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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1255492
審判番号 不服2010-13583  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-22 
確定日 2012-04-11 
事件の表示 特願2004-525903号「液体を患者の体内に分配するための装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年2月12日国際公開、WO2004/012806、平成17年11月17日国内公表、特表2005-534400号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成15年8月1日の出願(パリ条約による優先権主張 平成14年8月2日、米国)であって、平成21年8月20日付けで拒絶理由を通知したところ、平成21年11月27日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたが、平成22年3月15日付けで拒絶査定がなされたところ、同査定を不服として平成22年6月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成22年6月22日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年6月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[補正却下の理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「第1の平らな面を備える第1のバルブ部材(14)と、
第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面を備え、異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材(18)とを備え、各バルブ部材が異なる液体チャネルを備え、
前記第1および第2のバルブ部材はセラミック材料で作成され、
前記第1および第2のバルブ部材の第1および第2の平面の表面はそれらが互いに接触して液体シールを形成するようにスムースである、
ことを特徴とする埋め込み可能なバルブ・デバイス(3)。」(下線部は補正個所を示す。)

2.補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面を備え、異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材(18)とを備え、・・・第2のバルブ部材が、異なるチャネルの少なくとも2つを位置の少なくとも1つで互いに接続するように構成されている」との記載中、一部重複する記載を整理するとともに、「第1のバルブ部材」の「第1の平らな面」及び「第2のバルブ部材」の「第2の平らな面」について、「第1および第2の平面の表面はそれらが互いに接触して液体シールを形成するようにスムースである」との限定を付加するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)、以下に検討する。

3-1.引用例の記載事項
(1)米国特許第4822341号明細書
本願の優先権主張日前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された、米国特許第4822341号明細書(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。(なお、『』内に当審による仮訳を記載する。)

引1ア:「The implantable graft is adapted to lie entirely below the skin immediately following implantation, except for the flexible access tube, which passes through the skin temporarily until the implantable graft heals.」(4欄3?6行)
『移植可能なグラフトは、治癒するまで一時的に皮膚を貫通する柔軟なアクセスチューブを除いて、移植後直ちに皮膚下に完全に設置される。』

引1イ:「The implantable graft may advantageously serve as an access fistula for the vascular system. 」(4欄15?16行)
『移植可能なグラフトは、血管系のフィステルへアクセスするのに使用すると好都合である。』

引1ウ:「The access porthole is formed in the tubular wall of the hard sintered unexpanded tube section. A port collar formed of an implantable plastic is secured over and around the hard sintered unexpanded PTFE tube section and houses the valve structure. The port collar has a hole formed therein overlying and in fluid communication with the access port hole, and the first end of the flexible access tube is coupled to the port collar in fluid communication with the hole formed therein.」(4欄22?31行)
『固く、焼結処理され、拡張されていないチューブの壁にアクセスポート穴が形成される。移植可能なプラスチックで形成されたポートカラーは、固く、焼結され、拡張されていないPTFEチューブ部分の外周に固定され、バルブ構造を収容する。ポートカラーは、アクセスポート穴と重なり、流体連通する穴を有し、柔軟なアクセスチューブの第1端は、ポートカラーに形成された穴と流体連通するようにポートカラーに結合される。』

引1エ:「The valve structure may advantageously be provided by a slide member which slides within a channel formed in the port collar. In its opened position, the slide member selectively establishes a continuous path between the access port hole and the first end of the flexible access tube. When the slide member is moved to its closed position, it seals the hole formed in the port collar and interrupts fluid communication between the access port hole and the first end of the flexible access tube.」(4欄32?41行)
『バルブ構造は、ポートカラーに設けられたチャンネル内をスライドするスライド部材を備えると好都合である。その開位置において、スライド部材は、アクセスポート穴と柔軟なアクセスチューブの第1端との間に連通路を選択的に確立する。スライド部材が閉位置に動かされた時、スライド部材は、ポートカラーに形成された穴を塞ぎ、アクセスポート穴と柔軟なアクセスチューブの第1端との間の流体連通を遮断する。』

引1オ:「Preferably, a second access porthole is also formed in the hard sintered unexpanded tube sections, spaced apart from the first access porthole formed therein. A second hole is provided in the port collar overlying and in fluid communication with the second access porthole. The flexible access tube is preferably formed as a dual lumen tube, the first lumen being in fluid communication with the first hole in the port collar, and the second lumen being in fluid communication with the second hole in the port collar. The slide member of the valve structure establishes or interrupts fluid communication between the first access porthole and the first lumen, and simultaneously establishes or interrupts fluid communication between the second access porthole and the second lumen, as the slide member is moved between its opened and closed positions, respectively. First and second connectors are provided at the second end of the flexible access tube to couple the first and second lumens, respectively, to dialysis equipment.」(4欄42?60行)
『好ましくは、二つ目のアクセスポート穴が、固く、焼結処理され、拡張されていないチューブ部分に、一つ目のアクセスポート穴と間隔を空けて形成される。二つ目の穴は、第2アクセスポート穴と重なり、流体連通するようにポートカラーに設けられる。柔軟なアクセスチューブは、好ましくは、2つのルーメンを有するチューブから形成され、第1のルーメンはポートカラーの第1の穴と流体連通し、第2のルーメンはポートカラーの第2の穴と流体連通する。バルブ構造のスライド部材は、開位置と閉位置との間で動かされる時、それぞれ、第1のアクセスポート穴と第1のルーメンとの間の流体連通を確立したり遮断したりし、同時に、第2のアクセスポート穴と第2のルーメンとの間の流体連通を確立したり遮断したりする。』

引1カ:「Both port collar 20 and slide valve member 22 are made of solid plastic, such as soft polyurethane.」(6欄51?52行)
『ポートカラー20及びスライドバルブ部材22は、柔軟なポリウレタンのような固体のプラスチックで形成される。』

引1キ:引1エの「バルブ構造は、ポートカラーに設けられたチャンネル内をスライドするスライド部材を備えると好都合である。その開位置において、スライド部材は、アクセスポート穴と柔軟なアクセスチューブの第1端との間に連通路を選択的に確立する。」との記載及び引1オの「バルブ構造のスライド部材は、開位置と閉位置との間で動かされる時、それぞれ、第1のアクセスポート穴と第1のルーメンとの間の流体連通を確立したり遮断したりし、同時に、第2のアクセスポート穴と第2のルーメンとの間の流体連通を確立したり遮断したりする。」との記載からして、スライド部材は、開位置においてポートカラーの第1の穴と流体連通する通路とポートカラーの第2の穴と流体連通する通路とを備えているといえる。

引1ク:引1エの「バルブ構造は、ポートカラーに設けられたチャンネル内をスライドするスライド部材を備えると好都合である。」との記載、引1オの「バルブ構造のスライド部材は、開位置と閉位置との間で動かされる」との記載及び図1?9に示された矩形ボア30はポートカラーに設けられたチャンネルであるとともに、スライドバルブ部材22はスライド部材であることからして、図1?9には、チャンネル内の平らな底面を備えるポートカラーと、チャンネル内の平らな底面に面してそれと接触する平らな底面を備え、開位置と閉位置の間でポートカラーに対して変位可能であるスライド部材とを備える態様のバルブ構造が示されているといえる。

引1ケ:引1カの「ポートカラー20及びスライドバルブメンバー22は柔軟なポリウレタンのような固体のプラスチックから形成される」との記載及びスライドバルブ部材22はスライド部材であることからして、ポートカラー及びスライド部材は固体のプラスチックで作成されるといえる。

引1コ:引1アの「移植可能なグラフトは、治癒するまで一時的に皮膚を貫通する柔軟なアクセスチューブを除いて、移植後直ちに皮膚下に完全に設置される。」との記載及び第1図?第9図の図示内容からして、バルブ構造は、埋込可能といえる。

引1サ:引1クの「チャンネル内の平らな底面を備えるポートカラーと、チャンネル内の平らな底面に面してそれと接触する平らな底面を備え、開位置と閉位置の間でポートカラーに対して変位可能であるスライド部材とを備える態様」において、ポートカラーのチャンネル内の平らな底面及びスライド部材の平らな底面の表面はそれらが互いに接触することは明らかである。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「チャンネル内の平らな底面を備えるポートカラーと、
チャンネル内の平らな底面に面してそれと接触する平らな底面を備え、開位置と閉位置の間でポートカラーに対して変位可能であるスライド部材とを備え、
ポートカラーは、第1の穴と第2の穴とを備え、
スライド部材は、開位置においてポートカラーの第1の穴と流体連通する通路とポートカラーの第2の穴と流体連通する通路とを備え、
ポートカラー及びスライド部材は固体のプラスチックで作成され
ポートカラーのチャンネル内の平らな底面及びスライド部材の平らな底面の表面はそれらが互いに接触する、
埋込み可能なバルブ構造。」

(2)特開昭63-290578号公報
本願の優先権主張日前に頒布された刊行物であり、新たに引用する、特開昭63-290578号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

引2ア:「(a)産業上の利用分野
この発明は、例えば、膀胱のような生体内の器官へ流体を出し入れする流れ制御装置に関し、より詳細には、器官の潅注洗浄と薬物治療とを選択的に可能にする弁制御装置に関する。
(b)従来の技術
感染を避けたいという目的のため、従来から、器官、典型的には膀胱に潅注洗浄と薬物治療とを選択的に可能にする方式として密閉式の多岐流路をもつマルチチャンネルバルブ装置が使われていることが、米国特許第3,990,447号及び同第4,082,095号に記載されている。これらの装置では、洗浄器とチャンネルセレクターとを関連させて、器官に対する治療洗浄と器官からの流体排出とを別々に行なうために沢山の流路の中から選択するバルブ装置が洗浄器と組み合わされているので、感染にさらされる危険が、とりわけ、器官の連続反覆手当が要求されるときに、減少する。
(c)発明が解決しようとする課題
(d)課題を解決するための手段
この発明は、潅注洗浄器に次のような流れ制御装置を備えるものであって、その流れ制御装置は、複数の導水管に用いられるノズル体と、そのノズル体と連通して流体を収容しそして排出する流体室を持った流体容器部と、バルブ動作時に関連回転可能な相互接触面をもった2つのバルブ材と、それらの相互接触面間を封する方向の対向力を前記2つのバルブ材上に作用させる締付体とから成る。
前記2つのバルブ材はセラミック材、例えば、高純度のアルミナで作成され、前記相互接触面は高研摩仕上げにより互いにピタッと重なる平滑性を形成される。
前記第1のバルブ材は、前記ノズル体に設けた別個の複数の通路口とそれぞれ連通する複数の貫通孔をもち、前記第2のバルブ材は、前記流体室と連通する1つの貫通孔をもち、その1つの貫通孔は前記第1バルブ材における複数の貫通孔の少なくとも1つと選択的に連通して、前記ノズル体の通路口と流体室との間の流体の流れを可能ならしめる。
(e)作用
2つのバルブ材の相互接触面が関連回転時にもピタッと重なるように高研摩仕上げされる一方、締付体によって2つのバルブ材上に相互接触面間を封する方向の対向力が作用するので、2つのバルブ材の相互接触面は、静止時にも関連回転時にも流体のもれが確実に封じられる。
2つのバルブ材の関連回転によって、ノズル体における複数の導水管と流体室との間、及び導水管相互間における流路の変換が可能になり、それによって生体の器官に対して流体の流入と流出及び異なった流体の流入などが選択的に行われる。」(1頁右下欄2行?2頁右上欄19行)

引2イ:「双方のバルブ円板64及び70は、セラミック材例えば、高純度のアルミナで形成され、相互接触面が充分に平滑であるように高研摩仕上されるので、バルブ操作中に相対回転しても、双方の面の間における流体の密封が維持される。」(3頁左下欄2?6行)

引2ウ:引2イの「双方のバルブ円板64及び70は、・・・相互接触面が充分に平滑であるように高研摩仕上されるので、バルブ操作中に相対回転しても、双方の面の間における流体の密封が維持される」との記載及び第図1?第7図の図示内容からして、バルブ円板64は平らな面を備え、バルブ円板70はバルブ円板64の平らな面に面してそれと接触する平らな面を備えているといえる。

引2エ:引2アの「この発明は、・・・バルブ動作時に関連回転可能な相互接触面をもった2つのバルブ材と、それらの相互接触面間を封する方向の対向力を前記2つのバルブ材上に作用させる締付体とから成る。前記2つのバルブ材はセラミック材、例えば、高純度のアルミナで作成され、前記相互接触面は高研摩仕上げにより互いにピタッと重なる平滑性を形成される。」との記載及び引2イの「双方のバルブ円板64及び70は、・・・相互接触面が充分に平滑であるように高研摩仕上されるので、バルブ操作中に相対回転しても、双方の面の間における流体の密封が維持される」との記載からして、バルブ円板64及びバルブ円板70の双方の平らな面の表面は、それらが互いに接触して該相互接触面間を封しそれらの間における流体の密封を維持するように平滑にされているといえる。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
「平らな面を備えるバルブ円板64と、
バルブ円板64の平らな面に面してそれと接触する平らな面を備え、バルブ円板64に対して相対回転可能であるバルブ円板70とを備えるバルブ装置において、
バルブ円板64及びバルブ円板70をセラミック材料で作成し、
バルブ円板64及びバルブ円板70の双方の平らな面の表面を、それらが互いに接触して該相互接触面間を封しそれらの間における流体の密封を維持するように平滑にすること。」

(3)特開平11-182712号公報
本願の優先権主張日前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された、特開平11-182712号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

引3ア:「【発明の属する技術分野】この発明は摺接弁に関し、特に、湯水混合水栓等の各種水栓に好適に用いられる摺接弁に関する。」(【0001】)

引3イ:「本発明は前記観点に鑑みてなされたものであり、可動弁体の小型化を図りつつ、可動弁体と操作部材との係合を確実に行うことができ、しかも可動弁体の構造の簡略化を図ることができる摺接弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】請求項1の摺接弁は、互いに摺接される固定弁体と可動弁体とを有し、固定弁体に対して可動弁体を移動させることにより摺接面に開口する固定弁体及び可動弁体の各流路の連通度合いを調節する摺接弁において、前記可動弁体の摺接面以外の部位に該可動弁体の流路が開口する第2の開口部を設け、可動弁体を移動操作する操作部材に前記第2の開口部に係合する係合部を設け、該係合部と前記第2の開口部との係合により操作部材と一体的に可動弁体が移動されるようにしたことを特徴とする。」(【0005】?【0006】)

引3ウ:「また、固定弁体(例えば、セラミックス製)50は、図1に示すように、略円板形状とされ、周面に2つの位置決め突起51を備える。更に、固定弁体50には、供給用流路52と、カラン連絡用流路53が、この弁体50の摺接面55及び背面56で開口する状態に設けられている。そして、何れの流路52、53も、中心角が90度前後の平面略扇形状とされている。
また、可動弁体(例えば、セラミックス製)60は、図1に示すように、薄肉の略円板形状とされている。そして、図2に示すように、摺接面65に第1の開口部Dを備えると共に背面66に第2の開口部Eを備えたカラン選択用流路(中心角が略180前後の平面略扇形状)61と、摺接面65に第1の開口部Fを備えると共に側面67に第2の開口部Gを備えたシャワー選択用流路(中心角が略90前後の平面扇形状)62とが設けられている。」(【0017】?【0018】)

引3エ:「しかし、弁体50、60の素材としては、耐摩耗性を重視して、樹脂等の他の素材に比べて成形性や加工性に劣るセラミックス等が用いられるのが一般的なため、高精度な凹部Yを備えた弁体60を作製することは必ずしも容易ではない。また、弁体60の製造の最終段階で、その摺接面65にラッピング等の鏡面加工が施されるが、その加工量が僅でもばらつけば、この凹部Yの精度が大きく低下すると考えられる。更に、摺接面65に形成可能な凹部Yの形状にも一定の限界があるため、凹部Yの形状に工夫を凝らせば(複雑化等)、「ウォーターハンマー」の発生をより確実に防止できるにも係わらず、実際に形成可能な凹部Yは単純形状に止まることも考えられる。」(【0031】)

引3オ:引3イの「摺接弁は、互いに摺接される固定弁体と可動弁体とを有し、固定弁体に対して可動弁体を移動させる」との記載、引3ウの「固定弁体・・・50は、図1に示すように、略円板形状とされ・・・可動弁体(例えば、セラミックス製)60は、図1に示すように、薄肉の略円板形状とされている。」との記載及び図1?図7の図示内容からして、固定弁体は平らな面を備え、可動弁体は固定弁体の平らな面に面してそれと接触する平らな面を備えているといえる。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用例3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。
「平らな面を備える固定弁体と、
固定弁体の平らな面に面してそれと接触する平らな面を備え、固定弁体に対して移動可能である可動弁体とを備える摺接弁において、
固定弁体及び可動弁体をセラミック材料で作成すること。」

3-2.対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「埋め込み可能なバルブ構造」は、本願補正発明の「埋め込み可能なバルブ・デバイス」に相当する。
そして、引用発明1の「ポートカラー」と「スライド部材」とは「バルブ構造」(バルブ・デバイス)を構成するから、引用発明1の「ポートカラー」、「スライド部材」は、本願補正発明の「第1のバルブ部材」、「第2のバルブ部材」にそれぞれ相当し、引用発明1における「ポートカラー」の「チャンネル内の平らな底面」、「スライド部材」の「平らな底面」は、本願補正発明の「第1の平らな面」、「第2の平らな面」にそれぞれ相当する。

引用発明1の「開位置と閉位置の間」は、本願補正発明の「異なる位置の間」に相当する。

引用発明1における「ポートカラー」の「第1の穴」及び「第2の穴」と「スライド部材」の「ポートカラーの第1の穴と流体連通する通路」及び「ポートカラーの第2の穴と流体連通する通路」とは、異なる流体連通路といえるから、本願補正発明の「異なる液体チャンネル」に相当する。
そして、引用発明1の「ポートカラーは、第1の穴と第2の穴とを備え、スライド部材は、開位置においてポートカラーの第1の穴と流体連通する通路とポートカラーの第2の穴と流体連通する通路とを備え」は、本願補正発明の「各バルブ部材が異なる液体チャネルを備え」に相当する。

引用発明1の「ポートカラーのチャンネル内の平らな底面及びスライド部材の平らな底面の表面はそれらが互いに接触する」は、本願補正発明の「第1および第2のバルブ部材の第1および第2の平面の表面はそれらが互いに接触する」に相当する。

以上によれば、本願補正発明と引用発明1とは次の点で一致する。
(一致点)
「第1の平らな面を備える第1のバルブ部材と、
第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面を備え、異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材とを備え、各バルブ部材が異なる液体チャネルを備え、
前記第1および第2のバルブ部材の第1および第2の平面の表面はそれらが互いに接触する、
埋め込み可能なバルブ・デバイス。」

そして、両者は次の点で相違する。
(相違点1)
本願補正発明では、「前記第1および第2のバルブ部材はセラミック材料で作成され」るのに対して、
引用発明1では、ポートカラー及びスライド部材は固体のプラスチックで作成される点。

(相違点2)
本願補正発明では、「前記第1および第2のバルブ部材の第1および第2の平面の表面はそれらが互いに接触して液体シールを形成するようにスムースである」のに対して、
引用発明1では、ポートカラーのチャンネルの平らな底面及びスライド部材の平らな底面はそれらが互いに接触する点。

3-3.相違点の判断
上記相違点について検討する。
(相違点1)
(1)引用発明3の「摺接弁」は「バルブ・デバイス」といえ、以下同様に、「固定弁体」は「第1のバルブ部材」といえ、「固定弁体に対して移動可能である可動弁体」は「異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材」といえるから、引用発明3は、
「第1の平らな面を備える第1のバルブ部材と、
第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面を備え、異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材とを備えるバルブ・デバイスにおいて、
前記第1および第2のバルブ部材をセラミック材料で作成すること」
といえる。
してみると、引用発明1と引用発明3とは、「第1の平らな面を備える第1のバルブ部材と、第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面を備え、異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材とを備えるバルブ・デバイス」という共通の技術分野に属する。
上記「第1の平らな面を備える第1のバルブ部材と、第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面を備え、異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材とを備えるバルブ・デバイス」の2つの「バルブ部材」が相互に面接触して相対的に変位する際に摩耗することは明らかであるから、「第1の平らな面を備える第1のバルブ部材と、第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面を備え、異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材とを備えるバルブ・デバイス」において、相互に面接触して相対的に変位可能な2つの「バルブ部材」の耐摩耗性を向上させることは、自明の技術課題であるといえる。
この点につき、引用例3の「弁体50、60の素材としては、耐摩耗性を重視して、樹脂等の他の素材に比べて成形性や加工性に劣るセラミックス等が用いられるのが一般的」(引3エ)との記載からして、引用例3には、引用発明3の「摺接弁」(バルブ・デバイス)は相互に面接触して相対的に変位可能な2つの「バルブ部材」である「固定弁体50」及び「可動弁体60」の耐摩耗性を向上させるために、該2つの「バルブ部材」を「セラミック材料で作成する」ことが記載されているといえる。
してみると、引用発明1と引用発明3とは、「第1の平らな面を備える第1のバルブ部材と、第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面を備え、異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材とを備えるバルブ・デバイス」という共通の技術分野に属するとともに、該技術分野において相互に面接触して相対的に変位可能な2つの「バルブ部材」の耐摩耗性を向上させることは自明の技術課題であって、引用例3には引用発明3が該技術課題を有することも記載されているから、引用発明1に引用発明3の「第1および第2のバルブ部材をセラミック材料で作成する」構成を適用して相違点1に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)また、引用発明2の「バルブ装置」は「バルブ・デバイス」といえ、以下同様に、「バルブ円板64」は「第1のバルブ部材」といえ、「バルブ円板70」は「第2のバルブ部材」といえ、「バルブ円板64」の「平らな面」は「第1の平らな面」といえ、「バルブ円板64に対して相対回転可能であるバルブ円板70」は「異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材」といえ、「バルブ円板70」の「バルブ円板64の平らな面に面してそれと接触する平らな面」は「第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面」といえ、「それらが互いに接触して該相互接触面間を封しそれらの間における流体の密封を維持する」は「それらが互いに接触して液体シールを形成する」といえ、「平滑」は「スムース」といえるから、引用発明2は、
「第1の平らな面を備える第1のバルブ部材と、
第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面を備え、異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材とを備えるバルブ・デバイスにおいて、
前記第1および第2のバルブ部材をセラミック材料で作成し、
前記第1および第2のバルブ部材の第1および第2の平面の表面をそれらが互いに接触して液体シールを形成するようにスムースにすること」
といえる。
引用発明2及び引用発明3からして、「第1の平らな面を備える第1のバルブ部材と、第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面を備え、異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材とを備えるバルブ・デバイスにおいて、前記第1および第2のバルブ部材をセラミック材料で作成すること」は、本件出願の優先権主張日前に周知であったといえる。
してみると、「第1の平らな面を備える第1のバルブ部材と、第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面を備え、異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材とを備えるバルブ・デバイス」の技術分野に属する引用発明1に上記周知技術を適用して相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことであるともいえる。

(相違点2)
引用発明1と引用発明2とは、「第1の平らな面を備える第1のバルブ部材と、第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面を備え、異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材とを備えるバルブ・デバイス」という共通の技術分野に属する。
上記「第1の平らな面を備える第1のバルブ部材と、第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面を備え、異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材とを備えるバルブ・デバイス」の2つの「バルブ部材」が相互に面接触して相対的に変位する際に接触面間からの漏れが生じるおそれのあることは明らかであるから、「第1の平らな面を備える第1のバルブ部材と、第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面を備え、異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材とを備えるバルブ・デバイス」において、相互に面接触して相対的に変位可能な2つの「バルブ部材」の接触面間からの漏れを防ぐことは、自明の技術課題であるといえる。
この点につき、引用例2の「2つのバルブ材の相互接触面が関連回転時にもピタッと重なるように高研摩仕上げされる一方、締付体によって2つのバルブ材上に相互接触面間を封する方向の対向力が作用するので、2つのバルブ材の相互接触面は、静止時にも関連回転時にも流体のもれが確実に封じられる。」(引2ア)との記載からして、引用例2には、引用発明2の「バルブ装置」(バルブ・デバイス)は相互に面接触して相対的に変位可能な2つの「バルブ材」(バルブ部材)の相互接触面間からの漏れを防ぐ技術課題を有することが記載されているといえる。
してみると、引用発明1と引用発明2とは、「第1の平らな面を備える第1のバルブ部材と、第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面を備え、異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材とを備えるバルブ・デバイス」という共通の技術分野に属するとともに、該技術分野において2つの「バルブ部材」の相互接触面間からの漏れを防ぐことは自明の技術課題であって、引用例2には引用発明2が該技術課題を有することも記載されているから、引用発明1に引用発明2の「第1および第2のバルブ部材の第1および第2の平面の表面をそれらが互いに接触して液体シールを形成するようにスムースにする」構成を適用して相違点2に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明による効果も、引用発明1、引用発明2、引用発明3及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明1、引用発明2及び引用発明3に基いて、或いは引用発明1、引用発明2及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という。)は、拒絶査定時の平成21年11月27日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載される、以下のとおりのものである。
「第1の平らな面を備える第1のバルブ部材(14)と、
第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面を備え、異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材(18)とを備え、各バルブ部材が異なる液体チャネルを備え、
前記第1および第2のバルブ部材はセラミック材料で作成され、
第2のバルブ部材が、異なるチャネルの少なくとも2つを位置の少なくとも1つで互いに接続するように構成されているバルブ・デバイス(3)。」

IV.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1?引用例3、及び、その記載事項は、前記「II.独立特許要件3-1.引用例の記載事項」に記載したとおりである。

V.対比・判断
引用発明1の「開位置」は本願発明の「位置の少なくとも一つ」に相当し、引用発明1の「ポートカラーの第1の穴」及び「ポートカラーの第1の穴と流体連通する通路」並びに「ポートカラーの第2の穴」及び「ポートカラーの第2の穴と流体連通する通路」は、本願発明の「異なるチャネルの少なくとも2つ」に相当し、引用発明1の「スライド部材は、開位置においてポートカラーの第1の穴と流体連通する通路とポートカラーの第2の穴と流体連通する通路とを備え」は、本願発明の「第2のバルブ部材が、異なるチャネルの少なくとも2つを位置の少なくとも1つで互いに接続する」に相当する。
してみると、前記「II.独立特許要件3-2.対比」の検討結果を参酌して、本願発明と引用発明1とを対比すると、両者は次の点で一致する。
(一致点)
「第1の平らな面を備える第1のバルブ部材と、
第1の平らな面に面してそれと接触する第2の平らな面を備え、異なる位置の間で第1のバルブ部材に対して変位可能である第2のバルブ部材とを備え、各バルブ部材が異なる液体チャネルを備え、
第2のバルブ部材が、異なるチャネルの少なくとも2つを位置の少なくとも1つで互いに接続するように構成されているバルブ・デバイス。」

そして、両者は、次の点で相違する。
(相違点3)
本願発明では、「前記第1および第2のバルブ部材はセラミック材料で作成され」るのに対して、
引用発明1では、ポートカラー及びスライド部材は固体のプラスチックで作成される点。

相違点3は、相違点1と同じであるから、相違点3に係る本願発明の発明特定事項は、前記「II.独立特許要件3-3.相違点の判断」において相違点1について検討したのと同様の理由で、引用発明1及び引用発明3に基いて、或いは引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明による効果も、引用発明1、引用発明3及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明1及び引用発明3に基いて、或いは引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用発明3に基いて、或いは引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明(本願発明)が特許を受けることができないものである以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-10 
結審通知日 2011-11-15 
審決日 2011-11-29 
出願番号 特願2004-525903(P2004-525903)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
P 1 8・ 575- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平瀬 知明高田 元樹  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 寺澤 忠司
関谷 一夫
発明の名称 液体を患者の体内に分配するための装置  
代理人 黒川 弘朗  
代理人 西山 修  
代理人 山川 政樹  
代理人 山川 茂樹  

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