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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正しない G02B
審判 訂正 2項進歩性 訂正しない G02B
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正しない G02B
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない G02B
管理番号 1255563
審判番号 訂正2010-390118  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2010-11-26 
確定日 2012-04-05 
事件の表示 特許第4017273号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件審判請求の趣旨は、特許第4017273号(平成10年12月25日特許出願、平成19年9月28日設定登録)の願書に添付した明細書(以下「特許明細書」という。)を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを認める、との審決を求めるものであって、その訂正事項は以下のとおりである。(当審注:以下において、訂正箇所に下線を付す。)

(1)訂正事項1
明細書の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
透明基体の片面もしくは両面に、直接或いは他の層を介して、少なくとも樹脂マトリックス中にフィラーが分散されてなる粗面化層を有し、該フィラーの粒子径Dの粒度分布が、0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが60重量%以上、6.0<D≦10.0μmの範囲のものが30重量%未満、10<D≦15.0μmの範囲のものが5重量%以下、かつ、該樹脂マトリックスとフィラーの屈折率の差が0.10以下であることを特徴とする防眩材料。」
を、
「【請求項1】
透明基体の片面もしくは両面に、直接或いは他の層を介して、少なくとも樹脂マトリックス中にフィラーが分散されてなる粗面化層を有し、該フィラーの粒子径Dの粒度分布が、0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが60重量%以上、6.0<D≦10.0μmの範囲のものが30重量%未満、10<D≦15.0μmの範囲のものが5重量%以下、かつ、該樹脂マトリックスとフィラーの屈折率の差が0.05以下であることを特徴とする防眩材料。」(以下「訂正発明1」という。)
と訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の特許請求の範囲の請求項2の
「【請求項2】
透明基体の片面に、直接或いは他の層を介して、少なくとも樹脂マトリックス中にフィラーが分散されてなる粗面化層が設けられ、該フィラーの粒子径Dの粒度分布が、0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが60重量%以上、6.0<D≦10.0μmの範囲のものが30重量%未満、10<D≦15.0μmの範囲のものが5重量%以下であり、該透明基体の粗面化層とは反対面に、偏光基体を介して保護材を積層してなる構成を有し、前記樹脂マトリックスとフィラーの屈折率の差が0.10以下であることを特徴とする偏光フィルム。」
を、
「【請求項2】
透明基体の片面に、直接或いは他の層を介して、少なくとも樹脂マトリックス中にフィラーが分散されてなる粗面化層が設けられ、該フィラーの粒子径Dの粒度分布が、0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが60重量%以上、6.0<D≦10.0μmの範囲のものが30重量%未満、10<D≦15.0μmの範囲のものが5重量%以下であり、該透明基体の粗面化層とは反対面に、偏光基体を介して保護材を積層してなる構成を有し、前記樹脂マトリックスとフィラーの屈折率の差が0.05以下であることを特徴とする偏光フィルム。」(以下「訂正発明2」という。)
と訂正する

(3)訂正事項3
明細書の段落【0006】の
「【0006】
本発明の防眩材料は、透明基体の片面もしくは両面に、直接或は他の層を介して、少なくとも樹脂マトリックス中にフィラーが分散されてなる粗面化層を有し、該フィラーの粒子径Dの粒度分布が、0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが60重量%以上、6.0<D≦10.0μmの範囲のものが30重量%未満、10<D≦15.0μmの範囲のものが5重量%以下、該樹脂マトリックスとフィラーの屈折率の差が0.10以下であることを特徴とする。
また、本発明の偏光フィルムは、透明基体の片面に、直接或は他の層を介して、少なくとも樹脂マトリックス中にフィラーが分散されてなる粗面化層が設けられ、該フィラーの粒子径Dの粒度分布が、0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが60重量%以上、6.0<D≦10.0μmの範囲のものが30重量%未満、10<D≦15.0μmの範囲のものが5重量%以下であり、該透明基体の粗面化層とは反対面に、偏光基体を介して保護材を積層してなる構成を有し、前記樹脂マトリックスとフィラーの屈折率の差が0.10以下であることを特徴とする。」

「【0006】
本発明の防眩材料は、透明基体の片面もしくは両面に、直接或は他の層を介して、少なくとも樹脂マトリックス中にフィラーが分散されてなる粗面化層を有し、該フィラーの粒子径Dの粒度分布が、0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが60重量%以上、6.0<D≦10.0μmの範囲のものが30重量%未満、10<D≦15.0μmの範囲のものが5重量%以下、該樹脂マトリックスとフィラーの屈折率の差が0.05以下であることを特徴とする。
また、本発明の偏光フィルムは、透明基体の片面に、直接或は他の層を介して、少なくとも樹脂マトリックス中にフィラーが分散されてなる粗面化層が設けられ、該フィラーの粒子径Dの粒度分布が、0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが60重量%以上、6.0<D≦10.0μmの範囲のものが30重量%未満、10<D≦15.0μmの範囲のものが5重量%以下であり、該透明基体の粗面化層とは反対面に、偏光基体を介して保護材を積層してなる構成を有し、前記樹脂マトリックスとフィラーの屈折率の差が0.05以下であることを特徴とする。」
と訂正する。

第2 証拠方法
請求人は、訂正発明1,2が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであることの根拠方法として、次の甲第7-29号証を提示している。
甲第 7号証 特開昭60-227201号公報
甲第 8号証 大辞泉の「干渉」の項(但し、Web site「Yahoo!辞書」上のもの。)
甲第 9号証 中村典永,“液晶ディスプレイ用表面フィルムの開発”,日本液晶学会誌 液晶,2005,Vol.9,No.4,p.219-226
甲第10号証 木村佳宏 外2名,“1CP15 防眩処理偏光板”,第5回ポリマー材料フォーラム 講演要旨集,1996年11月28日、29日,千里ライフサイエンスセンター,p.103-104
甲第11号証 小柳修爾,“オプトロニクス 光技術用語辞典-先端科学用語から現場用語まで-”,株式会社オプトロニクス社,平成7年3月28日(第1版第2刷),p.248
甲第12号証 特開平5-341123号公報
甲第13号証 特開平2-97991号公報
甲第14号証 特開平10-62603号公報
甲第15号証 Web site【一般社団法人モアレ研究所 Moire Institute Inc.】ホームページの“【一般社団法人モアレ研究所 Moire Institute Inc.】モアレとは”の項(http://www.moire.or.jp/moire.html)
甲第16号証 特開平8-202275号公報
甲第17号証 ハーバート・L・ワイス著,浜田久光 外1名訳“COATING and LAMINATING MACHINES”加工技術研究会,昭和60年6月20日,p.160-199
甲第18号証 原崎勇次,“コーティング工学”,株式会社朝倉書店,昭和46年3月20日,p.253-277
甲第19号証 2010.10.22という日付とともに精密塗工事業部 製造G 品質保証T 大石和也の表記に「大石」の押印がなされている“リバースコーティング方式で作製したフィルムの表面状態の観察”という表題の書証
甲第20号証 近角聡信編“シグマベスト 理解しやすい物理IB・II”,株式会社文英堂,1995
甲第21号証 “速解 光サイエンス辞典”,株式会社オプトロニクス社,平成10年11月15日,p.58-61
甲第22号証 特開平10-111403号公報
甲第23号証 岡田知 外2名“ディスプレイのコーティング技術 PDP用光学フィルターについて”,株式会社テクノタイムズ社,月刊ディスプレイ,2003年11月号,p.50-56
甲第24号証 モアレ動画を収録したCD-R
甲第25号証 判例タイムズ第360号 p.148
甲第26号証 知財高裁平成22年7月15日判決(平成21年(行ケ)第10238号)
甲第27号証 特開平9-264834号公報
甲第28号証 “特許・実用新案 審査基準”,特許庁,第II部 第2章 新規性進歩性,p.18-20
甲第29号証 竹田稔監修“特許審査・審判の法理と課題”,社団法人発明協会,2002年2月5日,p.305-316

第3 訂正拒絶理由の概要
これに対し、当審が平成23年2月23日付けで通知した訂正拒絶理由の概要は、「訂正事項1および2はいずれも、特許法第126条第3項ならびに同第4項の規定に反しないものの、請求人の提示した証拠方法を参酌しても、本件特許出願前に頒布された刊行物である特開平10-264284号公報(以下「引用例1」という。)に記載された発明が解決すべき課題と、訂正発明1、2が解決すべき課題に何ら相違は認められず、訂正発明1,2はいずれも、引用例1に記載された発明、特開平6-18706号公報(以下「引用例2」という。)および特開平10-264322号公報(以下「引用例3」という。)に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第126条第5項の規定に適合しない。」というものである。

第4 当審の判断
上記訂正拒絶理由通知に対し、請求人は、平成23年3月28日付け意見書を提出し、引用例1に記載された発明と訂正発明1,2は、発明が解決すべき課題が相違し、訂正発明1,2は、引用例1ないし3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである旨主張するので、その主張を踏まえ、訂正発明1および2について、特許法第126条第5項の規定の適合性(独立特許要件充足性)について検討する。

1 本件特許出願前に頒布された刊行物と各刊行物の記載事項
(1)特開平10-264284号公報(引用例1)
(1a)「【請求項1】 透明基体の片面又は両面に粗面化層を設けた防眩材料において、HAZE値(JIS K7105)が3?30の範囲にあり、前記粗面化層が、少なくともエポキシ系化合物および光カチオン重合開始剤を含む紫外線硬化型樹脂と架橋アクリル樹脂ビーズとから形成されてなり、前記架橋アクリル樹脂ビーズが、粒子径0.5?6.0μmの範囲の粒子が60重量%以上、粒子径6.0μmより大きい粒子が20重量%未満の粒度分布を有することを特徴とする防眩材料。」
(1b)「【請求項5】 偏光基体の一面に、少なくともエポキシ系化合物および光カチオン重合開始剤を含む紫外線硬化型樹脂と、架橋アクリル樹脂ビーズとから形成された粗面化層を透明基体の片面に設けた第1の保護材を、その非粗面化面が偏光基体に接するように積層し、偏光基体の他面に第2の保護材を積層してなり、前記架橋アクリル樹脂ビーズが、粒子径0.5?6.0μmの範囲の粒子が60重量%以上、粒子径6.0μmより大きい粒子が20重量%未満の粒度分布を有し、かつ第1の保護材のHAZE値(JIS K7105)が3?30の範囲にあることを特徴とする偏光フィルム。」
(1c)「【0005】防眩性に関しては、従来、この種の防眩を実現するために、磨きガラスのように、光を散乱または拡散させて像をぼかす手法が一般的に行われている。通常、光を散乱または拡散させるためには、光の入射する基体面を粗面化させることが基本となっており、粗面化処理としては、サンドブラスト法やエンボス法等により基体表面を直接粗面化する方法、基体表面にフィラーを含有させた塗工層を設ける方法、および基体表面に海島構造による多孔質膜を形成する方法等が採用されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ディスプレイの解像度が向上するに伴い、粗面の凹凸の高さや間隔にも緻密化が要求されるようになってきた。画像の高精細化は、主に画像ドットの高密度化により達成されるが、上記凹凸の間隔が画像ドットのピッチより小さい場合には問題は生じないが、大きい場合には干渉によるギラツキが発生するという問題がある。防眩性が良好であり、ギラツキのない鮮明な画像を得るためには、上記凹凸の高さ及び間隔を小さくすると共に、バラツキがないようにコントロールしなければならない。
【0007】現在、基体表面にフィラーを含有させた塗工層を設ける方法は、フィラーの粒径により粗面の凹凸の大きさを比較的容易にコントロールできること、及び製造が容易であること等の利点があることから、好適に用いられている。塗工剤に使用する樹脂としては、透過性、耐熱性、耐磨耗性、耐薬品性等の諸性質に優れてたものが望ましいが、基体として耐熱性に乏しい高透明なプラスチックフィルムを用いる場合が多いため、紫外線硬化型樹脂が好んで使用されている。その例として、紫外線硬化型樹脂及びシリカ顔料を用いる方法が、特開平1-105738号公報および特開平5-162261号公報等に提案されている。
【0008】しかしながら、上記公報等に提案されている紫外線硬化型樹脂とシリカ顔料からなる粗面化層において、シリカ顔料の分散性は必ずしも十分とはいえない上に、紫外線硬化を行うまでの塗工層は、低粘度の液状態を呈しているため、塗布液を基体に塗布してから紫外線を照射するまでの間に、塗工層中のフィラーがお互いにくっつき、凝集(オレンジピール)するという問題を有していた。特に、塗工層表面に凹凸を緻密化させる目的でフィラーの含有量を増加させたり、フィラーを塗工層面から突出させる目的で溶剤等を用いて希釈する場合には、この現象が特に顕著であった。
【0009】また、これらの提案は、顔料として給油性が高いシリカ顔料を使用していることから、粗面化層は指紋等の油分を吸収しやすいために、汚れやすいという欠点を有していた。更に、この汚れはアルコール等の溶媒を染み込ませた布で拭いても取れにくい上に、拭き取った部分に布の繊維が付着したり、顔料が削れたりして、白くなるため、ディスプレイ用途では画像のコントラストが低下するという問題も有していた。
【0010】本発明は、従来技術における上記した実情に鑑みてなれたものである。すなわち、本発明の目的は、ディスプレイへの太陽光及び蛍光灯等の外部光の映り込みを防止することにより、優れた防眩特性を発揮し、かつ、ギラツキ等のない鮮明な画像及び高精細画像を得ることができ、更に優れた耐磨耗性、耐薬品性、耐汚染性を示す、ディスプレイ、特に、フルカラー液晶ディスプレイに好適な防眩材料を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記防眩材料を使用した良好な防眩性を有する偏光フィルムを提供することにある。」
(1d)「【0011】
【課題を解決するための手段】本発明の防眩材料は、透明基体の片面又は両面に粗面化層を設けた防眩材料において、HAZE値(JIS K7105)が3?30の範囲にあり、前記粗面化層が、少なくともエポキシ系化合物および光カチオン重合開始剤を含む紫外線硬化型樹脂と架橋アクリル樹脂ビーズとから形成されてなり、前記架橋アクリル樹脂ビーズが、粒子径0.5?6.0μmの範囲の粒子が60重量%以上、粒子径6.0μmより大きい粒子が20重量%未満の粒度分布を有することを特徴とする。」
(1e)「【0024】また、本発明における紫外線硬化型樹脂の透明性は高いほど好ましく、光線透過率(JIS C-6714)として、透明基体の場合と同様、80%以上、好ましくは90%以上のものが使用される。なお、防眩材料の透明性は、紫外線硬化型樹脂の屈折率にも影響されるが、本発明における紫外線硬化型樹脂の屈折率は、透明基体の屈折率以下であることが好ましい。」
(1f)「【0026】本発明において使用する架橋アクリル樹脂ビーズは、粒子径0.5?6.0μmの範囲の粒子が60重量%以上、粒子径6.0μmより大きい粒子が20重量%未満の粒度分布を有することが必要である。特に、粒子径0.5?6.0μmの範囲の粒子が80重量%以上で、6.0μmより大きい粒子が10重量%未満の粒度分布を有するものが好ましい。粒子径0.5?6.0μmの範囲の粒子が60重量%未満であったり、粒子径6.0μmより大きい粒子が20重量%以上である場合には、ディスプレイのギラツキが発生する。また、粒子径0.5?6.0μmの範囲の粒子が60重量%未満で、かつ、粒子径6.0μmを越える粒子が20重量%未満である場合には、ギラツキが発生すると共に、ディスプレイの防眩性が悪くなる。」
(1g)「【0041】
【実施例】本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、「部」は、すべて「重量部」を意味する。
実施例1
まず、架橋アクリル樹脂ビーズとトルエンの混合物をサンドミルにて30分間分散することによって得られた下記配合の分散液と、下記配合からなるベース塗料をディスパーにて15分間撹拌、混合して塗布液を得た。この塗布液を、膜厚80μm、透過率92%のトリアセチルセルロースからなる透明基体の片面上に、リバースコーティング方式によって塗布し、100℃で2分間乾燥した後、120W/cm集光型高圧水銀灯1灯を用いて、照射距離(ランプ中心から塗工面間での距離)10cm、処理速度(塗工面基体側の紫外線ランプに対する速度)5m/分で紫外線照射を行い、塗工膜を硬化させた。それにより、厚さ2.5μmの粗面化層を有するHAZE値16.5の防眩材料を得た。
【0042】
[分散液の配合]
・架橋アクリル樹脂ビーズ 9部
(商品名:MX150(架橋ポリメチルメタクリレート)、
粒子径1.5±0.5μm、綜研化学社製、
粒子径0.5?6.0μmの範囲が99重量%、
粒子径6.0μmより大きいものが1重量%未満)
・トルエン 210部
[ベース塗料の配合]
・アクリル系化合物 45部
(ジペンタエリスリトールトリアクリレート)
・エポキシ系化合物 45部
(商品名:セロキサイト2021、ダイセル化学工業社製)
・光カチオン重合開始剤 2部
【化3】


・イソプロピルアルコール 5部」
(1h)「【0043】実施例2
粗面化層を下記の分散液およびベース塗料を用いて形成した以外は、実施例1と同様にして、厚さ3.6μmの粗面化層を有するHAZE値22.0の防眩材料を得た。
[分散液の配合]
・架橋アクリル樹脂ビーズ 14部
(商品名:MX300(架橋ポリメチルメタクリレート)、
粒子径3.0±0.5μm、綜研化学社製、
粒子径0.5?6.0μmの範囲が99重量%、
粒子径6.0μmより大きいものが1重量%未満)
・トルエン 205部
[ベース塗料の配合]
・アクリル系化合物 45部
(トリペンタエリスリトールポリアクリレート)
・エポキシ系化合物 45部
(商品名:サイラキュアUVR-6110、ユニオンカーバイド社製)
・光カチオン重合開始剤 2部
(商品名:サイラキュアUVI-6990、ユニオンカーバイド社製)
・イソプロピルアルコール 5部」
(1i)「【0058】
【発明の効果】本発明の防眩材料は、透明基体の片面または両面に、少なくともエポキシ系化合物および光カチオン重合剤を含む紫外線(UV)硬化型樹脂と、所定の粒度分布を有する架橋アクリル樹脂ビーズとから形成された粗面化層を設けた層構成を有し、所定のHAZE値を有するから、良好な防眩性を示すと共に、CRTやLCD等の画像表示体に用いた場合、ギラツキがなく、鮮明で高精細な画像コントラストを発現することができる。また、本発明の防眩材料を使用して作製された偏光フィルムは、良好な防眩性を有し、ギラツキのない、優れた画像コントラストを示し、したがって、液晶パネル等の画像表示体として有用なものである。」

これらの記載事項からして、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「透明基体の片面又は両面に粗面化層を設けた防眩材料であって、HAZE値(JIS K7105)が3?30の範囲にあり、前記粗面化層が、少なくともエポキシ系化合物および光カチオン重合開始剤を含む紫外線硬化型樹脂と架橋アクリル樹脂ビーズとから形成されてなり、前記架橋アクリル樹脂ビーズが、粒子径0.5?6.0μmの範囲の粒子が60重量%以上、粒子径6.0μmより大きい粒子が20重量%未満の粒度分布を有する防眩材料、ならびに、前記粗面化層を前記透明基体の片面に設けた第1の保護材を、その非粗面化面が偏光基体に接するように積層し、前記偏光基体の他面に第2の保護材を積層してなる偏光フィルム。」

(2)特開平6-18706号公報(引用例2)
(2a)「【請求項1】 透明基板上に、屈折率1.40?1.60の樹脂ビーズと電離放射線硬化型樹脂組成物から本質的に構成される防眩層が形成されていることを特徴とする耐擦傷性防眩フィルム。」
(2b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ワープロ、コンピュータ、テレビ等の各種ディスプレイ等、特に液晶ディスプレイの表面に用いられる耐擦傷性防眩フィルム、偏光板、及びその製造方法に関する。」
(2c)「【0025】また電離放射線としては、紫外線、可視光線等の電磁波、電子線等の粒子線が用いられる。
樹脂ビーズ:前記電離放射線硬化型樹脂組成物には、防眩性を付与するために屈折率1.40?1.60の樹脂ビーズが混合される。樹脂ビーズの屈折率をこのような値に限定する理由は、電離放射線硬化型樹脂、特にアクリレート又はメタアクリレート系樹脂の屈折率は通常1.40?1.50であることから、電離放射線硬化型樹脂の屈折率にできるだけ近い屈折率を持つ樹脂ビーズを選択すると、塗膜の透明性が損なわれずに、しかも、防眩性を増すことができるからである。ところで、電離放射線硬化型樹脂の屈折率に近い屈折率を持つ樹脂ビーズを次の表1に示す。
【0026】
【表1】


【0027】これらの樹脂ビーズの粒径は、3?8μmのものが好適に用いられ、樹脂100重量部に対して2?10重量部、通常4重量部程度用いられる。この塗料にこのような樹脂ビーズを混入させると、塗料使用時には容器の底に沈澱した樹脂ビーズを攪拌して良く分散させる必要がある。」
(2d)「【0088】
【発明の効果】本発明は前記した構成を採用することにより、防眩性に優れると同時に透明性に優れ、さらに、解像度、コントラストが優れ、かつ表面硬度、耐溶剤性が良好で帯電防止された透明保護基板の製造方法、その製造方法で得られた透明保護基板、及びこの透明保護基板を用いた偏光板を提供することができる。」

(3)特開平10-264322号公報(引用例3)
(3a)「【請求項1】 透明プラスチックフィルムの少なくとも一方の面に、平均二次粒子径が1.5μm?2μmであると共に平均二次粒子径の標準偏差が0.2?0.7の微粒子及び電離放射線硬化型樹脂からなる組成物に電離放射線を照射し硬化させた硬化被膜層を設けてなることを特徴とするハードコートフィルム。」
(3b)「【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、ハードコートフィルムに関し、特にCRTディスプレイやフラットパネルディスプレイ(液晶表示体、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ等)の表面に用いる防眩フィルムとして適したハードコートフィルムに関する。」
(3c)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明者等は、微粒子を用いたハードコートフィルムの視認性に関して鋭意検討を行った結果、ハードコートフィルムを通して表示を見た場合、バックライトの光等が、該フィルム内の大きな粒子で大きく散乱したり、後方散乱する光の割合が増加するためにギラツキが発生し、これが視認性を悪化させるので、従来の如き、粒度分布に対して全く配慮していない通常のフィラー配合方式では、必然的に含有される大きな粒径の粒子によって視認性が悪化すること、及び、特に特定の透過鮮明度及び反射鮮明度を具備させることにより視認性を改善することができることを見出し、本発明に到達した。従って本発明の目的は、防眩性のみならず視認性にも優れたハードコートフィルムを提供することにある。」
(3d)「【0006】本発明で使用する微粒子は、平均二次粒子径が1.5μm?2μm、かつ平均二次粒子径の標準偏差が0.2?7であって、電離放射線硬化型樹脂に分散させることが出来るものであれば特に限定されるものではない。上記微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア等の無機微粒子の他、電離放射線硬化樹脂の透明性を損なわないように、電離放射線硬化型樹脂の屈折率に近い、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、PMMA樹脂等のポリマービーズも使用されるが、防眩性や解像性等の点からシリカ粒子が好ましい。上記微粒子は、公知の方法によって被膜層塗布液に混合・分散させることにより、容易に硬化被膜層に含有させることが出来る。」

2 訂正発明1について
(1)訂正発明1と引用発明の対比
訂正発明1と引用発明を対比する。
引用発明の「透明基体の片面又は両面に粗面化層を設けた防眩材料」は、訂正発明1の「透明基体の片面もしくは両面に、直接」「粗面化層を有」する「防眩材料」に相当する。また、引用発明の「少なくともエポキシ系化合物および光カチオン重合開始剤を含む紫外線硬化型樹脂」と「架橋アクリル樹脂ビーズ」が、それぞれ、訂正発明1の「樹脂マトリックス」と「フィラー」に相当することは明らかであって、技術常識からして、訂正発明1の架橋アクリル樹脂ビーズは、紫外線硬化型樹脂中に分散されていることは明らかである。
そうすると、両者は、
「透明基体の片面もしくは両面に、直接、少なくとも樹脂マトリックス中にフィラーが分散されてなる粗面化層を有し、該フィラーの粒子径Dの粒度分布が、0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが60重量%以上、である防眩材料。」という点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点a〉
フィラーの粒子径Dの粒度分布について、0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが60重量%以上であるという要件に加えて、
訂正発明1は、「6.0<D≦10.0μmの範囲のものが30重量%未満、10<D≦15.0μmの範囲のものが5重量%以下」としているのに対し、引用発明は「6.0μmより大きい粒子が20重量%未満」としている点。
〈相違点b〉
樹脂マトリックスとフィラーの屈折率について、
訂正発明1は、「樹脂マトリックスとフィラーの屈折率の差が0.05以下」としているのに対し、引用発明は、樹脂マトリックスとフィラーの屈折率の差に関する規定がない点。

(2)相違点の検討・判断
(2-1)訂正発明1が解決すべき課題
請求人は、訂正発明1が解決すべき課題は、本件訂正明細書の記載からして、ギラツキを防止するという従来の課題に加えて、更に干渉縞(モアレ)の発生を防止するというものであることを明確に読み取ることができる旨主張するから、最初に、訂正発明1が解決すべき課題について、本件訂正明細書の記載を参酌して検討した上で、上記各相違点について検討する。

ア 本件訂正明細書の記載
請求人が、訂正発明1が解決すべき課題に関する主張の根拠とする本件訂正明細書の記載(段落【0002】?【0004】および【0025】、【0052】)、ならびに、【発明が解決しようとする課題】の記載(段落【0005】)について検討するに、その記載は以下のとおりである。
「【0002】
【従来技術】 LCD、PDP、CRT、ELに代表される画像表示装置(以下、これを「ディスプレイ」という。)は、テレビやコンピューターを始めとして、様々な分野で繁用されており、目覚ましい発展を遂げている。最近、ディスプレイの開発は、画像の高精細化、高画質化、更には低消費電力化等へ努力が傾注されている。マン-マシンインターフェイスの重要な役割を担うこれらディスプレイは今後、マルチメディア時代の到来と共に一層の普及が予想され、特に、携帯電話、PHS、その他各種携帯端末用としての普及が著しく拡大するものと予測される。 これらディスプレイ表面には、外光の映り込みを防止するために、何らかの反射防止処理が施されている。例えば、LCDでは、ディスプレイ表面を粗面化し、光を散乱もしくは拡散させて像をボカス手法が一般的に行われている。この粗面化の方法としては、従来、サンドブラスト法やエンボス法等による方法や、フィィラーを含有させた塗工層を設ける方法、または海島構造による多孔質膜を形成する方法等により表面に凹凸を形成する方法が採用されている。
【0003】
ところで、表面に凹凸を形成したディスプレイ表面は、ディスプレイの高精細化、高画質化に伴い、上記粗面化層の凹凸ピッチとの関係で画像がぎらつくという問題を有する。このディスプレイの高精細化は、画素の高集積化によるが、前記凹凸の間隔がこの画素ピッチより大きい場合、干渉によるギラツキを発生させる。ギラツキを防止するためには、上記粗面化層の凹凸の高さや間隔を緻密化し、更に、凹凸が面全体で均一になるようにコントロールしなければならない。このような均一な粗面化層を形成するためには、前記の粗面化の方法のうちフィラーを含有させた塗工層を設ける方法に着目して、該フィラーの粒径及び含有量をコントロールする方法が提案されている。…(中略)…その例として、UV硬化型樹脂とシリカ顔料を構成要素とする特開平1-105738号や特開平5-162261号などが報告されている。
【0004】
しかしながら、UV硬化型樹脂とシリカ顔料からなる粗面化層は、塗料を基材に塗布してからUVを照射するまでの間、低粘度の液状態を呈しているため、粗面化層中のフィラー同士がくっつき合い、凝集(オレンジピール)するという問題を有していた。粗面化層表面の凹凸を緻密化するようフィラーの含有量を増加させたり、粗面化層の厚さをコントロールするために粗面化層の塗料を溶剤等で希釈する場合、特に顕著で、ディスプレイの高精細化と相まって、ギラツキも著しいものとなっていた。しかも、UV樹脂とシリカからなる粗面化層の表面ではシリカの凸の部分と樹脂の凹の部分で光の干渉が起きやすく、干渉縞の発生という問題を有するものであった。…(以下略)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来技術における上記した実情に鑑みてなされたもので、即ち、本発明の目的はディスプレイへの太陽光及び蛍光灯等の外部光の映り込みを防止した、優れた反射防止性や画像コントラストを低下させることなく、ギラツキ等のない鮮明な画像を得ることができる優れた防眩性を有し、かつ、優れた耐磨耗性、耐薬品性を示す、ディスプレイ、特に、フルカラー液晶ディスプレイに好適な防眩材料を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記防眩材料を使用した偏光フィルムを提供することにある。」
「【0025】
本発明においては上記の樹脂マトリックス中にかかる樹脂マトリックスと屈折率の差が小さいフィラーを含有させることで、表面を粗面化し、優れた防眩効果を持たせることができる。すなわちフィラーの屈折率と樹脂マトリックの屈折率は、どちらが大きくても良いが近いほど望ましい。そして、フィラーと透明マトリックスとの屈折率の差は0.10以下であることが必要であり、好ましくは0.05以下が良い。屈折率の差が0.10を越える場合は、内部散乱が大きくなり、透明性が損なわれ、ギラツキ(モアレ)も非常に目立ってくる。樹脂マトリックスとフィラーの屈折率は、上記の如くその差が0.10以下であれば特に限定されるものではないが、…(以下略)」
「【0052】
<画像ギラツキ>
前記防眩材料10を図3に示されるガラス基板33の上に粗面化層が上になるように重ね、防眩材料をゆっくり時計方向に360回転させる。ギラツキ(モアレ)がある場合、画面上に光のスジが発生するので、このスジの有無や程度を目視により評価した。ギラツキ(モアレ)が全くない場合を○、ギラツキがあるものを×とした。…(以下略)」

イ 本件訂正明細書の段落【0002】?【0005】の記載から把握できる技術的事項
上記段落【0002】?【0004】の記載からして、以下の技術的事項を把握することができる。
(a)凹凸の間隔が画素ピッチより大きい場合に発生する干渉によるギラツキを防止するためには、粗面化層の凹凸高さや間隔を緻密化し、更に、凹凸が面全体で均一になるようにコントロールする必要がある。
(b)均一な粗面化層を形成するための粗面化方法として、フィラーを含有させた塗工層を設ける方法において、該フィラーの粒径及び含有量をコントロールする方法が提案されている。
(c)その例として、UV硬化型樹脂とシリカ顔料からなる粗面化層を設ける方法が知られているが、塗料粘度が低いため、硬化までの間に粗面化層中のフィラー同士がくっつき合って凝集するという問題があり、凹凸の緻密化を図るためにフィラーの含有量を増加させたり、粗面化層の塗料を溶剤等で希釈する場合、その問題が顕著で、ディスプレイの高精細化と相まって、ギラツキが著しい。
(d)しかも、UV硬化型樹脂とシリカ顔料からなる粗面化層の表面では、シリカ顔料の凸の部分とUV硬化型樹脂の凹の部分で光の干渉が起きやすく、干渉縞の発生という問題がある。

ウ 本件訂正明細書の段落【0004】の記載の解釈
上記(a)ないし(d)の技術的事項からすると、本件訂正発明1が前提とする従来技術の問題点は、「凹凸の間隔が画素ピッチより大きい場合に発生する干渉によるギラツキ」であって、そのための従来公知の手法の1つである「UV硬化型樹脂とシリカ顔料からなる粗面化層を設ける方法」では、「凝集するという問題」によって、粗面化層の凹凸高さや間隔を緻密化し、更に、凹凸を面全体で均一にすることができず、依然としてギラツキが発生し、しかも、前記従来公知の手法を用いた「UV硬化型樹脂とシリカ顔料からなる粗面化層の表面では」、「シリカ顔料の凸の部分とUV硬化型樹脂の凹の部分で光の干渉が起きやすく、干渉縞の発生という問題がある。」と理解することができるから、上記(d)の技術的事項中の「光の干渉」、すなわち、本件訂正明細書の段落【0004】に記載された「光の干渉」は、「凝集によって、粗面化層の凹凸が面全体で均一とならず、凹凸の間隔が画素ピッチより大きくなった部分において発生する、粗面化層の凹部と凸部での光の干渉」と解するのが相当であって、同じく上記(d)の技術的事項中の「干渉縞」は、「凝集によって、粗面化層の凹凸が面全体で均一とならず、凹凸の間隔が画素ピッチより大きくなった部分において発生する、粗面化層の凹部と凸部での光の干渉」によって生じる「縞」、すなわち、「干渉による縞状のギラツキパターン」を意味していると解するのが相当である。

エ 本件訂正明細書の段落【0025】、【0052】の記載から把握できる技術的事項
上記段落【0025】および【0052】の記載からして、以下の技術的事項を把握することができる。
(e)フィラーと透明マトリックスとの屈折率の差は0.10以下、好ましくは0.05以下が良く、屈折率の差が0.10を越える場合は、内部散乱が大きくなって透明性が損なわれ、ギラツキ(モアレ)も非常に目立ってくる。
(f)画像ギラツキの評価に際しては、液晶パネル上で防眩材料をゆっくり時計方向に360度回転させ、画面上の光のスジの発生の有無や程度を目視評価し、ギラツキ(モアレ)の有無を評価した。

オ 本件訂正明細書の段落【0025】、【0052】の記載の解釈
上記(e)および(f)の技術的事項は、フィラーと透明マトリックスの屈折率の差による「ギラツキ(モアレ)」の顕現性、および、ギラツキの評価手法に関する技術的事項であって、発明の課題と作用効果が不即不離の関係にあるとしても、前記技術的事項が、直接、訂正発明1の解決すべき課題が「干渉縞(モアレ)の発生の防止」であることを意味するものではない。また、上記「ウ」で述べたように、訂正発明1が前提とする従来技術の問題点は「凹凸の間隔が画素ピッチより大きい場合に発生する干渉によるギラツキ」であり、段落【0004】に記載された「干渉縞」は、「干渉による縞状のギラツキパターン」を意味すると解されるから、段落【0025】および【0052】は、その「凹凸の間隔が画素ピッチより大きい場合に発生する干渉によるギラツキ」あるいは「干渉による縞状のギラツキパターン」は、フィラーと透明マトリックスとの屈折率の差が大きくなった場合には、透明性が損なわれる結果、透過光強度の低下によって相対的に顕著となって顕現化すること、および、当該干渉による縞状のギラツキパターンの発生の有無や程度を、観察角度を変化させて評価するために液晶パネル上で360度方向から目視評価したことを意味していると解するのが相当である。

カ 本件訂正明細書のその他の記載事項ならびに請求人の主張の検討
上記「ア」に摘記した本件訂正明細書の記載以外の記載、あるいは、本件訂正明細書の記載について、請求人が証拠方法として提出した甲各号証(上記「第2」参照)を参酌することによって把握できる技術的事項から、訂正発明1が解決すべき課題について、上記「ウ」および「オ」に述べた解釈以外の解釈をすることができて、請求人の主張する「干渉縞(モアレ)の発生の防止」という課題を導き出せるか否か検討する。
最初に、本件訂正明細書の上記「ア」に摘記した本件訂正明細書の記載以外の記載について検討すると、本件訂正明細書には、「干渉縞」、「モアレ」という用語は、上記「ア」に摘記した記載以外には存在しないことはもとより、画素ピッチと防眩フィルムの凹凸ピッチとの双方の規則的配列によって干渉縞やモアレが発生することについて、何ら記載もしくは示唆がない。
次に、請求人は、訂正発明1の課題の解釈について、本件訂正明細書の段落【0025】、【0052】の記載とともに、証拠方法として提示した甲第7ないし29号証を参酌しつつ、本件訂正明細書に記載されている「干渉」は広義の干渉を意味し、「ギラツキ」は、粗面化層の凸部に画素を透過した光が集光するレンズ作用により発生するものであって、「縞」をもって表現されるものではなく、当業者がディスプレイの視認性について「縞状」に生じる問題として想起するのは「モアレ」であって、当該モアレは種々の周期性パターンが重なることによって生じる問題としてよく知られていて、塗工方法の技術常識に照らせば、フィラー等の微粒子を含有させた粗面化層中のフィラーは規則配列するものといえ、その規則配列と画素の配列が重なり合って干渉縞(モアレ)の原因となることは明らかであるから、本件訂正明細書に記載されている「干渉縞」、「モアレ」は、ディスプレイ表面に均一に形成されている凹部と凸部とによる模様と画素による模様が重なりあって生じる干渉縞やモアレを意味する旨主張している。
そこで、請求人の前記主張について、以下に検討する。
請求人の提示した甲各号証には、概略、以下の事項が示されている。
(ア)投影型スクリーンに関し、ギラツキが無数の光点の集合であり、個々の光点は虹色に見え、観察者が眼を動かすにつれて動いて見える。(甲第7号証)
(イ)干渉、モアレの定義、モアレや光の干渉の発生原理。(甲第8,11,15,20,21号証)
(ウ)液晶表示装置では、画素を透過した光が凹凸状の防眩フィルムによってレンズ作用を受けてギラツキとして観察される。(甲第9号証)
(エ)透明樹脂に微粒子を混在させて薄膜塗工した防眩層におけるギラツキの発生条件、ならびに、その発生原因が透過光の拡散による画素毎の輝度ムラである。(甲第10号証)
(オ)紫外線硬化樹脂とフィラーからなる防眩機能層を液晶表示装置上に積層した場合にモアレ縞が発生する。(甲第12号証)
(カ)投写画像の画素配列とレンティキュラレンズの周期構造によってモアレが発生する。(甲第13号証)
(キ)導電性メッシュパターンとディスプレイ画面との干渉によりモアレが発生する。(甲第14、23号証)
(ク)微粒子塗布法ではローラやスキージにより光拡散微粒子は直線状に分布し、微粒子の散乱光と液晶基板の格子配線との干渉によりモアレが生じる。(甲第16号証)
(ケ)ローラ塗工装置、塗工方法に関する当業者の技術常識。(甲第17,18号証)
(コ)リバースロールコーターで作成した、アクリル系微粒子含有紫外線硬化樹脂フィルムの表面状態観察結果。(甲第19号証)
(サ)ギラツキは、フィラーによる乱視的局所散乱光の明欠陥の状況(各画素間での輝度ムラ)であること。(甲第22号証)
(シ)規則的配列の重なりによってモアレが生じることを示した動画。(甲第24号証)
(ス)出願後に頒布された刊行物を用いた出願当時の技術水準の認定の適法性。(甲第25号証)
(セ)容易想到性判断に際する追試実験結果の参酌について、発明の課題と「発明の効果」は不即不離の関係にある。(甲第26号証)
(ソ)二次粒子径100μm以下及び二次粒子径0.1μm以下の微粒二酸化珪素は、0.02?0.08μm及び0.01μm以下の一次粒子径を有する。(甲第27号証)
(タ)課題が異なり、有利な効果が異質である場合は、数値限定に臨界的意義を要しない。(甲第28号証)
(チ)実験事実として臨界性を呈することは、特殊なケースを除き稀。(甲第29号証)
しかしながら、液晶表示装置で観察されるギラツキの発生要因についての本件特許出願当時の技術常識が、画素を透過した光が凹凸状の防眩フィルムを透過する際に生じるレンズ作用であるということは、投写型スクリーンに関する甲第7号証、本件出願後に頒布された甲第9号証、光の拡散に基づくものであるとする甲第22号証の記載をもって、確認することはできないことに加えて、甲第7号証の記載は、反射光としてのギラツキは、「虹色」、すなわち、縞状に分光されて観察されること、見る角度によって見え方が異なることを示唆していて、反射光による「ギラツキ」は「縞状」として認識され得るものであって、観察する角度を変化させることによって評価すべきことを示唆するものとも言える。
そして、「モアレ」が、種々の周期性パターンの重なり合いによって観察されるものであるということ自体は技術常識であると認められるものの、仮に、規則的配列を有するディスプレイの画素や配線パターンと、ディスプレイ表面に配置される規則的配列を有する層の干渉によってモアレが発生すること、ならびに、フィラー等の微粒子を含有させた粗面化層中のフィラーはローラ塗工によって規則配列することが当業者の技術常識に属する事項であったとしても、「モアレ縞が発生するという問題」の指摘がある甲第12号証を含め、上記甲各号証には、フィラーを含有させた塗工層を設ける粗面化方法を採用した場合について、干渉縞やモアレの発生要因は、画素ピッチと防眩フィルムの凹凸ピッチとの双方の規則的配列によるものである、ということが本願出願当時の技術常識であることを推認させる記載を見いだすことはできない。
また、請求人が主張する解釈の根拠とする本件訂正明細書の段落【0025】ならびに【0052】の記載についてみても、それらの記載が、本件訂正明細書に記載された「干渉縞」や「モアレ」が、画素ピッチと防眩フィルムの凹凸ピッチとの双方の規則的配列によって発生する干渉縞やモアレを意味するものであるとする格別の根拠も見いだせない。(なお、請求人が矛盾すると主張している段落【0025】の屈折率の差に関する記載は、甲第9号証がギラツキの発生要因としている凹凸部のレンズ作用を前提するならば矛盾が生じるとも考えられるものの、当該レンズ作用によるギラツキの発生が本願出願当時の技術常識であることを確認できないこと、また、防眩材料を基板上で360回転させて評価を行うことが、画素ピッチと防眩フィルムの凹凸ピッチ双方の規則的配列によって発生する干渉縞やモアレを評価していると解せないことは、上記「オ」で既に述べたとおりである。)
そうすると、本件訂正明細書に記載された「干渉縞」や「モアレ」の発生要因が、ディスプレイ表面に規則的に形成されている凹部と凸部とによる模様と画素による模様が重なりあって生じる干渉によるものであると認識する合理的な根拠を、本件訂正明細書の上記「ア」に摘記した本件訂正明細書の記載以外の記載、ならびに、請求人の提出した甲各号証から見いだすことはできないから、当業者をもってしても、本件訂正明細書の記載をもって、画素ピッチと防眩フィルムの凹凸ピッチとの双方の規則的配列によって生じる干渉縞の発生を解消することが、訂正発明1が解決すべき課題であると把握することはできない。

キ 訂正発明1が解決すべき課題についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正明細書の記載からして、訂正発明1が解決すべき課題は、「凹凸の間隔が画素ピッチより大きい場合に発生する干渉によるギラツキ」あるいは「干渉による縞状のギラツキパターン」の解消と解するのが相当であることに加え、請求人の主張するような、画素ピッチと防眩フィルムの凹凸ピッチ双方の規則的配列によって生じる干渉縞の発生を解消することが、訂正発明1が解決すべき課題であると把握できる合理的な根拠は見いだせないから、訂正発明1が解決すべき課題は、「凹凸の間隔が画素ピッチより大きい場合に発生する干渉によるギラツキ」あるいは「干渉による縞状のギラツキパターン」の解消である。

ク 発明が解決すべき課題の異同について
引用例1の段落【0005】?【0008】、【0010】(上記「1(1)(1c)」参照)には、本件訂正明細書の段落【0004】の「しかも、UV樹脂とシリカからなる粗面化層の表面ではシリカの凸の部分と樹脂の凹の部分で光の干渉が起きやすく、干渉縞の発生という問題を有するものであった。」との記載を除いて、本件訂正明細書の段落【0002】?【0005】とほぼ同一の内容の記載がなされており、上述のとおり、本件訂正明細書の前記段落【0004】の記載中の「干渉縞」は、「粗面化層の面全体で均一でない凹凸によって生じている干渉によって生じる縞」、すなわち、「干渉による縞状のギラツキパターン」と解されるのであるから、引用例1に記載された発明が解決すべき課題と、訂正発明1が解決すべき課題に何ら差異はない。

(2-2)相違点aについて
訂正発明1の、フィラーの粒子径Dについての、「6.0<D≦10.0μmの範囲のものが30重量%未満、10<D≦15.0μmの範囲のものが5重量%以下」という発明特定事項は、6.0<D≦10.0μmの範囲、および、10<D≦15.0μmの範囲のフィラーそれぞれについて、30重量%未満、および、5重量%以下の任意の含有量で選択的に含み得ることを規定するにすぎないものであって、そのことは、本件訂正明細書に、実施例として、6.0<D≦10.0μm、および、10<D≦15.0μmの範囲のフィラーをまったく含まない(0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが100重量%)ケースについて記載されている(〈実施例2〉参照)ことからしても明らかであるし、逆に、D>15.0μmのフィラーの存在を排除するものでもない。
一方、引用発明は「6.0μmより大きい粒子が20重量%未満」と規定していることから、引用発明は、6.0μmより大きい粒子をまったく含まない(0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが100重量%)場合、ならびに、20重量%未満の範囲においてD>6.0μmの粒子を含む場合を包含するものである。
そうすると、相違点aのうち、D>6.0μmの範囲のものが20重量%未満である範囲においては、上記2つの場合のいずれにおいても、相違点aは実質的な相違点ではない。
また、本件訂正明細書には、フィラーの粒度分布について「0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが68重量%、6.0<D≦10.0μmの範囲ものが29重量%、10<D≦15.0μmの範囲のものが2重量%」の場合が実施例として記載されている(〈実施例1〉、〈実施例3〉参照)ものの、粒度分布を規定する際の粒子径の境界値として、10.0μm、あるいは、15.0μmを選択したことによる有利な作用効果や、技術的意義について何ら記載されていない。
そうすると、フィラーの粒子径Dの粒度分布が、0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが60重量%以上という必須要件を課しつつ、それ以外の残部のフィラーの粒子径を如何に配合するかは、解決すべき課題やその他の要求される性能を勘案しつつ、当業者が実験的に適宜選定し得るものであって、引用発明の「6.0μmより大きい粒子が20重量%未満」という粒度分布の要件に代えて、「6.0<D≦10.0μmの範囲のものが30重量%未満、10<D≦15.0μmの範囲のものが5重量%以下」と規定することに格別の創意を見出すことはできない。
そして、前述のとおり、本件訂正明細書には、6.0<D≦10.0μm、および、10<D≦15.0μmの範囲のフィラーをまったく含まないケースが実施例とされていることからしても、訂正発明1のフィラーの粒子径Dの粒度分布に関する「0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが60重量%以上、6.0<D≦10.0μmの範囲のものが30重量%未満、10<D≦15.0μmの範囲のものが5重量%以下」という発明特定事項の解釈をするにあたり、3つに区分された、それぞれの粒子径範囲内のフィラーを必須とすべき合理的な根拠を見出せない上、上記「(2-1)」で検討したとおり、引用発明が解決すべき課題と、訂正発明1が解決すべき課題に何ら差異はないのであるから、引用発明において、解決すべき課題やその他の要求される性能を勘案して、相違点aの事項を得ることは、当業者が容易に想到し得る事項である。

(2-3)相違点bについて
引用発明と同様な、樹脂マトリックス中にフィラーを分散してなる防眩層を有する防眩フィルムである、「透明基板上に樹脂ビーズと電離放射線硬化型樹脂組成物から構成される防眩層が形成されている耐擦傷性防眩フィルム」について記載した引用例2には、「前記電離放射線硬化型樹脂組成物には、防眩性を付与するために屈折率1.40?1.60の樹脂ビーズが混合される。」ことが記載され、前記屈折率の樹脂ビーズを選択する理由として、「電離放射線硬化型樹脂、特にアクリレート又はメタアクリレート系樹脂の屈折率は通常1.40?1.50であることから、電離放射線硬化型樹脂の屈折率にできるだけ近い屈折率を持つ樹脂ビーズを選択すると、塗膜の透明性が損なわれずに、しかも、防眩性を増すことができるからである。」と記載され、さらに、「これらの樹脂ビーズの粒径は、3?8μmのものが好適に用いられ」と記載されている(上記「1(2)(2c)」参照)。
ここで、引用例2に記載された「耐擦傷性防眩フィルム」の「樹脂ビーズ」と「電離放射線硬化型樹脂」が、訂正発明1の「防眩材料」の「フィラー」と「樹脂マトリックス」に相当することは明らかであるから、引用例2の上記記載からして、引用例2には、粒径3?8μmのフィラーが好適に用いられる防眩層において、樹脂マトリックスとフィラーの屈折率を、その差が高々0.20である、できるだけ近い屈折率とすることにより、防眩層の透明性を損なうことなく防眩性を増すことができる、という技術的事項が記載されているといえる。
また、同じく、引用発明と同様な、樹脂マトリックス中にフィラーを分散してなる被膜層を設けた防眩フィルムである、「透明プラスチックフィルムの少なくとも一方の面に」、「微粒子及び電離放射線硬化型樹脂からなる組成物に電離放射線を照射し硬化させた硬化被膜層を設けてなる」「ハードコートフィルム」について記載した引用例3には、「上記微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア等の無機微粒子の他、電離放射線硬化樹脂の透明性を損なわないように、電離放射線硬化型樹脂の屈折率に近い、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、PMMA樹脂等のポリマービーズも使用される」と記載されており(上記「1(3)(3d)」参照)、引用例3にも、防眩フィルムの透明性を損なわせないために、樹脂マトリックスと無機フィラーあるいは有機フィラーの屈折率を近接させるという技術的事項が記載されているということができる。
ここで、訂正発明1において、「樹脂マトリックスとフィラーの屈折率の差」を「0.05以下」とする意義について、本件訂正明細書には、「フィラーと透明マトリックスとの屈折率の差は0.10以下であることが必要であり、好ましくは0.05以下が良い。屈折率の差が0.10を越える場合は、内部散乱が大きくなり、透明性が損なわれ、ギラツキ(モアレ)も非常に目立ってくる。」と記載され(本件訂正明細書の段落【0025】参照)、透明性を損なわないようして、ギラツキ(モアレ)を目立たせないようにすることをその意義として揚げているものの、その差を「0.05以下」とする臨界的な技術的意義についての直接的な記載はなく、実施例と比較例の屈折率差を対比してみると、実施例1が0.05、実施例2が0.01、実施例3が0.04であるのに対し、比較例1が0.16、比較例2が0.20、比較例3が0.13であって、一応、「0.05」以上、以下の両ケースが示されているものの、実施例1と実施例3のフィラーの粒度分布は、比較例1?3のフィラーの粒度分布と異なっていて、フィラーの粒径が大きい場合には、屈折率差が同じでも光の散乱が大きくなることは光学的に明らかである(同趣旨について、引用例3について摘記した上記「1(3)(3c)」参照)し、同じ粒度分布である実施例2と比較例1?3を対比すると、両者の屈折率の差に大きな隔たりがあり、「0.05以下」を、透明性を損なうことなくギラツキ(モアレ)が目立たない、という作用効果を奏する臨界的な値として採用したとする合理的な根拠を見出すことができない。
加えて、防眩フィルムは、液晶パネル等の表示装置の前面に配して当該表示装置の見やすさを向上させるためのものであって、前記表示装置の表示内容は当該防眩フィルムを介して視認されることからして、当該防眩フィルムに透明性が要求されることは明らかである。
そして、上記「(2-1)」で検討したとおり、引用発明が解決すべき課題と、訂正発明1の解決すべき課題に何ら差異はない。
また、従来商品や従来技術より優れた商品や技術の開発を行うことは当業者が常に行っている開発作業であるし、引用例1には、引用発明の防眩材料を構成している紫外線硬化型樹脂に透明性が要求されていることも記載されている(上記「1(1)(1e)」参照)ことからして、引用発明の防眩材料において、透明性についての配慮を行うことは当業者が当然に行う事項である。
そうすると、引用発明の防眩材料において、防眩材料の透明性を損なわないようにするため、引用例2あるいは引用例3に記載された技術的事項を適用し、樹脂マトリックスとフィラーの屈折率としてできるだけ近い屈折率のものを採用することは当業者が容易になし得る事項であって、その採用に際して両者の屈折率差をどのような値とするかは、解決すべき課題やその他の要求される性能を勘案しつつ、当業者が、実験的に、また、引用例1等の公知文献に記載された実施例について、当業者の認識できる範囲での追試を行って適宜選定し得る事項である。
したがって、引用発明において、相違点bの事項を得ることは、引用例2および引用例3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到し得る事項である。

(2-4)相違点aおよびbによる相乗的作用効果について
訂正発明1において、「樹脂マトリックスとフィラーの屈折率の差」を「0.05以下」とする意義については、上記「(2-3)」で指摘した、本件訂正明細書の段落【0025】に記載があるにすぎないことに加え、本件訂正明細書に記載されている実施例はもとより、すべての比較例が、訂正発明1の粒度分布に関する特定事項を満たしており、本件訂正明細書において、相違点aおよびbによる相乗的作用効果は検証されていない。さらに、本件訂正明細書を精査しても、フィラーの粒度分布と屈折率の差を関連付け、その作用効果を論じた記載を見出すこともできない。
そして、上記「(2-1)」で検討したとおり、訂正発明1が解決すべき課題が、画素ピッチと防眩フィルムの凹凸ピッチ双方の規則的配列によって生じる干渉縞の発生を解消することにあるという合理的な根拠は見いだせず、引用発明が解決すべき課題と、訂正発明1の解決すべき課題に何ら差異はない。
そうすると、訂正発明1が、相違点aおよびbを兼ね備えることによって相乗的作用効果を生じるものであるという合理的な根拠を見出すこともできない。

(2-5)訂正発明1についての小括
以上のとおり、相違点a、bは、引用発明、引用例2および引用例3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到し得る事項であって、それら各相違点を採用したことによって、引用例1、引用例2および引用例3に記載された事項から予測できない格別顕著な効果が奏されるとも認められないから、訂正発明1は、引用例1に記載された発明、引用例2および引用例3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許出願の際独立して特許を受けることができず、特許法第126条第5項の規定に適合しない。

3 訂正発明2と引用発明の対比、検討・判断
引用発明の「粗面化層を前記透明基体の片面に設けた第1の保護材を、その非粗面化面が偏光基体に接するように積層し、前記偏光基体の他面に第2の保護材を積層してなる偏光フィルム」は、訂正発明2の「透明基体の片面に」「直接」「粗面化層が設けられ」、「該透明基体の粗面化層とは反対面に、偏光基体を介して保護材を積層してなる」「偏光フィルム」に相当することは明らかである。
そうすると、訂正発明2のその他の発明特定事項である「少なくとも樹脂マトリックス中にフィラーが分散されてなる粗面化層が設けられ、該フィラーの粒子径Dの粒度分布が、0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが60重量%以上、6.0<D≦10.0μmの範囲のものが30重量%未満、10<D≦15.0μmの範囲のものが5重量%以下であり」、「前記樹脂マトリックスとフィラーの屈折率の差が0.05以下である」という発明特定事項は、訂正発明1について検討した「少なくとも樹脂マトリックス中にフィラーが分散されてなる粗面化層を有し、該フィラーの粒子径Dの粒度分布が、0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが60重量%以上、6.0<D≦10.0μmの範囲のものが30重量%未満、10<D≦15.0μmの範囲のものが5重量%以下、かつ、該樹脂マトリックスとフィラーの屈折率の差が0.05以下である」と実質的に同一の事項であるから、訂正発明2も、訂正発明1と同様に、引用例1に記載された発明、引用例2および引用例3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、特許出願の際独立して特許を受けることができず、特許法第126条第5項の規定に適合しない。

第4 むすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法第126条第5項の規定に適合しない訂正事項を含むものである。
したがって、本件訂正は適法でないので、平成22年11月26日付け審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認めることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-12 
結審通知日 2011-04-14 
審決日 2011-04-26 
出願番号 特願平10-369478
審決分類 P 1 41・ 851- Z (G02B)
P 1 41・ 853- Z (G02B)
P 1 41・ 121- Z (G02B)
P 1 41・ 856- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 荒巻 慎哉  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 北川 清伸
伊藤 幸仙
登録日 2007-09-28 
登録番号 特許第4017273号(P4017273)
発明の名称 防眩材料及びそれを用いた偏光フィルム  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 竹田 稔  
代理人 末成 幹生  
代理人 田村 恭子  
代理人 片山 英二  
代理人 木村 耕太郎  
代理人 服部 誠  

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