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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01G
管理番号 1255871
審判番号 不服2009-12597  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-10 
確定日 2012-04-27 
事件の表示 特願2002-326028「電解コンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月10日出願公開、特開2004-165213〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年11月8日の出願であって、平成20年12月22日に意見書及び手続補正書が提出され、平成21年4月2日付けで拒絶査定がされ、それに対して、同年7月10日に審判が請求された。その後、平成23年11月7日付けで当審により拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、これに対して、平成24年1月10日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
請求項1に係る発明は、平成24年1月10日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】 陽極電極箔と陰極電極箔とセパレータを巻回し、かつ電解液を含浸させてなるコンデンサ素子を外装ケースに収納してなる電解コンデンサにおいて、前記電解液として四弗化アルミニウムをアニオン成分とし、環状アミジニウムをカチオン成分とする塩を含む電解液を用い、かつ前記陽極電極箔または陰極電極箔としてリン酸処理を施した電極箔を用い100V級の高耐電圧特性を有する電解コンデンサ。」


第3 引用例の記載と引用発明
1 引用例1とその記載内容
当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2002-299190号公報(以下「引用例1」という。)には、「電解コンデンサ」(発明の名称)について、図1?2とともに、次の記載がある(下線は当審で付加。以下同じ。)。

(1)発明の属する技術分野等
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は電解コンデンサ、特に高温長寿命特性の良好な電解コンデンサに関する。
【0002】
【従来の技術】従来の電解コンデンサを図2を用いて説明する。図2は電解コンデンサの構成を示す断面図であり、電極引出し手段であるリード線4を備えた電極箔をセパレータを介して巻回したコンデンサ素子1に駆動用電解液が含浸される。そして、このコンデンサ素子1が有底筒状の外装ケース2に収納され、外装ケースの開口部に封口体3が装着される。そして、開口部を加締め加工によって封口して、電解コンデンサが形成される。通常、この電解コンデンサ用封口体として、ブチルゴムやエチレンプロピレンゴムからなる封口ゴムが用いられる。
【0003】そして、小型、低圧、低インピーダンス用の電解コンデンサの、コンデンサ素子に含浸される電解液としては、従来より、γ-ブチロラクトンを主溶媒とし、フタル酸、マレイン酸などの四級化環状アミジニウム塩を溶質とするもの等が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、近年、自動車の電装品やインバータ照明に用いられる電解コンデンサの使用環境温度が150℃へと高温化している。ところが、前記の従来の電解コンデンサでの高温使用は125℃が限界であり、150℃での特に長時間使用には耐えることができない。
【0005】すなわち、前記の電解液が封口ゴムに膨潤し、150℃の高温下で封口ゴムが熱酸化劣化をおこしてゴム特性が劣化し、ゴム強度の低下、気密性の低下をもたらし、電解コンデンサの特性が低下するという問題点があった。そこで、本発明は150℃の高温長時間使用に耐えることのできる電解コンデンサを提供することをその目的とする。」

(2)発明の実施の形態
「【0019】本発明の電解液は、スルホランを含有するものであるが、この他に、プロトン性極性溶媒、非プロトン性溶媒、及びこれらの混合物を用いることができる。プロトン性極性溶媒としては、一価アルコール類(エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等)、多価アルコール類およびオキシアルコール化合物類(エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノール等)などが挙げられる。また、非プロトン性の極性溶媒としては、アミド系(N-メチルホルムアミド、N,N─ジメチルホルムアミド、N─エチルホルムアミド、N,N─ジエチルホルムアミド、N─メチルアセトアミド、N,N─ジメチルアセトアミド、N─エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等)、ラクトン類(γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-バレロラクトン等)、スルホラン系(3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等)、環状アミド系(N─メチル─2─ピロリドン、エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイト、イソブチレンカーボネイト等)、ニトリル系(アセトニトリル等)、オキシド系(ジメチルスルホキシド等)、2-イミダゾリジノン系〔1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノン(1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジ(n-プロピル)-2-イミダゾリジノン等)、1,3,4-トリアルキル-2-イミダゾリジノン(1,3,4-トリメチル-2-イミダゾリジノン等)〕などが代表として、挙げられる。
【0020】電解液の溶質としては、アジピン酸、ギ酸、安息香酸などのカルボン酸のアンモニウム塩、4級アンモニウム塩、またはアミン塩を用いることができる。第4級アンモニウム塩を構成する第4級アンモニウムとしてはテトラアルキルアンモニウム(テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム等)、ピリジウム(1-メチルピリジウム、1-エチルピリジウム、1,3-ジエチルピリジウム等)が挙げられる。また、アミン塩を構成するアミンとしては、一級アミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン等)、二級アミン(ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、エチルメチルアミン、ジフェニルアミン、ジエタノールアミン等)、三級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7、トリエタノールアミン等)があげられる。
【0021】さらに、四級化環状アミジニウムイオンをカチオン成分とする塩を用いることができる。この塩のアニオン成分となる酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸等を挙げることができる。
【0022】カチオン成分となる四級化環状アミジニウムイオンは、N,N,N’-置換アミジン基をもつ環状化合物を四級化したカチオンであり、N,N,N’-置換アミジン基をもつ環状化合物としては、以下の化合物が挙げられる。イミダゾール単環化合物(1-メチルイミダゾール、1-フェニルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-エチル-2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-エチル-2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1,2,4-トリメチルイミダゾール等のイミダゾール同族体、、1-メチル-2-オキシメチルイミダゾール、1-メチル-2-オキシエチルイミダゾール等のオキシアルキル誘導体、1-メチル-4(5)-ニトロイミダゾール等のニトロ誘導体、1,2-ジメチル-5(4)-アミノイミダゾール等のアミノ誘導体等)、ベンゾイミダゾール化合物(1-メチルベンゾイミダゾール、1-メチル-2-ベンゾイミダゾール、1-メチル-5(6)-ニトロベンゾイミダゾール等)、2-イミダゾリン環を有する化合物(1-メチルイミダゾリン、1,2-ジメチルイミダゾリン、1,2,4-トリメチルイミダゾリン、1-メチル-2-フェニルイミダゾリン、1-エチル-2-メチル-イミダゾリン、1,4-ジメチル-2-エチルイミダゾリン、1-メチル-2-エトキシメチルイミダゾリン等)、テトラヒドロピリミジン環を有する化合物(1-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン、1,2-ジメチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン、1,5-ジアザビシクロ〔4,3,0〕ノネン-5等)等である。
【0023】このような四級化環状アミジニウムイオンをカチオン成分とする塩を用いると、電解液の高電導度化を図ることができるので、好適である。
【0024】ここで、前記の電解液においてγ-ブチロラクトンとの混合溶媒を用い、溶質として四級化環状アミジニウムイオンをカチオン成分とする塩を用いると、高温寿命特性が良好でさらに誘電損失、低温特性も良好な電解コンデンサを得ることができる。また、γ-ブチロラクトンの混合溶媒中の含有率が60%より小さい場合は寿命特性がさらに向上し、20%より大きい場合は誘電損失、低温特性が向上するので、γ─ブチロラクトンの含有率は20?60%が好ましい。
【0025】さらに、このような電解液に溶媒としてエチレングリコールを加え、ほう酸、マンニットを添加すると耐電圧特性が向上する。添加量は、電解液全体に対して、ほう酸を0.5?2.5wt%、マンニットを0.5?2.5wt%を添加すると好適である。この範囲未満では、耐電圧特性が低下し、この範囲を越えると、電導度が低下する。また、添加するマンニットの量は、ほう酸の添加量1に対して、1.0?2.0が好ましい。この範囲未満では、高温保存下での電導度が低下し、この範囲を越えると初期の電導度が低下する。以上の電解液を用いることによって高温寿命特性が良好で50V以上の耐電圧特性を有し、さらに低温特性も良好な電解コンデンサを実現することができる。」
「【0030】
【実施例】次にこの発明について実施例を示し、詳細に説明する。セパレータを介して、陽極箔と、陰極箔を巻回してコンデンサ素子を形成する。陽極電極箔は、純度99.9%のアルミニウム箔を酸性溶液中で化学的あるいは電気化学的にエッチングして拡面処理した後、アジピン酸アンモニウムの水溶液中で化成処理を行い、その表面に陽極酸化皮膜層を形成したものを用いる。陰極箔として、純度99.9%のアルミニウム箔をエッチングして拡面処理した箔に窒化チタンを蒸着した箔を用いた。また、リード線の丸棒部の表面にはAl_(2 )O_(3 )とSiO_(2 )を成分として用いた金属アルコキシド系セラミックからなるセラミックコーティング層を形成した。
【0031】上記のように構成したコンデンサ素子に、電解コンデンサの駆動用電解液を含浸する。この電解液を含浸したコンデンサ素子を、有底筒状のアルミニウムよりなる外装ケースに収納し、外装ケースの開口端部に、前記封口体を挿入し、さらに外装ケースの端部を絞り加工することにより電解コンデンサの封口を行う。」


2 引用発明
上記(1)及び(2)によれば、引用例1には、次の発明が記載されているといえる(以下、この発明を「引用発明」という。)。

「セパレータを介して、陽極箔と、陰極箔を巻回してコンデンサ素子を形成し、電解液を含浸したコンデンサ素子を、外装ケースに収納する電解コンデンサであって、電解液として四級化環状アミジニウムイオンをカチオン成分とする塩を用いる電解コンデンサ。」

3 引用例2とその記載内容
当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平11-322759号公報(以下「引用例2」という。)には、「有機オニウム塩の製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。

(1)発明の属する技術分野
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有機オニウム塩の製造方法に関する。詳しくは、NH_(4 )MF_(n)塩とQOH塩とを反応させてQMF_(n) で表される有機オニウム塩を製造する方法に関する。本発明によれば、前記オニウム塩を高純度且つ高収率で製造することができる。有機オニウム塩は、界面活性剤、電池や電解コンデンサー等の電気化学的素子用電解質、相関移動触媒、柔軟剤、洗剤等の帯電防止剤、アスファルト、セメント等の分散剤、殺菌剤、防腐剤、肥料や粒状物の抗ブロッキング剤、抗凝集剤等として幅広い分野で使用される有用な化合物である。」

(2)発明の実施の形態
「【0009】
【発明の実施の形態】本発明に用いられる原料の一つは、一般式NH_(4 )MF_(n )で表される塩である。ここで、Mは周期率4?16の元素を表し、nは4族のとき3又は4、5族のとき4、6族のとき4、6又は7、7族のとき3又は5、8族のとき3又は4、9族のとき3又は5、10族のとき3、11族のとき3、12族のとき3、13族のとき4又は6、14族のとき5、15族のとき4又は6、また、16族のとき5である。Mの具体例を遷移金属元素と後遷移金属元素とに分けて例示すると、前者としては、Ti、V、Nb、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等が挙げられる。また、後者としては、B、Al、Si、P、As、Sb、S、Se、Te等が挙げられる。
【0010】電池やコンデンサ等の電気化学素子用としては、製造されるQMF_(n )塩の高い電気伝導率、電気化学的安定性から、Mが後遷移金属元素が好ましく、更に好ましくはB、P、As、Sb等が挙げられる。これらMを用いたNH_(4 )MF_(n )塩の具体例としては、NH_(4 )TiF_(3 )、NH_(4)TiF_(4) 、NH_(4) VF_(4) 、NH_(4) NbF_(4) 、NH_(4) NbF_(6) 、NH_(4 )MoF_(4) 、NH_(4) MoF_(7) 、NH_(4) WF_(6) 、NH_(4) MnF_(3) 、NH_(4 )MnF_(5) 、NH_(4 )FeF_(3) 、NH_(4) FeF_(4) 、NH_(4) CoF_(3) 、NH_(4) CoF_(5 )、NH_(4 )NiF_(3) 、NH_(4) CuF_(3 )、NH_(4 )ZnF_(3 )、NH_(4) BF_(4 )、NH_(4) AlF_(4) 、NH_(4 )AlF_(6)、NH_(4) GeF_(5 )、NH_(4) SiF_(5) 、NH_(4) PF_(6) 、NH_(4) AsF_(6) 、NH_(4)SbF_(4) 、NH_(4) SbF_(6) 、NH_(4 )SF_(5 )、NH_(4 )SeF_(5) 、NH_(4 )TeF_(5 )等が挙げられる。電池やコンデンサ等の電気化学素子用としては、製造されるQMFn 塩の高い電気伝導率、電気化学的安定性からNH_(4) BF_(4 )、NH_(4) PF_(6) 、NH_(4) AsF_(6) 、NH_(4) SbF_(6) が望ましい。もう一方の原料であるQOH塩の典型例としては、Qが一般式
【0011】
【化3】(略)
【0012】で表される塩が挙げられる。式中、R^(1) ?R^(4)はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等の炭化水素基を表し、炭素数はそれぞれ1?20、好ましくは1?5であり、それぞれ、置換基として水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、エーテル基又はアルデヒド基を有しても良い。また、R^(1 )?R^(4)は一部又は全部が相互に結合して環を形成していても良い。また、AはN、P等を表す。QOH塩の具体例について、そのカチオン部分のQに着目し、以下に分類して例示する。」
「【0016】(iii)イミダゾリニウム化合物
更に具体的には、N,N′-ジメチルイミダゾリニウム、N-エチル-N′-メチルイミダゾリニウム、N,N′-ジエチルイミダゾリニウム、1,2,3-トリメチルイミダゾリニウム、1,3,4-トリメチルイミダゾリニウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリニウム、1-エチル-3,4-ジメチルイミダゾリニウム、1-エチル-3,5-ジメチルイミダゾリニウム、2-エチル-1,3-ジメチルイミダゾリニウム、4-エチル-1,3-ジメチルイミダゾリニウム、1,2-ジエチル-3-メチルイミダゾリニウム、1,4-ジエチル-3-メチルイミダゾリニウム、1,5-ジエチル-3-メチルイミダゾリニウム、1,3-ジエチル-2-メチルイミダゾリニウム、1,3-ジエチル-4-メチルイミダゾリニウム、1,2,3-トリエチルイミダゾリニウム、1,3,4-トリエチルイミダゾリニウム、1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム、1-エチル-2,3,4-トリメチルイミダゾリニウム、1-エチル-2,3,5-トリメチルイミダゾリニウム、1-エチル-3,4,5-トリメチルイミダゾリニウム、2-エチル-1,3,4-トリメチルイミダゾリニウム、4-エチル-1,2,3-トリメチルイミダゾリニウム、1,2-ジエチル-3,4-ジメチルイミダゾリニウム、1,3-ジエチル-2,4-ジメチルイミダゾリニウム、1,4-ジエチル-2,3-ジメチルイミダゾリニウム、1,4-ジエチル-2,5-ジメチルイミダゾリニウム、2,4-ジエチル-1,3-ジメチルイミダゾリニウム、4,5-ジエチル-1,3-ジメチルイミダゾリニウム、1,2,3-トリエチル-4-メチルイミダゾリニウム、1,2,4-トリエチル-3-メチルイミダゾリニウム、1,2,5-トリエチル-3-メチルイミダゾリニウム、1,3,4-トリエチル-2-メチルイミダゾリニウム、1,3,4-トリエチル-5-メチルイミダゾリニウム、1,4,5-トリエチル-3-メチルイミダゾリニウム、1,2,3,4,5-ペンタメチルイミダゾリニウム等が挙げられる。」

(3)上記(1)及び(2)より、引用例2には、以下の技術的事項が記載されていることが分かる。

電解コンデンサーの電解質として使用され、NH_(4 )MF_(n)で表される塩と、QOHで表される塩とを反応させてQMF_(n)で表される有機オニウム塩であって、
NH_(4 )MF_(n )塩としてはNH_(4) AlF_(4) が、QOH塩のカチオン部分のQのイミダゾリニウム化合物は、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリニウムである有機オニウム塩。


第4 対比
1 本願発明と引用発明とを対比すると、
ア 引用発明の「陽極箔」、「陰極箔」は、それぞれ、本願発明の「陽極電極箔」、「陰極電極箔」に相当するから、引用発明の「セパレータを介して、陽極箔と、陰極箔を巻回」することは、本願発明の「陽極電極箔と陰極電極箔とセパレータを巻回」することに相当することが分かる。

イ 引用発明の「四級化環状アミジニウムイオンをカチオン成分とする塩」は、本願発明の「環状アミジニウムをカチオン成分とする塩」に相当する。

2 したがって、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりとなる。

〈一致点〉
「陽極電極箔と陰極電極箔とセパレータを巻回し、かつ電解液を含浸させてなるコンデンサ素子を外装ケースに収納してなる電解コンデンサにおいて、前記電解液として環状アミジニウムをカチオン成分とする塩を含む電解液を用いる電解コンデンサ。」

〈相違点〉
相違点1
本願発明では、「四弗化アルミニウムをアニオン成分とし、環状アミジニウムをカチオン成分とする塩を含む電解液」を用いているのに対し、引用発明は、電解液に含まれる塩のアニオン成分を特定していない点。

相違点2
本願発明では、「陽極電極箔または陰極電極箔としてリン酸処理を施した電極箔」を用いているのに対し、引用発明では、リン酸処理が特定されていない点。

相違点3
本願発明では、「100V級の高耐電圧特性」を有する電解コンデンサであるのに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点。


第5 相違点についての検討
(1)相違点1について
ア 引用例2には、「電解コンデンサーの電解質として使用され、NH_(4 )MF_(n)で表される塩と、QOHで表される塩とを反応させてQMF_(n)で表される有機オニウム塩であって、
NH_(4 )MF_(n )塩としてはNH_(4) AlF_(4) が、QOH塩のカチオン部分のQのイミダゾリニウム化合物は、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリニウムである有機オニウム塩。」が記載されている。
そして、技術常識を勘案すれば、前記「NH_(4)AlF_(4 )」と、前記「1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリニウム」の水酸化物とを反応させることにより、四級化環状アミジニウムイオンをカチオン成分とする、四弗化アルミン酸1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリニウム、すなわち四弗化アルミニウム塩が、できることは明らかである。

イ ここで、引用発明の電解液は、その機能からみて、高い電気伝導率が求められるものであり、引用例2に記載の電解液と技術課題が共通することは明らかである。
このことは、引用例1の段落【0023】の「このような四級化環状アミジニウムイオンをカチオン成分とする塩を用いると、電解液の高電導度化を図ることができるので、好適である。」、引用例2の段落【0010】の「電池やコンデンサ等の電気化学素子用としては、製造されるQMF_(n )塩の高い電気伝導率、電気化学的安定性から、Mが後遷移金属元素が好ましく・・・」との記載からも裏付けられる。

ウ そうすると、引用発明において、電解液として、引用例2に記載の、四級化環状アミジニウムイオンをカチオン成分とし、四弗化アルミニウムをアニオン成分とする、四弗化アルミニウム塩を含む電解液を用いることは、当業者が容易になし得たことである。

エ なお、請求人は、意見書において、四弗化アルミニウム塩と四級化環状アミジニウムイオンを選択し組み合わせることの困難性を主張するが、引用例2に具体的に列挙されている材料から、用途に応じて適切なものを選択することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないことから、請求人の主張は採用できない。

(2)相違点2について
ア 電解コンデンサの陽極箔または陰極箔としてリン酸処理を施した電極箔を用いることは、例えば、以下の周知例1?周知例3に記載されているように、本願の出願前の常套手段である。

(周知例1:特開平9-232189号公報、当審拒絶理由に引用した。) 上記周知例1には、図1とともに、次の記載がある。

「【0012】次に、上記の実施の形態の製造方法について説明する。先ず、陽極箔1を製造するには、厚さ数10?100μm程度の弁作用金属の箔を用いる。すなわち、先ず、この箔を塩酸や硫酸等の液中に浸漬し、直流エッチング法等によって粗面化する。粗面化後、純水中でボイルする。ボイル後、ホウ酸やシュウ酸等の化成液中において、定格電圧のほぼ1.4倍程度の電圧まで段階的に昇圧して電圧を印加し、化成して化成皮膜を形成する。化成処理後、必要に応じて安定化するために、リン酸処理等をし、ついで焼成処理をする。焼成処理後、任意の巾及び長さの大きさに切断する。なお、陽極箔1を最終的な巻取り時の長さに切断するのは、巻取り作業前でもあるいは巻取り作業時でもどちらでもよい。
【0013】また、陽極用リード線2は、未処理の弁作用金属箔を用いる場合には、巻取り処理前又は巻取り処理時に任意の巾及び長さの大きさに切断する。そして切断後、陽極箔1のほぼ中央部にコールドウェルド法やかしめつけ法等により接続する。また、弁作用金属箔に化成皮膜を形成した箔を用いる場合には、次の通りに製造する。すなわち、先ず、弁作用金属箔を陽極箔1の化成電圧よりも高い電圧で化成して化成皮膜を形成する。化成後、リン酸処理や焼成処理をし、その後再化成処理をして化成皮膜を修復する。再化成処理後、未処理の場合と同様に、巻取り処理前又は巻取り処理時に切断し、陽極箔1に接続する。
【0014】陰極箔4は、陽極箔1よりも薄い弁作用金属箔を粗面化し、その後、リン酸処理し、任意の巾及び長さの大きさに切断して製造する。そして切断後の陰極箔4に陰極用リード線5をコールドウェルド法やかしめつけ法等により接続する。
【0015】そして図1に示す通り、陽極箔1と、電解紙3と、陰極箔4とを巻き取ってコンデンサ素子6を形成する。コンデンサ素子6を形成後、真空含浸法や真空加圧含浸法等によって電解液を含浸する。
【0016】電解液を含浸後、コンデンサ素子6をケース7に収納する。そしてケース7に収納後、陽極用リード線2及び陰極用リード線5を、各々陽極端子9及び陰極端子10に接続する。接続後、硬化前の固定剤13をケース7の底の方に充填し、固定剤13を硬化してコンデンサ素子6を固定する。固定後、蓋8をケース7の端に取り付けて、ケース7を密閉する。ケース7を密閉後、高温雰囲気中において、段階的に昇圧しながら最終的に定格電圧以上の電圧を印加してエージング処理する。エージング処理後、ケース7にチューブ14を被覆する。」

(周知例2:特開昭62-17185号公報、当審拒絶理由に引用した。) 上記周知例2には、次の記載がある。

「アルミニウム箔を粗面化するエッチング工程と、次にエッチング箔の表面に酸化皮膜を形成する化成工程より成るアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法において、前記化成工程の前に、エッチング箔をリン酸を含む水溶液中で処理する工程と、次に高温にて処理を行なつて箔表面に熱酸化皮膜を形成する工程と、次に酸又はアルカリ溶液にて処理し前記熱酸化皮膜の一部を残留させる工程とを設けたことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法。」(特許請求の範囲)

「ところで、従来の電極箔の製造方法によると、エツチング箔表面に形成される自然酸化皮膜について何らの処理もされていなかったために、その後の化成工程を経て形成される複合酸化皮膜の上層部は化学的に弱く溶解し易い性質を有した自然酸化皮膜からなっている。そのため、この様な電極箔がコンデンサに使用されるとき、コンデンサ内部の駆動用電解液と反応して上層の自然酸化膜が溶解されるので、耐電圧が低くなり電解コンデンサの漏れ電流を増加さける原因となっている。特に、低い電圧で化成された皮膜については、自然酸化皮膜の占める割合が高い為に、漏れ電流の増加が大きなものとなっていた。
[発明の目的]
本発明の目的は上述した点にがんがみ、エツチングされたアルミニウム箔の表面に良質な酸化皮膜を形成することによって、電解コンデンサの劣化特性の改良、特に漏れ電流の増加を小さくすることが可能な、アルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法を提供することである。
[発明の概要]
本発明は、エツチング工程を経たアルミニウム箔を、リン酸を含む水溶液に浸漬することによってリン酸を吸着させ、次に熱処理を行って箔表面にリン酸を含む熱酸化皮膜を形成する。次に、酸又はアルカリ溶液で処理し溶解され易い酸化皮膜の一部を溶解して除去することにより、表面に溶解しにくいリン酸を含む熱酸化皮膜を有したエツチング箔を得る。しかる後に、通常の化成処理を行うことにより、上層に溶解しにくい皮膜部分を有した複合酸化皮膜を形成させるものである。」(2ページ左上欄13行?左下欄3行)

(周知例3:特開平2-58317号公報、当審拒絶理由に引用した。)
上記周知例3には、次の記載がある。

「(1) シュウ酸あるいは硫酸水溶液中で、アルミニウム箔を陽極として対極との間に直流電流を印加して前化成を行い、ホウ酸水溶液中で化成を行い、リン酸あるいはリン酸塩を含有する水溶液に浸漬することを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法。」(特許請求の範囲)

「産業上の利用分野
本発明は、アルミ電解コンデンサ用電極箔の製造方法に関するものである。
従来の技術
従来アルミ電解コンデンサは、エツチング工程により表面が粗面化されたアルミニウム箔に、表面に絶電体皮膜を形成し、駆動用電解液を含浸し、セパレータと共に巻回して構成されていた。
近年電子機器の高信頼性化、長寿命化に従って、主要な電子部品であるアルミ電解コンデンサに対しても高信頼性への要求は年々高まっている。」(1ページ右下欄6?16行)

「発明が解決しようとする課題
ところが、コンデンサの実際の使用上では、アルミ電解コンデンサ自体が、高温において長時間使用される。その結果、化成皮膜の表面は、電解液中の水分と反応して水利反応を起こす。その結果、絶縁性が劣化して、もれ電流が増加して故障に至るという欠点があった。
本発明はこのような問題点を解決するもので、化成皮膜の耐水性を向上させ、電解液中の水分との水利反応を抑えようとするものである。
課題を解決するための手段
本発明は、この問題点を解決するために、シュウ酸あるいは硫酸で化成を行い、その後ホウ酸あるいはアジピン酸水溶液で化成を行った電極箔を、正リン酸あるいはリン酸-水素アンモニウムあるいはリン酸二水素アンモニウム水溶液に浸漬するものである。
作用
本発明の技術的作用は以下の通りである。
本発明では、シュウ酸あるいは硫酸水溶液で形成された多孔質皮膜が化成皮膜表面をおおっている。この多孔質皮膜は、有効表面積が大きく、ミクロな凹凸を有するため、リン酸イオンのトラッピング効果が大きい。
よってリン酸処理は、多孔質皮膜を表面に有する化成皮膜と組合せによって、より多くの、リン酸イオンを表面に吸着することができ、耐水性の大巾な向上が得られるのである。
また、多孔質皮膜は、無欠陥な非晶質皮膜形成のためには、非常に有効であるが、耐熱性は低い。そのため、本発明のリン酸処理と組合せることにより、欠点を補うことができ、改善効果は大きいのである。・・・」(2ページ左上欄下から3行?左下欄10行)

イ そうすると、引用発明において、上記常套手段を採用し、陽極箔または陰極箔として、リン酸処理を施した電極箔を用いることは、当業者が容易になし得たことである。

(3)相違点3について
ア 引用例1の段落【0004】の「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、近年、自動車の電装品やインバータ照明に用いられる電解コンデンサの使用環境温度が150℃へと高温化している。ところが、前記の従来の電解コンデンサでの高温使用は125℃が限界であり、150℃での特に長時間使用には耐えることができない。」及び段落【0005】の「すなわち、前記の電解液が封口ゴムに膨潤し、150℃の高温下で封口ゴムが熱酸化劣化をおこしてゴム特性が劣化し、ゴム強度の低下、気密性の低下をもたらし、電解コンデンサの特性が低下するという問題点があった。そこで、本発明は150℃の高温長時間使用に耐えることのできる電解コンデンサを提供することをその目的とする。」との記載から、引用発明の「電解コンデンサ」は、自動車の電装品に用いられるもの、すなわち車載分野のものであることが分かる。

イ そして、一般に、車載分野の電解コンデンサにおいては、100V仕様を満たすことが求められることは、例えば、以下の周知例4、周知例5に記載されているように、本願の出願日前に周知の課題である。

(周知例4:特開2001-102260号公報)
上記周知例4には、次の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は電解コンデンサ、特に低インピーダンス特性を有し、100V仕様が可能で、さらに、125℃での高信頼性を有する電解コンデンサに関する。
【0002】
【従来の技術】電解コンデンサは一般的には図1に示すような構成を取っている。すなわち、帯状に形成された高純度のアルミニウム箔を化学的あるいは電気化学的にエッチングを行って拡面処理するとともに、拡面処理したアルミニウム箔をホウ酸アンモニウム水溶液等の化成液中にて化成処理することによりアルミニウム箔の表面に酸化皮膜層を形成させた陽極箔2と、同じく高純度のアルミニウム箔を拡面処理した陰極箔3をセパレータ8を介して巻回してコンデンサ素子が形成される。なお、図2に示すように陽極箔2、陰極箔3にはそれぞれ電気的に引き出すための陽極タブ4、陰極タブ5が機械的手段により接続され、それぞれの電極タブにはさらに外部と連絡する陽極リード線6、陰極リード線7が接続されている。そしてこのコンデンサ素子1には駆動用の電解液が含浸され、金属製の有底筒状の外装ケース10に収納される。さらに外装ケース10の開口端部は弾性ゴムよりなる封口体9が収納され、さらに外装ケース10の開口端部を加締めて封口を行い、電解コンデンサを構成する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】近年、車載、交換機の分野での電解コンデンサの使用要求が高まっている。車載分野では高温仕様、交換機分野では長寿命仕様であり、いずれも125℃での高信頼性が要求され、さらに、この分野では、低インピーダンス特性、100V仕様を満たさなければならない。」

(周知例5:特開2001-102261号公報)
上記周知例5には、次の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は電解コンデンサ、特に低インピーダンス特性を有し、100V仕様が可能で、さらに、125℃での高信頼性を有する電解コンデンサに関する。
【0002】
【従来の技術】小型の電解コンデンサは、一般的には図1、図2に示すような構造からなる。すなわち、帯状の高純度のアルミニウム箔に、化学的あるいは電気化学的にエッチング処理を施して、アルミニウム箔表面を拡大させるとともに、このアルミニウム箔をホウ酸アンモニウム水溶液等の化成液中にて化成処理して表面に酸化皮膜層を形成させた陽極電極箔2と、エッチング処理のみを施した高純度のアルミニウム箔からなる陰極電極箔3とを、マニラ紙等からなるセパレータ11を介して巻回してコンデンサ素子1を形成する。そして、このコンデンサ素子1は、電解コンデンサ駆動用の電解液を含浸した後、アルミニウム等からなる有底筒状の外装ケース10に収納する。外装ケース10の開口部には弾性ゴムからなる封口体9を装着し、絞り加工により外装ケース10を密封している。
【0003】陽極電極箔2、陰極電極箔3には、図2に示すように、それぞれ両極の電極を外部に引き出すための、陰極引出し手段であるリード線4、陽極引出し手段であるリード線5が、ステッチ、超音波溶接等の手段により接続されている。それぞれのリード線4、5は、アルミニウムからなる丸棒部6と、両極電極箔2、3に当接する平坦部7、及び丸棒部6の先端に溶接等により固着させた半田付け可能な金属からなる外部接続部8から構成されている。以上、小型の電解コンデンサについて述べたが、より大容量の用途に対しては、図3に示すような、大型の電解コンデンサが用いられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】近年、車載、交換機の分野での電解コンデンサの使用要求が高まっている。車載分野では高温仕様、交換機分野では長寿命仕様であり、いずれも125℃での高信頼性が要求され、さらに、この分野では、低インピーダンス特性、100V仕様を満たさなければならない。」

ウ そうすると、引用発明において、車載分野で共通する上記イの周知の課題を参酌すれば、100V仕様、すなわち、「100V級の高耐電圧特性」を有する電解コンデンサとすることは、当業者が容易になし得たものである。

(4)以上検討したとおり、本願発明は、常套手段及び周知技術を勘案することにより、引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第6 結言
以上のとおりであるから、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-31 
結審通知日 2012-02-01 
審決日 2012-03-13 
出願番号 特願2002-326028(P2002-326028)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 晃洋  
特許庁審判長 齋藤 恭一
特許庁審判官 西脇 博志
松田 成正

発明の名称 電解コンデンサ  
代理人 浜田 治雄  
代理人 浜田 治雄  

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