示するものであり,「食品又は食品素材」又は「飼料用組成物」を製造する上で,「食品又は食品素材」又は「飼料用組成物」の構成には何ら変化を与える工程ではない。 それ故,本件補正前の請求項13ないし15の「骨形成促進用の食品又は食品素材の製造方法」,及び,本件補正前の請求項17ないし19の「骨形成促進用の飼料用組成物の製造方法」に,それぞれ「骨疾患の予防・治療のために用いられるものである旨の表示をする工程」を付加する補正は,補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要ないずれの事項を減縮するものとはいえない。また,誤記の訂正,又は,明りょうでない記載の釈明ともいえないことも明らかである。 そうすると,請求項1ないし6における,本件補正前の請求項13ないし15.17ないし19に,「骨疾患の予防・治療のために用いられるものである旨の表示をする工程」を付加するものを含む本件補正は,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正あるいは明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもないので,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項各号のいずれの規定にも該当しない。 したがって,請求項1ないし6についての補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するから,本件補正は,その余の点を検討するまでもなく,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 (2)仮に,本件補正の請求項1ないし6における上記補正が,補正前の請求項13ないし15に記載された発明を特定するために必要な事項である「骨形成促進用の食品又は食品素材の製造方法」,及び,補正前の請求項17ないし19に記載された発明を特定するために必要な事項である「骨形成促進用の飼料用組成物の製造方法」を,本願の願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面(以下,「出願当初明細書」という。)の段落【0009】に記載されていた事項に基づき「骨疾患の予防・治療のために用いられるものである旨の表示をする工程」を付加して限定するものであり,補正前の請求項13ないし15,17ないし19に記載された発明と補正後の請求項1ないし6に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するといえる場合,本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについても,以下検討する。 (2-1)本願補正発明 本願補正発明は,以下のとおりの事項によって特定される発明と認める。 「β-クリプトキサンチンを食品又は食品素材に添加する工程,及び,骨疾患の予防・治療のために用いられるものである旨の表示をする工程を含むことを特徴とする骨形成促進用の食品又は食品素材の製造方法。」 (2-2)刊行物及びその記載事項 ア 刊行物 特開2000-23637号公報(原査定における引用文献1。以下,「刊行物1」という。) イ 刊行物の記載事項 本願優先日前に頒布された刊行物である刊行物1には,以下の事項が記載されている。 1a「【特許請求の範囲】 【請求項1】かんきつ類の果実を搾汁,ろ過又は篩別後,遠心分離して得られる沈澱物に酵素剤を添加して凍結し,解凍した後,脱水することを特徴とするカロチイド高含有パルプの製造方法。 【請求項2】かんきつ類の果実が,温州みかんである請求項1に記載のカロチノイド高含有パルプの製造方法。 ・・(中略)・・ 【請求項4】請求項3に記載の方法で製造してなるカロチノイド等の成分が濃縮されたカロチノイド高含有粉末。 【請求項5】請求項1,2又は3に記載の方法で得られたカロチノイド高含有パルプ又はカロチノイド高含有粉末を含有してなる食品。」 1b「【0018】 実施例1 (1)沈澱物の調製 原料果実として,温州みかんの果実230トンを使用し,これを搾汁,ろ過,軽遠心分離,重遠心分離の各工程で処理した。 ・・(中略)・・ 【0020】(2)カロチノイド高含有パルプの調製(凍結,解凍,脱水処理) 上記(1)の方法で得た沈澱物を原材料として,以下の工程により,本発明のパルプ製品を製造した。 ・・(中略)・・ 【0021】(3)カロチノイド高含有粉末の調製(加水/脱水,乾燥,粉砕処理) 上記(2)の方法で得たパルプを用いて,以下の工程により,本発明の粉末製品を製造した。 ・・(中略)・・ 【0023】原材料の沈澱物及び本発明の粉末(カロチノイド高含有粉末)の分析結果を表3に示す。表3から明らかなように,本発明の粉末は,カロチノイドの一種であるβ-クリプトキサンチンやヘスペリジンを多量に含有することがわかった。 ・・(中略)・・ 【0033】 実施例3 本実施例では,本発明の粉末(カロチノイド高含有粉末)を用いて,機能性食品を製造した。上記実施例1で製造したカロチノイド高含有粉末をかんきつ系の果汁飲料に100g当たり2g添加し,これをホモジナイザーで均質化して,カロチノイドを高レベルに含有する機能性食品を製造した。得られた製品は,カロチノイド,及び,特に,β-クリプトキサンチンの生理活性を保有する機能性食品として有用である。」 (2-3)刊行物1に記載された発明 刊行物1は「カロチノイド高含有粉末を含有してなる食品」(摘示1a 請求項5)に関し記載するものであって,それを製造した具体例として,刊行物1の実施例3には,次のように記載されている。 「実施例1で製造したカロチノイド高含有粉末をかんきつ系の果汁飲料に・・添加し,これをホモジナイザーで均質化して,カロチノイドを高レベルに含有する機能性食品を製造した。得られた製品は,カロチノイド,及び,特に,β-クリプトキサンチンの生理活性を保有する機能性食品として有用である。」(摘示1b) これは,「カロチノイドを高レベルに含有」し「カロチノイド,及び,特に,β-クリプトキサンチンの生理活性を保有する機能性食品」の製造方法が記載されているといえる。 さらに,「実施例1で製造したカロチノイド高含有粉末」(摘示1b)とは,刊行物1の実施例1の記載より「(1)沈殿物の調製 原料果実として,温州みかんの果実・・を使用し・・(2)カロチノイド高含有パルプの調製・・(3)カロチノイド高含有粉末の調製・・」(摘示1b)によって調製されたものであり,その「カロチノイド高含有粉末」は,「本発明の粉末(カロチノイド高含有粉末)の分析結果を表3に示す。表3から明らかなように,本発明の粉末は,カロチノイドの一種であるβ-クリプトキサンチンやヘスペリジンを多量に含有する」(摘示1b)との記載から,「カロチノイドの一種であるβ-クリプトキサンチン・・を多量に含有する」ものであるといえる。 したがって,刊行物1には, 「カロチノイドの一種であるβ-クリプトキサンチンを多量に含有するカロチノイド高含有粉末をかんきつ系の果汁飲料に添加し,これをホモジナイザーで均質化する,カロチノイドを高レベルに含有し,カロチノイド,及び,特に,β-クリプトキサンチンの生理活性を保有する機能性食品の製造方法。」 の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 (2-4)本願補正発明と引用発明との対比 ア 引用発明の「カロチノイドの一種であるβ-クリプトキサンチンを多量に含有するカロチノイド高含有粉末」は,β-クリプトキサンチンを含んでいるものであるから,本願補正発明の「β-クリプトキサンチン」とは,β-クリプトキサンチンを含んでいるものである点で共通する。 イ 引用発明の「かんきつ系の果汁飲料」は,食品の一種であるから,本願補正発明の「食品」に相当する。 ウ 上記ア,イを踏まえると,引用発明の「カロチノイドの一種であるβ-クリプトキサンチンを多量に含有するカロチノイド高含有粉末をかんきつ系の果汁飲料に添加」する工程と,本願補正発明の「β-クリプトキサンチンを食品又は食品素材に添加する工程」とは,「β-クリプトキサンチンを含んでいるものを」「食品」「に添加する工程」である点で,共通する。 エ 本願補正発明の「骨形成促進用の食品」について,「骨形成促進用」は,本願補正明細書の記載「【0008】β-クリプトキサンチンが,大腿骨組織の海綿骨(骨幹端部組織)及び皮質骨(骨幹部組織)におけるタンパク質合成を増進し,骨形成を増大することを見い出した」より,β-クリプトキサンチンの生理活性の一つである骨形成促進作用のことであり,「骨形成促進用の食品」とは,その生理活性の骨形成促進機能を利用した食品のことである。 他方,引用発明の「β-クリプトキサンチンの生理活性を保有する機能性食品」とは,β-クリプトキサンチンが有している生理活性機能を利用した食品のことである。 そうすると,引用発明の「β-クリプトキサンチンの生理活性を保有する機能性食品」と,本願補正発明の「骨形成促進用の食品」とは,β-クリプトキサンチンの生理活性機能を利用した食品である点で共通する。 オ したがって,両者は, 「β-クリプトキサンチンを含んでいるものを食品に添加する工程を含む,β-クリプトキサンチンの生理活性機能を利用した食品の製造方法。」 である点で一致し,以下の点で相違する。 (ア)食品の用途である,β-クリプトキサンチンの生理活性機能が, 本願補正発明は,「骨形成促進用」であるのに対し, 引用発明は,「骨形成促進用」か明らかでない点(以下,「相違点(ア)」という。) (イ)食品の製造方法において, 本願補正発明は,「骨疾患の予防・治療のために用いられるものである旨の表示をする工程を含む」のに対し, 引用発明は,「骨疾患の予防・治療のために用いられるものである旨の表示をする工程を含む」のか明らかでない点(以下,「相違点(イ)」という。) (2-5)相違点についての判断 ア 相違点(ア)について (ア)引用発明及び本願補正発明の製造対象である,特定の用途の付された食品の検討 一般に,医薬品は,特定の疾患のみに適用され,健常者が摂取することがなく,薬効と対応する特定の用途の医薬品が存在する。ところが,食品は,薬効が付与され健康増進を目的とする健康食品のように,特定の効能をうたっていても,健常者が健康維持等のために摂取することがあり,ましてや,健常者が食べてはいけないという制約がないものである。また,食品それ自体栄養成分が豊富に含まれているものであるから,それらの栄養成分に基づく何らかの効能を有することが一般的であり,その効能を期待して食することもあれば,料理に入れる単なる食材として摂取することもある。 それ故,食品の一般的な使用のあり方を考慮すると,効能を付加された食品と効能が付加されていない食品とが,用途として区別された物であるとまではいえない。 そうすると,上記(2-4)で述べたように,本願補正発明の製造対象である食品と引用発明の製造対象の食品とは,生理活性機能を有するβ-クリプトキサンチンが添加され含有している点で同じであり,β-クリプトキサンチンを含有する食品は,健康な者であっても,骨疾患患者であっても,従来から食品として摂取するものといえ,食品として新たな用途を提供するものであるとはいえないから,本願補正発明の製造対象である食品に「骨形成促進用」という用途が特定されたとしても,その特定により製造される食品が物として別異の物となるものではない。 したがって,本願補正発明の製造対象の食品が,用途の特定により引用発明の製造対象の食品と区別のできる新規なものといえず,別異とはいえないことから,相違点(ア)は,実質的な相違点とは認められない。 (イ)用途の相違につき,本願出願当時の技術常識からの検討 さらに,相違点(ア)につき,本願出願当時の技術常識を検討すると,そもそも,β-クリプトキサンチンは,動物体内(小腸,腎,肝等)において酵素作用によりビタミンAに転換されるプロビタミンAの一種で,カロテノイド色素に属するものであることは,以下の刊行物Aより明らかなように,本願優先日前,周知事項であった。 また,ビタミンAが骨形成促進作用を有することも,以下の刊行物Bの記載より明らかなように,本願優先日前,既に周知事項であった。 しかも,以下の刊行物Bの記載より明らかなように,プロビタミンAであるカロチノイド(β-カロチン等)自体も,骨芽細胞の分化を促進するものであり,天然のビタミンAであるレチノールと同じく骨形成促進作用を有することは,本願優先日前,既に知られていたことであった。 そうすると,上記周知事項より,β-クリプトキサンチンがその一種であるプロビタミンAは,動物体内でビタミンAに転換されるものであるから,β-クリプトキサンチンが動物体内に摂取されれば,ビタミンAに変換され,ビタミンAの生理活性機能の一種である骨形成促進作用を奏すること,さらには,β-クリプトキサンチン自体,カロチノイドに属するものである以上,β-カロチンと同じく骨芽細胞の分化を促進し骨形成促進作用を有することは,当業者であれば当然認識していたことである。 したがって,引用発明において,刊行物1にβ-クリプトキサンチンの生理活性機能として骨形成促進作用の記載がないとしても,β-クリプトキサンチンの添加された食品を食すれば,上記周知事項により,骨形成促進用を奏するものであることは,当業者が当然に理解できることであり,刊行物1に記載されているに等しい事項であると認められる。 刊行物A:生化学事典(第3版),株式会社東京化学同人発行(1998年) 「プロビタミンA[provitamin A] 動物体内においてビタミンAに転換される物質の総称で,一般にカロテノイドと呼ばれる色素群に属し・・β-・・カロテン,β-クリプトキサンチン・・などが代表的なもの・・」(1233頁 左欄) 「ビタミンA[vitamin A]・・天然にはレチノール・・が存在する。ビタミンAは動物体内では合成されず,植物中で生合成された・・プロビタミンAから小腸,腎,肝などにおいて酵素作用によって転換され生成される」(1104頁 左欄) 刊行物B:Nutritional Science and Vitaminology, vol.43, no.3,(1997), p.281-296 「ビタミンA及びカロチノイドはマウス骨芽細胞の分化を促進する」(281頁タイトル) 「ビタミンAは長年正常な骨成長,分化及び機能に特別の重要性があることが知られていた(2)(当審注:参考文献(2)J. Physiol.,vol.105,(1947),p.382-399)。・・胎児におけるビタミンA欠乏症が骨格奇形を引き起こした。したがって,ビタミンAは発育を通して骨格組織形成を支配していると推測される(4)(当審注:参考文献(4)Am.J.Anat., vol.92,(1953),p.189-217)。さらに,成長動物の食事におけるビタミンAの欠乏は,変質した軟骨成長と不完全な付加成長を含む異常な骨成長をおこす(5)(当審注:参考文献(5)J. Nutr., vol.100,(1970),p.129-142)。」(282頁 5?14行) 「MC3T3-E1細胞におけるアルカリフォスファターゼ(ALP)活性 図3は・・レチノール,レチノイン酸及びβ-カロチンのALP活性,これはMC3T3-E1細胞における骨芽細胞の分化指標のひとつであるが,に対する投与依存性影響を示している・・レチノールとレチノイン酸は・・投与量依存的にALP活性を顕著に活性化した。効果の様子は互いに非常に良く似ていた。β-カロチンによる処理は・・MC3T3-E1細胞におけるALP活性の顕著な増加を示した」(286頁 図2下 1?9行) 「骨芽細胞分化の別の特徴的な特性である,細胞のオステオポンチン(OP)mRNA発現に対するレチノールとβ-カロチン影響がノーザンブロット解析によって次に調べられた・・オステオポンチンmRNAは・・レチノイン酸・・の処理によって誘導された・・β-カロチンによる処理はオステオポンチンmRNAの発現を促進した」(286頁下から4行?287頁図3下5行) 「本研究の結果はMC3T3-E1細胞における細胞成長,DNA合成,ALP活性及びオステオポンチンmRNA発現がレチノール及びカロチノイドによって顕著に影響されることを示している。したがって,生理学的濃度のレチノールとカロチノイドはMC3T3-E1細胞の分化に対して促進効果を持つように見える。MC3T3-E1細胞の分化の誘導効果の順序はレチノイン酸>レチノール>β-カロチン>αーカロチン=カンサキサンチン=リコペンである。分化の指標(すなわち,ALP活性とオステオポンチンmRNA発現)と増殖の変化は同様の挙動を示す」(289頁 下から2行?290頁 最下行) イ 相違点(イ)について 一般に,食品等の製品は,製造後,通常,流通されるものであるから,食品を製造後流通させることを考慮すれば,食品製造の最終工程で,食品を包装体や容器等に包装し,包装された中身が明確に分かるよう,その包装体又は容器に,食品の名称や効能等を表示することは,通常行う工程である。 また,一般に,機能性食品の包装体又は容器に,その食品の機能に基づく用途が表示したからといって,機能性食品自体の構造に何ら変化を与えるものではなく,また,該機能性食品の製造方法に,該工程が付加されたからといって,その製造方法に,当業者が予測し得ない程の顕著な効果が奏されるものでもない。 そうすると,引用発明である,β-クリプトキサンチンの生理活性を保有する機能性食品の製造方法において,通常行われている,食品を製造し包装体や容器等で包装して流通させることを考慮し,包装体や容器等に包装された中身が明確に分かるよう,その包装体又は容器に食品の名称や効能等を表示する目的で,効能を表示すべく,上記アで述べたβ-クリプトキサンチンの生理活性として当業者であれば当然認識していた骨形成促進作用に基づき,「骨疾患の予防・治療のために用いられるものである旨の表示をする工程」を含むようにすることは,当業者が容易になし得たことである。 ウ 本願補正発明の効果について 本願補正発明の効果は,刊行物1の記載事項及び上記周知事項から,当業者が予測し得る効果であり,格別顕著なものであるということはできない。 (2-6)独立特許要件のまとめ したがって,本願補正発明は,本願優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び本願優先日前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって,本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから,請求項1についての補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。 3 補正の却下の決定のむすび 以上のとおり,請求項1ないし6についての補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するから,又は,第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する場合であっても,請求項1についての補正は,平成18年改正前特許法第126条第5項の規定に適合しないから,本件補正は,その余の点を検討するまでもなく,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成21年12月25日付けの手続補正は,上記のとおり却下されることとなったので,この出願の請求項1ないし20に係る発明は,平成21年8月21日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項13に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「β-クリプトキサンチンを食品又は食品素材に添加することを特徴とする骨形成促進用の食品又は食品素材の製造方法。」 2 原査定の拒絶の理由の概要 本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は,本願発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない,というものである。 記 特開2000-23637号公報(「第2 2(2)(2-2)ア」に示した刊行物1と同じ。)以下,この刊行物を「刊行物1」と続けて用いて述べる。 3 刊行物の記載事項 前記「第2 2(2)(2-2)イ」に記載したとおりである。 4 刊行物1に記載された発明 前記「第2 2(2)(2-3)」に記載したとおりである。 5 対比・判断 本願発明は,上記「第2 2(2)(2-4)」で検討した本願補正発明から,「骨疾患の予防・治療のために用いられるものである旨の表示をする工程」を省くものである。 そうすると,本願補正発明の「骨疾患の予防・治療のために用いられるものである旨の表示をする工程」を省くものは,本願発明の発明特定事項を全て含むものであるから,前記「第2 2(2)(2-4)」に記載したように,本願発明と引用発明との相違点は,相違点(ア)のみであり,この相違点(ア)は前記「第2 2(2)(2-5)ア」に記載したように,実質的に相違しない以上,本願発明は,この出願前に頒布された刊行物1に記載された発明といえ,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり,本願発明は特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,その余について言及するまでもなく,この出願は,拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-02-08 |
結審通知日 | 2012-02-09 |
審決日 | 2012-02-21 |
出願番号 | 特願2006-223854(P2006-223854) |
審決分類 |
P
1
8・
16-
Z
(A23L)
P 1 8・ 57- Z (A23L) P 1 8・ 575- Z (A23L) P 1 8・ 121- Z (A23L) P 1 8・ 113- Z (A23L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 光本 美奈子 |
特許庁審判長 |
秋月 美紀子 |
特許庁審判官 |
齊藤 真由美 郡山 順 |
発明の名称 | β-クリプトキサンチンを有効成分とする骨形成促進剤 |
代理人 | 廣田 雅紀 |