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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1255407
審判番号 不服2010-8887  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-26 
確定日 2012-04-12 
事件の表示 特願2006- 53577「電子部品及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月13日出願公開,特開2007-234800〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年2月28日の出願であって,平成21年5月26日付けの拒絶理由通知に対して,同年8月3日に手続補正書及び意見書が提出されたが,平成22年1月21日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年4月26日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成22年4月26日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年4月26日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,本件補正前の請求項1を本件補正後の請求項1とする補正を含むものであって,本件補正前後の請求項1は次のとおりである。
(1)本件補正前の請求項1
「【請求項1】
セラミック素体と,
前記セラミック素体の内部に設けられた内部電極と,
前記セラミック素体の表面に設けられ,前記内部電極と電気的に接続された外部電極と,を備え,
前記外部電極は,分子量2000以上であり複数のエポキシ基を有するエポキシ化合物を主剤として含有し,硬化剤としてフェノール樹脂を含有しており,且つ,前記エポキシ化合物/前記フェノール樹脂が質量比で50/50?95/5となるように配合されたエポキシ樹脂の硬化物を含む導電性樹脂層を有し,
前記外部電極は,前記セラミック素体側から,金属材料から構成される第1の電極層と,前記導電性樹脂層からなる第2の電極層と,金属材料から構成される第3の電極層と,金属材料から構成される第4の電極層と,を備える,
ことを特徴とする電子部品。」

(2)本件補正後の請求項1
「【請求項1】
セラミック素体と,
前記セラミック素体の内部に設けられた内部電極と,
前記セラミック素体の表面に設けられ,前記内部電極と電気的に接続された外部電極と,を備え,
前記外部電極は,分子量2900?3800であり複数のエポキシ基を有するエポキシ化合物を主剤として含有し,硬化剤としてフェノール樹脂を含有しており,且つ,前記エポキシ化合物/前記フェノール樹脂が質量比で50/50?95/5となるように配合されたエポキシ樹脂の硬化物を含む導電性樹脂層を有し,
前記外部電極は,前記セラミック素体側から,金属材料から構成される第1の電極層と,前記導電性樹脂層からなる第2の電極層と,金属材料から構成される第3の電極層と,金属材料から構成される第4の電極層と,を備えており,
前記エポキシ化合物は,ビスフェノールA型エポキシ樹脂,ビスフェノールF型エポキシ樹脂,ビスフェノールS型エポキシ樹脂及び下記一般式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物である,ことを特徴とする電子部品。
【化1】

[式中,Xは下記化学式(2a)?(2e);
【化2】

で表される2価の基であり,nは,6?15の整数である。]」

なお,以下において「一般式(1)」及び「化学式(2a)?(2e)」とは,上記【化1】及び【化2】を指すものとする。

(3)補正事項について
本件補正前の請求項1を本件補正後の請求項1とする上記の補正は,次の補正事項1?2を含むものである。
・補正事項1
補正前の「分子量2000以上」との事項を補正後の「分子量2900?3800」と補正すること。
・補正事項2
補正前の「エポキシ化合物」について,「エポキシ化合物は,ビスフェノールA型エポキシ樹脂,ビスフェノールF型エポキシ樹脂,ビスフェノールS型エポキシ樹脂及び下記一般式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物である」と限定すること。

2 補正事項の検討
上記補正事項1?2について,新規事項の追加の有無及び補正目的の適否を検討する。
補正事項1は,本願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面(以下「当初明細書等」という。)の【0041】?【0044】に基づくものであり,補正事項2は,当初明細書等の【0021】?【0023】に基づくものであるから,補正事項1?2は,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである。
また,補正事項1は,補正前の「分子量2000以上」との範囲を補正後の「分子量2900?3800」との範囲に限定するものであり,補正事項2は,補正前の「エポキシ化合物」を「ビスフェノールA型エポキシ樹脂,ビスフェノールF型エポキシ樹脂,・・・からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物」に限定するものであるから,特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
したがって,上記補正事項1?2は,特許法17条の2第3項の規定に適合し,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(以下「特許法第17条の2第4項」という。)第2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件の検討
以上で検討したとおり,上記補正事項1?2を含む本件補正は,特許法17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含んでいる。そこで,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて,以下で更に検討する。

3-1 本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(上記1(2))。

3-2 引用例に記載された事項と引用発明
(1)引用例の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2005-264095号公報(以下「引用例」という。)には,次の記載がある(下線は当審で付加。以下同じ。)。

「【0001】
本発明は,チップ型電子部品の外部電極の形成に使用するための導電性樹脂組成物に関し,更に詳細には,チップ型電子部品のサイズにかかわらず,電極特性を損なわずに外部電極の端面部分,側面部分及び角部分に均等な厚みの層を形成することができる導電性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より,チップ型電子部品はメッキを施した外部電極を有しており,この外部電極を基板に半田付けすることにより基板等に実装される。その際,基板とチップ型電子部品との熱膨張差に起因する熱ストレスや,それ自体が剛性を有する金属のみで構成されることによる機械的ストレスによって,チップ型電子部品本体や電極部分にクラックが生じることがある。また,焼付により形成される外部電極にメッキを施す際に電極にメッキ液が浸透し,それが半田付け時の熱により膨張することで部品が破壊されることがある。このクラックの発生及びメッキ液浸透による不良を防止するために,焼付外部電極の外側に,二次外部電極として熱硬化性樹脂と金属粉末からなる導電性ペースト電極層を形成し,更にメッキを施した後,半田付けにより基板上に実装されている。これにより,熱ストレス,機械的ストレス及びメッキ液浸透の悪影響が緩和される。」

「【0004】
従来より,熱硬化性導電性ペースト用の樹脂として各種エポキシ樹脂を使用したものが開発されている。例えば,チップ型電子部品のクラック発生を防止するために,機械的熱的ストレスを緩和する目的で引き出し電極上に導電ペースト層(緩衝材層)を形成する技術が知られている(例えば,特許文献1)。この導電ペーストでは,金属成分としてAg,Ni,Cu,Ag/Cu等を,樹脂成分としてエポキシ,フェノール等の耐熱性,耐メッキ性及び密着性を有するものを使用することができるとされているが,良好な電極塗布形状のために選択するべき樹脂成分については十分検討されておらず,塗布したときのペースト層の厚みが,チップ型電子部品の端面部分,側面部分及び角部分に於いて均等となる導電性樹脂ペーストは得られていない。
【0005】
また,積層セラミックチップコンデンサ用の端子電極として,導電性樹脂組成物を用いる技術が知られている(例えば,特許文献2)。積層セラミックチップコンデンサ用の端子電極は700?860℃で焼成されることが多いが,この場合,外部からの曲げの力や熱によりクラックが発生することがある。また,端子電極に使用する組成物からコンデンサ素子への拡散が原因となり,端子電極の周辺部にクラックが発生することもある。それらの要因を抑止するために焼付電極の代わりに導電性樹脂組成物が電極として用られる。しかし,この技術に於いても,良好な電極塗布形状のために選択するべき樹脂成分については十分検討されておらず,塗布したときのペースト層の厚みが,チップ型電子部品の端面部分,側面部分及び角部分に於いて均等となる導電性樹脂ペーストは得られていない。
【0006】
更に,積層セラミックコンデンサのクラックを防止するために,外部焼き付け電極層の外装に更に導電性のエポキシ系熱硬化性樹脂層とメッキ層とを設ける技術が開示されている(例えば,特許文献3)。ここで使用されるエポキシ樹脂は液状エポキシ樹脂であり,高分子量のものは範囲外とされているが,液状エポキシのみでは塗布形状が不良であり電極の塗布形状への配慮がなされていないため実用的ではない。
【特許文献1】特開平4-257211号公報,段落番号〔0013〕及び〔0014〕
【特許文献2】特開平6-267784号公報,段落番号〔0007〕,〔0013〕?〔0016〕及び〔0029〕
【特許文献3】特開平11-162771号公報,段落番号〔0018〕,〔0019〕及び〔0022〕」

「【0019】
本発明の導電性樹脂組成物は,金属粉末,エポキシ樹脂,硬化剤及び溶剤を含有している。ここで,エポキシ樹脂は,エポキシ当量900g/eq以上の高分子量のエポキシ樹脂成分(A)と,エポキシ当量900g/eq未満のエポキシ樹脂成分(B)とを含有する混合物であって,エポキシ樹脂中のエポキシ樹脂成分(A)が30重量%以上まれるものであることが好ましい。高分子量のエポキシ樹脂成分(A)は,エポキシ当量1500g/eq以上であることがより好ましく,2000g/eq以上であることが更に好ましい。エポキシ当量900g/eq以上のエポキシ樹脂成分(A)の含有量が30重量%未満では,チクソ比が1.8以下にならず,チップ型電子部品の外部電極の端面部分,側面部分,角部分等の厚みを均等に形成することができなくなる傾向がある。」

「【0027】
表1に示す組成で導電性ペースト(導電性樹脂組成物)を調製した。調製に際しては,金属粉末(銀粉末),エポキシ樹脂,硬化剤,溶剤をビーカーで予備混合し,続いて三本ロールミルを用いて混練した。なお,エポキシ樹脂が固形の場合は,予め溶剤に溶解したうえで使用した。次に,30Pa・s?40Pa・sの粘度にするために溶剤を適宜添加した。」

「【0029】
(チップ型電子部品の外部電極の形状の評価)
各実施例及び各比較例の導電性ペーストを用いてチップ型電子部品の外部電極を形成し,その形状について評価を行った。形状の評価は,チップサイズ4532のチップ型部品を使用して行った。電極の塗布はディッピングで行なったが,一般的に行われるプロッティング(余分に塗布された導電性ペーストを取り除くための操作)はディップ形状確認のため行わなかった。塗布後の電極は125℃で30分間乾燥させ,更に200℃で30分間硬化を行った。形状の良否の判定は,チップ型部品の100倍率の像をデジタルマイクロスコープで撮影し,図1(a)?(c)に示すように,チップ型電子部品の外部電極1のコーナー部の高さと端面中央部の高さの差dを測定することにより行った。即ち,図1(a)に示すように,外部電極1のコーナー部の高さと端面中央部の高さの差dが450μmを超えるものを形状不良(×),図1(c)に示すように,コーナー部の高さと端面中央部の高さの差dが250μm以下のものを形状良好(○),図1(b)に示すように,250μmを超えて450μm以下のものを使用可能形状(△)と評価した。形状の良否の評価結果は,表1に併せて示した。
【0030】
【表1】


【0031】
表1の結果から,各実施例の導電性ペーストのチクソ比は1.8以下となり,これらの導電性ペーストを使用して形成したチップ型部品の外部電極の形状は,良好(○)又は使用可能形状(△)となることが分かる。これに対して,各比較例の導電性ペーストのチクソ比は1.9以上であり,これらの導電性ペーストを使用して形成したチップ型部品の外部電極の形状は,全て不良(×)と評価された。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の導電性樹脂組成物及び導電性ペーストは,チップ型電子部品の外部電極の端面部分,側面部分,角部分等の厚みを均等に形成することができるので,あらゆるサイズのチップ型電子部品(チップコンデンサー,チップインダクター等)の外部電極の形成に使用することができる。」

(2)記載事項の整理
以上を整理すると,引用例には次の事項が記載されているものと理解できる。

ア 【0001】には,「チップ型電子部品の外部電極の形成に使用するための導電性樹脂組成物」が記載されている。

イ 【0002】には,「チップ型電子部品はメッキを施した外部電極を有して」いること,「外部電極」として「焼付外部電極の外側に,二次外部電極として熱硬化性樹脂と金属粉末からなる導電性ペースト電極層を形成し,更にメッキを施した」ものが記載されている。

ウ 【0004】には,「熱硬化性導電性ペースト用の樹脂として各種エポキシ樹脂を使用したものが開発されている」ことが記載されている。

エ 【0006】には,「積層セラミックコンデンサのクラックを防止するために,外部焼き付け電極層の外装に更に導電性のエポキシ系熱硬化性樹脂層とメッキ層とを設ける技術」が記載されている。

オ 【0032】には,「本発明の導電性樹脂組成物及び導電性ペーストは,チップ型電子部品の外部電極の端面部分,側面部分,角部分等の厚みを均等に形成することができ」「チップ型電子部品(チップコンデンサー,チップインダクター等)の外部電極の形成に使用することができる」ことが記載されている。

カ 実施例1には,エポキシ当量3000g/eqのビスフェノールAエポキシ7.7重量部,ノボラックフェノール樹脂及びイミダゾールを含む硬化剤5.7重量部,銀粉末80重量部,溶剤21重量部を含む導電性樹脂組成物が記載されている。ここで,「ビスフェノールAエポキシ」が「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」を意味することは自明である。

キ 上記イ?エから,引用例には,「外部電極を有するチップ型電子部品」及び「焼付外部電極と,その外側に,導電性のエポキシ系熱硬化性樹脂層を含む導電性ペースト電極層とメッキ層を設け」た「外部電極」が記載されているといえる。

ク 上記オから,実施例1の導電性樹脂組成物は,チップ型電子部品の外部電極の形成に使用できるものであると理解できる。そうすると,引用例には,【0002】の導電性ペースト電極や【0006】の導電性のエポキシ系熱硬化性樹脂層に実施例1の導電性樹脂組成物を用いることが記載されているといえる。

(3)引用発明
上記(2)によれば,引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「外部電極を有するチップ型電子部品であって,
前記外部電極は,
焼付外部電極と,その外側に導電性樹脂組成物を含む導電性ペースト電極層とメッキ層を設けたものであり,
前記導電性樹脂組成物は,エポキシ当量3000g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂7.7重量部,ノボラックフェノール樹脂及びイミダゾールを含む硬化剤5.7重量部,銀粉末80重量部,溶剤21重量部を含むものである
チップ型電子部品。」

3-3 補正発明と引用発明との対比
補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「チップ型電子部品」及び「外部電極」は,補正発明の「電子部品」及び「外部電極」にそれぞれ相当する。

イ 引用例の【0032】には,「チップ型電子部品」の例として「チップコンデンサー,チップインダクター」が示されている。ここで,「チップコンデンサー,チップインダクター」が,「セラミック素体」と「セラミック素体の内部に設けられた内部電極」を有し,その「外部電極」が「セラミック素体の表面に設けられ」「内部電極と電気的に接続され」ているのは,当然のことである。そうすると,引用発明の「外部電極を有するチップ型電子部品」も,補正発明と同様に「セラミック素体と,前記セラミック素体の内部に設けられた内部電極と,前記セラミック素体の表面に設けられ,前記内部電極と電気的に接続された外部電極」を備えているものと理解できる。

ウ 引用発明における「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」は補正発明における「複数のエポキシ基を有するエポキシ化合物」に相当する。また,引用発明と補正発明は,「エポキシ化合物は,ビスフェノールA型エポキシ樹脂,ビスフェノールF型エポキシ樹脂,ビスフェノールS型エポキシ樹脂及び下記一般式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物である」点で一致する。

エ 引用発明において「導電性樹脂組成物」は「ビスフェノールA型エポキシ樹脂7.7重量部」及び「ノボラックフェノール樹脂及びイミダゾールを含む硬化剤5.7重量部」を含むものであるから,引用発明の「導電性樹脂組成物」と補正発明の「導電性樹脂層」は,「複数のエポキシ基を有するエポキシ化合物を主剤として含有し」「硬化剤としてフェノール樹脂を含有しており」「前記エポキシ化合物/前記フェノール樹脂が質量比で50/50?95/5となるように配合されたエポキシ樹脂の硬化物を含む」ものである点で共通する。

オ 引用発明における「焼付外部電極」「導電性樹脂組成物を含む導電性ペースト電極層」及び「メッキ層」は,補正発明における「金属材料から構成される第1の電極層」「導電性樹脂層からなる第2の電極層」及び「金属材料から構成される第3の電極層」にそれぞれ相当する。また,上記イのとおり,引用発明における「外部電極」は「セラミック素体の表面に設けられ,前記内部電極と電気的に接続された」ものであると理解できるから,引用発明における「焼付外部電極と,その外側に導電性樹脂組成物を含む導電性ペースト電極層とメッキ層」は,補正発明と同様に「セラミック素体側から」設けられているものであるといえる。すなわち,引用発明の「外部電極」と補正発明の「外部電極」は,「セラミック素体側から,金属材料から構成される第1の電極層と,導電性樹脂層からなる第2の電極層と,金属材料から構成される第3の電極層と,」を備えている点で共通する。

以上を総合すると,補正発明と引用発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「セラミック素体と,
前記セラミック素体の内部に設けられた内部電極と,
前記セラミック素体の表面に設けられ,前記内部電極と電気的に接続された外部電極と,を備え,
前記外部電極は,複数のエポキシ基を有するエポキシ化合物を主剤として含有し,硬化剤としてフェノール樹脂を含有しており,且つ,前記エポキシ化合物/前記フェノール樹脂が質量比で50/50?95/5となるように配合されたエポキシ樹脂の硬化物を含む導電性樹脂層を有し,
前記外部電極は,前記セラミック素体側から,金属材料から構成される第1の電極層と,前記導電性樹脂層からなる第2の電極層と,金属材料から構成される第3の電極層と,を備えており,
前記エポキシ化合物は,ビスフェノールA型エポキシ樹脂,ビスフェノールF型エポキシ樹脂,ビスフェノールS型エポキシ樹脂及び下記一般式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物である,ことを特徴とする電子部品。」である点。

<相違点1>
補正発明では,「分子量2900?3800」の「エポキシ化合物」であるのに対し,引用発明では,「エポキシ当量3000g/eq」の「ビスフェノールAエポキシ」である点。

<相違点2>
補正発明では,「外部電極」が「金属材料から構成される第4の電極層」,を備えているのに対し,引用発明では当該「第4の電極層」について教示がない点。

3-4 相違点についての判断
(1)相違点1について
ア 「実用プラスチック用語辞典」(株式会社プラスチックス・エージ,1989年9月10日改訂第3版,84頁)には,エポキシ当量について次の記載があり,当該記載事項は当業者の技術常識であるといえる。
「エポキシ基1モルを含む樹脂のグラム数(その数値はビスフェノールA系エポキシ樹脂では通常分子量の1/2に等しい)で,硬化剤配合量の算定基準となるものである。」
上記の技術常識から,引用発明及び引用例の実施例1(上記3-2(2)カ)の「エポキシ当量3000g/eq」は「分子量6000」に相当する。

イ 引用例の実施例11(表1を参照。)には,ビスフェノールA型エポキシ樹脂として「エポキシ当量1000g/eq」すなわち「分子量2000」のビスフェノールA型エポキシ樹脂とフェノール樹脂を含む硬化剤とを有する導電性樹脂組成物が記載されている。

ウ 引用例の【0019】によれば,引用例の導電性樹脂組成物に含有される「エポキシ樹脂」は,「エポキシ当量900g/eq以上の高分子量のエポキシ樹脂成分(A)と,エポキシ当量900g/eq未満のエポキシ樹脂成分(B)とを含有する混合物であって,エポキシ樹脂中のエポキシ樹脂成分(A)が30重量%以上含まれるものである」ところ,実施例1及び11の導電性樹脂組成物の「エポキシ樹脂」は,上記「エポキシ樹脂成分(A)」であるビスフェノールA型エポキシ樹脂が100重量%である場合に相当する。

エ 引用例の【0019】には,「高分子量のエポキシ樹脂成分(A)は,エポキシ当量1500g/eq以上であることがより好ましく,2000g/eq以上であることが更に好ましい。」と記載されているところ,実施例1及び11の「エポキシ樹脂成分(A)」である「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」の場合に上記エポキシ当量を分子量に換算すると,当該記載は,「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」は,「分子量3000以上であることがより好ましく,分子量4000以上であることが更に好ましい。」ことを示していると理解できる。

オ 上記ア?エを総合すると,引用例には,引用発明における「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」として,分子量1800以上のものが適用可能であり,分子量3000以上が好ましく,分子量2000,6000のものについて実際に適用できたことが少なくとも開示されていると理解できる。そうすると,引用例の上記開示に接した当業者であれば,引用発明における「ビスフェノールAエポキシ」として分子量2900?3800のものを選択することは,適宜なし得たことである。
さらに,本願の明細書には,分子量を2000以上,10000以下とすることの技術的意義については説明されているが(【0024】?【0025】),特に分子量2900?3800の範囲において格別な効果が得られる旨の記載は見当たらない。そうすると,分子量を2900?3800に特定することは,単なる範囲の選択であって特段の技術的意義を有するものとはいえない。
したがって,相違点1に係る構成は,当業者が容易に想到し得たものである。

(2)相違点2について
上記3-2(1)で摘記した,引用例の【0002】,【0004】及び【0006】の記載からみて,引用発明における「外部電極」は,導電性樹脂層を含む多層構造とすることでクラックを防止したものであると理解できる。
一方,チップ型電子部品の外部電極を導電性樹脂層を含む多層構造とすることでクラックを防止する技術において,セラミック素体側から,金属材料から構成される第1の電極層と,導電性樹脂層からなる第2の電極層と,金属材料から構成される第3の電極層と,金属材料から構成される第4の電極層とを備える外部電極構造は,次の周知例1?3に記載されているように,既に周知の構造である。
そうすると,引用発明において「外部電極」を「金属材料から構成される第4の電極層」をさらに備える上記周知の外部電極構造に変更することは,半田食われ性や半田付け性等を勘案し当業者が適宜なし得たことである。

・周知例1:特開平11-162771号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である上記周知例1には,次の記載がある。

「【0014】つぎに上記構成のコンデンサ本体2の両端面に外部電極5a,6aを形成する。コンデンサ本体2の表面にAgまたはAg合金からなる導電ぺーストをディッピングして塗布する。そして,塗布した導電ペーストを所定の雰囲気および温度で焼き付け,前記焼き付け電極層としての電極層11を形成する。そして,電極層11の表面に導電性のエポキシ系熱硬化性樹脂層12を形成し,その上に半田食われが生じ難い材料からなるニッケルメッキ層13を電解メッキなどで形成し,さらにスズ(Sn)または半田(Sn-Pb合金)などの材料からなるスズまたは半田のメッキ層14(以下,スズ系層と略記する)を形成する。」
「【0022】かくして本発明の積層セラミックコンデンサ10によれば,上記のような導電性のエポキシ系熱硬化性樹脂層12を設けると,この層12において,エポキシ系樹脂が硬化剤との反応により架橋した3次元網目構造の硬化物となり,しかも,エポキシ系樹脂のなかでも低い分子量のものを使用するので,架橋密度をさらに向上させることができ,これにより,急激な熱変化を受けても,エポキシ系熱硬化性樹脂層12が応力吸収し,本体から外側に向けられた外力に対して応力吸収でき,その結果,コンデンサ本体2にクラックが発生しなくなり,外部電極5a,6aの剥離も生じなくなった。」

・周知例2:特開平8-203771号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である上記周知例2には,次の記載がある。
「【0004】内部電極23?27は,通常,PdまたはAg-Pd合金などの貴金属材料から構成される。他方,外部電極28,29の形成に際しては,内部電極23?27との電気的接続の信頼性を高めるために,最下層として,AgまたはAg-Pd合金を含有する導電ペーストを塗布し,焼き付けることにより形成された第1の電極層28a,29aを形成する。
【0005】また,積層コンデンサ21をプリント回路基板などに実装するに際して,半田により外部電極28,29をプリント回路基板上の配線電極に電気的に接続する。ところが,第1の電極層28a,29aはAgなどの半田食われを生じやすい材料を主成分とする。従って,第1の電極層28a,29aのみを外部電極材料として用いて半田付けした場合には,半田食われにより外部電極が部分的に消失し,積層コンデンサ21を確実に機能させることができなくなる。
【0006】そこで,半田食われを防止するために,第1の電極層28a,29a上に,Niなどの半田食われを生じ難い材料をメッキすることにより第2の電極層28b,29bが形成されている。
【0007】また,Niなどの半田食われを生じ難い材料は,半田付け性が十分でないために,半田付け性を高めるために,SnまたはSn-Pb合金などの半田付け性に優れる材料をメッキすることにより,第3の電極層28c,29cが形成されている。」
「【0009】そのため,セラミック焼結体22内部のクラックの発生を防止し得る構造として,図3に示すような外部電極構造を有する積層コンデンサ31が案出された。この従来の第2の例による積層コンデンサ31は,セラミック焼結体32と,セラミック焼結体32の内部に形成される内部電極33?37と,セラミック焼結体の両端面32a,32bに形成される一対の外部電極38,39とを備えている。外部電極38,39は,導電ペーストをセラミック焼結体32の外表面に塗布し,焼き付けることにより形成された第1の電極層38a,39aの表面上に導電性樹脂層40,41を備えている。導電性樹脂層40,41は,シリコン系導電性樹脂などを塗布し,硬化させて形成されている。さらに,導電性樹脂層40,41の表面上にNiメッキ層38b,39b及びSnまたはSn-Pb合金などのメッキ層からなる第4の電極層38c,39cが形成されている。
【0010】この従来の例による積層コンデンサ31は,導電性樹脂層40,41を設けることにより,外部から外部電極38,39に加わるストレスをこの導電性樹脂層40,41の柔軟性による変形により緩和し,セラミック焼結体32への応力集中を防止してクラックの発生を抑制している。」

・周知例3:特開平5-144665号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である上記周知例3には,次の記載がある。
「【0010】即ち,複数の平滑な誘電体層1と複数の内部電極層2とが交互に積層されて一体化され,これらの少なくとも側面に外部電極層7が形成されている。この外部電極層7は,内部電極層1に接続され焼結により形成された電極層8と,この電極層8上に形成された柔軟性を有する導電性接着樹脂層9と,この導電性接着樹脂層9上に形成されたニッケルめっき層5と,このニッケルめっき層5上に形成された半田めっき層6とからなっている。
【0011】上記の場合,電極層8は,Agを主材として電極材とガラスフリットとを含んだ電極ペ-ストを塗布して,乾燥焼き付けして形成したものである。又,導電性接着樹脂層9は,例えばシリコ-ン系導電性樹脂などを塗布し硬化させたものである。更に,各めっき層5,6は,導電性接着樹脂層9全体を被覆するように冠着されている。
【0012】このように構成された積層セラミックコンデンサは,半田付けにより回路基板へ実装した場合,熱衝撃により発生する応力は柔軟性を有する導電性接着樹脂層9によって吸収され,誘電体層角部の熱応力集中を回避することが出来る。」

(4)小括
したがって,補正発明は,引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

3-5 独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項(以下「特許法17条の2第5項」という。)において準用する同法126条5項の規定に適合しない。

4 補正却下の決定についてのまとめ
以上検討したとおり,本件補正は,特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合しないものであるから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年4月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?8に係る発明は,平成21年8月3日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであり,その内の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,上記第2,1(1)に本件補正前の請求項1として摘記したとおりのものである。

2 引用発明
引用発明は,上記第2,3-2(3)で認定したとおりのものである。

3 対比・判断
上記第2,2で検討したように,補正発明は,本件補正前の請求項1について,補正事項1?2の点を限定したものである。また,上記第2,3-3で提示した補正発明と引用発明の相違点1は,補正事項1に関するものである。
そうすると,上記補正事項1?2を含まない本願発明と引用発明とは,上記第2,3-3で示した相違点2において相違し,その余の点で一致するものであるところ,上記第2,3-4(2)で検討したとおり,引用発明において相違点2に係る構成とすることは当業者が適宜なし得たことであるから,本願発明は,引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

4 本願発明についての結論
以上検討したとおり,本願発明は,引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 結言
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-13 
結審通知日 2012-02-14 
審決日 2012-02-29 
出願番号 特願2006-53577(P2006-53577)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01G)
P 1 8・ 121- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 聡酒井 朋広  
特許庁審判長 齋藤 恭一
特許庁審判官 小川 将之
小野田 誠
発明の名称 電子部品及びその製造方法  
代理人 石坂 泰紀  
代理人 三上 敬史  
代理人 黒木 義樹  
代理人 長谷川 芳樹  

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