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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C08F 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08F |
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管理番号 | 1255638 |
審判番号 | 不服2008-28049 |
総通号数 | 150 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-06-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-11-04 |
確定日 | 2012-04-18 |
事件の表示 | 特願2002-573822「高溶融強度ポリマーおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月26日国際公開、WO2002/74816、平成16年12月 9日国内公表、特表2004-536895〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成14年3月15日(優先権主張 2001年3月16日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、平成17年3月15日付けで手続補正書が提出され、平成20年1月17日付けで拒絶理由が通知され、同年4月21日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月4日に拒絶査定不服審判が請求され、同年12月1日に手続補正書が提出され、平成21年1月14日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年2月12日付けで前置報告がなされ、当審において平成23年6月6日付けで審尋がなされたが、回答書の提出はなかったものである。 第2.平成20年12月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成20年12月1日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正の内容 平成20年12月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成20年4月21日付けの手続補正書により補正された明細書における特許請求の範囲について、 「【請求項1】 (a)長鎖分枝を有する高分子量(HMW)成分;および、(b)長鎖分枝を有する低分子量(LMW)成分を含むポリマー組成物であって、前記組成物はバイモーダルであり、および、溶融強度(MS)が以下の式を満たすことで特徴づけられるポリマー組成物。 【数1】 [式中、xは12.5以上であり、yは3以上であり、そして、I_(2)は前記組成物のメルトインデックスであり、ここで、長鎖分枝のレベルは、0.02分枝/1000炭素原子以上である。] 【請求項2】 (a)長鎖分枝を有する高分子量(HMW)成分;および、(b)長鎖分枝を有する低分子量(LMW)成分を含むポリマー組成物であって、前記組成物はバイモーダルであり、および、溶融強度(MS)が以下の式を満たすことで特徴づけられる、ポリマー組成物。 【数2】 [式中、xは3以上であり、yは4.5以上であり、および、分子量分布は3より大きく、そして、I_(2)は前記組成物のメルトインデックスであり、ここで、長鎖分枝のレベルは、0.02分枝/1000炭素原子以上である。] 【請求項3】 xが12.5であり、yが4.5である、請求項1または2に記載の組成物。 【請求項4】 ^(2)g’_(LCB)-^(1)g’_(LCB)の値は0.22より小さく、ここで^(1)g’_(LCB)は、M_(w)が100,000である組成物のフラクションの長鎖分枝指数であり、および、^(2)g’_(LCB)は、M_(w)が500,000である組成物のフラクションの長鎖分枝指数である、請求項1に記載の組成物。 【請求項5】 前記組成物が3.0より大きい分子量分布を有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項6】 前記組成物が3.0より大きく12.0までの分子量分布を有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項7】 前記HMW成分が、1.5から4.0のM_(w)/M_(n)を有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項8】 前記LMW成分が、1.5から4.0のM_(w)/M_(n)を有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項9】 前記HMW成分が、300,000g/モルより大きいM_(w)を有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項10】 前記LMW成分が、200,000g/モルより小さいM_(w)を有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項11】 前記HMW成分が3.0より小さい分子量分布を有し、および、前記LMW成分が3.0より小さい分子量分布を有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項12】 前記HMW成分および前記LMW成分が、実質的に等しいコモノマー組込みを有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項13】 前記組成物が、10よりも大きい、HMW成分の分子量対LMW成分の分子量の比率、M_(W)^(H)/M_(W)^(L)を有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項14】 前記HMW成分が全組成物の重量に基づいて0%超から50%までを構成し、前記LMW成分が全組成物の重量に基づいて50%から100%未満までを構成する、請求項1に記載の組成物。 【請求項15】 前記HMW成分が全組成物の重量に基づいて2%超から5%までを構成し、前記LMW成分が全組成物の重量に基づいて95%から98%を構成する、請求項1に記載の組成物。 【請求項16】 ポリマー組成物がコモノマーとして1-ヘプテンを含有しない場合は、ペンチル分岐度が1,000個の全炭素数当り0.30ペンチル分岐より少なく; ポリマー組成物が1-ヘプテン・コモノマーを含有するが、1-ヘキセン・コモノマーを含有しない場合は、ブチル分岐度が1,000個の全炭素数当り0.6ブチル分岐より少なく; ポリマー組成物が1-ヘプテン・コモノマー及び1-ヘキセン・コモノマーを含有する場合は、エチル分岐度が1,000個の全炭素数当り0.6エチル分岐より少なく;又は ポリマー組成物が1-ヘプテン・コモノマー、1-ヘキセン・コモノマー及び1-ブテン・コモノマーを含有する場合は、プロピル分岐度が1,000個の全炭素数当り0.03プロピル分岐より少ない、前記請求項1または2記載のポリマー組成物。」 との記載を 「【請求項1】 (a)長鎖分枝を有する高分子量(HMW)成分;および、(b)長鎖分枝を有する低分子量(LMW)成分を含むポリマー組成物であって、 前記組成物はバイモーダルであり、溶融強度(MS)が以下の式を満たすことで特徴づけられ、 【数1】 [式中、xは3であり、yは4.5であり、そして、I_(2)は前記組成物のメルトインデックスである。] ここで、長鎖分枝の炭素原子数は、コモノマー中の炭素原子数より2つ少ないよりも少なくとも1つ多い鎖長であり、長鎖分枝のレベルは、0.02分枝/1000炭素原子以上であり、 前記HMW成分が300,000g/モルより大きいM_(w)を有し、前記LMW成分が200,000g/モルより小さいM_(w)を有し、 前記HMW成分が全組成物の重量に基づいて0%超から50%までを構成し、前記LMW成分が全組成物の重量に基づいて50%から100%未満までを構成する、ポリマー組成物。 【請求項2】 分子量分布は3より大きく、そして、メルトインデックスI_(2)は0.01から10.86g/10分の範囲内である、請求項1に記載のポリマー組成物。 【請求項3】 前記組成物が3.0より大きい分子量分布を有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項4】 前記組成物が3.0より大きく12.0までの分子量分布を有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項5】 前記HMW成分が、1.5から4.0のM_(w)/M_(n)を有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項6】 前記LMW成分が、1.5から4.0のM_(w)/M_(n)を有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項7】 前記HMW成分が3.0より小さい分子量分布を有し、および、前記LMW成分が3.0より小さい分子量分布を有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項8】 前記HMW成分および前記LMW成分が、実質的に等しいコモノマー組込みを有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項9】 前記組成物が、10よりも大きい、HMW成分の分子量対LMW成分の分子量の比率、M_(W)^(H)/M_(W)^(L)を有する、請求項1に記載の組成物。 【請求項10】 前記HMW成分が全組成物の重量に基づいて2%超から5%までを構成し、前記LMW成分が全組成物の重量に基づいて95%から98%を構成する、請求項1に記載の組成物。 【請求項11】 ポリマー組成物がコモノマーとして1-ヘプテンを含有しない場合は、ペンチル分岐度が1,000個の全炭素数当り0.30ペンチル分岐より少なく; ポリマー組成物が1-ヘプテン・コモノマーを含有するが、1-ヘキセン・コモノマーを含有しない場合は、ブチル分岐度が1,000個の全炭素数当り0.6ブチル分岐より少なく; ポリマー組成物が1-ヘプテン・コモノマー及び1-ヘキセン・コモノマーを含有する場合は、エチル分岐度が1,000個の全炭素数当り0.6エチル分岐より少なく;又は ポリマー組成物が1-ヘプテン・コモノマー、1-ヘキセン・コモノマー及び1-ブテン・コモノマーを含有する場合は、プロピル分岐度が1,000個の全炭素数当り0.03プロピル分岐より少ない、請求項1に記載のポリマー組成物。」 とする補正事項を含むものである。 (2)本件補正の目的の適否について 本件補正は、以下の補正事項を含むものである。 (イ)補正前の請求項1における「式中、xは12.5以上であり、yは3以上であり」から、補正後の請求項1における「式中、xは3であり、yは4.5であり」とする補正事項 補正事項(イ)は、【数1】におけるxの数値を補正前の「12.5以上」から、該「12.5以上」なる数値範囲から外れた「3」へと変更するものであって、補正前の請求項1において発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)を限定するものではない。 したがって、補正事項(イ)は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるとはいえず、さらに、補正事項(イ)は、請求項の削除、誤記の訂正、又は明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものにも該当しない。 よって、補正事項(イ)は、特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項をも目的とするものではない。 また、本件補正が、以下の補正事項 (ロ)補正前の請求項2において、「式中、xは3以上であり、yは4.5以上であり」から、補正後の請求項1における「式中、xは3であり、yは4.5であり」とし、補正前の請求項2における「分子量分布は3より大きく」を削除する補正事項 を含むものであると仮定してみても、補正後の請求項1は「分子量分布」を発明特定事項としておらず、「分子量分布は3より大きく」という範囲外であるものをも包含するものへと拡張するものであるといえ、補正前の請求項2において発明特定事項を限定するものではない。 よって、補正後の請求項1が、補正事項(ロ)を含む補正によるものであると仮定してみても、補正事項(ロ)は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとはいえず、さらに、請求項の削除、誤記の訂正、又は明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものにも該当しない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、補正事項(イ)又は(ロ)を含む特許請求の範囲の補正は、請求項の削除を目的とする補正、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正、誤記の訂正を目的とする補正、明りょうでない記載の釈明を目的とする補正、のいずれにも該当するものではないから、補正事項(イ)又は(ロ)を含む本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本件審判請求について 3-1.本願発明 平成20年12月1日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願請求項1?16に係る発明は、平成20年4月21日付けの手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】 (a)長鎖分枝を有する高分子量(HMW)成分;および、(b)長鎖分枝を有する低分子量(LMW)成分を含むポリマー組成物であって、前記組成物はバイモーダルであり、および、溶融強度(MS)が以下の式を満たすことで特徴づけられるポリマー組成物。 【数1】 [式中、xは12.5以上であり、yは3以上であり、そして、I_(2)は前記組成物のメルトインデックスであり、ここで、長鎖分枝のレベルは、0.02分枝/1000炭素原子以上である。]」 3-2.原査定における拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由とされた、平成20年1月17日付け拒絶理由通知書に記載した理由3は、次のとおりである。 「3.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 …… 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) …… (理由2,3について) …… (2) 請求項1?25では、ポリマーの構造が特定されていないが、発明の詳細な説明で具体的に製造例が開示されているのはポリエチレン及びエチレン/1-オクテンインターポリマーのみであり、これ以外のポリマー、例えばポリプロピレンやポリ塩化ビニル等であって、請求項1?25の条件を満足するものは具体的にどのようにすれば製造できるのか明らかでない。 したがって、……、請求項1?25は発明の詳細な説明に発明として記載していない範囲についてまで特許を請求しようとするものである。」 3-3.当審の判断 (1)本願明細書の発明の詳細な説明の記載事項 本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がされている。 [摘示ア] 「これらの理由から、固体状態の特性がメタロセン触媒ポリマーに遜色なく、LDPEと同様ないし良好な溶融加工特性(すなわち高溶融強度)を有するポリマー、および、そのポリマーを製造できる重合プロセスが必要とされてきた。」(段落【0007】) [摘示イ] 「本発明のポリマー組成物は、様々な方法で製造が可能である。所望の特性を有する注文製造のポリマーは、本明細書に記載の新規な方法によって、1つより多い触媒を用いて製造されたポリマーの、高分子量成分中と低分子量成分中との間で長鎖分枝の分布および性質を制御することにより、製造可能である。例えば、適当なプロセスは、 (a)1つ以上のオレフィン性モノマー類を、少なくとも高分子量(HMW)触媒および少なくとも低分子量触媒(LMW)の存在下で、重合反応器システム中で接触させ、および、(b)前記1つ以上のオレフィン性モノマー類の、前記重合反応器システム中での重合を実行し、オレフィンポリマーを得る、ことを含み、……。」(段落【0058】) [摘示ウ] 「本明細書に記載のプロセスは、エチレン/プロピレン、エチレン/1-ブテン、……、および、エチレン/1?オクテンコポリマー類、アイソタクチックポリプロピレン/1-ブテン、……、エチレン、プロピレン、および、非共役ジエンのターポリマー、すなわちEPDM、ならびに、エチレン、プロピレン、ブチレン、スチレンなどのホモポリマーを含む、しかし、これらに限定されないどんなオレフィンポリマー類の製造にも使用可能である。 本明細書中で用いるオレフィン類は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む、不飽和炭化水素ベースの化合物の一族を指す。触媒類の選択によって、本発明の実施態様としては、どんなオレフィンを用いることもできる。好適には、適切なオレフィン類は、ビニル不飽和を含むC_(2)?_(20)脂肪族および芳香族化合物に加えて環状化合物、例えばシクロブテン、シクロペンテン、ジシクロペンタジエン、および、5位および6位がC_(1)?_(20)ヒドロカルビル基またはシクロヒドロカルビル基で置換されているノルボルネンを含む、しかしこれらに限定されない、ノルボルネン、である。また、上記オレフィン類の混合物、および、上記オレフィン類とC_(4)?_(40)ジオレフィン化合物の混合物も含まれる。 オレフィンモノマー類の例としては、これらに限定されるものではないが、エチレン、プロピレン、……、4-ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサン、ノルボルナジエン、エチリデンノルボルネン、シクロペンテン、シクロヘキセン、ジシクロペンタジエン、シクロオクテン、および、1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、1,9-デカジエンを含み、しかしそれらに限定されない、C_(4)?_(40)ジエン類、他のC_(4)?_(40)オレフィン類などを挙げることができる。」(段落【0059】-【0061】) [摘示エ] 「触媒 本発明の実施態様においては、1つ以上のモノマー類を共重合し、インターポリマーまたはホモポリマーを製造する能力を有する触媒のいずれを用いてもよい。ある実施態様においては、好適には、分子量能力および/またはコモノマー組込み能力のような、追加の選択基準を満たすべきである。適切な触媒類は、これらに限定されるものではないが、シングルサイト触媒類(メタロセン触媒類および幾何拘束性触媒類の両方)、マルチサイト触媒(チーグラー・ナッタ触媒類)、および、これらの変形物を含む。これらは、公知、および、現時点では未知の、オレフィン重合用触媒類のいずれをも含む。本明細書で用いる「触媒」の語は、活性化共触媒を伴い使用され、触媒システムを形成する、金属含有化合物を指す。本明細書で使用される触媒は、共触媒または活性化方法が不在の場合、通常は触媒不活性である。しかし、全ての適切な触媒が、共触媒無しでは触媒不活性であり、よって、活性化を有するわけではない。 適切な種類の触媒類の一つは、……に開示されている幾何拘束性触媒類であり、……。他の適切な種類の触媒類は、……に開示されているようなメタロセン触媒類であり、……。幾何拘束性触媒類は、メタロセン触媒類であると考えてもよく、両方は場合によりシングルサイト触媒類として先行文献中に言及されていることに留意しなければならない。」(段落【0078】-【0079】) [摘示オ] 「一般的に、この重合は従来のチーグラー・ナッタまたはカミンスキー・シン型重合反応で公知の条件、すなわち-50から250℃、好適には30から200℃の温度、および、大気圧から10,000気圧の圧力下で達成可能である。所望ならば、懸濁、溶液、スラリー、気相、固体状態の粉末重合、または、他のプロセス条件を用いてもよい。……ほとんどの重合反応においては、用いられる触媒:重合性化合物のモル比は、好適には約10^(-12):1から10^(-1):1、最も好適には10^(-9):1から10^(-5):1である。」(段落【0125】) [摘示カ] 「本明細書に記載の新規プロセスにおいて、ポリマー特性は、プロセス条件を調整することにより、目的に合わせることが可能である。プロセス条件とは、一般的に、製造されるポリマーの分子量または分枝に影響する、温度、圧力、モノマー含有量(コモノマー濃度を含む)、触媒濃度、共触媒濃度、活性剤濃度、などを指す。一般的には、エチレンベースのポリマー類については、長鎖分枝の量は、エチレンの濃度の低下に伴い、増加する。よって、特に溶液重合においては、長鎖分枝の量は、エチレン濃度、反応器温度、および、ポリマー濃度を調整することにより、調節可能である。一般的に、反応器温度が高いほど、不飽和末端基を有するポリマー分子のレベルが高くなる。比較的大きいパーセンテージのビニル端末基を生成する触媒類を選択し、比較的高いコモノマー組込み能力(すなわち、低r_(1))を有する触媒類を選択し、比較的高い反応器温度で低エチレンおよびコモノマー濃度、および、高ポリマー濃度で操作することにより、長鎖分枝を増加可能である。触媒の選択を含むプロセス条件を適切に選択することにより、注文通りの特性を有するポリマー類を製造することが可能である。溶液重合プロセス、特に、連続溶液重合においては、定常状態における好適なエチレン濃度の範囲は、全反応器内容物の約0.25重量%から約5重量%であり、好適なポリマー濃度の範囲は、重量基準で反応器内容物の約10%から、約45%以上である。」(段落【0134】) [摘示キ] 「実施例1:触媒A及びBを用いるエチレン重合 上述の一般的な連続溶液重合手順を用いて、エチレン及びイソパー-E溶媒を、それぞれ、約4.50lbs/時及び26.50lbs/時の速度でリアクターに供給した。その温度を約140℃に維持し、飽和させた。実施例1のポリマーは、上述の一般的な手順に従って、触媒濃度を1.2ppmにし、触媒Aと触媒Bの比を0.34にし、22.8ppmのアルメエニウムボレートをもたらし、そして、4.3ppmのAlをもたらすように触媒Aと触媒B、アルメエニウムボレート、及びMMAO-3Aをリアクターへ供給することにより調製された。実施例2のポリマーは、上述の一般的な手順に従って、触媒濃度を0.60ppmにし、触媒Aと触媒Bの比を0.33にし、7.6ppmのアルメエニウムボレートをもたらし、そして、4.3ppmのAlをもたらすように触媒Aと触媒B、アルメエニウムボレート、及びMMAO-3Aをリアクターへ供給することにより調製された。…… 実施例2-11:触媒A及びBを用いるエチレン重合 実施例2-9では、上で説明されている連続溶液重合のための一般的な手順を繰り返した。…… 実施例11-13:触媒A及びBを用いるエチレン/1-オクテンインターポリマー エチレン/1-オクテンインターポリマーは、上述の一般的な連続溶液手順を用いて調製された。エチレン、1-オクテン、及びイソパー-E溶媒を、それぞれ、約4.50lbs/時、0.70lbs/時、及び30.20lbs/時の速度でリアクターに供給した。温度を約140℃に維持し、飽和させた。実施例3及び4は、上述の一般的な手順に従って、触媒濃度を2.36ppmにし、触媒Aと触媒Bの比を0.44にし、53.2ppmのアルメエニウムボレートをもたらし、そして、8.6ppmのAlをもたらすように触媒Aと触媒B、アルメエニウムボレート、及びMMAO-3Aをリアクターへ供給することにより調製された。 …… 実施例1-13からのポリマーを数多くの技術により特徴付けした。表VIIは、この研究で得られた実施例10-13のポリマーの物理的特性をまとめたものである。また、表VIIには、比較のため、ザ・ダウ・ケミカル社(The Dow Chemical Company)から入手可能な商業的フリーラジカルLDPE樹脂であるLDPE 682I及びLDPE 170Aに対するデータも含まれている。 【表7】 …… 実施例14-19:エチレンの5ガロン連続重合 上で説明されているエチレンの1ガロン連続重合のための一般的な手順を、もっと大きな5ガロン連続重合リアクターに適用した。 …… 結果として得られたそれらのポリマーの溶融強度及びメルトインデックスが測定され、また、表VIIIにも報告されている。 【表8】 」(段落【0196】-【0207】) (2)特許法第36条第6項第1号に規定する要件についての検討 特許法第36条第6項第1号は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と定めている。これは、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合には、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないことを意味するものである。 そこで、この点について以下に検討する。 (2-1)本願発明の課題 本願発明は、溶融強度(MS)が数1で示される式を満たし、特定レベルの長鎖分枝を有する、長鎖分枝を有する高分子量(HMW)成分及び長鎖分枝を有する低分子量(LMW)成分を含むポリマー組成物であって、「固体状態の特性がメタロセン触媒ポリマーに遜色なく、LDPEと同様ないし良好な溶融加工特性(すなわち高溶融強度)を有するポリマー」を提供することを発明が解決しようとする課題とするものであると認められる(摘示ア)が、該ポリマー組成物を構成するポリマー(以下、「ポリマー事項」という。)の種類については何ら規定・限定されないものである。 (2-2)本願明細書の実施例におけるポリマー事項に関する記載 ポリマー事項として本願明細書の発明の詳細な説明において具体的に記載されているものは、実施例1-19の、触媒A及びBを用いて製造されたポリエチレン、並びに、触媒A及びBを用いて製造されたエチレン/1-オクテンインターポリマーのみである(摘示キ)。そして、これらのうちメルトインデックス(I_(2))及び溶融強度の数値が示された実施例1-4及び14-19について、数1における右辺が最小となるx=12.5,y=3である場合について計算すると、実施例1-4、14及び15については数1の関係を満たしており、実施例16-19については数1の関係を満たしていない。 また、実施例1-19で製造されたポリエチレン及びエチレン/1-オクテンインターポリマーの長鎖分枝のレベルについては記載がない。 (2-3)本願明細書の実施例以外の発明の詳細な説明におけるポリマー事項に関する記載 本願明細書の実施例以外の発明の詳細な説明には、オレフィンポリマーを製造する方法や用いる触媒等について一般的記載がなされているのみであって(摘示イ?カ)、それぞれのオレフィンポリマーにおける溶融強度とメルトインデックスの関係や長鎖分枝の数について説明は一切なされていない。また、オレフィンポリマー以外のポリマーについての記載は全くない。 (2-4)検討 上記第3.3-3.(2)(2-2)において述べたように、具体的なポリマー事項として、実施例1-4、14及び15においては、数1の関係を満たすポリエチレン及びエチレン/1-オクテンインターポリマーが記載されており(摘示キ)、これらが特定レベルの長鎖分枝を有することが自明であるとしても、実施例において発明の課題を解決できるものとして具体的に記載されているのはこのような特定の化学構造を有するポリマーのみであるといえる。 そして、ポリマー組成物において、溶融強度の値、メルトインデックスの値及びそれらの数値間の関係のような固体状態の特性や溶融加工特性は、その分枝の程度や分子量、分子量分布によってのみ定まるものでなく、該組成物を構成するポリマー自体の主鎖の化学構造(すなわち、ポリマーの種類)にも強く依存するものであることが明らかである点を考慮すると、エチレン/α-オレフィンインターポリマーであれば、上記ポリエチレン及びエチレン/1-オクテンインターポリマーと同等の物性が得られることであろうことまでは理解することができる。 しかしながら、ポリマー事項のうち、上記ポリエチレン及びエチレン/α-オレフィンインターポリマーの2種以外のポリオレフィンについては、スチレンのホモポリマーやシクロブテン、シクロペンテン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン等の環状化合物の重合体、更にはジエン類の重合体をも含むものであって(摘示ウ)、そのようなポリエチレン及びエチレン/α-オレフィンインターポリマーと著しく主鎖の化学構造の異なるポリマーについては、溶融強度とメルトインデックスの傾向が異なるであろうことは予測し得るものの、どのような触媒を用い、どの程度の分子量、分子量分布とし、どの程度の分枝構造を導入したものが、どの程度の溶融強度及びメルトインデックスを有するものとなり、かつ、溶融強度及びメルトインデックスがどのような関係となるのかは全く予測することができない。 ましてや、ポリマー事項はポリオレフィンにすら限定されていないのであるから、ポリエステルやポリアミドのような炭素-炭素二重結合が関与しない重縮合反応により製造される重縮合系熱可塑性樹脂、更には、エポキシ樹脂等のような熱硬化性樹脂までをも包含しており、本願出願時の技術常識を考慮するとこのようなポリマーは実施例に記載された上記ポリエチレン及びエチレン/1-オクテンインターポリマーとは溶融強度、メルトインデックス及びそれらの関係において著しく異なることが明らかであって、これらが同等に機能する成分であるとは到底認めることができず、これに基づいて当業者が、そのようなポリマーすら包含するポリマー事項にまで拡張ないし一般化できるとはいえない。 また、上記第3.3-3.(2)(2-3)において述べたように、本願明細書の実施例以外の発明の詳細な説明の記載をみても、この拡張ないし一般化を支援する記載はなされていない。 このように、ポリマー事項については、本願出願時の技術常識を考慮しても、当業者が、発明の課題を解決できる範囲を、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものから拡張ないし一般化できるとはいえないので、ポリマー事項を発明を特定するために必要な事項として備える本願発明についても、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものから拡張ないし一般化できるとはいえない。 よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものとは認められないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第4.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由3は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-11-16 |
結審通知日 | 2011-11-22 |
審決日 | 2011-12-05 |
出願番号 | 特願2002-573822(P2002-573822) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(C08F)
P 1 8・ 572- Z (C08F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小出 直也 |
特許庁審判長 |
小林 均 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 藤本 保 |
発明の名称 | 高溶融強度ポリマーおよびその製造方法 |
代理人 | 鈴木 康仁 |
代理人 | 大森 規雄 |
代理人 | 片山 英二 |
代理人 | 井口 司 |
代理人 | 小林 浩 |