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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680215 審決 特許
無効2008800195 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B23Q
審判 全部無効 1項2号公然実施  B23Q
審判 全部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正  B23Q
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B23Q
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23Q
管理番号 1255822
審判番号 無効2010-800145  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-08-20 
確定日 2012-03-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第4038108号発明「旋回式クランプ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4038108号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 特許第4038108号の請求項4に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その4分の1を請求人の負担とし、4分の3を被請求人の負担とする。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第4038108号の請求項1ないし4に係る発明についての手続の経緯は、以下のとおりである。
・平成13年11月13日 特願2001-346977号出願
・平成13年12月18日 特願2001-383987号出願
・平成14年 4月 3日 特願2002-100851号出願
・平成14年10月10日 上記3つの出願を優先基礎とし、国内優先権を主張して、特願2002-296828号として出願
・平成19年11月 9日 特許の設定登録
・平成22年 8月20日 無効審判請求(請求人)
・平成22年11月 9日 答弁書提出(被請求人)
・平成23年 1月31日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
・平成23年 1月31日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
・平成23年 2月14日 口頭審理
・平成23年 2月14日 口頭審理陳述要領書(2)提出(請求人)
・平成23年 2月14日 口頭審理陳述要領書(2)提出(被請求人)

2 本件発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明4」とする。)は、本件特許の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に記載された、次のとおりのものである。

「【請求項1】
ハウジング(3)内に軸心回りに回転可能に挿入されると共に軸心方向の一端から他端へクランプ移動されるクランプロッド(5)であって、片持ちアーム(6)を固定する部分と、上記ハウジング(3)の一端側の第1端壁(3a)に緊密に嵌合支持されるようにロッド本体(5a)に設けた第1摺動部分(11)と、上記ハウジング(3)の筒孔(4)に挿入したピストン(15)を介して駆動される入力部(14)と、上記ハウジング(3)の他端側の第2端壁(3b)に緊密に嵌合支持されるように上記ロッド本体(5a)から他端方向へ一体に突出されると共に周方向へほぼ等間隔に並べた複数のガイド溝(26)を外周部に形成した第2摺動部分(12)とを、上記の軸心方向へ順に設けたクランプロッド(5)と、
その第2摺動部分(12)に設けた複数のガイド溝(26)にそれぞれ嵌合するように上記ハウジング(3)に支持した複数の係合具(29)とを備え、
上記の複数のガイド溝(26)は、それぞれ、上記の軸心方向の他端から一端へ連ねて設けた旋回溝(27)と直進溝(28)とを備え、上記の複数の旋回溝(27)を相互に平行状に配置すると共に上記の複数の直進溝(28)を相互に平行状に配置し、
上記ピストン(15)の両端方向の外方に配置された上記の第1摺動部分(11)と第2摺動部分(12)との2箇所で上記クランプロッド(5)を上記ハウジング(3)に緊密に嵌合支持させて同上クランプロッド(5)が傾くのを防止するように構成した、ことを特徴とする旋回式クランプ。
【請求項2】
請求項1に記載した旋回式クランプにおいて、
前記ガイド溝(26)を3つ又は4つ設けた、ことを特徴とする旋回式クランプ。
【請求項3】
請求項1または2の旋回式クランプにおいて、
前記の旋回溝(27)を螺旋状に形成し、その旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定した、ことを特徴とする旋回式クランプ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの旋回式クランプにおいて、
前記の複数の係合具(29)をボールによって構成し、前記の第2端壁(3b)に、上記の係合ボール(29)を回転自在に支持する貫通孔(31)を、前記の軸心方向に対してほぼ直交するように設け、上記の複数の係合ボール(29)にわたってスリーブ(35)を回転自在に外嵌した、ことを特徴とする旋回式クランプ。」

3 請求人の主張
(1)主張概略
請求人が審判請求書において主張する無効理由は、概略、以下のとおりである。
本件特許は、下記いずれかの理由により特許法第123条第1項第1号、第2号、又は第4項に該当し、無効とすべきである。

【無効理由1】
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載の発明特定事項のうち、「その第2従動部分(12)に設けた複数のガイド溝(26)にそれぞれ嵌合するように上記ハウジング(3)に支持した複数の係合具(29)とを備え、」については、平成19年10月4日付け手続補正による「ハウジング(3)に支持した」との補正事項により、「ハウジングの第2摺動部分と緊密に嵌合しない部分に設けてもよい」との事項を含むものである。
出願当初明細書(甲1号証)の特許請求の範囲には、「「第2端壁(3b)以外」の「第2摺動部分(12)を軸心方向へ移動自在に支持しないハウジング(3)」に係合具(29)を設けるものまでは含まれていない」こと、また、発明の詳細な説明からは、「第2摺動部分を支持しない部分に係合具を設けてもよい」という技術的事項は導き出せないことから、上記手続補正による補正は新規事項の追加であり、特許法第17条の2第3項の規定により特許を受けることができないものである。

【無効理由2】
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載の発明特定事項のうち、「その第2従動部分(12)に設けた複数のガイド溝(26)にそれぞれ嵌合するように上記ハウジング(3)に支持した複数の係合具(29)とを備え、」について、発明の詳細な説明には、「係合具をハウジングの第2端壁に設けた」ということのみが記載されており、係合具をハウジングの「第2端壁」以外の「第2摺動部分と緊密に勘合しない部分」に設けてもよい、との記載は存在しない」、すなわち、「発明の詳細な説明に記載された「ハウジング(3)の第2端壁(3b)」に係る発明の範囲を超える」から、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものである。

【無効理由3】
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載の発明特定事項のうち、「緊密に嵌合」及び「傾くのを防止するように構成した」について、「本件明細書において、先行技術文献(甲6)に示された従来技術(公知技術)との対比による本件発明の技術的意義は、クランプロッドの下部における嵌合隙間を小さくしてクランプロッドの傾きを防止し、クランプロッドを高精度にガイドすることであり、その解決手段が『緊密に嵌合』である」としている。
また、平成19年10月4日付け手続補正により、「『緊密に嵌合』及び『傾くのを防止するように構成した』という事項を追加して」、同日付けの意見書において「クランプロッド(5)の摺動時にそれが傾くことが望ましくないこと等の当業者の技術常識を考慮すると『緊密に嵌合』とは、クランプロッド(5)がハウジング(3)に対して円滑に摺動し得る機能を確保しつつ、用途等に応じていくらかの違いはあるものの両者間の隙間を可及的に小さくするという前提に立って、所要の寸法公差や製造技術等の制約のもとで不可避な程度の隙間をもって支持されていることをいうと理解される。」こと、及び、刊行物1(甲第8号証)記載の発明に対して、「下ロッドc及び上ロッドfがシリンダaの下端壁及び上端壁に緊密に嵌合支持されているかは、明細書に何ら記載されてなく示唆もされていない」と、請求人は主張している。
しかしながら、一方、嵌め合いは、JISによって規格化されており、どのような嵌め合いを採用するかは、単なる設計的事項であることも出願当時の技術常識であった(甲第9号証参照)から、甲9に示される嵌め合いのうち、どの嵌め合いが本件発明でいうところの「緊密に嵌合」に該当し、刊行物1(甲8)や本件明細書発明に記載の従来技術(甲6)において採用されていた嵌め合いとは異なるものである等の説明がない限り、本件発明における「緊密に嵌合」の技術的意義は明確でなく、本件特許請求の範囲及び発明の詳細な説明には、「緊密に嵌合」や「傾き」の程度に関して具体的な数値の開示はなく、また、その意義・外延について、これを明確にする定義や説明の記載はないので、刊行物1(甲8)や本件明細書に記載の従来技術(甲6)に記載の嵌め合いと区別することができず、本件特許を受けようとする発明は明確でない。さらに、被請求人は、大阪地方裁判所「平成21年(ワ)第1193号事件」において、通常の嵌合である「H7/f7」の嵌め合いを有するイ号製品ないしハ号製品を、緊密な嵌合を有する侵害品であると主張し、通常の嵌め合いに過ぎない「H7/f7」までも、本件発明の「緊密に嵌合」として第三者に不測の不利益を与えるものである。
よって、明細書及び技術常識を参酌してもその程度が不明瞭であるから、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものである。

【無効理由4】
本件発明1に記載の「緊密に嵌合」及び「傾くのを防止するように構成」については、無効理由3で述べたとおり、その程度が不明確であるため、公知技術と区別された本件発明を把握することができないから、本件特許は、実施可能要件を充足する前提を欠くものであり、特許法第36条第4項第1号の規定により特許を受けることができないものである。

【無効理由5】
本件発明1ないし2は、甲第12号証ないし甲第15号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先権主張日前に当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

【無効理由6】
本件発明3は、甲第16号証ないし甲第18号証に開示されていない内容を含むから、特許法第41条第2項の規定により優先権主張の効果が認められない。よって、本件発明3の事項を包含する本件発明1ないし4は、甲第19号証ないし甲第21号証に示される、被請求人製品の「スイングクランプLH」と同一であり、特許法第29条第1項第2号、及び、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(審判請求書に加え、下記「5 口頭審理において」の、請求人の陳述4も参照。)

(2)各甲号証
請求人の示した各甲号証は、次のとおりである。
甲第1号証:特開2004-1163号公報(特願2002-296828号、すなわち、本件特許の出願当初明細書)
甲第2号証:特願2002-296828号の、平成19年10月4日付け手続補正書
甲第3号証:特願2002-296828号の、平成19年10月4日付け意見書
甲第4号証:本件特許の、特許第4038108号公報
甲第5-1号証:「大阪地裁平成21年(ワ)第1193号事件」(特許第4038108号に基づく特許権侵害訴訟)における訴状の写し
甲第5-2号証:「大阪地裁平成21年(ワ)第1193号事件」における平成21年7月3日付け「準備書面(4)」に添付の「イ号製品説明書」ないし「ハ号製品説明書」の写し
甲第6号証:米国特許5820118号明細書
甲第6-1号証:甲第6号証抄訳
甲第7号証:特願2002-296828号の平成17年11月4日付け拒絶理由通知書
甲第8号証:実願昭46-24405号(実開昭47-18875号)のマイクロフィルム
甲第9号証:「新版3訂 JISによる 機械製図法」、第124ないし125ページの写し
甲第10号証:「治具工具取付具」、第310ページの写し
甲第11号証:平成18年第196号「事実実験公正証書」(図番:2MCT209820)の正本の写し
甲第12号証:実願昭63-130286号(実開平2-51043号)のマイクロフィルム
甲第13号証:特開平10-34469号公報
甲第14号証:特開2001-198754号公報
甲第15号証:特開平8-33932号公報
甲第16号証:特願2001-346977号
甲第17号証:特願2001-383987号
甲第18号証:特願2002-100851号
甲第19号証:2002年3月23日新製品ニュース(被請求人のホームページのコピー)
甲第20号証:2002年7月2日新製品ニュース(被請求人のホームページのコピー)
甲第21号証:「平成19年(行ケ)第10315号」における平成20年6月19日付け「準備書面(3)」の抜粋(第1、15、16ページ、及び添付資料3)

4 被請求人の主張
(1)主張概略
本件特許は、各甲号証の存在にかかわらず、特許法第17条の2第3項第36条第6項第1号第36条第6項第2号第36条第4項第1号第29条第2項第41条第2項の規定に違反して特許されたものではなく、したがって、請求人主張の無効理由1ないし6の主張は誤りであり、本件特許が、特許法第123条第1項第1号、第2号、又は第4項の規定により無効にされることはない。
なお、請求人主張の無効理由6について、少なくとも本件発明1については、第41条第2項の規定により優先権主張の効果が否定されない旨の、予備的主張も行っている。

(2)乙号証
乙第1号証:無効2006-80215号審決
乙第2号証:平成19年(行ケ)第10315号 審決取消請求判決(乙第1号証の審決取消請求)

5 口頭審理について
口頭審理において、請求人は、次のとおりに陳述した。
「1 審判請求の趣旨及び理由は、審判請求書、平成23年1月31日付け口頭審理陳述要領書、及び平成23年2月14日付け口頭審理陳述要領書(2)に記載のとおり陳述。
2 甲第22号証ないし甲第24号証は参考資料とする。
3 乙第1号証及び乙第2号証の成立を認める。
4 無効理由6における、『優先権主張の無効』とは、『請求項1ないし4に係る発明に対する甲第19号証及び甲第20号証を証拠とする特許法第29条第1項、第2項違反』である。」

また、被請求人は、次のとおりに陳述した。
「1 答弁の趣旨及び理由は、平成22年11月9日付け審判事件答弁書、平成23年1月31日付け口頭審理陳述要領書、及び平成23年2月14日付け口頭審理陳述要領書(2)に記載のとおり陳述。
2 甲第1号証ないし甲第21号証の成立を認める。
3 甲第19号証及び甲第20号証に記載されているLH075型、LH090型のクランプが、平成14年10月10日前に販売されていた事実を認める。」

6 当審の判断
(1)【無効理由1】について
本件特許の出願当初の明細書(甲第1号証)には、図面と共に以下の記載がある。
・請求項7及び段落【0012】
「・・・前記の係合ボール(29)をそれぞれ前記ハウジング(3)に設けた貫通孔(31)に回転自在に支持・・・」

・段落【0015】
「・・・ハウジング3の下端壁(第2端壁)3bの一部を構成する支持筒13・・・」

・段落【0021】
「・・・各係合ボール29が、前記の支持筒13の内壁13aの上部に設けた3つの貫通孔31に回転自在に支持される・・・」

・段落【0023】
「・・・支持筒13の外壁13bが上下方向へ延びる位置決めピン38を介して前記ハウジング3の胴部3cに回り止めされている。・・・支持筒13は、止め輪からなるロック部材39によって上記ハウジング胴部3cに固定されている。」

・段落【0041】
「・・・係合ボール29が、前記の支持筒13の内壁13aの上部に設けた4つの貫通孔31に回転自在に支持される。・・・」

・段落【0042】
「・・・支持筒13は、雄ネジ筒からなるロック部材39によって上記ハウジング胴部3cに押圧固定されている。・・・」

・段落【0043】
「支持筒13の前記の内壁13aに支持した前記の係合ボール29」

・図1、3、7、11-13
係合具(29)をハウジング(3)の下端壁(第2端壁)3bの一部を構成する支持筒(13)に設けることが開示されている。

上記記載及び図面の図1、3、7、11-13より、係合具(29)をハウジング(3)の下端壁(第2端壁)3bの一部を構成する支持筒(13)に設けることが当初明細書及び図面に記載されていたことは自明である。
また、本件発明1では、係合具(29)を支持する第2端壁(3b)がハウジング(3)に含まれるので、「ハウジング(3)に支持した」との補正事項は、出願当初の明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものである。
請求人は、「3 (1)【無効理由1】」にて「平成19年10月4日付け手続補正による・・・・という技術的事項は導き出せない」と主張する。
しかしながら、本件発明1では「第2摺動部分(12)に設けた複数のガイド溝(26)にそれぞれ嵌合するように」とも特定していることから、係合具(29)が第2摺動部分と緊密に嵌合しない部分に設けることを意図してしないことは明らかである。したがって、請求人の上記主張は採用できない。
よって、上記補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

したがって、無効理由1には理由がない。

(2)【無効理由2】について
本件特許明細書(甲第4号証)には、図面と共に以下の記載がある。
・段落【0012】
「・・・前記の第2端壁3bに、上記の係合ボール29を回転自在に支持する貫通孔31・・・」

・段落【0015】
「・・・ハウジング3の下端壁(第2端壁)3bの一部を構成する支持筒13・・・」

・段落【0021】
「・・・各係合ボール29が、前記の支持筒13の内壁13aの上部に設けた3つの貫通孔31に回転自在に支持される・・・」

・段落【0023】
「・・・支持筒13の外壁13bが上下方向へ延びる位置決めピン38を介して前記ハウジング3の胴部3cに回り止めされている。・・・支持筒13は、止め輪からなるロック部材39によって上記ハウジング胴部3cに固定されている。」

・段落【0041】
「・・・係合ボール29が、前記の支持筒13の内壁13aの上部に設けた4つの貫通孔31に回転自在に支持される。・・・」

・段落【0042】
「・・・支持筒13は、雄ネジ筒からなるロック部材39によって上記ハウジング胴部3cに押圧固定されている。・・・」

・段落【0043】
「支持筒13の前記の内壁13aに支持した前記の係合ボール29」

・図1、3、7、11-13
係合具(29)をハウジング(3)の下端壁(第2端壁)3bの一部を構成する支持筒(13)に設けることが開示されている。

以上の記載から、明細書には、係合具(29)は、支持筒(13)及びロック部材(39)からなる第2端壁(3b)のいずれかの部分に支持されることが開示されている。
本件発明1では、「上記ハウジング(3)の他端側の第2端壁(3b)に緊密に嵌合支持されるように・・・複数のガイド溝(26)を外周部に形成した第2摺動部分(12)」を前提とするので、「複数のガイド溝(26)にそれぞれ嵌合するように上記ハウジング(3)に支持した複数の係合具(29)」なる記載は、ガイド溝(26)を備える第2摺動部分(12)を緊密に嵌合支持する、ハウジング(3)の他端側の第2端壁(3b)に、係合具(29)が支持されるものと解される。
よって、本件発明1においては、「複数のガイド溝(26)にそれぞれ嵌合するように上記ハウジング(3)に支持した複数の係合具(29)」なる記載がなされているが、係合具(29)が設けられる位置は、実質的に第2端壁(3b)であるといえるから、請求項1に記載の「その第2従動部分(12)に設けた複数のガイド溝(26)にそれぞれ嵌合するように上記ハウジング(3)に支持した複数の係合具(29)とを備え、」については、明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものである。
よって、「その第2従動部分(12)に設けた複数のガイド溝(26)にそれぞれ嵌合するように上記ハウジング(3)に支持した複数の係合具(29)とを備え」なる記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

したがって、無効理由2には理由がない。

(3)【無効理由3】について
請求人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載の発明特定事項のうち「緊密に嵌合」及び「傾くのを防止するように構成した」について、発明の詳細な説明を参酌しても不明瞭である旨主張するが、各々について以下に検討する。

1)「緊密に嵌合」が明確か否かについて
第1摺動部分(11)と第2摺動部分(12)との2箇所でクランプロッド(5)をハウジング(3)に緊密に嵌合支持する構成について、クランプロッド(5)がハウジング(3)に対して摺動するものであることから、少なくとも2部材が摺動可能な程度の隙間があることは本件特許明細書の段落【0031】に「嵌合隙間」があることが記載されているものの、同明細書には具体的な数値は記載されていない。
しかし、第1摺動部分(11)と第2摺動部分(12)との2箇所でクランプロッド(5)をハウジング(3)に緊密に嵌合支持すること、第2摺動部分(12)において、ハウジング(3)に設けた係合具(29)を介して支持すること、クランプロッド(5)がハウジング(3)に対して摺動することとを両立させること、また、クランプロッドが傾くのを防止し、クランプロッドを高精度にガイドすることをその課題とすること(同段落【0003】、【0031】)を踏まえると、上記嵌合隙間がクランプロッドの摺動機能や係合具の機能を損なわない範囲で、機械的な寸法公差等を踏まえた、できるだけ小さな隙間となるように嵌合してクランプロッドを支持することを意味していることは、当業者であれば容易に理解し得る。(本件特許明細書【0003】、【0031】参照。)
よって、「緊密に嵌合」することの意味は明確である。

2)「傾くのを防止」が明確か否かについて
本件特許明細書(甲第4号証)には、クランプロッドを高精度にガイドできるようにする旨の目的が記載され(本件特許明細書【0003】参照。)、ピストン(15)の両端方向の外方に配置された上記の第1摺動部分(11)と第2摺動部分(12)との2箇所で上記クランプロッド(5)を上記ハウジング(3)に緊密に嵌合支持させることも記載されており(本件特許明細書【0005】、【0015】、【0031】参照。)、また通常、棒状部材の2つの端部を支持することにより、棒状部材の傾きが防止できることは、技術的に明らかであるから、軸心方向へ離れた二つの摺動部分によって上記クランプロッドを強力に支持することにより、クランプロッドが傾くのを防止することができることは、当業者であれば容易に理解し得る。
よって、「傾くのを防止」することの意味は明確である。

なお、請求人は、甲第9号証に示される嵌め合いのうち、どの嵌め合いが本件発明でいうところの「緊密に嵌合」に該当し、甲第6号証や甲第8号証において採用されている嵌め合いと異なるのか区別できない旨も主張する。
上記請求人の主張に関連して、甲第6号証、及び甲第8号証との差異について付言すると、下記のとおりである。
<甲第6号証との差異>
本件発明の目的:先行技術(甲第6号証)では、the piston 20とthe cylinder body 18との間に嵌合隙間があるため、精度良くガイドできないとの課題が存在するため、本件発明では、高精度にガイドできるようにすることを目的とする。
よって、従来技術との対比における本件発明1の技術的意義は、「クランプロッドの傾きを防止し、クランプロッドを高精度にガイドすること」であり、本件発明1の構成による作用効果は、本件特許明細書【0005】「上記の入力部の両端の外側で上記クランプロッドに第1及び第2の二つの摺動部分を設けることになるので、これら軸心方向へ離れた二つの摺動部分によって上記クランプロッドを強力に支持できる。このため、上記クランプロッドが傾くのを防止して、そのクランプロッドを前記ハウジングに確実かつ高精度にガイドできる。」であり、その他の構成による作用効果として「前記の旋回溝および係合具からなる旋回機構を、上述したガイド用の強度を備えたハウジングの第2端壁と第2摺動部分との間に設けたので、その旋回機構が旋回トルクに十分に耐えることが可能となり、旋回機構の寿命が長くなる。そのうえ、上記の係合具を上記ハウジングの第2端壁に設けたので、その係合具の設置箇所と上記の第2摺動部分の支持箇所とを兼用できる。このため、上記ハウジングの高さを低くして、旋回式クランプをコンパクトに造れる。」(本件特許明細書【0005】)があげられている。

<甲第8号証との差異>
甲第8号証には、ピストンロッド5a(本件発明1「第2摺動部分」に相当)はシリンダの蓋体6に対して摺動自在に嵌合支持される旨の記載はなされているものの、ピストンロッド5b(本件発明1「第1摺動部分」に相当)については、シリンダ4の基部を貫通する旨記載されるものの、嵌合支持されているか否かは、甲第8号証には記載されていない。
クランプロッドの傾きを防止するという一般的な技術常識があったとしても、クランプロッドを嵌合支持するワークを押さえる際にロッドを傾ける力が生じにくい、両クランパの両端でワークを押さえるクランプにおいて、本件発明1のように、クランプロッドが傾くのを防止し、クランプロッドをハウジング3によって確実かつ高精度にガイドする課題が生じるか否か不明であり、また仮に上記課題が生じたとしても、第1摺動部分と第2摺動部分との2箇所において、クランプロッドをハウジングに緊密に嵌合支持する構成とすることが、容易とまではいえない。

よって、本件発明1の「緊密に嵌合支持」する構成と、甲第6号証、及び甲第8号証に記載の技術におけるクランプロッドの支持をどのように行っているかの、前提となる構成が異なるのであるから、本件特許明細書に具体的な数値が記載されていないからといって、本件発明1-4が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確とは認められない。

したがって、無効理由3には理由がない。

(4)【無効理由4】について
本件発明1-4は、明細書の【発明の実施形態】に、第1-第3の実施形態としてその構成が明記されている。(段落【0014】-【0049】参照。)
請求人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載の発明特定事項のうち「緊密に嵌合」及び「傾くのを防止するように構成した」について、その程度が不明確であるため、従来技術と区別された本件発明を把握することができない旨、主張するが、上記「(3)【無効理由3】について」においても示したとおり、本件発明1-4は、「緊密に嵌合」及び「傾くのを防止するように構成した」についても、各実施形態から把握可能である。
特許法第36条第4項第1号の規定は、明細書及び図面に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて、当業者が発明を実施しようとした場合に、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、どのように実施するかが理解できればよいのであるから、その各々の構成が明確であり、技術的に実施可能である、本件発明1-4は、当業者にとって実施可能である。

したがって、無効理由4には理由がない。

(5)【無効理由5】について
a)甲各号証の記載事項
1)甲第12号証について
甲第12号証(実願昭63-130286号(実開平2-51043号)のマイクロフィルム)には、図面と共に以下の記載がある。
・第5ページ第12ないし13行
「・・・イケール1の両側面1a,1bに本考案のワーク取付け治具が固定されている。・・・」

・第6ページ第8ないし11行
「イケール1a面には、前記軸線方向位置決め手段8,9,10に円筒形状ワークWを軸方向に押しつけて固定する固定手段5,6,7が設置される。」

・第9ページ第6ないし第10ページ第10行
「・・・固定手段5,6,7は、第5図、第6図に示すように、シリンダ27、軸部にカム溝34aを削設したピストン34などからなる駆動体を有し、前記ピストン34先端には止めねじ30、ナット31によって押し板32が固定されている。又、カム溝34aにはシリンダ27に固定されたピン33が係合されている。このため、押し板32はカバー29に設けた供給口29aに圧油を供給すると、前記カム溝34aの溝方向に沿って円筒形状ワークWは固定される。すなわち、供給口29aへの圧油供給によりピストン34がイケール1側に移動すると、押し板32は円筒形状ワークWを押しつける方向に移動すると共に、ピストン34軸線を中心に回転(第6図の32bから32aへ)した後、軸線方向にのみ移動し、円筒形状ワークWの端面を軸線方向位置決め手段8,9,10に押しつけて固定をする。又、シリンダ27に設けた供給口27aに圧油を供給すると、前述と逆の動作をし円筒形状ワークWの固定を解除する。固定手段5,6,7は円筒形状ワークWの固定を解除した場合には、第1図に二点鎖線で図示したように、押し板32は円筒形状ワークの外周面より完全に退避しているので、円筒形状ワークWは軸線方向に押し板32に干渉することなく搬出入することができる。」

・第1図
固定手段5,6,7の回動(実線と二点鎖線との間の回動)により、ワークWの固定及び固定解除を行うことが開示されている。

・第5図
シリンダ27に固定されたピン33が、カム溝34aを移動するものであって、カム溝34aがピン33が直線的に移動するための溝と、ピストン34が旋回方向に移動するための溝とからなること、イケール1の凹部からピン33が固定されている部分にまでわたる部分のシリンダ27は、カム溝が形成されている部分のピストン34の円周回り及びピストンの摺動方向に、ピストン34に接している部分(面)を備えること、カバー29は、ピストン34の周囲に接していること、圧油が供給されるシリンダ27内部にてピストンの大径部とシリンダとがOリング状の部材を介して支持することが開示されている。
ここで、ピストンは軸方向に移動することから、少なくとも、カム溝を含む一端をシリンダ27により支持されるピストン34の端部と、カバー29により支持されるピストン34の端部と、シリンダ内部により支持されるピストンの大径部とは、摺動部分であることは明らかである。

なお、被請求人は、平成23年1月31日付け口頭審理陳述要領書にて「・・・本件発明1と甲12に記載された発明との相違点において、『ガイド溝が設けられた第2摺動部分』との点を看過した結果、当該相違点が甲13から甲15に記載されていると誤認するものである。」(第6ページ第5ないし7行)と主張することにより、ガイド溝、すなわちカム溝34aが設けられている部分に接するシリンダ27の部分は摺動部分ではないと主張するが、上述のとおり、少なくとも甲第12号証に記載された発明においては、ピストン34の内、カム溝34aが形成されている部分がシリンダ27と接し、支持されていることは明らかである。

よって、これら記載事項及び図示内容を総合し、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第12号証には、次の発明が記載されている。(以下、「甲第12号証発明」という。)
「カバー29及びシリンダ27内に軸心回りに回転可能に挿入されると共に軸心方向の一端から他端へクランプ移動されるピストン34であって、押し板32を固定する部分と、一端側のカバー29に支持されるようにピストン34に設けた摺動部分と、上記シリンダ27の筒孔に挿入したピストン34の大径部と、上記シリンダ27に支持されるように上記ピストン34から他端方向へ一体に突出されると共にカム溝34aを外周部に形成した摺動部分とを、上記の軸心方向へ順に設けたピストン34と、
その摺動部分に設けたカム溝34aに嵌合するように上記シリンダ27に支持したピン33とを備え、
上記のカム溝34aは、それぞれ、上記の軸心方向の他端から一端へ連ねて設けた旋回溝と直進溝とを備え、
カム溝を含む一端をシリンダ27により支持されるピストン34の端部と、カバー29により支持されるピストン34の端部と、シリンダ内部により支持されるピストンの大径部とにより、上記ピストン34を上記カバー29及びシリンダ27に支持させた旋回式クランプ。」

2)甲第13号証について
甲第13号証(特開平10-34469号公報)には、図面と共に以下の記載がある。
・段落【0009】?【0011】
「【0009】上記のハウジング3の上端壁(第1端壁)3aにガイド用ブッシュ10が装着され、そのブッシュ10に上記クランプロッド5の上摺動部分(第1摺動部分)11が摺動自在に支持される。さらに、同上ハウジング3の下端壁(第2端壁)3bにガイド筒13が設けられ、そのガイド筒13に同上クランプロッド5の下摺動部分(第2摺動部分)12が摺動自在に支持される。
【0010】上記の上摺動部分11と下摺動部分12との間で上記クランプロッド5にピストン15が設けられ、そのピストン15が前記ガイド孔4に軸心方向へ移動可能で保密状に挿入される。なお、上記ピストン15は、クランプロッド5と一体に形成してあるが別体に形成することも可能である。
【0011】上記の上端壁3aと上記ピストン15との間にクランプ用の第1室21が形成され、その第1室21に対して圧油給排口16から圧油(圧力流体)が給排可能とされる。また、上記の下端壁3bと同上ピストン15との間にアンクランプ用の第2室22が形成される。その第2室22内に装着したアンクランプ用バネ18によって上記クランプロッド5が上向きに付勢される。即ち、そのアンクランプ用バネ18は、クランプロッド5の中空部分5aに挿入され、そのバネ上端が上記クランプロッド5の上部に接当され、そのバネ下端がスラストベアリング19によって受け止められる。なお、上記の第2室22は、呼吸路20によって雰囲気へ連通されている。」

・段落【0021】
「・・・次の長所がある。クランプロッド5は、ハウジング3の上端壁3aと下端壁3bとの上下の二箇所で支持されるので、有効ガイド長さが大きい。・・・」

・図1
クランプロッド5が、上端壁(第1端壁)3aと、下端壁(第2端壁)3bと、ガイド孔4内でピストン15と接する部分との3箇所にて、ハウジング3に摺動自在又は保密状に支持される、旋回式クランプ装置が開示されている。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、甲第13号証には、次の事項が記載されている。(以下、「甲第13号証事項」という。)
「クランプロッド5が、上端壁(第1端壁)3aと、下端壁(第2端壁)3bと、圧油が供給されるガイド孔4内でピストン15と接する部分との3箇所にて、ハウジング3に摺動自在又は保密状に支持されるものにおいて、クランプロッド5は、ハウジング3の上端壁3aと下端壁3bとの上下の二箇所で支持される、旋回式クランプ装置。」

3)甲第14号証について
甲第14号証(特開2001-198754号公報)には、図面と共に以下の記載がある。
・段落【0048】?【00049】
「【0048】旋回機構65は、ピストンロッド52の下部に回動不能に内嵌固着されてピストン60から下方へ延びるロッド部材66と、このロッド部材66に90度捩じれるように上下方向に形成された複数(例えば、2つ)の螺旋溝67と、ヘッド側シリンダエンド壁63の上端部に固着された保持部材68と、この保持部材68に回動可能に保持されて複数の螺旋溝67に夫々係合する複数(例えば、2つ)のボール69を有する。
【0049】この旋回機構65では、ピストンロッド52が昇降駆動されると、それと一体的に昇降するロッド部材66の螺旋溝67がボール68によりガイドされて、ロッド部材66とともにピストンロッド52と旋回アーム53(出力部材51)が水平に往復旋回される。図4に鎖線で示すように、ピストンロッド52と旋回アーム53が下限位置のとき、旋回アーム53がワークW側へ向いてクランプ位置になり、図3に実線で示すように、ピストンロッド52と旋回アーム53が上限位置のとき、旋回アーム53がクランプ位置から上昇し且つ90度旋回した退避位置になる。」

・図4
複数の螺旋溝67及び複数のボール69を備えるワーク固定用クランプシステムが開示されている。

ここで、ピストンロッドが上下動するためには、複数の螺旋溝が平行状であることは、技術常識であるから、これら記載事項、図示内容及び技術常識を総合すると、甲第14号証には、次の事項が記載されている。(以下、「甲第14号証事項」という。)
「ピストンロッド52の下部に回動不能に内嵌固着されたロッド部材66に、90度捩じれるように上下方向に平行状に形成された複数(例えば、2つ)の螺旋溝67と、ヘッド側シリンダエンド壁63の上端部に固着された保持部材68と、この保持部材68に回動可能に保持されて複数の螺旋溝67に夫々係合する複数(例えば、2つ)のボール69を設け、ピストンロッド52が昇降駆動されると、それと一体的に昇降するロッド部材66の螺旋溝67がボール69によりガイドされて、ロッド部材66とともにピストンロッド52と旋回アーム53が水平に往復旋回される、ワーク固定用クランプシステム。」

4)甲第15号証について
甲第15号証(特開平8-33932号公報)には、図面と共に以下の記載がある。
・段落【0027】
「【0027】次に、ツイスト機構50と、回動規制機構60について説明する。このツイスト機構50は、クランプロッド20の外周面に形成された3本のカム溝51と、これらカム溝51に夫々係合し且つピストン部材42に保持された鋼球からなる3つのカム体52と、これらカム体52をピストン部材42に保持させる為のリテーナープレート53等で構成されている。前記3本のカム溝51は、図5,図6に示すように、クランプロッド20の外周部の円周3等分に、断面V形に形成されている。各カム溝51は、クランプロッド20の軸方向に延び且つ図1の第1ストロークH1と等しい長さの縦溝51aと、この縦溝51aの下端に連なり第2ストロークH2と等しい高さに亙り且つクランプロッド20の外周面の90度円弧分に相当する螺旋状の螺旋溝51bとで形成されている。」

・図1及び6
平行状のカム溝51及び、各カム溝に係合する、鋼球からなるカム体52が3つずつ設けられたクランプロッドツイスト型クランプ装置が開示されている。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、甲第15号証には、次の事項が記載されている。(以下、「甲第15号証事項」という。)
「クランプロッド20の外周面に平行状に形成された3本のカム溝51と、これらカム溝51に夫々係合し且つピストン部材42に保持された鋼球からなる3つのカム体52とを備え、各カム溝51は、縦溝51aと、この縦溝51aの下端に連なる螺旋状の螺旋溝51bとで形成されたクランプロッドツイスト型クランプ装置。」

b)判断
1)本件発明1について
本件発明1は、上記「2 本件発明」において既に認定したとおりのものである。
ア)対比
本件発明1と甲第12号証発明とを対比すると、機能又は構造等からみて、後者の「『カバー29』及び『シリンダ27』」は、前者の「ハウジング」に、以下同様に、後者の「ピストン34」は、前者の「クランプロッド」に、後者の「押し板32」は前者の「片持ちアーム」に、後者の「カバー29」は、前者の「第1端壁」に、後者の「シリンダ27」は前者の「第2端壁」に、後者の「カム溝34a」は、前者の「ガイド溝」に、後者の「ピン33」は前者の「係合具」に、それぞれ相当する。
また、後者の「ピストン34」は、圧油が供給されてピストン34を駆動されるので、前者の「ピストンを介して駆動される入力部」に相当し、後者の「カバーに支持される摺動部分」は、前者の「第1摺動部分」に相当し、後者の「カム溝34aを外周部に形成した摺動部分」は、前者の「第2摺動部分」に相当する。

そこで、本件発明1の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。
「ハウジング内に軸心回りに回転可能に挿入されると共に軸心方向の一端から他端へクランプ移動されるクランプロッドであって、片持ちアームを固定する部分と、上記ハウジングの一端側の第1端壁に支持されるようにロッド本体に設けた第1摺動部分と、上記ハウジングの筒孔に挿入したピストンを介して駆動される入力部と、上記ハウジングの他端側の第2端壁に支持されるように上記ロッド本体から他端方向へ一体に突出されると共にガイド溝を外周部に形成した第2摺動部分とを、上記の軸心方向へ順に設けたクランプロッドと、
その第2摺動部分に設けたガイド溝に嵌合するように上記ハウジングに支持した係合具とを備え、
上記のガイド溝は、上記の軸心方向の他端から一端へ連ねて設けた旋回溝と直進溝とを備え、
上記ピストンの両端方向の外方に配置された第1摺動部分と第2摺動部分とで上記クランプロッドを上記ハウジングに支持させた旋回式クランプ。」

そして、両者は次の点で相違する。
相違点1:
本件発明1は、ガイド溝及び係合具が複数であり、複数のガイド溝の旋回溝を相互に平行状に配置するとともに直進溝を相互に平行状に配置しているが、甲第12号証発明は、ガイド溝及び係合具が1つである点。

相違点2:
本件発明1は、ピストンの両端方向の外方に配置された第1及び第2摺動部分の2箇所で、クランプロッドをハウジングに緊密に嵌合支持することにより、クランプロッドが傾くのを防止するように構成しているが、甲第12号証発明は、ピストン34が、カム溝を含む一端をシリンダ27により支持されるピストン34の端部と、カバー29により支持されるピストン34の端部と、シリンダ内部により支持されるピストンの大径部とのいずれでハウジング(シリンダ27、カバー29)に支持されているか、またどの程度の隙間で支持されているのか、また、ピストン34が傾くのを防止するように構成されているか否か不明である点。

イ)相違点の判断
(相違点1について)
甲第14号証事項及び甲第15号証事項には、上述のとおり、平行状のガイド溝及び係合具を複数備えた、ハウジング内を摺動するクランプロッドが記載されている。
甲第12号証発明には、シリンダで支持された部分にガイド溝を設けたものが記載されており、当該部分のガイド溝の個数を、甲第14号証事項及び甲第15号証事項に記載の事項に基づき、複数とし、該複数のガイド溝をそれぞれ平行に配置することは、当業者の通常の創作能力を発揮したにすぎない。

被請求人は、平成23年1月31日付け口頭審理陳述要領書にて「このように、甲14及び甲15には、大きなクランプ反力が作用しない部分に螺旋溝(カム溝)を設けた場合において、その螺旋溝(カム溝)を複数にする技術事項が開示されているのである。
換言すれば、甲14発明及び甲15発明では、本件発明1のように、複数のガイド溝を形成した第2摺動部分でハウジングの端壁に支持させるのではなく、これとは別の方法によってクランプロッドを支持する構成を採用した結果、ロッド部分に複数の螺旋溝(カム溝)を形成することを可能にしているのである。・・・」(第15ページ第18ないし25行)と主張し、同年2月14日付け口頭審理陳述要領書(2)にて、「しかしながら、仮に、請求人が主張する『2点の支持箇所の距離を大きくする』ことが技術的な常識であるとしても、当業者は、支持部分をどこに設けるかについては、下記(a)?(e)に示すとおり、『ガイド溝が設けられた部分では緊密に嵌合支持しない』という技術的な常識にも直面している。そして、上記の二つの常識が対立する場合には、『ガイド溝が設けられた部分では緊密に嵌合支持しない』という技術的な常識を優先させるのである。」(第7ページ第13ないし18行)と主張し、以下、同要領書(2)の第9ないし11ページにて(a)?(e)としてその理由を主張している。

しかしながら、本件発明1において、本件特許明細書にも記載されているように、複数の溝及び係合具を設ける目的は、「・・・上記クランプロッド5に複数のガイド溝26を設けて、これらのガイド溝26にそれぞれ係合ボール29を嵌合させたので、前記の支持筒13に上記の複数の係合ボール29を介して上記クランプロッド5を周方向でほぼ均等に支持することが可能となる。このため、クランプおよびアンクランプ駆動時に上記クランプロッド5の傾きを防止できる。・・・」(段落【0029】参照。)ことである。
ここで、甲第15号証の上述の段落【0027】には、カム溝51は、クランプロッド20の外周部の円周3等分に形成される旨記載されているから、ガイド溝と係合ボールとを均等に設けたことによる、上記本件発明1と同じ構造であり、甲第15証事項に記載の事項のように複数のガイド溝及び係合ボールを円周上に均等に設けたことによって奏する効果も、当業者の予測の範囲内のものにすぎない。

(相違点2について)
甲第12号証発明において、ピン33が固定されている部分のシリンダ27と、カバー29と、両側に圧油が供給されるシリンダ27のピストン34の大径部が当接する部分とのいずれの部分で、ピストン34が支持されているかを検討すると、一般的な技術常識として、圧油が供給されるシリンダ内の構造物(大径部)に、必要以上の支持圧力をかけることは、ピストン自体の寿命や摺動特性、剛性の点から考え難い。
また、上述の甲第13号証事項により、甲第12号証発明と同様に、摺動するピストン(甲第13号証事項においては、クランプロッド5)が、ハウジングと3箇所に接するものにおいて、甲第13号証事項は、ピストン(クランプロッド)が、圧油が供給される孔内に接する、ピストン(クランプロッド)の大径部ではなく、ピストンの両端部で摺動自在に支持されているものである。
よって、甲第12号証発明における、クランプロッドに相当するピストン34をハウジングに相当するカバー29及びシリンダ27に支持する際に、技術常識を踏まえ、甲第13号証事項に記載されるように、ピストン34の大径部を除く二点で支持する構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
また、その際、クランプロッドの傾きを防止するという、当該分野において一般的な技術常識を踏まえ、どの程度の隙間を設けて支持するか、すなわち、言い換えると、どのくらいの隙間を設けて緊密に支持嵌合するかは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。

以上より、本件発明1は、甲第12号証発明及び甲第13ないし15号証記載事項に基づき、当業者が容易になし得たものである。

エ)むすび
以上のとおり、本件発明1は、甲第12号証発明及び甲第13ないし15号証事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

2)本件発明2について
本件発明2は、上記「2 本件発明」において既に認定したとおりのものである。
ア)対比
本件発明2と甲第12号証発明とを対比すると、上記「1)本件発明1について」の「ア)対比」にて述べたとおり、各々同様に相当するから、本件発明2の用語を用いて表現すると、両者は上記「1)本件発明1について」の「ア)対比」にて述べたとおりの点で一致する。
そして、両者は上記相違点1及び2に加え、下記相違点3)の点で相違する。

相違点3:本件発明2は、ガイド溝及び係合具が3つ又は4つであるが、甲12は、ガイド溝及び係合具が1つである点。

イ)相違点の判断
相違点1及び2については、上記「1)本件発明1について」で述べたとおりである。
(相違点3について)
上述のとおり、甲第15号証記載事項より、3本のカム溝51と、これらカム溝51に夫々係合する3つのカム体52とを備えたクランプ装置は既に公知である。

よって、本件発明2は、甲第12号証発明及び甲第13ないし15号証に記載の事項に基づき、当業者が容易になし得たものである。

ウ)むすび
以上のとおり、本件発明2は、甲第12号証発明及び甲第13ないし15号証事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(6)【無効理由6】について
a)証拠の記載事項
1)甲第16号証について
本件特許の優先権主張の基礎出願の1つである、甲第16号証(特願2001-346977号。以下「優先1」という。)には、図1ないし3と共に以下の記載がある。
・【請求項2】
「・・・前記の旋回機構(35)を、前記クランプロッド(5)の外周に設けた螺旋部分(27)と、その螺旋部分(27)に係合するように前記ハウジング(3)に支持した操作具(29)とによって構成した・・・」

・【請求項3】
「・・・これらの螺旋部分(27)および直進部分(28)に係合するように上記のハウジング(3)に支持した操作具(29)・・・」

・【0005】
「・・・上記クランプロッドを円滑に旋回させるにあたり、螺旋溝などの旋回機構の勾配を大きくする必要がなくなり、そのクランプロッドの旋回用ストロークが小さい。・・・」

・【0006】
「・・・螺旋部分27に係合するように前記ハウジング3に支持した操作具29・・・」

・【0007】
「・・・螺旋部分27および直進部分28と、これらの螺旋部分27および直進部分28に係合するように上記のハウジング3に支持した操作具29・・・」

・【0008】
「・・・上記クランプロッドを円滑に旋回させるにあたり、螺旋溝などの螺旋部分の勾配を大きくする必要がなくなり、そのクランプロッドの旋回用ストロークが小さい。・・・」

・【0016】
「・・・各ボール29が、前記の支持筒13の内壁13aに設けた貫通孔31に支持される。・・・」

・【0017】
「・・・上記の支持筒13は、雄ネジ筒39によって上記ハウジング胴部3cに押圧固定されている。」

・【0020】
「・・・その後、前記の雄ネジ筒39によって上記の支持筒13を上記ハウジング3に固定する・・・」

・【0021】
「・・・旋回退避状態のクランプ2をクランプ状態へ切換えるときには・・・上記クランプロッド5が前記の螺旋溝27に沿って平面視で時計回りの方向へ旋回しながら下降して前記の捩りバネ51のネジリ力を高める。・・・」

・【0022】
「・・・クランプ状態から図1の旋回退避状態へ切換えるとき・・・クランプロッド5が前記の直進溝28に沿って真っすぐに上昇・・・引き続いて、上記ピストン15および上記クランプロッド5が・・・反時計回りの方向へ強力に旋回しながら上昇・・・」

・【0026】
「・・・クランプロッド5は、旋回しながら昇降することに代えて、水平姿勢のままで旋回するように構成することも可能である。・・・」

・図1ないし3
係合具(29)(ボール(29))が、ハウジング3に、雄ネジ筒39によって固定された支持筒13により支持されること、及び、図2には、0ないし90度の間の角度で旋回溝(27)が傾斜することが開示されている。

2)甲第17号証について
本件特許の優先権主張の基礎出願の別の1つである、甲第17号証(特願2001-383987号。以下「優先2」という。)には、図1ないし4と共に以下の記載がある。
・【請求項1】
「・・・上記ハウジング(3)の第2端壁(3b)に・・・操作具(29)を上記の第2端壁(3b)に設けた・・・」

・【0004】
「・・・旋回部分27および直進部分28に係合する操作具29を上記の第2端壁3bに設けた。」

・【0013】
「・・・ハウジング3の下端壁(第2端壁)3bの一部を構成する支持筒13・・・」

・【0017】
「・・・各ボール29が、前記の支持筒13の内壁13aに設けた貫通孔31に支持される。・・・」

・【0018】
「・・・支持筒13は、雄ネジ筒39によって上記ハウジング胴部3cに押圧固定されている。」

・【0019】
「・・・クランプロッド5は、前記の螺旋溝27に沿って平面視で時計回りの方向へ旋回しながら下降・・・」

・【0020】
「・・・クランプロッド5が、前記の螺旋溝27に沿って平面視で反時計回りの方向へ旋回しながら上昇・・・」

・図1ないし4
係合具(29)(ボール(29))が、ハウジング3に、雄ネジ筒39によって固定された支持筒13により支持されること、及び、図2には、0ないし90度の間の角度で旋回溝(27)が傾斜することが開示されている。

3)甲第18号証について
本件特許の優先権主張の基礎出願の別の1つである、甲第18号証(特願2002-100851号。以下「優先3」という。)には、図1及び2と共に以下の記載がある。
・【請求項1】
「・・・係合ボール(29)を、上記のハウジング(3)に設けた貫通孔(31)に回転自在に支持・・・」

・【請求項2】
「・・・ハウジング(3)の第2端壁(3b)に上記クランプロッド(5)の第2摺動部分(12)を軸心方向へ移動自在に支持し・・・各ガイド溝(26)に嵌入される係合ボール(29)を、上記の第2端壁(3b)に設けた貫通孔(31)に回転自在に支持・・・」

・【0005】
「・・・係合ボール29を、上記のハウジング3に設けた貫通孔31に回転自在に支持・・・」

・【0007】
「・・・係合ボール29を、上記の第2端壁3bに設けた貫通孔31に回転自在に支持・・・」

・【0013】
「・・・ハウジング3の下端壁(第2端壁)3bの一部を構成する支持筒13・・・」

・【0017】
「・・・螺旋状の旋回溝27・・・」

・【0018】
「・・・各係合ボール29が、前記の支持筒13の内壁13aの上部に設けた4つの貫通孔31に回転自在に支持される。・・・」

・【0026】
「・・・係合ボール29を回転自在に支持する前記の貫通孔31は、例示した支持筒13(下端壁3b)に設けることに代えて、前記のハウジング3の前記の胴部3cなどに設けることも可能である。・・・」

・【0027】
「・・・クランプロッド5は、クランプ作動時に平面視で時計回りの方向へ旋回させるとしたが、これに代えて、そのクランプ作動時に平面視で反時計回りの方向へ旋回させてもよい。その旋回角度を例えば90度・60度・45度などの所望の角度に設定できることは勿論である。」

・図1及び2
係合具(29)(ボール(29))が、ハウジング3に、雄ネジ筒39によって固定された支持筒13により支持されること、及び、図2には、0ないし90度の間の角度で旋回溝(27)が傾斜することが開示されている。

4)甲第19号証について
甲第19号証(2002年3月23日新製品ニュース)には、図面と共に以下の記載がある。
・第1段落目
「新型複動スイングクランプLHシリーズを開発し、販売を開始致します。」

・第3段落目
「4月8日の販売開始時点では標準タイプのみとなりますが、ロングストローク等のオプションも順次追加致します。」
・写真
クランプが開示されている。

5)甲第20号証について
甲第20号証(2002年7月2日新製品ニュース)には、図面と共に以下の記載がある。
・第1段落目
「4月に発売を開始しました、複動スイングクランプLHシリーズにつきまして、7月15日よりオプションの販売を開始致します。」

・写真
片持ちアームを備えるクランプであることが開示されている。

6)甲第21号証について
甲第21号証(「平成19年(行ケ)第10315号」における平成20年6月19日付け「準備書面(3)」の抜粋(第1、15、16ページ、及び添付資料3))には、図面と共に以下の記載がある。
・準備書面(3)下部に「1」と記載されたページの中段
「・・・本件訂正発明1と甲第8号証発明・・・との相違点1について審決の判断(審決書の30頁14?36行)に誤りがないことを補足説明する・・・」

・準備書面(3)下部に「15」と記載されたページの第5ないし7行
「・・・添付資料2中の図1(LH075型)と図2(LH090型)は、被告(特許権者)が本件発明に基づいて作成したクランプ装置であって、乙4に基づいて被告(特許権者)が作成したものである。」

・準備書面(3)下部に「15」と記載されたページの下から8行ないし下から5行
「・・・図1(LH075型)のクランプ装置では、旋回用ストロークを「x」だけ小さくする・・・・図2(LH090型)のクランプ装置では、旋回用ストロークを「y」だけ小さくする・・・」

・準備書面(3)下部に「15」と記載されたページの下から3行ないし、下部に「16」と記載されたページの第4行
「・・・本件発明のクランプ装置は・・・添付資料3(及び下記の縮小コピー)に示す作用効果を奏する。なお、その添付資料3は、前記の添付資料2と同様の証拠に基づいて、被告(特許権者)が作成した・・・添付資料3において・・・(図1のLH075型・・・図2のLH090型」

・添付資料3の図1及び2
クランプ装置として、図1として、LH075型が、また、図2として、LH090型が示されている。
各々のクランプ装置の構造として、図1及び図2に下記の構造が開示されている。
青色で縁取りされたシリンダの内部に、黄色で縁取りされたピストンが設けられ、上記ピストンの下部には、直進用ストロークと、直進用ストロークに繋がる旋回用ストロークとからなるガイド溝が複数設けられ、上記ピストンの上部に灰色で縁取りされた、片持ちのクランプが設けられ、ピンク色で縁取りされたφ6あるいはφ7の球体が、上記シリンダの下部であって、上記ピストンの直進用ストローク及び旋回用ストロークに嵌合する位置に設けられ、上記ピストンは、シリンダの上部とピストンとの間、及び、球体を介したシリンダとピストンとの間で支持されていること、各々のクランプ装置の、直進用ストローク及び旋回用ストロークからなるガイド溝の、旋回用ストロークの傾斜角度が約21°であること、シリンダの内、球体が貫通支持された孔部を備える部分は、ピストンの軸心方向に対してほぼ直交すること、球体の外部に青色で縁取りされた部材が設けられていること、が開示されている。
さらに、上記シリンダには、上記球体が貫通して孔部で支持されている部分が設けられ、直進用ストローク及び旋回用ストロークが設けられていることから、ピストンが軸心方向の一端から他端へ移動され得るとともに、軸心回りに回転可能であること、ピストンが、軸心方向の一端から他端へ移動し、旋回することから、複数の直進用ストローク及び旋回用ストロークが相互に平行状に配置されていることも明らかである。
なお、図1及び2において、シリンダの内部とピストンの最大径部との間には、0.1の隙間が示されていることから、シリンダの内部とピストンの最大径部との間は、緊密に嵌合支持した部分ではないことが明らかである。また、上記ピストンの最大径部の直下には、直進用ストロークを設けた部分との間に、シリンダ内部には接しない程度の径を備えた凸部が設けられている。それに対し、シリンダの上部とピストンとの間、及び、球体を介したシリンダとピストンとの間においては、特に隙間寸法が記載されていない。更には、ピストンとシリンダとを備えた構造体においては、ピストンを支持する部分(図1及び図2においては、シリンダの上部とピストンとの間、及び、球体を介したシリンダとピストンとの間)が、シリンダ内部とピストンの大径部との間に比べてより緊密に嵌合する構造であることは、技術常識である。

よって、上記記載事項を踏まえ、甲第21号証には、次の発明が開示されている。(以下、「甲第21号証発明」という。)
「シリンダ内に軸心回りに回転可能に挿入されると共に軸心方向の一端から他端へクランプ移動されるピストンであって、クランプを固定する部分と、上記シリンダの上部に設けられたピストンとの摺動部分と、上記シリンダの内部に挿入したピストンの大径部を介して駆動される凸部と、球体が貫通支持された孔部が設けられたシリンダの下部に、ボールを介して、緊密に嵌合支持されるように、複数のガイド溝を外周部に形成した、ピストンを支持する摺動部分とを、上記の軸心方向へ順に設けたピストンと、
そのボールを介してピストンを支持する摺動部分に設けた複数のガイド溝にそれぞれ嵌合するように上記シリンダに支持した複数の球体とを備え、
上記の複数のガイド溝は、それぞれ、上記の軸心方向の他端から一端へ連ねて設けた旋回用ストロークと直進用ストロークとを備え、上記の複数の旋回用ストロークを相互に平行状に配置すると共に上記の複数の直進用ストロークを相互に平行状に配置し、
上記ピストンの最大径部の両端方向の外方に配置された上記のシリンダの上部に設けられたピストンとの摺動部分とガイド溝が設けられたシリンダの下部に、ボールを介してピストンを支持する摺動部分との2箇所で上記ピストンを上記シリンダに緊密に嵌合支持させて同上ピストンが傾くのを防止するように構成し、前記ガイド溝を複数設け、
前記の旋回用ストロークを螺旋状に形成し、その旋回用ストロークの傾斜角度を約21度に設定し、
前記の複数の球体をボールによって構成し、前記の球体が貫通支持された孔部が設けられたシリンダの下部に、上記球体を回転自在に支持する孔部を、前記の軸心方向に対してほぼ直交するように設け、係合ボールの外側に部材を設けた旋回式クランプ。」

b)出願日について
1)本件発明3について
優先1における、上記【0005】、【0008】、【0021】、【0022】、【0026】、及び図2、優先2における上記【0019】、【0020】、及び図2、優先3における、上記【0017】、【0027】、及び図2において、旋回溝(27)が傾斜することは記載されているものの、具体的な角度の値は記載されていない。また、他に旋回溝の傾斜に関する記載はなされていない。よって、本件発明3の旋回溝の傾斜角度に関する限定事項は、基礎出願の明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項ではなく、本件特許の明細書の段落【0020】に「その旋回溝27の傾斜角度Aが約11度から約25度の範囲内の小さな値に設定されている。なお例示したバネ力によるクランプにおいては、旋回ストロークを小さくするために、上記の傾斜角度Aを約11度から約20度の範囲内の値にすることが好ましい。
このように上記の螺旋状の旋回溝27の傾斜角度Aを小さくしたので、その旋回溝27のリードが大幅に短くなる。このため、上記クランプロッド5の旋回用ストロークが小さくなる。」と記載の新たな効果を奏するから、本件発明3の出願日は、現実の出願日である、平成14年10月10日である。
また、上記5における、口頭審理における被請求人の陳述2及び3に基づき、甲第19号証及び甲第20号証に記載されているように、LH075型、LH090型のクランプが、平成14年10月10日前の、少なくとも平成14年4月から7月に販売されていた事実がある。

ここで、優先権主張の効果は請求項毎であるところ、後の出願である特願2002-296828号に基づく本件特許の請求項3に記載された発明の要旨となる技術的事項が、優先権主張の基礎となる出願の当初明細書及び図面に記載された技術的事項の範囲を超えることになり、その超えた部分については優先権主張の効果が認められないのであるから、本件発明3に記載された構成部分の判断基準日、すなわち第29条の規定の適用についての基準日は、実際の出願日である平成14年10月10日である。

2)本件発明4について
上記1)のとおり、本件発明3に記載された構成部分の判断基準日、すなわち第29条の規定の適用についての基準日は、実際の出願日である平成14年10月10日であるから、本件発明3を引用する本件発明4についても、第29条の規定の適用についての基準日は、実際の出願日である平成14年10月10日である。

3)本件発明1及び2について
優先1における、上記【請求項2】、【請求項3】、【0006】、【0007】、【0016】、【0017】、【0020】、図1及び3、優先2における上記【請求項1】、【0004】、【0013】、【0017】、【0018】、図1、3及び4、優先3における、上記【請求項1】、【請求項2】、【0005】、【0007】、【0013】、【0018】、【0026】、及び図1より、係合具(29)(ボール(29))が、ハウジングに支持されること、が記載されている。
特に、優先2には、係合具(29)(ボール(29))が、ハウジング3の構成要素である、ハウジングの下端壁(第2端壁)3bの一部を構成する支持筒13の内壁に設けた貫通孔31によって支持されることが、優先3には、係合具(29)(ボール(29))が、ハウジング3の構成要素である、ハウジング3の下端壁(第2端壁)3bの一部を構成する支持筒13の内壁13aの上部に設けた4つの貫通孔31によって支持されること、及び係合具(29)(ボール(29))が、ハウジング3の前記の胴部3cなどに設けた4つの貫通孔31によって支持されても良い旨も記載されている。
よって、本件発明1における「ハウジング(3)に支持した」点は、少なくとも、優先2及び3に記載された事項の範囲内であると認められ、少なくとも、優先2の平成13年12月18日が、特許法第29条の規定の適用における基準日となされる。(優先3の出願日は平成14年4月3日)

しかしながら、請求人の予備的主張における「平成14年(行ケ)第539号」に判示されるように、本件発明1及び2は、後の出願の特許請求の範囲(本件の場合、本件発明1ないし4)に記載された発明の要旨となる技術事項(本件の場合、本件発明3、明細書段落【0005】の請求項3に係る部分、同段落【0020】、【0033】、【0036】に記載の技術事項)が、先の出願(本件の場合、優先1ないし優先3)の出願当初明細書及び図面に記載された技術事項の範囲を超えることになることは明らかであるから、その越えた部分については優先権主張の効果は認められない。すなわち、本件発明1及び2は、旋回溝の構成を有するものであり、本件特許の現実の出願日である平成14年10月10日付けの願書に添付された明細書によって、その角度を特定したことにより、前述のように新規事項を含むことになるから、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明の要旨となる技術事項が、先の出願の当初明細書及び図面に記載された技術的事項の範囲を超えることになることは明らかである。
よって、本件特許においても本件発明1は、先の出願の当初明細書及び図面に記載された技術的事項の範囲を超えることとなり、優先権主張の効果は認められない。
同様の理由により、本件発明2においても、先の出願の当初明細書及び図面に記載された技術的事項の範囲を超えることとなり、優先権主張の効果は認められない。
したがって、本件発明1及び2の、第29条の規定の適用についての基準日は、実際の出願日である平成14年10月10日である。

c)対比、判断
ここで、上記5における、口頭審理における請求人の陳述4に基づき、無効理由6は、「優先権主張の無効」の結果、「請求項1ないし4に係る発明に対する甲第19号証及び甲第20号証を証拠とする特許法第29条第1項、第2項違反」の意味であるとして、以下、判断を行う。

1)本件発明1ないし3について
本件発明1ないし3と甲第21号証発明とを比較すると、機能又は構造等からみて、後者の「シリンダ」は、前者の「ハウジング」に相当し、以下同様に、後者の「ピストン」は、前者の「クランプロッド」に、後者の「クランプ」は、前者の「片持ちアーム」に、後者の「直進用ストローク」は、前者の「直進溝」に、後者の「旋回用ストローク」は、前者の「旋回溝」に、後者の「ガイド溝」は、前者の「ガイド溝」に、後者の「球体」は、前者の「『係合具』及び『ボール』」に、後者の「球体が貫通支持された孔部を備える部分の、さらに円周方向外側に設けられているシリンダの構成の一部」は、前者の「スリーブ」に、後者の「内部」は、前者の「筒孔」に、後者の「ピストンの最大径部」は、前者の「ピストン」に、後者の「凸部」は、前者の「入力部」に、後者の「球体が貫通支持された孔部が設けられたシリンダの下部」は、前者の「第2端壁」に、後者の「孔部」は、前者の「貫通孔」に、各々相当する。
また、後者の「シリンダの上部に設けられたピストンとの摺動部分」は、前者の「ハウジングの一端側の第1端壁に緊密に嵌合支持されるようにロッド本体に設けた第1摺動部分」に、後者の「球体が貫通支持された孔部が設けられたシリンダの下部に、ボールを介して、緊密に嵌合支持されるように、複数のガイド溝を外周部に形成した、ピストンを支持する摺動部分」は、前者の「ハウジングの他端側の第2端壁に緊密に嵌合支持されるように上記ロッド本体から他端方向へ一体に突出されると共に周方向へほぼ等間隔に並べた複数のガイド溝を外周部に形成した第2摺動部分」に相当することも、明らかである。
よって、本件発明1及び3と甲第21号証発明とは、全ての点で一致する。
また、本件発明2と甲第21号証発明とを比較すると、甲第21号証発明においては、少なくとも2つのガイド溝が設けられているものの、ガイド溝が3つ又は4つ設けられているか否か不明な点で相違する。
しかしながら、剛性やバランス等を考慮し、ガイド溝の数を3つあるいは4つとすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

以上より、本件発明1、3と、甲第21号証発明とを比較すると、本件発明1及び3は、甲第21号証発明と同一であり、特許法第29条第1項第2号の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件発明2と甲第21号証発明とを比較すると、甲第21号証発明から当業者が容易になし得たものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

2)本件発明4について
本件発明4と甲第21号証発明とを比較すると、本件発明4においては、複数の係合ボールにわたってスリーブを回転自在に外嵌しているのに対し、甲第21号証発明においては、係合ボールの外側に部材が設けられているものの、販売された実物の提出もなく、甲第21号証からのみでは、係合ボールの外側に設けられた部材が回転自在に外嵌しているのか否かまでは、不明である。
また、溝にガイドされる球体を外側から支持する部材が回転自在に外嵌することが、当該技術分野において周知であるとも認められない。
よって、本件発明4は、甲第21号証発明と同一であるとも、また、甲第21号証発明から容易になし得たものとも認められず、したがって、特許法第29条第1項第2号の規定及び特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとは認められない。

6 結論
(1)本件発明1及び2は、甲第12号証発明、及び甲第13号証ないし甲第15号証記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(2)本件発明1及び3は、甲第21号証発明として特許出願前に公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項第2号の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件発明2は、甲第21号証発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
しかし、本件発明4は、甲第21号証発明と同一であるとも、また、甲第21号証発明から容易になし得たものとも認められず、したがって、特許法第29条第1項第2号の規定及び特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとは認められない。

したがって、本件発明1ないし3に係る特許は、特許法第29条第1項第2号、又は第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
それに対し、本件発明4に係る特許は、無効とすべきものではない。

審判にかかる費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、その4分の1を請求人の負担とし、4分の3を被請求人の負担とする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2011-03-24 
出願番号 特願2002-296828(P2002-296828)
審決分類 P 1 113・ 537- ZC (B23Q)
P 1 113・ 536- ZC (B23Q)
P 1 113・ 561- ZC (B23Q)
P 1 113・ 121- ZC (B23Q)
P 1 113・ 112- ZC (B23Q)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 松原 陽介  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 所村 美和
豊原 邦雄
登録日 2007-11-09 
登録番号 特許第4038108号(P4038108)
発明の名称 旋回式クランプ  
代理人 井上 裕史  
代理人 森田 俊雄  
代理人 瀬川 耕司  
代理人 深見 久郎  
代理人 佐々木 眞人  
代理人 梶 良之  
代理人 吉田 昌司  
代理人 村林 隆一  
代理人 荒川 伸夫  
代理人 別城 信太郎  
代理人 高橋 智洋  
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