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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成24行ケ10192審決取消請求事件 判例 特許
平成24行ケ10025審決取消請求事件 判例 特許
不服200922494 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23F
管理番号 1256659
審判番号 不服2010-1107  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-19 
確定日 2012-05-10 
事件の表示 特願2003-364328「半発酵茶飲料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年5月19日出願公開、特開2005-124499〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年10月24日の出願であって、その請求項1ないし7に係る発明は、平成21年7月13日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。

「アスコルビン酸ナトリウムが700ppmから3000ppmの間の濃度で溶解された85℃から100℃の間の温度の温水を用いて、半発酵茶葉(抽出された後のものを除く)の抽出を行う抽出工程を含む半発酵茶飲料製造方法。」(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物1(原査定の引用文献2)及び刊行物2(同引用文献3)には、下記の事項が記載されている。以下、下線は当審で付加した。

(1)刊行物1:特開平4-148646号公報の記載事項
(1a)「(1)コーヒー、醗酵茶、半醗酵茶、ほうじ茶、麦茶、緑茶及び調味料からなる群より選ばれた一つの嗜好性飲料或いは調味料の原料に、粉末またはその他固形状態のアスコルビン酸類及び/またはその塩を添加せしめてなる嗜好性飲料或いは調味料用原料。
(2)コーヒー、醗酵茶、半醗酵茶、ほうじ茶、麦茶、緑茶及び調味料からなる群より選ばれた一つの嗜好性飲料或いは調味料の調製に用いるフィルターに、粉末状のアスコルビン酸類及び/またはその塩を添着せしめてなる嗜好性飲料或いは調味料調製用フィルター。」(請求項1、2)

(1b)「〔発明が解決しようとする課題〕
最近は生活水準の向上に伴って風味が優れたコーヒー、紅茶等嗜好性飲料に対する要望が強くなっている。しかし、水質低下しているため却ってコーヒー等の風味の低下が著しい。そこで、比較的簡単な方法によって風味を改善したコーヒー、紅茶等を提供しようとするものである。」(第2頁右上欄9?16行)

(1c)「以下本発明について詳しく説明する。
ここで・・醗酵茶とはお茶の葉を充分に醗酵させて作られたお茶を言い、紅茶が最も有名である。また半醗酵茶とはお茶の葉を一部醗酵させて作られたもので、ウーロン茶等である。」(第2頁右下欄7?12行)

(1d)「更に、アスコルビン酸類とは、L-アスコルビン酸及びそれと同様な生化学的効力を有するものでL-アスコルビン酸の他、デヒドロアスコルビン酸、6-ジオキシアスコルビン酸、L-ラマノアスコルビン酸、D-エリソルビン酸(D-イソアスコルビン酸)L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル及び塩としてはそれらのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩をいう。
本発明において、アスコルビン酸類及び/またはその塩(以下アスコルビン酸等という)をコーヒー、醗酵茶、半醗酵茶、ほうじ茶、麦茶、緑茶及び調味料(以下便宜上調味料も含めてコーヒー等という)に含有させる場合、どのような方法で加えても、コーヒー等をまろやかな味にする或いは、風味を良くする効果が認められる。」(第2頁右下欄16行?第3頁左上欄10行)

(1e)「本発明のコーヒー等嗜好性飲料用フィルターは、粉末状のアスコルビン酸等を添着させたものである必要がある。ここで、フィルターとは破砕状のコーヒー豆等からコーヒー液をろ別する機能を有するものを広く含み、例えば、コーヒーや紅茶用のペーパーフィルター、コーヒーバッグ、紅茶バッグ等である。
添着量は使用する水質、コーヒー等の種類、個人の味の嗜好等により適宜変更してもよい。例えばコーヒーの場合、通常1カップに使用するコーヒー粉末は5?8g、得られるコーヒーが150?180mlであるが、その場合アスコルビン酸等の添着量は好ましくは50?10000ppm、より好ましくは500?5000ppmである。」(第3頁左下欄5?18行)

(1f)「コーヒー等の原料を内包した抽出用バッグを使用した場合は水またはお湯が抽出用バッグの内部に入るときそこに添着されていたアスコルビン酸等が溶け込み、アスコルビン酸等を含んだ液でコーヒー等が抽出され、更にその液が抽出用バッグの外に出るときバッグに添着されていたアスコルビン酸等が更に液中に溶け込んだコーヒー等が得られる。この場合hより好ましいと考えられる。」(第4頁右上欄7?14行)

(1g)「本発明によって、コーヒー等をまろやかな味にする効果はどの様な作用によるものが明かでない。
コーヒー液にはカフェイン、芳香成分のフリルアルコール、イソ吉草酸、グアヤコール、オイゲノール、メチルフルフラール、キノン、パルミチン酸、リノール酸、オレイン酸、クロロゲン酸その他かなり多量の蛋白質、脂肪質、糖質等非常に多くの成分が含まれている。従って、これらの成分とアスコルビン酸等との作用の他更に、水とアスコルビン酸等との作用の複雑な相乗作用によるものと考えられる。
アスコルビン酸の化学的性質はよく知られており、水溶液中においてデヒドロアスコルビン酸と酸化還元系を構成し、強い酸化防止機能を持っている。アスコルビン酸以外の本発明で使用する化合物もぼぼ同様である。従って、コーヒーの粉末に添加した場合、その成分の中酸化され易い脂肪質等の酸化防止効果が考えられる。しかし、その他の成分との複雑な作用は明かでない。
また、水に対しても、アスコルビン酸等が酸化還元系を構成し、水素伝達体として働くためその還元作用により、カルキ臭を除去する機能が考えられるが、その他水質を悪化させている臭気あるいは味等の成分に対する作用は不明である。
その他、アスコルビン酸等の爽やかな淡い酸味とコーヒーの味が複合して風味を増していることも考えられる。
本発明によってコーヒーがまろやかな味となることは、発明の動機のところで述べたように官能試験によって確認されたものであるが、その作用はこれらの化学的に解明できる一部のものの他、非常に多くの成分がかなり温度の高い水溶液中に存在するので、多くの複雑な作用が存在することは明かで、これらの相乗作用によるものと考えられる。」(第4頁右上欄7行?右下欄9行)

(1h)「〔効果〕
・・・
本発明はアスコルビン酸等を含有せしめたコーヒー等及びそれらの調製法、保存法に関するもので、これによってコーヒー、紅茶等を比較的簡単な手段でまろやかな味にする等、その風味を著しく改善するものである。良質の水を使用すれば、一層まろやかな味になり、水質が低下している最近の水道水を使用しても、風味を大幅に向上させることが出来る。」(第5頁左上欄12行?右上欄4行)

(1i)「以下実施例をあげて、本発明を更に具体的に説明する。
実施例1、比較例1
コーヒー1カップ当たり、ばい煎後細挽したコーヒー粉末7gに、粒径20?40μのL一アスコルビン酸0.012gを振りかけて均一に付着するように混合した。
アスコルビン酸が付着したコーヒー豆をペーパーフィルターに入れ、熱湯を加えて150mlのコーヒー10杯をいれた。比較のため、アスコルビン酸を添加しない同量のコーヒー粉末から、同様にして150mlのコーヒー10杯を得た(比較例1)。
パネラ-にはアスコルビン酸の添加の有無を知らせずに、10人に各1杯づつ試飲してどちらの味が良いかを調べた。その結果10人中9人までがアスコルビン酸を添加したものの味が優れていると答え、まろやかな味或いはマイルドな味と述べている。
上記の試験において、コーヒー粉末を使用せずに、アスコルビン酸のみを添加したお湯を調製した。カルキ臭及び舌先を刺激する感じがなく、またオルトトリジン試薬による試験の結果遊離簡素は検出されなかった。水道水中には遊離塩素0.lppm以上、結合塩素では0.4ppm以上とされているが、アスコルビン酸により完全に除去されている。
実施例2、比較例2
1カップ当たり紅茶の葉3gを使用した他は実施例1と同様にして紅茶をいれ、10人のパネラ-に試飲させた。
その結果、10人全部がアスコルビン酸を添加した紅茶はマイルドな味で、舌先が刺激される感じが完全に消えていると述べた。」(第5頁右上欄6行?左下欄17行)

(2)刊行物2:特開2003-230358号公報
(2a)「【0011】抽出方法は、撹拌抽出など従来の方法により行うことができる。特に第一工程についてはカラム中に茶葉を充填し、これに冷却水を通過させる方法が、茶葉繊維を痛めず不溶成分のきょう雑を回避する点で好ましい。・・・抽出時の水に、あらかじめアスコルビン酸ナトリウムなどの有機酸又は有機酸塩類を添加してもよい。」

3 対比・判断
刊行物1には、「コーヒー、醗酵茶、半醗酵茶、ほうじ茶、麦茶、緑茶及び調味料(以下便宜上調味料も含めてコーヒー等という)」(上記(1d))と記載され、「コーヒー等の原料を内包した抽出用バッグを使用した場合は水またはお湯が抽出用バッグの内部に入る」(上記(1f))と記載されており、「コーヒー等」の抽出は、水またはお湯を用いることが記載されているから、刊行物1の上記記載事項(特に上記(1a)(1d)(1f))から、刊行物1には、
「コーヒー、醗酵茶、半醗酵茶、ほうじ茶、麦茶、緑茶からなる群より選ばれた一つの嗜好性飲料の原料に、粉末またはその他固形状態のアスコルビン酸類及び/またはその塩を添加せしめてなる嗜好性飲料原料を、水またはお湯で抽出を行う、嗜好性飲料の製造方法」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。
(ア)刊行物1発明の嗜好性飲料の一つである「半醗酵茶」を選択した場合、刊行物1発明の「嗜好性飲料の製造方法」は、「半発酵茶飲料の製造方法」となり、「半醗酵茶」の「原料」は、茶葉であることは技術常識からみて明らかであるから、刊行物1発明の「半醗酵茶」の「原料」は、本願発明の「半発酵茶葉(抽出された後のものを除く)」に相当する。
(イ)刊行物1発明の「アスコルビン酸類及び/またはその塩」と、本願発明の「アスコルビン酸ナトリウム」とは、アスコルビン酸塩である点で共通する。
(ウ)刊行物1発明で、「原料」が半発酵茶の茶葉の場合、お湯、つまり温水で抽出することは技術常識からみて明らかである。
(エ)刊行物1発明の「嗜好性飲料の原料に、粉末またはその他固形状態のアスコルビン酸類及び/またはその塩を添加せしめてなる嗜好性飲料原料」をお湯で抽出することと、本願発明の「アスコルビン酸ナトリウムが700ppmから3000ppmの間の濃度で溶解された85℃から100℃の間の温度の温水を用いて、半発酵茶葉(抽出された後のものを除く)の抽出を行う抽出工程」とは、アスコルビン酸塩を含有した状態で、温水を用いて、半発酵茶葉(抽出された後のものを除く)の抽出を行う抽出工程である点で共通する

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
アスコルビン酸塩を含有した状態で、温水を用いて、半発酵茶葉(抽出された後のものを除く)の抽出を行う抽出工程を含む半発酵茶飲料製造方法である点。

(相違点1)
抽出に用いる温水の温度が、本願発明では「85℃から100℃の間」であるのに対して、刊行物1発明では、温度を規定していない点。

(相違点2)
アスコルビン酸塩の種類、その含有量及びアスコルビン酸塩を含有した状態が、本願発明では、アスコルビン酸ナトリウムであり、温水に700ppmから3000ppmの間の濃度で溶解された状態であるのに対して、刊行物1発明では、塩の種類及び抽出時の温水中の濃度を規定しておらず、半発酵茶等の原料に、粉末またはその他固形状態のアスコルビン酸塩を添加した状態である点。

そこで、上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
ウーロン茶のような半発酵茶を、90℃以上の熱水で抽出することは、例えば、特開平1-202247号公報(第2頁右上欄15?16行)、特開平1-256345号公報(第1頁右下欄16?17行)にも記載されているように、本願出願前に通常行われていたことであるから、刊行物1発明において、温水の温度を85℃から100℃の間とすることに、格別の困難性はない。

(相違点2について)
刊行物1(上記(1d))には、アスコルビン酸塩として、アスコルビン酸のナトリウム塩が列記されている。そして、半発発酵茶や発酵茶の抽出時に、予め水にアスコルビン酸ナトリウムを添加することは、刊行物2(上記(2a))に、発酵茶及び半発酵茶について「抽出時の水に、あらかじめアスコルビン酸ナトリウムなどの有機酸又は有機酸塩類を添加してもよい」と記載され、さらに、特開2003-259807号公報に、発酵茶及び半発酵茶について「抽出方法は、撹拌抽出など従来の方法により行うことができる。また、カラム中に茶葉を充填し、これに温水を通過させる方法が、複数回の抽出を行う場合には効率が良い。また抽出時の水に、あらかじめアスコルビン酸ナトリウムなどの有機酸又は有機酸塩類を添加してもよい。」(【0013】)、特開2002-159263号公報に発酵茶である紅茶について「【請求項4】予めL-アスコルビン酸及びアスコルビン酸ナトリウムから選ばれる一以上のものが温水に溶解された温水水溶液からなる抽出液を用いることにより、紅茶の香気を維持することを特徴とする紅茶抽出方法。」と記載されるように、本願出願前の周知技術といえるから、刊行物1発明のアスコルビン酸類として、刊行物1に列記されたものの中から、アスコルビン酸のナトリウム塩を選択することに何ら困難性はない。
そして、刊行物1発明の抽出時のアスコルビン酸類の状態について、刊行物1に、抽出用のバッグにアスコルビン酸等を添着させる態様ではあるが、「水またはお湯が抽出用バッグの内部に入るときそこに添着されていたアスコルビン酸等が溶け込み、アスコルビン酸等を含んだ液でコーヒー等が抽出され」(上記(1f))と記載され、実施例2には、紅茶の葉にアスコルビン酸を振りかけて均一に付着して、熱湯で紅茶を入れることが記載されており(上記(2i))、原料が半発酵茶葉の場合も、アスコルビン酸類を粉末状態で振りかけて均一に付着させるといえるから、これにお湯を加えることで、まず、茶葉のまわりに付着した水溶性の高いアスコルビン酸等がお湯に溶け込み、アスコルビン酸等を含んだお湯で抽出が行われるといえる。そうすると、刊行物1発明では、実質的に、アスコルビン酸等が溶解された温水を用いて、半発酵茶の抽出を行っているといえるから、半発酵茶の原料に、粉末またはその他固形状態のアスコルビン酸類を添加することに代えて、抽出に用いる温水中にアスコルビン酸類を、上記のとおり刊行物1に列記されたものから選択することに困難性がないアスコルビン酸ナトリウムとして溶解させることは当業者が容易になし得たことといえる。そして、その際に、その濃度について最適化することは当業者が当然に行うことであるところ、刊行物1(上記(1e))に「コーヒー等嗜好性飲料用フィルターは、粉末状のアスコルビン酸等を添着させたものである必要がある。」、「添着量は使用する水質、コーヒー等の種類、個人の味の嗜好等により適宜変更してもよい。例えばコーヒーの場合、通常1カップに使用するコーヒー粉末は5?8g、得られるコーヒーが150?180mlであるが、その場合アスコルビン酸等の添着量は好ましくは50?10000ppm、より好ましくは500?5000ppmである」と記載され、この濃度は、抽出に用いる温水中の濃度ではないが、抽出されたコーヒーの液量が記載されていることからみて、コーヒー抽出液中のアスコルビン酸等濃度を示しているといえるから、このコーヒー抽出液中の濃度を参考にして、抽出に用いる温水中のアスコルビン酸ナトリウムの濃度として、半発酵茶について最適化し、700ppmから3000ppmの間とすることは、当業者が適宜になし得ることである。

(本願発明の効果について)
本願明細書記載の、茶葉由来の香気を維持した半発酵茶飲料を製造できるという効果は、刊行物1(上記(1h))に、風味を著しく改善することが記載されていること、及び周知技術から予想し得たものといえ、格別顕著なものとはいえない。
なお、特開平8-73886号公報には、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸ナトリウムを添加して蒸留することで、紅茶、緑茶、ウーロン茶等の香気を変化が少ない状態で回収できることが記載されている。

4 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-06 
結審通知日 2012-03-13 
審決日 2012-03-28 
出願番号 特願2003-364328(P2003-364328)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 滝口 尚良  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 齊藤 真由美
杉江 渉
発明の名称 半発酵茶飲料の製造方法  
代理人 正林 真之  

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