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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23K
管理番号 1255662
審判番号 不服2011-287  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-06 
確定日 2012-04-18 
事件の表示 特願2006-527167「子イヌ又は子ネコの学習する能力を高めるための方法及びキット」拒絶査定不服審判事件〔平成17年4月14日国際公開,WO2005/032271,平成19年3月15日国内公表,特表2007-505635〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成16年9月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:平成15年10月1日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成22年8月26日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成23年1月6日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同時に提出された手続補正書により明細書及び特許請求の範囲の補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。
その後,平成23年5月16日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,同年10月17日付けで回答書が提出されたものである。

第2.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正することを含むものである(下線は,補正前の請求項1の記載からの変更箇所に付した)。

「子イヌ又は子ネコの学習する能力を高めるための方法であって、乾燥物質基準で、組成物の0.1重量%?1.0重量%のDHAを含む必須脂肪酸構成成分を含み、更に、乾燥物質基準で、組成物の20重量%?50重量%のタンパク質及び5重量%?35重量%の脂肪を含む組成物を各自の母体動物に経口投与することを含み、該組成物はサプリメント組成物又はフード組成物であり、該組成物は、子イヌ又は子ネコの在胎、授乳、離乳、又はこれらの組み合わせから成る群から選択される過程の間に各自の母体動物に投与される、方法。」

ここで,「0.1重量%?1.0重量%」との記載は,本願明細書の段落【0043】及び【0044】の記載からみて,「必須脂肪酸構成成分」の重量%を限定するものではなく,「DHA」の重量%を限定するものとして認定した。

本件補正により,発明を特定するために必要な事項(以下,「発明特定事項」という。)として請求項1に記載された「DHA」の重量%が,補正前の「0.06重量%?1.0重量%」から,「0.1重量%?1.0重量%」へと限定された。

したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物である
横田明重,「ラット胎仔および新生仔の脳における多価不飽和脂肪酸組成と学習能力との関係」,日本産科婦人科学会雑誌,45巻,1号,社団法人日本産科婦人科学会,平成5年1月,第15?22頁(以下,「引用例」という。)
には,図表とともに次の事項が記載されている。

(a)「ω3系多価不飽和脂肪酸(以下ω3系PUFAと略す)は必須脂肪酸として脳,網膜,精巣に多く存在し,その欠乏により種々の障害を引き起こすといわれている.ω3系PUFAが極端に少ないサフラワー油食によりω3系PUFA欠乏ラット(SA群)を作成し,胎仔,新生仔および離乳ラットの脳の脂肪酸組成と学習能力の関係について検討し,以下の結果を得た.
1.SA群は,脳のDHAがControl群(SO群)に比し減少した.
2.SA群ではSO群に比してARが低値であり学習能力の低下がみられた.
3.?5.<略>
すなわち,母獣の摂取する食餌により胎仔の脳,分娩後の母乳,新生仔の脳の脂肪酸組成は影響を受け,さらに離乳ラットの脳の脂肪酸組成は直接摂取する食餌の影響を受けることがわかった.また,脳のDHAの比率に並行して学習能力が変化することがわかつた.
以上のことより,DHAの脳構成成分としての重要性,妊娠中,分娩後の母獣の摂取する食餌の中のω3系PUFAの重要性が示された.…」(第15頁「概要」欄)

(b)「哺乳類は飽和脂肪酸,1価不飽和脂肪酸を脂質やglucoseなどから合成できるが,PUFAを体内で生合成する能力はない.これは,哺乳動物にはΔ^(3)disaturase,Δ^(6)disaturaseが存在せず,ω位の炭素より3番目,6番目に二重結合を作ることができないためで,その供給源を食事に頼らざるを得ない.
胎児においても同様で,胎児は母体より胎盤,臍帯を経てのみPUFAが供給されるため母体の摂取する食事が重要となる.
また,PUFAにはω6系,ω3系が存在し,互いに変換しないことが知られている.」(第16頁左欄第17?29行目)

(c)「ω6系PUFAは細胞のmicrosome内でリノール酸,アラキドン酸(arachidoic acid,以下AAと略す)を経て最終産物であるC22:5ω6となり,ω3系PUFAも同様にαリノレン酸,エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid,以下EPAと略す)を経て最も長鎖のドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid,以下DHAと略す)に合成される.」(第16頁左欄第30?37行目)

(d)「Neuringer et al.はこのうち,ω3系PUFA(特にDHA)は他の組織に比し脳に高率に存在すると報告した.このことは神経組織におけるω3系PUFAの重要性を示唆している.
そこで今回著者は,ウイスター系ラットを用いて,ω3系PUFA欠乏モデルを作成し,胎仔,新生仔の脳の脂肪酸分析を行い,胎仔期より出生後におけるω3系PUFA代謝の動態を検討した.さらに,ω3系PUFA欠乏時の中枢神経系に与える影響をShuttle Boxを用いて検討した.」(第16頁左欄第38行目?同頁右欄第6行目)

(e)「実験材料および方法
1. 飼料の作成
実験に用いた飼料は,総カロリーは394kcal/100g.dietに設定し,糖質71.6カロリー%,蛋白質10.2カロリー%,脂質18.2カロリー%とした.このうち,脂質にω3系PUFA,ω6系PUFAともに豊富に含んだ大豆油(Soy oil)を用いた大豆油食(SO食),ω3系PUFAの欠乏しているサフラワー油(Saflower oil)を用いたサフラワー油食(SA食)を作成した.
脂肪酸の組成は,表1aのごとくω6系PUFAであるリノール酸はサフラワー油食で76.87%と大豆油食の54.7%に比し高く,一方ω3系PUFAであるαリノレン酸は大豆油食で7.13%とサフラワー油食の0.54%に比し高い値であった.」(第16頁右欄第7?21行目)

(f)「表1a 各飼料の脂肪酸分析(%)


」(第18頁左欄)

(g)「2. 実験モデルの作成
(1) SO群,SA群の作成
200g前後のウイスター系雌ラットをω3系およびω6系PUFAを豊富に含んだ大豆油食あるいはω3系PUFA欠乏のサフラワー油食にて14日間飼育後それぞれを別個に交配した.翌朝腟栓が確認できたものを妊娠1日とし,妊娠中も各々交配前と同様の飼料を与えた.
また,分娩に至つたものは母獣に妊娠時と同様の飼料を与えた.新生仔は母乳にて保育させた.生後21日に離乳し,離乳後の第二世代ラット(以下離乳ラットと略す)も同種の飼料にて飼育した.
大豆油食にて飼育した母獣の胎仔,新生仔,離乳ラットをSO群(コントロ-ル),サフラワー油食にて飼育した母獣の胎仔,新生仔,離乳ラットをSA群とし,それぞれ体重を測定した.」(第16頁右欄第22?37行目)

(h)「実験成績
…<中略>…
3. SO群,SA群の大脳の脂肪酸組成
(1) SO群,SA群の大脳におけるリノール酸,αリノレン酸の推移
リノール酸は母獣血清,母乳,飼料には高率に含まれたが胎仔期,新生仔期を通じてほぼ一定でSO群,SA群に差はなかつた(表3).
一方,αリノレン酸はSO群,SA群のどの時期においてもほとんど検出されなかつた(表3).」(第17右欄第26行目,第18頁左欄第2?9行目)

(i)「(3) SO群,SA群の大脳におけるC22:5ω6,DHAの推移
ω6系PUFAのうちC22:5ω6はSA群でSO群に比し有意に高率で,SO群では胎仔期,新生仔期,離乳後となるにつれて徐々に減少する傾向を示した.しかし,SA群では一定の傾向はなかつた(図1a).
一方,DHAは,大脳に存在するω3系PUFAの大部分を占めていたが,すべての時期を通じてSO群がSA群に比して有意に高率であつた(図1b).」(第18頁右欄第6行目?第19頁右欄第4行目)

(j)「4. SO群,SA群の条件回避学習の成績
SA群のARは明らかにSO群よりも低値を示し,SO群では第3 sessionよりほぼ100%となつたが,SA群では第20 sessoinに至つても30?40%と低値だつた(図2a).」(第19頁右欄第5?9行目)

(k)「考察
…<中略>…
今回,著者は飼料中のPUFA源にαリノレン酸,リノール酸を用いて飼育し,これらは母獣血中,母乳中に比較的高率に存在した.これらはmitochondriaやmicrosomeに存在するdesaturase,elongaseにより,長鎖のPUFAに合成されるが,胎仔,新生仔では種々の臓器において,その活性は低いといわれている.そのため,αリノレン酸やリノール酸からAA,EPA,C22:5ω6,DHAへの合成能は低く,これらの長鎖のPUFA供給源を母獣に頼っている可能性が高い.
我々の検討でも胎仔期,新生仔期および離乳ラットの大脳における脂肪酸組成は胎仔では母獣の摂取する飼料,新生仔および離乳ラットでは摂取する母乳や飼料の影響を強く受けた.Neuringer and Connorは摂取する食餌中のω3/ω6比は0.10?0.25が適当で,それ以下になるとω3系PUFA欠乏状態となると報告している.著者の検討でもサフラワー油(ω3/ω6=0.01)を用いて飼育すると仔の大脳のω3系PUFA欠乏,すなわちDHAの低下が顕著となった.さらにこのDHAの低下とともにω3系PUFA欠乏食の摂取がラットの学習能の遅延を招くことが明かとなつた.
これは,脳細胞の燐脂質二重膜構造中にDHAが高率に含まれることからω3系PUFA欠乏が燐脂質二重膜構造や神経伝達物質に変化をもたらし,脳の機能に異常を引き起こした可能性を示唆している.」(第20頁左欄第6行目,同頁右欄第9行目?第21頁左欄第15行目)

(l)「今回実験に用いたサフラワー油食のように極端なω3系PUFA欠乏は,本邦の妊産婦の栄養摂取上では可能性が少ないが軽度のω3系PUFA欠乏が長期にわたる可能性は考えられる.そのような場合,胎児や,ω3系PUFAの欠乏した母乳により哺育された新生児の脳の成長に影響を及ぼす可能性がある.
したがつて,児の脳の発育過程にある胎児期,新生児期及び乳児期早期の栄養においてはω3系PUFA欠乏が起こらないように留意することが必要となつてくる.」(第21頁左欄第36行目?同頁右欄第5行目)

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ウイスター系ラットの第二世代ラットのシャトル・ボックスによる条件回避学習能力を高めるための方法であって,飼料の脂肪酸分析%で0.14%のドコサヘキサエン酸を含むω3系及びω6系多価不飽和脂肪酸を豊富に含み,10.2カロリー%の蛋白質及び18.2カロリー%の脂質を含む大豆油を用いた飼料を各自の母獣に与え,該飼料は,第二世代ラットの胎仔,離乳期を含む新生仔の間に各自の母獣に与えられる,方法。」

3.対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「ウイスター系ラットの第二世代ラット」と,本願補正発明の「子イヌ又は子ネコ」とは,「哺乳動物の仔」である点で共通する。
また,引用発明の「シャトル・ボックスによる条件回避学習能力を高めるための方法」は,本願補正発明の「学習する能力を高めるための方法」に相当し,以下同様に,
・「飼料」又は「大豆油を用いた飼料」は,「組成物」又は「フード組成物」に,
・「ドコサヘキサエン酸」は,「DHA」に,
・「ω3系及びω6系多価不飽和脂肪酸」は「必須脂肪酸構成成分」に,
・「蛋白質」は,「タンパク質」に,
・「脂質」は,「脂肪」に,
・「母獣」は,「母体動物」に,
・飼料を「与え」ることは,組成物を「経口投与すること」又は「投与」することに,
・「胎仔,離乳期を含む新生仔の間」は,「在胎、授乳、離乳、又はこれらの組み合わせから成る群から選択される過程の間」のうちの「在胎、授乳、離乳の組み合わせから成る過程の間」に,
それぞれ相当する。
また,引用発明の「飼料の脂肪酸分析%で0.14%のドコサヘキサエン酸を含むω3系及びω6多価不飽和脂肪酸を豊富に含」むことと,本願補正発明の「乾燥物質基準で、組成物の0.1重量%?1.0重量%のDHAを含む必須脂肪酸構成成分を含」むこととは,「組成物の所定割合のDHAを含む必須脂肪酸構成成分を含」む点で共通し,同様に,
・「10.2カロリー%の蛋白質及び18.2カロリー%の脂質を含む大豆油を用いた飼料」と,本願補正発明の「乾燥物質基準で、組成物の20重量%?50重量%のタンパク質及び5重量%?35重量%の脂肪を含む組成物」とは,「組成物の所定割合のタンパク質及び所定割合の脂肪を含む組成物」である点で共通する。

してみると,両発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「哺乳動物の仔の学習する能力を高めるための方法であって,組成物の所定割合のDHAを含む必須脂肪酸構成成分を含み,更に,組成物の所定割合のタンパク質及び所定割合の脂肪を含む組成物を各自の母体動物に経口投与することを含み,該組成物はフード組成物であり,該組成物は,哺乳動物の仔の在胎,授乳及び離乳の組み合わせから成る過程の間に各自の母体動物に投与される,方法。」

[相違点1]
「哺乳動物の仔」が,本願補正発明では,「イヌ」又は「ネコ」の仔であるのに対して,引用発明では「ウイスター系ラット」の仔である点。

[相違点2]
「組成物」に含まれる「DHA」の割合が,本願補正発明では,「乾燥物質基準で、組成物の0.1重量%?1.0重量%」であるのに対して,引用発明では「飼料の脂肪酸分析%で0.14%」である点。

[相違点3]
「組成物」に含まれる「タンパク質」及び「脂肪」の割合が,本願補正発明では,「乾燥物質基準で、組成物の20重量%?50重量%のタンパク質及び5重量%?35重量%の脂肪」であるのに対して,引用発明では「10.2カロリー%の蛋白質及び18.2カロリー%の脂質」である点。

4.判断
上記相違点について以下に検討する。

(1)相違点1について
引用例には,上記摘記事項(d)に記載されるように,ω3系多価不飽和脂肪酸(特にDHA)が脳に高率に存在し,神経組織において重要であるにもかかわらず,上記摘記事項(b)に記載されるように,引用発明における学習能力向上のための有効成分であるω3系多価不飽和脂肪酸(DHAもその類型に含まれる)の合成能力を,哺乳動物が有さないことが開示されおり,また,上記摘記事項(l)には,「ウイスター系ラット」における実験成績を,同じ哺乳動物である人間に類推適用するという考察も示されていることから,当業者であれば,引用発明の方法を哺乳動物一般に適用できると考えるのが合理的である。
一方,「イヌ」及び「ネコ」が哺乳動物であることは一般常識である。
さらに,「DHA」を「イヌ」や「ネコ」に投与することの有効性や必要性に関する知見も,例えば,平成21年1月14日付けの拒絶理由通知書において,周知例として原審審査官により提示されている以下の文献に開示されるように周知である。

A.特開平6-319465号公報
(特に,段落【0002】,【0036】及び【0037】を参照)
B.特開平8-70786号公報
(特に,段落【0003】?【0005】を参照)
C.Mark K.Waldron et al.,"Role of long-chain polyunsaturated n-3 fatty acid in the development of nervous system of dogs and cats", Journal of American Veterinary Medical Accociation, Vol.213, No.5, 平成10年9月1日,第619?622頁
(特に,第620頁左欄第39?53行目の記載を参照)

してみると,哺乳動物に適用可能な引用発明の方法を,哺乳動物である「イヌ」又は「ネコ」に適用し,上記相違点1に係る本願補正発明の方法とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。

(2)相違点2について
引用発明の「ω3系多価不飽和脂肪酸」は,上記摘記事項(c)に記載されるように,哺乳動物の体内で「DHA」に合成されるものであり,このことは,引用例の実験においても,上記摘記事項(h)に記載されるように,大豆油(SO)飼料の中でω3系多価不飽和脂肪酸の大部分を占めていたαリノレン酸が,当該飼料を摂取した母獣の仔(SO群)からはほとんど検出されない一方で,上記摘記事項(i)に記載されるように,DHAがSO群の大脳からはSA群との比において有意に高率であったこととしても示されている。すなわち,引用例には,飼料に含まれるDHA以外のω3系多価不飽和脂肪酸が,母獣又は仔の体内においてDHAに合成され,そのDHAが仔の大脳に高率に存在することによる有効性も開示されている。
また,引用発明の飼料は,飼料の脂肪酸分析%で0.14%のDHAを含むものであり,また,上記(1)欄において公知文献A?Cを挙げて示したように,DHAを動物に投与することも周知であるので,引用発明の飼料に一定量のDHAを含有させることを妨げる要因も見当たらない。
よって,引用発明における有効成分としてのω3系多価不飽和脂肪酸を,引用発明の飼料に対して,DHAの形で配合するか,DHA以外のω3系多価不飽和脂肪酸の形で配合するか,すなわち,両者の配合比は,当業者が適宜選択し得た事項であるというべきである。

つぎに,飼料に添加するDHAを含むω3系多価不飽和脂肪酸の量を調整することの困難性について検討する。
本願明細書に記載された実施例2における,組成物中のDHA重量%と成功基準達成率との関係について整理すると,以下の表のような関係にあると認められる。

[表]組成物中のDHA重量%と成功基準達成率との関係
DHA重量% │ 成功基準達成率
────────┼─────────
0.14 │ 100%
0.08 │ 66%
0.02 │ 50%

上記関係からは,DHA重量%が0.14に至るまでは,DHA重量%を増加させるごとに成功基準達成率が増加するという効果が読み取れるが,このように,有効成分の添加による効果が,その添加量がある一定量に達するまでは添加量が増すにつれて増大し,一定量に達した後は,添加量の量を増やしても頭打ちになるという特性は,一般的なものであって臨界的意義を有するものではない。そして,一般的な特性の中で,最適な添加量を調整することに技術的困難性はない。

してみると,上記相違点1についての検討に基づき,引用発明の方法を哺乳動物である「イヌ」又は「ネコ」に適用する場合に,引用発明の飼料におけるDHAを含むω3系多価不飽和脂肪酸の含有量を,「イヌ」又は「ネコ」において学習能力向上効果が奏されるように調整したうえで,ω3系多価不飽和脂肪酸のうちのDHAの配合比を適宜選択することによって,上記相違点2に係る本願補正発明のようなDHAの含有量とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。

(3)相違点3について
ドックフード又はキャットフードとして,上記相違点3に係る本願補正発明の「タンパク質」及び「脂肪」の割合のものは,きわめて一般的なものである。
してみると,上記相違点1についての検討に基づき,引用発明の方法を哺乳動物である「イヌ」又は「ネコ」に適用する場合に,飼料における「タンパク質」及び「脂肪」の割合として,ドックフード又はキャットフードとして一般的なものを採用し,上記相違点3に係る本願補正発明の割合とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。
なお,この点に関しては,本願明細書の段落【0046】において,審判請求人も「(DHA又は必須脂肪酸以外の)その他の構成成分は、本明細書で用いられる組成物に包含するのに有益であるが、本発明の目的にとっては任意であ」り,「イヌ科動物又はネコ科動物による使用を意図されたフード及びサプリメント組成物は、一般的に当該技術分野において既知である。」と説明しているところである。

(4)効果の予測性について
上記(1)欄に記載したように,当業者であれば,引用発明の方法を哺乳動物一般に適用できると考えるのであるから,同方法を「イヌ」又は「ネコ」に適用することにより,引用例に開示された学習能力向上効果と同程度の効果がこれらの哺乳動物において奏されることも,当業者が予測し得た事項である。

(5)請求人の主張について
(イ)DHAの重量%の臨界的意義に係る主張
審判請求人は,平成23年2月7日付けの審判請求書の手続補正書2.(c)欄において,「本願発明者は、本願請求項1に係る発明の構成を採用すること、特に、組成物中に0.1重量%?1.0重量%のDHAを含むことが、特に学習能力の向上に効果的であることを見出しました。」として,本願明細書に記載の実施例2の結果を根拠に挙げ,「よって、補正後の請求項1に記載の構成を有する発明の効果は、引用文献1を参照しても当業者が予測できない顕著な効果であり、当該DHA重量%の数値範囲は、臨界的意義を有しているものと思料します。」と主張している。

しかしながら,本願明細書の実施例2の記載から整理した上記(2)欄に記載した[表]の関係からは,DHAの含有量として0.1重量%?1.0重量%の数値を採用した場合に,特に効果的であるという事実を読み取ることはできない。
しかも,本件補正発明には,発明特定事項として「組成物の0.1重量%?1.0重量%のDHAを含む必須脂肪酸構成成分を含み」と記載されているように,「DHA」の含有量は特定しているものの,当該「DHA」とともに含むことができ哺乳動物の体内でDHAに合成される「必須脂肪酸構成成分」の含有量を特定していない。この点については,上記実施例2についても同様である。してみると,上記[表]における成功基準達成率が,専ら「DHA」が寄与したことによる結果であるのか,それともDHA以外の「必須脂肪酸構成成分」による寄与が合算されたことによる結果であるのかも不明である。
よって,審判請求人の上記主張は採用できない。

(ロ)引用例の開示内容に係る主張
審判請求人は,回答書において,「引用文献1においてはω3系/ω6系の配合比がDHAの合成能に影響を及ぼすことを主に記載してあり、直接的に母ラットの食餌にDHAを別途添加すること、および直接添加したDHAに対する仔ラットへの影響については何らの記載も示唆もありません。従って、引用文献1の記載から母ラットの食餌に直接DHAを添加することは当業者に容易に想到するものではありません。そして、その配合量がどの程度で適量となるかは引用文献1からは容易に想到しません。」と主張している(当審注:当該主張中の「引用文献1」は,本審決における「引用例」に相当)。
しかしながら,審判請求人の上記主張は,上記(2)欄に記載した理由により,採用できない。

(6)まとめ
よって,本願補正発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

なお,審判請求人は回答書において,「DHA」の重量%の数値限定を,本願補正発明の「0.1重量%?1.0重量%」から「0.14重量%?1.0重量%」へと補正する用意がある旨を主張しているが,そのような補正によっても,上記(2),(4)及び(5)(イ)欄で示した判断と同様な判断により,進歩性が肯定されるものではないことを付記する。

5.むすび
したがって,本件補正は,改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明の認定
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成21年5月20日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「子イヌ又は子ネコの学習する能力を高めるための方法であって、乾燥物質基準で、組成物の0.06重量%?1.0重量%のDHAを含む必須脂肪酸構成成分を含み、更に、乾燥物質基準で、組成物の20重量%?50重量%のタンパク質及び5重量%?35重量%の脂肪を含む組成物を各自の母体動物に経口投与することを含み、該組成物はサプリメント組成物又はフード組成物であり、該組成物は、子イヌ又は子ネコの在胎、授乳、離乳、又はこれらの組み合わせから成る群から選択される過程の間に各自の母体動物に投与される、方法。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は,上記第2.[理由]2.欄に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は,上記第2.欄で検討した本願補正発明の発明特定事項として記載された「DHA」の重量%の数値限定の範囲を,「0.1重量%?1.0重量%」から「0.06重量%?1.0重量%」へと拡大したものに相当する。

そうすると,本願発明の数値限定の範囲を狭めたものに相当する本願補正発明が,上記第2.[理由]4.欄に記載したとおり,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様な理由により,これらに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-10 
結審通知日 2011-11-15 
審決日 2011-12-02 
出願番号 特願2006-527167(P2006-527167)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A23K)
P 1 8・ 121- Z (A23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 隆彦  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 仁科 雅弘
中川 真一
発明の名称 子イヌ又は子ネコの学習する能力を高めるための方法及びキット  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 大宅 一宏  
代理人 梶並 順  
代理人 古川 秀利  
代理人 曾我 道治  
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