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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1255912 |
審判番号 | 不服2009-8285 |
総通号数 | 150 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-06-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-04-16 |
確定日 | 2012-04-26 |
事件の表示 | 特願2004-212742「歯牙エナメル質再石灰化促進剤」拒絶査定不服審判事件〔平成18年2月2日出願公開、特開2006-28135〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願(以下、「本願」という。)は、平成16年7月21日の出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。 平成20年8月13日付け 拒絶理由通知 平成20年10月20日 意見書 平成21年3月11日付け 拒絶査定 平成21年4月16日 審判請求書 平成21年7月9日 手続補正書(方式) 第2 本願発明について 本願の請求項1に係る発明は、願書に最初に添附された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下「本願発明」という。なお、本願の明細書を、以下「本願明細書」という。) 「グルコース-1-リン酸ナトリウムを有効成分とする歯牙エナメル質再石灰化促進剤。」 第3 原査定の理由の概要 原査定における拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された以下の引用文献1?2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、引用文献1?2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとするものである。 1.特開2000-191486号公報 2.特表2004-510802号公報 第4 刊行物に記載された事項 1 刊行物1に記載された事項 本願の出願前である2000年7月11日に頒布された刊行物である特開2000-191486号公報(上記「引用文献1」と同じ。以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。 (1a)「歯質の主成分はハイドロキシアパタイト(Ca_(10)(PO_(4))_(6)(OH)_(2))であり、口中においては通常、リン酸イオンやカルシウムイオンの溶出(脱灰)と、リン酸カルシウムやハイドロキシアパタイトへの結晶化(再石灰化)が平衡状態にある。ここでムシ歯の原因菌が産生する酸は、脱灰を促進することが知られている。すなわちムシ歯は、歯垢を構成するストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)等の細菌がショ糖等を分解して乳酸を主とする有機酸を産生し、これがpHを低下させてカルシウム等を溶出させることにより生じる。ところでムシ歯の初期においては、通常透明なエナメル質に白斑(ホワイトスポット)が生じるが、フッ素イオンやカルシウムイオンは再石灰化を促進することにより、かかる白斑を消失させ、エナメル質を再透明化することが知られている。 しかしながら、フッ素イオンとカルシウムイオンとを共存させると、フッ化カルシウムの沈澱を生じてしまい、再石灰化促進効果が低下する。このためかかる問題を解決するため、フッ素イオン水溶液と、カルシウムイオン水溶液とを別の容器に保持し、使用に際して適宜混合して用いる、2剤系口腔衛生用品(特開昭52-61236号公報、特開昭58-219107号公報)、糖リン酸エステル等によりフッ化カルシウムをコロイド状に分散させ、再石灰化を促進する口腔用組成物(特開平3-72415号公報)等が報告されている。」(段落【0002】?【0003】) (1b)「【課題を解決するための手段】本発明者らは、フッ素イオン供給化合物とカルシウムイオン供給化合物に加えて糖アルコールを配合し、さらにこれらから生じるカルシウムイオンをフッ素イオンの0.5倍モル以上存在せしめれば、生成したフッ化カルシウムコロイドが長期間安定であり、歯の再石灰化促進作用の優れた口腔用組成物が得られることを見出した。」(段落【0005】) (1c)「【発明の実施の形態】・・・口腔用組成物中のフッ素イオン供給化合物の配合量は、口腔用組成物の風味や物性、再石灰化の効果の点より、フッ素換算で0.001?1重量%(以下、単に%で示す)、特に0.01?1%が好ましい。」(段落【0007】) (1d)「実施例1、比較例1?5 表1に示す配合で、口腔用組成物(洗口液)を調製し、以下の試験を行った。7本の牛歯牙を各々2分割し、表面を鏡面研磨した後、5mm×5mmの処置面を除いて油性マニキュアで被覆して試験に供した。HECで増粘した乳酸緩衝液(pH4.5)に37℃、5日間浸漬し、表層下脱灰を形成させた。ここで2分割した牛歯牙切片の内一方を再石灰化処理群、もう一方を対照群(脱灰処理のみ)として振り分け、再石灰化処理群について、以下の再石灰化処置を行った。即ち、5分間の洗口液処置後水洗し、37℃の人工唾液(pH7.0、20mM HEPES Buffer+ CaCl_(2) 由来の1.5mM Ca^(2+)+ K_(2)HPO_(4) 由来の0.9 mM PO_(4)^(3-)の溶液)に約8時間浸漬した。次いでこれを水洗し、5分間の洗口液処置の後、再び水洗し、さらに約16時間の再石灰化処置を行った。この一連の処置を10回(10日間)行った後、エタノールとアセトンを用いて脱水、乾燥を行った。そして再石灰化処理群、対照群ともポリエステル樹脂にて包埋した後、切断して厚さ約100μmの研磨切片を作製して軟X線写真撮影を行った。次いで、再石灰化処理群、対照群の軟X線写真を比較、観察するとともに、画像解析を行い再石灰化率を算出した。結果を表1に示す。また表1に示す口腔用組成物(洗口液)の溶解性を、透明なものを○、濁っているものを×として判断した。さらにその口腔用組成物を1ケ月室温に保存した後にも沈澱の有無を観察した。結果を表1に示す。また、レーザー散乱による観察で、実施例1と比較例1調整直後はフッ化カルシウムと考えられるコロイド状の粒子が存在することを確認したが、その他の比較例には存在しなかった。 【表1】 その結果、フッ化ナトリウム、乳酸カルシウム及び糖アルコールを含有する実施例1と比較例1は、比較例2?5と比べて再石灰化率が高いことが確認された。そして、実施例1は、比較例1に比べてコロイドの安定性が優れていることが確認された。」(段落【0018】?【0020】) (1d)「実施例2及び3 表2に示す配合で、練歯磨剤を調製した。これらは、いずれも数ケ月保存後も外観が変化せず、再石灰化効果も長期間保持していた。 【表2】 」(段落【0021】?【0022】) 第5 当審の判断 1 刊行物1に記載された発明 刊行物1の上記摘記事項(1e)には、上記摘記事項(1c)と併せてみると、実施例3として、 「モノフルオロリン酸ナトリウム 0.7重量% 塩化カルシウム 1.0重量% キシリトール 20 重量% グルコース-1-リン酸ナトリウム 1.0重量% カラギーナン 0.5重量% キサンタンガム 0.5重量% カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.7重量% 無水ケイ酸 22 重量% ポリエチレングリコール600 7 重量% パラオキシ安息香酸メチル 0.1重量% ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60EO)1.2重量% 香料 1 重量% 精製水 適量 からなる練歯磨剤」が記載されているところ、この「練歯磨剤」は、上記摘記事項(1a)の「ところでムシ歯の初期においては、通常透明なエナメル質に白斑(ホワイトスポット)が生じるが、フッ素イオンやカルシウムイオンは再石灰化を促進することにより、かかる白斑を消失させ、エナメル質を再透明化することが知られている」との記載、(1b)の「本発明者らは、・・・歯の再石灰化促進作用の優れた口腔用組成物が得られることを見出した」との記載、(1d)の「7本の牛歯牙を・・・表面を鏡面研磨した後、・・・油性マニキュアで被覆して試験に供した。・・・乳酸緩衝液(pH4.5)に37℃、5日間浸漬し、表層下脱灰を形成させた。ここで2分割した牛歯牙切片の内一方を再石灰化処理群、もう一方を対照群(脱灰処理のみ)として振り分け、再石灰化処理群について、以下の再石灰化処置を行った」、「その結果、フッ化ナトリウム、乳酸カルシウム及び糖アルコールを含有する実施例1と比較例1は、比較例2?5と比べて再石灰化率が高いことが確認された」との記載、(1e)の「実施例2及び3・・・これらは、いずれも数ケ月保存後も外観が変化せず、再石灰化効果も長期間保持していた」との記載からみて、「歯牙エナメル質」の「再石灰化促進」効果を有するものであるといえるから、刊行物1には、 「モノフルオロリン酸ナトリウム 0.7重量% 塩化カルシウム 1.0重量% キシリトール 20 重量% グルコース-1-リン酸ナトリウム 1.0重量% カラギーナン 0.5重量% キサンタンガム 0.5重量% カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.7重量% 無水ケイ酸 22 重量% ポリエチレングリコール600 7 重量% パラオキシ安息香酸メチル 0.1重量% ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60EO)1.2重量% 香料 1 重量% 精製水 適量 からなる歯牙エナメル質の再石灰化促進効果を有する練歯磨剤」 の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 2 本願発明と引用発明との対比・判断 (1)対比 本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明の「歯牙エナメル質再石灰化促進剤」について、本願明細書の段落【0011】の「本発明の再石灰化促進剤には、グルコース-1-リン酸ナトリウムをそのまま使用してもよいが、他のpH緩衝剤、カルシウムイオン供給物質、フッ素化合物、湿潤剤、甘味剤、防腐剤、抗菌剤、抗炎症剤、各種エキス類、水、アルコールあるいはその他の食品又は食品添加物等の成分を適宜添加してもよい」との記載からみて、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」以外の成分を含む組成物となる態様を含むものといえる。一方、引用発明の「歯牙エナメル質の再石灰化促進効果を有する練歯磨剤」も「グルコース-1-リン酸ナトリウム」以外の成分を含む組成物であるから、本願発明の「歯牙エナメル質再石灰化促進剤」と引用発明の「歯牙エナメル質の再石灰化促進効果を有する練歯磨剤」とは、「歯牙エナメル質再石灰化促進組成物」である点で共通する。 したがって、両者は、 「グルコース-1-リン酸ナトリウムを含む歯牙エナメル質再石灰化促進組成物」 という点で一致するが、以下の点で相違する。 相違点1:「グルコース-1-リン酸ナトリウム」について、本願発明では、「歯牙エナメル質再石灰化促進」の有効成分であるのに対し、引用発明では、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」が「歯牙エナメル質再石灰化促進」作用を有するか否か明らかでない点。 相違点2:「再石灰化促進組成物」について、本願発明は、「再石灰化促進剤」であるのに対し、引用発明では、「練歯磨剤」である点。 (2)判断 (ア)相違点1について 刊行物1の上記摘記事項(1b)に「糖リン酸エステル等によりフッ化カルシウムをコロイド状に分散させ、再石灰化を促進する口腔用組成物(特開平3-72415号公報)等が報告されている」と記載されているように、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」等の「糖リン酸エステル」が、歯の再石灰化を促進する有効成分の1つであったことは本願の出願前から知られていたことといえる。 (「グルコース-1-リン酸ナトリウム」を、フッ化化合物及び水溶性カルシウムと共に用いることによって、フッ素の歯への取り込みを促進し歯牙を強化することについて、刊行物1の上記摘記事項(1a)の記載の他、本願明細書の段落【0006】、上記特開平3-72415号公報の特許請求の範囲、第2頁右上欄第2行?第3頁左上欄第6行、第4頁左上欄第下から第3行?第6頁右下欄第9行、及び、本願明細書の段落【0006】で引用される特開平6-298631号公報の特許請求の範囲、段落【0003】?【0009】、【0016】、【0027】?【0031】を参照。 また、フッ素が歯の再石灰化を促進することについて、本願明細書の段落【0003】の他、特開2002-325557号公報の段落【0014】、特開2002-173419号公報の段落【0001】、特開2001-302477号公報の段落【0012】を参照。) 本願発明の「歯牙エナメル質再石灰化促進剤」は、上記(1)で検討したように、本願明細書の段落【0011】の記載からみて、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」の他にも、「カルシウムイオン供給物質」、「フッ素化合物」等の成分を含む組成物となる態様を含むものであり、また、本願明細書の段落【0020】?【0023】の実施例1の「水性処理液(本発明品)」も、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」の他、「カルシウムイオン供給物質」である「塩化カルシウム」、「フッ素化合物」である「フッ化ナトリウム」を含むものである。 一方、引用発明の「歯牙エナメル質の再石灰化促進効果を有する練歯磨剤」も、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」の他、「カルシウムイオン供給物質」である「塩化カルシウム」、「フッ素化合物」である「モノフルオロリン酸ナトリウム」を含むものである。 そうすると、引用発明における「グルコース-1-リン酸ナトリウム」も、フッ化化合物及び水溶性カルシウムとともに、歯の再石灰化を促進する有効成分の1つであったといえるし、また、本願発明の「歯牙エナメル質再石灰化促進剤」も、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」の他に「カルシウムイオン供給物質」や「フッ素化合物」等の成分を含む態様を包含しているから、本願発明の「歯牙エナメル質再石灰化促進剤」においても、引用発明の「歯牙エナメル質の再石灰化促進効果を有する練歯磨剤」においても、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」が「歯牙エナメル質再石灰化促進」の有効成分の1つであることに相違はないといえる。 (イ)相違点2について 本願発明の「歯牙エナメル質再石灰化促進剤」について、本願明細書の段落【0008】には「本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、グルコース-1-リン酸ナトリウムが、脱灰した歯牙エナメル質の再石灰化を効果的に促進し、う蝕を積極的に抑制することができ、種々の口腔または飲食用製品へ容易に配合できることを見出し、本発明を完成した」と記載されており、本願発明は、「歯牙エナメル質再石灰化促進剤」を「口腔製品」へ適用することも意図しているといえるから、「口腔製品」である「練歯磨剤」等に「グルコース-1-リン酸ナトリウム」を配合することも意図しているといえる。 また、上記(ア)で検討したように、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」が、フッ化化合物及び水溶性カルシウムと共に用いられることによって、「歯牙エナメル質再石灰化促進」作用を有することは、本願の出願前から知られていたことといえる。 そうすると、引用発明の「練歯磨剤」の、各成分のうち、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」とともに、「歯牙エナメル質再石灰化促進」作用を有するフッ化化合物及び水溶性カルシウム等の成分を、「歯牙エナメル質再石灰化促進剤」とすることは当業者が容易に想到し得たことといえる。 (ウ)本願発明の効果について 本願発明の効果について、本願明細書の段落【0009】には、「本発明の再石灰化促進剤は、脱灰した歯牙エナメル質の再石灰化を効果的に促進するとともに、それによってう蝕を積極的に抑制することができる。また、種々の口腔または経口用製品へ容易に配合でき且つ安全性において問題がない」と記載されている。 本願発明の具体的な内容として、本願明細書の段落【0020】?【0030】には、実施例1?6が記載されている。 まず、実施例1(段落【0020】?【0023】)の「歯牙エナメル質再石灰化促進剤」について検討すると、実施例1は、比較品1及び比較品2に比べて、「歯牙エナメル質再石灰化」作用を有すると認められるものの、段落【0022】の「水性処理液組成」をみると、実施例1の「水性処理液」は、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」以外にも、「カルシウムイオン供給物質」である「塩化カルシウム」及び「フッ素化合物」である「フッ化ナトリウム」等の成分を含むものであり、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」、「塩化カルシウム」、「フッ化ナトリウム」を含む実施例1は効果が奏せられると認められるものの、「塩化カルシウム」、「フッ化ナトリウム」を含まず「グルコース-1-リン酸ナトリウム」単独で「歯牙エナメル質再石灰化」作用を有するか否かは明らかではない。 一方、引用発明の「練歯磨剤」も、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」の他、「カルシウムイオン供給物質」である「塩化カルシウム」、「フッ素化合物」である「モノフルオロリン酸ナトリウム」を含むものであるから、引用発明「練歯磨剤」も同様の「歯牙エナメル質再石灰化」作用を有すると認められる。さらに、上記(ア)で検討したように、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」が歯の再石灰化を促進する有効成分の1つであったことは本願の出願前から知られていたことといえる。 そうすると、本願発明の「歯牙エナメル質再石灰化促進剤」が、当業者にとって格別顕著な効果を奏するものであるとは認められない。 次に、実施例2?6には、「ミネラル水」、「清涼飲料水」、「乳飲料」、「チューンガム」、「錠剤」の配合例が記載され、それらの効果については、段落【0030】に「本発明の上記飲食品は、歯牙エナメル質再石灰化効果に関して優れたものであった」と記載されているのみであり、それぞれの配合例について「歯牙エナメル質再石灰化効果」が具体的にどの程度奏されたのか明らかではなく、本願発明が、引用発明に比べて格別顕著な効果を奏するとは評価することができない。 また、歯の再石灰化によりう蝕を抑制することができることも本願の本願の出願前から知られていたことといえるし(この点について、本願明細書の段落【0002】?【0003】の他、特開2002-325557号公報の段落【0014】、特開2002-173419号公報の段落【0001】、特開2001-302477号公報の段落【0012】を参照。)、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」が安全性の高い物質であることも当業者にとって自明なことといえる。 したがって、本願発明の効果は、引用発明及び周知技術から、当業者が予測し得る範囲内のことといえる。 3 請求人の主張 請求人は、平成21年4月16日付け審判請求書に対する平成21年7月9日付け手続補正書において、「本願発明の「歯牙エナメル質再石灰化促進剤」は、口腔または飲食用の組成物に添加して用いられる、所謂「剤」であることは明確であり、引用文献1記載の「口腔用組成物」ではありません」と主張する。 しかしながら、上記2(2)(イ)で検討したように、引用発明の「練歯磨剤」の各成分のうち、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」とともに、「歯牙エナメル質再石灰化促進」作用を有するフッ化化合物及び水溶性カルシウム等の成分を、「歯牙エナメル質再石灰化促進剤」とすることは当業者が容易に想到し得たことといえる。 また、請求人は、同手続補正書において、「引用文献1に記載の口腔用組成物は、フッ化カルシウムコロイドによって歯牙エナメル質の再石灰化促進を図るものであります。・・・引用文献1における再石灰化を促進する有効成分は、あくまでもフッ素イオンとカルシウムイオンにより生成するフッ化カルシウムコロイドであって、グルコース-1-リン酸ナトリウムではありません。引用文献1には、グルコース-1-リン酸ナトリウムに歯牙エナメル質の再石灰化を促進する作用があり、これを「う蝕」予防のために歯牙エナメル質再石灰化促進剤として使用する用途発明を何ら開示又は示唆しているとは云えません」と主張する。 しかしながら、上記2(2)(ア)で検討したように、本願発明の「歯牙エナメル質再石灰化促進剤」も、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」の他に「カルシウムイオン供給物質」、「フッ素化合物」等の成分を含む組成物となる態様を含むものであり、上記2(3)で検討したとおり、本願明細書の実施例をみても、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」が「歯牙エナメル質再石灰化促進剤」の有効成分の1つであるとはいえるものの、「カルシウムイオン供給物質」や「フッ素化合物」を含まずに、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」単独で「歯牙エナメル質再石灰化」作用を有するか否かは明らかではない。 一方、上記2(2)(ア)で検討したように、「グルコース-1-リン酸ナトリウム」が、フッ素の歯への取り込みを促進し、歯の再石灰化を促進する有効成分の1つであったことは本願の出願前から知られていたことといえる。 したがって、請求人のこの主張も採用することはできない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余のことについて検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-02-22 |
結審通知日 | 2012-02-28 |
審決日 | 2012-03-12 |
出願番号 | 特願2004-212742(P2004-212742) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 澤田 浩平 |
特許庁審判長 |
秋月 美紀子 |
特許庁審判官 |
杉江 渉 齊藤 真由美 |
発明の名称 | 歯牙エナメル質再石灰化促進剤 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |
代理人 | 高野 登志雄 |
代理人 | 山本 博人 |
代理人 | 中嶋 俊夫 |
代理人 | 村田 正樹 |
代理人 | 有賀 三幸 |