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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E01F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E01F |
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管理番号 | 1255504 |
審判番号 | 不服2010-27421 |
総通号数 | 150 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-06-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-12-03 |
確定日 | 2012-04-11 |
事件の表示 | 特願2007-526236「特に落石保護又は辺縁保護用の保護ネット」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月22日国際公開、WO2005/120744、平成20年 1月24日国内公表、特表2008-501878〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2005年5月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年6月8日,スイス)を国際出願日とする出願であって,平成22年7月22日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年12月3日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると共に,同時に手続補正がなされた。 その後,平成23年4月8日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,同年7月19日付けで回答書が提出されたものである。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成22年12月3日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容・目的 平成22年12月3日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲について,補正前(平成22年7月8日付けの手続補正書参照。)の請求項1を,以下のように補正事項することを含むものである。 「【請求項1】 ワイヤ(22)から製造され、かつ三次元マットレス状構造を形成する、斜め編み(10)によって形成される特に落石保護又は辺縁保護用の保護ネットであって、 斜め編み(10)が、鋼でできた2本以上のワイヤ(22)又はワイヤストランドを組み込んだ、ワイヤストランド、ワイヤ束、ワイヤケーブル(11、12、13、14)等から編まれ、 ワイヤストランド、ワイヤケーブル、又はワイヤ束(11、12、13、14)等が、高張力鋼から少なくとも部分的に作られ、 前記高張力鋼は、1000?2200N/mm^(2)の範囲の公称強度を有することを特徴とする保護ネット。」 上記補正事項は,補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「高張力鋼」について「1000?2200N/mm^(2)の範囲の公称強度を有する」ものにと限定したものであるから,本件補正は,少なくとも,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。 そこで,本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているか,について以下に検討する。 2.独立特許要件違反(特許法第29条第2項違反) (1)引用刊行物 (1-1)刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に頒布された刊行物である,特開2000-190044号公報(以下,「刊行物1」という。)には,以下の記載がある(下線は当審付与。)。 (1a)「【請求項1】 金網における製網素材に、所要本数の針金を束ねて撚ったストランドを用いたことを特徴とする金網。」 (1b)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、オープンカット工法などにより構成した高速道路や各種施設などに面する傾斜した法面或いは崩壊のおそれのある急傾斜地などの斜面安定工法に用いる金網に関する。」 (1c)「【0006】 【発明が解決しようとする課題】上記斜面安定方法に用いる金網は、太い針金(番線)を用いて製網するので、落石などの崩壊にともなう金網に対する衝撃の吸収エネルギーが弱くて針金が切断(剪断)される。このため、大きな事故が発生する。 【0007】そこで、この発明は、衝撃吸収性にすぐれた金網を提供することにある。 【0008】 【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するために、この発明は、金網における製網素材に、所要本数の針金を束ねて撚ったストランドを用いた構成を採用する。」 (1d)「【0012】上記ストランド12を用いて製網した金網Aの網目は、図示の菱形に限定されず、亀甲などであってもよい。」 (1e)「【0016】 【発明の効果】以上のようにこの発明の金網は、所要本数の針金を撚ってストランドとし、このストランドを用いて金網を形成するので、製網機により製網が可能になると共に、一本の針金による金網よりも束ねた針金により強度が得られ、かつ衝撃の吸収性が極めて向上する。 【0017】このため、斜面安定工法の金網に用いても、落石などの崩壊による針金の剪断も回避することができる。」 (1f)図1には,網目が菱形となるように編まれた金網が記載されている。 これらの記載事項及び図面の記載によれば,刊行物1には,以下の発明が記載されているものと認められる。 「斜面安定工法に用いる網目が菱形となるように編まれた金網であって,製網素材に,所要本数の針金を束ねて撚ったストランドを用いた金網。」 (以下,「刊行物1記載の発明」という。) (1-2)刊行物2 原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に頒布された刊行物である,特開2002-88765号公報(以下,「刊行物2」という。)には,以下の記載がある(下線は当審付与。)。 (2a)「【請求項1】 礫遮蔽用または表面土層保護用の金網であって、耐食性ワイヤー(11,12,13,14)を編んで形成され、表面土上に取り付けられるか、スロープや同様の箇所にほぼ直立姿勢で固設される金網において、金網(10)のワイヤー(11,12,13,14)が強力鋼製であり、ワイヤーがそれら端部で2つ一組になってループ(11",12",13a,14a)によって互いに曲げやすく連結されていることを特徴とする金網。 【請求項2】(省略) 【請求項3】(省略) 【請求項4】 強力鋼製ワイヤーが1000から2200N/mm^(2)の範囲の呼び強度を有し、鋼製ワイヤーとして撚線またはバネ鋼ワイヤーを使用することを特徴とする、請求項1?3の1つに記載の金網。」 (2b)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、礫遮蔽用のまたは表面土層保護用の金網であって、耐食性ワイヤーを編んで作られ、地面に配置されるか、あるいはスロープもしくは同様の場所にほぼ直立姿勢で固設される金網に関する。」 (2c)「【0012】本発明によれば、金網10のワイヤー11、12、13及び14は強力鋼で製造されている。好ましくは、撚り合わせて撚線になされたワイヤーがこれら強力鋼ワイヤー11、12、13及び14用に使用される。ドイツ工業規格2078によれば、そのようなワイヤーは1000から2200N/mm^(2)の呼び強度を有しており、例えば1770N/mm^(2)のワイヤーである。しかしながら、ドイツ工業規格17223によるバネ鋼ワイヤーも使用可能である。ワイヤー太さは1mm?3mmの間にあることが好ましい。これは、必要な引っ張り力に依存する。 【0013】金網10は四角形の、斜行模様の網から形成されており、この網における個々の螺旋形の折曲ワイヤー11、12、13、14は、金網10の編み目17の形状と寸法を決定する2つの折曲部間の傾斜角α並びに長さLを有している。好ましくは、傾斜角αとして略30゜が選択される。各編み目17はそれぞれ菱形になっており、それにより編み目の幅は、例えば77×143mmになる。これによって、金網10は、土表面に配置され且つケーブル21によって張られ、長手方向範囲へ引っ張られても、それほど伸長しないという効果がもたらされる。更に、その結果、個々の編み目17は長細い開口を持つ菱形を形成し、このことによって土突出の可能性が少なくなるという効果が得られる。 【0014】ワイヤー11、12、13、14は側方端部においてループ11"、12"によって2つ一組で互いに曲げやすく連結されており、その場合ループ11"、12"はワイヤー自体を側方端部で折り曲げて形成されている。曲げてループにした後、更にワイヤーにその周囲に巻き付けたいくつかのループ19をもうけることが好ましく、これらループは、使用状態においてこれらループへ引っ張り荷重が掛かるため、ループが開放しないように十分に作用する。」 (2d)「【0018】図2によれば、強力鋼を使用することによって製造可能の金網10は3次元の、マットレス様構造を有している。そのために、個々のワイヤー11、12、13、14は螺旋形に曲げられ、次いで、曲げたワイヤーとこれからでき上がる金網10とが、断面で見て、略4角形状を形成するように、互いに編まれる。従って、ワイヤーは折曲部11´と直線部91とから成っている。この長細い4角形は、ワイヤー太さの数倍の厚さを有している。この結果、この金網10はハーネス状に形成され、これは図9に示す公知の金網のようにほぼ線状または帯状ではなく、3次元形状である。一方において、このことは、これらワイヤーがそれらの長手方向範囲に大きく緊張させて引き伸ばすことができるので、金網の弾性特性を増大することになり、また金網に大きな弾性を与えることになる。他方において、更に、土、例えば斜面を被覆する場合、この金網内にすえられた植生層や被覆上の噴霧の保持や安定化が、この3次元形状によって得られる。」 (2e)「【0029】図10および図11は、本発明による単線の強力鋼ワイヤー11で製作される金網10の製造作業を実施する装置60を示している。」 (2)補正発明と刊行物1記載の発明との対比 刊行物1記載の発明と補正発明とを対比すると,刊行物1記載の発明の「金網」は,崩壊のおそれのある急傾斜地などの斜面安定工法に用いるものであるから,補正発明の「(特に落石保護又は辺縁保護用の)保護ネット」に相当し,以下,同様に, 「針金」は,「ワイヤ」に, 「所要本数の針金を束ねて撚ったストランド」は,「2本以上のワイヤを組み込んだ,ワイヤストランド」に, 「網目が菱形となるように編まれた」は,「斜め編みによって形成される」に,相当する。 したがって,両者は,以下の点で一致している。 「ワイヤから製造され,斜め編みによって形成される特に落石保護又は辺縁保護用の保護ネットであって,斜め編みが,2本以上のワイヤを組み込んだ,ワイヤストランドから編まれている保護ネット。」 また,両者は,以下の点で相違している。 相違点1:斜め編みによって形成される保護ネットが,補正発明では,三次元マットレス状構造を形成しているのに対し,刊行物1記載の発明は,この様な構造のものに限定されていない点。 相違点2:ワイヤストランドが,補正発明は,1000?2200N/mm^(2)の範囲の公称強度を有する高張力鋼から少なくとも部分的に作られているのに対して,刊行物1記載の発明は,材質が限定されていない点。 (3)判断 ア 相違点1について検討すると,刊行物2には,補正発明の「特に落石保護又は辺縁保護用の保護ネット」に相当する「礫遮蔽用または表面土層保護用の金網」を,斜め編みによって形成される3次元マットレス構造とすることが記載され,このような構造により,ワイヤーを長手方向範囲に大きく緊張させて引き伸ばすことができ、金網に大きな弾性を与えることができることが記載されている(記載事項(2d)参照)。 そして,金網に大きな弾性を与えると,落石等による大きな衝撃を受け止めることができるようになることは明らかであるから,刊行物1記載の発明において,金網に大きな弾性を与えるために,刊行物2記載の金網の構造を採用し,相違点1に係る構成とすることは当業者が容易になしうることである。 イ 相違点2について検討すると,刊行物2には,保護ネット(金網)を,1000?2200N/mm^(2)の範囲の呼び強度を有する強力鋼製のワイヤーで形成することが記載され,図9,図10には,ワイヤーが単線のものが記載されているが,ワイヤーを撚線とすることも記載されている(記載事項(2a)の【請求項4】,(2c)参照)。 そして,刊行物1記載の発明は,一本の針金による金網よりも強度が得られかつ衝撃の吸収性を向上するように,所要本数の針金を束ねて撚ったストランドを用いるものであるから,刊行物1記載の発明の針金として,刊行物2記載の発明の1000?2200N/mm^(2)の範囲の強度を有する強力鋼製のものを採用し,相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到しうることである。 ウ なお,請求人は,審判請求書及び回答書において,「本願の優先日前の技術常識として、1000?2200N/mm^(2)という強度を持つ高張力鋼製のワイヤが容易に曲げることができず、曲げても元に戻ってしまう性質を鑑みれば、引用文献2(当審注:刊行物2)は高張力鋼からなる単線ワイヤから金網を製造することを開示するに留まり、引用文献1に記載されている複数の針金を撚り合わせたワイヤストランド等を、上記のような性質を有する高張力鋼から作ろうとすることには阻害要因が存在する」と主張している。 しかし,刊行物2には,上記のとおり,1000?2200N/mm^(2)という強度を持つワイヤーを用いること,撚線を使用した強力鋼製ワイヤーを曲げた螺旋状曲げワイヤーを編んで金網を形成することが記載されており,また,ワイヤー端部を巻き付けることも記載されており(記載事項(2b)の【0014】参照),さらに,ワイヤの曲げ易さは,ワイヤーの強度だけでなく,ワイヤーの太さによっても異なるものであって,1000?2200N/mm^(2)という強度を持つワイヤーが,すべて容易に曲げることができないものであるということはできない。 仮に,単線ではなく2本以上の場合に,1000?2200N/mm^(2)という強度を持つ高張力鋼製のワイヤを容易に曲げることができず,曲げても元に戻ってしまうというものであるとすると,このような性質を何らかの手段によって解決することが必要となるが,本願明細書には,これを解決するための方法は何ら記載されていない。 したがって,刊行物1記載の発明の針金として,刊行物2記載の発明の1000?2200N/mm^(2)の範囲の呼び強度を有する強力鋼製のワイヤーを採用することに,阻害要因が存在するとはいえない。 エ また,補正発明の作用効果は,刊行物1,2記載の発明から当業者が予測しうる程度のことである。 したがって,補正発明は,刊行物1,2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.補正の却下の決定のむすび 以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項に規定する要件を満たしていないものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって,補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明 1.本願発明 平成22年12月3日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし9に係る発明は,平成22年7月8日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,そのうち請求項1に係る発明は,以下のとおりである。 「【請求項1】 ワイヤ(22)から製造され、かつ三次元マットレス状構造を形成する、斜め編み(10)によって形成される特に落石保護又は辺縁保護用の保護ネットであって、斜め編み(10)が、鋼でできた2本以上のワイヤ(22)又はワイヤストランドを組み込んだ、ワイヤストランド、ワイヤ束、ワイヤケーブル(11、12、13、14)等から編まれ、 ワイヤストランド、ワイヤケーブル、又はワイヤ束(11、12、13、14)等が、高張力鋼から少なくとも部分的に作られることを特徴とする保護ネット。」 2.引用刊行物 刊行物1:特開2000-190044号公報 刊行物2:特開2002-88765号公報 原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に頒布された,上記刊行物1には,「第2 2.(1)(1-1)」に記載したとおりの発明が記載されているものと認める。 また,原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に頒布された,上記刊行物2には,「第2 2.(1)(1-2)」に記載したとおりの事項が記載されているものと認める。 3.判断 本願の請求項1に係る発明は,前記「第2」で検討した補正発明から,「高張力鋼」について特定した「1000?2200N/mm^(2)の範囲の公称強度を有する」との事項を省いたものである。 そうすると,本願発明を特定するために必要な事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する補正発明が,前記「第2 2.(3)」に記載したとおり,刊行物1,2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願の請求項1に係る発明も,同様の理由により,刊行物1,2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-10-26 |
結審通知日 | 2011-11-08 |
審決日 | 2011-11-22 |
出願番号 | 特願2007-526236(P2007-526236) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(E01F)
P 1 8・ 575- Z (E01F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 柳元 八大 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
中川 真一 仁科 雅弘 |
発明の名称 | 特に落石保護又は辺縁保護用の保護ネット |
代理人 | 西山 修 |
代理人 | 黒川 弘朗 |
代理人 | 山川 政樹 |
代理人 | 山川 茂樹 |