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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2009800222 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 産業上利用性  H04N
審判 全部無効 2項進歩性  H04N
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  H04N
管理番号 1255679
審判番号 無効2011-800083  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-05-27 
確定日 2012-04-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第4271698号発明「受像装置,チューナー,テレビ受像機および再生装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 【第1】手続の概要

本件特許第4271698号は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成17年11月30日(優先日、平成16年12月 2日、平成12年12月13日、平成12年12月16日)に出願した特願2005-346467号の一部を平成18年 9月22日に新たな特許出願として出願され、
平成21年 3月 6日に設定登録されたものであって、手続きの概要は以下の通りである。

本件(分割)出願 平成18年 9月22日
{特願2006-257288号、
原出願:特願2005-346467号(平成17年11月30日出願、
特許法第41条に基づく優先権主張 平成16年12月 2日、
平成12年12月13日、平成12年12月16日)}
設定登録(請求項の数6) 平成21年 3月 6日
本件無効審判請求(請求人) 平成23年 5月27日
答弁書(被請求人) 平成23年 8月26日付け
審理事項通知書(合議体) 平成23年11月 7日付け
(両当事者に対して)
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成23年12月 1日付け
口頭審理陳述要領書(被請求人)平成23年12月22日付け
口頭審理 平成24年 1月12日


【第2】特許請求の範囲

本件特許第4271698号の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示装置を接続した状態で用いられる受像装置であって、
外部から入力されるアスペクト比16:9の映像を示す映像信号に基づき、該映像信号で示される映像を表示装置に表示させる表示制御手段と、
前記表示制御手段による映像の表示方法として、標準サイズによる表示方法、および、該標準サイズの映像におけるX軸,Y軸それぞれを4/3倍に拡大した拡大サイズによる表示方法、のいずれか一方を示す表示サイズを記憶装置に記憶させることにより、映像の表示方法を設定する表示方法設定手段と、
前記表示制御手段による映像の表示方法を前記標準サイズによる表示方法または前記拡大サイズによる表示方法へ切り替えるための操作を受け付ける切替操作受付手段と、
アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域である無画部を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変換された付加映像,であることを識別するための識別信号が、外部から入力される映像信号に付加されている場合に、該映像信号で示される映像が前記付加映像であると判定する、といった処理を映像信号が入力されている間繰り返し実行する付加映像判定手段と、
当該受像装置に接続される表示装置の有する表示エリアのアスペクト比を記憶する表示エリア記憶手段と、を備え、
前記表示方法設定手段は、前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶され、かつ、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合に、前記拡大
サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定して、また、前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定して、以降、再度設定変更をするまでの間その設定状態を継続しており、
前記表示制御手段は、前記表示方法設定手段により記憶装置に記憶された表示サイズで示される表示方法により、映像信号で示される映像を前記表示装置に表示させる、ように構成されており、
さらに、
前記表示方法設定手段は、前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合、表示方法の設定変更を行わない一方、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで表示方法を前記拡大サイズに設定変更して、
前記切替操作受付手段は、前記付加映像判定手段による判定が行われた後に、前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付けて、
また、
前記表示方法設定手段は、前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶されている場合に、前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定する
ことを特徴とする受像装置。
【請求項2】
前記表示方法設定手段は、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合に、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定して、また、前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合に、前記切替操作受付手段により操作が受け付けられたら、その操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の受像装置。
【請求項3】
アンテナを介して入力される地上波デジタル放送信号から任意の放送信号を抽出する選局部と、
該選局部により抽出された放送信号を復調してなるTS(Transport_Stream)信号を出力する復調器と、
該復調器により出力されたTS信号をデコードしてなる映像データを出力するデコード処理部と、を備えており、
前記表示制御手段は、
映像をデータとして記憶するためのフレームメモリに、前記デコード処理部により出力された映像データを書き込んだ後、該フレームメモリから映像データの読み出しを行い、該読み出した映像データに基づく映像を表示装置に表示させると共に、
前記表示方法設定手段により前記拡大サイズによる表示方法が設定されていれば、前記フレームメモリに記憶された映像データを、該映像データで示される映像が前記標準サイズから前記拡大サイズに拡大された映像となるようにアドレス変換した後で読み出すのに対し、前記標準サイズによる表示方法が設定されていれば、前記フレームメモリに記憶された映像データをアドレス変換することなくそのまま読み出す、ように構成されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受像装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の受像装置と、
アンテナを介して入力される地上波デジタル放送信号から任意の放送信号を抽出する選局部と、
該選局部により抽出された放送信号を復調してなるTS(Transport_Stream)信号を出力する復調器と、
該復調器により出力されたTS信号をデコードしてなる映像データを出力するデコード処理部と、からなり、
前記受像装置の備える表示制御手段は、
映像をデータとして記憶するためのフレームメモリに、前記デコード処理部により出力された映像データを書き込んだ後、該フレームメモリから映像データの読み出しを行い、該読み出した映像データに基づく映像を表示装置に表示させると共に、
前記表示方法設定手段により前記拡大サイズによる表示方法が設定されていれば、前記フレームメモリに記憶された映像データを、該映像データで示される映像が前記標準サイズから前記拡大サイズに拡大された映像となるようにアドレス変換した後で読み出すのに対し、前記標準サイズによる表示方法が設定されていれば、前記フレームメモリに記憶された映像データをアドレス変換することなくそのまま読み出す、ように構成されている
ことを特徴とするチューナー。
【請求項5】
アンテナにより受信された放送信号に基づいて映像信号を生成する復調手段と、
アスペクト比4:3の表示エリアを有する表示装置と、
請求項1から3のいずれかに記載の受像装置と、からなるテレビ受像機であって、
前記受像装置における表示制御手段が、前記復調手段により生成された映像信号で示される映像を、前記表示方法設定手段により設定された表示方法により前記表示装置に表示させる、ように構成されている
ことを特徴とするテレビ受像機。
【請求項6】
記憶部に記憶された映像信号を読み出して該映像信号で示される映像を再生する映像再生手段と、
請求項1から3のいずれかに記載の受像装置と、を備えた再生装置であって、
前記受像装置における表示制御手段が、前記映像再生手段により再生される映像を示す映像信号で示される映像を、前記表示方法設定手段により設定された表示方法により表示装置に表示させる、ように構成されている
ことを特徴とする再生装置。」

〈構成要件の分説〉

下記の請求項(無効が請求されている請求項)は、それぞれ、上記のとおりの構成要件をその構成としたものと認められるところ、以下での検討の便宜上、各構成要件を次のとおり1A,1B・・・,2A・・などと下記のとおりに分説する(以下、この分説に従って、「(要件)1A」などという。なお、このように分説することについて当事者間に争いはない。)。

記(請求項1?6の構成要件の分説)

【請求項1】
1A
表示装置を接続した状態で用いられる受像装置であって、
1B
外部から入力されるアスペクト比16:9の映像を示す映像信号に基づき、該映像信号で示される映像を表示装置に表示させる表示制御手段と、
1C
前記表示制御手段による映像の表示方法として、標準サイズによる表示方法、および、該標準サイズの映像におけるX軸,Y軸それぞれを4/3倍に拡大した拡大サイズによる表示方法、のいずれか一方を示す表示サイズを記憶装置に記憶させることにより、映像の表示方法を設定する表示方法設定手段と、
1D
前記表示制御手段による映像の表示方法を前記標準サイズによる表示方法または前記拡大サイズによる表示方法へ切り替えるための操作を受け付ける切替操作受付手段と、
1E
アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域である無画部を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変換された付加映像,であることを識別するための識別信号が、外部から入力される映像信号に付加されている場合に、該映像信号で示される映像が前記付加映像であると判定する、といった処理を映像信号が入力されている間繰り返し実行する付加映像判定手段と、
1F
当該受像装置に接続される表示装置の有する表示エリアのアスペクト比を記憶する表示エリア記憶手段と、を備え、
1G
前記表示方法設定手段は、前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶され、かつ、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合に、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定して、
また、前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定して、以降、再度設定変更をするまでの間その設定状態を継続しており、
1H
前記表示制御手段は、前記表示方法設定手段により記憶装置に記憶された表示サイズで示される表示方法により、映像信号で示される映像を前記表示装置に表示させる、ように構成されており、
さらに、
1I
前記表示方法設定手段は、前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合、表示方法の設定変更を行わない一方、
前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで表示方法を前記拡大サイズに設定変更して、
1J
前記切替操作受付手段は、前記付加映像判定手段による判定が行われた後に、前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付けて、
また、
1K
前記表示方法設定手段は、前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶されている場合に、前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定する
ことを特徴とする受像装置。
【請求項2】
2A
前記表示方法設定手段は、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合に、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定して、また、
2B
前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合に、前記切替操作受付手段により操作が受け付けられたら、その操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の受像装置。
【請求項3】
3A
アンテナを介して入力される地上波デジタル放送信号から任意の放送信号を抽出する選局部と、
3B
該選局部により抽出された放送信号を復調してなるTS(Transport_Stream)信号を出力する復調器と、
3C
該復調器により出力されたTS信号をデコードしてなる映像データを出力するデコード処理部と、を備えており、
3D
前記表示制御手段は、
映像をデータとして記憶するためのフレームメモリに、前記デコード処理部により出力された映像データを書き込んだ後、該フレームメモリから映像データの読み出しを行い、該読み出した映像データに基づく映像を表示装置に表示させると共に、
3E
前記表示方法設定手段により前記拡大サイズによる表示方法が設定されていれば、前記フレームメモリに記憶された映像データを、該映像データで示される映像が前記標準サイズから前記拡大サイズに拡大された映像となるようにアドレス変換した後で読み出すのに対し、
3F
前記標準サイズによる表示方法が設定されていれば、前記フレームメモリに記憶された映像データをアドレス変換することなくそのまま読み出す、ように構成されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受像装置。
【請求項4】
4A
請求項1から3のいずれかに記載の受像装置と、
4B
アンテナを介して入力される地上波デジタル放送信号から任意の放送信号を抽出する選局部と、
4C
該選局部により抽出された放送信号を復調してなるTS(Transport_Stream)信号を出力する復調器と、
4D
該復調器により出力されたTS信号をデコードしてなる映像データを出力するデコード処理部と、からなり、
4E
前記受像装置の備える表示制御手段は、
映像をデータとして記憶するためのフレームメモリに、前記デコード処理部により出力された映像データを書き込んだ後、該フレームメモリから映像データの読み出しを行い、該読み出した映像データに基づく映像を表示装置に表示させると共に、
前記表示方法設定手段により前記拡大サイズによる表示方法が設定されていれば、前記フレームメモリに記憶された映像データを、該映像データで示される映像が前記標準サイズから前記拡大サイズに拡大された映像となるようにアドレス変換した後で読み出すのに対し、
4F
前記標準サイズによる表示方法が設定されていれば、前記フレームメモリに記憶された映像データをアドレス変換することなくそのまま読み出す、ように構成されている
ことを特徴とするチューナー。
【請求項5】
5A
アンテナにより受信された放送信号に基づいて映像信号を生成する復調手段と、
5B
アスペクト比4:3の表示エリアを有する表示装置と、
5C
請求項1から3のいずれかに記載の受像装置と、からなるテレビ受像機であって、
5D
前記受像装置における表示制御手段が、前記復調手段により生成された映像信号で示される映像を、前記表示方法設定手段により設定された表示方法により前記表示装置に表示させる、ように構成されている
ことを特徴とするテレビ受像機。
【請求項6】
6A
記憶部に記憶された映像信号を読み出して該映像信号で示される映像を再生する映像再生手段と、
6B
請求項1から3のいずれかに記載の受像装置と、を備えた再生装置であって、
6C
前記受像装置における表示制御手段が、前記映像再生手段により再生される映像を示す映像信号で示される映像を、前記表示方法設定手段により設定された表示方法により表示装置に表示させる、ように構成されている
ことを特徴とする再生装置。


【第3】当事者の主張

【第3-1】請求人の主張(請求)

[1]請求の趣旨(概要)
本件特許請求の範囲の請求項1?6についての特許を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。

[2]請求の理由

(1)無効理由1(進歩性欠如、29条第2項)
本件特許発明1、2は、甲第1号証から甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
本件特許発明3、4、5は、甲第1号証から甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
本件特許発明6は、甲第1号証から甲第8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許発明1?6は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由2(産業上利用可能性、29条第1項柱書き)
本件特許発明1?6は、産業上利用することができる発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項柱書の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許発明1?6は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(3)無効理由3(実施可能性、36条第4項第1号)
本件特許における発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が実施をすることができる程度に明確且つ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項に規定された記載要件を満たしていない。
したがって、本件特許発明1?6は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

[3]請求の理由の要点

[3.1]無効理由1(進歩性欠如、29条第2項)の具体的要点

請求人が主張する上記無効理由1の要点は、主引例を甲第2号証とし、これに副引例である甲第1,3?8号証を組み合わせて容易とするものである。
特に争点となっている本件特許発明1について記載する。

(1-1)一致、相違
本件特許発明1と甲第2号証(甲2発明)との対比

ア 構成要件1Aの対比
甲第2号証には、表示装置を接続した状態で用いられる受像装置であることが記載されている。(特許請求の範囲、段落【0015】)

イ 構成要件1Bの対比
甲第2号証には、受像する映像信号が16:9の映像信号であり、これを表示装置であるブラウン管3に表示させることが記載されている。(特許請求の範囲、段落【0015】)

ウ 構成要件1Cの対比
甲第2号証には、図2(b)に示すように、16:9映像ソースを真円性を保つように表示すること、すなわち、16:9映像ソースをそのまま表示する標準サイズによる表示方法が記載されている。(段落【0020】)
一方、図3(b)に示すように、サイドパネル方式では、16:9映像中の4:3映像ソース部を拡大表示することが記載されており、拡大サイズによる表示方法が記載されている。(段落【0021】)
甲第2号証に記載の装置は、アスペクト比に応じた表示を行うが、これは制御回路等により行われることが明示されており(例えば、段落0020)、記憶装置が介在していることは明らかである。よって、記憶装置について明示されていないとしても、制御回路等による表示の制御が行われていることが記載されている以上、表示サイズを記憶装置に記憶することは、当業者であれば当然に導き出せる事項であり、刊行物に記載されているに等しい事項といえるのは当然である。よって、構成要件1Cは、甲第2号証に記載されている。

エ 構成要件1Dの対比
甲第4号証には、「図1では、変換モード選択手段を1回路3接点のスイッチSWで構成し、ワイド、ズーム、スクイズの3種類の画面片間モードを設定する構成を示したが、、、(中略)、、、赤外線等を利用したワイヤレスリモコン信号の受信部とリモコン指令検出部を備えた変換モード選択手段であってもよい(段落【0021】)。」との記載がある。したがって、甲第4号証には、外部からの操作を受け付けて表示サイズを切り換えること、及びそのための操作を受け付ける手段が備えられていることが記載されている。

オ 構成要件1Eの対比
甲第2号証には、サイドパネル判別回路12により、サイドパネル方式の映像信号であるか否かを判定することが記載されている(段落【0017】、【0025】)。また、この処理は、映像信号が入力されると行われるため、内容が絶えず変化するデジタル放送では上述した処理は当然に繰り返し行われていると認められる。よって、「繰り返し実行されていること」は明示されていないものの、当然に行われる処理であるため、実質的な相違にはならない。
特に、構成要件1Eは付加映像か否かの判定を行うことに特徴があるため、なんらかの信号を用いること自体は単なる設計事項といえる。例えば、甲第1号証には、4:3サイドパネル信号の存在が記載されている(段落【0003】)。

カ 構成要件1Fの対比
甲第2号証には、アスペクト比が4:3のブラウン管5が接続されている。つまり、装置として、表示手段のアスペクト比が4:3であることが設定されている(段落【0015】)。
甲第2号証の段落【0015】には、「3はアスペクト比4:3のブラウン管」と明示されており、表示手段のアスペクト比が4:3であると明確に記載されている。そして、そのようなブラウン管を接続する限り、表示エリアのアスペクト比が記憶されるのは当業者であれば、当然に導き出せる事項であり、甲第2号証に記載されているに等しい事項といえる。よって、構成要件1Fは、甲第2号証に記載されている。

キ 構成要件1Gの前段の対比
前段の「前記表示方法設定手段は、前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶され、かつ、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合に、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定」することについて、
甲第2号証には、アスペクト比が4:3のブラウン管が接続されており、サイドパネル判別回路12により、サイドパネル方式の映像信号であると判断されると、16:9映像中の4:3映像ソース部を拡大表示することが記載されている(段落【0015】、【0021】、【0022】、図3(b))。

ク 構成要件1Gの後段の対比
「前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定して、以降、再度設定変更をするまでの間その設定状態を継続」することについて、
甲第4号証には、「変換モード選択手段3を1回路3接点のスイッチSWで構成し、ワイド、ズーム、スクイズの3種類の画面変換モードを設定する構成を示したが、1個のノンロックキーを押下する毎に各モードを順次切り替える構成でもよいし、また、各モードに対応するキーとこのテレビジョン信号変換装置1の他の機能を設定する各種機能キーとをキーマトリックス状に配置し、キー入力検出回路等でキー入力を検出し、該当するモードを設定する構成でもよく、さらに、赤外線等を利用したワイヤレスリモコン信号の受信部とリモコン指令検出部を備えた変換モード選択手段であってもよい(段落【0021】)。」と記載されている。したがって、画面表示を変換モード選択手段で受け付けることが記載されており、さらに、例示されている「1個のノンロックキーを押下する毎に各モードを順次切り替える構成」であれば、再度設定変更をするまでの間その設定状態が継続される。よって、構成要件1Gは甲第4号証に記載されているといえる。
甲第3号証にも、電源がオフにされたとき、その時点で設定されていたワイドモードが、テレビジョン受像機に内蔵されている不揮発性メモリに記憶され、次に電源がオンにされたとき、不揮発性メモリに記憶されたワイドモードで表示されることが記載されている(段落【0003】)。すなわち、設定が変更されるまでは、記憶装置に記憶された表示モードが設定された状態を維持することが記載されていると認められる。

ケ 構成要件1Hの対比
甲第4号証には、ワイド、ズームなどの画像の表示モードは変換モード選択手段3によって変換されるため、変換された表示モードで映像が表示されることは明らかである(段落【0003】、【0019】?【0021】)。

コ 構成要件1Iの前段の対比
前段の「前記表示方法設定手段は、前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合、表示方法の設定変更を行わない」ことについて、
甲第2号証には、図6に示すように、16:9の映像信号を受信したとき、サイドパネル方式の信号であること、つまり付加映像か否かの判定が行われることが記載されている。そして、サイドパネル方式の信号ではないと判定されたときには、16:9のまま表示することが記載されている。なお、サイドパネル方式の信号である場合には、4:3の映像ソース部の拡大表示を行うことが記載されている。
甲第4号証には、アスペクト比が16:9の高品位テレビジョン信号、つまり、図6に示すように、付加映像ではない信号を受信することが記載されている。そして、ワイド、ズームなどの画像の表示モードは変換モード選択手段3によって変換されるため、変換されるまでは表示モードは変更されないことは明らかである(段落【0003】、【0019】?【0021】)。

サ 構成要件1Iの後段の対比
後段の「前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで表示方法を前記拡大サイズに設定変更」することについて、
甲第2号証には、アスペクト比が4:3のブラウン管が接続されており、サイドパネル判別回路12により、サイドパネル方式の映像信号であると判断されると、16:9映像中の4:3映像ソース部を拡大表示することが記載されている(段落【0015】、【0021】、【0022】、図3(b))。

シ 構成要件1Jの対比
付加映像判定手段により判定が行われた後の表示方法は、拡大サイズまたは標準サイズのいずれかである。したがって、「前記表示制御手段による映像の表示方法を切り換えるための操作を受け付ける」とは、映像が、拡大サイズまたは標準サイズのいずれかの状態で表示されたときに行われる。
甲第4号証には、変換モード選択手段で、表示サイズを変更することが記載されているため、操作を受け付けるときの状態は、付加映像の判定後の状態と全く同じである。したがって、構成要件1Jで特定されている処理は、甲第4号証に記載されているといえる。
映像信号の判定の後にも、表示サイズの変更を受け付けることは当業者が適宜なし得る技術であり、この点に特徴があるということはできない。
甲第1号証(段落0044)には、サイドパネル信号をはじめとする種々の信号を判断し、テレビの種類に応じて表示サイズを決定する技術が開示されているが、その判断後の表示サイズが決定された後にも、ユーザが任意に表示サイズを変更できることが記載されている。
したがって、「付加映像の判定の後」の処理ということは本件特許発明1の特有の特徴とはいえず、構成要件1Jは甲第4号証に記載されているといえる。

ス 構成要件1Kの対比
甲第4号証には、4:3のアスペクト比のブラウン管等で映像を表示することが記載されており(段落【0002】等)、さらに、構成要件1Dで説明したように、甲第4号証には、外部からの操作を受け付けて表示サイズを切り換えること、及びそのための操作を受け付ける手段が備えられていることが記載されている(段落【0003】、【0019】?【0021】)。

(1-2)容易想到
本件特許発明1と甲2発明とは、構成要件1A、1B、1C、1E、1F、1Gの前段、及び1Iの一部に関して一致している。
そして、本件特許発明1と甲2発明とは、構成要件1D、1Gの後段、1H、1Iの前段の一部、1J、1Kに関して相違するものの、これらは甲第1号証,甲第3号証,及び甲第4号証に記載されている。
甲第4号証には、付加映像ではない映像信号の処理のみが記載されているため、甲第2号証と組み合わせるには、当然に付加映像の判定後(本件特許公報の図8のS410以降)の構成として組み合わせることになる。
すなわち、甲第2号証及び甲第4号証に共通する部分は、サイドパネルがない部分の処理であるため、当業者が甲第2号証及び甲第4号証に触れたときには、当然に共通する部分を中心にして組み合わせを行うはずである。
そうすると、甲第4号証は、甲第2号証に対し、サイドパネルの有無の判定、つまり付加映像の判定の後に組み合わせるのが自然であり、このような組み合わせを行うと、参考図1の構成、つまり本件特許発明1を容易に想到する。
「前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付け」るタイミングを「前記付加映像判定手段による判定がなされた後」とすることについて、甲第2号証に付加映像の有無の判定を行うことが明確に記載されている以上、この判定に対して、どのタイミングで甲第4号証を組み合わせるべきかということは、上記のように、甲第2号証と甲第4号証に触れた当業者が当然に導き出せる事項である。甲第1号証には、信号の種別によって表示方法を決定した後に、ユーザが表示サイズの切換を行うことが記載されており(段落0044)、そのようなタイミングの選択自体に特徴があるとは到底いえない。
ユーザが自ら表示サイズの切り替えを行う要望があることは、甲第1,3,及び4号証に記載の通り周知の事実であり、さらに、信号の種別によって表示方法が決定した後にも、なお表示サイズの切り替えを行うことは特別な要望のタイミングではなく、甲第1号証の記載からも動機付けがあるといえる。
よって、甲第2号証及び第4号証に触れた当業者が共通する部分を見出して組み合わせることが容易であることに加え、甲第1,第3,及び第4号証号証に記載のユーザの要望に鑑みても、甲第4号証を、サイドパネルの判定の後に甲第2号証に組み合わせて本件特許発明1とすることは当業者にとって容易になし得ることである。

[3.2]無効理由2(産業上利用可能性、29条第1項柱書き)の具体的要点

-請求書-
「アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域である無画部を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変換された付加映像,であることを識別するための」「識別信号」は、現実の放送信号には存在しないから、本件特許発明は、発明の課題を解決するための手段は示されているものの、その手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能なものといえ、特許法上の発明に該当しない。
また、理論的にはその発明を実施することは可能であっても、その実施が実際上考えられないともいえるため、本件特許発明は、産業上利用できない発明である。
以上より、本件特許発明は、産業上利用することができる発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項柱書の規定により特許を受けることができないものである。

[3.3]無効理由3(実施可能性、36条第4項第1号)の具体的要点

-請求書-
本件特許発明において特定される識別信号は、実際には存在しないため、本件特許公報における発明の詳細な説明を参酌したとしても、本件特許発明を作ることも、使用することもできない。
よって、本件特許における発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が実施をすることができる程度に明確且つ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項に規定された記載要件を満たしていない。

[3.4]証拠方法
〈審判請求書〉
甲第1号証 特開2003-169269号公報
甲第2号証 特開2002-369029号公報
甲第3号証 特開平8-95536号公報
甲第4号証 特公平8-28865号公報
甲第5号証 特開2001-346125号公報
甲第6号証 特開平10-224708号公報
甲第7号証 特開2000-56745号公報
甲第8号証 特開平9-247629号公報
甲第9号証 デジタル放送用受信装置 標準規格 ARIBSTD-B215.0版


【第3-2】被請求人の主張(答弁)

[1]答弁の趣旨及び理由の概要
本件無効審判の請求は成り立たない。
審判費用は請求人の負担とする。

無効理由1ないし無効理由3は、請求項1?6についての特許を無効とする理由にはならない。
請求項1?6についての特許は維持されるべきものである。

[2]答弁の理由の具体的要点

[2.1]無効理由1(進歩性欠如、29条第2項)について

-口頭審理陳述要領書(平成23年12月22日)-
いずれの引例にも開示されていない本件特許発明の構成要件があるばかりか、甲2に対して甲1、甲3及び甲4を組み合わせることができないことから、かかる請求人の主張は誤りである。

(1)本件特許発明1について

特に誤りが明確な相違点である構成要件1D、1F、1G、1J及び1Kの認定に対して反論する。

(1-1)相違点の判断について

ア 構成要件1Dについて
甲4に構成要件1Dに関する技術が開示されていることは認めるが、甲2発明と組み合わせることの動機付けは存在しない。
甲4記載の技術は、アスペクト比16:9の映像信号をアスペクト比4:3の映像信号へ変換するテレビジョン信号変換装置において、ユーザがワイドの画面変換モード及びズームの画面変換モードを切り換える技術が開示されているといえるが(甲4【0001】、【0003】、【0007】、【0009】及び【0021】)、甲2発明にかかる技術を組み合わせることの動機付けは存在しない。
甲2発明は、ユーザに違和感を与えないために自動で画面を切り替えることを目的としたものであり、そうであれば、ユーザの切り替え操作を受け付けるという構成は想定されるものではない。むしろユーザが操作しなくてもよいようにできる限り自動で自然な映像を表示させようとすることが課題として挙げられ、そのための構成が中核的な部分となっているものである。
そうであれば、ユーザの操作により画面のモードを設定するという構成を組み合わせることにつき、動機付けがないことはもちろんのこと、むしろ阻害要因とも考えられる事情が認められる。
したがって、甲2発明に甲4記載の技術を組み合わせることの容易性は認められるものではなく、構成要件1Dについて容易想到性は否定される。
また、甲4には、段落【0021】において、物理的なスイッチで表示サイズの切替操作を受け付ける構成が具体的に開示されているが、本件特許発明が意図するような、表示サイズの切替操作をどのタイミングで受け付けてどのように操作内容を反映させるのかといったソフトウェア的な構成は一切開示されておらず、この構成を当業者が作れる程度にまで開示されているとはいえない。

イ 構成要件1Fについて
アスペクト比4:3の表示装置を接続することが前提となっている甲2の構成においては、接続される表示装置のアスペクト比に応じた信号の入出力を行うように構成されていれば、必ずしも接続される表示装置のアスペクト比を記憶する必要はない。むしろ、そのように構成することは、単にコスト増加要因となるだけであるため、積極的に採用する動機付がない。よって、甲2に構成要件1Fが記載されているということはできない。

ウ 構成要件1Gについて
甲2発明について構成要件1Dの切替操作受付手段の容易想到性が否定されるのと同じ理由から構成要件1G(特に1G後段)についても組合わせの容易性は否定される。
甲2には、アスペクト比に応じた表示が制御回路に制御されることが開示されているだけで、表示サイズを記憶装置に記憶することはもちろん、それにより表示方法を設定するための具体的な構成が一切開示されていないことから、そもそも甲2に切替操作受付手段である構成要件1C、1Gは開示されていない。
(なお、口頭審理陳述要領書(平成23年12月22日、被請求人)の第8頁において前記「構成要件1C」なる記載(3箇所)が認められるが、「切替操作受付手段である構成要件1C」と記載されているように、本来「切替操作受付手段」を記載した「構成要件1D」とすべきであることは明らかであるから、前記「構成要件1C」なる記載(3箇所)は明らかに誤記であって、正しくは「構成要件1D」と認められる。)

エ 構成要件1Jについて
付加映像の判定の後に切替え操作を受け付けるという構成については、甲4にも記載がない。すなわち甲2には切替え操作を受け付けるという発想がなく、甲4には自動で表示するという発想がない以上両者の順序を規定する構成が開示されていないのはある意味当然のことである。
本件特許発明1の課題を確認すると、自動拡大機能があるにもかかわらず、なおユーザによる画面の拡大操作を受け付けるのは、「アスペクト比16:9にアスペクト変換された映像を示す映像信号は、本来付加映像を示すものであるにも拘わらず、何らかの事情により識別信号が含まれないまま放送されていることも多い」ことから(甲2【0019】)、このような場合にはユーザによる切替え操作を受け付ける必要があるからである。
本件特許発明1は、かかる課題を解決するため、自動拡大機能に加えて、構成要件1Dの切替操作受付手段を具備しており、さらに構成要件1Jで付加映像の判定の後に、切替え操作を受け付けるという手順が明示されているものである。かかる点が本件特許発明1の特徴点と呼べるものである。
このように、甲2発明にこの甲4記載の技術を組み合わせることの動機付けは存在しておらず、特に構成要件1Jについてはどの文献にも開示がない。
したがって、構成要件1Jについて容易想到性は否定される。
(なお、口頭審理陳述要領書(平成23年12月22日、被請求人)第8?9頁の「エ 構成要件1Jについて」において「(甲2【0019】)」と記載されているが、この段落(甲2【0019】)が引用している記載は、本件特許発明1の課題についての記載であり、本件特許明細書の段落【0019】には同様の記載が認められ、甲第2号証の段落【0019】にはそのような記載が認められないことから、前記「(甲2【0019】)」という前記記載は誤りであって、正しくは「(本件特許明細書【0019】)」と認められる。)

請求人は、甲1の段落【0044】の記載から、「映像信号の判定の後にも、表示サイズの変更を受け付けることは当業者が適宜なし得る技術であり、この点に特徴があるということはできない」としているが、甲1における上記段落【0044】の記載をみると、「テレビに設けられた画面サイズ切換機能を用いて」とあることからも明らかなように、ここでいう「画面サイズ切換」とは、あくまでもテレビ側の画面サイズをテレビ側の操作で切り替えることを示しているに過ぎない。
そうすると、甲1には、デジタル放送受信機3(本件発明における受像装置)とは別の装置において、その画面サイズを切り替えられることが明示されているだけであり、デジタル放送受信機3側における映像信号の判定と技術的に全く関係ない事項である。
よって、構成要件1Jで特定されている処理は、甲1の記載に照らしても、依然として甲4に記載されているということはできない。

オ 構成要件1Kについて
甲2発明について構成要件1Dの切替操作受付手段の容易想到性が否定されるのと同じ理由から構成要件1Kについても組み合わせの容易性は否定される。

[2.2]無効理由2(産業上利用可能性、29条第1項柱書き)について

-答弁書-
示されている手段としての識別信号が実際に存在しているか否かは、技術的な課題解決の方法が明示されてさえいれば、「発明」に該当するか否かの判断において無関係である。この点、本件特許発明は、識別信号に基づいて判定を行うという技術的な課題解決の方法が明示されたものであるため、当然に「発明」に該当し、産業上利用可能性のあるものである。
よって、本件特許発明は、特許法第29条第1項柱書に違反しない。

[2.3]無効理由3(実施可能性、36条第4項第1号)について

-答弁書-
本件特許発明でいう識別信号は、実際に存在するものであり、この信号に基づいて動作する本件特許発明を作ることも使用することも当然に可能である。よって、本件特許発明における発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が実施をすることができる程度に明確且つ十分に記載したものであるため、特許法第36条第4項に規定された記載要件を満たすものである。


[2.4]証拠方法
〈口頭審理陳述要領書〉
乙第1号証 マスプロ電工株式会社の開発部に所属している丹羽寛之氏による陳述書
(ARIBの標準規格での識別信号について)
乙第2号証 弁護士法第23条の2による照会に対する回答
(日本放送協会技術局計画部宮崎洋光氏
ARIB標準規格にいう「Aspect_ratio_information」について)
乙第3号証 弁護士法第23条の2による照会に対する回答
(放送大学学園
「Aspect_ratio_information」「2」とした信号について)



【第4】当審の判断

【第4-1】無効理由1(進歩性欠如、29条第2項)について

請求人の主張する無効理由1の要点は、
本件特許発明1、2は、甲第1号証から甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
本件特許発明3、4、5は、甲第1号証から甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
本件特許発明6は、甲第1号証から甲第8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許発明1?6は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
というものであり、詳しくは、本件特許発明1と甲第2号証記載の発明とは、要件1D、1Gの後段、1H、1Iの前段の一部、1J、1Kで相違するが、この相違は甲第1号証,甲第3号証,及び甲第4号証から当業者が容易に克服し得た、というものである
{前記【第3-1】[2](1)[3.1]}。

以下、甲第2号証,甲第4号証などを、「甲2」、「甲4」などともいい、甲第2号証記載の発明を「甲2発明」などともいう。

[1]本件特許発明1

ア 構成要件(分説)
本件特許発明1は、【第2】で前記した請求項1記載の構成要件をその構成としたものと認められ、前記のとおり以下のように分説される。

(本件特許発明1(分説)、再掲)
【請求項1】
1A
表示装置を接続した状態で用いられる受像装置であって、
1B
外部から入力されるアスペクト比16:9の映像を示す映像信号に基づき、該映像信号で示される映像を表示装置に表示させる表示制御手段と、
1C
前記表示制御手段による映像の表示方法として、標準サイズによる表示方法、および、該標準サイズの映像におけるX軸,Y軸それぞれを4/3倍に拡大した拡大サイズによる表示方法、のいずれか一方を示す表示サイズを記憶装置に記憶させることにより、映像の表示方法を設定する表示方法設定手段と、
1D
前記表示制御手段による映像の表示方法を前記標準サイズによる表示方法または前記拡大サイズによる表示方法へ切り替えるための操作を受け付ける切替操作受付手段と、
1E
アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域である無画部を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変換された付加映像,であることを識別するための識別信号が、外部から入力される映像信号に付加されている場合に、該映像信号で示される映像が前記付加映像であると判定する、といった処理を映像信号が入力されている間繰り返し実行する付加映像判定手段と、
1F
当該受像装置に接続される表示装置の有する表示エリアのアスペクト比を記憶する表示エリア記憶手段と、を備え、
1G
前記表示方法設定手段は、前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶され、かつ、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合に、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定して、(1G前段)
また、前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定して、以降、再度設定変更をするまでの間その設定状態を継続しており、(1G後段)
1H
前記表示制御手段は、前記表示方法設定手段により記憶装置に記憶された表示サイズで示される表示方法により、映像信号で示される映像を前記表示装置に表示させる、ように構成されており、
さらに、
1I
前記表示方法設定手段は、前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合、表示方法の設定変更を行わない一方、
前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで表示方法を前記拡大サイズに設定変更して、
1J
前記切替操作受付手段は、前記付加映像判定手段による判定が行われた後に、前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付けて、
また、
1K
前記表示方法設定手段は、前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶されている場合に、前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定する
ことを特徴とする受像装置。

イ 本件特許発明1の特徴

〈実施例との対応〉
上記構成要件1A?1Kからなる本件特許発明1は、本件明細書記載の第2実施形態に対応するものであることは明らかである。

〈目的・課題〉
下記明細書の記載に照らせば、本件特許発明1は、
4:3の映像を画像が存在しない黒枠(以下無画部という)の付加された16:9のハイビジョン映像にアスペクト変換した映像を、アスペクト比4:3の表示装置で表示した場合、映像の周囲に無画部が表示され実際の表示エリアよりも小さい映像として表示される(図3)こととなってしまう、という問題点を解決するためになされたものであり、
アスペクト比4:3の映像からアスペクト変換した映像であっても、4:3の表示装置で表示した場合に、無画部の少ない映像として表示することのできるようにすることを課題とするものであり、
さらに、
付加映像(画像の左右にそれぞれ無画部が付加された映像)については、
拡大サイズによる表示方法で表示したとしても、画像の存在する領域が表示エリアからはみ出してしまうということがなく、ユーザが標準サイズによる表示方法で表示すべきと考える可能性が低く、拡大サイズによる表示方法で表示しても大きな問題はないし、むしろ無用な混乱を避けユーザによる無用な操作負担を軽減する,といった観点から、自動的に拡大サイズで表示できるようにし、
付加映像でない映像(はじめから16:9のアスペクト比で生成された映像)については、
ユーザによっては上下の無画部を少なくしたいと考えることもありうるが、この映像を拡大サイズによる表示方法で表示すると、拡大により上下の無画部が少なくなることに伴って、画像が存在している左右の端部側領域をも表示エリアからはみ出させることになり、ユーザによっては上下の無画部をそのままで表示したいと考えることもありうることから、ユーザの要望を満たす意味では、任意に映像の表示方法を選択できるようにすることが特に有効であるといえることや、
アスペクト比16:9にアスペクト変換された映像を示す映像信号は、本来付加映像を示すものであるにも拘わらず、何らかの事情により識別信号が含まれないまま放送されていることも多い。このような場合、識別信号の有無で付加映像であるか否かを判定する構成では、付加映像であるにも拘わらず、はじめからアスペクト比16:9で生成された映像であると判定してしまい、無画部で囲まれた映像を表示装置に表示させてしまう恐れがあること、
から、任意に映像の表示方法を選択できるようにする
ことを目的とするものである。

〈作用・動作〉
そして、上記要件により規定される本願特許発明1は、1Fの「当該受像装置に接続される表示装置の有する表示エリアのアスペクト比を記憶する表示エリア記憶手段」に4:3のアスペクト比が記憶されている場合、
特に、1Cの「表示方法設定手段」による映像の表示方法の設定について、次のように作用し動作するものである。

[ケース1]-識別信号が付加されている間
入力される映像信号に「アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域である無画部を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変換された付加映像,であることを識別するための識別信号」が付加されている間は、
1Eの「付加映像判定手段」での判定が繰り返し実行されて、付加映像であると判定され、1Iの「前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させ」、
1G前段「前記表示方法設定手段は、前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶され、かつ、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合に、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定し」、
1I「前記表示方法設定手段は、前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合、表示方法の設定変更を行わない一方、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで表示方法を前記拡大サイズに設定変更して」
このとき、
1Dで特定される「前記表示制御手段による映像の表示方法を前記標準サイズによる表示方法または前記拡大サイズによる表示方法へ切り替えるための操作を受け付ける切替操作受付手段」は、
1Jで「前記切替操作受付手段は、前記付加映像判定手段による判定が行われた後に、前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付けて」、
1G後段「前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定して」で、「標準サイズ」を設定したとしても、
「映像信号が入力されている間繰り返し実行」される次の「付加映像判定手段」における判定で、再び「付加映像であると判定」され(1E)、「前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定して」(1G前段)となる。
すなわち、識別信号が付加されている間は、「切替操作受付手段」による操作に関わらず、判定手段による拡大設定がなされる(強制的に自動拡大される)。

[ケース2]-識別信号が付加されていない間
一方、入力される映像信号に「識別信号」が付加されていない間は、
1Eの「付加映像判定手段」での判定が繰り返し実行されても、
1Iの「前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合、表示方法の設定変更を行わない」で表示方法の設定変更を行わないから、サイズ設定の変更はされない。
このとき、
1Dで特定される「前記表示制御手段による映像の表示方法を前記標準サイズによる表示方法または前記拡大サイズによる表示方法へ切り替えるための操作を受け付ける切替操作受付手段」は
1Jで「前記切替操作受付手段は、前記付加映像判定手段による判定が行われた後に、前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付けて」、
1G後段「前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定して」で、「標準サイズ」を設定した場合、
「映像信号が入力されている間繰り返し実行」される次の「付加映像判定手段」における判定でも「表示方法の設定変更を行わない」から、「標準サイズ」が設定される。
また、1G後段で「拡大サイズ」を設定した場合は、「拡大サイズ」が設定される。
すなわち、識別信号が付加されていない間は、1Eの付加映像判定手段の判定結果に関わらず、切替操作受付手段による操作どおりの設定になる。(手動設定)

〈本件特許発明1の特徴〉
以上によれば、本件特許発明1は、上記課題を解決し上記目的を達成するために、上記要件1A?1Kの構成を採り、もって上記作用・動作をするものと認めることができる。
そして、その特徴は、
上記識別信号-アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域である無画部を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変換された付加映像,であることを識別するための識別信号-
が付加されている間は、(確実に付加映像であると判るので)手動の「切替操作受付手段」による操作に関わらず、自動的に拡大表示を設定するように動作し作用し、
上記識別信号が付加されていない間は、手動の「切替操作受付手段」による操作どおりの標準または拡大表示を設定するように動作し作用することにあると認められ、
かかる動作・作用をもたらすための要件である、1D、1E、1I,1J、1G(前後段)(の組合せ構成)
-「付加映像判定手段」(1E)と「切替操作受付手段」(1D)による「表示方法設定手段」(1C)が行う表示方法の設定との関係について、
「付加映像判定手段」を、1Eで「付加映像,であることを識別するための識別信号が、外部から入力される映像信号に付加されている場合に、該映像信号で示される映像が前記付加映像であると判定する、といった処理を映像信号が入力されている間繰り返し実行する」とし、
「切替操作受付手段」を、1Jで「前記切替操作受付手段は、前記付加映像判定手段による判定が行われた後に、前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付けて、」とした上で、
・1G(前段)「前記表示方法設定手段は、前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶され、かつ、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合に、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定して、」
・1G(後段)「また、前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定して、以降、再度設定変更をするまでの間その設定状態を継続しており、」とし、
・1I「前記表示方法設定手段は、前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合、表示方法の設定変更を行わない一方、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで表示方法を前記拡大サイズに設定変更して、」とする組み合わせ構成-
は、本件特許発明1の中心的特徴をなす構成要件であるということができる。

記(本件明細書の記載)
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし,上記提案の技術では水平偏向手段や垂直偏向手段を持っているテレビジョン受像機では任意の倍率に画像をズームして表示することができるが,水平偏向手段や垂直偏向手段を有しない装置ではこの開示された技術を適用することができない。
【0004】
また,近年地上波デジタル放送が開始されアスペクト比16:9のハイビジョン映像が普及しつつある。ところが、従来の4:3の映像も多々存在しており,放送局の都合により,4:3の映像を画像が存在しない黒枠(以下無画部という)の付加された16:9のハイビジョン映像にアスペクト変換したものを放送する場合がある。
【0005】
このような映像は、アスペクト比4:3の表示装置で表示した場合、映像の周囲に無画部が表示されるため、実際の表示エリアよりも小さい映像として表示されることとなってしまう。このように表示装置の表示エリアに比べて小さな画像しか表示できないため,消費者に受け入れられにくくデジタル放送用受信装置の普及を阻害する要因になっている。
【0006】
そこで本願においては、こうした問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、アスペクト比4:3の映像からアスペクト変換した映像であっても、4:3の表示装置で表示した場合に、無画部の少ない映像として表示することのできるようにすることである。

【0010】
ただ、映像の表示方法を設定可能とするのは、外部から入力した映像信号が、画像の存在しない領域(以降、「無画部」という)をアスペクト比4:3の映像に付加してなる付加映像でないことを条件に実現する構成としてもよい。ここでいう付加映像でない映像とは、はじめから16:9のアスペクト比で生成された映像のことである。このような映像をアスペクト比4:3の表示装置に表示させる場合には、通常、その映像の上下に追加的に無画部を付加することで強制的にアスペクト比4:3としたうえで表示装置に表示させている。そのため、この場合には、表示装置における表示エリアの上部および下部に追加された無画部が表示されることになる。
【0011】
このような映像に対しては、ユーザによっては上下の無画部を少なくしたいと考えることもありうるが、この映像を拡大サイズによる表示方法で表示すると、拡大により上下の無画部が少なくなることに伴って、画像が存在している左右の端部側領域をも表示エリアからはみ出させることになる。このことを考慮すると、外部から入力した映像信号で示される映像が付加映像である場合には、任意に映像の表示方法を選択できるようにすることが、ユーザの要望を満たす意味では特に有効であるといえる。
【0012】
そこで、外部から入力した映像信号で示される映像が付加映像である場合において、任意に映像の表示方法を選択できるようにするために、第1の発明を、例えば、第2の発明のような受像装置とすることが考えられる。
(審決註:上記段落【0011】,【0012】における、「外部から入力した映像信号で示される映像が付加映像である場合」は、誤記であって、正しくは「外部から入力した映像信号で示される映像が付加映像でない場合」であることは明らかである。)

【0013】
この受像装置においては、外部から入力した映像信号に基づいて、該映像信号で示されるアスペクト比16:9の映像が、画像の存在しない無画部をアスペクト比4:3の映像に付加してなる付加映像であるか否かを判定する映像判定手段を備えている。そして、前記表示方法設定手段は、前記映像判定手段により付加映像でないと判定された場合に、ユーザの操作を受けての表示方法の設定を可能とする、ように構成されている。
【0014】
また、この構成において、映像判定手段により付加映像であると判定された場合には、映像の表示方法をいずれかの表示方法に自動的に設定するように構成してもよいが、特に拡大サイズによる表示方法に設定する構成とすることが以下に示す理由から好適といえる。すなわち、付加映像は、上述したように、無画部が付加された映像であって、4:3の表示装置に表示されるにあたり追加的に無画部が上下に付加されることから、多くの無画部で囲まれた小さな映像として表示される。このような映像であれば、拡大サイズによる表示方法で表示したとしても、画像の存在する領域が表示エリアからはみ出してしまうということが起こりにくい。その結果、ユーザが標準サイズによる表示方法で表示すべきと考える余地が少なくなるため、拡大サイズによる表示方法で表示しても問題はない。

【0016】
ところで、上述したように、映像信号は、はじめからアスペクト比16:9で生成された映像を示すものだけでなく、無画部を付加することでアスペクト比を16:9とした付加映像を示すものとしても放送されている。このような映像信号を放送する放送局では、付加映像を示す映像信号を、そのようなアスペクト変換をした映像を示すものであることを識別するための識別信号が含まれた信号として放送することが一般的である。
【0017】
そのため、上述した表示方法設定手段は、この識別信号に基づいて映像信号で示される映像が付加映像であるか否かを判定するように構成すればよい。このためには、例えば、上述したいずれかの発明を、第4の発明のような受像装置とすることが考えられる。
【0018】
この受像装置において、前記映像判定手段は、外部から入力した映像信号に、該映像信号で示される映像が前記付加映像であることを識別するための識別信号が含まれている場合に、該映像信号で示される映像が前記付加映像であると判定する、ように構成されている。
【0019】
なお、アスペクト比16:9にアスペクト変換された映像を示す映像信号は、本来付加映像を示すものであるにも拘わらず、何らかの事情により識別信号が含まれないまま放送されていることも多い。このような場合、識別信号の有無で付加映像であるか否かを判定する構成では、付加映像であるにも拘わらず、はじめからアスペクト比16:9で生成された映像であると判定してしまい、無画部で囲まれた映像を表示装置に表示させてしまう恐れがある。
【0020】
そこで、上述したように識別信号の有無での判定を用いない、または、識別信号の有無での判定を併用した状態で、例えば、第2?第4のいずれかの発明を、第5の発明のような受像装置とすることが考えられる。

【0097】
・・・
(2-2)作用,効果
以上のように構成されたデジタル放送用受信装置1によれば、第1実施形態と同様の構成から得られる作用,効果の他、以下に示すような作用,効果を得ることができる。
【0098】
例えば、表示データ読み出し処理においては、外部から入力した映像信号について、この映像信号で示される映像が付加映像でないと判定された以降(図8のS410で「No」)、表示モードの変更指示(ユーザによるリモコン装置3の操作)を受けての表示モードの設定が可能となる(同図S426→S428→S402→S410→S418?S428)。これにより、外部から入力した映像信号で示される映像が付加映像でない,つまりはじめからアスペクト比16:9で生成された映像である場合において、任意に映像の表示方法を選択できるようにすることができる。
【0099】
また、表示データ読み出し処理においては、外部から入力した映像信号で示される映像が付加映像であると判定された場合(図8のS410で「Yes」)、表示モードが「拡大表示」に設定される(同図S412)。つまり、外部から入力した映像信号で示される映像が付加映像である場合、自動で表示モードを「拡大表示」に設定することができる。
【0100】
上述したように、付加映像は、画像の左右にそれぞれ無画部が付加された映像であるため、4:3の表示装置2に標準サイズで表示する場合、更に無画部が上下に付加される結果、無画部で囲まれた小さな映像として表示されることとなる。このような映像であれば、拡大サイズによる表示方法で表示したとしても、画像の存在する領域が表示エリアからはみ出してしまうということがない。そのため、自動的に拡大サイズで表示した場合であっても、ユーザが標準サイズによる表示方法で表示すべきと考える可能性が低いといえるため、拡大サイズによる表示方法で表示しても大きな問題はない。むしろ、無用な混乱を避ける,ユーザによる無用な操作負担を軽減する,といった観点からは好適といえる。

[2]各甲号証の記載
各甲号証(甲第2,4,1,3,5,6,7,8号証)には、以下の記載がある。(なお、摘示した各記載事項に付した「(K1)」等の記号は、本審決で付した記号である。)

(1)甲第2号証(特開2002-369029号公報)
甲第2号証には以下の記載がある。
〈請求の範囲〉
(K2.1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
受像する映像信号が16:9の映像信号であり、かつサイドパネル方式の映像信号である場合は、垂直振幅と同じ伸張率になるように映像の水平振幅を制御することを特徴とする映像表示装置。
【請求項2】
16:9識別信号を検出する検出手段と、前記サイドパネル方式の映像信号であることを輝度信号の平均値比較より自動判別する手段を有し、16:9識別信号があり、かつ前記判別結果がサイドパネル方式の映像信号を示す場合、映像信号の水平時間軸の伸張率を切り換えることで、垂直振幅と同じ伸張率になるように映像の水平振幅を制御する手段を備えたことを特徴とする映像表示装置。」

〈目的・概要〉
(K2.2)「【0002】
【従来の技術】
映像表示装置のうち、4:3アスペクト比のブラウン管を有するテレビジョン受像機についてBSデジタル放送を表示する従来例を図7に従って説明する。
【0003】
図7において、BS電波は30のBSアンテナより受信される。BSデジタルチューナー100では31のチューナー部で希望の伝送チャンネルが選択され、32の復調部でデジタル信号列(以下、TS:トランスポートストリーム と記す)が取り出される。このTSは誤りがあれば誤り訂正された後、33の多重信号分離部に加わり、ここで使用者の希望する番組のデジタル信号(以下、TSP:トランスポートストリームパケット と記す)が取り出される。このときデータ識別はTSPのシーケンスヘッダー情報によりなされる。
【0004】
その後、TSPは34の復号部(MPEGデコーダー)で圧縮前のデジタル信号に復号され、35のD/Aコンバータでアナログの映像・音声信号に変換されて出力される。また、TSPのシーケンスヘッダー情報内のARI(Aspect Ratio Information)データは表示画面のアスペクト比を表し、このデータが16:9映像信号を示す場合は、36のアスペクト情報出力回路は16:9識別信号(またはスクイーズ信号)を出力する。
【0005】
一方、テレビジョン受像機200において映像信号は1の映像信号処理回路にて画質補正などかけられた後、2のドライブ回路によって3のアスペクト比4:3のブラウン管に映し出される。16:9の映像信号を表示する場合は、4:3と同じ垂直振幅設定では図2(a)に示すように真円性のない映像となるため、5の制御回路が6の垂直出力回路を制御することで垂直振幅を圧縮し、図2(b)のように真円性を保った状態で映像信号を16:9表示している。またその際、垂直振幅の圧縮によって生じた23の余白部分に帰線が見えないように7の垂直ブランキング追加回路でブランキングを追加している。
【0006】
前記制御は、使用者の操作信号を4のリモコン受光部が受けたとき、もしくは16:9識別信号(またはスクイーズ識別信号)が検出回路8により検出された場合に行われる。」

(K2.3)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上述した従来の方法では、BSデジタル放送のサイドパネル方式の16:9映像信号を表示する場合、4:3のアスペクト比のブラウン管を有するテレビジョン受像機においては、4:3映像ソース部を真円性を持たして表示させると図3(a)に示すようになり、使用者が得たい4:3映像ソース部の情報は真円性を保っても画面の小さい領域において表示され、画面全体に表示できず、表示画面を有効活用することが出来ないという問題点がある。
【0008】
また、サイドパネル方式の16:9映像信号の識別信号は16:9識別信号だけであるため、すなわちサイドパネル方式とは特別に認識されないため、従来の信号識別方式では、サイドパネル方式の16:9映像信号を識別したときには、真円性を保ちながら4:3のアスペクト比のブラウン管全体に表示する方法に自動的に切り換えることが出来ない。
【0009】
そこで、本発明は上記の問題を解決すべく、16:9識別信号を検出する手段と、入力信号がサイドパネル方式の映像信号であることを輝度信号の平均値比較より自動判別する回路を有し、16:9識別信号が検出され、かつ前記判別結果がサイドパネル方式を認識した場合、垂直振幅と真円性を保つように水平時間軸の伸張率を制御することで、BSデジタル放送で初めてとなるサイドパネル方式の16:9映像信号が入力された際、使用者が得たい4:3映像ソース部の情報を真円性を保ちながら4:3のブラウン管全体に表示する図3(b)の表示方式に自動的に切り換えることの出来るテレビジョン受像機を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、テレビジョン受像機において、16:9識別信号を検出する手段と、入力信号がサイドパネル方式の映像信号であることを輝度信号の平均値比較より自動判別する回路を有し、16:9識別信号が検出され、かつ前記判別結果がサイドパネル方式をしめした場合、垂直振幅と真円性を保つように水平時間軸の伸張率を制御することで、サイドパネル方式の16:9映像信号が入力された際、4:3映像ソース部の情報を真円性を保ちながら4:3のアスペクト比のブラウン管全体に表示する方式に自動的に切り換えることを特徴とするものである。」
【0011】
また、16:9のブラウン管の場合は、16:9識別信号が検出され、かつ前記判別結果がサイドパネル方式をしめした場合、図4に示すようにブラウン管全体に4:3映像ソース部の情報を表示するように水平時間軸の伸張率を制御することで臨場感のある画面表示を行うことも可能である。

〈実施例〉
(K2.4)「【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に記載の発明は、テレビジョン受像機において、垂直出力を可変する手段と、垂直ブランキングを可変する手段と、サイドパネル方式の16:9映像信号内の4:3映像ソースの水平時間軸の伸張率を制御する手段を備えたものであり、サイドパネル方式の16:9の映像信号を表示する場合、真円性を保ちながら4:3の映像ソース部分をブラウン管全体に表示するという作用を有する。
【0013】
本発明の請求項2に記載の発明は、前記請求項1記載のテレビジョン受像機において、16:9識別信号を検出する検出手段と、映像信号が前記サイドパネル方式の16:9映像信号であることを輝度信号の平均値比較より自動判別する手段と、サイドパネル方式の映像信号内の4:3の映像ソース部分の水平時間軸伸張率、垂直出力、垂直ブランキングを前記検出手段と前記自動判別手段の結果によって制御する手段を備えたものであり、16:9識別信号があり、かつ判別結果がサイドパネル方式の映像信号を示した場合、真円性を保ちながら4:3の映像ソース部分を4:3ブラウン管全体に表示する方法に自動的に切り換えることができる作用を有する。」

(K2.5)「
【0015】
(実施の形態1)
図1は本発明の映像表示装置の一実施の形態のブロック図である。図1において、1は映像信号処理回路、2はドライブ回路、3はアスペクト比4:3のブラウン管、13は制御回路、6は垂直出力回路、7は垂直ブランキング追加回路である。8は16:9識別信号を検出する検出回路、9はA/Dコンバーター、10は時間圧縮回路、11はD/Aコンバーターである。12は入力信号がサイドパネル方式であるか否か輝度信号の平均値比較より判断するサイドパネル判別回路である。次に、本実施の形態の映像表示装置の動作例を説明する。」

(K2.6)【0016】
図1において、A/Dコンバーター9はアナログ信号である映像信号をデジタル信号に変換する。時間伸張回路10はA/Dコンバーター9から出力されたデジタル信号を1水平周期分ずつメモリーに書き込む。そしてこの書き込まれた信号をD/Aコンバーター11に読み出すクロックは制御回路13によって制御される。
【0017】
時間伸張回路10を通ったデジタル信号はD/Aコンバーター11でアナログ信号に変換されたあと映像信号処理回路1、ドライブ回路2へ送られブラウン管3を駆動して表示される。12はサイドパネル判別回路で、A/Dコンバーター9によりデジタル信号に変換された映像信号のうち輝度信号の平均値比較をすることで、現在の映像信号がサイドパネル方式の映像信号であるか否かの判断をする。サイドパネル判別回路12の判別フローチャートは図5(b)のように構成される。」

(K2.7)「【0018】
判別回路12は、まず図5(a)の表示装置のブラウン管上においてサイドパネル検出領域28、サイドパネル検出領域29、4:3映像ソース部26のそれぞれの輝度信号の平均値(以下、輝度平均L1、輝度平均L2、輝度平均LSとそれぞれを記す)をA/Dコンバーター9によりデジタル化されたデータより求める。
【0019】
次に輝度平均L1、輝度平均L2を比較し、(輝度平均L1)=(輝度平均L2)であれば輝度平均L1と輝度平均LSを比較する。この結果が輝度平均L1≠輝度平均LSであり、この状態が事前に設定された回数(n回)連続すると現在の映像信号がサイドパネル方式の映像信号であると判断する。輝度平均Lsとの比較は輝度平均L2であっても良い。つまり、輝度平均L=輝度平均L2≠輝度平均LSの状態がn回連続するときサイドパネル方式の映像信号であると判断するフローチャート構成とする。」

(K2.8)「【0020】
制御回路13の制御フローチャートを図6に示す。制御回路13は検出回路8とサイドパネル判別回路12の出力を監視し、16:9識別信号のみが検出回路8で検出された場合、制御回路13は読み出すクロックを書き込みクロックと同一周波数とし、水平時間軸の伸張は行わない。同時に制御回路13は垂直出力回路6を制御し、真円性を保った16:9表示になるように垂直振幅をあらかじめ設定された大きさに圧縮する。また、その際垂直振幅の圧縮によって生じた図2(b)の23の余白部分に帰線が見えないように垂直ブランキング追加回路7でブランキングをかけるよう構成し図2(b)に示す通常の16:9表示を行う。
【0021】
一方、サイドパネル判別回路12の出力結果がサイドパネル方式の映像信号を示し、かつ16:9識別信号が検出回路8で検出された場合、制御回路13は読み出すクロックを書き込みクロックの3/4倍の周波数とすることで、水平時間軸の伸張を行う。同時に制御回路13は垂直出力回路7を制御し、真円性を保った4:3表示になるように垂直振幅の圧縮をやめ通常出力とする。
【0022】
また垂直ブランキング追加回路7でのブランキング追加をやめるように構成し、図3(b)で示すように真円性の保った4:3の映像ソース部分をブラウン管全体に表示する。」

〈作用・効果〉
(K2.9)「【0024】
以上の構成により、入力信号がサイドパネル方式の16:9映像信号である場合、真円性の保ったまま4:3の映像ソース部分を4:3ブラウン管全体に表示する方式に自動的に切り換えることが出来るという作用を有する。
【0025】
【発明の効果】
以上のように、本発明の映像表示装置によれば、入力信号がBSデジタルで初めてであるサイドパネル方式の16:9映像信号である場合、4:3の映像ソース部分を垂直振幅との真円性を保ちながらブラウン管全体に表示する方法に自動的に切り換えることが出来る映像表示装置を提供することが可能である。」

(2)甲第4号証(特公平8-28865号公報)
〈技術分野、課題、目的〉
(K4.1)「【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、広アスペクト比の映像信号を、変換モード選択手段で指定された画面モードの狭アスペクト比の映像信号へ変換する装置に係り、特に変換出力の画面モードに係る情報を輝度/色信号分離出力ケーブルを介して外部機器へ供給できるようにしたテレビジョン信号変換装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
NTSC方式等では4:3のアスペクト比を採用しているが、高品位テレビジョン方式ではアスペクト比を16:9と横長にし、また、走査線数を1125本とNTSC方式の約2倍にして臨場感のある高精細な画像を得るようにしている。
高品位テレビジョン方式等の広アスペクト比の映像信号を、NTSC方式等の狭アスペクト比のブラウン管等で再生したり、また、NTSC方式用のビデオテープレコーダ等の狭アスペクト比用の画像信号記録再生装置で記録再生するために、信号方式の変換を行なう装置が実用化されており、例えば、MUSE方式のハイビジョン信号を現行NTSC方式の映像信号へ変換するMUSE-NTSCダウンコンバータ等が知られている。
【0003】
MUSE-NTSCダウンコンバータ等のテレビジョン信号変換装置は、以下に述べるような複数種類の変換モードを備えている。
図6は変換モードの代表例を示す説明図である。
図6はアスペクト比16:9の高品位テレビジョン信号を、アスペクト比4:3の画像再生装置を用いて再生した場合の画像再現例を示したもので、同図(a)はワイドモード、(b)はズームモード、(c)はスクイズモードをそれぞれ示している。
【0004】
ワイドモードは、高品位テレビジョン信号の走査線を1/3に間引いて、変換後の画面の上下約30%をマスクしたものである。
ズームモードは、高品位テレビジョン信号の走査線を1/2に間引いて、高品位テレビジョン画面の左右にあたる部分の信号をカットしたものである。
スクイズモードは、高品位テレビジョン信号画面を左右方向に圧縮して、アスペクト比16:9の全画面情報をアスペクト比4:3の映像信号へ変換したものである。
【0005】
図6(b)に示したズームモードでは、アスペクト比4:3の画像再生装置の画像表示領域の全面に亘って映像を映し出すことができるが、アスペクト比16:9の画像の左右両側が表示されない。
図6(a)に示したワイドモードでは、左右の画像が欠落することはないが、アスペクト比4:3の画像表示領域の上下に映像信号の無い部分が生じ、アスペクト比4:3の画像表示領域を有効に使用できないとともに、525本の走査線を有効に利用できないため、垂直解像度が低下する。
【0006】
図6(c)に示したスクイズモードは、アスペクト比16:9の画像をその上下はそのままにして左右方向の時間圧縮を行なうので、このスクイズモードで変換した映像信号をアスペクト比4:3の画像再生装置で再生した場合、同図に示すように、画面の上下方向へ延びた画像が表示されるが、ブラウン管(CRT)を用いた画像再生装置では上下の偏向角を浅くすることで、また、プロジェクション方式の画像再生装置ではレンズ等の光学的手段を介して画像を左右方向へ広げることで、垂直解像度を犠牲にすることなく、広アスペクト比の画像を再生することができる。
【0007】
このため、従来のテレビジョン信号変換装置は、このような複数の画面変換モードを選択するスイッチ等の選択手段を備え、その用途に応じて変換モードを選択できるようにしている。 (…略…)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来のテレビジョン信号変換装置は、所望の画面変換モードの設定がなされても、変換された出力信号を再生する画像再生装置側へ、変換モードに係る情報を供給するように構成されていないので、前述した偏向角を調整できる画像再生装置や光学的に画像を左右方向へ伸ばして再生できる画像再生装置を用いていても、使用者が画面変換モードに対応して画像再生装置の再生アスペクト比を調整または切り替えなければならない。
このように、従来のテレビジョン信号変換装置は、操作性が悪く不便である。
【0009】
また、テレビジョン信号変換装置で変換した信号をビデオテープレコーダ等の画像信号記録再生装置で録画する場合、その画像信号記録再生装置が記録画像のモード設定スイッチ等を備え、設定された画像モードに係る情報を磁気テープ等の記録媒体に記録し、再生時に記録時の画像モードを読み出して画像再生装置等へ画像モードに係る情報を供給する構成であったとしても、テレビジョン信号変換装置側で設定した画像モードと同じ画像モードを画像信号記録再生装置側でも設定しなければならず、操作性の面で極めて不便である。
【0010】
この発明はこのような課題を解決するためなされたもので、その目的はテレビジョン信号変換装置の出力側に接続される外部機器へ、接続ケーブル等を変更することなく、変換出力の画像モードに係る情報を供給できるテレビジョン信号変換装置を提供することにある。」

〈実施例〉
(K4.2)「【0019】
【実施例】
以下、この発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
図1はこの発明に係るテレビジョン信号変換装置の全体ブロック構成図である。
このテレビジョン信号変換装置1は、入力端子2に印加される広アスペクト比の映像信号2aを、変換モード選択手段3から出力される変換画像モード指定信号MSに基づいて指定された画面モードで狭アスペクト比の輝度信号Yおよび色信号Cへ変換する信号方式変換部4と、各変換出力信号Y,Cを図示しない外部機器へ接続するための接続部5と、変換モード選択手段3で指定された画像モードに係る情報MJを生成して、色信号C側へ重畳する画像モード種別情報重畳手段6とを備える。
【0020】
信号方式変換部4の輝度信号出力端子4Yと接続部5の輝度信号出力端子5Yとの間のコンデンサCYは、輝度信号結合用のものである。
信号方式変換部4の色信号出力端子4Cと接続部5の色信号出力端子5Cとの間のコンデンサCCは、画像モードに係る情報MJが直流信号である場合は、その直流信号が信号方式変換部4内に流入するのを阻止するとともに、色信号を結合するためのものである。
【0021】
図1では、変換モード選択手段3を1回路3接点のスイッチSWで構成し、ワイド、ズーム、スクイズの3種類の画面変換モードを設定する構成を示したが、1個のノンロックキーを押下する毎に各モードを順次切り替える構成でもよいし、また、各モードに対応するキーとこのテレビジョン信号変換装置1の他の機能を設定する各種機能キーとをキーマトリックス状に配置し、キー入力検出回路等でキー入力を検出し、該当するモードを設定する構成でもよく、さらに、赤外線等を利用したワイヤレスリモコン信号の受信部とリモコン指令検出部を備えた変換モード選択手段であってもよい。」

(3)甲第1号証(特開2003-169269号公報)
〈技術分野、従来技術〉
(K1.1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、デジタル放送の受信に係り、特に映像アスペクト比情報表示の出力に関する。
【0002】
【従来の技術】
国内では、BSデジタル放送やCSデジタル放送等のデジタル放送が放送されている。これを、ユーザーが専用のデジタル放送受信機を用いて受信し、放送番組が視聴されている。
【0003】
デジタル放送で放送される放送番組の映像信号には放送ストリーム内に、4:3信号、16:9信号、4:3サイドパネル信号、16:9レターボックス信号の4種類の信号(映像アスペクト比情報)が重畳されている。」

〈実施例〉
(K1.2)「【0023】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、この発明の実施の形態に係るデジタル放送受信機のシステムブロック図である。ここではデジタル放送としてBSデジタル放送を例にとって説明するが、この発明は、BSデジタル放送に限定されるものではなく、地上波やCATVによるデジタル放送においても実施可能である。
【0024】
符号1はBSデジタル放送を受信するBSアンテナ、符号2はケーブル、符号3はデジタル放送受信機である。デジタル放送受信機3は符号11を付したチューナ、符号12を付したデコード装置、符号13を付した映像処理装置、符号14を付した映像&グラフィックMIX装置、符号15を付した信号情報取得装置、符号16を付したCPU、符号17を付したグラフィック処理装置、符号18を付したキー受付部を内蔵している。
【0025】
符号4はケーブル、符号5はテレビ(表示装置)である。符号6はアイコンであり、符号7を付した映像表示部の右上に表示される。
【0026】
BSアンテナ1で受信されたBSデジタル放送は、ケーブル2を経由してチューナ11へ伝送され、チューナ11で所望の放送番組が選択、受信される。
【0027】
チューナで受信されたデジタル放送はデコード装置12へ伝送され、デジタル放送のデコード処理が行われる。デコード装置12でデコードされたデジタル放送の映像情報は映像処理装置13へ伝送され、映像処理が行われる。映像処理装置13で映像処理された映像情報は映像&グラフィックMIX装置14へ伝送される。」

(K1.3)「【0028】
一方、デコード装置12でデコードされたデジタル放送の信号情報は信号情報取得装置15へ伝送され、デジタル放送で伝送された信号情報が取得される。信号情報取得装置15で取得された信号情報は、CPU16へ伝送される。
【0029】
ユーザは、デジタル放送受信機3に設けられたキーまたはリモートコントローラのキー(図示せず)を操作し、このキー操作情報がキー受付部18で受付けられ、CPU16へ伝送される。
【0030】
デジタル放送受信機3が設定され、映像が出力されるテレビ5は、上記ユーザのキー操作により、4:3テレビであるとか16:9テレビである等が設定される。
【0031】
CPU16内部には図示しないメモリが設けられており、上記設定された接続テレビ5の情報がこのメモリに、少なくともデジタル放送受信機3からテレビ5への映像出力以前には、予め記憶される。
【0032】
このメモリ内の接続テレビ情報は、ユーザが設定する以前は、例えばデフォルトで4:3または16:9と予め設定されていても良い。また、IEEE1394等の通信を用いた関係で、デジタル放送受信機3とテレビ5が接続される場合には、デジタル放送受信機3とテレビ5の接続時にデジタル放送受信機3がテレビ5と通信を行い、上記設定を自動的に行っても良い。」

(K1.4)「【0035】
テレビ(表示装置)5はこの映像出力を受信し、映像表示部7に表示する。ここでは、映像表示部7の右上にグラフィック表示のアイコン6が表示されている。
【0036】
デジタル放送受信機3の映像をモニターするためのテレビ5は、横と縦の比率が4:3の4:3テレビと横と縦の比率が16:9の16:9テレビの2種類が一般的である。
【0037】
そして、デジタル放送受信機3から出力された映像出力は、ユーザーが正しい横縦比で視聴できるように、映像信号の種類(4:3信号、16:9信号、4:3サイドパネル信号、16:9レターボックス信号)および、デジタル放送受信機3が接続されるテレビの種類(4:3テレビまたは16:9テレビ)に応じ、適宜変更する必要がある。
【0038】
ここで、この発明に係る第1の実施の形態を説明する。
【0039】
図2は放送番組を表示する表示装置(テレビ)と映像信号の種類が異なる映像出力の関係を示す図である。ここでは、映像信号の種類毎に分類し、説明する。
【0040】
符号41は映像信号の種類である。符号22aは4:3信号、符号22bは16:9信号、符号22cは4:3サイドパネル信号、符号22dは16:9レターボックス信号である。符号42は信号イメージ、符号43は4:3テレビ接続時の映像出力のイメージ、符号43は16:9テレビ接続時の映像出力のイメージである。」

(K1.5)「【0041】
4:3信号22aは、4:3テレビで視聴したとき、正しい横縦比で視聴できる信号である。
【0042】
信号イメージ42に示すように、符号7aのイメージである。ここで○は映像表示部7に表示されている映像を表している(以下○は映像を表す)。
【0043】
この信号は、4:3テレビに映像出力する場合は、そのまま4:3映像として出力され、映像表示部7に表示される。4:3接続時の映像出力のイメージ43は、符号7aのイメージである。
【0044】
この信号を16:9テレビに映像出力する場合も4:3映像として出力される。出力映像のイメージは、テレビ5に設けられた画面サイズ切換機能を用いて、ユーザーが選択する。また、デジタル放送受信機3側で16:9信号に加工(サイドパネル(後述)を付けたり、横方向に伸ばしたりする)して、出力しても良い。16:9テレビ接続時の映像出力のイメージ44は、実線で表す符号7aのイメージまたは、それぞれ左右に拡張した破線で表す符合8L、8Rのイメージである。」

(K1.6)「【0045】
16:9信号22bは、16:9テレビで視聴したときに、正しい横縦比で視聴できる信号である。
【0046】
信号イメージ42に示すように、符号7bのイメージである。
【0047】
この信号を4:3テレビに映像出力する場合は、4:3テレビ接続時の映像出力のイメージ43に示すように、実線のイメージ7bのそれぞれ上側に7bt、下側に7bbの黒帯を付加して、全体として4:3映像として出力する。
【0048】
この信号を16:9テレビに映像出力する場合は、16:9テレビ接続時の映像出力のイメージ44に示すように、実線のイメージ7bを、そのまま16:9映像として出力する。」

(K1.7)「【0049】
4:3サイドパネル信号22cは、信号イメージ42に示すように、横縦比4:3の映像にサイドパネル(左側7aL、右側7aR)を付加した信号である。
【0050】
この信号を4:3テレビに映像出力する場合は、4:3テレビ接続時の映像出力のイメージ43に示すように両方のサイドパネル部分の映像をカットし、4:3映像(符号7aのイメージ)として出力する。」

(K1.8)「【0055】
次にこの発明の、第1の実施の形態に係る、接続テレビの設定を考慮したアスペクト比情報表示の流れを説明する。
【0056】
図3は、この発明の実施の形態に係る、接続テレビの設定を考慮したアスペクト比情報表示のフローチャートである。これらの処理はデジタル放送受信機3で実行される。
【0057】
4:3サイドパネル信号と16:9レターボックス信号は、上述したように、接続テレビの設定(4:3テレビ/16:9テレビ)により、出力映像のアスペクト比が変化する。
【0058】
そこで、この発明の、第1の実施の形態においては、映像アスペクト比情報をアイコン6として表示し、この際、接続するテレビの設定(4:3テレビまたは16:9テレビ)を考慮して、アイコン6へアスペクト比情報を表示する。
【0059】
符号101はスタートであり、次に符合102を付したステップへ進む。
【0060】
ステップ102では放送からチューナ11、デコード装置12、信号情報取得装置15を経て信号情報が取得され、符号103を付したステップへ進む。
【0061】
ステップ103では、まず取得された信号(入力信号)の系統が判断される。すなわち、アスペクト比が4:3の信号系統(4:3信号または4:3サイドパネル信号)または16:9の信号系統(16:9信号または16:9レターボックス信号)のどちらであるかが判断される。入力信号のアスペクト比が4:3の信号系統であれば符号104を付したステップへ進む(4:3信号)。また、入力信号のアスペクト比が16:9の信号系統であれば符号107を付したステップへ進む(16:9信号)。
【0062】
ステップ104では、アスペクト比が4:3の信号系統の入力信号にサイドパネル信号が付加されているか否かが判断される。サイドパネル信号が付加されていなければ符号105を付したステップへ進み(いいえ)、サイドパネル信号が付加されていれば符号110を付したステップへ進む(はい)。
【0063】
ステップ105では、横縦のアスペクト比を「4:3」と表示し、ステップ106へ進み終了する。

【0067】
ステップ110では、デジタル放送受信機3に接続されるテレビの設定が判断される。接続されるテレビの設定が4:3であれば同様にステップ105へ進み(4:3テレビ)、上記ステップ105の処理が実行される。接続されるテレビの設定が16:9であれば同様にステップ108へ進み(16:9テレビ)、上記ステップ108の処理が実行される。」

(4)甲第3号証(特開平8-95536号公報)
〈従来技術〉
(K3.1)「【0003】
ハイビジョン等の画像を表示できるように、16:9のアスペクト比の画面を有するテレビジョン受像機において、リモコンまたは操作パネルに備えられた所定の釦を操作することで、4:3のアスペクト比の画像(NTSC方式の画像)を表示するワイドモードを、例えば、フルモード、ワイドズームモード、ズームモード、またはノーマルモード(アスペクト比4:3)のいずれかのモードに切り換えることができる。

【0010】
いずれの場合も、電源がオフにされたとき、その時点で設定されていたワイドモードが、テレビジョン受像機に内蔵されている不揮発性メモリに記憶され、次に電源がオンにされたとき、不揮発性メモリに記憶されたワイドモードで表示される。」

(5)甲第5号証(特開2001-346125号公報)
〈実施例〉
(K5.1)「【0029】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施の形態であるディジタルテレビジョン受像機について、図1を参照して説明する。図1は、ディジタルテレビジョン受像機のバックエンド部の構成例を示している。

(K5.2)【0032】
スケーリング回路2は、フレームメモリを内蔵し、且つ、画像サイズの拡大/縮小機能を有しており、MPEGデコード回路1、A/D変換回路13、または倍速倍密変換回路15から入力されるディジタルコンポーネントビデオ信号の画像サイズ(水平画素数×垂直ライン数)を、制御回路7からの制御に基づいて、変換(拡大または縮小)してOSD(On Screen Display)回路3に出力する。

【0037】
制御回路7は、ドライブ16を制御して、磁気ディスク17、光ディスク18、光磁気ディスク19、または半導体メモリ20に記憶されている制御用プログラムを読み出し、読み出した制御用プログラムおよびユーザからの表示方法(後述)の指定コマンドに基づいて、バックエンド部の各回路を制御する。具体的には例えば、制御回路7は、バックエンド部に入力される入力ソースのフォーマットに対応して、スケーリング回路2における画像サイズの水平方向拡大比率および垂直方向拡大比率を決定する(詳細は、図7を参照して後述する)。なお、ディジタルテレビジョン受像機に設けられるD端子からフォーマット情報を取得するようにしてもよい。

(K5.3)【0051】
図5は、アスペクト比が4:3であるCRT6と、4種類のフォーマットのRGB信号との組み合わせを示している。図5(A)に示すように、アスペクト比が4:3であるCRT6に、1920×1080i(または540p)のRGB信号が入力された場合、真円比は3:4となる。図5(B)に示すように、アスペクト比が4:3であるCRT6に、1920×960i(または480p)のRGB信号が入力された場合、真円比は2:3となる。図5(C)に示すように、アスペクト比が4:3であるCRT6に、1440×1080i(または540p)のRGB信号が入力された場合、真円比は1:1となる。図5(D)に示すように、アスペクト比が4:3であるCRT6に、1440×960i(または480p)のRGB信号が入力された場合、真円比は8:9となる。
【0052】
次に、図6は、バックエンド部に入力されるビデオ信号(入力ソース)のアスペクト比(4:3または16:9)と、CRT6のアスペクト比(4:3または16:9)との4種類の組み合わせを示している。すなわち、図6(A)に示すように、アスペクト比が16:9の入力ソースを、アスペクト比が16:9であるCRT6に表示させる組み合わせ、図6(B)に示すように、アスペクト比が4:3の入力ソースを、アスペクト比が4:3であるCRT6に表示させる組み合わせ、図6(C)に示すように、アスペクト比が16:9の入力ソースを、アスペクト比が4:3であるCRT6に表示させる組み合わせ、および、図6(D)に示すように、アスペクト比が16:9の入力ソースを、アスペクト比が4:3であるCRT6に表示させる組み合わせがある。
【0053】
同図(C)に示す組み合わせでは、表示するときのアスペクト比を変更させてCRT6の画面全体に表示させる方法(fit to screen)と、入力ソースのアスペクト比を維持し、画面に上下に無画部分を生じさせてCRT6に表示させる方法(keep aspect)のどちらかを選択することができる。keep aspectが選択された場合、制御回路7は、垂直偏向角が狭まるように垂直偏向回路12に対する振幅設定を小さくする。」

(6)甲第6号証(特開平10-224708号公報)
(K6.1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル的に圧縮された複数の映像信号の中から順次一つの映像信号を選択して、選択された映像信号中の独立して処理できるフレームをフレームメモリの所定アドレスに縮小して記憶する処理を順次行うことにより複数の映像を一つの映像に表示する複数画像表示装置。
【請求項2】
デジタル的に圧縮された複数の映像信号が多重されて伝送される複数の媒体から目的の映像信号のデータを抽出する抽出手段と、
この抽出手段からの出力を受けて、前記映像信号データのうち、独立してデコードできるフレームをダウンサンプリングしてフレームメモリの所定アドレスに記憶する信号処理手段と、
前記抽出手段と信号処理手段を制御する制御手段であって、予め指定された所定個数の映像信号を順次、前記抽出手段により抽出させ、前記フレームメモリに記憶された映像データを読み出して一つの映像を表示する制御手段よりなる複数画像表示装置。」

(7)甲第7号証(特開2000-56745号公報)
(K7.1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ1画面分の画像データの記憶容量を有する第1及び第2のメモリと、
前記第1のメモリに対して、所望の静止画像を初期画像データとして記憶させる初期画像設定装置と、
前記第1のメモリの読み出しアドレスと前記第2のメモリの書き込みアドレスとを、互いに関連付けた状態で、非周期的に変化させるアドレス変換手段と、
前記アドレス変換手段により変化される前記読み出しアドレスに基づいて前記第1のメモリから読み出された画像データに対して、輝度的変換及び色彩的変換の少なくとも一方の変換を施してから、前記アドレス変換手段により変化される前記書き込みアドレスに基づいて前記第2のメモリに書き込むデータ変換手段と、
前記第2のメモリに書き込まれた画像データを読み出して前記第1のメモリに再書き込みする再書き込み手段と、
前記第2のメモリから読み出した画像データを所望の方式の映像信号に変換して出力する出力手段と
を有し、前記第1のメモリに書き込まれた画像データを読み出して、前記データ変換手段を通して前記第2のメモリに書き込み、その第2のメモリに書き込まれた変換後の画像データを前記再書き込み手段により前記第1のメモリに書き込むことを循環的に繰り返して画像を創成することを特徴とする画像創成装置。
【請求項2】
前記アドレス変換手段は、前記第1のメモリに書き込まれている画像データを、表示画面において拡大、縮小、回転又は移動させて前記第2のメモリに書き込ませるための、前記第1のメモリの読み出しアドレスと前記第2のメモリの書き込みアドレスのアドレス変換を行い、かつ、その変換を外部から入力された同期信号に同期し、かつ、乱数に基づいて非周期的に行うことを特徴とする請求項1記載の画像創成装置。
【請求項3】
前記データ変換手段は、前記輝度的変換及び色彩的変換の少なくとも一方の変換のためのパラメータを、外部から入力される同期信号に同期し、かつ、乱数に基づいて非周期的に変更することを特徴とする請求項1又は2記載の画像創成装置。」

(K7.2)「【0009】
また、本発明における上記のアドレス変換手段は、第1のメモリに書き込まれている画像データを、表示画面において拡大、縮小、回転又は移動させて第2のメモリに書き込ませるための、第1のメモリの読み出しアドレスと第2のメモリの書き込みアドレスのアドレス変換を行い、かつ、その変換を外部から入力された同期信号に同期し、かつ、乱数に基づいて非周期的に行うことを特徴とする。」

(8)甲第8号証(特開平9-247629号公報)
〈実施例〉
(K8.1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、受像装置において、一定量の映像を蓄積し瞬時に再生することができる映像再生手段を備えたものに関し、より詳細には、一定時間前の画像データから、経過時間までに蓄積された現行放送の画像データの時間軸を圧縮し、現行放送の入力映像との時間的断絶を感じさせないよう時間的整合を図り、再生するようにした映像再生手段を備えた受像装置に関する。」


[3]甲2発明

ア 甲第2号証概要、甲2発明認定の基礎
甲第2号証には、
前記(K2.3)「従来の方法では、BSデジタル放送のサイドパネル方式の16:9映像信号を表示する場合、4:3のアスペクト比のブラウン管を有するテレビジョン受像機においては、4:3映像ソース部を真円性を持たして表示させると」、「使用者が得たい4:3映像ソース部の情報は真円性を保っても画面の小さい領域において表示され、画面全体に表示できず、表示画面を有効活用することが出来ないという問題点」があり、
また、「サイドパネル方式の16:9映像信号の識別信号は16:9識別信号だけであるため、すなわちサイドパネル方式とは特別に認識されないため、従来の信号識別方式では、サイドパネル方式の16:9映像信号を識別したときには、真円性を保ちながら4:3のアスペクト比のブラウン管全体に表示する方法に自動的に切り換えることが出来ない」という課題を解決するためのものであって(→甲2発明のP)、
概要、
前記課題を解決するための手段・特徴として、特に、請求項2のもの(K2.1)が記載されており、 このもの、および、これに対応する図1、図2?図6記載の〔実施の形態〕のもの、に注目する。

イ 甲2 構成{(K2.1)(K2.4),図1}
上記注目するものは、前記(K2.2)の図7記載の従来技術、すなわち、「BSデジタルチューナー100」より出力される「アナログの映像・音声信号」および「16:9映像信号を示す場合は、36のアスペクト情報出力回路は16:9識別信号(またはスクイーズ信号)を出力する」が入力される「テレビジョン受像機200」を前提とするものであり、
「16:9識別信号を検出する検出手段と、前記サイドパネル方式の映像信号であることを輝度信号の平均値比較より自動判別する手段を有し、16:9識別信号があり、かつ前記判別結果がサイドパネル方式の映像信号を示す場合、映像信号の水平時間軸の伸張率を切り換えることで、垂直振幅と同じ伸張率になるように映像の水平振幅を制御する手段を備えたことを特徴とする映像表示装置」{(K2.1)請求項2}であって、前記映像表示装置は「テレビジョン受像機」である。{(K2.4)}
そして、前記テレビジョン受像機(映像表示装置)は、具体的には、図1に示す回路構成(映像信号処理回路1、ドライブ回路2、アスペクト比4:3のブラウン管3、垂直出力回路6、垂直ブランキング追加回路7、検出回路8、A/Dコンバーター9、時間伸張回路10、D/Aコンバーター11、サイドパネル判別回路12、制御回路13)を含み、
テレビジョン受像機の外部から映像信号(図1)が入力され、前記ブラウン管3(表示装置)に表示させるものである。
また、外部から入力される前記映像信号としては、「サイドパネル方式の16:9映像信号」{(K2.4)}、「16:9識別信号のみが検出回路8で検出された」映像信号{(K2.8)}を含むものであって、外部から入力される前記映像信号は、「サイドパネル方式の」、もしくは、そうではない(サイドパネル方式ではない)、アスペクト比が16:9の映像を示す映像信号である。
また、「時間伸張回路10はA/Dコンバーター9から出力されたデジタル信号を1水平周期分ずつメモリーに書き込」み、「この書き込まれた信号をD/Aコンバーター11に読み出すクロックは制御回路13によって制御される。」{(K2.6)【0016】}
(→甲2発明のQ)

ウ 制御回路13の制御{(K2.8),図6}
前記(K2.8)によれば、
「制御回路13は検出回路8とサイドパネル判別回路12の出力を監視」し、
「16:9識別信号のみが検出回路8で検出された場合」、「制御回路13は読み出すクロックを書き込みクロックと同一周波数と」することで「水平時間軸の伸張は行わない」と「同時に制御回路13は垂直出力回路6を制御し」、「垂直振幅をあらかじめ設定された大きさに圧縮する」ことで、「真円性を保った16:9表示になるように」し、「通常の16:9表示を行う」ものであり、
また、「サイドパネル判別回路12の出力結果がサイドパネル方式の映像信号を示し、かつ16:9識別信号が検出回路8で検出された場合」、「制御回路13は読み出すクロックを書き込みクロックの3/4倍の周波数とすることで、水平時間軸の伸張を行う」と「同時に制御回路13は垂直出力回路7を制御し」て「垂直振幅の圧縮をやめ通常出力とする」ことで、「真円性を保った4:3表示になるように」するものである。

したがって、「制御回路13は検出回路8とサイドパネル判別回路12の出力を監視」して、「通常の16:9表示」、もしくは、「真円性を保った4:3表示」のいずれかの表示方法になるようにしているものといえる。

以上、まとめれば、
前記制御回路13は、前記検出手段(検出回路8)と自動判別する手段(サイドパネル判別回路12)の出力を監視して、「通常の16:9表示」、もしくは、「真円性を保った4:3表示」のいずれかの表示方法になるようにするものであって、
16:9識別信号のみが前記検出手段で検出された場合、前記制御回路13は読み出すクロックを書き込みクロックと同一周波数とすることで水平時間軸の伸張は行わないと同時に前記垂直出力回路を制御し、垂直振幅をあらかじめ設定された大きさに圧縮することで、真円性を保った16:9表示になるようにして、通常の16:9表示を行い、
また、前記自動判別する手段の出力結果がサイドパネル方式の映像信号を示し、かつ16:9識別信号が前記検出手段で検出された場合、前記制御回路13は読み出すクロックを書き込みクロックの3/4倍の周波数とすることで、水平時間軸の伸張を行うと同時に垂直出力回路を制御して垂直振幅の圧縮をやめ通常出力とすることで、真円性を保った4:3表示になるようにする。 (→甲2発明のR)

エ 甲第2号証記載の発明(甲2発明)
以上によれば、甲2発明として、下記の発明を認定することができる。

記(甲2発明)
P:「従来の方法では、BSデジタル放送のサイドパネル方式の16:9映像信号を表示する場合、4:3のアスペクト比のブラウン管を有するテレビジョン受像機においては、4:3映像ソース部を真円性を持たして表示させると」、「使用者が得たい4:3映像ソース部の情報は真円性を保っても画面の小さい領域において表示され、画面全体に表示できず、表示画面を有効活用することが出来ないという問題点」があり、
また、「サイドパネル方式の16:9映像信号の識別信号は16:9識別信号だけであるため、すなわちサイドパネル方式とは特別に認識されないため、従来の信号識別方式では、サイドパネル方式の16:9映像信号を識別したときには、真円性を保ちながら4:3のアスペクト比のブラウン管全体に表示する方法に自動的に切り換えることが出来ない」という課題を解決するためのものであって、

Q:「BSデジタルチューナー100」より出力される「アナログの映像・音声信号」と「16:9映像信号を示す場合は、36のアスペクト情報出力回路は16:9識別信号(またはスクイーズ信号)」の「出力」が入力されるアスペクト比4:3のブラウン管を有する「テレビジョン受像機200」であって、
(Q-1) 「16:9識別信号を検出する検出手段と、前記サイドパネル方式の映像信号であることを輝度信号の平均値比較より自動判別する手段を有し、16:9識別信号があり、かつ前記判別結果がサイドパネル方式の映像信号を示す場合、映像信号の水平時間軸の伸張率を切り換えることで、垂直振幅と同じ伸張率になるように映像の水平振幅を制御する手段を備えたテレビジョン受像機であり、
(Q-2) 前記テレビジョン受像機は、具体的には、図1に示す構成(映像信号処理回路1、ドライブ回路2、アスペクト比4:3のブラウン管3、垂直出力回路6、垂直ブランキング追加回路7、検出回路8、A/Dコンバーター9、時間伸張回路10、D/Aコンバーター11、サイドパネル判別回路12、制御回路13)を含み、
テレビジョン受像機の外部から映像信号が入力され、前記ブラウン管3(表示装置)に表示させるものであり、
(Q-3) 外部から入力される前記映像信号としては、「サイドパネル方式の16:9映像信号」、「16:9識別信号のみが検出回路8で検出された」映像信号を含むものであって、外部から入力される前記映像信号は、「サイドパネル方式の」、もしくは、そうではない(サイドパネル方式ではない)、アスペクト比が16:9の映像を示す映像信号であり、
(Q-4) 「時間伸張回路10はA/Dコンバーター9から出力されたデジタル信号を1水平周期分ずつメモリーに書き込」み、「この書き込まれた信号をD/Aコンバーター11に読み出すクロックは制御回路13によって制御される」ものであり、

R:前記制御回路13は、
(R-1) 前記検出手段と自動判別する手段の出力を監視して、通常の16:9表示、もしくは、真円性を保った4:3表示のいずれかの表示方法になるようにするものであって、
(R-2) 16:9識別信号のみが前記検出手段で検出された場合、前記制御回路13は読み出すクロックを書き込みクロックと同一周波数とすることで水平時間軸の伸張は行わないと同時に前記垂直出力回路を制御し、垂直振幅をあらかじめ設定された大きさに圧縮することで、真円性を保った16:9表示になるようにして、通常の16:9表示を行い、
(R-3) また、前記自動判別する手段の出力結果がサイドパネル方式の映像信号を示し、かつ16:9識別信号が前記検出手段で検出された場合、前記制御回路13は読み出すクロックを書き込みクロックの3/4倍の周波数とすることで、水平時間軸の伸張を行うと同時に垂直出力回路を制御して垂直振幅の圧縮をやめ通常出力とすることで、真円性を保った4:3表示になるようにする
テレビジョン受像機。



[4]本件特許発明1と甲2発明との対比

(1)要件1Aについての対比
1A「表示装置を接続した状態で用いられる受像装置であって」

甲2発明は、テレビジョン受像機であって、テレビジョンの映像信号を受信して表示するものといえるから受像装置といいうる。
しかしながら、本件特許発明1の受像装置は表示装置を接続した状態で用いられるものであって、本件特許発明1の受像装置に前記表示装置は含まれていないのに対し、
甲2発明のテレビジョン受像機は、表示装置である「アスペクト比4:3のブラウン管3」を含むものであるから、「表示装置を接続した状態で用いられる受像装置」ではなく、この点で相違する。{相違点(1Aについての)}

(2)要件1Bについての対比
1B「外部から入力されるアスペクト比16:9の映像を示す映像信号に基づき、該映像信号で示される映像を表示装置に表示させる表示制御手段」

甲2発明の(Q-2)(Q-3)によれば、外部からアスペクト比が16:9の映像を示す映像信号が入力され、前記ブラウン管3(表示装置)に表示させるものであるから、「外部から入力されるアスペクト比16:9の映像を示す映像信号に基づき、該映像信号で示される映像を表示装置に表示させる」といえ、その回路構成の、映像信号処理回路1、ドライブ回路2、垂直出力回路6、垂直ブランキング追加回路7、A/Dコンバーター9、時間伸張回路10、D/Aコンバーター11、制御回路13は、そのように表示するための表示制御手段ということができる。
よって、要件1Bについて相違はない。

(3)要件1Cについての対比
1C「前記表示制御手段による映像の表示方法として、標準サイズによる表示方法、および、該標準サイズの映像におけるX軸,Y軸それぞれを4/3倍に拡大した拡大サイズによる表示方法、のいずれか一方を示す表示サイズを記憶装置に記憶させることにより、映像の表示方法を設定する表示方法設定手段」

甲2発明の前記制御回路13は、
(R-1) 前記検出手段と自動判別する手段の出力を監視して、通常の16:9表示、もしくは、真円性を保った4:3表示のいずれかの表示方法になるようにするものであって、
(R-2) 16:9識別信号のみが前記検出手段で検出された場合、前記制御回路13は読み出すクロックを書き込みクロックと同一周波数とすることで水平時間軸の伸張は行わないと同時に前記垂直出力回路を制御し、垂直振幅をあらかじめ設定された大きさに圧縮することで、真円性を保った16:9表示になるようにして、通常の16:9表示を行い、
(R-3) また、前記自動判別する手段の出力結果がサイドパネル方式の映像信号を示し、かつ16:9識別信号が前記検出手段で検出された場合、前記制御回路13は読み出すクロックを書き込みクロックの3/4倍の周波数とすることで、水平時間軸の伸張を行うと同時に垂直出力回路を制御して垂直振幅の圧縮をやめ通常出力とすることで、真円性を保った4:3表示になるようにするものである。

(R-2) の場合(16:9識別信号のみが前記検出手段で検出された場合)
・読み出すクロックを書き込みクロックと同一周波数とし、水平時間軸の伸張は行わず、
・垂直振幅をあらかじめ設定された大きさに圧縮し、真円性を保った通常の16:9表示とする
(この表示方法を「レターボックス表示」というものとする。)

(R-3) の場合(サイドパネル方式の映像信号を示し、かつ16:9識別信号が前記検出手段で検出された場合)
・読み出すクロックを書き込みクロックの3/4倍の周波数とし、水平時間軸の伸張を行い、
・垂直振幅の圧縮をやめ通常出力とし、真円性を保った4:3表示とする
(この表示方法を、「画面全体表示」というものとする。)

とするものであるから、

前記レターボックス表示と前記画面全体表示とを比べれば、画面全体表示はレターボックス表示の映像を水平方向(X軸)および垂直方向(Y軸)ともに4/3倍に拡大した映像サイズであるといえる。
前記レターボックス表示での映像の表示サイズは、本件特許発明1における標準サイズによる表示方法に相当し、
レターボックス表示の映像を水平方向(X軸)および垂直方向(Y軸)ともに4/3倍に拡大した映像サイズであるといえる画面全体表示は、本件特許発明1における標準サイズの映像(レターボックス表示の映像)におけるX軸,Y軸それぞれを4/3倍に拡大した拡大サイズによる表示方法に相当する。

<いずれか一方を示す表示サイズを記憶装置に記憶させる点>
甲2発明は制御回路13が前記各表示方法の「いずれか一方を示す表示サイズを記憶装置に記憶させる」とはしていない。
しかし、後記するように、「輝度信号の平均値比較」による「自動判別」は入力される映像信号の画面(フレームまたはフィールドの映像信号)を単位とし繰り返し行われるものといえ、
ある画面で判別され決定された表示方法は、次の表示方法が判別される画面で表示方法が判別され決定されるまで維持されなくてはならないことは明らかであるから、
前記表示方法を維持するために、甲2発明において、判別され決定された前記表示方法(前記各表示方法のいずれか一方)を示す情報(表示サイズ)を記憶装置に記憶させていることは当業者にとって明らかである。
そして、記憶装置に記憶された表示サイズの表示方法で映像を表示するものであるから、記憶装置に前記表示サイズを記憶させることにより、映像の表示方法を設定するといいうる。
よって、甲2発明が、前記各表示方法のいずれか一方を示す表示サイズを記憶装置に記憶させることにより、映像の表示方法を設定するといい得ることは、当業者にとって明らかである。

以上のとおりであるから、甲2発明の前記制御回路13は、
標準サイズによる表示方法(前記レターボックス表示)、および、該標準サイズの映像(前記真円性を保った16:9表示の映像)におけるX軸,Y軸それぞれを4/3倍に拡大した拡大サイズによる表示方法(前記画面全体表示)、のいずれか一方の表示方法を示す表示サイズを記憶装置に記憶させることにより、映像の表示方法を設定するといえ、
本件特許発明1の表示方法設定手段と一致する。

(4)要件1Dについての対比
1D「前記表示制御手段による映像の表示方法を前記標準サイズによる表示方法または前記拡大サイズによる表示方法へ切り替えるための操作を受け付ける切替操作受付手段」

甲2発明は要件1Dの「切替操作受付手段」を備えておらず、この点で相違する。{相違点(1Dについての)}

(5)要件1Eについての対比
1E「アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域である無画部を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変換された付加映像,であることを識別するための識別信号が、外部から入力される映像信号に付加されている場合に、該映像信号で示される映像が前記付加映像であると判定する、といった処理を映像信号が入力されている間繰り返し実行する付加映像判定手段」

甲2発明(Q-1) の「16:9識別信号があり、かつ前記判別結果がサイドパネル方式の映像信号を示す場合、映像信号の水平時間軸の伸張率を切り換えることで、垂直振幅と同じ伸張率になるように映像の水平振幅を制御する手段」におけるサイドパネル方式の16:9映像信号は、甲2の図3(a)において「25 サイドパネル方式の16:9映像」として示されているように、要件1Eの「アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域である無画部を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変換された付加映像」に相当するといえる。

そして、甲2発明は「サイドパネル方式の映像信号であること」を「輝度信号の平均値比較より自動判別する」ものであるところ、
入力される映像信号は、入力中において、その方式がサイドパネル方式とサイドパネルでない(アスペクト比が16:9の映像)方式との間で切り替わりうるものであり、
前記「自動判別」は、かかる映像信号の方式の切り替わりに応じて自動的に表示方法を切り替えようとするものであるから、映像信号が入力している間中、判別しているものであることは明らかである。
また、サイドパネル方式かサイドパネルでない(アスペクト比が16:9の映像)方式かは、映像信号の画面表示方式であるから、「輝度信号の平均値比較」による「自動判別」は、少なくとも入力する映像信号の画面(フレームまたはフィールドの映像信号)を単位として繰り返し行われるものということができる。
したがって、甲2発明は、アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域である無画部を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変換された付加映像であると判別(判定)する、といった処理を映像信号が入力されている間繰り返し実行する手段を有する点で本件特許発明1と一致する。

しかしながら、本件特許発明1では、前記付加映像であると判定する、といった処理が、「付加映像,であることを識別するための識別信号が、外部から入力される映像信号に付加されている場合に」付加映像であると判定するのに対し、
甲2発明では、「輝度信号の平均値比較より自動判別する」ことによって付加映像であると判定する点で相違する。{相違点(1Eについての)}

(6)要件1Fについての対比
1F「当該受像装置に接続される表示装置の有する表示エリアのアスペクト比を記憶する表示エリア記憶手段」

甲2発明は、要件1Fの「表示エリア記憶手段」を備えておらず、この点で相違する。{相違点(1Fについての)}

(7)要件1Gについての対比
1G「前記表示方法設定手段は、前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶され、かつ、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合に、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定して、また、前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定して、以降、再度設定変更をするまでの間その設定状態を継続しており」

甲2発明においては、前記自動判別する手段の出力結果がサイドパネル方式の映像信号を示し、かつ16:9識別信号が前記検出手段で検出された場合、上記(3)の(特に前記(R-3) についての)とおり、前記制御回路13は水平時間軸の伸張を行って、拡大サイズによる表示方法(前記画面全体表示)を設定するものであり、また、次の判別が行われる画面(フレームまたはフィールドの映像信号)での表示方法の設定がされるまでは、その設定で表示するものである。
そして、画面単位で繰り返し行われる映像信号の判別結果が、ある画面で変わり、例えばサイドパネル方式でない16:9映像信号と判別されれば、甲2発明の前記制御回路13は表示方法を画面全体表示からレターボックス表示に変更する。

よって、甲2発明の前記制御回路13は、前記自動判別する手段の出力結果がサイドパネル方式の映像信号を示し、かつ16:9識別信号が前記検出手段で検出された場合、すなわち、付加映像であると判定された場合に、拡大サイズによる表示方法を設定して、再度設定変更をするまでの間その設定状態を継続する点においては、本件特許発明1の表示方法設定手段と動作が一致するといえる。

しかしながら、上記(6)のとおり、甲2発明は要件1Fの「表示エリア記憶手段」を備えておらず、また、上記(4)のとおり、甲2発明は要件1Dの「切替操作受付手段」を備えていないことから、
本件特許発明1の表示方法設定手段と甲2発明の制御回路13とを比較すると、

「表示方法設定手段」が「拡大サイズによる表示方法を設定」する場合が、
本件特許発明1では、「前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶され、かつ、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合」であるのに対し、
甲2発明では、「前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合」である点で相違する。{相違点(1Gについての-1)}

また、「表示方法設定手段」が、
本件特許発明1では、「前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定」するのに対し、
甲2発明では、そのような表示方法の設定をするものではない点で相違する。{相違点(1Gについての-2)}

(8)要件1Hについての対比
1H「前記表示制御手段は、前記表示方法設定手段により記憶装置に記憶された表示サイズで示される表示方法により、映像信号で示される映像を前記表示装置に表示させる、ように構成されており」

上記(3){要件1C}で示したとおり、甲2発明も、標準サイズによる表示方法(前記レターボックス表示)もしくは拡大サイズによる表示方法(前記画面全体表示)、のいずれか一方の表示方法を示す表示サイズを記憶装置に記憶させることにより、映像の表示方法を設定するものといえ、
「前記表示方法設定手段により記憶装置に記憶された表示サイズで示される表示方法により、映像信号で示される映像を前記表示装置に表示させるように構成されており」とするものといえ、要件1Hについて一致する。

(9)要件1Iについての対比
1I「前記表示方法設定手段は、前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合、表示方法の設定変更を行わない一方、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで表示方法を前記拡大サイズに設定変更して」

上記(7){要件1G}で示したとおり、甲2発明の前記制御回路13は、判別結果がサイドパネル方式の映像信号を示し、16:9識別信号が検出された場合、すなわち、付加映像であると判定された場合に、拡大サイズによる表示方法を設定するものであり、また、上記(3){要件1C}および(8){要件1H}で示したとおり、甲2発明も表示方法を示す表示サイズを記憶装置に記憶させることにより、映像の表示方法を設定するものといえるから、
表示方法設定手段が、「前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで表示方法を前記拡大サイズに設定変更する」点では、甲2発明は、本件特許発明1と一致する。

しかしながら、
表示方法設定手段が、
本件特許発明1では、「前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合、表示方法の設定変更を行わない」のに対し、
甲2発明では、「前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合」(16:9識別信号のみが前記検出手段で検出され、自動判別する手段の出力結果がサイドパネル方式の映像信号を示さない場合)、表示方法を前記標準サイズによる表示方法(レターボックス表示)に設定変更する(水平時間軸の伸張は行わないと同時に前記垂直出力回路を制御し、垂直振幅をあらかじめ設定された大きさに圧縮することで、通常の16:9表示とする)点で相違する。{相違点(1Iについての)}

(10)要件1Jについての対比
1J「前記切替操作受付手段は、前記付加映像判定手段による判定が行われた後に、前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付けて」

甲2発明は、上記(4){要件1D}に示したとおり「切替操作受付手段」を備えておらず、要件1Jの「前記切替操作受付手段は、前記付加映像判定手段による判定が行われた後に、前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付けて」とはしておらず、この点で相違する。{相違点(1Jについての)}

(11)要件1Kについての対比
1K「前記表示方法設定手段は、前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶されている場合に、前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定する」

甲2発明は、上記(4){要件1D}および(6){要件1F}に示したとおり、「切替操作受付手段」および「表示エリア記憶手段」を備えておらず、
要件1Kの「前記表示方法設定手段は、前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶されている場合に、前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定する」とするものではなく、この点で相違する。{相違点(1Kについての)}


[5]本件特許発明1と甲2発明の一致点、相違点

以上の対比結果によれば、本件特許発明1と甲2発明との一致点、相違点は次のとおりということができる。

[一致点]
1A'
受像装置であって、
1B
外部から入力されるアスペクト比16:9の映像を示す映像信号に基づき、該映像信号で示される映像を表示装置に表示させる表示制御手段と、
1C
前記表示制御手段による映像の表示方法として、標準サイズによる表示方法、および、該標準サイズの映像におけるX軸,Y軸それぞれを4/3倍に拡大した拡大サイズによる表示方法、のいずれか一方を示す表示サイズを記憶装置に記憶させることにより、映像の表示方法を設定する表示方法設定手段と、
1E'
映像信号で示される映像が、アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域である無画部を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変換された付加映像であると判定する、といった処理を映像信号が入力されている間繰り返し実行する付加映像判定手段と、
1G'
前記表示方法設定手段は、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合に、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定して、再度設定変更をするまでの間その設定状態を継続しており、
1H
前記表示制御手段は、前記表示方法設定手段により記憶装置に記憶された表示サイズで示される表示方法により、映像信号で示される映像を前記表示装置に表示させる、ように構成されており、
さらに、
1I'
前記表示方法設定手段は、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで表示方法を前記拡大サイズに設定変更する
ことを特徴とする受像装置。

[相違点]

[相違点(1Aについての)]
受像装置が、
本件特許発明1では、表示装置を含まず、「表示装置を接続した状態で用いられる」(受像装置)とするのに対し、
甲2発明では、ブラウン管3(表示装置)を含むものであって、「表示装置を接続した状態で用いられる」(受像装置)ではない点

[相違点(1Dについての)]
本件特許発明1が「前記表示制御手段による映像の表示方法を前記標準サイズによる表示方法または前記拡大サイズによる表示方法へ切り替えるための操作を受け付ける切替操作受付手段」を備えるのに対し、
甲2発明はそのような「切替操作受付手段」を備えていない点

[相違点(1Eについての)]
1E'の付加映像であると判定する、といった処理が、
本件特許発明1では、「付加映像,であることを識別するための識別信号が、外部から入力される映像信号に付加されている場合に」付加映像であると判定するのに対し、
甲2発明では、「輝度信号の平均値比較より自動判別する」ことによって付加映像であると判定する点

[相違点(1Fについての)]
本件特許発明1が「当該受像装置に接続される表示装置の有する表示エリアのアスペクト比を記憶する表示エリア記憶手段」を備えるのに対し、
甲2発明はそのような「表示エリア記憶手段」を備えていない点

[相違点(1Gについての-1)]
「表示方法設定手段」が「拡大サイズによる表示方法を設定」する場合が、
本件特許発明1では、「前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶され、かつ、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合」であるのに対し、
甲2発明では、「前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合」である点

[相違点(1Gについての-2)]
表示方法設定手段が、
本件特許発明1では、「前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定」するのに対し、
甲2発明では、そのような表示方法の設定をするものではない点

[相違点(1Iについての)]
表示方法設定手段が、
本件特許発明1では、「前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合、表示方法の設定変更を行わない」のに対し、
甲2発明では、「前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合」(16:9識別信号のみが前記検出手段で検出され、自動判別する手段の出力結果がサイドパネル方式の映像信号を示さない場合)、表示方法を前記標準サイズによる表示方法(レターボックス表示)に設定変更する(水平時間軸の伸張は行わないと同時に前記垂直出力回路を制御し、垂直振幅をあらかじめ設定された大きさに圧縮することで、通常の16:9表示とする)点

[相違点(1Jについての)]
本件特許発明1が、「前記切替操作受付手段は、前記付加映像判定手段による判定が行われた後に、前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付けて」いるのに対し、
甲2発明は、「切替操作受付手段」を備えておらず、「前記切替操作受付手段は、前記付加映像判定手段による判定が行われた後に、前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付けて」とはしていない点

[相違点(1Kについての)]
本件特許発明1が、「前記表示方法設定手段は、前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶されている場合に、前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定する」のに対し、
甲2発明は、「切替操作受付手段」および「記憶部」(「表示エリア記憶手段」)を備えておらず、「前記表示方法設定手段は、前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶されている場合に、前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定する」とするものではない点

<相違点まとめ>
上記各相違点のうち、前記相違点(1Fについての)、相違点(1Gについての-1)は、甲2発明が、本件特許発明1が備えるとする「表示エリア記憶手段」を備えていないことに起因する相違点である。
本件特許発明1が前記「表示エリア記憶手段」を有するのは、
相違点(1Aについての)のとおり、そもそも本件特許発明1の受像装置は、表示装置を接続した状態で用いられる(表示装置を含まない)ものであって、
「本発明は表示装置のアスペクト比が4:3の場合に特に効果があるので,本デジタル放送用受信装置1に接続する表示装置のアスペクトを記憶させておき,アスペクト比が4:3の場合にのみ表示モード切替信号(表示サイズ信号)を有効にするとよい。」(本件特許明細書【0072】段落)
という理由によるものである。

よって、「表示エリア記憶手段」を備えていないことに起因する相違点(1Fについての)、相違点(1Gについての-1)と相違点(1Aについての)とをまとめて1つの相違点として検討する。
(相違点(1Kについての)についても、「表示エリア記憶手段」を備えていないことによる相違点といい得るものであるが、これについては、下記の「切替操作受付手段」を備えていないことに起因する相違点でまとめて検討する。)

また、前記相違点(1Dについての)、相違点(1Gについての-2)、相違点(1Iについての)、相違点(1Jについての)、相違点(1Kについての)については、甲2発明が「切替操作受付手段」を備えていないことに起因する相違点である(そのうち、相違点(1K)については、切替操作受付手段および表示エリア記憶手段を備えていないことによる相違点である)ので、これらの相違点をまとめて1つの相違点として検討する。

そうすると、本件特許発明1と甲2発明との相違点は、以下の3点ということができる。

[相違点1](1A、1F、1G-1についての相違点)
本件特許発明1では、
(1a) 受像装置が、表示装置を含まず、表示装置を接続した状態で用いられ、(1A)
(1b) 「当該受像装置に接続される表示装置の有する表示エリアのアスペクト比を記憶する表示エリア記憶手段」を備え、(1F)
(1c) 「表示方法設定手段」が「拡大サイズによる表示方法を設定」する場合が、「前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶され、かつ、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合」である(1G-1)
のに対し、

甲2発明では、
(1a') 受像装置が、表示装置を含み、表示装置を接続した状態で用いられるものではなく、
(1b') 上記(1b)の「表示エリア記憶手段」を備えておらず、
(1c') 「表示方法設定手段」が「拡大サイズによる表示方法を設定」する場合が、「前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合」である点

[相違点2](1Eについての相違点)
付加映像であると判定する、といった処理が、
本件特許発明1では、「付加映像,であることを識別するための識別信号が、外部から入力される映像信号に付加されている場合に」付加映像であると判定するのに対し、
甲2発明では、「輝度信号の平均値比較より自動判別する」ことによって付加映像であると判定する点

[相違点3](1D、1G-2、1I、1J、1Kについての相違点)
本件特許発明1では、
(3a) 「前記表示制御手段による映像の表示方法を前記標準サイズによる表示方法または前記拡大サイズによる表示方法へ切り替えるための操作を受け付ける切替操作受付手段」を備え、(1D)
(3b) 「前記切替操作受付手段は、前記付加映像判定手段による判定が行われた後に、前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付け」、(1J)
(3c) 表示方法設定手段が、「前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定」し、(1G-2)
(3d) 表示方法設定手段が、「前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合、表示方法の設定変更を行わない」ものであり、(1I)
(3e) 「前記表示方法設定手段は、前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶されている場合に、前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定する」(1K)
のに対し、

甲2発明では、
(3a') 上記(3a)の「切替操作受付手段」を備えておらず、
(3b') 「前記切替操作受付手段は、前記付加映像判定手段による判定が行われた後に、前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付け」ず、
(3c') 表示方法設定手段が、「前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定」するものではなく、
(3d') 表示方法設定手段が、「前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合」、表示方法を前記標準サイズに変更する設定変更を行うものであり、
(3e') 切替操作受付手段および記憶部を備えておらず、「前記表示方法設定手段は、前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶されている場合に、前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定する」ものではない点


[6]本件特許発明1の進歩性欠如(容易想到性)についての判断
(本件特許発明1と甲2発明の相違点についての判断)

(1)[相違点1](1A、1F、1G-1についての相違点)の克服の容易想到性について

ア (1a)(1a')の相違点の克服の容易想到性
甲2発明の受像装置を、表示装置を含む受像装置に代えて、表示装置を含まず、表示装置を接続した状態で用いられる受像装置とすることで、(1a)(1a')の相違点は克服される。

〈周知・甲1技術〉
一般に、表示装置を接続した状態で用いる受像装置(デジタル放送受信機)は広く知られており(周知技術)、
甲1記載のデジタル放送受信機3もその一例であるところ、
甲1には、
テレビ(表示装置)を接続した状態で用いられるデジタル放送受信機3であって(前記(K1.2)の段落【0024】?【0025】、図1)、
外部から入力されるアスペクト比16:9の映像を示す映像信号に基づき、該映像信号で示される映像を前記テレビ(表示装置)に表示させること(前記(K1.4)の段落【0037】?【0040】、図2)、
デジタル放送で放送される放送番組の映像信号には放送ストリーム内に、4:3信号、16:9信号、4:3サイドパネル信号、16:9レターボックス信号の4種類の信号(映像アスペクト比情報)が重畳されていること、(段落【0003】)
16:9信号22bの映像を4:3テレビに出力する場合は、図2のイメージ43に示すように16:9のイメージ7bのそれぞれ上側に7bt、下側に7bbの黒帯を付加して、全体として4:3映像として出力すること(前記(K1.6)の段落【0045】?【0047】、図2)、
4:3サイドパネル信号22cの映像を4:3テレビに出力する場合は、図2のイメージ43に示すように左右両方のサイドパネル部分の映像をカットし、4:3映像として出力すること(前記(K1.7)の段落【0049】?【0050】、図2)、
および、デジタル放送受信機3において、映像が出力されるテレビが4:3テレビであるとか16:9テレビである等が、ユーザのキー操作により設定され、該設定された情報がCPU16内部のメモリに予め記憶されること(前記(K1.3)の段落【0030】?【0031】)
が示されており、これらのことからすれば、
甲1には、下記技術(以下、「甲1技術」という)が記載されていると認められる。
記(甲1技術)
「表示装置を接続した状態で用いられるデジタル放送受信機3において、
外部から入力されるアスペクト比16:9の映像を示す映像信号に基づき、該映像信号で示される映像を前記表示装置に表示させ、
デジタル放送で放送される放送番組の映像信号には放送ストリーム内に、4:3信号、16:9信号、4:3サイドパネル信号、16:9レターボックス信号の4種類の信号(映像アスペクト比情報)が重畳されており、
16:9信号22bの映像(アスペクト比16:9の映像信号による映像)を4:3テレビ(アスペクト比4:3の表示装置)に出力する場合は、16:9の映像イメージのそれぞれ上側、下側に黒帯を付加して、全体として4:3映像として出力し(レターボックス表示)、
4:3サイドパネル信号22cの映像(サイドパネル方式の映像信号による映像)を4:3テレビ(アスペクト比4:3の表示装置)に出力する場合は、左右両方のサイドパネル部分の映像をカットし、4:3映像として出力し(画面全体表示)、
デジタル放送受信機3において、映像が出力される前記表示装置のアスペクト比が(4:3テレビであるとか16:9テレビである等が)、ユーザのキー操作により設定され、該設定された情報がメモリに記憶される、
デジタル放送受信機3。」

〈容易想到性の判断〉
甲2発明も甲1技術も、ともに、外部から入力されるアスペクト比16:9の映像を示す映像信号を変換して、その映像信号に基づく映像をアスペクト比4:3の表示手段に表示させようとするものであるから、甲2発明に甲1技術を適用しようとする動機付けがあるということができ、
また、当業者は上記周知技術(表示装置を接続した状態で用いる受像装置(デジタル放送受信機))の存在もよく知っているのであるから、
上記(1a)(1a')の相違点の克服、すなわち、
甲2発明の受像装置を、表示装置を含み、表示装置を接続した状態で用いられる受像装置に代えて、表示装置を含まず、表示装置を接続した状態で用いられる受像装置とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

イ (1b)(1b')の相違点の克服の容易想到性
甲2発明が「当該受像装置に接続される表示装置の有する表示エリアのアスペクト比を記憶する表示エリア記憶手段」を備えることで、(1b)(1b')の相違点は克服される。

甲2発明から前記(1a)(1a')の相違点を克服した受像装置は、表示装置とは別体となったので、その表示装置のアスペクト比が4:3であるかどうかを取得する必要があるという課題が生じることになることは明らかであるところ、
甲1技術は、その課題解決手段である「映像が出力される前記表示装置のアスペクト比が(4:3テレビであるとか16:9テレビである等が)、ユーザのキー操作により設定され、該設定された情報がメモリに記憶される」も示しているものであるから、この解決手段をそのまま採用することは自然であり当業者が容易になし得ることである、といえる。
そして、そのように採用すれば、甲2発明は、「映像が出力される表示装置」のアスペクト比が(4:3テレビであるとか16:9テレビである等が)「メモリに」「記憶される」ものとなり、前記(1b)(1b')の相違点が克服されることとなる。
したがって、上記(1a)(1a')の相違点および、上記(1b)(1b')の相違点をともに克服することは、当業者の容易想到である。

ウ (1c)(1c')の相違点の克服の容易想到性

甲2発明の「表示方法設定手段」が「拡大サイズによる表示方法を設定」する場合が、
「前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合」であることに代えて、「前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶され、かつ、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合」とすることで、(1c)(1c')の相違点は克服される。

甲2発明に甲1技術を適用して、上記(1a)(1a')の相違点および上記(1b)(1b')の相違点をともに克服したものにおいて、
「前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合」であることに代えて、「前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶され、かつ、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合」とすることは、ごく自然である。
すなわち、上記(1c)(1c')の相違点の克服も当業者の容易想到である。

エ まとめ{[相違点1](1A、1F、1G-1についての相違点)の克服の容易想到性}

以上のとおりであるから、前記(1a')(1b')(1c')を(1a)(1b)(1c)として、相違点1を克服することは当業者の容易想到である。


(2)[相違点2](1Eについての相違点)の克服の容易想到性について

甲2発明の「付加映像であると判定する、といった処理」が、「輝度信号の平均値比較より自動判別する」ことによって付加映像であると判定するのに代えて、「付加映像,であることを識別するための識別信号が、外部から入力される映像信号に付加されている場合に」付加映像であると判定することで、上記[相違点2]は克服される。

〈甲1技術〉
前記甲1技術に示されるように、デジタル放送で放送される放送番組の映像信号には放送ストリーム内に、4:3信号、16:9信号、4:3サイドパネル信号、16:9レターボックス信号の4種類の信号(映像アスペクト比情報)が重畳されていることが知られているところ、その「4:3サイドパネル信号」は本件特許発明1でいう「付加映像,であることを識別するための識別信号」に相当することは明らかである。

〈判断〉
甲2発明は、(Q-1) 「サイドパネル方式の映像信号であること」(付加映像であること)を「輝度信号の平均値比較より自動判別する」ものであるが、
公知である「放送ストリーム内に」重畳されている「4:3サイドパネル信号」(本件特許発明1でいう「付加映像,であることを識別するための識別信号」)が、「外部から入力された映像信号に付加されている」ことを判定すれば、上記(Q-1)のごとくの輝度信号の平均値比較といった信号処理をせずとも、簡単に「付加映像」であることが判定できることは当業者に自明であり、したがって、
甲2発明の「付加映像であると判定する、といった処理」を、「輝度信号の平均値比較より自動判別する」ことによって付加映像であると判定するのに代えて、
前記4:3サイドパネル信号が放送番組の映像信号に重畳されている場合に付加映像であると判定しようとすること
は、動機付けがあるといえる。

よって、上記相違点2の克服も当業者の容易想到である。


(3)[相違点3](1D、1G-2、1I、1J、1Kについての相違点)の克服の容易想到性について

甲2発明に甲1技術を適用して相違点1,2を克服したものが、
さらに、上記[相違点3]の前記(3a)?(3e) とすることで、[相違点3]は克服される。

甲2発明に甲1技術を適用して相違点1,2を克服したものが、
[相違点3]を克服するには、まず、
(i)1Dの「表示方法」を「切り替えるための操作を受け付ける切替操作受付手段」{(3a)(3a')の相違}を備えなければならない。
さらに、当該「切替操作受付手段」は、少なくとも、
(ii)入力される16:9の映像(要件1B)を4:3の表示画面に表示する(要件1K)場合に設定する、「映像の表示方法を前記標準サイズによる表示方法または前記拡大サイズによる表示方法へ切り替えるための操作を受け付ける切替操作受付手段」(要件1D)であり、
(iii)拡大サイズによる表示方法とは、「該標準サイズの映像におけるX軸,Y軸それぞれを4/3倍に拡大した拡大サイズによる表示方法」(要件1C)
である「切替操作受付手段」
でなければならない。

そこで、まず、甲2発明に甲1技術を適用して相違点1,2を克服したものが、さらに上記(i)?(iii)を満たすものとすること(以下「克服の第1ステップ」という。)が当業者の容易想到といえるか、について検討する。

ア 甲3号証
甲3には、「リモコンまたは操作パネルに備えられた所定の釦」の「操作」により、表示画面に表示するサイズを(フルモード、ワイドズームモード、ズームモード、またはノーマルモード(アスペクト比4:3))に切替えることが示されていて{前記(K3.1)【0003】【0010】}、
この技術は、「表示方法」を「切り替えるための操作を受け付ける切替操作受付手段」を示すものではあるものの、
そもそも、4:3の映像を「16:9のアスペクト比」の画面に表示する表示方法を切替える技術であって、本件特許発明1が要求する、(ii)入力される16:9の映像(要件1B)を4:3の表示画面に表示するものではなく、
当該技術を採用しても、上記[相違点3]は克服できず、本件特許発明1には至らないことは明らかである。

イ 甲5号証
甲5の、特に、図6(C)、前記(K5.1)の段落【0052】、【0053】}には、「アスペクト比が16:9の入力ソースを、アスペクト比が4:3であるCRT6に表示させる組み合わせ」で図6(C)のように、「表示するときのアスペクト比を変更させてCRT6の画面全体に表示させる方法(fit to screen)と、入力ソースのアスペクト比を維持し、画面に上下に無画部分を生じさせてCRT6に表示させる方法(keep aspect)のどちらかを選択する」技術が示されていて、
この技術は、入力される16:9の映像(要件1B)を4:3の表示画面に表示する技術を示すものではあるものの、
6図(C)の上側の図に示される表示形態である“fit to screen”はいわゆる「スクイーズ」画像(「スケーリング回路2は…画像サイズの拡大/縮小機能を有しており、…入力されるディジタルコンポーネントビデオ信号の画像サイズ(水平画素数×垂直ライン数)を、制御回路7からの制御に基づいて、変換(拡大または縮小)してOSD(On Screen Display)回路3に出力する」((K5.2)段落【0032】)および「制御回路7は、バックエンド部に入力される入力ソースのフォーマットに対応して、スケーリング回路2における画像サイズの水平方向拡大比率および垂直方向拡大比率を決定する(詳細は、図7を参照して後述する)。」((K5.2)段落【0037】)との記載からすれば、“fit to screen”は、16:9映像信号の左右両側をカットすると共に水平方向および垂直方向に4/3倍に拡大した表示形態でなく、「スクイーズ」画像であることは明らかである。)であって、
本件特許発明1が要求する(iii)「該標準サイズの映像におけるX軸,Y軸それぞれを4/3倍に拡大した拡大サイズによる表示方法」ではなく、
当該技術を採用しても、上記[相違点3]は克服できず、本件特許発明1には至らないことは明らかである。

ウ 甲4号証

(ア)甲4技術
甲4には、
「高品位テレビジョン方式等の広アスペクト比の映像信号を、NTSC方式等の狭アスペクト比のブラウン管」で「再生するために、信号方式の変換を行なう装置」であって、「例えば、MUSE方式のハイビジョン信号を現行NTSC方式の映像信号へ変換するMUSE-NTSCダウンコンバータ」において、(前記(K4.1)の段落【0002】)
前記「信号方式」を「変換する」「モード」として、図6に示す「ワイドモード」、「ズームモード」、「スクイズモード」があって、(前記(K4.1)の段落【0003】)
「ワイドモードは、高品位テレビジョン信号の走査線を1/3に間引いて、変換後の画面の上下約30%をマスクしたもの」であり、
「ズームモードは、高品位テレビジョン信号の走査線を1/2に間引いて、高品位テレビジョン画面の左右にあたる部分の信号をカットしたもの」であり、
「スクイズモードは、高品位テレビジョン信号画面を左右方向に圧縮して、アスペクト比16:9の全画面情報をアスペクト比4:3の映像信号へ変換したもの」であり、
「図6(b)に示したズームモードでは、アスペクト比4:3の画像再生装置の画像表示領域の全面に亘って映像を映し出すことができるが、アスペクト比16:9の画像の左右両側が表示され」ず、
「図6(a)に示したワイドモードでは、左右の画像が欠落することはないが、アスペクト比4:3の画像表示領域の上下に映像信号の無い部分が生じ、アスペクト比4:3の画像表示領域を有効に使用できないとともに、525本の走査線を有効に利用できないため、垂直解像度が低下」し、
「図6(c)に示したスクイズモードは、アスペクト比16:9の画像をその上下はそのままにして左右方向の時間圧縮を行なうので、このスクイズモードで変換した映像信号をアスペクト比4:3の画像再生装置で再生した場合、同図に示すように、画面の上下方向へ延びた画像が表示されるが、ブラウン管(CRT)を用いた画像再生装置では上下の偏向角を浅くすることで、また、プロジェクション方式の画像再生装置ではレンズ等の光学的手段を介して画像を左右方向へ広げることで、垂直解像度を犠牲にすることなく、広アスペクト比の画像を再生することができ」
「このような複数の画面変換モードを選択するスイッチ等の選択手段を備え、その用途に応じて変換モードを選択できるようにして」おり、(前記(K4.1)の段落【0007】)
また、甲4の【実施例】において、前記「選択手段」である「変換モード選択手段3」を、「1個のノンロックキーを押下する毎に各モードを順次切り替える構成」とすること(前記(K4.2)の段落【0021】)
が示されており、
これらのことからすれば、
甲4には、下記技術(以下、「甲4技術」という)が記載されていると認められる。
記(甲4技術)
「高品位テレビジョン方式等の広アスペクト比の映像信号を、NTSC方式等の狭アスペクト比のブラウン管で再生するために、信号方式の変換を行なう装置、例えば、MUSE方式のハイビジョン信号を現行NTSC方式の映像信号へ変換するMUSE-NTSCダウンコンバータにおいて、
前記信号方式の変換モードとして、ワイドモード、ズームモード、スクイズモードがあり、
前記ズームモードは、高品位テレビジョン信号の走査線を1/2に間引いて、高品位テレビジョン画面の左右にあたる部分の信号をカットしたものであり、アスペクト比4:3の画像再生装置の画像表示領域の全面に亘って映像を映し出すことができるが、アスペクト比16:9の画像の左右両側が表示されず、
前記ワイドモードは、高品位テレビジョン信号の走査線を1/3に間引いて、変換後の画面の上下約30%をマスクしたものであり、左右の画像が欠落することはないが、アスペクト比4:3の画像表示領域の上下に映像信号の無い部分が生じ、アスペクト比4:3の画像表示領域を有効に使用できないとともに、垂直解像度が低下し、
前記スクイズモードは、高品位テレビジョン信号画面を左右方向に圧縮して、アスペクト比16:9の全画面情報をアスペクト比4:3の映像信号へ変換したものであり、アスペクト比16:9の画像をその上下はそのままにして左右方向の時間圧縮を行なうので、このスクイズモードで変換した映像信号をアスペクト比4:3の画像再生装置で再生した場合、画面の上下方向へ延びた画像が表示されるが、ブラウン管(CRT)を用いた画像再生装置では上下の偏向角を浅くすることで、また、プロジェクション方式の画像再生装置ではレンズ等の光学的手段を介して画像を左右方向へ広げることで、垂直解像度を犠牲にすることなく、広アスペクト比の画像を再生することができることに鑑み、
このような複数の画面変換モードを選択するスイッチ等の選択手段を備え、その用途に応じて変換モードを選択できるようにする技術であって、
前記選択手段である変換モード選択手段3を、1個のノンロックキーを押下する毎に各モードを順次切り替える構成とする技術」。

(イ)上記(i)?(iii)との一致
甲4は、広アスペクト比(16:9)の映像信号を、NTSC方式等の狭アスペクト比(4:3)のブラウン管で再生するためのものであるから、上記(ii)を満たし、
その「ワイドモード」による「アスペクト比4:3の」「画像再生装置」(すなわち表示装置)への映像の映し出し(すなわち表示)の方法、および、「ズームモード」による「アスペクト比4:3の」「画像再生装置」(すなわち表示装置)への映像の映し出し(すなわち表示)の方法は、それぞれ、 本件発明の「標準サイズによる表示方法」、「該標準サイズの映像におけるX軸,Y軸それぞれを4/3倍に拡大した拡大サイズによる表示方法」よる表示方法」といいえるものであるから、上記(iii)を満たし、
選択手段である「1個のノンロックキーを押下する毎に各モードを順次切り替える構成」を用いて(用途に応じて)手動で選択するものということができるから、上記(ii)も満たす。

したがって、当該技術を採用すれば、少なくとも、上記(i)?(iii)(克服の第1ステップ)は満たされるということができる。


(ウ)容易想到性の判断
甲4技術は、上述のように、入力されるアスペクト比16:9の映像信号を4:3表示装置に表示する際に、本件発明でいう「標準サイズ」、「拡大サイズ」への変換(表示)を、選択手段を用いて(用途に応じて)手動で選択できるようにするものではある。
しかし、甲2発明も甲1技術も、映像の表示方法を自動的に切り替えることを記載するのみで、そこには、16:9の映像を4:3表示装置に表示する表示方法を“手動で”切り替えようとする技術的思想・動機付けはない。
また、そもそも、16:9の映像を4:3表示装置に表示する表示方法を、“自動的に”切り替えることを可能にし、かつ、“手動でも”切り替えることを可能にするという技術思想自体、どこにも(甲2,1,4のいずれにも、また、甲3,5のいずれにも)ないのである。

すなわち、甲4技術があっても、それは、甲2発明(相違点1,2を克服したもの)とは、基本的には相容れない異なる技術といえ、甲4技術を甲2発明に適用して、上記(i)?(iii)を満たす構成に至るに足りる動機付けを、どこにも見いだすことはできない。
従って、上記「克服の第1ステップ」(上記(i)?(iii)とすること)は、甲4から当業者が容易に想到し得るとはいえない。

〈検討1〉
上記の様に、甲4技術は、甲2発明・甲1技術とは基本的に相容れないものであるから、甲2発明に適用する動機付けがあるとまではいえないが、
自動モード(表示サイズの自動切替)と手動モード(表示サイズの手動での切替)の両方を備えることまで当業者の容易想到である、と仮に、いえたとして、この点についてもみておく。

仮に、甲4記載の前記技術を、甲2発明(相違点1,2を克服したもの)に組み合わせることができるとしても、それらは、基本的に相容れないものであることから、せいぜい、
甲2発明(相違点1,2を克服したもの)の、標準サイズ表示と拡大サイズ表示を自動で切り換えるモード(自動切替モード)とは別に、これとは排他的なモードとして、甲4技術である「標準サイズ表示と拡大サイズ表示を手動で切り替える」手動切替モードを追加的に設け、ユーザーが後者(手動切替モード)も選択設定できる構成とすることまでである。
以下、そのようにしたものが、残る[相違点3]のすべてを克服して、本件特許発明1に至ることが容易にできたか、について検討する。

そのようなものは、まず、
・「自動切替モード」が選択された場合は、
「付加映像判定手段」により付加映像であると判定された場合は、
「切替操作受付手段」により受け付けられた操作に関わらず、常に、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで前記拡大サイズによる表示方法が設定され、
「付加映像判定手段」により付加映像でないと判定された場合は、常に、前記標準サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで前記標準サイズによる表示方法が設定される、
ことになるから、本件特許発明1の要件1Iを満たさず、1Jも満たすことにはならないし、
・「手動切替モード」が選択された場合は、
「付加映像判定手段」による判定に関わらず、常に、切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定することになるから、
1G「前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合に、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定して、
また、前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定して、」とはならないし、
1Iも1Jも満たさない。
いずれにせよ、上記[相違点3]を克服し得ないことは明らかである。

本件特許発明1は、前記【第4-1】[1]イで示したとおり、
「付加映像」であることを示す識別信号が付加されている間は、手動の「切替操作受付手段」による操作に関わらず、自動的に拡大表示を設定するように動作し作用し、
上記識別信号が付加されていない間は、手動の「切替操作受付手段」による操作どおりの標準または拡大表示を設定するように動作し作用することを特徴とするものであり、
かかる動作・作用をもたらすための要件である1D、1E、1I、1J、1G(前後段)を、その中心的特徴をなす構成要件とするものといえるところ、
上記の、自動切替モードとは別に手動切替モードを設けたものは、これら要件1I、1J及び1G(前後段)の組合わせ構成を備えるもの、とはならないのである。

そして、甲1?甲5のいずれも、本件特許発明1の上記特徴を示すものではなく、そこに、上記相違点3を克服して本件特許発明1に至るに足りる動機付けも技術的課題も見いだすことはできない。
したがって、仮に、甲4技術を甲2発明に組み合わせることができるとしても、そのことにより相違点3は克服できず、相違点3の克服が当業者の容易想到であるとはいえない。

〈検討2〉請求人の主張について(その1)
請求人は、 「 (1-2)容易想到」において前述したように、
「甲第4号証には、付加映像ではない映像信号の処理のみが記載されているため、甲第2号証と組み合わせるには、当然に付加映像の判定後(本件特許公報の図8のS410以降)の構成として組み合わせることになる。 すなわち、甲第2号証及び甲第4号証に共通する部分は、サイドパネルがない部分の処理であるため、当業者が甲第2号証及び甲第4号証に触れたときには、当然に共通する部分を中心にして組み合わせを行うはずである。
そうすると、甲第4号証は、甲第2号証に対し、サイドパネルの有無の判定、つまり付加映像の判定の後に組み合わせるのが自然であり、このような組み合わせを行うと、参考図1の構成、つまり本件特許発明1を容易に想到する。」
と主張しているので、この点について検討しておく。

上記請求人の主張は、甲4が示す手動選択技術が、16:9映像信号のうちの「付加映像」以外のものについてのみ手動選択することを示す技術であることを前提とするものである。

しかし、甲4は、そもそも、本件発明でいう「アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域である無画部を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変換された付加映像」については、全く認識も想定もしていないものであって、
すべての16:9の映像信号を用途に応じて手動で自由に4:3信号に変換・表示する技術思想を示すものである。
このことは、変換モード選択手段3(1個のノンロックキー)はユーザが変換モードを常に選択操作できるもので、かつ、同手段3で選択操作された変換モードが即時に反映されるようになっている(このことは明らかである)ことからみても明らかである。
したがって、そこには、「付加映像」が入力された場合とそうでない場合の場合分けをするという技術思想は全くなく、16:9の入力映像の形態に関係なく(「付加映像」が入力された場合であろうとなかろうと)、「標準サイズ」、「拡大サイズ」への変換・表示を、選択手段を用いて(用途に応じて)手動で選択することを示す技術なのであって、
16:9映像信号のうち「付加映像」でない信号以外のものについてのみ手動選択することを示すものとはいえないものである。

すなわち、甲4には、「付加映像」である場合と「付加映像」でない場合を区別して扱うという技術思想自体がないのである。
甲4の図6に記載された映像信号が、「付加映像」でない16:9の映像信号であるからといっても、
このことは、甲4技術が「付加映像」を認識も想定もしていないことを示す根拠とはなり得ても、
そのような「付加映像」以外の映像信号が入力された場合に、手動切替することを示す根拠となるものでもなければ、
そのような「付加映像」以外の映像信号が入力された場合にのみ、手動切替することを示す根拠となるものでもない。
ましてや、「付加映像,であることを識別するための識別信号が、外部から入力される映像信号に付加されている場合」以外の場合だけ、手動切替することを示す根拠となるものでもない。

前記した、本件特許発明1の特徴である、「付加映像,であることを識別するための識別信号」が付加されている間は、(確実に付加映像であると判るので)手動の「切替操作受付手段」による操作に関わらず、自動的に拡大表示を設定するように動作し作用し、
上記識別信号が付加されていない間は、手動の「切替操作受付手段」による操作どおりの標準または拡大表示を設定するように動作し作用する、という技術思想は、甲4技術を超えた技術思想というべきである。
以上のとおり、甲4は、16:9映像信号のうちの「付加映像」以外のものについてのみ手動選択することを示す技術を示すものでなく、したがって、上記請求人の主張はその前提を欠くものである。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。

甲2と甲4を組み合わせたものは、上記〈検討1〉のとおりの、
甲2発明(相違点1,2を克服したもの)の、標準サイズ表示と拡大サイズ表示を自動で切り換える自動切替モードとは別に、これとは排他的なモードとして、甲4技術である「標準サイズ表示と拡大サイズ表示を手動で切り換える」手動切替モードを追加的に設け、ユーザーが後者(手動切替モード)も選択設定できる構成となるにとどまるのであって、これでは本件発明1に至らないことは前記のとおりである。

〈検討3〉請求人の主張について(その2)
なお、請求人は、「前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付け」るタイミングを「前記付加映像判定手段による判定がなされた後」とすることについて、甲第2号証に付加映像の有無の判定を行うことが明確に記載されている以上、この判定に対して、どのタイミングで甲第4号証を組み合わせるべきかということは、上記のように、甲第2号証と甲第4号証に触れた当業者が当然に導き出せる事項である。甲第1号証には、信号の種別によって表示方法を決定した後に、ユーザが表示サイズの切換を行うことが記載されており(段落0044)、そのようなタイミングの選択自体に特徴があるとは到底いえない。
ユーザが自ら表示サイズの切り替えを行う要望があることは、甲第1,3,及び4号証に記載の通り周知の事実であり、さらに、信号の種別によって表示方法が決定した後にも、なお表示サイズの切り替えを行うことは特別な要望のタイミングではなく、甲第1号証の記載からも動機付けがあるといえる。」とも、主張しているので、この点についてもみておく。

請求人の上記主張は、要せば、
1)甲1(段落【0044】)には、信号の種別によって表示方法を自動決定後に、ユーザが表示サイズの切換を行うことが記載されている。
2)ユーザが自ら表示サイズの切り替えを行う要望があることは周知である。
3)甲2に甲4を組み合わせる際、上記1)2)のことから、「前記付加映像判定手段による判定がなされた後」にユーザーの手動切替操作(「表示方法を切り替えるための操作」を受け付けること(要件1J)は何ら困難ではない。
というものである。

まず、上記1)についてみるに、甲1の段落【0044】「この信号を16:9テレビに映像出力する場合も4:3映像として出力される。出力映像のイメージは、テレビ5に設けられた画面サイズ切換機能を用いて、ユーザーが選択する。また、デジタル放送受信機3側で16:9信号に加工(サイドパネル(後述)を付けたり、横方向に伸ばしたりする)して、出力しても良い。16:9テレビ接続時の映像出力のイメージ44は、実線で表す符号7aのイメージまたは、それぞれ左右に拡張した破線で表す符合8L、8Rのイメージである。」は、
4:3の入力映像を16:9のテレビで表示する際、
・デジタル放送受信機3は、そのまま4:3映像として出力し、これを受ける16:9の表示装置側に設けた画面サイズ切換機能で、表示方法をユーザーが選択する構成とする。
・デジタル放送受信機3が、16:9信号に加工(サイドパネル(後述)を付けたり、横方向に伸ばしたりする)して、出力し、これを受ける16:9の表示装置側ではそのまま表示する。
のいずれかの手法が取り得ること示しているのであって、
これは、4:3の映像について、
デジタル放送受信機3では何ら自動的サイズ切替えを行わず、テレビ側だけで手動でサイズ切替えするか、若しくは、デジタル放送受信機3で自動的にサイズ切替えし、テレビ側では手動によるサイズ切替えをしない、ことを示すにとどまるものであって、
4:3の入力映像を、信号の種別によって表示方法を自動決定後に、なお、ユーザが表示サイズの切換を行うこと、を示すものではない。
また、上記1)の上記ユーザ選択は、そもそも、4:3の映像を16:9のテレビで表示する際の、16:9の表示装置(テレビ)側での表示方法のユーザー選択を示す技術にすぎないものであって、
表示装置を含まない「表示装置を接続した状態で用いられる受像装置」での手動選択でもなければ、16:9の映像を4:3の表示装置で表示する場合の表示切替えでもない。

したがって、たとえ、2)ユーザが自ら表示サイズの切り替えを行う要望があることが周知であるとしても、甲1の上記記載から、
16:9の映像を4:3表示装置に表示する表示方法を“自動的に”切り替えるとともに“手動でも”切り替える技術的思想まで認識し得るということはできない、というべきである。

そもそも、上記請求人の主張は、甲4が、16:9映像信号のうちの「付加映像」以外のものについてのみ手動選択することを示すとの大前提の下、
甲2と甲4を組み合わせれば、16:9映像信号のうち「付加映像」については自動的に拡大サイズ表示し、「付加映像」以外のものについてのみ「標準サイズ表示と拡大サイズ表示を手動で切り換える」ことになることを更なる前提においてする主張であるが、
上記〈検討2〉でしたとおり、甲4は、「付加映像」については、認識も想定もしていないものであり、「付加映像」である場合と「付加映像」でない場合を区別して扱うという技術思想自体がなく、甲4が、16:9映像信号の内の「付加映像」以外のものについてのみ手動選択することを示すものとはいえないから、上記大前提が妥当とはいえないし、
甲2と甲4を組み合わせても、せいぜい、標準サイズ表示と拡大サイズ表示を自動で切り換える自動切替モードとは別に、これとは排他的なモードとして、「標準サイズ表示と拡大サイズ表示を手動で切り替える」手動切替モードを追加的に設ける構成となるに止まることは、上記甲1の上記記載によっても変わることはなく、
上記請求人の主張は、その前提において妥当なものではなく、採用し得ないものである。

ましてや、本件特許発明1は、上記のとおりの特徴、すなわち、
「付加映像」であることを示す識別信号が付加されている間は、手動の「切替操作受付手段」による操作に関わらず、自動的に拡大表示を設定するように動作し作用し、
上記識別信号が付加されていない間は、手動の「切替操作受付手段」による操作どおりの標準または拡大表示を設定するように動作し作用することを特徴とするものであり、
そのような動作・作用をもたらすための実現手段として、1D、1E、1I、1J、1G(前後段)の前記した組合わせ構成、
-「付加映像判定手段」(1E)と「切替操作受付手段」(1D)による「表示方法設定手段」(1C)が行う表示方法の設定との関係について、
「付加映像判定手段」を、1Eで「付加映像,であることを識別するための識別信号が、外部から入力される映像信号に付加されている場合に、該映像信号で示される映像が前記付加映像であると判定する、といった処理を映像信号が入力されている間繰り返し実行する」とし、
「切替操作受付手段」を、1Jで「前記切替操作受付手段は、前記付加映像判定手段による判定が行われた後に、前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付けて、」とした上で、
・1G(前段)「前記表示方法設定手段は、前記表示エリア記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶され、かつ、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合に、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定して、」
・1G(後段)「また、前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定して、以降、再度設定変更をするまでの間その設定状態を継続しており、」とし、
・1I「前記表示方法設定手段は、前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合、表示方法の設定変更を行わない一方、前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合、前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで表示方法を前記拡大サイズに設定変更して、」とする組み合わせ構成-
を採るものであって、
そのうちの1要件としての要件1Jが存在するのであり、

そのような組み合わせ構成に至る動機付けとなる、技術的課題も構成も、どこにも見いだすことはできないのであるから、
上記1)?3)であるから要件1Jが当業者の容易想到であるとする上記請求人の主張は採用できない。


(4)まとめ(本件特許発明1の進歩性欠如(容易想到性)の判断)
以上によれば、本件特許発明1は、甲1?甲5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
したがって、本件特許発明1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。

なお、甲6?甲8についても(これらは、請求人が、本件特許発明1が当業者の容易想到である根拠となる刊行物とはしていないが)検討する。
甲6には「デジタル的に圧縮された複数の映像信号の中から順次一つの映像信号を選択して、選択された映像信号中の独立して処理できるフレームをフレームメモリの所定アドレスに縮小して記憶する処理を順次行うことにより複数の映像を一つの映像に表示する複数画像表示装置」が記載されており、
甲7には「それぞれ1画面分の画像データの記憶容量を有する第1及び第2のメモリ」および「前記第1のメモリの読み出しアドレスと前記第2のメモリの書き込みアドレスとを、互いに関連付けた状態で、非周期的に変化させるアドレス変換手段」を備え、「前記アドレス変換手段は、前記第1のメモリに書き込まれている画像データを、表示画面において拡大、縮小、回転又は移動させて前記第2のメモリに書き込ませるための、前記第1のメモリの読み出しアドレスと前記第2のメモリの書き込みアドレスのアドレス変換を行」うことが記載されており、
甲8には「一定量の映像を蓄積し瞬時に再生することができる映像再生手段」が記載されているが、
甲6?甲8は、請求項1(本件特許発明1)に従属する請求項2?6に記載の構成部分が当業者の容易想到であるとするための根拠として挙げる刊行物であって、甲6?甲8には、前記相違点3に係る構成については記載も示唆もない。

[7]本件特許発明2?6の進歩性欠如(容易想到性)についての判断

本件特許発明2?6は、本件特許発明1に従属するものであって、本件特許発明1を含むものであるから、前記[6](本件特許発明1の進歩性欠如(容易想到性)についての判断)においてした判断と同様の理由により、甲1?甲8に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

以上によれば、本件特許発明2?6は、甲1?甲8に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
したがって、本件特許発明2?6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。

[8]まとめ(無効理由1(進歩性欠如、29条第2項))

以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし6に係る発明は、いずれも、甲1?甲8に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
したがって、本件の請求項1ないし6に係る特許は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。


【第4-2】無効理由2(産業上利用可能性、29条第1項柱書き)について

請求人の主張する無効理由2の要点は、
本件特許発明1?6は、「産業上利用することができる発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項柱書の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本件特許発明1?6は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。」
というものであり、詳しくは、
「アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域である無画部を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変換された付加映像,であることを識別するための」「識別信号」は、「現実の放送信号には存在しない」から、「本件特許発明は、発明の課題を解決するための手段は示されているものの、その手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能なものといえ」、「特許法上の発明に該当しない。」
「また、理論的にはその発明を実施することは可能であっても、その実施が実際上考えられないともいえるため、本件特許発明は、産業上利用できない発明である。
以上より、本件特許発明は、産業上利用することができる発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項柱書の規定により特許を受けることができないものである。」
というものである。

<特許法上の「発明」について>
特許法上の「発明」とは、特許法第2条第1項に規定される「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうのであって、現時点で実際に存在するか存在しないかが特許法上の「発明」に該当するか該当しないかの判断基準ではなく、現時点で存在しないからといって特許法上の「発明」に該当しないといえるわけではない。
したがって、本件特許発明の「識別信号」が、仮に、「現実の放送信号には存在しない」としても、そのことをもって、自然法則を利用した技術的思想の創作ではない、とすることはできない。
「アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域である無画部を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変換された付加映像,であることを識別するための」「識別信号」は、「現実の放送信号には存在しない」から「特許法上の発明に該当しない。」とする上記請求人の主張は採用できない。

そして、請求項1?6に記載される本件特許発明1?6は、自然法則を利用した技術的思想の創作と認めることができるものである。

<産業上利用することができる発明について>
請求人は、前記「識別信号」が「現実の放送信号には存在しない」から、「理論的にはその発明を実施することは可能であっても、その実施が実際上考えられないともいえるため、本件特許発明は、産業上利用できない発明である。」と主張しているが、

特許法第29条第1項柱書における「産業上利用することができる発明」であるためには、何らかの「産業」において利用可能性があることをもって足りるのであり、直ちに産業上利用される必要はなく、将来利用される可能性があればよい、と解される。
産業上利用することができる発明ではないという場合は、実際上明らかに実施できない発明である場合のように、その発明が将来的にも産業上利用し得るものと判断されるに至ることはあり得ない、と言い得る場合である。
請求項1?6に記載される本件特許発明1?6についてみれば、仮に、前記「識別信号」が現時点における「現実の放送信号には存在しない」としても、例えば、特許権者が前記「識別信号」を放送信号(映像信号)に付加して放送することで産業上利用することができることは明らかである。
したがって、請求項1?6に記載される本件特許発明1?6は、産業上利用することができない発明とすることはできず、上記請求人の主張は採用できない。

以上のとおりであるから、本件特許発明1?6は、産業上利用することができる発明ではない、とすることはできない。
よって、本件特許発明1?6は特許法第29条第1項柱書の規定に違反してなされたものであるから同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。


【第4-3】無効理由3(実施可能性、36条第4項第1号)について

請求人の主張する無効理由3は、「本件特許発明において特定される識別信号は、実際には存在しないため、本件特許公報における発明の詳細な説明を参酌したとしても、本件特許発明を作ることも、使用することもできない。」というものであり、
要するに、「本件特許発明において特定される識別信号は、実際には存在しない」から本件特許発明を実施することができない、というものである。

上記【第4-2】に記載したとおり、本件特許発明1?6は、自然法則を利用した技術的思想の創作と言い得るものであり、産業上利用することが可能な発明と言い得るものであり、仮に、前記識別信号が実際には存在しないとしても、そのような識別信号を放送信号(映像信号)に付加して放送することで本件特許発明を実施し得ることは明細書の記載から明らかである。
上記請求人の主張は採用できない。

以上のとおりであるから、本件特許公報における発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない、とすることはできない。
よって、本件特許発明1?6は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである、とすることはできない。


【第5】むすび

以上のとおりであるから、
請求人の主張及び証拠方法によっては、請求項1から6にかかる発明についての特許を無効とすることができない。

審判に関する費用については、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-03-05 
出願番号 特願2006-257288(P2006-257288)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (H04N)
P 1 113・ 14- Y (H04N)
P 1 113・ 536- Y (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊東 和重  
特許庁審判長 乾 雅浩
特許庁審判官 ▲徳▼田 賢二
渡邊 聡
登録日 2009-03-06 
登録番号 特許第4271698号(P4271698)
発明の名称 受像装置,チューナー,テレビ受像機および再生装置  
代理人 名古屋国際特許業務法人  
代理人 中山 健一  
代理人 達野 大輔  
代理人 立花 顕治  

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