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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1255953
審判番号 不服2011-2535  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-03 
確定日 2012-04-26 
事件の表示 特願2005-181822「有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法、表示装置及び照明装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 1月11日出願公開、特開2007- 5444〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年(2005年)6月22日の出願(特願2005-181822号)であって、平成22年7月29日付けで拒絶理由が通知され、同年10月7日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年11月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成23年2月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願の請求項1に係る発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年10月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「少なくとも電荷輸送層及びリン光発光性錯体を含有する発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、該電荷輸送層が、棒状分子の分散物を含有する分散液を用いて形成された層であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」

第3 引用例
1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-241153号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審が付した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機エレクトロルミネッセント(以下、有機ELと略すことがある)素子等に用いることが可能な、濃淡を有する有機薄膜の形成や、有機薄膜の塗り分け等を容易に行うことが可能な、機能性素子の製造方法に関するものである。」

「【0051】
3.有機EL層
次に、本発明の有機EL素子の製造方法において形成される、有機EL層について説明する。本発明の有機EL素子の製造方法において形成される有機EL層とは、正孔輸送、発光、電子輸送等の性質を有する層であり、その層構成は、特に限定されるものではなく、1層であってもよく、2層であってもよく、さらに3層であってもよいが、少なくとも1層が上述した機能性素子の製造方法の項で説明した塗布用機器により形成されるものである。ここで、本発明においては、形成される有機EL層は全面に形成されるものであってもよく、また一部に形成されるものであってもよい。本発明においては、上述した塗布用機器を用いることにより、例えば発光の性質を有する層の塗りわけ等を、容易に行うことが可能となる。
【0052】
本発明においては、上述した機能性素子の製造方法で形成される層としては、発光の性質を有する層であることが好ましい。これにより、例えば、絵画やポスター等のような明暗を有する有機EL素子を製造することが可能となるからである。
【0053】以下、このような有機EL層が1層である場合、2層である場合、および3層である場合についてわけて説明する。
【0054】
(1)有機EL層が1層である場合
まず、本発明の有機EL素子の製造方法において形成される有機EL層が1層である場合について説明する。有機EL層が1層である場合には、有機EL層は、上述した機能性素子の製造方法で説明した有機薄膜の形成方法と同様に、上述した塗布用機器を用いて形成される。
【0055】
有機EL層が1層である場合には、有機EL層は、少なくとも発光の性質、正孔輸送の性質ないしは発光を妨げない性質、および電子輸送の性質を有する層であることが必要である。また、本発明において形成される有機EL層には、正孔阻止能の性質を付与してもよい。このような性質を有機EL層に付与するために、各性質を有するそれぞれの材料を複数混合してもよく、また一つの材料で複数の性質を有する材料を用いてもよい。
【0056】
この場合においては、膜厚が50nm?150nmの範囲内となるように有機EL層を形成することが好ましい。膜厚が上記範囲内より厚い場合には、有機EL層の発光が見られない場合があり、また上記範囲より薄い場合には、デバイスが短絡状態となる可能性があるからである。以下、上記の各性質を有する材料について説明する。
【0057】
(発光の性質を有する材料)
まず、本発明の有機EL層に用いられる発光の性質を有する材料について説明する。本発明の有機EL層に用いられる発光の性質を有する材料は、通常有機EL素子の発光層に用いることが可能な材料であれば、特に限定されるものではなく、例えば色素系材料、金属錯体系材料、および高分子系材料を挙げることができる。
【0058】
色素系材料として、具体的にはシクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾ-ル誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー等を挙げることができる。
【0059】
金属錯体系材料として、具体的にはアルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体等、中心金属に、Al、Zn、Be等または、Tb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体等を挙げることができる。
【0060】
高分子系の材料として、具体的にはポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体等、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体、金属錯体系発光材料を高分子化したもの等を挙げることができる。
【0061】
本発明においては、これらの材料を単独で用いてもよく、また組み合わせて用いてもよい。
【0062】
また、本発明においては、燐光を有する有機発光材料も用いることができる。燐光を有する有機発光材料として、具体的には、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Au等のスピン軌道相互作用が大きい重金属を中心金属とする金属錯体等を用いることができる。代表例としては、フェニルピリジンやチエニルピリジンなどを配位子とするイリジウム錯体や白金ポルフィリン誘導体等が挙げられる。
【0063】
また、上記発光の性質を有する材料に、発光効率の向上、発光波長を変化させる等の目的でドーピングを行うことができる。このドーピング材料としては例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィレン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラン系化合物、デカシクレン、フェノキサゾン等を挙げることができる。
【0064】
(正孔輸送の性質を有する材料ないしは発光を妨げない性質)
次に、本発明の有機EL層に用いられる正孔輸送の性質ないしは発光を妨げない性質を有する材料について説明する。
【0065】
まず、本発明の有機EL層に用いられる正孔輸送の性質を有する材料とは、電極から注入された正孔(ホール)を運ぶものであり、本発明においては通常EL素子の製造方法に用いられているものを用いることが可能である。
【0066】
これらの正孔輸送の性質を有する材料としては、オキサジアゾール系、オキサゾール系、トリフェニルメタン系、ヒドラゾリン系、アリールアミン系、ヒドラゾン系、スチルベン系、トリフェニルアミン系等が挙げられ、これらの物質の中でも高分子材料および低分子材料に分けられる。高分子材料として、具体的には、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0067】
また、低分子材料としては、TPDや、PDA、TPAC、m-MTDATA等の芳香族アミン誘導体等が挙げられ、中でもTPDが入手容易であり取扱いが容易である等の面から好ましい。
【0068】
また、上記発光の性質を有する材料が、燐光を有する発光材料である場合には、上記正孔輸送の性質を有する材料の代わりに、燐光の発光を妨げない材料、すなわちホスト材料を用いることが可能である。この燐光の発光を妨げない材料として、具体的には、4,4′-ビス(9-カルバゾール)-ビフェニル(CBP)等が挙げられる。
【0069】
本発明においては、これらの材料を単独で用いてもよく、また二種類以上の材料を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
(電子輸送の性質を有する材料)
次に、本発明の有機EL層に用いられる電子輸送の性質を有する材料について説明する。本発明の有機EL層に用いられる電子輸送の性質を有するとは、陰極から電子を受け取って、発光材料まで輸送する性質である。本発明において用いられる材料としては、通常有機EL素子に用いられる電子輸送の性質を有する材料を用いることができ、例えば、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、アルミニウム錯体等が挙げられる。具体的には、2,5-ビスs(1-ナフチル)-1,3,4-オキサジアゾール(BND)および2,5-ビス(6′-(2′,2′′-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等が挙げられる。
【0071】
本発明においては、これらの材料を単独で用いてもよく、また組み合わせて用いてもよい。
【0072】
(正孔阻止の性質を有する材料)
次に、本発明の有機EL層に用いられる正孔阻止の性質を有する材料について説明する。本発明の有機EL層には、上記発光の性質を有する材料、正孔輸送の性質を有する材料、電子輸送の性質を有する材料の他に、正孔阻止の性質を有する材料を含有していてもよい。有機EL層に用いられる正孔阻止の性質とは、正孔が陰極に流れてしまうことを抑制する性質である。本発明においてこの正孔阻止の性質を有する材料としては、通常有機EL素子に用いられる電子輸送の性質を有する材料を用いることができ、例えばバソフェナントロリン(BPhen)や、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2-(4-ビフェニリル)-5-(p-ター-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(tBu-PBD)等が挙げられる。
【0073】
(正孔輸送、電子輸送、および発光の性質を有する材料)
本発明の有機EL層は、上述した正孔輸送、電子輸送、および発光のそれぞれの性質を有する各材料を混合して用いてもよいが、本発明においては、正孔輸送、電子輸送、および発光の全ての性質を有する材料を用いてもよい。これらの正孔輸送、電子輸送、および発光の性質を有する材料として、例えば、ポリ(パラ-フェニレンビニレン)(PPV)系、ポリ(2-メソキシ、5-(2′-エチル-ヘキリキシ)-1,4-(フェニレン-ビニレン))(MEH-PPV)系、ポリフルオレン系などの共役高分子等が挙げられる。また、デンドリマー系材料も利用することが可能である。
【0074】
(溶媒)
本発明においては、上述した第1電極層が形成された基材上に、上述した少なくとも発光の性質、正孔輸送の性質、および電子輸送の性質を有する材料を溶媒に溶解または分散させて、塗布液として塗布し、有機EL層を形成する。このような塗布液に用いられる溶媒としては、上述した材料を溶解もしくは分散し、かつ所定の粘度とすることが可能な溶媒であれば、特に限定されるものではない。
【0075】
具体的には、炭化水素系、ハロゲン炭化水素系、アルコール系、ケトン、アルデヒド、酢酸ブチル、ドデシルベンゼン、ジクロロエタン、ジクロロメタン、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン等を挙げることができる。
【0076】
また、本発明においては、上記の溶媒全量に対して15%以下のイソプロピルアルコールを添加することが好ましい。
【0077】
さらに、上述したように、上記塗布液の粘度は、10^(-4)Pa・s?10Pa・sの範囲内であることが好ましい。これにより、上記塗布用機器により、容易に塗布することが可能となるからである。
【0078】
(2)有機EL層が2層である場合
次に、本発明の有機EL素子の製造方法において、形成される有機EL層が2層である場合について説明する。本発明においては、有機EL層が2層である場合には、少なくともどちらか1層が上述した機能性素子の製造方法の項で説明した塗布用機器を用いて形成されるものである。また、どちらか1層が上述した塗布用機器を用いて形成されない場合には、その層の形成は、従来より有機EL層の形成に用いられている方法により行うことが可能であり、例えばスピンコート法や蒸着法、インクジェット法等が挙げられる。
【0079】
有機EL層が2層である場合には、正孔輸送の性質を有する正孔輸送層と、発光の性質および電子輸送の性質を有する電子輸送性発光層とからなる場合(第1の態様とする)と、正孔輸送の性質ないしは発光を妨げない性質および発光の性質を有する正孔輸送性発光層と、電子輸送の性質ないしは正孔阻止の性質を有する電子輸送層とからなる場合(第2の態様とする)が挙げられる。以下、それぞれの場合について説明する。
【0080】
(第1の態様の場合)
まず、有機EL層が、正孔輸送の性質を有する正孔輸送層と、発光の性質および電子輸送の性質を有する電子輸送性発光層とからなる場合について、各層ごとに説明する。
【0081】
a.正孔輸送層
まず、本態様に用いられる正孔輸送層について説明する。本態様に用いられる正孔輸送層とは、正孔を後述する電子輸送性発光層まで輸送する性質を有する層である。本態様における正孔輸送層に用いられる材料は、上述した有機EL層が1層である場合における、正孔輸送の性質を有する材料を用いることが可能であるので、ここでの説明は省略する。また、本態様においては、後述する電子輸送性発光層が、この正孔輸送層上に形成されることから、上述した正孔輸送の性質を有する材料の中でも電子輸送性発光層に用いられる溶媒に溶解しない材料であることが好ましい。
【0082】
このような正孔輸送層の形成は、上述した有機EL層が1層である場合において説明した溶媒に溶解させて、上述した第1電極層が形成された基板上に塗布等することにより、行うことができる。
【0083】
b.電子輸送性発光層
次に、本態様に用いられる電子輸送性発光層について説明する。本態様に用いられる電子輸送性発光層とは、電子輸送の性質および発光の性質を有する層である。本態様における電子輸送性発光層に用いられる材料は、上述した有機EL層が1層である場合における電子輸送の性質を有する材料および発光の性質を有する材料を混合して用いることが可能であり、その材料についての説明はここでは省略する。また、本態様においては、電子輸送の性質および発光の性質の2つの性質を有する材料を用いることも可能である。具体的には、Alキノリン錯体等が挙げられる。
【0084】
このような本態様に用いられる電子輸送性発光層の形成は、上述した有機EL層が1層である場合において説明した溶媒に溶解させて、上述した正孔輸送層上に塗布等することにより、行うことができる。」

「【0092】
(3)有機EL層が3層である場合
次に、本発明の有機EL素子の製造方法において形成される有機EL層が3層である場合について説明する。本発明においては、有機EL層が3層である場合には、少なくとも1層が上述した機能性素子の製造方法の項で説明した塗布用機器を用いて形成されるものである。また、上述した塗布用機器を用いて形成される層以外の層の形成は、従来より有機EL層の形成に用いられている方法により行うことが可能であり、例えばスピンコート法や蒸着法、インクジェット法等が挙げられる。
【0093】
有機EL層が3層である場合には、正孔を輸送する性質を有する正孔輸送層、発光の性質を有する発光層、および電子輸送の性質を有する電子輸送層ないしは正孔阻止の性質を有する正孔阻止層とから形成される。以下、それぞれの場合について説明する。
【0094】
(正孔輸送層)
まず、本態様に用いられる正孔輸送層について説明する。本態様に用いられる正孔輸送層は、正孔を後述する発光層まで輸送する性質を有する層である。本態様における正孔輸送層に用いられる材料は、上述した有機EL層が1層である場合における、正孔輸送の性質を有する材料を用いることが可能であるので、ここでの説明は省略する。また、本態様においては、後述する発光層が、この正孔輸送層上に形成されることから、上述した正孔輸送の性質を有する材料の中でも発光層に用いられる溶媒に溶解しない材料であることが好ましい。このような正孔輸送層の形成は、上述した有機EL層が1層である場合において説明した溶媒に溶解させて、上述した第1電極層が形成された基板上に塗布等することにより、行うことができる。
【0095】
(発光層)
次に、本態様に用いられる発光層について説明する。本態様に用いられる発光層は、発光の性質を有する層である。また、本態様における発光層には、発光を妨げない性質を有する材料を含有していてもよい。本態様における発光層に用いられる材料は、上述した有機EL層が1層である場合における、発光の性質を有する材料および発光を妨げない性質を有する材料を用いることが可能であるので、ここでの説明は省略する。また、本態様においては、後述する電子輸送層が、この発光層上に形成されることから、上述した材料の中でも電子輸送層に用いられる溶媒に溶解しない材料であることが好ましい。
【0096】
この発光層の形成は、上述した有機EL層が1層である場合において説明した溶媒に溶解させて、上述した正孔輸送層に塗布等することにより、行うことができる。
【0097】
(電子輸送層ないしは正孔阻止層)
次に、本態様に用いられる電子輸送層ないしは正孔阻止層について説明する。本態様に用いられる電子輸送層ないしは正孔阻止層とは、上述した発光層に電子を輸送する層、ないしは正孔が陰極に流れてしまうことを抑制する層である。本態様における電子輸送層ないしは正孔阻止層に用いられる材料は、上述した有機EL層が1層である場合における、電子輸送の性質を有する材料および正孔阻止の性質を有する材料を用いることが可能であるので、ここでの説明は省略する。
【0098】
このような電子輸送層ないしは正孔阻止層の形成は、上述した有機EL層が1層である場合において説明した溶媒に溶解させて、上述した発光層上に塗布等することにより、行うことができる。
【0099】
(4)その他
また、本発明により製造される有機EL素子において、白色発光を有する有機EL素子とする場合には、有機EL層を、正孔輸送性を有する材料として、ポリビニルカルバゾール、電子輸送性を有する材料として、2,5-ビス(1-ナフチル)-1,3,4-オキサジアゾール(BND)と、発光の性質を有する材料として、青色発光剤であるペリレンと、赤色発光剤である4-ジシアノメチレン-6-シーピージュロリジノスチリル-2-ター-ブチル-4H-ピラン(DCJTB)とを、混合することにより得ることが可能である。また、緑色発光剤であるクマリン6を添加してもよい。
【0100】
本発明における有機EL層では、中でもペリレンとDCJTBとの重量配合比を、96:4とすることが好ましい。」

2 引用例1に記載された発明の認定
上記の【0080】?【0083】及び【0092】?【0095】においては、有機EL層が2層である場合も3層である場合も「正孔輸送層」及び「発光層」を含むから、引用例1の上記に記載されたものは、「少なくとも」「正孔輸送層」と「発光層」を含むものであるといえる。よって、上記記載を総合すれば、引用例1には、
「少なくとも正孔輸送の性質を有する正孔輸送層と、燐光を有する有機発光材料である、重金属を中心金属とする金属錯体を用いる発光層を有する有機EL素子において、上記正孔輸送層が、TPDを溶媒に溶解または分散させて、塗布液として塗布して形成した層である有機EL素子。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

第4 本願発明と引用発明の対比、及び、当審の判断
1 ここで、本願発明と引用発明を対比する。

引用発明の「正孔輸送の性質を有する正孔輸送層」、「燐光を有する有機発光材料である、重金属を中心金属とする金属錯体」、「燐光を有する有機発光材料である、重金属を中心金属とする金属錯体を用いる発光層」及び「有機EL素子」が、それぞれ、本願発明の「電荷輸送層」、「リン光発光性錯体」、「リン光発光性錯体を含有する発光層」及び「有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当するから、引用発明の「少なくとも正孔輸送の性質を有する正孔輸送層と、燐光を有する有機発光材料である、重金属を中心金属とする金属錯体を用いる発光層を有する有機EL素子」が、本願発明の「少なくとも電荷輸送層及びリン光発光性錯体を含有する発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当する。

本願明細書の発明の詳細な説明において、「本発明に好ましく用いられる棒状分子の例」として、【0040】の【化1】において



として示されており、上記1-2は、TPDを示す化学式であるから、引用発明の「TPD」が、本願発明の「棒状分子」に相当するものであることは明らかである。
よって、引用発明の「上記正孔輸送層が、TPDを溶媒に溶解または分散させて、塗布液として塗布して形成した層である」ことと、本願発明の「該電荷輸送層が、棒状分子の分散物を含有する分散液を用いて形成された層である」こととは、「該電荷輸送層が、棒状分子を含有する液を用いて形成された層である」点で一致する。

2 一致点
したがって、本願発明と引用発明とは、
「少なくとも電荷輸送層及びリン光発光性錯体を含有する発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、該電荷輸送層が、棒状分子を含有する液を用いて形成された層である有機エレクトロルミネッセンス素子。」の発明である点で一致し、次の点で相違する。

3 相違点
電荷輸送層を形成する液について、棒状分子の含有の形態に関し、本願発明においては、「分散物を含有する分散液」を用いるものであるのに対し、引用発明においては、「溶媒に溶解または分散させて、塗布液」とするものであり、「溶解」するのか「分散」させるのかは不明である点。

4 当審の判断
(1)相違点の検討
引用例1には、正孔輸送材料として「TPD」を液に含有させる場合、「分散」させるのか「溶解」させるのかについては記載されていないのであるが、「分散」させるか「溶解」させるかのいずれかであるのだから、引用発明において、「分散」させることを当業者が試みること、すなわち、正孔(電荷)輸送層を形成する液として、棒状分子であるTPDが分散する液(溶解しない液)を選択してみることに格別の困難性はない。
よって、電荷輸送層を形成する液の棒状分子の含有の形態として「分散」する形態を選択することは、引用例1の記載を基に当業者が容易になし得たことである。

(2)作用効果について
そして、本願発明において「電荷輸送層が、棒状分子の分散物を含有する分散液を用いて形成された層である」としたことによる作用効果について、本願明細書には、「通常の溶液塗布法では、すでに塗布済みの下層の上に上層を塗布する場合、上層成分を溶解するために用いる溶剤(一般的には溶解性の高い溶媒が使用される)に下層成分が溶解し、上層と下層が混合してしまう。しかしながら、上層塗布に分散液を使う場合には、溶解性の低い溶媒を選択することが可能であり、上層塗布時に下層成分が分散液を構成する溶媒に溶解することが少なく、下層成分と上層成分の混合比率を抑えることが可能であると考えられる。上層成分と下層成分が混合すると、素子寿命が劣化するケースがあるが、分散塗布方法により劣化を改善することが可能であると予想される。」(【0034】)と記載され、また、審判請求書においても、上記と同趣旨の主張がなされている。すなわち、本願発明において棒状分子の含有の形態を「分散」としたことによる作用効果は、下層の物質を溶解することを防ぐことができることにあるといえる。
この点に関して、引用例1には、【0081】段落に「本態様においては、後述する電子輸送性発光層が、この正孔輸送層上に形成されることから、上述した正孔輸送の性質を有する材料の中でも電子輸送性発光層に用いられる溶媒に溶解しない材料であることが好ましい。」と記載されており(なお、同趣旨の内容が【0087】【0094】【0095】の各段落にも記載されている。)、引用例の上記記載から、上層を塗布する液としては、塗布の際に下層の物質の溶解性を低くするために、物質の溶解性の低い液を使用することが好ましいと示唆されているといえる。そして、上層を塗布する液が塗布の際に下層の物質を溶解してしまう場合に比べて、下層の物質を溶解しない材料とした場合には、有機EL素子の性質が向上することは明らかである。
よって、上記の本願発明の作用効果は、引用例1の記載から予測し得る事項に過ぎない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 結言
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-22 
結審通知日 2012-02-28 
審決日 2012-03-13 
出願番号 特願2005-181822(P2005-181822)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱野 隆  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 森林 克郎
吉川 陽吾
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法、表示装置及び照明装置  
代理人 特許業務法人光陽国際特許事務所  

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