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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60K
管理番号 1255962
審判番号 不服2011-5143  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-07 
確定日 2012-04-26 
事件の表示 特願2008-210009「クルーズコントロール制御の設定車速変更装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 1月 8日出願公開、特開2009- 1276〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
本件出願は、平成18年11月14日に出願した特願2006-308361号の一部を平成20年8月18日に新たな出願としたものであって、平成22年4月16日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成22年6月21日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年12月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成23年3月7日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで特許請求の範囲について手続補正がなされ、その後、当審において平成23年11月7日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成23年12月2日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成23年3月7日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成23年3月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]

[1]補正の内容

平成23年3月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成22年6月21日付けの手続補正により補正された)下記の(a)に示す請求項1ないし3を下記の(b)に示す請求項1ないし3と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲

「【請求項1】
ドライバーの操作に基づいてクルーズコントロール制御の設定車速を変更する設定車速変更装置であって、
前記車両の速度に応じて、前記設定車速の変更速度を変更する設定車速変更速度変更手段と、
前記設定車速変更速度変更手段で設定された変更速度で、前記設定車速を変更する設定車速変更手段と、を備え、
前記設定車速変更速度変更手段は、前記車両の速度が所定の閾値よりも大きい場合に前記変更速度を増加させることを特徴とするクルーズコントロール制御の設定車速変更装置。
【請求項2】
前記車両の速度と前記所定の閾値との差分を算出し、その速度差分が大きいほど前記変更速度を大きくすることを特徴とする請求項1に記載のクルーズコントロール制御の設定車速変更装置。
【請求項3】
1回の速度の変更量の変更及び変更の時間間隔の変更のいずれか一方、若しくは双方により前記変更速度を変更することを特徴とする請求項1または2に記載のクルーズコントロール制御の設定車速変更装置。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲

「【請求項1】
ドライバーの操作に基づいてクルーズコントロール制御の設定車速を変更する設定車速変更装置であって、
自車の走行環境に基づいて定められた前記車両の速度に応じて、前記設定車速の変更速度を変更する設定車速変更速度変更手段と、
前記設定車速変更速度変更手段で設定された変更速度で、前記設定車速を変更する設定車速変更手段と、を備え、
前記設定車速変更速度変更手段は、前記車両の速度が所定の閾値よりも大きい場合に前記変更速度を増加させることを特徴とするクルーズコントロール制御の設定車速変更装置。
【請求項2】
前記車両の速度と前記所定の閾値との差分を算出し、その速度差分が大きいほど前記変更速度を大きくすることを特徴とする請求項1に記載のクルーズコントロール制御の設定車速変更装置。
【請求項3】
1回の速度の変更量の変更及び変更の時間間隔の変更のいずれか一方、若しくは双方により前記変更速度を変更することを特徴とする請求項1または2に記載のクルーズコントロール制御の設定車速変更装置。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

[2]本件補正の目的

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の「前記車両の速度に応じて、前記設定車速の変更速度を変更する設定車速変更速度変更手段と、」の記載を、「自車の走行環境に基づいて定められた前記車両の速度に応じて、前記設定車速の変更速度を変更する設定車速変更速度変更手段と、」とするものである。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の「自車の走行環境に基づいて定められ」る対象について検討すると、明細書の段落【0006】には、「この設定車速変更装置では、前記車両の速度に応じて、設定車速の変更速度を変更することができるため、走行環境に適した速度設定が可能になる。」と、段落【0029】には、「以上詳述したように、本参考形態では、自車の走行環境として道路種別、より詳細には、追い越し車線を走行しているか、走行車線を走行しているかに応じて、設定車速変更速度を変更し、その設定された変更速度で設定車速を変更することができる。・・・・・後略・・・・・」と、段落【0100】には、「 以上詳述したように、本実施形態では、自車の走行環境として自車両の車速に応じて、設定車速変更速度を変更し、その設定された変更速度で設定車速を変更することができる。・・・・後略・・・・・」と記載されている(なお、審判請求書の【請求の理由】(3)(b)補正の根拠の明示においても、同様の段落の摘記がなされている。)ことからみて、「設定車速の変更速度」であると解せる。
そうすると、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「設定車速の変更速度」について、「自車の走行環境に基づいて定められた」ものであることを限定するものであるといえる。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項に限定を付加したものといえるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断

1.刊行物

(1)刊行物の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の出願日前に頒布された刊行物である特開平8-67171号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「【請求項2】 車両の現実の走行速度を検出する速度検出手段と、目標速度を記憶する記憶手段と、前記速度検出手段にて検出した現実の走行速度を前記目標速度に一致させるように速度調節手段を制御する制御手段とを備えた車両用定速走行制御装置において、
増速指示信号を発生する信号発生手段と、
この信号発生手段から増速指示信号が発生すると、前記現実の走行速度に所定の増速値を加算して前記目標速度を変更する目標速度変更手段と、
前記所定の増速値を、その時の走行状態により高速域より低速域において小さな値になるように設定する増速値設定手段とを備えたことを特徴とする車両用定速走行制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項2】)

b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車両の現実の走行速度を目標速度に一致させるように速度調節手段を制御する車両用定速走行制御装置に係り、特に増速指示の発生に従って応答性よく増速を行うようにした車両用定速走行制御装置に関する。」(段落【0001】)

c)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】この従来技術によれば、増速指示後の応答性を向上させ、安定した増速感を運転者にもたらすという効果があるが、制御開始直後に増加する値を一定としているため、排気量の大きい車両においては、高速域で操作フィーリングのよい値に設定すると低速域では過度にアクセルをふかした感じとなり、特にタップアップ時には、フィーリングの悪いものになってしまうという問題がある。
【0004】本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、増速指示がなされた時の増速制御度合いを、高速域より低速域で小さくし、高速域と低速域でのフィーリングを共に良好にすることを目的とする。」(段落【0003】及び【0004】)

d)「【0007】請求項2に記載の発明においては、車両の現実の走行速度を検出する速度検出手段(1とコントローラ2の車速演算処理)と、目標速度を記憶する記憶手段(コントローラ2内のRAM)と、前記速度検出手段にて検出した現実の走行速度を前記目標速度に一致させるように速度調節手段(6)を制御する制御手段(19)とを備えた車両用定速走行制御装置において、増速指示信号を発生する信号発生手段(4)と、この信号発生手段から増速指示信号が発生すると、前記現実の走行速度に所定の増速値を加算して前記目標速度を変更する目標速度変更手段(14)と、前記所定の増速値を、その時の走行状態により高速域より低速域において小さな値になるように設定する増速値設定手段(13)とを備えたことを特徴としている。」(段落【0007】)

e)「【0010】なお、上記増速度合設定手段あるいは増速値設定手段における、その時の走行状態とは、現実の走行速度あるいは目標速度等の、車両が走行している速度を表すものを意味する。また、上記各手段のカッコ内の符号等は、後述する実施例記載の具体的手段との対応関係を示すものである。」(段落【0010】)

f)「【0011】
【発明の作用効果】請求項1乃至3に記載の発明においては、速度検出手段にて検出した現実の走行速度を記憶手段に記憶した目標速度に一致させるように速度調節手段を制御する。また、信号発生手段から増速指示信号が発生すると、速度調節手段を増速制御する。ここで、その増速制御の度合いを、その時の走行状態により高速域より低速域において小さくなるように設定している。
【0012】従って、増速度合いを高速域に比べ低速域で小さく設定するようにしているため、高速域、低速域ともその増速開始時の操作フィーリングを向上させることができる。すなわち、従来のように増速値を一定とした場合には、低速域において増速値が大きくなりすぎ、過度にアクセルをふかした感じとなってしまうという問題が生じるのに対し、上記のように増速度合いをその時の走行状態に応じて可変とすることにより高速域、低速域とも操作フィーリングを向上させることができる。」(段落【0011】及び【0012】)

g)「【0014】
【実施例】以下、本発明を図に示す実施例について説明する。
(第1実施例)図1は本発明の一実施例を示す全体構成図である。この図1において、車速センサ1は車両の走行速度に応じた車速パルスを発生する。コントローラ2は、この車速センサ1からの車速パルスを入力して車両の現実の走行速度を演算し、定速走行時には、その現実の走行速度を目標速度に一致させるように定速走行制御を行うもので、目標速度などのデータを記憶する記憶手段としてのRAM、制御プログラム等を記憶するROM、各種制御を実行するCPU等により構成されている。
【0015】このコントローラ2には、セット・コーストスイッチ3、リジューム・アクセルスイッチ4、キャンセルスイッチ5からの信号が入力される。このセット・コーストスイッチ3は定速走行を行う時又は車速を減少させる時に操作されるものであり、キャンセルスイッチ5は定速走行を解除するときに操作されるものである。また、リジューム・アクセルスイッチ4は、車速を増加させる時に操作されるもので、増速指示信号を発生する信号発生手段を構成している。
【0016】コントローラ2からは、車両の現実の走行速度を目標速度に一致させるための制御信号が、速度調節手段を構成するアクチュエータ6に出力される。アクチュエータ6としては、バキューム式あるいはモータ式のものを用いることができ、コントローラ2からの制御信号に基づきスロットル弁7の弁開度を調節する。このスロットル弁7の弁開度の調節により車両の現実の走行速度が増減され、目標速度に一致するようになる。」(段落【0014】ないし【0016】)

h)「【0017】次に、上記構成においてその作動を説明する。車両の運転開始時にイグニッションスイッチが投入されると、車載バッテリからの電源が図1に示す各部電気系に供給され、ぞれぞれが作動状態になる。そして、コントローラ2は、制御プログラムに従った演算処理を実行する。まず、図2に示すステップ10でイニシャライズ処理を行い、定速走行における目標速度の値を0に設定するとともに、車速センサ1からの車速パルスに基づく割り込み演算処理を許可する。従って、これ以降、図示しない車速割り込み演算処理によって車速が求められる。この車速センサ1および車速パルスに基づく車速演算処理が特許請求の範囲でいう車速検出手段に相当する。
【0018】次のステップ11において、定速走行制御が行われているかどうかを判別する。この判別は図示しないタイマ割り込みプログラムにより、周期的にチェックされるスイッチ3?5の操作状態によりセット、リセットされるフラグを用いて行われる。このステップ11にてセット・コーストスイッチ3が操作されていなくそれに対するフラグがセットされていない場合は、ステップ20にて非制御状態処理を行う。具体的には、アクチュエータ6によるスロットル弁7の作用を行わないようにする。
【0019】また、ステップ11にてセット・コーストスイッチ3の操作によるフラグがセットされている場合には、ステップ100による増速制御処理、ステップ19による制御状態処理を行う。このステップ19による制御状態処理においては、セット・コーストスイッチ3が操作された時の車両の走行速度を目標速度としてRAMに記憶し、この記憶された目標速度に現実の走行速度が一致するよう、具体的には目標速度と現実の走行速度との偏差に応じその偏差をなくすように、制御信号をアクチュエータ6に出力する。従って、アクチュエータ6によるスロットル弁7の弁開度調節にて定速走行が行われる。なお、このステップ19による制御状態処理が特許請求の範囲でいう制御手段に相当する。」(段落【0017】ないし【0019】)

i)「【0020】また、上記ステップ100による増速制御処理においては、リジューム・アクセルスイッチ4の操作により種々の増速制御が行われる。具体的には、リジューム・アクセルスイッチ4を投入し続けることによりその投入時間に比例して目標速度の値を増加させるアクセル制御、リジューム・アクセルスイッチ4の短時間の投入操作により目標速度の値を所定の速度に相当する値分だけ増加させるタップアップ制御、定速走行を解除した後のリジューム・アクセルスイッチ4の操作にて先の定速走行時に記憶しておいた目標速度まで現実の走行速度を復帰させるリジューム制御等がある。図2には、その一例として上記アクセル制御の演算処理が示されている。
【0021】まず、ステップ12において、リジューム・アクセルスイッチ4が操作されると、ステップ13に進み、現実の走行速度(実車速)に基づき、図3の実線で示すパターンにより増速値Vx (km/h)を設定する。この図3に示すパターンは、低速域では一定の低い値であり、高速域では一定の高い値であり、中速域では実車速に比例して図のように変化する値としている。この増速値Vx (km/h)が設定されると、ステップ14に進み、現実の走行速度に設定された増速値Vx (km/h)を加算した値を目標速度としてRAMに記憶する。
【0022】リジューム・アクセルスイッチ4が操作され続けると、ステップ12から15を経てステップ16に進み、目標速度を時間経過に従って漸次増加させるためにRAMに記憶されている目標速度に微小の一定の値α(km/h)を加算し目標速度の更新を行う。この処理はリジューム・アクセルスイッチ4が操作されている間行われるため、目標速度に一定の値α(km/h)が加算し続けられ、目標速度の加算更新に従って車両は加速していく。
【0023】なお、リジューム・アクセルスイッチ4の操作が終了した場合には、ステップ17から18への処理によりその時の現実の走行速度が目標速度として記憶される。本実施例においては、上記ステップ13の処理により、増速値Vx (km/h)を高速域に比べ低速域で小さく設定するようにしているため、高速域、低速域ともその増速開始時の操作フィーリングを向上させることができる。すなわち、従来のように増速値を一定とした場合、例えば図3の高速域に相当する値に設定した場合には、低速域において増速値が大きくなりすぎ、過度にアクセルをふかした感じとなってしまうという問題が生じるのに対し、上記のように増速値を現実の速度に応じて可変とすることにより高速域、低速域とも操作フィーリングを向上させることができる。」(段落【0020】ないし【0023】)

j)「【0024】また、ステップ14の処理により目標速度を大きく更新した後、ステップ12から16に到る処理が繰り返し行われ、目標速度が微小の一定値にて漸次加算更新されていく。従って、リジューム・アクセルスイッチ4の操作に応じた応答性のよい加速を行うことができる。なお、上記のように増速値Vx (km/h)を加算して増速を行う制御は、上記アクセル制御以外に、他のタップアップ制御、リジューム制御においても同様に行われる。
【0025】図4にタップアップ制御に適用した場合の実車速の変化状態を示す。タップアップ操作時に、その時の現実の速度に応じて増速値Vx (km/h)が設定され、この増速値Vx (km/h)を基に目標速度が変更されていくため、特に増速時間が短いタップアップ操作においては、その時の車速に応じた応答性のよい加速フィーリングを得ることができる。」(段落【0024】及び【0025】)

k)「【0026】なお、増速値Vx (km/h)の設定パターンは図2(審決注:「図2」は、「図3」の誤記と認める。)に示すものに限らず、他のパターン、例えば曲線状のもの、中速域の増速値を低速域、高速域の増速値の中間の値に固定したもの、あるいは低速域と高速域に2分化して2つの増速値で切換設定するようにしたものとすることができる。また、増速値Vx (km/h)は、図2(審決注:「図2」は、「図3」の誤記と認める。)のような特性を有するマップから求めてもよいし、所定の計算式に基づいて求めるようにしてもよい。・・・・・後略・・・・・」(段落【0026】)

(2)上記(1)a)ないしk)及び図面の記載より分かること

イ)上記(1)i)の記載によれば、リジューム・アクセルスイッチ4の操作により種々の増速制御が行われ、例えば、目標速度の値を増加させるのであり、このリジューム・アクセルスイッチ4の操作は、ドライバーによって実施されることが明らかであるから、上記(1)b)の記載と合わせてみると、車両の現実の走行速度を目標速度に一致させるように速度調節手段を制御する車両用定速走行制御装置は、ドライバーの操作に基づいて車両用定速走行制御の目標速度を変更する目標速度変更装置を含むものであることが分かる。

ロ)上記(1)d)、e)及びi)の記載によれば、増速値設定手段(13)は、現実の走行速度に応じて、目標速度の増速値(Vx)を変更することが分かる。

ハ)上記(1)i)及び図3の記載によれば、現実の走行速度(実車速)に基づき、図3の実線で示すパターンにより、低速域では一定の低い値であり、高速域では一定の高い値であり、中速域では実車速に比例して図のように変化する値とした増速値Vx (km/h)を設定すること、また、上記(1)k)及び図3の記載によれば、増速値Vx (km/h)の設定パターンは、図3に示すものに限らず、低速域と高速域に2分化して2つの増速値で切換設定するようにしたものとすることができることから、これらを総合すると、増速値Vx (km/h)の設定パターンとして、低速域と高速域に2分化して2つの増速値で切換設定する場合においては、低速域での低い増速値Vx (km/h)と高速域での高い増速値Vx (km/h)に2分化する境界となる設定速度が、増速値Vx (km/h)を切換える所定の閾値として機能するものといえるので、低速域と高速域に2分化する設定速度は、所定の閾値を意味するものといえる。

ニ)上記ロ)及びハ)によれば、増速値設定手段(13)は、現実の走行速度が所定の閾値よりも大きい場合に増速値(Vx)を増加させるものであるといえる。

(3)刊行物に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物には次の発明(以下、「刊行物に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物に記載された発明>

「ドライバーの操作に基づいて車両の現実の走行速度を目標速度に一致させるように速度調節手段を制御する車両用定速走行制御の目標速度を変更する目標速度変更装置であって、
現実の走行速度に応じて、目標速度の増速値(Vx)を変更する増速値設定手段(13)と、
増速値設定手段(13)で設定された増速値(Vx)で、目標速度を変更する目標速度変更手段(14)と、を備え、
増速値設定手段(13)は、現実の走行速度が所定の閾値よりも大きい場合に増速値(Vx)を増加させる車両の現実の走行速度を目標速度に一致させるように速度調節手段を制御する車両用定速走行制御の目標速度変更装置。」

2.対比・判断

本件補正発明と刊行物に記載された発明とを対比すると、その機能及び技術的意義からみて、刊行物に記載された発明における「車両の現実の走行速度を目標速度に一致させるように速度調節手段を制御する車両用定速走行制御」、「目標速度」、「現実の走行速度」、「増速値(Vx)」、「増速値設定手段(13)」及び「目標速度変更手段(14)」は、それぞれ、本件補正発明における「クルーズコントロール制御」、「設定車速」、「車両の速度」、「変更速度」、「設定車速変更速度変更手段」及び「設定車速変更手段」に相当する。

してみると、本件補正発明と刊行物に記載された発明とは、
「ドライバーの操作に基づいてクルーズコントロール制御の設定車速を変更する設定車速変更装置であって、
車両の速度に応じて、設定車速の変更速度を変更する設定車速変更速度変更手段と、
設定車速変更速度変更手段で設定された変更速度で、設定車速を変更する設定車速変更手段と、を備え、
設定車速変更速度変更手段は、車両の速度が所定の閾値よりも大きい場合に変更速度を増加させるクルーズコントロール制御の設定車速変更装置。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>

「設定車速変更速度変更手段」の「設定車速の変更速度」に関し、
本件補正発明においては、「自車の走行環境に基づいて定められ」ているのに対し、
刊行物に記載された発明においては、「自車の走行環境に基づいて定められ」ているか否か不明である点(以下、「相違点」という。)。

上記相違点について検討する。

まず、本件補正発明において、「自車の走行環境」の意味するところについて検討すると、明細書の段落【0006】には、「この設定車速変更装置では、前記車両の速度に応じて、設定車速の変更速度を変更することができるため、走行環境に適した速度設定が可能になる。」と、段落【0029】には、「以上詳述したように、本参考形態では、自車の走行環境として道路種別、より詳細には、追い越し車線を走行しているか、走行車線を走行しているかに応じて、設定車速変更速度を変更し、その設定された変更速度で設定車速を変更することができる。・・・・・後略・・・・・」と、段落【0100】には、「 以上詳述したように、本実施形態では、自車の走行環境として自車両の車速に応じて、設定車速変更速度を変更し、その設定された変更速度で設定車速を変更することができる。・・・・後略・・・・・」と記載されている(なお、審判請求書の【請求の理由】(3)(b)補正の根拠の明示においても、同様の段落の摘記がなされている。)ことからみて、「自車の走行環境」としては、「自車両の車速」や「道路種別(追い越し車線か、走行車線か)」を意味するものと解釈できる。
そうすると、本件補正発明における「自車の走行環境に基づいて定められた」「設定車速の変更速度」とは、「自車両の車速」に基づいて定められた「設定車速の変更速度」を包含することが明らかである。
一方、刊行物に記載された発明における「目標車速の増速値(Vx)」(本件補正発明における「設定車速の変更速度」に相当する。)は、上記1.ロ)ないしニ)で説明したように、低速域での低い増速値Vx (km/h)と高速域での高い増速値Vx (km/h)の2つの増速値で切換えられるように設定されているものであり、低速域と高速域に2分化する境界となる設定速度を有するものである。
そうすると、刊行物に記載された発明においても、低速域と高速域という2つの「走行環境」において、増速値Vx (km/h)が設定されていることなる。
ここで、低い増速値Vx (km/h)と高い増速値Vx (km/h)とをどの程度の値に設定するか、低速域と高速域に2分化する境界となる設定速度をどのように設定するか(例えば、60 (km/h)とするか、100 (km/h)とするか等。)は、当業者が必要に応じて適宜設定しうるものである。
してみると、刊行物に記載された発明において、「目標車速の増速値(Vx)」を自車の走行環境に基づいて定めることとして、上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本件補正発明は、全体としてみても、刊行物に記載された発明から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3 本件発明について

1.本件発明

平成23年3月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明は、平成22年6月21日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2[理由][1](a)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。

2.刊行物

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物(特開平8-67171号公報)には、上記第2[理由][3]1.(1)ないし(3)のとおりのものが記載されている。

3.対比・判断

本件発明は、上記第2[理由][2]で検討した本件補正発明から、「自車の走行環境に基づいて定められた」という発明特定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2[理由][3]に記載したとおり、刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本件発明を全体としてみても、刊行物に記載された発明から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-20 
結審通知日 2012-02-21 
審決日 2012-03-13 
出願番号 特願2008-210009(P2008-210009)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60K)
P 1 8・ 121- Z (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大山 健倉橋 紀夫小原 一郎  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 安井 寿儀
中川 隆司
発明の名称 クルーズコントロール制御の設定車速変更装置  
代理人 鈴木 光  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 黒木 義樹  

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