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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03H
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03H
管理番号 1255391
審判番号 不服2009-18726  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-02 
確定日 2012-04-12 
事件の表示 特願2004-318334「圧電振動片及びこの圧電振動片を備えた圧電振動デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 5月18日出願公開、特開2006-129383〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成16年11月1日の特許出願であって、平成21年6月29日付けで拒絶査定され、これに対して同年10月2日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたが、当審において平成23年11月11日付けで拒絶理由が通知され、平成24年1月18日付けで手続補正書が提出されたものである。



第2 本願発明
本願の請求項2に係る発明は、平成24年1月18日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下「本願発明」という)。

「【請求項2】
基板の両主面が逆メサ構造に形成され、かつ、前記両主面に主電極が形成された高周波用の圧電振動片において、
周波数は、約100MHz以上であり、
少なくとも一主面に、重心が前記主電極と略同一である補助電極が形成され、
前記主電極は、フォトリソグラフィー法を用いて前記補助電極上に形成され、
前記主電極から延出して、外部と接続するための引出電極が形成され、
前記補助電極の寸法は、前記主電極に対してその厚さが薄く、かつ、その表面積が小さく設計され、
同一の前記主面における前記主電極に対する前記補助電極の表面積の比は、17.4?44.4%に設定されることを特徴とする圧電振動片。」



第3 当審が平成23年11月11日付けの拒絶理由通知で通知した拒絶の 理由

当審が平成23年11月11日付けの拒絶理由通知で通知した拒絶の理由は、以下のとおりである。

「A.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

1.請求項1、3?5について
引用例:1、2

引用例1には、90MHz?200MHz程度の周波数では、基板の両主面が逆メサ構造の圧電振動子が利用されていること(段落3?4)、水晶素子片にフォトリソグラフィー法により両主面にそれぞれ励振電極を形成すること(段落26、28)、各励振電極から外周補強枠へ引出電極を形成すること(段落26、28)、 圧電振動子をパッケージ内に収納すること(段落30)が記載されているので、請求項1、3?5に係る発明は、下記の点で引用例1に記載された発明と異なる。

ア.一主面に、重心が主電極と略同一である補助電極を形成する点
イ.主電極は補助電極の上に形成する点
ウ.補助電極の寸法は、主電極に対する補助電極の表面積の比は、10.0%?70.0%、主電極に対する補助電極の厚み比は、2.0%?20.0%に設定する点

最初に、補助電極を設ける点について以下に検討する。
引用例2には、エネルギー閉じ込め型圧電振動子において、圧電基板上に形成された電極膜34cの上に、面積が電極膜34cより大きく電極膜34cと同心に電極膜34dが形成され、電極膜34dから引出電極が延出されている構造が図7に、電極の中央部の厚みが厚くされた実施例において、厚みが厚くされた部分の質量負荷作用によりスプリアスが抑圧できることが段落43に、それぞれ記載されている。また、引用例2の「電極膜34d」、「電極膜34c」は、請求項1の「主電極」、「補助電極」に相当すると認められる。
引用例1に記載された発明に引用例2のスプリアスを抑圧する構成を適用し、相違点アの「一主面に、重心が主電極と略同一である補助電極を形成する」、及び、相違点イの「主電極は補助電極の上に形成する」という構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものである。

次に、主電極及び補助電極の寸法について以下に検討する。
引用例2には、前記したように電極中央部の厚みを厚くし、厚くした部分の質量負荷作用によりスプリアスを抑圧できることが記載され、かつ、2つの電極膜の面積比を調整してスプリアスを効果的に抑圧できる値に設定することが図11に、電極膜34dに対する電極膜34cの面積比を0.1以上、1未満とすることが段落48にそれぞれ記載されている。そして、圧電振動子の分野では、種々の大きさや厚さに電極を形成した圧電振動子から得られた周波数特性等の測定結果に基づいて電極の寸法を決定することは常套手段であるところ、引用例2には、電極膜34dに対する電極膜34cの面積比について10%?100%の範囲とすることだけでなく、中央部の厚みがスプリアスの抑制に重要であることも記載されている。
引用例1に記載された発明に引用例2に記載された事項を適用することで、相違点ウの「補助電極の寸法は、主電極に対する補助電極の表面積の比は、10.0%?70.0%、主電極に対する補助電極の厚み比は、2.0%?20.0%に設定する」ことも、当業者が容易に想到し得たものである。


2.請求項2について
引用例:1、2

請求項2に係る発明は、上記ア?ウ以外に、主電極に対する補助電極の比重を軽く設定することを限定した点で、引用例1に記載された発明と異なる。
しかしながら、引用例2には、2つの電極膜の電極材料は同じ材料でも異なる材料でもよく、材料としてはAl、Cu、Agなどを適宜用いることが段落23に記載されており、また、測定等を行って材料の選択を行うことは通常の創作能力の発揮にすぎないので、請求項2の限定は、当業者が容易に想到し得たものである。


引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2002-325022号公報
2.特開2001-211052号公報


B.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



(1)実施例5乃至9についての技術的意義が不明
実施例5乃至9については、図8乃至図12に各実施例の周波数特性が記載されている。
そして、例えば図8には実施例5についての周波数特性が記載されているが、図8をみると、図7(a)と同様に複数のスプリアスが発生している状態が記載されているため、実施例5の電極構成、即ち、主電極に対する補助電極の「表面積の比」が44.4%、「厚み比」が10%の場合に、スプリアスの発生を抑制できたとは認められない。
また、実施例6乃至9についても、実施例1乃至4の周波数特性とは明らかに異なり、大きなスプリアスの発生が認められるので、実施例5と同様に、スプリアスの発生を抑制できたとは認められない。

(2)請求項1に記載された数値範囲についての技術的意義が不明
発明の詳細な説明及び図面には、実施例1乃至10が記載されている。
そして、実施例1乃至4は、主電極の外形寸法と厚み及び補助電極の厚みは同一で、補助電極の外形寸法のみ異なる4つの実施例が記載され、図4乃至図7には、実施例1乃至4の周波数特性が記載されている。
また、実施例5乃至10は、主電極の外形寸法と厚み及び補助電極の外形寸法は同一で、補助電極の厚みのみ異なる6つの実施例が記載され、図8乃至図13には、実施例5乃至10の周波数特性が記載されている。
そして、上記全ての実施例を主電極に対する補助電極の「表面積の比」及び「厚み比」からみると、発明の詳細な説明には、
「表面積の比」を44.4%に固定し、「厚み比」を2.87%、
4.8%、10%、10.7%、19.3%、28.6%とした場合
の実施例とそれらの周波数特性。
「厚み比」を16.7%に固定し「表面積の比」を17.4%、2
5%、34%、44.4%とした場合の実施例とそれらの周波数特性。
が記載されている。
一方、請求項1には、「表面積の比」が10.0%?70.0%、「厚み比」が2.0%?20.0%に設定されることが記載されている。
しかしながら、発明の詳細な説明及び図面には、請求項1で特定された範囲である、例えば、「表面積の比」が45%より大きくかつ「厚み比」が20%より小さい範囲、「表面積の比」が17%より小さくかつ「厚み比」が20%より小さい範囲、「表面積の比」が44%より小さくかつ「厚み比」が16%より小さい範囲については、それらの範囲を満たす主電極及び補助電極が構成された場合に、どのような周波数特性が得られるかについては記載されていない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載では、主電極に対する補助電極の「表面積の比」を10.0%?70.0%に設定し、「厚み比」を2.0%?20.0%に設定したことによる技術的意義が不明である。

よって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1乃至5に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。


C.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高判大合議判決平成17年11月11日[平成 17 年(行ケ)10042 号]参照)。

そこで、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比すると、請求項1には、
「同一の前記主面における前記主電極に対する前記補助電極の表面積の比は、10.0%?70.0%に設定され、
同一の前記主面における前記主電極に対する前記補助電極の厚み比は、2.0%?20.0%に設定される」
ことが記載され、発明の詳細な説明には、上記B.(2)に記載したように、主電極に対する補助電極の「表面積の比」及び「厚み比」からみると、「表面積の比」を44.4%に固定し「厚み比」を2.87%、4.8%、10%、10.7%、19.3%、28.6%とした場合の実施例と、「厚み比」を16.7%に固定し「表面積の比」を17.4%、25%、34%、44.4%とした場合の実施例が記載されている。
しかしながら、発明の詳細な説明には、請求項1に記載された範囲内である、例えば、「表面積の比」が45%より大きくかつ「厚み比」が20%より小さい範囲、「表面積の比」が17%より小さくかつ「厚み比」が20%より小さい範囲、「表面積の比」が44%より小さくかつ「厚み比」が16%より小さい範囲については、具体例の記載はない。
さらに、出願時の技術常識に照らせば、上記A.に記載したように、エネルギー閉じ込め型圧電振動子において、スプリアスを抑圧するために複数の電極を積層して電極の中央の厚みを厚くすることは周知技術であったとしても、本願明細書の記載から、例えば、上記の、「表面積の比」が45%より大きくかつ「厚み比」が20%より小さい範囲、「表面積の比」が17%より小さくかつ「厚み比」が20%より小さい範囲、「表面積の比」が44%より小さくかつ「厚み比」が16%より小さい範囲において、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できたとはいえない。
したがって、請求項1に記載された発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。請求項2?5についても同様である。
よって、請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。」



第4 特許法第29条第2項の規定について

1.本願発明

本願発明は、上記「第2」の欄に転記した、平成24年1月18日付けの手続補正書の【手続補正1】の欄に記載された発明である。


2.引用例
(1)引用例1について
当審において通知した拒絶の理由に引用された特開2002-325022号公報(以下、「引用例1」という)には、下記の事項が記載されている。

(あ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、情報通信機器やコンピュータ等のOA機器、電子時計等の民生機器を含む様々な電子機器について使用される圧電振動子の製造方法に関し、特に厚みすべりモードを主振動とする水晶等の圧電振動片及び圧電振動子の製造方法に関する。」

(い)「【0003】更に携帯電話等による情報通信分野では、情報伝送の大容量化及び高速化に伴う通信周波数の高周波化、システムの高速化に対応して、従来よりも高い90?200MHz程度の周波数で動作する圧電振動子が要求されている。ATカットの水晶振動片等を用いた厚みすべりモードを主振動とする圧電振動子は、周波数がそれとは反比例の関係にある圧電振動片の板厚により決定されるから、圧電振動子の高周波化には、水晶その他の圧電材料からなる振動片の振動部の厚さを薄くする必要がある。そこで、例えば特開平11-355094号公報、特開平11-205062号公報、再公表WO98/038736号特許公報に記載されるように、薄い振動部とその外周に厚い補強枠を一体に構成して機械的強度を向上させ、取扱い及び実装を容易にして振動片の欠けや割れ等を無くしつつ、高周波化を実現できる所謂逆メサ型の圧電振動子が提案されている。」

(う)「【0023】
【発明の実施の形態】以下に、本発明による圧電振動片及び圧電振動子の製造方法について、その好適な実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。尚、本実施例では、圧電素子片及び圧電振動片に圧電材料として従来多用されている水晶を使用し、また各図において、同じ構成要素には同じ参照番号を付すことにする。
【0024】図1は、本発明の方法を適用して図8に示す逆メサ型ATカット水晶振動子を製造する工程の好適な実施例を示している。先ず、従来の工程と同様に所定寸法の水晶ウエハ21を用意し、例えばフッ化水素酸とフッ化アンモニウムとの混合液からなる水晶用エッチング液でエッチングし、所望の振動片の外形形状を有する多数の水晶素子片22を加工する(図1(A))。次に、各水晶素子片22の中央部分を表裏両面から上述した水晶用エッチング液で所定の深さまでハーフエッチングして薄肉化し、振動部23の凹陥形状及びその外周の補強枠24を形成する(図1(B))。
【0025】前記エッチング液には、振動片の外形形状の加工には高いエッチングレートのものを、振動部の凹陥形状の加工には、振動部23の厚さをより精密に制御するために低いエッチングレートのものをそれぞれ用いるのが好ましい。また、振動部23の凹陥形状は、本実施例のウェットエッチングによる化学的加工以外に、ドライエッチング等の物理的加工やサンドブラスト等の機械的な研磨加工で、所望の厚さに薄く形成することができる。
【0026】次に、各水晶素子片22の一方の表面に電極材料をスパッタリングするなどして電極膜を成膜しかつフォトリソグラフィ技術を用いて、振動部23の一方の主面23aに第1の励振電極25aを及びそれから前記外周補強枠へ引出電極を形成する(図1(C))。この後、水晶素子片22の周波数を測定する(図1(D))。」

(え)「【0028】次に、この測定結果に基づいて、振動部23の反対側の主面23bを更にウェットエッチングすることにより周波数の粗調整を行い、振動部23の厚さを要求される所定の周波数範囲に合わせ込む(図1(E))。この後、同様にウエハの状態で各水晶素子片22の反対面に電極材料をスパッタリングするなどして電極膜を成膜しかつフォトリソグラフィ技術を用いて、振動部23の他方の主面23bに、第1の励振電極25aと対をなす第2の励振電極25bを及びそれから前記外周補強枠へ引出電極を形成することにより、周波数を高精度に調整した所望の水晶振動片30が得られる(図1(F))。また、従来技術に関連して上述したように、各水晶素子片22を水晶ウエハ21から分離した後で、励振電極25a又は25b及びそれらの引出電極を形成することもできる。」

(お)上記(あ)には、引用例1に記載された発明が情報通信機器に使用される圧電振動子に係るものであることが記載され、上記(い)には、情報通信分野では90?200MHz程度の周波数で動作する圧電振動子が要求されていることが記載されていることから、引用例1に記載された圧電振動子は、90?200MHz程度の周波数で動作するものであると認められる。

よって、上記(あ)乃至(お)及び関連図面から、引用例1には、

「基板の両主面が逆メサ構造に形成され、かつ、前記両主面に励振電極が形成された高周波用の圧電振動片において、
周波数は、90?200MHz程度であり、
前記励振電極は、フォトリソグラフィ技術を用いて形成され、
前記励振電極から延出した引出電極が形成された圧電振動片。」

の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。

(2)引用例2について
当審において通知した拒絶の理由に引用された特開2001-211052号公報(以下、「引用例2」という)には、下記の事項が記載されている。

(か)「【0025】圧電共振子1として、6.0×3.0×厚み0.45mmのチタン酸鉛からなる圧電基板2上に、励振電極3,4を形成してなる。この場合、励振電極3,4の対向電極部3a,4aの径は1.6mmとし、電極膜3cの径は0.9mmとした。また、励振電極3,4及び電極膜3cは厚み1.0μmのAg膜により構成した。」

(き)「【0033】図6は、本発明の第3の実施例に係るエネルギー閉じ込め型圧電共振子を示す平面図及び正面断面図である。エネルギー閉じ込め型圧電共振子21では、第1の圧電共振子1と同様に、圧電基板2の上面2a上において、対向電極部の厚みが部分的に厚くされている。もっとも、第3の実施例のエネルギー閉じ込め型圧電共振子21の励振電極23では、対向電極部23aの一部において、下地の電極膜23cが形成されており、該電極膜23cを覆うように、電極膜23dが積層されている。すなわち、電極膜23dが電極膜23c上にも至るので、電極膜23cが形成されている部分が相対的に厚みが厚くされている。この電極膜23cが形成される位置は、第1の実施例の圧電共振子1の電極膜3cと同様である。
【0034】その他の点については、第1の実施例の圧電共振子1と同様であるため、同一部分については、同一の参照番号を付することにより、説明を省略する。同様に、図7(a)及び(b)に示す第4の実施例の圧電共振子31のように、圧電基板2の下面においても、第3の実施例と同様にして、対向電極部34aの一部に、相対的に厚みの厚い部分を形成してもよい。すなわち、第4の実施例では、対向電極部34aでは、下地の電極膜34cが形成されている部分において、電極膜34dが積層されることにより、部分的に厚みの厚い部分が形成されている。」

(く)「【0043】上記のように、本発明に係る圧電共振子では、対向電極部の一部の厚みを厚くすることにより、該厚みが厚くされている部分の質量負荷作用により高調波の位相回転角が低減され、スプリアスが抑制されるが、図8及び図9に示したように、励振電極の対向電極部や厚みが厚くされている領域の形状については、様々に変形することができる。
【0044】図10及び図11を参照して、本発明の好ましい実施例を説明する。図10は、第5の実施例の係る圧電共振子51を説明するための略図的斜視図である。圧電共振子51は、構造的には、第1の実施例の圧電共振子1と同様である。
【0045】もっとも、対向電極部3aの面積をS1、電極膜3cの面積をS2としたときに、S2/S1が、0.1以上、1未満の範囲とされていることにある。すなわち、図8においては、電極膜3cは上方に浮かせた状態で図示されているが、この面積S2のS1に対する比が、上記特定の範囲とされており、それによって高調波の位相回転角をより効果的に抑圧することができる。これを、図9を参照して説明する。
【0046】図11は、厚み縦振動の3倍波を利用した圧電共振子51において、上記比S2/S1を変化させた場合の5倍波に基づくスプリアスの位相回転角を示す図である。
【0047】なお、図9は、図2に示したインピーダンス-周波数特性を有する圧電共振子において、電極膜3cの面積を変化させて、測定することにより得られた結果である。
【0048】図11から明らかなように、S2/S1が、大きくなるにつれ、5倍波のスプリアスの位相回転角が低下することがわかる。特に、S2/S1が、0.1以下では、位相回転角が急激に大きくなることがわかる。従って、S2/S1は、0.1以上、1未満とすることにより、5倍波に基づくスプリアスを効果的に抑圧し得ることがわかる。」

(け)図7には、対向電極部23dと電極膜23cとが同心になる位置に相互の電極が形成された構造が記載されているので、引用例2には、圧電共振子の上面において、重心が対向電極部23dと略同一である電極膜23cが形成されているといえる。

(こ)上記(く)には、スプリアスを効果的に抑圧し得る対向電極部に対する電極膜の面積比について、「0.1以上、1未満とする」、即ち、「10%以上100%未満」とすることが記載されている。

よって、上記(か)乃至(こ)及び関連図面から、引用例2には、下記の事項(以下、「引用例2記載事項」という)が記載されている。

「圧電共振子において、
a.圧電共振子の上面に、重心が対向電極部と略同一である電極膜を形成、
b.前記対向電極部は、前記電極膜上に形成、
c.前記電極膜の厚さは前記対向電極部と等しく、かつ、前記対向電極部に対する前記電極膜の表面積の比を10%以上100%未満に設定、
することで、圧電共振子に厚みの厚い部分を形成し、スプリアスを抑制する構成。」


3.対比
(1)本願発明と引用発明との対応関係について
引用発明の「励振電極」は、本願発明の「主電極」に相当する。

引用発明の「フォトリソグラフィ技術」は、本願発明の「フォトリソグラフィー法」に相当している。

引用発明で使用される周波数帯は、「90?200MHz程度」であることから、引用発明の「圧電振動片」には、「約100MHz以上」の周波数において使用されるものが含まれている。

引用発明の「引出電極」は、励振電極が外部と電気的に接続するために形成されるものであることは明らかである。

(2)本願発明と引用発明の一致点について
上記の対応関係から、本願発明と引用発明は、

「基板の両主面が逆メサ構造に形成され、かつ、前記両主面に主電極が形成された高周波用の圧電振動片において、
周波数は、約100MHz以上であり、
前記主電極は、フォトリソグラフィー法を用いて形成され、
前記主電極から延出して、外部と接続するための引出電極が形成された圧電振動片。」

の点で一致している。

(3)本願発明と引用発明の相違点について
本願発明と引用発明とは、下記の点で相違する。

本願発明は、「少なくとも一主面に、重心が前記主電極と略同一である補助電極が形成」され、該補助電極は、「補助電極の寸法は、前記主電極に対してその厚さが薄く、かつ、その表面積が小さく設計」され、「同一の前記主面における前記主電極に対する前記補助電極の表面積の比は、17.4?44.4%に設定」され、該主電極は、「フォトリソグラフィー法を用いて前記補助電極上に形成され」たものであるのに対し、引用発明はそもそも補助電極が形成されていない点。


4.当審の判断
以下の事情を勘案すると、引用発明において、「少なくとも一主面に、重心が前記主電極と略同一である補助電極が形成」され、該補助電極は、「補助電極の寸法は、前記主電極に対してその厚さが薄く、かつ、その表面積が小さく設計」され、「同一の前記主面における前記主電極に対する前記補助電極の表面積の比は、17.4?44.4%に設定」され、該主電極は、「フォトリソグラフィー法を用いて前記補助電極上に形成され」たものであるとすることは、当業者が容易に推考し得たことというべきである。

(ア) 圧電振動片の分野では、スプリアスを抑圧することは周知な技術課題であるところ、スプリアスを抑圧する構成として、

「圧電共振子において、
a.圧電共振子の上面に、重心が対向電極部と略同一である電極膜を形成、
b.前記対向電極部は、前記電極膜上に形成、
c.前記電極膜の厚さは前記対向電極部と等しく、かつ、前記対向電極部に対する前記電極膜の表面積の比を10%以上100%未満に設定、
することで、圧電共振子に厚みの厚い部分を形成し、スプリアスを抑制する構成。」

は、上記引用例2記載事項から公知技術であり、上記公知技術の「対向電極部」及び「電極膜」は、それぞれ本願発明の「主電極」及び「補助電極」に相当している。そして、該公知技術が引用発明においても有用かつ採用可能であることは当業者に自明である。また、引用発明に公知技術を採用する際、適宜の改変を加えることは、当業者が適宜なし得たことである。

(イ)本願発明では、主電極に対する前記補助電極の表面積の比が「17.4?44.4%」に限定され、本願明細書の段落【0058】には、「表面積の比が約10.0%未満の場合、補助電極48、49の主電極44、45への影響が大きくなり、抵抗値が悪化する。また、表面比が約70.0%を超える場合、補助電極48、49の主電極44、45への影響がなく、スプリアスの発生を抑えることができない。」と記載されているが、面積比「17.4%」が「17.4%未満の場合」に対して臨界的意義を有していることや、面積比「44.4%」が「44.4%より大きい場合」に対して臨界的意義を有することは何ら記載されていない。

(ウ)上記公知技術には、圧電共振子において、主電極に対する補助電極の表面積の比を「10%以上100%未満」に設定し、圧電共振子において厚みの厚い部分を形成すれば、スプリアスを抑制できることが示唆されており、圧電振動子の分野では、種々の大きさや厚さに電極を形成した圧電振動子から得られた周波数特性等の測定結果に基づいて電極の寸法を決定することは常套手段であるから、引用発明に上記公知技術を採用する際、主電極に対する補助電極の表面積の比を17.4?44.4%の中の値としたり、補助電極の厚さを主電極よりも薄くしたりすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(エ)引用発明の主電極は、フォトリソグラフィー法を用いて形成されるものであり、当該フォトリソグラフィー法は、圧電振動片に電極を形成する技術として引用文献を示すまでもなく周知技術であることを鑑みると、引用発明において上記公知技術を採用するに当たり、補助電極上に主電極をフォトリソグラフィー法を用いて形成することに、格別の困難性は認められない。

(オ)以上のことは、取りも直さず、引用発明において、「少なくとも一主面に、重心が前記主電極と略同一である補助電極が形成」され、該補助電極は、「補助電極の寸法は、前記主電極に対してその厚さが薄く、かつ、その表面積が小さく設計」され、「同一の前記主面における前記主電極に対する前記補助電極の表面積の比は、17.4?44.4%に設定」され、該主電極は、「フォトリソグラフィー法を用いて前記補助電極上に形成され」たものであるとすることが、当業者にとって容易に推考し得たことであることを意味している。

また、本願発明の作用効果も、引用発明及び公知技術から当業者が予測できる範囲のものである。



第5 特許法第36条第4項第1号に規定する要件について

当審は、本願の発明の詳細な説明は、依然として、当業者が請求項1?6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、該発明の詳細な説明の記載は、下記の理由により、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないと判断する。

請求項1に係る発明は、「厚み比」については2.87?19.3%に設定されることが規定されているが、「表面積の比」については「補助電極の寸法は、主電極に対してその表面積が小さく設計され」と規定されているだけの発明である。そして、該「表面積の比」についての規定を「表面積の比」の数値範囲に直すと、0?100%の範囲(ただし、0%と100%は含まない)ということになる。
また、請求項2に係る発明は、「表面積の比」が17.4?44.4%に設定されることは規定されているが、「厚み比」については、「補助電極の寸法は、主電極に対してその厚さが薄く設計され」と規定されているだけの発明である。そして、該「厚み比」についての規定を「厚み比」の数値範囲に直すと、これも0?100%の範囲(ただし、0%と100%は含まない)ということになる。

一方、発明の詳細な説明及び図面には、実施例1乃至4として、主電極の外形寸法と厚み及び補助電極の厚みは同一で、補助電極の外形寸法のみ異なる4つの実施例が記載され、実施例4乃至10として、主電極の外形寸法と厚み及び補助電極の外形寸法は同一で、補助電極の厚みのみ異なる7つの実施例が記載され、上記全ての実施例を主電極に対する補助電極の「表面積の比」及び「厚み比」からみると、発明の詳細な説明には、「厚み比」を16.7%に固定し、「表面積の比」を17.4%、25%、34%、44.4%にした場合の実施例とそれらの周波数特性と、「表面積の比」を44.4%に固定し、「厚み比」を2.87%、4.8%、10%、10.7%、16.7%、19.3%、28.6%にした場合の実施例とそれらの周波数特性が記載されているといえる。
しかしながら、発明の詳細な説明及び図面には、請求項1で特定された範囲である、例えば、「表面積の比」が45%より大きい範囲、「表面積の比」が17%より小さい範囲については、それらの範囲を満たす主電極及び補助電極が構成された場合に、どのような周波数特性が得られるかについては記載されていない。また、請求項2で特定された範囲である、例えば、「厚み比」が30%より大きい範囲、「厚み比」が2%より小さい範囲については、それらの範囲を満たす主電極及び補助電極が構成された場合に、どのような周波数特性が得られるかについては記載されていない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載では、主電極に対する補助電極の「厚み比」を請求項1において規定した値に設定し、または、請求項2において規定した値に設定したことによる技術的意義が依然として不明である。

また、請求項3?6に係る発明は、いずれも、上で技術的意義が不明とした請求項1又は2の要件を含むものであるから、これらの請求項に係る発明についても、上記請求項1又は2に係る発明について検討したのと同様のことがいえる。

よって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1?6に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。



第6 特許法第36条第6項第1号に規定する要件ついて

特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

そこで、本願の特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識から当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討するに、当審は、以下の理由で、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識から当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないと判断する。

1.上記「第5」の欄でも触れたように、本願の請求項1に記載された発明は、「厚み比」については2.87?19.3%の範囲を含み、「表面積の比」については0?100%の範囲(ただし、0%と100%は含まない)を含むものである。
一方、発明の詳細な説明には、同じく上記「第5」の欄で触れたように、上記請求項1に記載された発明の範囲に含まれる、「表面積の比」が45%より大きい範囲や17%より小さい範囲でどのように周波数特性が得られるかを示す記載はないから、発明の詳細な説明の記載からは、「『表面積の比』が45%より大きい範囲や17%より小さい範囲で発明の課題を解決できると当業者が認識できた」とはいえない。
また、出願時の技術常識に照らしても、「『厚み比』が2.87%?19.3%の範囲の場合に、『表面積の比』が45%より大きい範囲や17%より小さい範囲で、本願発明の課題を解決できる」ことを示す証拠はないし、そのことは自明のこととも認められないから、そのことを当業者が認識できたとは認められない。
以上のことは、本願の請求項1に係る発明が、「発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識から当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの」ではないことを意味している。

2.上記「第5」の欄でも触れたように、本願の請求項2に記載された発明は、「表面積の比」については17.4?44.4%の範囲を含み、「厚み比」については0?100%の範囲(ただし、0%と100%は含まない)を含むものである。
一方、発明の詳細な説明には、同じく上記「第5」の欄で触れたように、上記請求項2に記載された発明の範囲に含まれる、「厚み比」が30%より大きい範囲や2%より小さい範囲でどのような周波数特性が得られるのかを示す記載はないから、発明の詳細な説明の記載からは、「『厚み比』が30%より大きい範囲や2%より小さい範囲で発明の課題を解決できると当業者が認識できた」とはいえない。
また、出願時の技術常識に照らしても、「『表面積の比』が17.4?44.4%の範囲の場合に、『厚み比』が30%より大きい範囲や2%より小さい範囲で、本願発明の課題を解決できる」ことを示す証拠はないし、そのことは自明のこととも認められないから、そのことを当業者が認識できたとは認められない。
以上のことは、本願の請求項2に係る発明が、「発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識から当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの」ではないことを意味している。

3.上記1.の検討内容は、本願の請求項3?6に記載された発明のうちの請求項1を引用する部分にも妥当し、上記2.の検討内容は、同請求項3?6に記載された発明のうちの請求項2を引用する部分にも妥当する。

よって、請求項1?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているとはいえない。



第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、他の拒絶の理由を検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-07 
結審通知日 2012-02-14 
審決日 2012-02-27 
出願番号 特願2004-318334(P2004-318334)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H03H)
P 1 8・ 537- WZ (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 行武 哲太郎畑中 博幸  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 甲斐 哲雄
飯田 清司
発明の名称 圧電振動片及びこの圧電振動片を備えた圧電振動デバイス  
代理人 特許業務法人あーく特許事務所  

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