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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F28F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F28F
管理番号 1255734
審判番号 不服2011-17170  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-09 
確定日 2012-04-20 
事件の表示 特願2006- 77799号「内面溝付伝熱管」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月 4日出願公開、特開2007-255742号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成18年3月20日の出願であって、平成23年4月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年8月9日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2.平成23年8月9日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年8月9日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「銅又は銅合金からなり、管内面に螺旋状の溝が形成された内面溝付伝熱管において、外径Dが4乃至7mm、隣接する溝間に形成されたフィンの管軸方向に対して傾斜する角度であるフィンねじれ角θが15乃至45°、フィン高さhが0.15乃至0.35mm、管軸直交断面におけるフィンの山頂角αが4乃至10°、管周あたりのフィン数nが50乃至70、管軸直交断面におけるフィン先端の湾曲部の曲率半径rが0.04乃至0.08mmであり、溝部の肉厚tと管の外径Dとの比t/Dが0.035以下であることを特徴とする内面溝付伝熱管。」と補正された。

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「内面溝付伝熱管」について、「銅又は銅合金からなり」との限定を付加するとともに、「外径D」について、「4乃至8mm」を「4乃至7mm」と限定するものであり、かつ、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野および解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、特開2005-288502号公報(以下「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

a)「(内面溝付管)
内面溝付管1は、エアコンおよび冷凍空調機器のプレートフィンチューブ型熱交換器に使用されることから、管の管外径Dは、4mm以上10mm以下のものが使用される。また、内面溝付管1の素管の材質としては、銅または銅合金などが使用され、例えばJISH3300に規定された合金番号C1220、C1201等のりん脱酸銅、またはC1020等の無酸素銅である。なお、内面溝付管1の内面溝形状の形成方法は、転造加工法、圧延法などがあるが、特に限定されるものではない。
そして、内面溝付管1は、図3、図4に示すように、その内面に管軸方向に傾斜する方向に形成された多数の溝2と、この溝2間に形成されたフィン3とを有する構成を備え、溝2の溝数は30以上100以下、溝2と管軸とがなす溝リード角θは10度以上50度以下、内面溝付管1の管軸直交断面における内面溝付管1の底肉厚Tは0.2mm以上1.0mm以下、前記フィンのフィン高さhは0.1mm以上であって底肉厚Tの1.2倍以下、フィン山頂角δは5度以上45度以下、フィン根元半径rはフィン高さhの20%以上50%以下である。
次に、内面溝付管1の前記内面溝形状における数値限定について説明する。
(1)溝数:30以上100以下
溝数は、後記する内面溝形状の各諸元と組み合わせて、伝熱性能および単重等を考慮して、適宜決定されるものであるが、30以上100以下が好ましい。溝数が30未満であると溝成形性が悪くなりやすく、また、溝数が100を超えると溝付工具(溝付プラグ)の欠損が生じやすい。いずれも、内面溝付管1の量産性が低下しやすくなる。
(2)溝リード角θ:10度以上50度以下
溝リード角θは、10度以上50度以下が好ましい。溝リード角θが10度未満であると、内面溝付管1(熱交換器)の伝熱性能が低下しやすい。また、溝リード角θが50度を超えると、内面溝付管1の量産性の確保および拡管によるフィン3の変形を抑制しにくくなる。
(3)底肉厚T:0.2mm以上1.0mm以下
底肉厚Tは0.2mm以上1.0mm以下が好ましい。底肉厚Tが前記範囲外であると、内面溝付管1の製造がしにくくなる。また、底肉厚Tが0.2mm未満であると、内面溝付管1の強度が低下しやすく、高圧冷媒としての炭酸ガス等を使用した際、耐圧力強度の保持が困難になりやすい。
(4)フィン高さh:0.1mm以上(底肉厚T×1.2)mm以下
フィン高さhは、0.1mm以上(底肉厚T×1.2)mm以下が好ましい。フィン高さhが0.1mm未満であると、内面溝付管1(熱交換器)の伝熱性能が低下しやすい。また、フィン高さhが(底肉厚T×1.2)mmを超えると、内面溝付管1の量産性の確保および拡管によるフィン3の極度の変形を抑制しにくくなる。
(5)山頂角δ:5度以上45度以下
山頂角δは、5度以上45度以下が好ましい。山頂角δが5度未満であると、内面溝付管1の量産性の確保および拡管によるフィン3の変形を抑制しにくくなる。また、山頂角δが45度を超えると、内面溝付管1(熱交換器)の伝熱性能の維持および内面溝付管1の単重が過大となりやすい。」(段落【0023】-【0028】、下線は当審にて付与。以下同様。)

b)段落【0044】の【表1】には、「内面溝付管の溝形状:B」「管外径D(mm):7」「管最小内径d(mm):6.00」「溝数:55」「溝リード角θ(度):35」「底肉厚T(mm):0.25」「フィン高さh(mm):0.25」「フィン山頂角δ(度):10」「フィン根元半径r(mm):0.10」が開示されている。

c)図4(a)、(b)の図示内容から、管軸直交断面における「フィン3」の先端は湾曲しているものと認められる。

上記a)の記載事項、上記c)の認定事項および図面の図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されていると認められる。
「銅又は銅合金からなり、管内面に管軸方向に傾斜する方向に形成された多数の溝2と、この溝2間に形成されたフィン3とを有する内面溝付管1において、管外径Dは4mm以上10mm以下、溝2と管軸とがなす溝リード角θは10度以上50度以下、フィン高さhは0.1mm以上であって底肉厚Tの1.2倍以下、フィン山頂角δは5度以上45度以下、溝2の溝数は30以上100以下、管軸直交断面におけるフィン先端が湾曲しており、内面溝付管1の底肉厚Tは0.2mm以上1.0mm以下である内面溝付管1。」

(2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-243384号公報(以下「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

a)「本実施例の内面溝付伝熱管は、素材として溝が形成されていないシームレス銅管を用意し、この管の内側に溝付プラグを挿入し、この管の外面に転造ボールを押圧し、溝付プラグ及び転造ボールを回転させて管を転造することにより製造される。これにより、溝付プラグによって管の内面に螺旋状の溝が形成されると共に、管外面を転造ボールにより押圧することにより、管内面に転造ボールの圧痕の軌跡が現われる。・・・この後、この管に縮径をかけ、内面溝付伝熱管1cが製造される。図2(a)に示すように、内面溝付伝熱管1cの管内面には、螺旋状の溝3及び転造ボールの圧痕の軌跡4が形成されている。螺旋状の溝3と管内面における管軸方向に平行な線5とのなす角は25°以上であり、転造ボールの圧痕の軌跡4は管軸直交方向に対して溝3と同じ方向に0°を超え10°以下の角度で傾斜している。」(段落【0019】)

b)「図7(a)乃至(d)は、夫々溝ピッチ(Pg)が0.333mm、0.274mm、0.245mm及び0.222mmである内面溝付伝熱管において、凝縮時の管周方向の表面温度分布を示すグラフ図である。この温度分布は図3に示した試験装置を使用して測定される。試験条件は、供試部13aの入口における冷媒の乾き度が0.6、出口の乾き度が0.4、凝縮温度は供試部長手方向中間位置で45℃になるように制御される。試験対象となる内面溝付伝熱管は、外径(D0)が7.94mm、底肉厚(tw)は0.26mmであり、これらの内面溝付伝熱管の内面形状は、リード角(θ)が30°、圧痕の軌跡と管軸直交方向とのなす角(η)が+3°、フィンの高さ(Hf)は0.15mm、フィンの根元の円弧半径(R)は0.05mm、フィンの先端の円弧半径(R0)は0.04mm、フィンの山頂角(α)は20°である。」(段落【0036】)

c)「なお、前記内面溝付伝熱管に関して、更に熱伝熱性能の向上及び軽量化を図るために、フィンの山頂角(α)は25°以下、フィン先端の円弧半径(R0)は0.05mm以下であることが望ましい。」(段落【0053】)

d)「また、ジフルオロメタンは作動時の圧力が従来の冷媒に比べて高いため、内面溝付伝熱管の底肉厚は、底肉厚をtw、管の外径をD0とするとき、下記数式3の関係を満たすものが望ましい。
【数3】D0/tw≦31.7」(段落【0054】-【0055】)

e)上記d)の記載事項から、「tw/D0≧1/31.7≒0.0315」であると認められる。

上記a)?c)の記載事項および図面の図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例2には、次の事項(引用例2の記載事項1)が記載されていると認められる。
「銅からなり、管内面に螺旋状の溝が形成された内面溝付伝熱管1cにおいて、外径(D0)が7.94mm、リード角(θ)が30°、フィンの高さ(Hf)は0.15mm、フィンの山頂角(α)は20°、フィンの先端の円弧半径(R0)は0.04mm、底肉厚(tw)は0.26mmであり、熱伝熱性能の向上及び軽量化を図るために、フィン先端の円弧半径(R0)は0.05mm以下であることが望ましいこと。」
また、上記a)?d)の記載事項および上記e)の認定事項を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例2には、次の事項(引用例2の記載事項2)が記載されていると認められる。
「銅からなり、管内面に螺旋状の溝が形成された内面溝付伝熱管1cにおいて、冷媒の作動時の圧力に耐えるために、底肉厚twと管の外径D0の比tw/D0を略0.0315以上にすること。」

3.対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「溝2」は、本願補正発明の「溝」に相当し、以下同様に、
「フィン3」は「フィン」に、
「内面溝付管1」は「内面溝付伝熱管」に、
「管外径D」は「外径D」に、
「フィン山頂角δ」は「管軸直交断面におけるフィンの山頂角α」に、
「内面溝付管1の底肉厚T」は「溝部の肉厚t」に、
それぞれ相当する。

また、引用発明の「管軸方向に傾斜する方向に形成された多数の溝2」「を有する内面溝付管1」は本願補正発明の「螺旋状の溝が形成された内面溝付伝熱管」に相当し、同様に、「溝2間に形成されたフィン3」は、「隣接する溝間に形成されたフィン」に相当する。
すると、引用発明において、「溝2」と「フィン3」とは隣接して平行に配置されているため、「溝2」と「内面溝付管1」の軸方向との間の角度は、「フィン3」と「内面溝付管1」の軸方向との間の角度と等しいことは明らかであるから、引用発明の「溝2と管軸とがなす溝リード角θ」は本願補正発明の「隣接する溝間に形成されたフィンの管軸方向に対して傾斜する角度であるフィンねじれ角θ」に相当する。
さらに、引用発明において、「溝2」と「フィン3」とは、管周内面で交互に存在するため、「溝2」の数と「フィン3」の数が等しいことは明らかであるから、引用発明の「溝2の溝数」は、本願補正発明の「管周あたりのフィン数n」に相当する。

次に、引用発明の「管外径Dは4mm以上10mm以下」と、本願補正発明の「外径Dが4乃至7mm」とは、「外径Dが4乃至7mm」という点で共通し、引用発明の「溝2と管軸とがなす溝リード角θは10度以上50度以下」と、本願補正発明の「隣接する溝間に形成されたフィンの管軸方向に対して傾斜する角度であるフィンねじれ角θが15乃至45°」とは、「隣接する溝間に形成されたフィンの管軸方向に対して傾斜する角度であるフィンねじれ角θが15乃至45°」という点で共通し、引用発明の「フィン高さhは0.1mm以上であって底肉厚Tの1.2倍以下」と、本願補正発明の「フィン高さhが0.15乃至0.35mm」とは、引用発明において「底肉厚T」の最大値が「1.0mm」であり、「底肉厚Tの1.2倍」の最大値が「1.2mm」あることから、「フィン高さhが0.15乃至0.35mm」という点で共通し、引用発明の「フィン山頂角δは5度以上45度以下」と、本願補正発明の「管軸直交断面におけるフィンの山頂角αが4乃至10°」とは、「管軸直交断面におけるフィンの山頂角αが5乃至10°」という点で共通し、引用発明の「溝2の溝数は30以上100以下」と、本願補正発明の「管周あたりのフィン数nが50乃至70」とは、「管周あたりのフィン数nが50乃至70」という点で共通する。
さらに、引用発明の「管軸直交断面におけるフィン先端が湾曲して」いることと、本願補正発明の「管軸直交断面におけるフィン先端の湾曲部の曲率半径rが0.04乃至0.08mmで」あることとは、「管軸直交断面におけるフィン先端が湾曲して」いるという点で共通し、引用発明の「内面溝付管1の底肉厚Tは0.2mm以上1.0mm以下」と、本願補正発明の「溝部の肉厚tと管の外径Dとの比t/Dが0.035以下」とは、「溝部の肉厚tをある値に限定する」という点で共通する。

そうすると、両者は、
「銅又は銅合金からなり、管内面に螺旋状の溝が形成された内面溝付伝熱管において、外径Dが4乃至7mm、隣接する溝間に形成されたフィンの管軸方向に対して傾斜する角度であるフィンねじれ角θが15乃至45°、フィン高さhが0.15乃至0.35mm、管軸直交断面におけるフィンの山頂角αが5乃至10°、管周あたりのフィン数nが50乃至70、管軸直交断面におけるフィン先端が湾曲しており、溝部の肉厚tをある値に限定する内面溝付伝熱管。」の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
内面溝付伝熱管のフィン先端の形状について、本願補正発明では、「管軸直交断面におけるフィン先端の湾曲部の曲率半径rが0.04乃至0.08mm」であるのに対し、引用発明では、管軸直交断面におけるフィン先端が湾曲しているものの、その曲率半径は不明な点。

[相違点2]
内面溝付伝熱管の溝部の肉厚について、本願補正発明では、「溝部の肉厚tと管の外径Dとの比t/Dが0.035以下である」のに対し、引用発明では、「底肉厚Tは0.2mm以上1.0mm以下」であるが、溝部の肉厚と管の外径との比については不明な点。

4.判断
[相違点1]について
本願補正発明と引用例2の記載事項1とを対比すると、引用例2の「内面溝付伝熱管1c」は本願補正発明の「内面溝付伝熱管」に相当し、以下同様に、
「外径(D0)」は「外径D」に、
「リード角(θ)」は「フィンねじれ角θ」に、
「フィンの高さ(Hf)」は「フィン高さh」に、
「フィンの山頂角(α)」は「フィンの山頂角α」に、
「フィンの先端の円弧半径(R0)」は「フィン先端の湾曲部の曲率半径r」に、
「底肉厚(tw)」は「溝部の肉厚t」に、
それぞれ相当する。
すると、引用例2の記載事項1は、「銅からなり、管内面に螺旋状の溝が形成された内面溝付伝熱管において、外径Dが7.94mm、フィンねじれ角θが30°、フィン高さhは0.15mm、フィンの山頂角αは20°、フィン先端の湾曲部の曲率半径rは0.04mm、溝部の肉厚tは0.26mmであり、熱伝熱性能の向上及び軽量化を図るために、フィン先端の湾曲部の曲率半径rは0.05mm以下であることが望ましいこと。」と言い換えることができる。つまり、本願補正発明と形状的に類似した内面溝付伝熱管において、フィン先端の湾曲部の曲率半径rを0.04mmにすること、および、熱伝熱性能の向上及び軽量化を図るために、フィン先端の湾曲部の曲率半径rは0.05mm以下であることが望ましいことが開示されている。

また、特開2005-134053号公報の段落【0024】には「図2に示される如く、管内面に多数の溝12が管周方向に又は管軸に対して所定のリード角をもって延びるように形成されると共に、それら多数の溝12のうちで、互いに周方向に隣り合うもの同士の間に、所定高さの内面フィン14が形成されてなる内面溝付伝熱管2において、管外径(D)が4mm?12mmとされると共に、溝12の形成部位における管壁厚となる底肉厚(t)が、0.11×D0.33≦t≦0.17×D0.33を満たす値とされ、且つ内面フィン14の高さ(h)が0.05?0.25mmとされる一方、内面フィン14の管周方向に対向する側面間の距離の最小値にて表される内面フィン14の最小幅(w)が0.04?0.12mmとされるか、若しくは内面フィン14の先端面の曲率半径(R)が0.02?0.06mmとされ、更に、管軸直角断面における溝12の条数(N)と管外径(D)との比:N/Dが10.0?16.0の範囲内の値となるように構成したのであって、これにより、機械拡管操作の実施時において、内面フィン14の変形が極力抑制されるようにしたのである。」と記載されており、本願補正発明と形状的に類似した内面溝付伝熱管において、フィン先端の湾曲部の曲率半径rを0.02?0.06mmにすることにより、機械拡管操作の実施時において、フィンの変形が極力抑制されるようにしたことが開示されている。
さらに、特開2005-195192号公報の段落【0039】には「フィン先端半径rは、溝深さhの0.05以上0.15未満の範囲とすることが好ましい。フィン先端半径rが溝深さhの0.05未満である場合には、フィン先端半径rが小さくなることから、フィン3が高くなった場合にフィン3(溝2)の成形性が悪くなり、所定形状のフィン3が得られ難く、また管内面の溝2に当接する溝成形用工具に破損が発生しやすくなる。また、フィン先端半径rが、溝深さhの0.15以上の場合には、フィン先端半径rが大きくなることから、フィン3の断面積が大きくなり、内面溝付伝熱管1の重量が重くなる。」と記載されるとともに、請求項1には「溝深さhが0.10mm以上0.35mm以下」と記載されており、計算するとフィン先端半径rは、0.0525mm未満となることから、本願補正発明と形状的に類似した内面溝付伝熱管において、フィン先端の湾曲部の曲率半径rを0.0525mm未満にすることにより、フィンの成形性を良くしたり、伝熱管の重量を軽くするようにしたことが開示されている。
つまり、引用例2を含めた複数の文献に記載されているように、機械拡管操作時のフィンの変形抑制、フィンの成形性、伝熱管の軽量化等様々な理由で、フィン先端の湾曲部の曲率半径rを0.04mm程度にすることは、本願出願前に周知の技術事項である。

そうすると、引用発明において、前記周知の技術事項に基づいて、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点2]について
まず、「溝部の肉厚tと管の外径Dとの比t/Dが0.035以下」の技術的根拠として、明細書の段落【0022】には、「内面溝付管を拡管するとき、拡管ビレットは先ず管内のフィン先端と接触し、拡管圧力がフィンを通して管壁に伝わり、管の外径が増大する。t/Dの値が0.035を超えると、管壁部の変形抵抗が大きくなり、フィンの潰れ及び倒れが発生しやすくなる。従って、t/Dは0.035以下とする。なお、t/Dの下限値は管内を流れる冷媒の圧力、管の引張り強さ等により定まる耐圧強度により求めることができる。」と記載している。
しかし、明細書の【表1】を参酌すると、実施例No.1のものは、「外径D」が4.5mm、「溝底肉厚t」が0.170mmで、「t/D」が0.038であって、0.035より大きいにもかかわらず、「フィンの形倒れ」は「なし」であり、「フィン潰れ量」も「○」で、拡管時に問題が生じないことが開示されている。
このことから、「t/Dが0.035」という値に、フィン潰れ及び倒れの発生に関して臨界的意義はないと言わざるを得ない。
そして、引用例1の上記b)の「管外径D(mm):7」「底肉厚T(mm):0.25」から、引用例1には、「T/D」(本願補正発明の「t/D」)≒0.0357である実施例が開示されており、臨界的に意義のない「0.035」と略同一のものが開示されている。

次に、引用例1の上記a)には「底肉厚Tは0.2mm以上1.0mm以下が好ましい。底肉厚Tが前記範囲外であると、内面溝付管1の製造がしにくくなる。」と記載されているとともに、特開2005-134053号公報の段落【0028】には「一方、底肉厚(t)が、0.17×D0.33を上回るような値とされる場合には、底肉厚(t)が過度に厚くなり過ぎて、機械拡管時における底肉厚(t)の減少が期待され得なくなって、機械拡管時に、内面フィン14の変形が惹起され易くなり、それによって、前述せる如き溝12の条数と管外径との比:N/Dの制御による内面フィン14の変形の効果的な抑制が困難となってしまうからである。」と記載されているように、管の製造や機械拡管時を考慮して、(管外径に対する)溝部の肉厚の上限値を定めることは、本願出願前から当業者に知られていたことであり、その際、溝部の肉厚あるいは溝部の肉厚と管の外径との比の上限値をどのような値に決定するかは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎないものである。
また、引用例2の記載事項2から、冷媒の作動時の圧力に耐えるために、溝部の肉厚tと管の外径Dとの比t/Dを略0.0315以上にすることは、本願出願前から公知であり、前記上限値を、引用例2の記載事項2で示された下限値0.0315より大きい0.035という値にすることに、特段の困難性は認められない。

そうすると、引用発明において、溝部の肉厚と管の外径との比を0.035以下にして、相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

そして、本願補正発明の奏する作用効果も、引用発明及び引用例2の記載事項並びに前記周知の技術事項から当業者が予測できる範囲内のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用例2の記載事項並びに前記周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
平成23年8月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年4月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「管内面に螺旋状の溝が形成された内面溝付伝熱管において、外径Dが4乃至8mm、隣接する溝間に形成されたフィンの管軸方向に対して傾斜する角度であるフィンねじれ角θが15乃至45°、フィン高さhが0.15乃至0.35mm、管軸直交断面におけるフィンの山頂角αが4乃至10°、管周あたりのフィン数nが50乃至70、管軸直交断面におけるフィン先端の湾曲部の曲率半径rが0.04乃至0.08mmであり、溝部の肉厚tと管の外径Dとの比t/Dが0.035以下であることを特徴とする内面溝付伝熱管。」

1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記「第2.2.」に記載したとおりである。

2.対比および判断
本願発明は、前記「第2.」で検討した本願補正発明から、「内面溝付伝熱管」について、「銅又は銅合金からなり」との限定を省くとともに、「外径D」について、「4乃至8mm」を「4乃至7mm」と限定することを省いたものである。
そうすると、実質的に本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2.3.及び4.」に記載したとおり、引用発明及び引用例2の記載事項並びに前記周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に、引用発明及び引用例2の記載事項並びに前記周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2の記載事項並びに前記周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-16 
結審通知日 2012-02-21 
審決日 2012-03-05 
出願番号 特願2006-77799(P2006-77799)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F28F)
P 1 8・ 575- Z (F28F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柿沼 善一  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 青木 良憲
佐野 遵
発明の名称 内面溝付伝熱管  
代理人 藤巻 正憲  

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