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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01N 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A01N 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N |
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管理番号 | 1255905 |
審判番号 | 不服2009-2341 |
総通号数 | 150 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-06-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-02-04 |
確定日 | 2012-04-26 |
事件の表示 | 特願2002-5882「抗菌・抗カビ性粉末及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月30日出願公開、特開2003-212707〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、平成14年1月15日の出願であって、平成20年8月26日付けの拒絶理由通知に対して、同年10月27日に意見書及び手続補正書が提出され、平成20年12月22日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成21年2月4日に審判請求がされ、同日に明細書についての手続補正書が提出された後、平成23年3月9日付けの審尋に対して、同年5月16日に回答書が提出されたものである。 第2 平成21年2月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [結論] 平成21年2月4日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 平成21年2月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の請求項1の「平均粒子径が0.04μm以下であり、かつ、アナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の表面に、平均粒子径が4nm以下である金属銀粒子を、前記酸化チタン粒子の単位重量当たり8重量%以上30重量%以下の範囲で分散担持させてなる」を「平均粒子径が0.01μm未満であり、かつ、アナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の表面に、平均粒子径が4nm以下である金属銀粒子を、前記酸化チタン粒子の単位重量当たり10重量%以上30重量%以下の範囲で分散担持させてなる」とし、本件補正前の請求項3の「平均粒子径が0.04μm以下であり、かつ、アナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子を分散させた水溶液中に金属銀前駆体からなる錯体を含む水溶液を混合し、この混合水溶液に還元剤を添加して攪拌・分散することにより前記酸化チタン粒子の表面に平均粒子径が4nm以下である金属銀粒子を前記酸化チタン粒子の単位重量当たり8重量%以上30重量%以下の範囲で分散担持した状態で還元析出させてなる」を「平均粒子径が0.01μm未満であり、かつ、アナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子を分散させた水溶液中に金属銀前駆体からなる錯体を含む水溶液を混合し、この混合水溶液に還元剤を添加して攪拌・分散することにより前記酸化チタン粒子の表面に平均粒子径が4nm以下である金属銀粒子を前記酸化チタン粒子の単位重量当たり10重量%以上30重量%以下の範囲で分散担持した状態で還元析出させてなる」とする補正である。 2 補正の適否 上記補正は、本件補正前の請求項1に係る発明及び請求項3に係る発明を各々特定するために必要な事項である「アナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子」の「平均粒子径」を「0.04μm以下」から「0.01μm未満」に限定し、同じく「前記酸化チタン粒子表面」に「分散担持させ」る「金属銀粒子」の量を、「前記酸化チタン粒子の単位重量当たり」「8重量%以上30重量%以下の範囲」から「10重量%以上30重量%以下の範囲」に限定するものであり、本件補正前の請求項1及び3に係る発明と本件補正後の請求項1及び3に係る発明の利用分野及び解決しようとする課題が同一であると認められるから、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 3 独立特許要件 そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明である、 「真菌類、または、細菌類および真菌類に対して用いられる抗菌・抗カビ粉末であって、平均粒子径が0.01μm未満であり、かつ、アナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の表面に、平均粒子径が4nm以下である金属銀粒子を、前記酸化チタン粒子の単位重量当たり10重量%以上30重量%以下の範囲で分散担持させてなることを特徴とする抗菌・抗カビ性粉末。」(以下、「本件補正発明」という。また、本件補正後の明細書を「本件補正明細書」という。) が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(補正前の請求項1を補正後の請求項1とする補正が平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものであるか)について検討する。 [新規性・進歩性について] (1) 引用刊行物及び引用刊行物に記載された事項 ア 引用刊行物 ・特開2000-169717号公報(原査定で引用された引用文献2。「刊行物1」という。) ・特開平6-157224号公報(「刊行物2」という。) ・特開平6-100403号公報(「刊行物3」という。) イ 刊行物1の記載事項 ・摘示事項1-a: 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 セラミックス粒子に銀及び/又は銅の金属粒子を分散付着させた抗菌剤を、ワックスに分散配合してなることを特徴とする抗菌性ワックス。 【請求項2】 前記セラミックス粒子が、酸化チタン、二酸化珪素、長石、ゼオライト、酸化亜鉛、二酸化ジルコニウム、炭酸カルシウムのうちから選ばれた1種または2種以上の材料であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌性ワックス。 【請求項3】 前記酸化チタンが光触媒性を有するアナターゼ型結晶構造のものであることを特徴とする請求項2に記載の抗菌性ワックス。 【請求項4】 前記セラミックス粒子の平均粒径が、0.005μm以上0.5μm以下であることを特徴とする請求項1ないし3に記載の抗菌性ワックス。 【請求項5】 前記金属粒子の平均粒径が、4nm未満であることを特徴とする請求項1ないし4に記載の抗菌性ワックス。 【請求項6】 前記金属粒子は、前記セラミックス粒子の単位重量当たり0.1重量%以上10重量%以下分散付着されていることを特徴とする請求項1ないし5に記載の抗菌性ワックス。」 ・摘示事項1-b: 「【0021】次の表1はAg系抗菌剤の生成についての各実施例の生成条件を一覧表にまとめたものである。また図1には、その生成のフローチャートを示している。このAg系抗菌剤を生成するに際しては、硝酸銀(AgNO_(3))を純水に溶解し、これにアンモニア水を加えることにより硝酸銀のアンモニア錯体を生成する。 【0022】一方、酸化チタン粒子や二酸化珪素粒子等のセラミックス粒子を純水に分散させ、上記硝酸銀アンモニア錯体溶液に加えた後、攪拌分散させる。次にこの分散混合液に還元剤としてぶどう糖溶液を添加し、30?50℃に加温して1時間程度攪拌する。尚、セラミックス粒子に二酸化珪素を用いた場合には更に還元剤としてヒドラジン溶液を加えている。 【0023】これによってセラミックス粒子の表面に銀粒子が析出するのでこれを沈降分離し、上澄液は除去すると共に、沈殿物は純水で3?5回の洗浄を繰り返した後、その沈殿物を乾燥することによりAg担持抗菌剤が得られる。」 ・摘示事項1-c: 「【0029】次にこれらの抗菌剤をワックスに分散配合し、各種の組成の抗菌性ワックスを作成した。この実施例では、図3に示した通常配合組成のワックスを使用し、これにAg系抗菌剤とCu系抗菌剤にキレート剤、アニオン界面活性剤を添加し高速攪拌により分散するとともにワックス中で安定分散するためコロイダルシリカ、脂肪酸アンモニウムを各種の配合割合で配合した。また比較例としてセラミックス粒子にAgやCuの金属粒子を担持させていないものも用意した。また耐水性・密着性を更に向上するためにアクリル・スチレン共重合体エマルジョンを添加した。」 ・摘示事項1-d: 「【表3】の実施例3?6 」 ・摘示事項1-e: 「【0033】表3に示した試験結果からわかるように、本発明の実施例品(実施例1?12)は、大腸菌の初期生菌数が4.1×10^(5)個、あるいは2.6×10^(5)個であったものが時間の経過とともに減少し、ほとんどの試料が24時間経過後には生菌数零(ゼロ)に近い値を示した。これに対して比較品(比較例A?F)は生菌数の減少効果に乏しく、逆に生菌数が増加傾向にあるものも見られた。 【0034】本実施例品(実施例1?12)の結果を更に解析すると、酸化チタンのルチア型(実施例1と実施例2の比較)において抗菌剤の添加量を増した方が良い結果が得られている(実施例2の方が実施例1よりも良好)。また酸化チタンのアナターゼ型(実施例3?8の比較)において、やはり抗菌剤の添加量を増した方が良い結果が得られている(実施例4,6,8は、実施例3,5,7よりも良好)が、更に実施例3と5、実施例4と6とを比較した時に抗菌剤中の金属粒子の付着量を増した方が良い結果が得られている(実施例5は実施例3よりも良好。実施例6は実施例4よりも良好)。 【0035】また金属粒子にCuを用いたもの(実施例7と実施例8)は24時間経過後も若干量の大腸菌の生息が見られることからCu粒子よりもAg粒子の方が大腸菌に対する滅菌効果は大きいように思われる。そして酸化チタン粒子はルチル型とアナターゼ型のどちらも大腸菌の滅菌効果が認められるが、アナターゼ型の方がこの実施例では金属粒子の付着量が少ないにもかかわらず生菌数の減少傾向が大きいことを示している。」 ・摘示事項1-f: 「【0037】次の表4は、上述の表3に示した大腸菌のほかに、黄色ブドウ状球菌(MRSA)、緑膿菌、枯草菌、サルモネラ菌についても抗菌性能の評価テストを行ったのでその結果を示している。本発明の抗菌ワックスは、上述の表4に示した実施例6のものを用いている。すなわち、アナターゼ型酸化チタンの粒径0.007μmのものにAg粒子を3.1重量%付着させ、これをワックスに1.0重量%配合したものである。比較品は、表4の比較例Fのものである。 【0038】 【表4】 【0039】この表4に示した結果からもわかるように、抗菌ワックスを用いなければ、いずれの菌も初期接種から24時間経過後の生菌数が増えて増殖しているか、あるいはほとんど減っていないが、本実施例の抗菌ワックスを用いたものでは、初期接種から24時間経過後の生菌数はいずれの菌も零(ゼロ)となっており、滅菌効果が確認された。」 ウ 刊行物2の記載事項 ・摘示事項2-a: 「【0006】 【課題を解決するための手段】本発明者らは前記課題を解決するため、無機系抗菌剤の使用を検討した結果、リン酸3カルシウム、ハイドロキシアパタイトなどのカルシウム含有化合物、二酸化珪素、酸化マグネシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛のように、生体に比較的吸収され難く、安定で、安全性の高いセラミックスに抗菌性を有する金属を担持させた抗菌性セラミックスを使用することにより前記課題を解決できることを認めた。 【0007】ある種の金属が微量で強い抗菌性を示すことは古くから知られているが、これら抗菌性金属の内には、生体に吸収された場合強い毒性を示すものも存在する。従って本発明に使用される抗菌性金属は、たとえば吸収されたとしても生体に対し比較的毒性を示さない金属、例えば、鉄、金、銀、などから選ばれる必要がある。入手、処理の方法などを考慮すると、ケーキやアイスクリームなどの装飾に用いる銀色のアラザンなどにも使われている銀を抗菌性金属として使用することが好ましい。生体に対し比較的毒性の少ない抗菌性金属を前記セラミックスに担持させる方法を、抗菌性金属として銀を例にとって以下に説明する。」 ・摘示事項2-b: 「【0012】 【実施例2】実施例1の生地に、銀を1%担持したハイドロキシアパタイトを10%、銀を2%担持したリン酸3カルシウムを0.5%、銀を5%担持した二酸化ケイ素を0.01%、銀を0.001%担持した酸化マグネシウムを1%、銀を0.1%担持した二酸化チタンを5%、銀を3%担持した酸化亜鉛を0.1%それぞれ添加し、ミキサーで20分間攪拌、混合した後、同一の型に入れて、それぞれ成型した。(2-1)?(2-6)これら成型物をそれぞれポリエチレンとポリプロピレンの積層フィルムで包装した。 【0013】 【実施例3】実施例1の生地に、銀を1%担持したハイドロキシアパタイト90部と二酸化珪素10部の防菌、防カビ剤を10%、銀を2%担持したリン酸3カルシウム98部と二酸化珪素2部の防菌、防カビ剤を0.5%、銀を0.001%担持した酸化マグネシウム99.5部と二酸化珪素0.5部の防菌、防カビ剤を1%、銀を0.1%担持した二酸化チタン99部と二酸化珪素1部の防菌、防カビ剤を5%、銀を3%担持した酸化亜鉛95部と二酸化珪素5部の防菌、防カビ剤を0.1%それぞれ添加し、ミキサーで20分間攪拌、混合した後、同一の型に入れて、それぞれ成型した。(3-1)?(3-5)これら成型物をそれぞれ実施例2)で使用したのと同様の積層フィルムで包装した。実施例2で作成した成型物は薄い灰白色であったが、実施例3)で作成した成型物はきれいな白色であった。 【0014】 【比較例】防菌、防カビ用セラミックスを添加しない実施例1の生地をそのまゝ実施例2と同様にミキサーで攪拌、混合して、前記と同様の型に入れて成型し、同様のポリエチレンとポリプロピレンの積層フィルムで包装した。 【0015】 【実施例4】実施例2、3及び比較例で包装した成型物を20℃で保存した。2週間後、実施例(2-1)?(2-6)及び(3-1)?(3-5)において何れもカビの繁殖は見られなかったが、比較例においては4日目よりカビの繁殖が認められた。」 エ 刊行物3の記載事項 ・摘示事項3-a: 「【0019】[試験法1]得られた各抗菌・防黴性組成物を、所定の濃度となる様に測定培地に懸濁させ、シャーレに蒔いて平板状の試験培地とした。これに下記の菌体を1白金耳づつ塗抹した後、37℃で48時間培養して菌の発育の有無を調べ、発育が抑えられた最少濃度(MIC)を求めた。 【0020】 (測定培地) ペプトン :1% 酵母エキス :0.2% 硫酸マグネシウム(5水和物):0.1% 寒天 :1.5% (菌体) Escherichia coli IFO.3301(大腸菌) Staphylococcus aureus IFO.3060(ブドウ球菌) Bacillus subtilis IFO.3007(枯草菌) 【0021】[試験法2]得られた各抗菌・防黴性組成物を、所定の濃度となる様に測定培地に懸濁させ、シャーレに蒔いて平版状の試験培地とした。一方、下記の菌体をPDA培地に25℃で7日間培養し、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム(0.005%)水溶液で10mリットル分注し、これを濾過し滅菌水を加えたものを胞子懸濁液とした。これを1mリットルづつ上記の試験培地に均等に蒔き、25℃で14日間培養して菌の発育の有無を調べ、発育が抑えられた最小濃度(MIC)を求めた。 【0022】 (測定培地) ポテトデキストロース(PDA培地) (菌体) Aspergillus niger IFO.4407(黒麹黴) Cladosporium cladosporioides IFO.6348(黒黴) 」 ・摘示事項3-b: 「【0023】[銀の無電解めっき法]粒径0.1μmの酸化亜鉛30gを純水300mリットルに分散させ、それに硝酸銀0.25?5gを純水300mリットルに溶解し水酸化アンモニウムでpH11に調整した液を添加、混合し、液温60℃で攪拌しながら、酒石酸カリウムナトリウム(4水和物)7.5gを純水75mリットルに溶解させたものを滴下して攪拌を続けることによって銀イオンを還元し、更に1時間攪拌を継続して無電解めっきを行なった。 【0024】その後、攪拌を止めてNo.5Cの濾紙を用いて吸引濾過し、純水で十分に洗浄した後80℃の乾燥機内で18時間乾燥させることにより、酸化亜鉛に0.5?10重量%の銀が付着した微粒子状の抗菌性組成物を得た。」 ・摘示事項3-c: 「【0029】その後、攪拌を止めてNo.5Cの濾紙を用いて吸引濾過し、純水で十分に洗浄した後80℃の乾燥機内で18時間乾燥させることにより、酸化亜鉛に0.5?10重量%の銀と、0.5?10重量%の銅が付着した微粒子状の抗菌性組成物を得た。試験法1の結果を表1に、また試験法2の結果を表2に示す。尚、表1,2には比較のため酸化亜鉛を単独で使用した場合の結果も併記した。 【0030】 【表1】 【0031】 【表2】 【0032】表1,2からも明らかである様に、本発明の抗菌・防黴性組成物は、特にブドウ球菌に対して優れた抗菌活性を有しており、また添加量によっては大腸菌に対しても抗菌活性を発揮する。また、黒麹黴や黒黴に対しても防黴活性を有していることが分かる。」 (2) 刊行物1に記載された発明 刊行物1は、その特許請求の範囲の請求項1に、 「セラミックス粒子に銀及び/又は銅の金属粒子を分散付着させた抗菌剤を、ワックスに分散配合してなることを特徴とする抗菌性ワックス。」(摘示事項1-a【請求項1】) と記載されているとおり、特定の抗菌剤を、ワックスに分散配合してなる抗菌性ワックスに関して記載するものである。 その「抗菌剤」として、特許請求の範囲の請求項6には、請求項1ないし5の特定事項を有する、「前記金属粒子は、前記セラミックス粒子の単位重量当たり0.1重量%以上10重量%以下分散付着されている」「抗菌剤」、すなわち、刊行物1の請求項6には、「前記セラミックス粒子が、酸化チタン…の材料」(同【請求項2】)であり、「前記酸化チタンが光触媒性を有するアナターゼ型結晶構造のもの」(同【請求項3】)であってその「粒子の平均粒径が、0.005μm以上0.5μm以下」(同【請求項4】)であり、「前記金属粒子の平均粒径が、4nm未満」(同【請求項5】)である「抗菌剤」が記載されている。 この請求項6記載の抗菌剤を、銀の金属粒子を酸化チタン粒子に分散付着させた抗菌剤について書き表すと、 「セラミックス粒子に銀の金属粒子を分散付着させた抗菌剤であって、前記セラミックス粒子が、酸化チタンの材料で、光触媒性を有するアナターゼ型結晶構造で、粒子の平均粒径が、0.005μm以上0.5μm以下ものであり、前記銀の平均粒径が、4nm未満であり、前記酸化チタン粒子の単位重量当たり0.1重量%以上10重量%以下分散付着されている抗菌剤」 と記載することができる。 この「抗菌剤」は、「セラミックス粒子に銀の金属粒子を分散付着」させるものであるので「粒子」状であると認められるから、「抗菌性粒子」といえる。 そして、実施例には具体的な「抗菌剤」として、「TiO_(2)(アナターゼ型)」からなる粒径「0.007」μmの「セラミックス粒子」に「3」重量%の「Ag」を分散付着したもの(摘示事項1-d、e及びf)が、「大腸菌」、「黄色ブドウ状球菌(MRSA)、緑膿菌、枯草菌、サルモネラ菌」に対する「滅菌効果」があることが記載されている(摘示事項1-e及びf)。 以上によれば、刊行物1には、下記の発明(以下、引用発明という)が記載されている。 「セラミックス粒子に銀の金属粒子を分散付着させた抗菌性粒子であって、前記セラミックス粒子が、酸化チタンの材料で、光触媒性を有するアナターゼ型結晶構造で、粒子の平均粒径が、0.007μmを含め0.005μm以上0.5μm以下のものであり、前記銀粒子の平均粒径が、4nm未満であり、前記酸化チタン粒子の単位重量当たり0.1重量%以上10重量%以下分散付着されている、大腸菌などに対する滅菌効果がある抗菌性粒子」 (3) 対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比すると、 引用発明の「前記セラミックス粒子が、酸化チタンの材料で、光触媒性を有するアナターゼ型結晶構造で、粒子の平均粒径が、0.007μmを含め0.005μm以上0.5μm以下のもの」は、本件補正発明の「平均粒子径が0.01μm未満であり、かつ、アナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子」と、前記平均粒子径が0.005μm以上0.01μm未満の範囲で重複し、引用発明の「平均粒径が、4nm未満であり、前記酸化チタン粒子の単位重量当たり0.1重量%以上10重量%以下」であることと、本件補正発明の「平均粒子径が4nm以下である金属銀粒子を、前記酸化チタン粒子の単位重量当たり10重量%以上30重量%以下の範囲」であることとは、前記金属銀粒子と前記酸化チタン粒子の単位重量当たり10重量%である点で重複する。 また、銀粒子は酸化チタン粒子に、引用発明においては「分散付着」されたものであり、本件補正発明においては酸化チタン「表面」に「分散担持」させたものであるが、その「分散付着」方法は、「硝酸銀(AgNO_(3))を純水に溶解し、これにアンモニア水を加えることにより硝酸銀のアンモニア錯体を生成し」(摘示事項1-b【0021】)、「酸化チタン粒子」を「純水に分散させ、上記硝酸銀アンモニア錯体溶液に加えた後、攪拌分散させ」て得た「分散混合液に還元剤としてぶどう糖溶液を添加し」て「攪拌する」(摘示事項1-b【0022】)ことによって「セラミックス粒子の表面に銀粒子が析出」させており(摘示事項1-b【0023】)、本願発明の製法(例えば、本件補正後の請求項3に記載されている事項を参照されたい)と同様であるから、引用発明の銀粒子は酸化チタン粒子に「分散付着」させることは、本件補正発明の銀粒子は酸化チタン粒子の「表面」に「分散担持」させることと同じことであると認められる。 そして、引用発明は「大腸菌などに対する滅菌効果がある抗菌性粒子」と「粒子」であり、本件補正発明は「菌類、または、細菌類および真菌類に対して用いられる抗菌・抗カビ粉末」と「粉末」であるが、引用発明の「粒子」は、ワックス中に「キレート剤、アニオン界面活性剤を添加し高速攪拌により分散するとともにワックス中で安定分散するためコロイダルシリカ、脂肪酸アンモニウムを各種の配合割合で配合」されるものである一方、本願補正発明の「粉末」も、「アルコール等の溶媒あるいはバインダー等と配合」することを念頭に置いたものと認められるから(例えば、本願明細書【0056】を参照されたい)、引用発明の「大腸菌などに対する滅菌効果がある抗菌性粒子」と、本件補正発明の「粉末」とは、「抗菌性を有する粉末」である点で同じであると認められる。 そうすると両者は、 「抗菌性を有する粉末であって、平均粒子径が0.005μm以上0.01μm未満であり、かつ、アナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の表面に、平均粒子径が4nm以下である金属銀粒子を、前記酸化チタン粒子の単位重量当たり10重量%分散担持させてなることを特徴とする抗菌性を有する粉末。」 において一致するが、 A 「抗菌性を有する粉末」が、本件補正発明が、「真菌類、または、細菌類および真菌類に対して用いられ」るものであるのに対して、引用発明は、「大腸菌などに対する滅菌効果がある」ものである点 B 金属銀粒子の酸化チタン粒子の分散担持量が、本件補正発明が、「前記単位重量当たり10重量%以上30重量%以下の範囲」であるのに対して、引用発明は、「単位重量当たり0.1重量%以上10重量%以下」である点 において相違する。 (4)相違点についての検討 上記相違点をまとめて検討する。 ア 本件出願の出願時には、セラミックスに抗菌性を有する銀を担持させた「抗菌性セラミックス」が抗菌性のみならず抗カビ性を有することが周知であったと認められる(例えば、摘示事項2-a及びb、或いは摘示事項3-a、b及びcを参照されたい。特に、摘示事項3-a、b及びcには、「酸化亜鉛に0.5?10重量%の銀が付着した微粒子状の抗菌性組成物」が「黒麹黴や黒黴に対しても防黴活性を有していること」が記載されている。ここで、「黒麹黴」は「真菌類」であり、「防黴活性」とは「抗カビ性」であると認められる。)。 そうすると、引用発明の「抗菌性粉末」を、真菌類に対して適用することは、当業者が容易に想到し得ることである。 また、刊行物3には、「表1,2からも明らかである様に、本発明の抗菌・防黴性組成物は、特にブドウ球菌に対して優れた抗菌活性を有しており、また「添加量」によっては大腸菌に対しても抗菌活性を発揮する」と記載されており(摘示事項3-cを参照されたい。)、上記表1、2には、セラミックスに担持する金属の組成比が異なるものが列挙されているから、上記「添加量」は上記金属のセラミックスに対する単位重量当たりの添加量と認められ、金属の添加量を変化させて、抗菌活性を変化させているものと認められる。 そうすると、酸化チタン粒子への分担担持量を単位重量当たり10重量%以上30重量%以下の範囲に特定することにより抗カビ活性を得ることは、格別予測し得ない効果を奏することとも認められない。 イ 審判請求人は、刊行物1には、「金属銀粒子の付着量を10重量%以上としてもそれ以上の効果が期待できない点」が記載されているとして、上記記載が、上記刊行物1に接した当業者が、「上記金属銀粒子の付着量を10重量%以上とすることを妨げる記載」であると主張している(平成21年2月4日付けの審判請求書「3.」の「(5)」の「(C)」)。 しかしながら、引用発明において、大腸菌などの細菌に対しては、10重量%で抗菌活性が飽和するとしても、菌の種類によっては抗菌剤に対する感受性が異なるのが通常であるから、上記記載が、引用発明を真菌類に適用するときに、上記付着量を10重量%以上とすることを妨げる記載とまでは認められない。 そうすると、審判請求人の上記主張は妥当ではない。 (5) 独立特許要件のまとめ 以上検討したところによれば、本件補正発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものとはいえないから、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。 4 補正の却下の決定のむすび 以上のとおりであるから、上記補正を含む本件補正は、平成18年改正前特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 第3 本願発明 平成21年2月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願に係る発明は、平成20年10月27日付けで手続補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、下記のとおりのものである。 「真菌類、または、細菌類および真菌類に対して用いられる抗菌・抗カビ粉末であって、平均粒子径が0.04μm以下であり、かつ、アナターゼ型結晶構造の酸化チタン粒子の表面に、平均粒子径が4nm以下である金属銀粒子を、前記酸化チタン粒子の単位重量当たり8重量%以上30重量%以下の範囲で分散担持させてなることを特徴とする抗菌・抗カビ性粉末。」 第4 原査定の理由 原査定は「この出願については、平成20年8月26日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、その拒絶の理由は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」であり、「下記の刊行物」は、次の引用文献1ないし3であり、その引用文献2は、前記「第2 3」における、「刊行物1」である。 引用文献1:特開平08-099812号公報 引用文献2:特開2000-169717号公報 引用文献3:特開2000-070673号公報 第5 当審の判断 当審は、原査定の理由のとおり、本願発明1は、刊行物1(引用文献2)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、と判断する。 1 刊行物の記載事項、刊行物1に記載された発明 刊行物1及び2の記載事項は、前記「第2 3(1)」の「イ」及び「ウ」とおりである。 そして、刊行物1には「第2 3(2)」に記載したとおりの発明(以下同様に「引用発明」という。)が記載されている。 2 対比・検討 本願発明1は、前記「第2の3(1)」に記載した本件補正発明における、「酸化チタン粒子」の「平均粒径」について、「0.01μm未満」が「0.04μm以下」、「酸化チタン粒子の表面」に「分散担持」させる「金属銀粒子」の割合を、「前記酸化チタン粒子の単位重量当たり」、「10重量%以上30重量%以下の範囲」が「8重量%以上30重量%以下の範囲」となったものである。 そうすると、本願発明1の構成要件のうち、上記「平均粒径」及び「金属銀粒子」の割合の範囲が限定されたものに相当する本件補正発明が、前記「第2の3」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余を検討するまでもなく、本件出願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-02-21 |
結審通知日 | 2012-02-28 |
審決日 | 2012-03-12 |
出願番号 | 特願2002-5882(P2002-5882) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A01N)
P 1 8・ 113- Z (A01N) P 1 8・ 575- Z (A01N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 冨永 保 |
特許庁審判長 |
柳 和子 |
特許庁審判官 |
齋藤 恵 本間 友孝 |
発明の名称 | 抗菌・抗カビ性粉末及びその製造方法 |
代理人 | 上野 登 |