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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B21D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B21D
管理番号 1255449
審判番号 不服2011-10809  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-23 
確定日 2012-04-12 
事件の表示 特願2006-301813「アルミニウム合金板のプレス成形方法およびプレス装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月18日出願公開、特開2007-268608〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成18年11月7日(優先日、平成18年3月8日)の特許出願であって、同22年6月10日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同22年8月11日に意見書が提出されたが、同23年2月14日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同23年5月23日に本件審判の請求がされるとともに特許請求の範囲及び明細書について手続補正書が提出されたものである。

第2 平成23年5月23日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年5月23日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容の概要
平成23年5月23日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をするとともにそれに関連して明細書の一部について補正ないし削除をするものであって、特許請求の範囲の請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(1)補正前
「パネルの中央部を成形するパンチと下死点近傍まで接触しない非接触外周部位を有する成形品パネルに、アルミニウム合金板をプレス成形する方法であって、前記パネルの中央部を成形する第一のパンチと、この第一のパンチに対して別個に変位できる第二のパンチとを設けるとともに、ダイス外周に設けられたブランクホルダーにより、アルミニウム合金板の外周部を挟持した上で、第一のパンチとダイスとを相対的に移動させて、アルミニウム合金板をプレス成形するに際し、このプレス成形開始時から下死点までの間の少なくとも一時点で、第一のパンチに対する第二のパンチの相対的な位置を、プレス下死点での第一のパンチに対する第二のパンチの相対的な位置に比べて、ダイス側に変位させて、第二のパンチをアルミニウム合金板における前記非接触外周部位と接触させるように、これらパンチ同士を連動させることを特徴とするアルミニウム合金板のプレス成形方法。」
(2)補正後
「パネルの中央部を成形するパンチと下死点近傍まで接触しない非接触外周部位を有する成形品パネルに、アルミニウム合金板をプレス成形する方法であって、前記パネルの中央部を成形する第一のパンチと、この第一のパンチに対して別個に変位できる第二のパンチとを設けるとともに、ダイス外周に設けられたブランクホルダーにより、アルミニウム合金板の外周部を挟持した上で、第一のパンチとダイスとを相対的に移動させて、アルミニウム合金板をプレス成形するに際し、このアルミニウム合金板のプレス成形を開始する際に、第一のパンチに対する第二のパンチの相対的な位置を、プレス下死点での第一のパンチに対する第二のパンチの相対的な位置に比べて、予めダイス側に変位させて、前記したブランクホルダーによるアルミニウム合金板外周部の挟持後に、第二のパンチをアルミニウム合金板における前記非接触外周部位と接触させるように、これらパンチ同士を連動させることを特徴とするアルミニウム合金板のプレス成形方法。」
2 補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、実質上、第一のパンチに対する第二のパンチの相対的な位置を、プレス下死点での第一のパンチに対する第二のパンチの相対的な位置に比べて、ダイス側に変位させるタイミングを「プレス成形開始時から下死点までの間の少なくとも一時点」から「アルミニウム合金板のプレス成形を開始する際に」と限定し、また、第二のパンチをアルミニウム合金板における非接触外周部位と接触させるタイミングを「ブランクホルダーによるアルミニウム合金板外周部の挟持後に」と限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とすることが明らかであるので、さらに、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。
(1)補正発明
補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲、明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「アルミニウム合金板のプレス成形方法」であると認める。
(2)刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本件出願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である実願昭63-98686号(実開平2-22219号)のマイクロフィルム(以下「刊行物1」という。)の記載内容は以下のとおりである。
ア 刊行物1記載の事項
刊行物1には以下の事項が記載されている。
(ア)第1ページ第18行?第2ページ第1行
「産業上の利用分野
本考案は、比較的絞り量の大きい成形品を絞り成形するにあたり、しわ、ひずみ、割れ等の成形欠陥の発生を防止したプレス成形装置に関する。」
(イ)第2ページ第17行?第3ページ第3行
「深絞りの場合には、ブランク材Wbを成形当初から強く加圧しすぎると割れが発生し、また加圧力が弱すぎると素材流入量が大きくなってしわやひずみ等の発生原因となるのであり、したがって成形当初は弱く加圧する一方、成形末期では強く加圧するようにするのが望ましい。」
(ウ)第8ページ第8行?第9ページ第7行
「第4図および第5図において、11はダイ穴41をもつダイ、12はブランクホルダ、13はポンチ、Wはブランク材である。ブランクホルダ12は周知のようにクッションピン9を介して図示外のダイクッション装置に弾性支持されており、ブランクホルダ12の外側にインサートブランクホルダ15が配置される。そして、ブランクホルダ12とインサートブランクホルダ15との間に弾性手段たるウレタンゴム18が介装される。そして、ブランクホルダ12およびインサートブランクホルダ15は個別にブランク押圧面12a,15aを有しており、各ブランク押圧面12a,15aにはビード14が突出形成されている。
この実施例構造によれば、絞り成形過程の前半ではウレタンゴム18によって与えられるインサートブランクホルダ15のブランク押圧力のみによって成形が進められ、成形過程の後半、より望ましくはダイ11の下死点直前の成形末期で初めてブランクホルダ12がブランク材Wに当接することになる。」
(エ)第9ページ第13行?第10ページ第2行
「考案の効果
以上のように本考案のプレス成形装置においては、成形過程の前半ではインサートブランクホルダのブランク押圧力にみのよって(当審注:「ブランク押圧力のみによって」の誤記である。)成形を行い、成形過程の後半で初めてインサートブランクホルダに加えてブランクホルダ本来のブランク押圧力を作用させてブランク押圧力を増加させるものであるから、簡単な構造でありながら特に深絞りに際してしわやひずみ、あるいは割れといった成形欠陥を未然に防止できる。」
(オ)第4図および第5図
i ポンチ13は成形品の中央部を成形するものであって、成形品の外周部位はポンチ13と下死点近傍まで接触しないものであること。
ii ブランクホルダ12は、ポンチ13に対して別個に変位可能に設けられていること。そして、ブランクホルダ12は、プレス下死点でのポンチ13に対する相対的な位置に比べて、予めダイ11側に変位させていること。
iii インサートブランクホルダー15は、ダイ11の外周部に対向して設けられていること。
イ 刊行物1記載の発明
刊行物1記載の事項は、プレス成形装置として表現されているが、プレス成形方法としても把握することができるものであることを考慮に入れて、刊行物1記載の事項を補正発明に照らして整理すると刊行物1には以下の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「成形品の中央部を成形するポンチ13と下死点近傍まで接触しない非接触外周部位を有する成形品に、ブランク材Wをプレス成形する方法であって、前記成形品の中央部を成形するポンチ13と、このポンチ13に対して別個に変位できるダイクッション装置に弾性支持されたブランクホルダ12を設けるとともに、ダイ11とダイ11の外周部に対向して設けられたインサートブランクホルダー15とによりブランク材Wの外周部を挟持した上で、ポンチ13とダイ11とを相対的に移動させて、ブランク材Wをプレス成形するに際し、ポンチ13に対するブランクホルダ12の相対的な位置を、プレス下死点でのポンチ13に対するブランクホルダ12の相対的な位置に比べて、予めダイ11側に変位させて、プレス成形過程の前半ではインサートブランクホルダ15のブランク押圧力のみによって成形を行い、プレス成形過程の後半でインサートブランクホルダ15に加えてブランクホルダ12のブランク押圧力を作用させてブランク押圧力を増加させるブランク材Wのプレス成形方法。」
(3)対比
補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると以下のとおりである。
刊行物1記載の発明の「成形品」は、補正発明の「パネル」ないし「成形品パネル」に相当し、同じく「ポンチ13」は、「第一のパンチ」に相当する。
また、刊行物1記載の発明の「ブランク材W」は、技術常識からみて金属板で構成されていることが明らかであって「被加工金属板」であるという限りで、補正発明の「アルミニウム合金板」と共通している。
また、刊行物1記載の発明の「ダイ11」は、補正発明の「ダイス」に相当することが明らかであり、同じく「ダイ11の外周部に対向して設けられたインサートブランクホルダー15」は、「ダイス外周に設けられたブランクホルダー」に相当する。
また、刊行物1記載の発明の「ブランクホルダ12」は、ダイクッション装置に弾性支持されており、プレス成形過程の後半で押圧力を作用するように構成されていることからみて、「第一のパンチに対して別個に変位できる部材」(以下「部材A」という。)という限りで、補正発明の「第二のパンチ」と共通している。
そして、刊行物1記載の発明において「プレス成形過程の前半ではインサートブランクホルダ15のブランク押圧力のみによって成形を行い、プレス成形過程の後半でインサートブランクホルダ15に加えてブランクホルダ12のブランク押圧力を作用させてブランク押圧力を増加させる」ことは、「ブランクホルダーによる被加工金属板外周部の挟持後に、部材Aを被加工金属板における非接触外周部位と接触させるように、第一のパンチと部材Aとを連動させる」という限りで、補正発明において「ブランクホルダーによるアルミニウム合金板外周部の挟持後に、第二のパンチをアルミニウム合金板における前記非接触外周部位と接触させるように、これらパンチ同士を連動させる」ことと共通している。
したがって、補正発明と刊行物1記載の発明とは、以下の点で一致しているということができる。
[一致点]
「パネルの中央部を成形するパンチと下死点近傍まで接触しない非接触外周部位を有する成形品パネルに、被加工金属板をプレス成形する方法であって、前記パネルの中央部を成形する第一のパンチと、この第一のパンチに対して別個に変位できる部材Aとを設けるとともに、ダイス外周に設けられたブランクホルダーにより、被加工金属板の外周部を挟持した上で、第一のパンチとダイスとを相対的に移動させて、被加工金属板をプレス成形するに際し、この被加工金属板のプレス成形を開始する際に、第一のパンチに対する部材Aの相対的な位置を、プレス下死点での第一のパンチに対する部材Aの相対的な位置に比べて、予めダイス側に変位させて、前記したブランクホルダーによる被加工金属板外周部の挟持後に、部材Aを被加工金属板における前記非接触外周部位と接触させるように、第一のパンチ及び部材Aを連動させる被加工金属板のプレス成形方法。」
そして、補正発明と刊行物1記載の発明とは、以下の2点で相違している。
ア <相違点1>
被加工金属板が、補正発明では、アルミニウム合金板であるのに対して、刊行物1記載の発明では、ブランク材Wというだけであってどのような材質のものであるのか明らかでない点。
イ <相違点2>
第一のパンチに対して別個に変位できる部材Aが、補正発明では、第二のパンチであるのに対して、刊行物1記載の発明では、ブランクホルダ12である点。
(4)相違点の検討
ア <相違点1>について
プレス成形する被加工金属板としてアルミニウム合金板を採用することは、上記拒絶の理由に引用文献2及び3として引用された特開2000-158050号公報及び特開2000-355724号公報に示されているように従来周知であり、刊行物1記載の発明に適用する被加工金属板としてアルミニウム合金板を採用できないとする阻害要因も格別見当たらないことからすれば、この従来周知の事項を刊行物1記載の発明に適用して、ブランク材Wとしてアルミニウム合金板を採用することは必要に応じて適宜なし得る事項である。
イ <相違点2>について
本件出願の明細書の段落【0055】に「ここで、前記非接触外周部位を解消して、素材板端部のしわ変形を拘束するとともに、素材板に与える張力を制御できる効果を発揮できれば、第二のパンチ15を、板余肉部(前記非接触外周部位)35、36へ、単に接触させるか、あるいは積極的にこの部位を成形するかは、適宜選択される。」と記載されているように、第二のパンチは、素材板に単に接触するものも含んでいる。また、上記第2の1(2)に「第二のパンチをアルミニウム合金板における前記非接触外周部位と接触させる」と示されているように、補正発明では、第二のパンチとアルミニウム合金板との関係について「接触させる」ことだけが記載されている。
そうしてみると、補正発明の「第二のパンチ」と刊行物1記載の発明の「ブランクホルダ12」との間には格別の差異がないとみるのが相当であり、相違点2については、補正発明と刊行物1記載の発明との間に実質上の相違がなく両者は同一であるということができる。
請求人は、当審の審尋に対する平成23年12月21日付け回答書の第4ページ等で、補正発明の第二のパンチは、素材板を成形するものである旨主張している。
しかしながら、「素材板を成形する」ことは補正発明において特定されておらず、請求人の上記主張は特許請求の範囲の記載に基づくものでもない。
(なお、プレス成形装置において、固定のパンチに対して別個に変位できる可動のパンチを設けること自体は、例えば、特開昭63-108921号公報、実願平1-13251号(実開平2-104121号)のマイクロフィルム、特開2002-263744号公報等に示されている。)
ウ また、補正発明によってもたらされる効果も、刊行物1記載の発明及び上記従来周知の事項から当業者であれば予測できる程度のものであって格別のものではない。
エ したがって、補正発明は、刊行物1記載の発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 むすび
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお、請求人は、上記回答書の第7,8ページで補正案を提示している。 この補正案について、念のため検討すると、上記本件出願の明細書の段落【0055】にその旨記載されているように、第二のパンチを、アルミニウム合金板の非接触外周部位へ接触させるか、あるいはこの部位を成形するかは、適宜選択される事項であるとみるのが相当である上、固定のパンチに対して別個に変位できる可動のパンチを設けること自体が、上記2(4)イで指摘したように従来周知の事項であったことからすれば、補正案を採用したとしても、独立して特許を受けることができたものであるとすることはできない。

第3 本件出願の発明について
1 本件出願の発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項に係る発明は、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項12に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本件出願の発明」という。)は、上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「アルミニウム合金板のプレス成形方法」である。
2 刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載内容は、上記第2の2(2)に示したとおりである。
3 対比・検討
本件出願の発明は、実質上、第一のパンチに対する第二のパンチの相対的な位置を、プレス下死点での第一のパンチに対する第二のパンチの相対的な位置に比べて、ダイス側に変位させるタイミングについて、上記第2の2で検討した補正発明の「アルミニウム合金板のプレス成形を開始する際に」から「プレス成形開始時から下死点までの間の少なくとも一時点」に拡げるとともに第二のパンチをアルミニウム合金板における非接触外周部位と接触させるタイミングについて「ブランクホルダーによるアルミニウム合金板外周部の挟持後に」という限定を削除したものである。
そうすると、本件出願の発明を構成する事項の全てを含み、さらに他の事項を付加ないし限定する補正発明が上記第2の2(4)エで示したとおり、刊行物1記載の発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件出願の発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 むすび
したがって、本件出願の発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件出願の請求項2ないし請求項12に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-08 
結審通知日 2012-02-14 
審決日 2012-02-27 
出願番号 特願2006-301813(P2006-301813)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B21D)
P 1 8・ 575- Z (B21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 馬場 進吾  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 長屋 陽二郎
菅澤 洋二
発明の名称 アルミニウム合金板のプレス成形方法およびプレス装置  
代理人 竹中 芳通  
代理人 坂谷 亨  
代理人 武仲 宏典  
代理人 亀岡 誠司  

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