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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1255654
審判番号 不服2010-892  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-15 
確定日 2012-04-18 
事件の表示 特願2006-540518「リチウムイオンまたはリチウムポリマーのバッテリをバランス充電するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月16日国際公開、WO2005/055358、平成19年 5月24日国内公表、特表2007-513594〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2004年11月18日(パリ条約による優先権主張2003年11月20日、フランス)を国際出願日とする出願であって、平成21年9月9日付けで拒絶査定がなされ、平成22年1月15日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると共に、同日付けで手続補正がなされ、さらに、平成23年2月10日付けで当審の拒絶の理由が通知され、同年8月12日に手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年8月12日付け手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲、及び、図面によれば、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「n≧2であり、n個のセルが、リチウムイオンまたはリチウムポリマーのバッテリを構成し、直列に結合され、各セルが、一つまたは並列に搭載されたいくつかの要素から構成される、n個のセルのバランス充電のための方法にして、
バッテリ(2)の充電動作の開始から、この動作の過程全体にわたって、ターミナルで電圧を測定することにより決定される様々なセル(1)の充電レベルを連続的に監視し、前記充電レベルの前記監視に応じて、セル(1)すべてに均等に電気供給を実施し、および、それらの充電の電流レベルに応じて差異をつけられた方法で、それぞれ結合される分流回路(4)の接続により充電電流の全部または一部を分流しながら前記セルに電気供給することによって前記セル(1)の前記充電レベルのバランス化を実施することを含む方法であって、該方法が、
バッテリのセル(1)毎に逐次的な方法で順次に、バッテリ(2)の全充電時間のわずかな部分の間、当該セル(1)の充電レベルを新しく評価することと、その後に、その充電レベルに応じて、バッテリの他のセル(1)の充電レベルすべてに対して、均等に、または差異をつけて電気供給することとを含んだシーケンスを起動することを含み、これが充電動作全体にわたる繰り返しサイクルによって実施され、
充電がもっとも進んだセルまたは複数のセルの電流の分流が、分流回路(4)によって、実施され、
分流回路(4)のそれぞれが、前記セル(1)の1つと並列に搭載されて結合され、
前記回路(4)がそれぞれ、スイッチング部(5)と、場合によっては、調整可能を所望ならたとえば電気的抵抗など、エネルギーを消散させるための少なくとも1つの構成要素(6)とを集積し、
より正確には、逐次的なバランス化による充電が、デジタル処理ユニット(3)の管理下において、
a)バッテリ(2)のセル(1)すべてを、それらのターミナルにおける電圧を測定することによって、逐一精査する動作であって、この測定が、分流回路(4)の接続なしで実施される、精査する動作と、
b)充電がもっとも遅れたセル(1)を検出する動作と、
c)最小に充電された、またはもっとも遅れたセル(1)に対し、容量差の所定の閾値、たとえば10mVの電圧差(dVs)に相当する値より高く過充電されたセル(1)を検出する動作と、
d)閾値より高く過充電されたことを検出された各セル(1)を対応するバランス化抵抗(6)に個々に接続し、分流回路(4)に充電電流の少なくとも一部を分流し、所定の連続した期間、たとえば2秒間、当該セル(1)のそれぞれへの充電電流が、たとえば約10%だけ減少するようにさせる動作と、
e)前記所定の連続した期間が経過した後、セル(1)すべての分流回路(4)を切り離す動作と、
f)セル(1)の電圧の安定化のための遅延時間の経過後、動作a)からe)までを再び実施する動作とを実施することからなり、
バッテリ(2)の充電過程中、それらを繰り返し、
すべての充電動作中、2つの動作半サイクルから形成された周期的ループとして、これらの動作が、繰り返され、各サイクルループにおいて連続的に実施され、
第1の半サイクルが、
異なるセル(1)の電圧を連続的に読み出す動作と、
時間をオフセットして、前のサイクルのもっとも遅れたセルに対し、電圧差(dV)が、閾値(dVs)より高いセル(1)毎にバランス化抵抗(6)を起動する動作とを連続して実行し、
第2の半サイクルが、
異なるセル(1)のバランス化抵抗(6)を連続的に切り離す動作と、
異なるセル(1)の電圧の安定化を、
次のサイクルの第1の半サイクル中のそれらの読み出しまで待つ動作とを含む、ことを特徴とする、方法。」

3.引用例
当審の拒絶理由に引用した特開平8-19188号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【0006】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、本発明においては、特許請求の範囲に記載するように構成している。すなわち、請求項1に記載の発明においては、複数の二次電池を直列に接続した組電池を充電する装置において、抵抗とスイッチング素子との直列回路からなり、上記組電池の各電池にそれぞれ並列に接続されたバイパス回路と、上記組電池の各電池の電圧を検出する電圧検出手段と、上記電圧検出手段で検出した充電時における各電池の電圧のうち、最も低い電圧と他の各電池の電圧とを比較し、その電圧差が第1の所定値を越えた電池については、上記バイパス回路を導通させ、上記の電圧差が上記第1の所定値より低い第2の所定値以下になった場合には上記バイパス回路を遮断させるように制御する制御装置と、を備えるように構成している。なお、上記請求項1の構成は、例えば後記図1の構成と図2のフローチャートに記載の制御に相当する。
【0007】また、上記の第1の所定値および第2の所定値は、例えば、請求項2に記載のごとく、第1の所定値は、電池電圧の変動幅、すなわち充電終止電圧と放電終止電圧との差に所望のバラツキ割合を乗算して求めた所望バラツキ電圧と同じ値に設定し、また、第2の所定値は、最も電圧の低い電池のバイパス回路がオフで、電圧の高い方の電池のバイパス回路をオンとした場合に、電池の内部抵抗による電圧降下分を除いた正味の電池電圧Vcについて上記両電池の電圧差を0としたときにおける上記両電池の端子電圧Vtの差を第2の所定値として設定する。
【0008】また、上記制御装置は、例えば、請求項3に記載のごとく、最も低い電圧と他の各電池の電圧との電圧差に応じて、電圧差が大きいほどバイパス電流値を大きくするように、上記各バイパス回路を制御するものである。また、上記制御装置は、例えば、請求項4に記載のごとく、スイッチング素子をPWM制御することによってバイパス電流値を変えるものである。また、上記制御装置は、例えば、請求項5に記載のごとく、上記スイッチング素子がオフのときにおける電池の端子電圧が充電終止電圧を越えた電池のバイパス回路については、上記スイッチング素子を常時オンにするように制御するものである。なお、請求項3?請求項5の構成は、例えば後記図3のフローチャートの制御に相当する。また、上記二次電池は、例えば、請求項6に記載のごとく、非水系二次電池であり、さらに非水系二次電池は、請求項7に記載のごとく、リチウム二次電池である。ただし、鉛-酸二次電池等の他の二次電池の組電池においても本発明を適用することが出来る。
【0009】
【作用】本発明においては、充電時における各電池の電圧のうち、最も低い電圧と他の各電池の電圧とを比較し、その電圧差が第1の所定値を越えた電池については、バイパス回路を導通させて充電電流を減少させ、上記の電圧差が上記第1の所定値より低い第2の所定値以下になった場合にはバイパス回路を遮断させるように制御するものである。上記の制御により、最も低い電圧と第1の所定値以上の差がある電池は、並列に接続されたバイパス回路がオンにされるので、充電電流が大幅に低下する。そのため、電圧の高い電池の充電は抑制され、電圧の低い電池が重点的に充電されるので、全体としてのバラツキが減少する。また、電圧の低かった電池が充電され、電圧が上昇した結果、バイパス回路オン中の電池の電圧との差が小さくなった場合には、当該バイパス回路をオフにして、その電池にも充電を行なうことが出来、全体の電池を均等に充電することが出来る。特に本発明においては、上記のように、最も低い電圧を基準として充電時からバイパス回路を制御するので、満充電になるか否かに関わりなく、常にバラツキを減少させるように機能する。
【0010】また、上記第1の所定値と第2の所定値は、請求項2に記載のように設定する。すなわち、第1の所定値は、所望のバラツキ割合(許容されるバラツキの変動幅に対する割合)を変動幅に乗算して求める。例えば、リチウム電池の場合は、充電終止電圧が4.2Vで放電終止電圧が2.5Vであるから、変動幅は1.7Vであり、許容されるバラツキ割合を仮に3%とすれば、所望バラツキ電圧は1.7×0.03=0.051Vとなり、この値が第1の所定値となる。また、第2の所定値は、電圧の高い方の電池のバイパス回路をオンにしたときに、内部抵抗による電圧降下分を除いた正味の電池電圧における両電池間の電圧差を0とした場合における両電池の端子電圧(内部抵抗による電圧降下分を含む値)の差を第2の所定値とすればよい。
【0011】また、請求項3に記載のように、最も低い電圧と他の各電池の電圧との電圧差に応じて、電圧差が大きいほどバイパス電流値を大きくするように制御することにより、DODの値をより精度よく揃えることが出来る。また、請求項4および請求項5に記載のように、スイッチング素子をPWM制御することによって電流値を変えるように構成し、また、スイッチング素子がオフのときにおける電池の端子電圧が充電終止電圧を越えた電池のバイパス回路については、上記スイッチング素子を常時オンにするように制御することにより、PWM制御によってトランジスタをオン-オフ制御しても、電池の電圧が充電終止電圧を越えることがなく、電池の寿命に悪影響を及ぼすおそれがない。したがって大容量のFETやヒートシンクが不要になる。
【0012】また、従来の装置においては、組電池を構成する各電池の電圧がばらつくので、組電池全体としての放電容量を検出するには、各電池の電圧を検出する必要があり、そのため、各電池毎に電圧センサを設ける必要があったが、本発明においては、満充電でない場合でも、各電池のバラツキが解消され、充電毎に各電池の電圧がほぼ均等になるので、組電池の放電容量を検出する場合には、組電池としての電圧のみを検出すればよい。したがって、例えば組電池を電気自動車の駆動用電池として使用する場合、自動車には組電池全体としての電圧を検出する1個の電圧センサを設けるだけで、放電容量を簡単に検出することが出来る、という利点もある。
【0013】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施例のブロック図である。図1において、1は組電池であり、1a?1nからなる各二次電池(以下、単に電池と記す)を直列に接続したものである。また、2a?2nは抵抗、3a?3nは例えばFET等のトランジスタであり、2と3とを直列に接続した回路がバイパス回路として各電池1a?1nに並列に接続されている。また、4a?4nは各電池の端子電圧を検出する電圧センサ、5は制御装置(詳細後述)、6は充電電流の開-閉を行なうコンタクタ、7は充電回路、8は充電の開始・停止を指示する充電信号スイッチである。なお、上記制御装置5は、例えばアナログ回路またはマイクロコンピュータ等で構成される。また、充電回路7は、例えば交流の商用電源を所望の充電電圧に変圧し、直流に変換して出力する回路である。図1の装置においては、充電信号スイッチ8をオンにすると、充電回路7が作動すると共に、制御装置5によってコンタクタ6がオンにされ、充電回路7から組電池1に電流が流れて充電が行なわれる。
【0014】図2は、図1の制御装置5における充電制御の第1の実施例を示すフローチャートである。以下、図2に基づいて図1の装置の作用を説明する。図2において、ステップS1では、充電信号スイッチ8のオン-オフに応じて制御装置5が充電開始か否かを判断し、“YES”の場合にはステップS2で、コンタクタ6をオンにして充電を開始する。この場合には、全てのバイパス回路はオフ、すなわち各トランジスタ3a?3nは全てオフである。次に、ステップS3では、各電圧センサ4a?4nを用いて、組電池1を構成する各電池1a?1nの電圧を検出する。次に、ステップS4では、それらの電圧のうちで最も低い電圧Vminを検出する。そしてステップS5では、上記Vminと他の各電池の電圧との電圧差Ddをそれぞれ検出する。次に、ステップS6では、上記の各電圧差Ddと第1の所定値ΔV_(1)(詳細後述)とを比較し、Dd≧ΔV_(1)であり、かつ当該バイパス回路がオフになっている電池については、そのバイパス回路をオンにする。具体的には、制御装置5から信号を送って当該バイパス回路のトランジスタをオンにする。上記の制御により、最も低い電圧と第1の所定値ΔV_(1)以上差がある電池は、並列に接続されたバイパス回路がオンにされるので、充電電流が大幅に低下する。そのため、電圧の高い電池の充電は抑制され、電圧の低い電池が重点的に充電されるので、全体としてのバラツキが減少する。次に、ステップS7では、上記の各電圧差Ddと第2の所定値ΔV_(2)(ΔV_(1)>ΔV_(2)、詳細後述)とを比較し、ΔV_(2)≧Ddであり、かつ当該バイパス回路がオンになっている電池については、そのバイパス回路をオフにする。具体的には、制御装置5から信号を送って当該バイパス回路のトランジスタをオフにする。上記の制御により、電圧の低かった電池が充電され、電圧が上昇した結果、バイパス回路オン中の電池の電圧との差が小さくなった場合には、当該バイパス回路をオフにして、その電池にも充電を行なうことが出来、全体の電池を均等に充電することが出来る。
【0015】次に、ステップS8では、バイパス回路オフ中の電池、すなわち充電中の電池において、その電圧が充電終止電圧(例えばリチウム電池の場合には4.2V)に達したものについては、バイパス回路をオンにし、充電を抑制する。上記の制御により、早く満充電に達した電池については過充電を行なわず、かつ未だ満充電に達しない電池については充電を継続することが出来る。次に、ステップS9では、バイパス回路オン、すなわち充電電流を抑制している電池において、充電終止電圧に達した電池があるか否かを判別し、無い場合にはステップS4に戻って上記のルーチンを繰り返し、有る場合にはステップS10で充電を終了する。具体的には、制御装置5から信号を送ってコンタクタ6をオフにする。上記のように本実施例においては、最も低い電圧を基準として充電時からバイパス回路を制御するので、満充電になるか否かに関わりなく、常にバラツキを減少させるように機能する。なお、充電回路7の電圧、電流を調節できる場合には、上記ステップS9で“YES”の場合に、充電を終了させず、充電回路7からの充電電流を減少させ、当該電池の電圧が充電終止電圧に達しないようにして充電を継続することも出来る。このようにすれば、さらに各電池のバラツキを減少させることが出来る。」

・「【0017】Vtn=Vcn+Vrn …(数1)
Vtmin=Vcmin+Vrmin …(数2)
まず、第1の所定値ΔV_(1)について説明する。各電池間のバラツキを仮に3%以下に押さえるものとすれば、電池の電圧の変動幅は4.2-2.5=1.7であるから、Vcの電圧差としては、1.7×0.03=0.051Vとなる。この場合、バイパス回路がオフであるから、各電池に流れる電流は同一であり、したがってVrmin=Vrnであるから、上記(数1)式、(数2)式から、下記(数3)式が成り立つ。
Vcn-Vcmin=Vtn-Vtmin …(数3)
上記(数3)式から判るように、バイパス回路がオフの場合には、内部抵抗による電圧降下分を除いた電池電圧Vcにおける電圧差は、端子電圧Vtにおける電圧差と等しい。したがって第1の所定値ΔV_(1)は0.051Vに設定すればよい。すなわち、第1の所定値ΔV_(1)は、電池電圧の変動幅に所望のバラツキ割合(%)を乗算して求めた所望バラツキ電圧と同じ値に設定すればよい。
【0018】次に、第2の所定値ΔV_(2)について説明する。この場合には、最も電圧の低い電池のバイパス回路がオフで、他の或る電池のバイパス回路がオンとし、Vcn=VcminのときにおけるVtn-VtminをΔV_(2)とすればよい。すなわち、電圧の高い方の電池のバイパス回路をオンとしたときに、内部抵抗による電圧降下分を除いた正味の電池電圧Vcにおける両電池の電圧差を0とした場合における両電池の端子電圧Vtの差をΔV_(2)とすればよい。以下、実例について説明する。例えば、80Ahの電池を使用し、充電回路からの充電電流Ichgを40A、バイパス回路のバイパス電流を10Aとする。この場合、電池の内部抵抗rは、リチウム二次電池の場合には0.16Ω・Ah程度であるから、80Ahでは0.002Ωとなる。したがって
Vtn=Vcn+0.002(Ichg-Ibpn)=Vcn+0.06
Vtmin=Vcmin+0.002×Ichg=Vcmin+0.08
となり、したがって下記(数4)式が成り立つ。
Vtn-Vtmin=(Vcn+0.06)-(Vcmin+0.08) …(数4)
前記のように、ΔV_(2)は、Vcn=VcminのときにおけるVtn-Vtminの値なので、(数4)式から、
ΔV_(2)=Vtn-Vtmin=0.06-0.08=-0.02
となる。すなわち、この例の場合は、ΔV_(2)=-0.02Vに設定すればよい。つまりバイパス回路がオンになっている方の電池の端子電圧が最も電圧の低い電池の端子電圧よりも0.02Vだけ低くなった場合に、当該バイパス回路をオフにするように制御する。この場合、内部抵抗による電圧降下分を除いた正味の電池電圧Vcは、Vcn=Vcminで両電池が等しくなっている。」

・図1には各電池1aないし1nがそれぞれ単一の電池である点、2個以上の各電池1aないし1nが直列に接続されることにより組電池1を構成する点、及び、バイパス回路のそれぞれの抵抗2aないし2n及びトランジスタ3aないし3nが各電池1aないし1nの1つと並列に接続される点が示されている。また、図2には、S1における充電開始からS10の充電終了までの間に、マイクロコンピュータの制御下でプログラムによる逐次的な処理により、バイパス回路を制御するS5ないしS8を含むサイクルが、S9による判断で充電終了時まで繰り返される各サイクルループにおいて組電池を充電する方法が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「2個以上の各電池1aないし1nが、リチウム二次電池からなる組電池を構成し、直列に結合され、各セルが、一つまたは並列に搭載されたいくつかの要素から構成される、各電池の電圧がほぼ均等となるように常にバラツキを減少させて充電する方法にして、
S1における充電開始からS10の充電終了までの間において、全体の電池を均等に充電することが出来るように、電圧の低かった電池が充電され、電圧が上昇した結果、バイパス回路オン中の電池の電圧との差が小さくなった場合には、当該バイパス回路をオフにして、その電池にも充電を行ない、充電時における各電池の電圧のうち、最も低い電圧と他の各電池の電圧とを比較し、その電圧差が第1の所定値を越えた電池については、バイパス回路を導通させて充電電流を減少させ、上記の電圧差が上記第1の所定値より低い第2の所定値以下になった場合にはバイパス回路を遮断させることを含む方法であって、該方法が、
マイクロコンピュータのプログラムにより各電池の電圧と、最も低い電圧との電圧差に応じてバイパス回路を導通及び遮断させる処理により組電池を充電する方法でS1における充電開始からS10の充電終了までの間のS3において各電池の電圧を検出したことと、各電池の電圧のうちで最も低い電圧Vminと他の各電池の電圧との電圧差Ddと第1の所定値ΔV_(1)とを比較し、Dd≧ΔV_(1)であり、かつ当該バイパス回路がオフになっている電池については、そのバイパス回路をオンにし、前記電圧差Ddと第2の所定値ΔV_(2)とを比較し、ΔV_(2)≧Ddであり、かつ当該バイパス回路がオンになっている電池については、そのバイパス回路をオフにすることを含み、これがS1における充電開始からS10の充電終了までの間のS9による繰り返しによって実施され、
充電がもっとも進んだ各電池または複数の各電池の電流のバイパスが、バイパス回路によって、実施され、
バイパス回路のそれぞれが、各電池1aないし1nの1つと並列に接続され、
前記バイパス回路がそれぞれ、トランジスタ3aないし3nと抵抗2aないし2nを備え、
プログラムによる逐次的な処理による組電池の充電がマイクロコンピュータによる制御下において、
a)各電池の電圧を検出するS3、S2において、全てのバイパス回路をオフとし、その後電圧が検出されるS3と、
b)各電池の電圧のうちで最も低い電圧Vminを検出するS4と、
c)各電池の電圧のうちで最も低い電圧Vminと他の各電池の電圧との電圧差Ddと第1の所定値ΔV_(1)とを比較し、Dd≧ΔV_(1)であり、かつ当該バイパス回路がオフになっている電池を検出する処理と、
d)Dd≧ΔV_(1)であり、かつ当該バイパス回路がオフになっている各電池については、そのバイパス回路をオンにする処理と、
f)a)からd)までを再び実施する動作とを実施することからなり、
S10の充電終了までの間において、S9により繰り返し、
S9による繰り返しを含むマイクロコンピュータの制御下で繰り返され、各サイクルループにおいて連続的に実施され、
サイクルが、
各電池の電圧を検出するS3と、
最も低い電圧と他の各電池の電圧とを比較し、その電圧差が第1の所定値を越えた電池については、バイパス回路を導通させて充電電流を減少させ(ている)、
方法。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

(ア)後者の「リチウム二次電池」が前者の「リチウムイオンまたはリチウムポリマーのバッテリ」に相当することは技術常識といえ(必要があれば、特開2002-367611号公報の【0004】に「リチウム二次電池は、電解質の種類によって、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、全固体リチウム二次電池等に分類されるが、現在もっとも広く実用化されている電池はリチウムイオン二次電池である」と記載されているので、参照されたい。)、
前者の「一つまたは並列に搭載されたいくつかの要素」なる特定は、セルが任意の数でよいことを意味すると解され、
後者の「2個以上の各電池1aないし1n」が前者の「n≧2であり、n個のセル」に相当し、以下同様に、
「リチウム二次電池からなる組電池」が「リチウムイオンまたはリチウムポリマーのバッテリ」に、
「各電池の電圧がほぼ均等となるように常にバラツキを減少させて充電する方法」が「n個のセルのバランス充電のための方法」に、それぞれ相当する。

(イ)後者の「全体の電池を均等に充電することが出来るように、電圧の低かった電池が充電され、電圧が上昇した結果、バイパス回路オン中の電池の電圧との差が小さくなった場合には、当該バイパス回路をオフにして、その電池にも充電を行ない」との態様は、引用例の【0009】の記載に基づくものであり、特に、「電圧の低かった電池が充電され、電圧が上昇した結果、バイパス回路オン中の電池の電圧との差が小さくなった場合」なる記載からみて、前者と同様に「ターミナルで電圧を測定することにより決定される様々なセル(1)の充電レベルを連続的に監視し」ているといえる。(なお、引用例の図2のS3はS9よりの矢印の上に記載されているが、引用例の【0009】の記載からみて、図2のS2とS3の間にS9よりの矢印が記載されるものであることは明らかであり、引用例の図面の誤記であるといえる。)
前者の「全部または一部」なる択一的な記載を踏まえると、後者の「電圧差が第1の所定値を越えた電池については、バイパス回路を導通させて充電電流を減少させ」る態様と、前者の「それらの充電の電流レベルに応じて差異をつけられた方法で、それぞれ結合される分流回路(4)の接続により充電電流の全部または一部を分流しながらセルに電気供給する」態様とは、「それらの充電の電流レベルに応じて差異をつけられた方法で、それぞれ結合される分流回路の接続により充電電流の一部を分流しながら前記セルに電気供給する」との概念で共通するといえる。
さらに、後者において、充電開始時のように、すべての各電池の電圧差が上記第1の所定値より低い第2の所定値以下となった場合には、すべての各電池のバイパス回路が遮断されることは明らかであり、この状態は、前者の「充電レベルの監視に応じて、セルすべてに均等に電気供給を実施し」ているとの態様に相当するといえる。したがって、
後者の「S1における充電開始からS10の充電終了までの間において、全体の電池を均等に充電することが出来るように、電圧の低かった電池が充電され、電圧が上昇した結果、バイパス回路オン中の電池の電圧との差が小さくなった場合には、当該バイパス回路をオフにして、その電池にも充電を行ない、充電時における各電池の電圧のうち、最も低い電圧と他の各電池の電圧とを比較し、その電圧差が第1の所定値を越えた電池については、バイパス回路を導通させて充電電流を減少させ、上記の電圧差が上記第1の所定値より低い第2の所定値以下になった場合にはバイパス回路を遮断させることを含む方法」と
前者の「バッテリ(2)の充電動作の開始から、この動作の過程全体にわたって、ターミナルで電圧を測定することにより決定される様々なセル(1)の充電レベルを連続的に監視し、前記充電レベルの前記監視に応じて、セル(1)すべてに均等に電気供給を実施し、および、それらの充電の電流レベルに応じて差異をつけられた方法で、それぞれ結合される分流回路(4)の接続により充電電流の全部または一部を分流しながら前記セルに電気供給することによって前記セル(1)の前記充電レベルのバランス化を実施することを含む方法」とは、
「バッテリの充電動作の開始から、この動作の過程全体にわたって、ターミナルで電圧を測定することにより決定される様々なセルの充電レベルを連続的に監視し、前記充電レベルの前記監視に応じて、セルすべてに均等に電気供給を実施し、および、それらの充電の電流レベルに応じて差異をつけられた方法で、それぞれ結合される分流回路の接続により充電電流の一部を分流しながら前記セルに電気供給することによって前記セルの前記充電レベルのバランス化を実施することを含む方法」なる概念で共通する。

(ウ)後者の「マイクロコンピュータのプログラムにより各電池の電圧と、最も低い電圧との電圧差に応じてバイパス回路を導通及び遮断させる処理」は、マイクロコンピュータのプログラムにより複数の各電池の電圧と、最も低い電圧との電圧差に応じてバイパス回路を導通及び遮断させるためには、逐次的に順次処理することが技術常識であるといえるが、各電池毎に電圧を検出しているか否かは明確ではない。したがって、両者は、「逐次的な方法」との概念で共通する。
したがって、後者の「マイクロコンピュータのプログラムにより各電池の電圧と、最も低い電圧との電圧差に応じてバイパス回路を導通及び遮断させる処理により組電池を充電する方法」と
前者の「バッテリのセル(1)毎に逐次的な方法」とは、
「逐次的な方法」なる概念で共通する。

(エ)後者において、「S1における充電開始からS10の充電終了までの間のS3」が全充電時間に相当する「S1における充電開始からS10の充電終了」までの時間のわずかな部分の時間であることは明らかであるといえる。さらに、
後者の「均等に、または差異をつけて電気供給する」態様は、すべての状態を含んでいるといえる。
後者の「これがS1における充電開始からS10の充電終了までの間のS9による繰り返しによって実施され」る態様が前者の「これが充電動作全体にわたる繰り返しサイクルによって実施され」る態様に相当し、
後者の「S1における充電開始からS10の充電終了までの間のS3において各電池の電圧を検出したことと、各電池の電圧のうちで最も低い電圧Vminと他の各電池の電圧との電圧差Ddと第1の所定値ΔV_(1)とを比較し、Dd≧ΔV_(1)であり、かつバイパス回路がオフになっている電池については、そのバイパス回路をオンにし、前記電圧差Ddと第2の所定値ΔV_(2)とを比較し、ΔV_(2)≧Ddであり、かつバイパス回路がオンになっている電池については、そのバイパス回路をオフにすることを含み、これがS1における充電開始からS10の充電終了までの間のS9による繰り返しによって実施され」る態様と
前者の「バッテリ(2)の全充電時間のわずかな部分の間、セル(1)の充電レベルを新しく評価することと、その後に、その充電レベルに応じて、バッテリの他のセル(1)の充電レベルすべてに対して、均等に、または差異をつけて電気供給することとを含んだシーケンスを起動することを含み、これが充電動作全体にわたる繰り返しサイクルによって実施され」る態様とは、
「バッテリの全充電時間のわずかな部分の間、セルの充電レベルを新しく評価することと、その後に、その充電レベルに応じて、バッテリの他のセルの充電レベルすべてに対して、均等に、または差異をつけて電気供給することとを含んだシーケンスを起動することを含み、これが充電動作全体にわたる繰り返しサイクルによって実施され」るとの概念で共通する。

(オ)後者の「充電がもっとも進んだ各電池または複数の各電池の電流のバイパスが、バイパス回路によって、実施され」る態様が、
前者の「充電がもっとも進んだセルまたは複数のセルの電流の分流が、分流回路(4)によって、実施され」る態様に相当する。

(カ)後者の「バイパス回路のそれぞれが、各電池1aないし1nの1つと並列に接続され」る態様が、
前者の「分流回路(4)のそれぞれが、セル(1)の1つと並列に搭載されて結合され」る態様に相当する。

(キ)後者の「トランジスタ3aないし3n」及び「抵抗2aないし2n」が前者の「スイッチング部」及び「電気的抵抗など、エネルギーを消散させるための少なくとも1つの構成要素」に相当することが明らかである。

(ク)後者の「プログラムによる逐次的な処理による組電池の充電がマイクロコンピュータによる制御下において」との態様が前者の「より正確には、逐次的なバランス化による充電が、デジタル処理ユニット(3)の管理下において」との態様に相当する。

(ケ)後者の「各電池の電圧を検出するS3」と前者の「バッテリ(2)のセル(1)すべてを、それらのターミナルにおける電圧を測定することによって、逐一精査する動作」、及び、「異なるセル(1)の電圧を連続的に読み出す動作」とは、「バッテリのセルすべてを、それらのターミナルにおける電圧を測定することによって、精査する動作」なる概念で共通することから、
後者の「a)各電池の電圧を検出するS3」と
前者の「a)バッテリ(2)のセル(1)すべてを、それらのターミナルにおける電圧を測定することによって、逐一精査する動作」とは、
「a)バッテリのセルすべてを、それらのターミナルにおける電圧を測定することによって、精査する動作」なる概念で共通する。

(コ)後者の「S2において、全てのバイパス回路をオフとし」た態様が前者の「分流回路(4)の接続「なし」で実施される」態様に相当するといえるが、上記のように、図2のS2とS3の間にS9よりの矢印が記載されるものである場合に、常時「全てのバイパス回路をオフとし」た態様となるのかは不明であることから、両者は、分流回路の接続「の制御下」で実施されるとの態様で共通するといえる。
したがって、後者の「S2において、全てのバイパス回路をオフとし、その後電圧が検出されるS3」と
前者の「この測定が、分流回路(4)の接続なしで実施される、精査する動作」とは、
「この測定が、分流回路の接続の制御下で実施される、精査する動作」なる概念で共通する。

(サ)後者の「b)各電池の電圧のうちで最も低い電圧Vminを検出するS4」が、
前者の「b)充電がもっとも遅れたセル(1)を検出する動作」に相当する。

(シ)後者の「第1の所定値ΔV_(1)」が前者の「容量差の所定の閾値」に相当するといえることから、
後者の「c)各電池の電圧のうちで最も低い電圧Vminと他の各電池の電圧との電圧差Ddと第1の所定値ΔV_(1)とを比較し、Dd≧ΔV_(1)であり、かつバイパス回路がオフになっている電池を検出する処理」と
前者の「c)最小に充電された、またはもっとも遅れたセル(1)に対し、容量差の所定の閾値、たとえば10mVの電圧差(dVs)に相当する値より高く過充電されたセル(1)を検出する動作」とは、
「c)最小に充電された、またはもっとも遅れたセルに対し、容量差の所定の閾値高く過充電されたセルを検出する動作」なる概念で共通する。

(ス)後者の「バイパス回路をオンにする」処理を行えば、バイパス回路がトランジスタ3aないし3nと抵抗2aないし2nを備えていることから、分流回路に充電電流の少なくとも一部を分流し、所定の連続した期間セルのそれぞれへの充電電流が、減少することは明らかであるといえることから、
後者の「d)Dd≧ΔV_(1)であり、かつバイパス回路がオフになっている各電池については、そのバイパス回路をオンにする処理」と
前者の「d)閾値より高く過充電されたことを検出された各セル(1)を対応するバランス化抵抗(6)に個々に接続し、分流回路(4)に充電電流の少なくとも一部を分流し、所定の連続した期間、たとえば2秒間、当該セル(1)のそれぞれへの充電電流が、たとえば約10%だけ減少するようにさせる動作」とは、
「d)閾値より高く過充電されたことを検出された各セルを対応するバランス化抵抗に個々に接続し、分流回路に充電電流の少なくとも一部を分流し、所定の連続した期間当該セルのそれぞれへの充電電流が、減少するようにさせる動作」なる概念で共通する。

(セ)後者の「f)a)からd)までを再び実施する動作とを実施する」との態様と
前者の「e)所定の連続した期間が経過した後、セル(1)すべての分流回路(4)を切り離す動作と、f)セル(1)の電圧の安定化のための遅延時間の経過後、動作a)からe)までを再び実施する動作とを実施する」との態様とは、
「f)動作a)からd)までを再び実施する動作とを実施する」との概念で共通する。

(ソ)後者の「S10の充電終了までの間において、S9により繰り返し」ている態様が、
前者の「バッテリ(2)の充電過程中、それらを繰り返し」ている態様に相当する。

(タ)後者の「S9による繰り返しを含むマイクロコンピュータの制御下で繰り返され、各サイクルループにおいて連続的に実施され」る態様と
前者の「すべての充電動作中、2つの動作半サイクルから形成された周期的ループとして、これらの動作が、繰り返され、各サイクルループにおいて連続的に実施され」る態様とは、
「すべての充電動作中、周期的ループとして、これらの動作が、繰り返され、各サイクルループにおいて連続的に実施され」なる概念で共通する。

(チ)後者の「サイクル」と
前者の「第1の半サイクル」とは、
「サイクル」なる概念で共通する。

(ツ)後者の「各電池の電圧を検出するS3」と
前者の「異なるセル(1)の電圧を連続的に読み出す動作」とは、
「異なるセルの電圧を読み出す動作」なる概念で共通する。

(テ)後者の「最も低い電圧と他の各電池の電圧とを比較し、その電圧差が第1の所定値を越えた電池については、バイパス回路を導通させて充電電流を減少させ」る態様と
前者の「時間をオフセットして、前のサイクルのもっとも遅れたセルに対し、電圧差(dV)が、閾値(dVs)より高いセル(1)毎にバランス化抵抗(6)を起動する動作とを連続して実行し」ている態様とは、
「もっとも遅れたセルに対し、電圧差が、閾値より高いセル毎にバランス化抵抗を起動する動作とを連続して実行し」たとの概念で共通する。

したがって、両者は、
「n≧2であり、n個のセルが、リチウムイオンまたはリチウムポリマーのバッテリを構成し、直列に結合され、各セルが、一つまたは並列に搭載されたいくつかの要素から構成される、n個のセルのバランス充電のための方法にして、
バッテリの充電動作の開始から、この動作の過程全体にわたって、ターミナルで電圧を測定することにより決定される様々なセルの充電レベルを連続的に監視し、前記充電レベルの前記監視に応じて、セルすべてに均等に電気供給を実施し、および、それらの充電の電流レベルに応じて差異をつけられた方法で、それぞれ結合される分流回路の接続により充電電流の一部を分流しながら前記セルに電気供給することによって前記セルの前記充電レベルのバランス化を実施することを含む方法であって、該方法が、
逐次的な方法で、バッテリの全充電時間のわずかな部分の間、当該セルの充電レベルを新しく評価することと、その後に、その充電レベルに応じて、バッテリの他のセルの充電レベルすべてに対して、均等に、または差異をつけて電気供給することとを含んだシーケンスを起動することを含み、これが充電動作全体にわたる繰り返しサイクルによって実施され、
充電がもっとも進んだセルまたは複数のセルの電流の分流が、分流回路(4)によって、実施され、
分流回路のそれぞれが、前記セルの1つと並列に搭載されて結合され、
前記回路がそれぞれ、スイッチング部と、場合によっては、調整可能を所望ならたとえば電気的抵抗など、エネルギーを消散させるための少なくとも1つの構成要素とを集積し、
より正確には、逐次的なバランス化による充電が、デジタル処理ユニット(3)の管理下において、
a)バッテリのセルすべてを、それらのターミナルにおける電圧を測定することによって、精査する動作であって、この測定が、分流回路の接続の制御下で実施される、精査する動作と、
b)充電がもっとも遅れたセルを検出する動作と、
c)最小に充電された、またはもっとも遅れたセルに対し、容量差の所定の閾値高く過充電されたセルを検出する動作と、
d)閾値より高く過充電されたことを検出された各セルを対応するバランス化抵抗に個々に接続し、分流回路に充電電流の少なくとも一部を分流し、所定の連続した期間当該セルのそれぞれへの充電電流が、減少するようにさせる動作と、
f)動作a)からd)までを再び実施する動作とを実施することからなり、
バッテリの充電過程中、それらを繰り返し、
すべての充電動作中、周期的ループとして、これらの動作が、繰り返され、各サイクルループにおいて連続的に実施され、
サイクルが、
異なるセルの電圧を読み出す動作と、
もっとも遅れたセルに対し、電圧差が、閾値より高いセル毎にバランス化抵抗を起動する動作とを連続して実行し(ている)、
方法。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
バイパス回路に関し、本願発明では、充電電流の「全部または」一部を分流するのに対し、引用発明では、バイパス回路を導通させて充電電流を減少させるが、充電電流の全部を分流することは特定されていない点。

[相違点2]
セルの充電レベルを評価するための電圧の測定に関し、本願発明では 「バッテリのセル毎に」逐次的な方法で「順次に」行うのに対し、引用発明では、マイクロコンピュータのプログラムにより各電池の電圧を検出するものであるが、「バッテリのセル毎に順次に」行うことは特定されていない点。

[相違点3]
セルの充電レベルを評価するための電圧の測定に関し、本願発明では、バッテリのセルすべてを、それらのターミナルにおける電圧を測定することによって、「逐一」精査するのに対し、引用発明では、マイクロコンピュータのプログラムにより各電池の電圧を検出するものであるが、「逐一」精査することは特定されていない点。

[相違点4]
セルの充電レベルを評価するための電圧の測定に関し、本願発明では分流回路の接続「なし」で実施されるのに対し、引用発明ではS2において、全てのバイパス回路をオフするものであるが、常に測定の際に分流回路の接続「なし」とするとは特定されていない点。

[相違点5]
バイパス回路の作動を判断する閾値、減少させる時間と充電電流の割合に関し、本願発明では閾値が、「たとえば10mVの電圧差に相当する値」であり、減少させる時間が、「たとえば2秒間」であり、さらに、充電電流の減少の割合が、「たとえば約10%だけ」減少するのに対し、引用発明では係る特定はなされていない点。

[相違点6]
セルの充電レベルを評価するための電圧の測定に関し、本願発明では「所定の連続した期間が経過した後、セルすべての分流回路を切り離す動作と」、「セルの電圧の安定化のための遅延時間の経過後」にセルの充電レベルを評価するための電圧の測定を行うことにより、すべての充電動作が、「2つの動作半サイクルから形成された」周期的ループとして、これらの動作が、動作a)から「e)」まで繰り返されるのに対し、引用発明では、繰り返しを含むマイクロコンピュータの制御下で繰り返されるが、電圧を検出する際に常にバイパス回路をオフにする点は特定されておらず、したがって、動作a)から「d)」まで繰り返されており、さらに、2つの半サイクルから構成する点は特定されていない点。

[相違点7]
セルの充電レベルを評価するための電圧の測定に関し、本願発明では、異なるセルの電圧を「連続的に」読み出すのに対し、引用発明ではマイクロコンピュータのプログラムにより各電池の電圧を検出するものであるが、異なるセルの電圧を「連続的に」読み出すことは特定されていない点。

[相違点8]
分流回路の制御を行うセルの電圧に関し、本願発明では、「時間をオフセットして、前のサイクルの」電圧を使用するのに対し、引用発明では、係る特定はなされていない点。

[相違点9]
分流回路の制御に関し、本願発明では「第2の半サイクルが、異なるセルのバランス化抵抗を連続的に切り離す動作」と、「異なるセルの電圧の安定化を」行い、さらに、「次のサイクルの第1の半サイクル中のそれらの読み出しまで待つ動作とを含む」のに対し、引用発明ではそのような構成は特定されていない点。

5.判断
[相違点1]について
本願発明において、充電電流の全部または一部を分流したことによる技術的な意義は出願当初の明細書の【0024】の「充電がもっとも遅れたセル以外のセル、またはもっとも進んだセルには充電電流の限界を設けて、この充電がもっとも進んだセルのレベルで前記電流のすべてまたはその一部分を誘導することによって、電気供給すること。」なる記載、及び、【0034】の「充電動作中全体にわたり、バッテリが、実質的にバランスがとれている」なる記載からみて、充電電流を分流することにより充電動作中全体にわたりバランスをとることであるといえる。しかしながら、充電電流の全部を分流することにより、充電電流の一部を分流した場合との技術的な意義の違いは出願当初には記載されていない。
「各電池の電圧がほぼ均等となるように常にバラツキを減少させて充電する方法」であり、かつ、「電圧差が第1の所定値を越えた電池については、バイパス回路を導通させて充電電流を減少させ、上記の電圧差が上記第1の所定値より低い第2の所定値以下になった場合にはバイパス回路を遮断させ」るものである引用発明のものも、充電電流の一部を分流することにより、充電動作中全体にわたりバランスをとるものであるといえる。そして、本願発明の「充電電流の全部または一部を分流する」なる選択的な特定の一方において一致するものであるといえる。
したがって、相違点1は実施的な相違点ではない。
なお、バイパス回路においてどの程度の電流を分流させるのかは、バランスの程度、分流による充電時間の長期化等を勘案して適宜選択するものであることは技術常識であることから、充電電流の全部を分流する点は、設計事項であるともいえる。

[相違点2、3、7、及び、8]について
本願発明において、バッテリのセル毎に逐次的、逐一、連続的、かつ、順次に電圧を測定し、時間をオフセットして、前のサイクルの電圧の値を用いて分流回路を制御することによる技術的な意義は、出願当初の明細書には明りょうには記載されていないが、出願当初の明細書の【0057】の「電圧を測定するためのモジュール7’のアセンブリ7は、一方では、電圧を測定するための、それぞれがバッテリ2のセル1に直接結合されたn個のアナログモジュール7’と、他方では、その入力が前記モジュール7’の出力に接続されたマルチプレクサ回路9と、最後には、その入力においてマルチプレクサ回路9の出力に接続され、その出力においてデジタル処理・管理ユニット3に接続されたアナログ/デジタル変換器回路10とを含む。」なる記載からみて、複数のセルの電圧を単一のマルチプレクサ回路とアナログ/デジタル変換器回路とにより検出するためであると解される。さらに前のサイクルの電圧の値を用いて分流回路を制御するこによる技術的意義は出願当初の明細書を精査しても不明りょうであるといわざるをえない。
一方、原審の拒絶の理由に引用した特開2000-92733号公報(以下、「周知例」という)の【0037】には、「MPU18は、各端子間電圧検出器15からマルチプレクサ16およびA/Dコンバータ17を介して与えられる単位セル電圧信号と、電流センサ13から増幅器20およびA/Dコンバータ21を介して与えられる充放電電流信号とに基づいて各単位セル14の残存容量(以下、SOC(State Of Charge)と略称する)を計算するようになっている。」と記載されているように、複数のセルの電圧を単一のマルチプレクサ回路とアナログ/デジタル変換器回路とにより検出する点は、周知の技術であるといえる。
そして、複数のセルの電圧の値は、電圧の検出と分流回路の制御を分けた場合の同一のサイクルの値とするか、検出と制御とを一緒に行う場合の前のサイクルの値とするかしかなく、後者の方法を本願発明において採用したことによる技術的な意義が存在するとも認められないことから、任意に選択可能であるといわざるをえない。
そうすると、引用発明に上記周知の技術を採用することにより相違点2、3、7、及び、8に係る本願発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

[相違点4、6、及び、9]について
本願発明において、分流回路の接続なしで精査する動作を行うために、所定の連続した期間が経過した後、セルすべての分流回路を切り離す動作と、セルの電圧の安定化のための遅延時間の経過後、再び実施する動作とを実施することにより、サイクルが異なるセルのバランス化抵抗を連続的に切り離す動作と、異なるセルの電圧の安定化を次のサイクルのそれらの読み出しまで待つ動作とを含む2つの動作半サイクルから形成したことによる技術的な意義は、本願の出願当初の明細書の【0038】の「セル1の電圧安定化のための遅延時間の経過後、ステップa)からe)までを繰り返す動作。」なる記載からみみて、セルの電圧安定化にあるといえる。
一方、「S2において、全てのバイパス回路をオフとし、その後、電圧が検出されるS3」である引用発明においても、電圧が検出される場合に常にオフすることは明示されていないが、バイパス回路をオフとし、その後、電圧が検出されることが示唆されている。そして、周知例の【0058】には、「MPU18は、給電されると、各単位セル14に並列に接続されているフリップフロップ回路23にリセット信号RSを出力することにより、各単位セル14に並列に接続されている単位セル放電回路19のスイッチ19bをオフ(開成)する(ステップS1)。これにより、オン(閉成)していたスイッチ19bがオフ(開成)することになるので、多数の単位セル14のうち、その時点で放電していた単位セル14、この場合であれば、単位セルB1 ,B3 において放電電流I1 ,I3 が流れなくなり、つまり、単位セルB1 ,B3 が放電を停止することになる。」と記載され、さらに、【0059】には、「次いで、MPU18は、所定時間待機する(ステップS2)。ここで、所定時間待機するのは、単位セル14が放電を停止したことに応じて、過渡現象に起因する端子間電圧の変動による影響を回避するためである。つまり、この場合の所定時間とは、単位セル14の端子間電圧の変動が収束すると予想される時間である。MPU18は、所定時間経過すると、ステップS3において「YES」と判断し、各端子間電圧検出器15からマルチプレクサ16およびA/Dコンバータ17を介して与えられる単位セル電圧信号と、電流センサ13から増幅器20およびA/Dコンバータ21を介して与えられる充放電電流信号とに基づいて各単位セル14のSOCを計算する(ステップS4、図5中、t2 参照)。」と記載されているように、分流回路を切り離すことにより、セルの電圧安定化を図る点は周知慣用技術であるといえる。
そして、「S9による繰り返しを含むマイクロコンピュータの制御下で繰り返され」る処理により充電を制御する引用発明において、上記の周知慣用技術を引用例の示唆に基づいて採用すと、動作a)から「e)」まで繰り返されることになり、さらに、繰り返しの処理が2つのステップとなることは明らかであるといえる。
そうすると、セルの電圧安定化という一般的な課題を解決するために、引用発明に上記周知慣用技術のすべての分流回路を切り外すものを採用することにより相違点4、6、及び、9に係る本願発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

[相違点5]について
本願発明において、バイパス回路の作動を判断する閾値が、「たとえば10mVの電圧差に相当する値」であり、減少させる時間が、「たとえば2秒間」であり、さらに、充電電流の減少の割合が、「たとえば約10%だけ」減少することを特定していることによる技術的な意義は、出願当初の明細書には記載されていない。
これらの本願発明の特定は「たとえば」と記載されているように、発明の構成を特定しているとはいえず、してみると、相違点5は実施的な相違点であるとはいえない。
仮に上記の数値限定が発明特定事項であると仮定して検討を行う。
引用例の【0017】に「Vtn=Vcn+Vrn …(数1)
Vtmin=Vcmin+Vrmin …(数2)
まず、第1の所定値ΔV_(1)について説明する。各電池間のバラツキを仮に3%以下に押さえるものとすれば、電池の電圧の変動幅は4.2-2.5=1.7であるから、Vcの電圧差としては、1.7×0.03=0.051Vとなる。この場合、バイパス回路がオフであるから、各電池に流れる電流は同一であり、したがってVrmin=Vrnであるから、上記(数1)式、(数2)式から、下記(数3)式が成り立つ。
Vcn-Vcmin=Vtn-Vtmin …(数3)
上記(数3)式から判るように、バイパス回路がオフの場合には、内部抵抗による電圧降下分を除いた電池電圧Vcにおける電圧差は、端子電圧Vtにおける電圧差と等しい。したがって第1の所定値ΔV_(1)は0.051Vに設定すればよい。すなわち、第1の所定値ΔV_(1)は、電池電圧の変動幅に所望のバラツキ割合(%)を乗算して求めた所望バラツキ電圧と同じ値に設定すればよい。」と記載され、さらに
【0018】に、「次に、第2の所定値ΔV_(2)について説明する。この場合には、最も電圧の低い電池のバイパス回路がオフで、他の或る電池のバイパス回路がオンとし、Vcn=VcminのときにおけるVtn-VtminをΔV_(2)とすればよい。すなわち、電圧の高い方の電池のバイパス回路をオンとしたときに、内部抵抗による電圧降下分を除いた正味の電池電圧Vcにおける両電池の電圧差を0とした場合における両電池の端子電圧Vtの差をΔV_(2)とすればよい。以下、実例について説明する。例えば、80Ahの電池を使用し、充電回路からの充電電流Ichgを40A、バイパス回路のバイパス電流を10Aとする。この場合、電池の内部抵抗rは、リチウム二次電池の場合には0.16Ω・Ah程度であるから、80Ahでは0.002Ωとなる。したがって
Vtn=Vcn+0.002(Ichg-Ibpn)=Vcn+0.06
Vtmin=Vcmin+0.002×Ichg=Vcmin+0.08
となり、したがって下記(数4)式が成り立つ。
Vtn-Vtmin=(Vcn+0.06)-(Vcmin+0.08) …(数4)
前記のように、ΔV_(2)は、Vcn=VcminのときにおけるVtn-Vtminの値なので、(数4)式から、
ΔV_(2)=Vtn-Vtmin=0.06-0.08=-0.02
となる。すなわち、この例の場合は、ΔV_(2)=-0.02Vに設定すればよい。つまりバイパス回路がオンになっている方の電池の端子電圧が最も電圧の低い電池の端子電圧よりも0.02Vだけ低くなった場合に、当該バイパス回路をオフにするように制御する。この場合、内部抵抗による電圧降下分を除いた正味の電池電圧Vcは、Vcn=Vcminで両電池が等しくなっている。」と例示されるように、バイパス回路の作動を判断する閾値は通常、セル及び充電回路の電気特性を考慮して適宜選定するものであることが技術常識であるといえる。また、一回の充電のサイクル時間、及び、分流による充電電流の減少の値も同様に、充電時間を考慮して適宜選択する事項にすぎない。そして、その数値範囲の選定により格別顕著な作用効果を奏するとは解されず、かつ、そのような選定を行うことを妨げるような格段の事情があるものと認められない。
そうすると、引用発明において、上記技術常識を踏まえ、上記相違点5に係る本願発明の構成とすることは、当業者にとって単なる数値範囲の最適化又は好適化に相当する設計事項にすぎず、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

そして、本願発明の全体構成により奏される作用効果も引用発明、上記周知慣用技術、及び、上記周知の技術から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。

6.まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、上記周知慣用技術、及び、上記周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-29 
結審通知日 2011-10-04 
審決日 2011-12-08 
出願番号 特願2006-540518(P2006-540518)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤穂 嘉紀  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 冨江 耕太郎
田村 嘉章
発明の名称 リチウムイオンまたはリチウムポリマーのバッテリをバランス充電するための方法  
代理人 川口 義雄  
代理人 渡邉 千尋  
代理人 坪倉 道明  
代理人 大崎 勝真  

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