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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08J
管理番号 1255694
審判番号 不服2008-6724  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-19 
確定日 2012-04-20 
事件の表示 特願2004-319710「湿分硬化エラストマーの弾性を上昇させる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 2日出願公開、特開2005-139452〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成16年11月2日(パリ条約による優先権主張 2003年11月6日 (DE)ドイツ連邦共和国)に出願されたものであって、平成19年7月27日付けで拒絶理由が通知され、同年11月1日に意見書が提出されたが、同年12月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年3月19日に拒絶査定不服審判が請求され、同年4月16日に手続補正書が提出されるとともに審判請求書に関する手続補正書(方式)が提出され、同年5月30日付けで前置報告がなされ、当審において平成22年7月26日付けで審尋がなされ、同年10月28日に回答書が提出され、平成23年5月9日付けで拒絶理由が通知され、同年10月6日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2.本願発明の認定
本願の請求項1?6に係る発明は、平成23年10月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】
湿分硬化エラストマーの製造方法において、
(A)一般式(1)
-A-Si(R)_(a)(CH_(3))_(3-a) (1)
[式中、
Aは、二価の炭化水素基を表し、
Rは、メトキシ基またはエトキシ基を表し、
aは、1、2または3の数値を表す]の末端基を有するアルコキシシラン末端ポリマーを含有するアルコキシ架橋性の一成分系組成物と
(B)一般式(2)
X-CH_(2)-Si(R)_(2)(CH_(3)) (2)
[式中、
Rは前記のものを表し、
Xは、R′′O-基、R′′NH-基、R′-O-CO-NH-基またはR′-NH-CO-NH-基を表し、
R′′は、水素、非置換のまたはハロゲン置換したC_(1)?C_(18)-炭化水素基、R′-O-CO-基またはR′-NH-CO-基を表し、
R′は、非置換のまたはハロゲン置換したC_(1)?C_(8)-炭化水素基を表す]のシランとを反応させる、湿分硬化エラストマーの製造方法。」


第3.当審が通知した拒絶理由の概要
当審が平成23年5月9日付けで通知した拒絶理由通知における、本願発明についての拒絶理由Aの概要は以下のとおりである。

「A.本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
……



A.理由Aについて

1.刊行物
刊行物1:国際公開第2003/014226号
(平成19年7月27日付け拒絶理由通知における引用例1)
刊行物2:特開昭63-83167号公報(当審において新たに引用するもの)
……
3-4.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、刊行物1?2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。」


第4.当審の判断
上記の当審が通知した拒絶理由が妥当なものであるかについて、以下に検討する。

4-1.刊行物
刊行物1:国際公開第2003/014226号
刊行物2:特開昭63-83167号公報

4-2.刊行物1?2に記載された事項
4-2-1.本件出願の優先日前に頒布されたことが明らかな、刊行物1(国際公開第2003/014226号)には、以下の事項が記載されている。(なお、以下の摘示は、刊行物1に対応する公表公報である特表2004-536957号公報(以下、「公表公報」という。)の記載により行う。)
1a.「【請求項1】
アルコキシ架橋性一成分系材料において、これが
(A)一般式(1)
-A-Si(R)_(a)(CH_(3))_(3-a) (1)
の末端基を有するアルコキシシラン末端ポリマー、および
(B)一般式(2)?(4)
X-CH_(2)-Si(R)_(a)(CH_(3))_(3-a) (2)
R′′N[CH_(2)-Si(R)_(a)(CH_(3))_(3-a)]_(2) (3)
N[CH_(2)-Si(R)_(a)(CH_(3))_(3-a)]_(3) (4)
のシランから選択されたシランを含有し、その際、前記式中、
A は非置換またはハロゲン置換の炭素原子数1?18の二価の炭化水素基を表し、
R はメトキシ基またはエトキシ基を表し、
X は基R′′O-、R′′NH-またはハロゲンを表し、
R′′ は水素、非置換またはハロゲン置換の環式、直鎖または分枝鎖のC_(1)?C_(18)-アルキル基またはC_(6)?C_(18)-アリール基を表すか、または基R′-O-CO-またはR′-NH-CO-を表し、
R′ は非置換またはハロゲン置換のC_(1)?C_(8)-炭化水素基を表し、
a は1?3の整数を表す、
ことを特徴とする、アルコキシ架橋性一成分系材料。
【請求項2】
アルコキシシラン末端ポリマー(A)が一般式(7)
-NR^(1)-CH_(2)-Si(R)_(a)(CH_(3))_(3-a) (7)
[式中、R^(1)は水素または非置換またはハロゲン置換の炭素原子数1?18のアルキル基または炭素原子数6?18のアリール基を表し、
Rおよびaは請求項1記載のものを表す]の末端基を有する、請求項1記載の材料。
【請求項3】
ポリマー(A)100質量部に対してシラン(B)を0.1?20質量部含有する、請求項1または2記載の材料。
【請求項4】
成分(C)として、硬化のための触媒を含有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の材料。
【請求項5】
ポリマー(A)がポリウレタン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリビニルエステル、エチレン-オレフィンコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマーおよびポリオレフィンからなる群から選択された基本骨格を有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の材料。
【請求項6】
ポリマー(A)がポリジオルガノシロキサンからなる基本骨格を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の材料。」(特許請求の範囲)

1b.「本発明は著しい貯蔵安定性および硬化特性を有する、アルコキシオルガノシラン末端ポリマー(アルコキシオルガノシランを末端に有するポリマー)をベースとするアルコキシ架橋性一成分系シーラントに関する。
空中湿分で硬化する一成分系材料の形のシラン末端基を有する有機ポリマー(RTV-1)は公知であり、弾性のシーラントおよび接着剤の製造のために多く使用される。」(第1頁3?11行;公表公報段落【0001】-【0002】)

1c.「アルコキシオルガノシラン末端ポリマー(A)をベースとする材料は、優れた安定性と硬化特性を有する。硬化技術および材料の完全硬化にマイナスの影響を与えることなく、改善された貯蔵安定性を有するこの種の材料を製造するために、一般式(2)?(4)のシランをポリマー(A)に添加することが好適であることが示された。従来の組成物と異なり、一般式(2)?(4)のシランの非常に高い反応性のために、この材料は加工に関して、ゲル化することなく十分に長く加工性である。この際、加工時間は添加するシラン量により調節することができる。しかしながら、一般式(2)?(4)のシランが十分に高い反応性を示すことにより、被膜形成時間および完全硬化時間は非常に僅かにシラン量に依存するにすぎない。こうして、硬化特性に悪い影響を与えることなく、例えば貯蔵の際に充填剤から出る多量の水分量に対して非常に良好に安定化されている材料を製造することができる。」(第3頁22行?第4頁8行;公表公報段落【0007】)

1d.「ポリマー(A)は有利に、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリビニルエステル、エチレン-オレフィンコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマーまたはポリオレフィンの群からなる基礎骨格を含有する。特に有利であるのは、分子量5000?50000、特に有利には10000?25000を有するポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタンである。ポリマー(A)の粘度は有利に最大200Pas、特に最大100Pasである。」(第4頁21-27行;公表公報段落【0009】)

1e.「成分(B)としては、メチレンスペーサーを有する一般式(2)、(3)および(4)の有機官能性シランを使用することができる。この種のシランの例は、……、メチルカルバメートメチル-メチルジメトキシシラン、……、エチルカルバメートメチル-メチルジエトキシシラン、……である。
この際有利であるのは、……、特に有利であるのは……、メチルカルバメートメチル-トリメトキシシラン、メチルカルバメートメチル-メチルジメトキシシラン、エチルカルバメートメチル-トリエトキシシラン、エチルカルバメートメチル-メチルジエトキシシランであり、これらはその僅かな塩基性により反応性を付加的に促進する影響を与えない。
この材料はポリマー(A)100質量部に対してシラン(B)を有利に0.1?20質量部、特に有利に0.5?10質量部、殊に2?6質量部含有する。」(第8頁17行-第9頁15行;公表公報段落【0024】-【0026】)

1f.「この材料は、成分(C)として、硬化するための触媒を含有していてもよい。成分(C)としてはシラン縮合を促進することが公知である全ての有機金属触媒を有利に使用することができる。これは、特にスズ化合物およびチタン化合物である。有利なスズ化合物はジブチルスズジラウレート、……である。……更に、共触媒としての塩基性アミンは好適な限りにおいてはこれ自体を触媒としても使用することができる。……更に少なくとも1個のシリル基を有する有機窒素化合物を使用することもできる。シリル基を有する好適な塩基は例えばアミノ基含有シラン、例えば……、アミノエチルアミノプロピル-トリメトキシシラン、……である。」(第9頁17行-第10頁5行;公表公報段落【0027】)

1g.「例1(比較例):
平均分子量8000g/molのポリプロピレングリコール400gをイソホロンジイソシアネート23.0gと共に、100℃で60分間かけて重合する。引き続き、得られたポリウレタンプレポリマーを60℃に冷却し、フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(Silquest^((R)) Y-9669という商標でCK-Witcoから得られる)12.8gと混合し、IR-スペクトル中にイソシアネートのバンドが見えなくなるまで、60分間攪拌する。……
例2:
例1により製造したシラン末端ポリマーを約25℃でジイソウンデシルフタレート155g、3-(2-アミノエチル)-アミノプロピルトリメトキシシラン21.0g、メトキシメチル-トリメトキシシラン21.0gおよび沈降乾燥チョーク(水分含量<300ppm)435gと混合し、実験室用遊星形ミキサー中で0.5時間かけて固いペーストに加工する。最終的に、触媒としてジブチルスズジラウレート2.0gを10分かけて混和する。
……
例4:
例1により製造したシラン末端ポリマーを約25℃でジイソウンデシルフタレート155g、3-(2-アミノエチル)-アミノプロピルトリメトキシシラン21.0g、フェニルアミノメチル-トリメトキシシラン42.0gおよび沈降乾燥チョーク(水分含量<300ppm)435gと混合し、実験室用遊星形ミキサー中で0.5時間かけて固いペーストに加工する。最終的に、触媒としてジブチルスズジラウレート2.0gを10分かけて混和する。」(第12頁19行-第14頁16行;公表公報段落【0038】-【0042】)

1h.「例20:
平均分子量12000g/molのα,ω-OH-末端ポリプロピレングリコール500gをイソシアナトメチル-トリメトキシシラン17.7gと90℃で60分かけて、ジブチルスズジラウレート130mgの添加下に反応させる。このようにして得られたシラン末端ポリエーテルを更にシラン(第2表参照)10.5gを添加し、空気下に貯蔵する。ポリマーの粘度を、時間を関数として測定する。
添加したシランに依存して、空中の湿分によるポリマーの縮合により、空中での粘度の異なる速度の上昇が観察され、この際本発明により使用するシランは明らかに高いポリマーの安定化に導く。
第2表:使用するシラン(それぞれ2.0質量%)に依存する、空中湿分の作用によるシラン末端ポリエーテルの粘度上昇
【表2】


」(第22頁;公表公報段落【0059】-【0062】)


4-2-2.本件出願の優先日前に頒布されたことが明らかな、刊行物2(特開昭63-83167号公報)には、以下の事項が記載されている。
2a.「
(A)25℃における粘度が20?1,000,000センチポイズであ り、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたオルガノポリシロキサン
100重量部、
(B)α-アミノメチルジアルコキシシラン
0.05?20重量部、
および
(C)1分子内にけい素原子に結合した加水分解可能な基を少なくとも3
個有するけい素化合物 0.1?15重量部
から成る室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。」(特許請求の範囲第1項)

2b.「また、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたオルガノポリシロキサンと1分子内にけい素原子に結合した加水分解可能な基を少なくとも3個有するけい素化合物からなる混合物に、アミノ基含有トリアルコキシシランを添加してなる室温硬化性オルガノポリシロキサンも知られている。
……後者の組成物は、接着性に優れるが使用するアミノ基含有アルコキシシランが鎖伸長剤としての働きをしないので、低モジュラスで高伸度のゴム弾性体とならないという欠点があった。
本発明は、前記した欠点を解消し、臭いが少なく、非腐食性であり、硬化して接着性の良好な低モジュラスで高伸度のゴム弾性体となる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供することを目的とする。」(第1頁右下欄12行-第2頁左上欄13行)

2c.「本発明に使用される(B)成分は、本組成物の鎖伸長剤として作用し硬化したゴム状弾性体に低モジュラス性を付与するために必須の成分である。(B)成分はα-アミノメチルジアルコキシシランであり、一般式
R^(2) R^(3) R^(5)
^( ) | | |
R^(1)-N-C-Si(OR^(6))_(2)

R^(4 )
で表わされ(R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)およびR^(5)は水素または置換もしくは非置換の1価炭化水素基、R^(6)は1価炭化水素基もしくはアルコキシ基置換1価炭化水素基を表わす)、けい素に結合したα位の炭素原子にアミノ基が結合している必要があり、また、鎖伸長剤として作用するためには、けい素原子に結合したアルコキシ基が2個であることが必要である。従来、室温硬化性オルガノポリシロキサンの一成分(特に接着付与剤)として多用されるアミノ置換アルキルアルコキシシランは、例えばH_(2)NCH_(2)CH_(2)CH_(2)Si(OMe)_(3)、H_(2)NCH_(2)CH_(2)NHCH_(2)CH_(2)CH_(2)Si(OMe)_(3)などは、通常アミノ基はけい素原子のγ位の炭素(3番目の炭素)に結合しており、またこれらのジアルコキシシランは、鎖伸長剤としての作用をしないので本発明の目的は達成できない。
(B)成分を例示すると、ブチルアミノメチル・メチルジメトキシシラン、ジブチルアミノメチル・メチルジメトキシシラン、……などが例示される。反応活性の点からR^(6)としてメチル基が好ましい。(B)成分の添加量は、(A)成分の分子量、SiOH量、(A)成分以外の(B)成分と反応し得る成分(例えば充填剤中の水分)の量により変わり得るが、通常は(A)成分100重量部に対して0.05?20重量部の範囲であり、好ましくは0.1?10重量部の範囲である。(B)成分の添加量が0.05重量部より少ないと十分な低モジュラス性が得られず、また2包装型で使用する際に十分な可使時間を得ることが困難となり、また20重量部より多くなると、硬化が遅くなったり、経済的に不利益となるためである。」(第2頁左下欄15行-第3頁左上欄18行)

2d.「本発明に使用される(C)成分は、本組成物の架橋剤として作用し、本組成物を架橋硬化せしめるために必須の成分であり、1分子中にけい素原子に直結した加水分解可能な基を少なくとも3個有するけい素化合物である。加水分解可能な基としては、……、とりわけ、アルコキシ基が好ましい。
アルコキシ基を有するけい素化合物としてはメチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどの3官能性アルコキシシラン類およびその部分加水分解縮合物、……などが例示される。
……
(C)成分の添加量は(A)成分100重量部に対して0.1?15重量部の範囲であり、好ましくは0.5?10重量部の範囲である。これは(B)成分の添加量が0.1より少ないと本組成物は硬化せず、また15重量部より多くなると硬化が遅くなったり、経済的に不利益となるためである。」(第3頁左上欄19行-右下欄下から3行)

2e.「本発明の組成物は必要に応じて触媒を添加して硬化を促進せしめても良い。この種の触媒としては錫、チタン、ジルコニウム、鉄、アンチモン、ビスマス、マンガンの有機酸塩、有機チタン酸エステル、有機チタンキレート化合物などがあげられる。使用される触媒の具体例としては、ジブチル錫ジラウレート、……が例示される。その添加量は、(A)成分100重量部当たり0.001?5重量部の範囲が好ましい。」(第3頁右下欄下から2行-第4頁左上欄13行)

2f.「[実施例]
以下、本発明を実施例によって説明する。実施例において部はいずれも重量部を示し、粘度は25℃における値である。また、実施例中では次の略号を用いた。
M_(50):50%引張り応力,T_(max):最大引張り応力,E_(max):最大荷重時の伸び。
実施例1
粘度が14,000センチポイズのα,ω-ジヒドロキシ-ジメチルポリシロキサン100部に軽微性炭酸カルシウム30部、重質炭酸カルシウム70部を配合し均一になるまで混合した。このベース混合物100部に(B)成分としてジブチルアミノメチル・メチルジメトキシシラン2部、(C)成分としてメチルトリメトキシシラン0.5部を添加して均一になるまで混合し室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を得た。この組成物をJISA5758に規定された方法に従ってH型ジョイント(被着体:ガラスおよびアルマイトアルミ、プライマーは使用せず)を作成し、20℃/2週間、次いで30℃/2週間硬化後引張りテストを行った。結果は表1の通りであった。

実施例2
粘度が4000センチポイズのα,ω-ジヒドロキシ-ジメチルポリシロキサン100部に軽微性炭酸カルシウム30部、重質炭酸カルシウム40部を配合し均一になるまで混合した。このベース混合物100部に(B)成分としてジブチルアミノメチル・メチルジメトキシシラン2部、(C)成分としてメチルトリメトキシシラン2部および触媒としてジブチル錫ジラウレート0.02部を添加して均一になるまで混合し室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を得た。この組成物について、実施例1と同様のテストを行ったところ、表2の結果が得られた。

この組成物は密封容器に室温で3箇月保管後も増粘しゲル化することなく、初期と同様の物性が得られた。
比較例1
実施例2のベース混合物100部にN-(β-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン3部、メチルトリメトキシシラン0.6部および触媒としてジブチル錫ジラウレート0.02部を添加して均一になるまで混合し室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を得た。この組成物について実施例1と同様のテストを行ったところ表3の結果が得られた。

」(第4頁左下欄1行-第5頁左上欄)


4-3.本願発明について
4-3-1.刊行物1に記載された発明の認定
刊行物1の摘示記載1g及び1hからみて、アルコキシシラン末端ポリマーに摘示記載1aにおける一般式(2)のシランを反応させていることは明らかであるから、刊行物1には、摘示記載1a、1g及び1hからみて、
「アルコキシ架橋性一成分系材料において、
(A)一般式(1)
-A-Si(R)_(a)(CH_(3))_(3-a) (1)
の末端基を有するアルコキシシラン末端ポリマーに
(B)一般式(2)
X-CH_(2)-Si(R)_(a)(CH_(3))_(3-a) (2)
のシランを反応させる方法であって、その際、前記式中、
A は非置換またはハロゲン置換の炭素原子数1?18の二価の炭化水素基を表し、
R はメトキシ基またはエトキシ基を表し、
X は基R′′O-、R′′NH-またはハロゲンを表し、
R′′ は水素、非置換またはハロゲン置換の環式、直鎖または分枝鎖のC_(1)?C_(18)-アルキル基またはC_(6)?C_(18)-アリール基を表すか、または基R′-O-CO-またはR′-NH-CO-を表し、
R′ は非置換またはハロゲン置換のC_(1)?C_(8)-炭化水素基を表し、
a は1?3の整数を表す、方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4-3-2.本願発明と引用発明との対比
本願発明の成分(A)は「一般式(1)(式省略)の末端基を有するアルコキシシラン末端ポリマーを含有するアルコキシ架橋性の一成分系組成物」であって、これと成分(B)のシランとを反応させることが規定されているが、本願の平成23年10月6日付け手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の実施例においては「混合はFa. Hauschild社の実験室用ミキサー(Speed Mixer DAC 150 AF)中で実施した。その際、シランは充填剤(白亜、ケイ酸)の添加の前に添加混合した。触媒ジブチルスズジラウレートおよびGENIOSIL(R) GF 91の添加は最後の工程で実施した。」(本願明細書段落【0040】)と記載されているように、成分(B)に相当するシランを他成分より先に成分(A)に添加しており、この点からみると、本願発明の成分(A)と成分(B)との反応に際しては必ずしも各成分を混合して「アルコキシ架橋性の一成分系組成物」を得た後に成分(B)を反応させるというものに限定されるわけではなく、いずれかの段階で成分(B)を反応させ、結果として「アルコキシ架橋性の一成分系組成物」となればよいものと認められる。そして、本願発明の一般式(1)と引用発明の一般式(1)は同一であるから、本願発明の上記成分(A)は引用発明の「(A)一般式(1)(式省略)の末端基を有するアルコキシシラン末端ポリマー」に相当するものといえ、本願発明の「アルコキシ架橋性の一成分系組成物」は引用発明の「アルコキシ架橋性一成分系材料」に相当するものといえる。
また、引用発明の「反応」により製造される材料は、刊行物1の摘示記載1b、1c、1g及び1hのとおり、湿分で硬化するものであって弾性のシーラント等の製造に用いられるものであるから、これが本願発明の「湿分硬化エラストマー」に相当することは明らかである。
また、本願発明の一般式(2)(式省略)のシランは、引用発明の一般式(2)(式省略)のシランにおいてa=2であるものに相当するものであるから引用発明の一般式(2)(式省略)のシランに包含されるものであることは明らかであるから、両者は、
「湿分硬化エラストマーの製造方法において、
(A)一般式(1)
-A-Si(R)_(a)(CH_(3))_(3-a) (1)
[式中、
Aは、二価の炭化水素基を表し、
Rは、メトキシ基またはエトキシ基を表し、
aは、1、2または3の数値を表す]の末端基を有するアルコキシシラン末端ポリマーを含有するアルコキシ架橋性の一成分系組成物と
(B)一般式(2)
X-CH_(2)-Si(R)_(a)(CH_(3))_(3-a) (2)
[式中、
Rは前記のものを表し、
Xは、R′′O-基、R′′NH-基、R′-O-CO-NH-基またはR′-NH-CO-NH-基を表し、
R′′は、水素、非置換のまたはハロゲン置換したC_(1)?C_(18)-炭化水素基、R′-O-CO-基またはR′-NH-CO-基を表し、
R′は、非置換のまたはハロゲン置換したC_(1)?C_(8)-炭化水素基を表し、
a は1?3の整数を表す]のシランとを反応させる、湿分硬化エラストマーの製造方法。」である点で一致し、次の相違点1において相違する。

相違点1:本願発明は一般式(2)(式省略)のシランがa=2であるものに限定されているのに対し、引用発明は一般式(2)(式省略)のシランが「aは1?3の整数を表す」ものである点。

4-3-3.相違点1についての判断
刊行物2には、従来から知られている分子鎖末端が水酸基で封鎖されたオルガノポリシロキサンと1分子内にけい素原子に結合した加水分解可能な基を少なくとも3個有するけい素化合物からなる混合物に、アミノ基含有トリアルコキシシランを添加してなる室温硬化性オルガノポリシロキサンは、接着性に優れるが使用するアミノ基含有アルコキシシランが鎖伸長剤としての働きをしないので、低モジュラスで高伸度のゴム弾性体とならないという欠点があったことが記載されており(摘示記載2b)、該欠点を解消し硬化して接着性の良好な低モジュラスで高伸度のゴム弾性体となる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供することを目的とするものであることが記載されている(摘示記載2b)。そして、刊行物2においては、低モジュラスで高伸度のゴム弾性体を得るために(B)成分としてα-アミノメチルジアルコキシシランを用いることが記載されているが、該シランについて「けい素に結合したα位の炭素原子にアミノ基が結合している必要があり、また、鎖伸長剤として作用するためには、けい素原子に結合したアルコキシ基が2個であることが必要である。」(摘示記載2c)ことが記載されており、このようなメチレンスペーサーを有する二官能性シランであれば鎖伸長剤として作用し、その結果として低モジュラスで高伸度のゴム弾性体を得ることができると理解できる。また、刊行物2には、「従来、室温硬化性オルガノポリシロキサンの一成分(特に接着付与剤)として多用されるアミノ置換アルキルアルコキシシランは、例えばH_(2)NCH_(2)CH_(2)CH_(2)Si(OMe)_(3)、H_(2)NCH_(2)CH_(2)NHCH_(2)CH_(2)CH_(2)Si(OMe)_(3)などは、通常アミノ基はけい素原子のγ位の炭素(3番目の炭素)に結合しており、またこれらのジアルコキシシランは、鎖伸長剤としての作用をしないので本発明の目的は達成できない。」(摘示記載2c)ことが記載されており、このようなトリメチレンスペーサーを有するシランではたとえ二官能性であっても鎖伸長剤としては作用しないことが理解できる。
そして、刊行物2の実施例・比較例をみると、メチレンスペーサーを有する二官能性シランを用いた実施例では「E_(max):最大荷重時の伸び」が460?510%(実施例1)、790?800(実施例2)であるのに対し、メチレンスペーサーを有する二官能性シランを用いていない比較例1では250?280%(摘示記載2f)であり、メチレンスペーサーを有する二官能性シランを用いることにより得られる硬化物の弾性が大幅に上昇することが理解できる。
また、刊行物2には(C)成分として用いられる「1分子内にけい素原子に結合した加水分解可能な基を少なくとも3個有するけい素化合物」に関して、「(C)成分は、本組成物の架橋剤として作用し、本組成物を架橋硬化せしめるために必須の成分であり、1分子中にけい素原子に直結した加水分解可能な基を少なくとも3個有するけい素化合物である。」、「加水分解可能な基としては、……、とりわけ、アルコキシ基が好ましい。アルコキシ基を有するけい素化合物としてはメチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどの3官能性アルコキシシラン類およびその部分加水分解縮合物、……などが例示される。」(摘示記載2d)ことも記載されている。
ここで、刊行物2の上記記載に接した当業者であれば、引用発明における一般式(2)(式省略)のシランがメチレンスペーサーを有するものであり、該式中a=2であるものはメチレンスペーサーを有する二官能性シランであって硬化に際しては鎖伸長剤としても作用するものであること、該式中a=3であるものが架橋剤としても作用するものであることを直ちに想起しうると認められる。そして、当業者であれば、引用発明において一般式(2)(式省略)のシランとしてa=2のものを用いれば硬化エラストマーの弾性が上昇すること、a=3のものを用いれば硬化エラストマーの架橋密度が上昇し硬度等が高いものが得られること、a=2のものとa=3のものとの使用バランスを調整することにより各種物性を制御しうることを容易に想到し得るといえる。
したがって、相違点1は、刊行物1?2に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものといえる。

4-3-4.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1?2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第5.むすび
以上のとおりであるから、当審が平成23年5月9日付けで通知した拒絶理由通知における、本願の請求項1に係る発明についての拒絶理由Aは妥当なものであり、本願はこの理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-21 
結審通知日 2011-11-25 
審決日 2011-12-07 
出願番号 特願2004-319710(P2004-319710)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大熊 幸治  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 藤本 保
大島 祥吾
発明の名称 湿分硬化エラストマーの弾性を上昇させる方法  
復代理人 住吉 秀一  
復代理人 河辺 幸代  
復代理人 宮城 康史  
復代理人 篠 良一  
代理人 矢野 敏雄  
復代理人 来間 清志  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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