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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1256179
審判番号 不服2010-9430  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-06 
確定日 2012-05-02 
事件の表示 特願2005- 82311「アンテナスイッチモジュール及びこれを用いた通信装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月 5日出願公開、特開2006-270245〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年3月22日の出願であって、平成21年11月10日付けで拒絶理由通知がなされ、平成22年1月12日付けで手続補正がなされたが、同年1月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成22年5月6日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年5月6日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正内容
平成22年5月6日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)の内容は、特許請求の範囲の請求項1の記載を、
「共用のアンテナ端子と、通過帯域が異なる複数の送受信系の送信経路及び受信経路と、前記アンテナ端子と前記送信経路及び受信経路との間に接続された分波回路と、前記分波回路と接続される入出力端子と、前記受信経路に接続される入力(受信)端子と、前記送信経路に接続される出力(送信)端子とを有し、前記入出力端子と前記出力(送信)端子及び入力(受信)端子との間に前記アンテナ端子と送信経路の接続及び前記アンテナ端子と受信経路との接続を切り換えるアンテナスイッチ回路を設けた、回路パターンが形成された複数の誘電体層を積層してなるアンテナスイッチモジュールにおいて、
前記アンテナスイッチ回路のうち、前記送信経路にはダイオード素子とローパスフィルタを直列に接続しており、さらに前記ダイオード素子とローパスフィルタとの間に伝送線路を設け、かつ、一端同士が接続されて直列に接続されたコンデンサ素子とインダクタ素子を設け、
前記コンデンサ素子の他端は前記入出力端子とダイオード素子との間に接続され、前記インダクタ素子の他端は前記伝送線路とローパスフィルタの間に接続されており、 前記分波回路の積層体内の回路パターンが、積層方向に見て前記伝送線路と重ならない領域に形成されていることを特徴とするアンテナスイッチモジュール。」
に補正することを含むものである。

(2)当審の判断
上記補正によって、「前記分波回路の積層体内の回路パターンが、積層方向に見て前記伝送線路と重ならない領域に形成されている」ものであることになった点が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて、以下検討する。

当初明細書等には、次の記載がなされている。

a.「【0019】
さて本発明によるアンテナスイッチモジュールは、図6に示すように誘電体シートを複数枚積層した積層体構造となし、その積層体上にチップ部品を搭載することにより軽量小型に構成できる。裏面のRX1?4、TX1?2、ANT端子はそれぞれ高周波信号用の端子であり、RX1端子はGSM850_Rx端子、RX2端子はEGSM_Rx端子、RX3端子はDCS_Rx端子、RX4端子はPCS_Rx端子、TX1端子はGSM850/EGSM_Tx端子、TX2端子はDCS/PCS_Tx端子に対応している。GNDはグラウンドに接続される端子である。それぞれの高周波信号用端子は、特に送信端子どうしが隣り合わないように設計している。これにより高出力である送信端子間の干渉を抑え、挿入損失の改善ができる。
【0020】
図6の誘電体シートに印刷された電極について説明する。図6は本発明を用いたアンテナスイッチモジュールの積層体構造を形成するシートの一部を示している。上面にはチップコンデンサ、インダクタ、抵抗やPINダイオード、GaAsスイッチなどが搭載されている。2枚目のシートには主な伝送線路としてLG3A、LG5A、LF4A,LF5Aが印刷されている。LG3Aはスイッチ回路24の中にある、受信側のλ/4伝送線路LG3の一部である。LG5Aはスイッチ回路24とGaAsスイッチ30を接続するための伝送線路である。伝送線路38の長さは約1.2mmであり、線幅は75μmである。この伝送線路長ならびに伝送線路幅、また伝送線路の形状を変更することにより、3倍周波数の減衰極をシフトさせることができる。また伝送線路28はローパスフィルタ29や分波回路23と干渉しないように設計するのが望ましい。また伝送線路28をダイオードD4のアノード側に接続した場合には同様の効果が得られるが、受信経路のλ/4伝送線路LD3のインピーダンスに影響を与えるため、本実施例においてはダイオードD4のカソード側に伝送線路38を接続することが望ましい。
【0021】
3枚目のシートには3つのグラウンド電極が印刷されている。この電極パターンはグラウンド電極との間で接地容量を構成する役割を持つほか、上下間の層どうしでの干渉を防ぐために挿入されている。またCF2Aは分波器21のハイパスフィルタ23を構成するためのコンデンサ電極CF2の一部であり、LG1Aはローパスフィルタ25を構成する伝送線路LG1の一部である。この伝送線路の長さや幅を調整することにより、EGSM_Tx→ANT間の高周波特性の減衰特性を調整することができる。
【0022】
4枚目のシートには、8つの主な伝送線路の一部である電極が印刷されている。LF1A、LF2Aは分波器33を構成するローパスフィルタ21の伝送線路LF1、LF2の一部である。LG1B、LG2Aはローパスフィルタ25を構成する伝送線路LG1,LG2の一部である。LG3Aはアンテナスイッチ回路24の受信側のλ/4伝送線路LG3の一部である。LD1Aはローパスフィルタ29を構成する伝送線路の一部である。LV5Aは上面に搭載されているGaAsスイッチ30、31に電圧を印加させるための伝送線路である。
【0023】
本発明では、1層の厚みが20?80μm(一体焼成後の寸法)の誘電体シートの各層の電極を印刷してスルーホールで接続した例である。図6でスルーホールは黒塗りした正方形である。この正方形部に孔があいておりスルーホールを形成している。誘電体としては、例えばアルミナ系ガラスセラミック等の低温同時焼成セラミクス(LTCC)材料などが挙げられる。この積層体は、低温焼成が可能なセラミック誘電体材料からなるグリーンシートを用意し、そのグリーンシート上にAg、Pd、Cuなどの導電ペーストを印刷して、所望の電極パターンを形成し、それを適宜積層し、900℃程度で一体焼成して構成される。シートの厚さは大体25?110μmの範囲で、使用用途によりドクターブレード法などで制御される。所定の内部電極パターンを多数形成した大きなシートを積層し、一つ一つのチップサイズに切断した後、焼成し、端子電極を形成し、誘電体積層素体を作製する。端子電極は、通常Ag-Ni-半田の三層構造をしており、Ni層により半田熱耐性、半田層による半田濡れ製を充分得られるようにしている。この誘電体積層素体上にメタルマスクを使用した半田印刷を行い、そのあとGaAsスイッチやダイオードスイッチ、また容量が大きく積層素体内に形成できなかったチップコンデンサや抵抗、インダクタなどを搭載し、リフローする。」

b.「【0026】
・・・(中略)・・・
【図6】本発明のアンテナスイッチモジュールを積層体に構成したときの積層シートの一部の展開図である。」

上記aには、「誘電体シートを複数枚積層した積層体構造」にて実現した「アンテナスイッチモジュール」の構成が、図6の記載と共に説明されている。
上記aの段落【0020】には、「また伝送線路28はローパスフィルタ29や分波回路23と干渉しないように設計するのが望ましい。」との記載がなされているが、当初明細書等の段落【0013】に「分波回路21」及び「ハイパスフィルタ23」と記載されていること、及び図2の記載では符号21が分波回路を表し、符号23がハイパスフィルタを表していることより、上記段落【0020】中の「分波回路23」という記載は「分波回路21」の誤記であると認められる。そして、上記段落【0020】に記載された上記誤記を訂正した「また伝送線路28はローパスフィルタ29や分波回路21と干渉しないように設計するのが望ましい。」という旨の内容は、「分波回路21の積層体内の回路パターンが、積層方向に見て伝送線路28と重ならない領域に形成されている」ものであることまでを示唆するものではない。
また、上記aの段落【0020】や上記bに、図6の記載はアンテナスイッチモジュールを積層体に構成したときの積層シートの一部の展開図であることが記載されており、図6を見ると、分波回路21の構成要素としては、伝送線路LF1の一部である電極LF1A、伝送線路LF2の一部である電極LF2A、及びコンデンサ電極CF2の一部である電極CF2Aのみが記載されており、これらは積層方向に見て伝送線路28と重ならない領域に形成されていると図6から読み取ることができるものである。しかし、図6には、電極LF1A以外の伝送線路LF1の電極、電極LF2A以外の伝送線路LF2の電極、電極CF2A以外のコンデンサ電極CF2の電極、さらに分波回路21を構成するその他の構成要素である伝送線路LF3の電極、コンデンサ電極CF1、コンデンサ電極CF3、コンデンサ電極CF4、及びコンデンサ電極CF5は記載されておらず、それらは積層方向に見て伝送線路28と重ならない領域に形成されていると図6から読み取ることができるものでもない。
そのうえ、上記段落【0020】に記載された上記誤記を訂正した「また伝送線路28はローパスフィルタ29や分波回路21と干渉しないように設計するのが望ましい。」という事項と、図6に記載された分波回路21を構成する伝送線路LF1の一部である電極LF1A、伝送線路LF2の一部である電極LF2A、及びコンデンサ電極CF2の一部である電極CF2Aが積層方向に見て伝送線路28と重ならない領域に形成されているという事項を合わせたものは、電極LF1A以外の伝送線路LF1の電極、電極LF2A以外の伝送線路LF2の電極、電極CF2A以外のコンデンサ電極CF2の電極、伝送線路LF3の電極、コンデンサ電極CF1、コンデンサ電極CF3、コンデンサ電極CF4、及びコンデンサ電極CF5のすべてが積層方向に見て伝送線路28と重ならない領域に形成されているということまでを示唆するものではない。
そして、当初明細書等の他のいずれの箇所を見ても、「分波回路21の積層体内の回路パターンが、積層方向に見て伝送線路28と重ならない領域に形成されている」ものであることは、記載も示唆もされていない事項であり、また、このことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであると認められる。
したがって、「前記分波回路の積層体内の回路パターンが、積層方向に見て前記伝送線路と重ならない領域に形成されている」ものであるとする補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとは認められない。

(3)むすび
以上のとおり、上記(1)に示す請求項1に係る補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとは認められない。
したがって、本件手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.補正却下の決定を踏まえた検討
(1)本願発明
平成22年5月6日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成22年1月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「共用のアンテナ端子と、通過帯域が異なる複数の送受信系の送信経路及び受信経路と、前記アンテナ端子と前記送信経路及び受信経路との間に接続された分波回路と、前記分波回路と接続される入出力端子と、前記受信経路に接続される入力(受信)端子と、前記送信経路に接続される出力(送信)端子とを有し、前記入出力端子と前記出力(送信)端子及び入力(受信)端子との間に前記アンテナ端子と送信経路の接続及び前記アンテナ端子と受信経路との接続を切り換えるアンテナスイッチ回路を設けたアンテナスイッチモジュールにおいて、
前記アンテナスイッチ回路のうち、前記送信経路にはダイオード素子とローパスフィルタを直列に接続しており、さらに前記ダイオード素子とローパスフィルタとの間に伝送線路を設け、かつ、一端同士が接続されて直列に接続されたコンデンサ素子とインダクタ素子を設け、前記コンデンサ素子の他端は前記入出力端子とダイオード素子との間に接続され、前記インダクタ素子の他端は前記伝送線路とローパスフィルタの間に接続させたことを特徴とするアンテナスイッチモジュール。」

(2)引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-299922号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

A.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は高周波モジュールに関し、特に移動体通信機中の高周波部分に用いられる高周波モジュールに関する。
【0002】
【従来技術】近年、1つの送受信系を採用している通常の携帯電話機に対し、デュアルバンド方式を採用した携帯電話機が提案されている。デュアルバンド方式の携帯電話機は1台の携帯電話機内に2つの送受信系を搭載するもので、地域性や使用目的等に合った送受信系を選択して送信することができるようにした利便性の高い機器として期待されているものである。
【0003】近年の欧州においては、通過帯域の異なる複数の送受信系としてGSM方式/DCS方式の双方を搭載したデュアルバンド方式の携帯電話機が検討されている。」

B.「【0012】
【発明の実施の形態】図1は、本発明に係る高周波モジュールの一実施形態を示すブロック図である。本高周波モジュール1は、通過帯域の異なる複数の送受信系GSM、DCSを各送受信系に分ける分波回路DIP1、および各送受信系において送信系と受信系とを切り替えるダイオードスイッチ回路SW1、SW2を有するマルチバンド用高周波スイッチSWと、増幅部AMP1、AMP2の出力をモニタするためのカプラCOP1、COP2とで構成されている。カプラCOP1、COP2は増幅部AMP1、AMP2からの送信信号をダイオードスイッチ回路SW1、SW2のTx端子に伝送するもので、それぞれの通過周波数に対応する高調波信号を取り除くためのローパスフィルタの機能も兼ね備えている。高周波スイッチSWは、GSM/DCSデュアルバンド方式の携帯電話機において、それぞれのシステムに対応する送信回路Txと分波回路DIP1との接続、および受信回路Rxと分波回路DIP1との接続を切り替えるものである。
【0013】分波回路DIP1は、異なる2つのシステムの周波数、例えばGSMシステムの900MHz帯の送受信信号とDCSシステムの1800MHz帯の送受信信号を分離する役割を持っている。この分波回路DIP1は、図2に示すように、例えば1800MHz帯を通過させるハイパスフィルタHPF1、コンデンサC2およびインダクタL2と、900MHz帯を通過させるローパスフィルタLPF1、コンデンサC1およびインダクタL1とにより形成されている。
【0014】また、送信回路Tx側のカプラCOP1、COP2は各々の増幅部AMP1、AMP2により増幅された送信信号の一部を取り出し、DCSモニタ端子、GSMモニタ端子を介して自動利得制御回路APCにフィードバック信号を送る役割を果たし、これにより増幅器AMP1、AMP2からの出力信号のレベル調整が図られる。
【0015】図2は、図1に示す高周波モジュールのブロック図の具体的回路図である。カプラCOP1、COP2は電気的な設定値は相違するものの、回路構成上は同一構造を有する。
【0016】GSMシステム側について説明する。カプラCOP1はそれぞれ所定長さ、幅が設定されたストリップラインである主伝送線路STLG21と主伝送線路STLG22とが電気的に直列接続されて主伝送線路STLG20を構成している。主伝送線路STLG21は高周波スイッチSW側の第1ポートP1に接続されている。主伝送線路STLG21には所定の静電容量を有するコンデンサCG21が電気的に並列接続されている。一方、主伝送線路STLG21には近接位置に平行配置されたストリップラインである結合線路STLG23が設けられている。結合線路STLG23の一端側は所定抵抗値(50Ω)の終端抵抗RG21を経て接地されている。また、結合線路STLG23の他端はモニタ端子MON1に接続されており、この端子MON1を介して上述した自動利得制御回路APCに接続される。
【0017】カプラCOP1は第1ポートP1、コンデンサを介してダイオードDG1のアノードに接続されている。ダイオードDG1のアノードはインダクタLG2およびコンデンサCG4を介して接地されている。インダクタLG2とコンデンサCG4との接続点は制御抵抗RG1を介して制御端子VG1に接続されている。また、ダイオードDG1のカソードはコンデンサを介して分波回路DIP1の第2ポートP2に接続されている。
【0018】スイッチ回路SW1は第1ポートP1と第2ポートP2の間に形成されている。ダイオードDG1のカソードには伝送線路STLG1の一端が接続され、この伝送線路STLG1の他端はコンデンサCG3を介してRx信号出力端子である第3ポートP3(Rx1)に接続されている。また、伝送線路STLG1の他端はダイオードDG2のアノードに接続され、ダイオードDG2のカソードはコンデンサCG2とインダクタLG1とから構成される並列共振回路を介して接地されている。コンデンサCG2とインダクタLG1とで構成される並列共振回路は送信時における送信信号の受信系への漏れを改善する目的で、また直流電流の経路を確保する目的で形成されている。
【0019】次に、DCSシステム側について説明する。カプラCOP2はそれぞれ所定長さ、幅が設定されたストリップラインである主伝送線路STLD21と主伝送線路STLD22とが電気的に直列接続されて主伝送線路STLD20を構成している。主伝送線路STLD22は高周波スイッチSW側の第4ポートP4に接続されている。主伝送線路STLD21には所定の静電容量を有するコンデンサCD21が並列接続されている。一方、主伝送線路STLD21には近接位置に平行配置されたストリップラインである結合線路STLD23が設けられている。結合線路STLD23の一端側は所定抵抗値(50Ω)の終端抵抗RD21を経て接地されている。また、結合線路STLD23の他端はモニタ端子MON2に接続されており、この端子MON2を介して上述した自動利得制御回路APCに接続される。
【0020】カプラCOP2は第4ポートP4、コンデンサを介してダイオードDD1のアノードに接続されている。ダイオードDD1のアノードはインダクタLD2およびコンデンサCD4を介して接地されている。インダクタLD2とコンデンサCD4との接続点は制御抵抗RD1を介して制御端子VD1に接続されている。また、ダイオードDD1のカソードはコンデンサを介して分波回路DIP1の第5ポートP5に接続されている。
【0021】スイッチ回路SW2は第4ポートP4と第5ポートP5の間に形成されている。ダイオードDD1のカソードには伝送線路STLD2の一端が接続され、この伝送線路STLD2の他端はコンデンサCD3を介してRx信号出力端子である第6ポートP6(Rx2)に接続されている。また、伝送線路STLD1の他端はダイオードDD2のアノードに接続され、ダイオードDD2のカソードはコンデンサCD2とインダクタLD1とから構成される並列共振回路を介して接地されている。コンデンサCD2とインダクタLD1とで構成される並列共振回路は送信時における送信信号の受信系への漏れを改善する目的で、また直流電流の経路を確保する目的で形成されている。
【0022】以上の構成において、分波回路DIP1、ダイオードスイッチ回路SW1、SW2およびカプラCOP1、COP2の少なくとも一部が積層体内に内蔵されている。例えば、分波回路DIP1を構成するハイパスフィルタHPF1、ローパスフィルタLPF1、およびダイオードスイッチ回路SW1、SW2を構成する伝送線路STLD1、STLD2、およびカプラCOP1、COP2が誘電体層を積層してなる基板の表面あるいは内層の電極パターンとして形成されている。また、分波回路DIP1、ダイオードスイッチ回路SW1、SW2、およびカプラCOP1、COP2の一部を構成するダイオード等のチップ素子は最上層の誘電体層上に実装されている。
【0023】図3は、本発明に係る高周波モジュールの概略構成を示す一部切欠斜視図である。図3に示すように、本高周波モジュール1はセラミック等からなる同一寸法形状の8層の誘電体層11、12、…18が積層されて基板が形成されており、この基板の上面は金属からなるシールドカバー10で被覆され、さらに側面適所には必要に応じて形成された所要数の端面電極が上面から底面に亘るように形成されている。なお、最上層の誘電体層11の上面の導電パターンは作図上、一部省略されている。また、端面電極は高周波モジュール1と、この高周波モジュール1が実装されるプリント基板上の回路との電気的接続を行うためのものである。
【0024】誘電体層11?18はそれぞれ低温焼成用のセラミックで、セラミックグリーンシートの表面に導電ペースト等を塗布して上述した各回路を構成する電極パターンをそれぞれ形成した後、この電極パターンが形成されたグリーンシートを積層して所要の圧力と温度の下で熱圧着して焼成されたものである。また、各誘電体層には複数の層に亘って回路を構成乃至は接続するために必要なバイアホールが適宜形成されている。最上層の誘電体層11には、種々のパターンの他、終端抵抗RD21、RG21に相当するチップ抵抗、またはトリマブル抵抗器(あるいは電極パターン)、その他のチップ部品(図2に示したダイオード等を含むその他のチップ素子)が複数実装されている。
【0025】なお、上記の各実施形態においては、ラインの縁でカップリングする場合を示したが、基板内において、主伝送線路STLD21、STLG21を上層の誘電体層に、結合線路STLD23、STLG23を1段又は所要段だけ下層の誘電体層に配置し、あるいは逆に主伝送線路STLD21、STLG21を下層の誘電体層に、結合線路STLD23、STLG23を1段又は所要段だけ上層の誘電体層に配置してカップリングしても同様であることはいうまでもない。また、誘電体層の層数も8層に限定されない。
【0026】図4は、図2に示すカプラCOP1、COP2の拡大図を示す。両者は構造的に同一であるので、以下、カプラCOP1を例に説明する。
【0027】主伝送線路STLG21と主伝送線路STLG22はそれぞれ所定長さ、幅が設定された直線状のストリップラインで、特定の位置関係にこだわることなく形成可能であり、同一の誘電体層上である必要もないし(バイアホールで接続すればよい)、直線状、曲線状、その混合のいずれの形状も採用可能である。本実施形態では直線状に配置された電極パターンとして同一の誘電体層上に形成されている。主伝送線路STLG21に並列接続されたコンデンサCG21は、2層分の誘電体層を利用する等して形成された対向する電極パターンで構成されている。一方、結合線路STLG23は主伝送線路STLG21に近接して平行配置されたもので、所定長、幅が予め設定されている。結合線路STLG23は一端が終端抵抗RG21に接続され、他端は積層体の端面電極に接続されてモニタ端子MON1に接続可能にされている。
【0028】コンデンサCG21と主伝送線路STLG21とがローパスフィルタとしての並列共振回路を構成し、コンデンサCG21の静電容量値と主伝送線路STLG21のインダクタンスとによって増幅部AMP1、AMP2で発生する高調波の内の所望の成分を減衰させるようにしている。また、主伝送線路のSTLG22によりカプラCOP1を通過する高調波成分の位相を変更するようにしている。
【0029】また、図示していないが、主伝送線路STLG20の途中の任意の部分とグランド電極との間には寄生容量が生じ、この寄生容量と主伝送線路STLG20のインダクタンスとで低域通過フィルタが構成されている。この寄生容量の代わりに、グランド電極に対向するコンデンサを新たに形成してもよい。
【0030】上記コンデンサCG21の容量値、主伝送線路STLG21のライン長、主伝送線路STLG22のライン長をそれぞれ独立して変化させて最適化することにより、カプラCOP1に付加した低域通過フィルタ機能の減衰効果を最大限に得られるよう調整することができる。長さ以外に幅、形状を調整する態様としてもよい。コンデンサCG21に対しては電極パターンの対向面積を調整すればよい。
【0031】図5は、高周波モジュールのGSM送信モードにおける通過特性を示す図で、(a)は従来の特性図、(b)は本発明によるときの特性図ある。図5は横軸が周波数、縦軸が通過減衰量を示している。図5(a)において、通過特性の減衰域には跳ね上がり61、63が表れており、これは主にカプラCOP1と高周波スイッチSW1とがこれらの周波数において共役整合条件に近づき、すなわち容量性側と誘導性側に別れ、その周囲の周波数帯に比べて高周波信号が伝送し易くなっていることによる。このような通過特性の跳ね上がり61、63の周波数が減衰量を必要とする周波数(例えば、基本波の整数倍の周波数)に近い場合、基板ばらつきが通過特性の跳ね上がり61、63の周波数のばらつきを招き、減衰量を必要とする周波数で所望の減衰量を得られない現象が起こることがある。この場合に、コンデンサCG21、主伝送線路STLG21、STLG22のライン長を調整(乃至は調整後の寸法で設計)することにより、共役整合条件を変化させ(すなわち、カプラCOP1と高周波スイッチSW1とを、容量性側に統一、あるいは誘導性側に統一させ)、前記通過特性の跳ね上がり61、63の減衰量、および周波数を調整することが可能となる。図5(b)では跳ね上がり61、62のレベルが抑えられて、より減衰量が確保できる。」

ここで、
(ア)上記B及び図1,図2より、高周波モジュール1は、分波回路DIP1をアンテナANTに接続するための共用のアンテナ端子を有していると解される。
(イ)上記Bの段落【0012】の「本高周波モジュール1は、通過帯域の異なる複数の送受信系GSM、DCSを各送受信系に分ける分波回路DIP1、および各送受信系において送信系と受信系とを切り替えるダイオードスイッチ回路SW1、SW2を有するマルチバンド用高周波スイッチSWと、・・・で構成されている。」という記載より、高周波モジュール1は、通過帯域が異なる複数の送受信系の送信経路及び受信経路を有していると認められる。
(ウ)上記(ア),(イ)にて検討した事項と、上記B及び図1,図2より、高周波モジュール1は、分波回路DIP1と接続される入出力端子と、受信経路に接続される第3ポートP3(Rx1)と、送信経路に接続される出力(送信)端子(TX1)とを有し、前記入出力端子と前記出力(送信)端子(TX1)及び第3ポートP3(Rx1)との間にアンテナ端子と送信経路の接続及び前記アンテナ端子と受信経路との接続を切り換えるスイッチ回路SW1を設けたものであると認められる。
(エ)上記Bの段落【0028】の「コンデンサCG21と主伝送線路STLG21とがローパスフィルタとしての並列共振回路を構成し、コンデンサCG21の静電容量値と主伝送線路STLG21のインダクタンスとによって増幅部AMP1、AMP2で発生する高調波の内の所望の成分を減衰させるようにしている。」という記載より、送信経路にコンデンサCG21と主伝送線路STLG21からなるローパスフィルタがあるものと認められる。
(オ)上記(エ)にて検討した事項と、上記Bの段落【0028】の「また、主伝送線路のSTLG22によりカプラCOP1を通過する高調波成分の位相を変更するようにしている。」という記載、さらに図2より、ダイオードDG1とローパスフィルタとの間に主伝送線路STLG22があるものと認められる。

よって、上記A,Bの記載及び関連する図面を参照すると、引用例には、次の発明(以下、「引用例記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「共用のアンテナ端子と、通過帯域が異なる複数の送受信系の送信経路及び受信経路と、前記アンテナ端子と前記送信経路及び受信経路との間に接続された分波回路DIP1と、前記分波回路DIP1と接続される入出力端子と、前記受信経路に接続される第3ポートP3(Rx1)と、前記送信経路に接続される出力(送信)端子(TX1)とを有し、前記入出力端子と前記出力(送信)端子(TX1)及び第3ポートP3(Rx1)との間に前記アンテナ端子と送信経路の接続及び前記アンテナ端子と受信経路との接続を切り換えるスイッチ回路SW1を設けた高周波モジュール1において、
前記送信経路にはスイッチ回路SW1のダイオードDG1とローパスフィルタを直列に接続しており、さらに前記ダイオードDG1とローパスフィルタとの間に主伝送線路STLG22を設けた高周波モジュール1。」

(3)対比
本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、引用例記載の発明における「分波回路DIP1」,「第3ポートP3(Rx1)」,「出力(送信)端子(TX1)」,「スイッチ回路SW1」,「高周波モジュール1」,「ダイオードDG1」,「主伝送線路STLG22」は、それぞれ、本願発明における「分波回路」,「入力(受信)端子」,「出力(送信)端子」,「アンテナスイッチ回路」,「アンテナスイッチモジュール」,「ダイオード素子」,「伝送線路」に相当するから、本願発明と引用例記載の発明とは、次の点で一致し、また、相違するものと認められる。

(一致点)
本願発明と引用例記載の発明とは、ともに、
「共用のアンテナ端子と、通過帯域が異なる複数の送受信系の送信経路及び受信経路と、前記アンテナ端子と前記送信経路及び受信経路との間に接続された分波回路と、前記分波回路と接続される入出力端子と、前記受信経路に接続される入力(受信)端子と、前記送信経路に接続される出力(送信)端子とを有し、前記入出力端子と前記出力(送信)端子及び入力(受信)端子との間に前記アンテナ端子と送信経路の接続及び前記アンテナ端子と受信経路との接続を切り換えるアンテナスイッチ回路を設けたアンテナスイッチモジュールにおいて、
前記送信経路にはダイオード素子とローパスフィルタを直列に接続しており、さらに前記ダイオード素子とローパスフィルタとの間に伝送線路を設けたアンテナスイッチモジュール。」
である点。

(相違点)
相違点1:本願発明は、「一端同士が接続されて直列に接続されたコンデンサ素子とインダクタ素子を設け、前記コンデンサ素子の他端は前記入出力端子とダイオード素子との間に接続され、前記インダクタ素子の他端は前記伝送線路とローパスフィルタの間に接続させた」ものであるのに対し、引用例記載の発明は、そのようなものでない点。

相違点2:本願発明においては、「ダイオード素子」、「ローパスフィルタ」、「伝送線路」、「コンデンサ素子」、及び「インダクタ素子」が「アンテナスイッチ回路」に含まれるのに対し、引用例記載の発明においては、「ダイオード素子」は「アンテナスイッチ回路」に含まれるものの、「ローパスフィルタ」、「伝送線路」、「コンデンサ素子」、及び「インダクタ素子」は「アンテナスイッチ回路」には含まれない点。

(4)判断
そこで、上記相違点1,2について検討する。

(相違点1について)
本願明細書の段落【0014】には、オフ状態であるダイオードD4のアイソレーションを向上させるために、コンデンサCD6及びインダクタLD4からなる直列回路を設けた旨が記載されている。
一方、オフ状態であるダイオード素子のアイソレーションを向上させるために、当該ダイオード素子に並列にコンデンサ素子及びインダクタ素子からなる直列回路を設けることは、例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-328136号公報の段落【0048】及び図11や、特開2001-203602号公報の段落【0022】及び図3等に記載されているように、周知技術である。
そして、オフ状態であるダイオード素子のアイソレーションを向上させるという課題は一般的なものであり、ダイオード素子をスイッチとして用いている引用例記載の発明においても当該課題は内在されていると考えられるから、引用例記載の発明において、上記周知技術を適用し、ダイオード素子に並列にコンデンサ素子及びインダクタ素子からなる直列回路を設けた構成とすることは当業者が容易に想到できたことである。また、そのようにする際、「コンデンサ素子及びインダクタ素子からなる直列回路」を、「ダイオード素子のみに対して並列に設ける」という構成(以下、「構成A」という。)を採用しても、「ダイオード素子と伝送線路の直列回路に対して並列に設ける」という構成(以下、「構成B」という。)を採用しても、上記周知技術が目指す「オフ状態であるダイオード素子のアイソレーションを向上させる」という目的を達成し得ることは当業者に自明であり、そのいずれの構成を採用するかは、当業者が適宜決定し得たことである。したがって、「一端同士が接続されて直列に接続されたコンデンサ素子とインダクタ素子を設け、前記コンデンサ素子の他端は前記入出力端子とダイオード素子との間に接続され、前記インダクタ素子の他端は前記伝送線路とローパスフィルタの間に接続させた」構成とすることも当業者が容易に想到できたことである。
なお、この点に関し、審判請求人は、「ダイオード素子とローパスフィルタの間に配置される伝送線路28がこの回路27の外側に配置されたもの(審決注:上記構成Aに相当)では、ローパスフィルタと伝送線路が干渉して調整が難しくなり、所望の高調波抑制効果を得ることも困難になります。伝送線路28を回路27の並列接続の内側に入れること(審決注:上記構成Bに相当)で、回路27とローパスフィルタを個別に調整できるようになります。」(審判請求書の「(3-2)特開2004-328136号(引用文献2)との差異」という項目を参照。)と主張しているが、この主張は以下の理由で採用できない。
ア.上記主張を裏付ける記載は本願明細書には一切なく、該主張内容の詳細も真偽も定かでない。
イ.仮に上記主張内容が正しいとしても、その主張に係る効果(上記構成Bを採用したことによる効果)は、当業者の適宜の決定に基づき採用し得た構成のものが当然に有する効果にすぎず、本願発明の進歩性を肯定する根拠となり得るものではない。

(相違点2について)
一般的に、どの構成要素を含むブロックをどのような機能部として捉えるかということは、当業者が適宜決定することができる設計事項にすぎず、上記「相違点1について」で検討した事項を踏まえて引用例記載の発明に上記周知技術を適用した構成において、「ダイオード素子」だけでなく、「ローパスフィルタ」、「伝送線路」、「コンデンサ素子」、及び「インダクタ素子」も含めたブロックを「アンテナスイッチ回路」として捉えるようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(本願発明の作用効果について)
そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、引用例記載の発明及び上記周知技術から当業者が容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-28 
結審通知日 2012-03-02 
審決日 2012-03-13 
出願番号 特願2005-82311(P2005-82311)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
P 1 8・ 561- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 昌敏  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 甲斐 哲雄
飯田 清司
発明の名称 アンテナスイッチモジュール及びこれを用いた通信装置  

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