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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1255884
審判番号 不服2011-20514  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-22 
確定日 2012-04-27 
事件の表示 特願2005-343396「化粧ボード及びこれに使用するプリプレグ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月14日出願公開、特開2007-144840〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成17年11月29日の出願であって、平成23年6月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成23年5月30日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は平成23年2月9日付けの手続補正書により補正された次のとおりのものである。
「【請求項2】
薄シート材にジアリルフタレート系未反応樹脂を含浸させて成り、有機質天然材料から成る基板に重ねた状態で加熱・加圧して原料樹脂を硬化させることにより、前記基板に一体化してジアリルフタレート系樹脂の化粧層となるプリプレグであって、
前記薄シート材は、セルロース系でかつ使用前の状態で水に濡れると透ける性質を有すると共に目付け量が25?50g /m^(2 )の紙であり、前記紙に、ジアリルフタレート系未反応樹脂を1m^(2 )当たり75?100g 含浸させており、加熱・加圧による反応後は全体にわたって透明性が付与される、
化粧ボード製造用のプリプレグ。」

第3 引用文献
1.原査定の拒絶の理由に引用された特開昭50-18569号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(a)「ジアリルフタレート系樹脂含浸紙布を基材に熱圧して化粧板を作るに際し、ジアリルフタレートプレポリマーとしてメチルエチルケトン50%溶液粘度(30℃)5?45c.p.沃素価75?103のジアリルフタレートプレポリマーを使用することを特徴とする化粧板の製法」(特許請求の範囲)

(b)「本発明は、ジアリルフタレート系樹脂含浸紙布を用いる改善された性能を有する化粧板の製造法に関し、30℃におけるメチルエチルケトン溶液粘度(以下MEK粘度という)5?45c.p.、ヨウ素価75?103のジアリルフタレートプレポリマーを使用することを特徴とするもので・・・(中略)・・・このジアリルフタレート系樹脂の含浸紙を作るには必要に応じて不飽和ポリエステルを混じ、適量の有機系溶剤、硬化用触媒およびその他添加剤からなる樹脂組成物を適当な含浸用紙布に含浸すればよく、乾燥後この含浸紙を適当な基材にあてがい2?5kg/cm^(2)の低圧で熱プレスするものである。」(1頁左欄下から9行?同頁右欄7行)

(c)「4.含浸用紙布も従来用いられているものがそのまま採用できる。即ち、セルロースを主体とする印刷紙、未印刷紙、無サイズ紙、天然繊維からなる織布、不織布、合成繊維からなる織布、不織布、無機質繊維からなる織布、不織布等である。」(2頁右上欄11行?15行)

(d)「5.基材は従来用いられているものがそのまま用いられることはいうまでもなく、更に、非耐圧基材の使用が可能で材料選定の基準が緩和されるという利点がある。具体的には各種合板、パーテイクルボード、チツプボード、ハードボード、アスベストボード、ケイ酸カルシウム板等が含まれる。」(2頁右上欄16行?同頁左下欄1行)

(e)「実施例1
ハイドロキノン250gを溶解したジアリルオルソフタレート100モルを270℃、5mmHgの減圧下に60分間重合した後、大過剰のメタノールで洗浄して未反応モノマーを抽出し去り、収率29%でヨウ素価82、50%メチルエチルケトン溶液粘度(30℃)12.6c.p.のガラス状プレポリマーを得た。
このプレポリマー100部・・・(中略)・・・を100部のアセトンに溶解混合し、含浸液を調製した。常法に従つて、80g/m^(2)の印刷紙に含浸、乾燥して樹脂付着率55%の含浸紙を得た。この含浸紙を3mm厚の合板に重ねて、130℃、3kg/cm^(2)で5分間熱圧して光沢のある美麗な化粧合板を得た。」(2頁左下欄2行?18行)

上記各記載より、以下の事項が認められる。
「ジアリルフタレート系樹脂含浸紙布」は、ジアリルフタレート系樹脂組成物のプレポリマーを含浸用紙布に含浸して作られる(記載(b)、記載(e))。そして、含浸用紙布として、セルロースを主体とする未印刷紙が例示されている(記載(c))。
「ジアリルフタレート系樹脂含浸紙布」は、基材に熱圧して化粧板を作るためのものである(記載(a))から、「化粧板製造用のジアリルフタレート系樹脂含浸紙布」であるということができる。そして、「合板、パーテイクルボード、チツプボード」を基材に用いること(記載(d))、ジアリルフタレート系樹脂含浸紙布を基材に重ねた状態で熱圧すること(記載(e))が開示されている。

したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「含浸用紙布にジアリルフタレート系樹脂組成物のプレポリマーを含浸させて成り、合板、パーテイクルボード、又は、チツプボードから成る基材に重ねた状態で熱圧して化粧板とするジアリルフタレート系樹脂含浸紙布であって、
前記含浸用紙布は、セルロースを主体とする未印刷紙である、
化粧板製造用のジアリルフタレート系樹脂含浸紙布。」

2.原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-255138号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(f)「〔従来の技術〕
ジアリルフタレート系樹脂は、従来、積層板のオーバーレイ層として用いられ、優れた後加工性、耐候性、耐薬品性等を活かして化粧板や内装材分野等に多く利用されている。特に硬度や耐磨耗性等を要求される場合には、有機質繊維からなる織布、不織布、α-セルロース紙やガラス繊維不織布等が補強材として使用されている。
しかしながら、これら補強材との親和性が十分でないために、樹脂層の厚さによっては、透明性が損われ、下地の模様(例えば木目)を鮮かにシャープにみせることは困難である等と指摘されていた。」(1頁左欄下から2行?同頁右欄11行)

(g)「〔発明の効果〕
本発明はジアリルフタレート樹脂に特定の化合物を配合せしめた組成物をアクリル系繊維からなる不織布に配合したプリプレグと、これを被覆層として基板の上に直接もしくは化粧単板等を介して熱圧積層させた複合材であり、従来のジアリルフタレート系樹脂を含浸させたプリプレグを使用した複合材と比較して、著しく透明性に優れ、下地の模様(例えば木目等)を鮮かにシャープにみせること等のできる意匠性の高い化粧板、積層板、内装材等としてきわめて有用である。」(4頁左下欄1行?11行)

3.原査定の拒絶の理由に引用された実願昭53-50154号(実開昭54-152279号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(h)「(1) 基板層があり、その上に熱硬化性樹脂プリプレグから形成された均一な厚さのパターン層があり、パターン層の面には、その面より部分的に高さ50?500μの模様層が隆起形成されており、さらにそれらの全表面に熱硬化性樹脂による透明性を有する被覆層を形成してなる化粧板。」(実用新案登録請求の範囲)

(i)「被覆層4は熱硬化性樹脂を主体としてなるもので、たとえば熱硬化性樹脂を用いるトップコート(塗装)を行って形成してもよく、紙、布、基材に熱硬化性樹脂を含浸させてなるプリプレグを積層成形硬化させてなる層であってもよい。なお、この層4は下地の模様効果を発揮させるためにある程度透明性を有しなければならない。」(4頁8行?14行)

4.原査定の拒絶の理由に周知例として引用された特開2003-1782号公報(以下、「周知例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(j)「【0032】本例の化粧板を製造するにあたっては,図3(a)に示すごとく,透明紙3に用いる紙31として,灰分0.1%,坪量45g/m^(2)のα-セルローズ成分の多い木材パルプ繊維抄造紙を準備した。」

5.原査定の拒絶の理由に周知例として引用された特開平8-188990号公報(以下、「周知例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(k)「【0023】本発明で用いる上質紙は、セルロース繊維を用いて製造した透明度60%以上の上質紙であることが好ましい。本発明の上質紙の坪量は、回収上はいくらであっても問題ないが、取扱いやすさと透明度の観点から10?45g/m^(2)であることが好ましい。」

6.原査定の拒絶の理由に周知例として引用された特開2005-314665号公報(以下、「周知例3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(l)「【0040】
また、図1(c)の形態において用いた保護層用材料は、紙基材に、熱硬化性樹脂を担持させたものを用いることができる。
保護層用材料に用いられる基材としては特に限定されないが、灰分が少ないか、あるいは全く含まない透明性の高い紙基材であることが好ましく、具体的には、α-セルロース成分を多量に含有する木材パルプ繊維の抄造紙、リンター綿繊維紙などが使用できる。この基材の坪量は特に限定されないが、例えば10?50g/m^(2)程度のものを使用できる。」

第4 対比
引用発明の「含浸用紙布」、「ジアリルフタレート系樹脂組成物のプレポリマー」、「熱圧」、「化粧板」、「ジアリルフタレート系樹脂含浸紙布」は、それぞれ、本願発明の「薄シート材」、「ジアリルフタレート系未反応樹脂」、「加熱・加圧」、「化粧ボード」、「プリプレグ」に相当する。
合板、パーテイクルボード、チツプボードは、木材から成るものであること、本願明細書に、基板2の素材として木の合板やパーティクルボードが例示されていること(【0018】)を考慮すると、引用発明の「合板、パーテイクルボード、又は、チツプボードから成る基材」は、本願発明の「有機質天然材料から成る基板」に相当する。
引用発明において、ジアリルフタレート系樹脂含浸紙布を基材に重ねた状態で熱圧して化粧板とする際、原料樹脂が硬化することにより、ジアリルフタレート系樹脂含浸紙布が基材に一体化してジアリルフタレート系樹脂の化粧層となることは明らかである。
引用発明の「セルロースを主体とする未印刷紙」は、セルロース系の紙であるとの限度で、本願発明の「紙」と一致する。
よって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「薄シート材にジアリルフタレート系未反応樹脂を含浸させて成り、有機質天然材料から成る基板に重ねた状態で加熱・加圧して原料樹脂を硬化させることにより、前記基板に一体化してジアリルフタレート系樹脂の化粧層となるプリプレグであって、
前記薄シート材は、セルロース系の紙であり、前記紙に、ジアリルフタレート系未反応樹脂を含浸させた、
化粧ボード製造用のプリプレグ。」

[相違点1]
本願発明は、セルロース系の紙について「使用前の状態で水に濡れると透ける性質を有すると共に目付け量が25?50g /m^(2 )の紙」と特定しているのに対し、引用発明は、このように特定していない点。

[相違点2]
本願発明は、ジアリルフタレート系未反応樹脂の含浸量を「1m^(2 )当たり75?100g」と特定しているのに対し、引用発明は、このように特定していない点。

[相違点3]
本願発明は、「加熱・加圧による反応後は全体にわたって透明性が付与される」ことを特定しているのに対し、引用発明は、このように特定していない点。

第5 判断
(1)相違点1について
引用文献2及び引用文献3には、化粧板において、基板の上に積層する被覆層を透明性を有するものとして、下地の模様を見せる技術事項が記載されている(記載(f)?(i))。そして、引用文献2には、従来技術に関し、紙を補強材とした樹脂層について、樹脂層の厚さによっては、透明性が損なわれることが記載され(記載(f))、引用文献3には、紙に熱硬化性樹脂を含浸させてなるプリプレグから成る被覆層について、透明性を有しなければならないことが記載されている(記載(i))のであるから、上記技術事項は、被覆層が紙を含んで構成される場合にも適用できるものである。
また、引用発明において、基材は、合板、パーテイクルボード、又は、チツプボードから成るのであるから、それ自体が木目模様や木質模様を有することは明らかであり、ジアリルフタレート系樹脂含浸紙布は、上記基材の上に積層されるものである。
そうすると、上記引用文献2及び引用文献3の技術事項を考慮すれば、引用発明において、化粧板の基材の木目模様や木質模様を見せるべく、その上に積層されるジアリルフタレート系樹脂含浸紙布を透明性を有するものとすることは、当業者が容易に想到しえたことである。
そして、その際には、含浸用紙布であるセルロースを主体とする未印刷紙を透明性を有する紙としなければならないところ、透明性を有する紙として、例えば目付け量(坪量)45g/m^(2)の紙が、周知例1?周知例3に示されるように周知である。該周知の透明性を有する紙が、水に濡れると透ける性質を有することも明らかである。
また、本願の明細書には、「薄シート材の目付け量(秤量)は25?50g /m^(2)の範囲とする。25g /m^(2)より軽いと樹脂の含浸能力や腰の強さの点で問題が生じ、秤量が50g /m^(2)より重いと透明性が低くなる。」(【0020】)と記載されているところ、紙の目付け量が小さいほど含浸できる樹脂量が減少したり腰が弱くなること、目付け量が大きいほど透明性が低下することは、普通に予測できることであるから、本願発明が、紙の目付け量を25?50g /m^(2 )としたことにより格別の効果を奏するとは認められない。
したがって、相違点1に係る本願発明の構成は、引用文献2及び引用文献3の技術事項を考慮して、引用発明のジアリルフタレート系樹脂含浸紙布を透明性を有するものとするに際し、含浸用紙布として上記周知の透明性を有する紙を採用することによって、当業者が容易に想到しえたものである。

(2)相違点2について
引用文献1に「従来、ジアリルフタレート化粧板は耐候性、耐水性、耐薬品性、耐寒熱性等に優秀な特性を有する為に高級化粧板としての評価を得ている」(1頁右欄8行?10行)と記載されていることから、引用発明において、含浸用紙布にジアリルフタレート系樹脂組成物のプレポリマーを含浸させるのは、上記のような特性を利用するためであることが理解できる。そのために、上記プレポリマーを、所定量以上含浸させなければならないことは、当業者が普通に予測できることである。
一方、含浸用紙布の目付け量等に応じて、含浸できる量には自ずから限度があるし、また、必要以上に含浸させることは経済的でないことも明らかである。
そうすると、上記「(1)相違点1について」で検討したように引用発明の含浸用紙布として周知の透明性を有する紙を採用することに伴い、所望の特性が得られる程度や、上記紙に含浸できる量、経済性を考慮して上記プレポリマーの含浸量を決定することは、当業者が通常なすべき設計事項である。
そして、本願明細書に「樹脂の含浸量は、薄シート材の1m^(2)当たり75?100g の範囲が好適である。含浸量が75g よりも少ないと化粧層4が薄くなり過ぎ、含浸量が75g よりも多いと紙で担持できずにダレが生じたり均一性が阻害される。また、含浸量が75g より多いと必要以上に樹脂を使用することになって経済性が低くなる。」(【0022】)と記載されているところ、上記のとおり、プレポリマーの含浸量を決定するにあたり、所望の特性が得られる程度や、上記紙に含浸できる量、経済性を考慮することは通常のことであるから、本願発明の「1m^(2)当たり75?100g 」という数値範囲に基づく格別の効果を認めることはできない。
したがって、引用発明のプレポリマーの含浸量を、上記設計事項に基いて本願発明の数値範囲内とすることに困難性は認められず、相違点2に係る本願発明の構成は、当業者が容易に想到しえたものである。

(3)相違点3について
上記「(1)相違点1について」で検討したように、引用文献2及び引用文献3の技術事項を考慮すれば、引用発明において、化粧板の基材の木目模様や木質模様を見せるべく、その上に積層されるジアリルフタレート系樹脂含浸紙布を透明性を有するものとすることは、当業者が容易に想到しえたことである。その場合、加熱・加圧による反応後においても透明性を要することは当然である。
したがって、相違点3に係る本願発明の構成は、引用発明、引用文献2及び引用文献3の技術事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願発明の効果は、全体として、引用発明、引用文献2及び引用文献3の技術事項、及び周知技術から予測できる範囲内のものであって格別顕著なものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2及び引用文献3の技術事項、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-27 
結審通知日 2012-02-29 
審決日 2012-03-14 
出願番号 特願2005-343396(P2005-343396)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横田 晃一  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 一ノ瀬 薫
紀本 孝
発明の名称 化粧ボード及びこれに使用するプリプレグ  
代理人 渡辺 隆一  
代理人 西 博幸  

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