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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1256734
審判番号 不服2008-22474  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-02 
確定日 2012-05-07 
事件の表示 特願2002-588961「皮膚老化防止用医薬用および化粧品用配合物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月21日国際公開、WO02/92042、平成16年9月30日国内公表、特表2004-529951〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年5月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成13年5月17日、イタリア(IT))を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし4に係る発明は、平成20年9月2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。

「通常の賦形剤(excipient)および担体と組み合わさって、下記の植物由来成分を含む医薬用および化粧品用配合物:
a)ブドウ(Vitis vinifera)の標準化抽出物のリン脂質複合体 0.1?2.5%
b)ツボクサ(Centella asiatica)の標準化抽出物のリン脂質複合体 0.1?2.5%。
(但し、該配合物は魚軟骨(fish cartilage)抽出物を含まない。)」(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物とその記載
原査定の拒絶の理由に引用された、以下の刊行物1ないし刊行物3には、以下の事項が記載されている。

(1)刊行物1:特開昭64-13031号公報
(1a)「(1)ビティス・ビニフェラ(Vitis vinifera)から抽出されたフラボノイド類と植物性、動物性または合成ホスホリピド類との複合体。
・・・
(8)特許請求の範囲第1-6項の何れか1項記載の複合体少なくとも1種の有効量を含有する、医薬用組成物。
(9)特許請求の範囲第1-6項の何れか1項記載の複合体少なくとも1種を含有する、皮ふまたは粘膜に適用するための化粧用組成物。」(特許請求の範囲請求項1、8、9)

(1b)「局所投与用医薬は、有効成分0.1-10重量%を含み、重足感、けいれんおよび浮腫の処置(特に低いもの)の処置のために健康な皮ふに、またははん痕形成の促進または皮ふ疹の場合の浮腫減少のために傷害部に、1日1-数回適用できるクリームの形で提供される。」(第3頁左下欄1行?6行)

(1c)「この発明のさらに別の目的は、ビティス・ビニフェラ(Vitis vinifera)抽出物のフラボノイド類とホスホリピド類の複合体を含む化粧組成物である。この複合体は、抗オキシダント作用、遊離ラジカル捕捉作用および皮ふ脂質保護作用を有するので、皮ふに対する侵害剤の攻撃作用を軽減し、また老化を遅延する。」(第3頁左下欄7行?13行)

(1d)「上記組成物は、太陽にさらされる前または後の日光保護剤、デイクリームまたはメイキャップベースのような日常用保護製品またはカラーベース、ほおまたはまぶた用クリームおよびくちびる用ルージュおよびシャイン(光沢剤)のようなメイキャップ製品に含ませることができる。
さらに、これらは皮ふ毛細管の保護作用を有するので、抗紅斑製品に含ませて有利な結果を得る。
一般に、この発明の複合体は、0.01-1重量%の割合で化粧品に含ませることができる。」(第3頁左下欄14行?右下欄3行)

(1e)「実施例1
ビティス・ビニフェラ(Vitis vinifera)プロシアニドールオリゴマーの精製抽出物とだいずホスファチジルコリンの複合体。
抽出物は、FR-A-2092743記載の方法で製造した。この抽出物10gと95%だいずホスファチジルコリン15gを5容量%のメタノールを含むメチレンクロリド250mlに溶かす。ペースト状残留物が得られるまで溶媒を留去し、これをメチレンクロリド300mlに溶かす。溶液を常圧で50mlまで濃縮し、n-ヘキサン300mlに注ぐ。
沈澱を生成し、これを60℃で24時間真空乾燥する。複合体23gが得られ、これはmp105℃を有し、非極性溶媒に溶かす。^(1)H-NMRスペクトルにおいて、大きな山が6.7-7ppmに見られ、5.2ppmにオレフィンの線、1.5-1.1ppmにメチレンの線、0.9ppmにメチルの線が見られる。」(第4頁右上欄7行?左下欄5行)

(1f)「実施例6
薬用クリーム。
常法により下記の物質から局所適用クリーム100gを得た。
実施例1の複合体 2g
セチルアルコール 15g
ミリスチン酸イソプロピル 5g
カルボキシルポリマー 1g
ラウリルサルコシン酸ナトリウム 3g
ポリソルベート60 3g
パラヒドロキシベンゾエート類 0.2g
着香剤 0.2g
脱塩水 適量加えて全100gとする。

実施例7
太陽光保護用乳液。
常法により下記の物質から乳液100gを得た。
植物油 1.0g
鉱物油 1.8g
ラノリンアルコール 0.2g
カプリン酸・カプリル酸プロピレングリコールのベントンゲル 5.0g
セチルアルコール 1.7g
パルミチン酸イソプロピル 4.0g
UVBフィルター 2.0g
UVAフィルター 2.0g
ポリオキシエチレン化ラウリルアルコール 2.5g
ソルビタンステアレート 2.5g
ポリオキシエチレン化ソルビタンステアレート 1.0g
EDTA4ナトリウム 0.1g
カルボポール 0.35g
保存剤/ブテングリコール 5.0g
着香剤 0.3g
実施例1の複合体 0.2g
脱塩水 70.35g

実施例8
太陽光保護用ゲル。
セレシン 3.0g
ライスワックス 3.0g
植物油 2.0g
パルミチン酸エチル2)ヘキシル 44.7g
カプリン酸・カプリル酸プロピレングリコールのベントンゲル40.5g
カリテナッツバター 2.5g
UVA・UVBフィルター 2.0g
実施例1の複合体 0.2g
着色剤 0.02g
シリカ 2g
着香剤 0.08g

実施例9
日常用保護クリーム。
ステアリン 1.75g
プロピレングリコールモノステアレート 2.7g
イソプロピルラノレート 3.5g
カプリン酸・カプリル酸プロピレングリコールのベントンゲル 6.0g
パルミチン酸イソプロピル 6.5g
シリコーン油 3.0g
ソルビタンステアレート 1.8g
ポリオキシエチレン化ソルビタンステアレート 1.5g
セチルアルコール 0.6g
UVA・UVBフィルター 2.0g
脱塩水 64.55g
EDTA4ナトリウム 0.1g
けい酸アルミニウム 0.8g
カルボキシメチルセルロース 0.15g
プロピレングリコール 4.0g
保存剤 0.5g
実施例1の複合体 0.2g
着香剤 0.35g」
(第5頁右上欄下から1行?第6頁右上欄下から4行)

(2)刊行物2:特開昭63-277691号公報
(2a)「1.コレステロールまたはフィトステロールと複合化し、または複合していないサポニンとりん脂質との複合体
・・・
3.サポニンがエスクルス イポカスタム、つぼくさ、なぎいかだ、ヘデラ へリックス、テルミナリア スプ、たうきんせん、大豆、にんじん、グリチリザ スプ、キライア サポナリア、こごめなでしこから誘導されたものであり、またそれらのアグリコンである上記特許請求の範囲の何れか一つの複合体」(特許請求の範囲請求項1、3)
・・・
8.皮膚科および化粧品分野で用いるための特許請求の範囲1ないし6の複合体
9.適当な担体と混合した特許請求の範囲1ないし6の複合体を活性成分として含有する薬学複合体または化粧品複合体」(特許請求の範囲請求項1、3、8、9)」

(2b)「サポニンは一個または多数の糖ユニットと結合したトリテルペン、好ましくは、オレアナン(Oleanane)、ウルサン(Ursane)、ダンマラン(Dammarane)、または5または6員の開放型または閉鎖型のスピロスタニック環を持つペンタシクリック トリテルペンである。
これらのサポニンはエスクルス イポカススタヌム(Aeseulus ippocastanum)、つぼくさ、なぎいかだ、ヘデラ へリックス(Hedera helix)、テルミナリザ スプ(Terminaliza sp.,)、たうきんせん、大豆、にんじん、グリチリザ(Glycyrriza sp,)、キライア サポナリア(Quillaia saponaria)、こごめなでしこの様な薬学的に興味のある公知の植物からの抽出物である。」(第2頁左上欄7?18行)

(2c)「本願発明により製造された幾つかの複合体を薬学的に試験した。即ち複合体は対応する遊離のものより常に活性があることが証明された。殊に、セリコサイドとホスファチヂルコリンとの複合体はラットに経口投与するカラゲニン浮腫試験でセリコサイドよりも活性があることが明らかになった。
より高い活性はセリコサイドと大豆ホスファチヂルコリンとの複合体の水性微分散液を局所に使用した場合でも、同じテストで、明らかになった。
同じ様な結果は、実験的な傷に局所的に投与したテルミナリアおよびつぼくさからのサポニンの複合化合物を用いて得られた。また血管防護および末梢血管浸透性並びにUV放射に対する防護テストにおいても得られた。この抽出により得られたこの結果は単独の主成分を用いても確認された。」(第3頁左下欄2行?16行)

(2d)「最後に純粋のギンセノサイドまたはそれらの混合物の複合体は、それらの活性成分の改善された吸収に関連した全身生理的活性の増大を示す許りでなく、真皮に対し湿潤性を与える効果を示し、化粧品として局所的に投与するとき弾性を高くする。
この作用は主に上皮での繊維芽球増殖刺激によるものであり、その結果として真皮に活力を与えるプロテオグリカンおよびコラーゲン合成を増大する。
上記のいずれの場合にも、本発明の複合体は複合しないサポニンよりも常により活性が大きいことが判った。局所的に投与するときのそれらの複合体の別の興味ある性質は生物認容性の改善であり、その結果、長期間の活用に有用に作用する。」(第3頁右下欄4行?16行)

(2e)「局所投与による薬学的およびまたは化粧用の適当な製剤は、本願発明の一つまたはそれ以上の複合体を0.1から30%含んでいるクリーム、ゲルまたは水性ミクロ分散物である。これらの製剤は所望の用途次第で1日少なくとも一回または数回投与される。」(第4頁左下欄7行?11行)

(2f)「本発明の組成物は、殊に炎症状態、変性毛細管脆弱性及び浸透性の治療、そして、一般的にサポニンの活性が現に知られているすべての分野で使用できる。」(第4頁左下欄17行?19行)

(2g)「実施例11
センテラ アシアティカ由来のテルペン留分と大豆ホスファチジルコリンとの複合体の合成
アシアティコシドを40%、アシアティク酸を30%、そしてマデカシック酸を30%含有する混合物の8gを、50mlのジオキサンに9gの大豆ホスファチジルコリン(力価95%)と一緒に溶解した。得られた溶液を凍結乾燥して、16.5gのサポニンとトリテルペン酸との複合体が得られた。その溶解性及びスペクトロスコピーは、複合体と一致した。
m.p.=182-186℃」(第6頁右上欄14行?左下欄5行)

(2h)「実施例18
実施例11のセンテラ アジアティカ由来のサポニンの複合体を原料とするミクロ分散液の合成
400mlの蒸留水を600mlの容器に入れ、センテラ アジアティカ由来の選ばれたトリテルペンとホスファチジルコリンとの複合体6gを、ウルトラ(商標)又は対応する強力な機械の攪拌下で加えた。添加の完了後、懸濁液を30分間攪拌した。安定な乳白色のミクロ分散液が得られた。それに濃厚化剤の0.6g及び保存剤としてのカトン(商標)溶液を0.6mlを加えた。この懸濁液は、局所投与用に使用される。」(第7頁右上欄1行?11行)

(3)刊行物3:国際公開第00/40215号(訳文は、対応する日本語公報である特表2003-525860号公報により、段落番号も併せて記載した。)
(3a)「1.HSP32又はそのような蛋白質の機能的なペプチド断片の内因的合成を活性化することを意図した組成物を調製するための、PCO及びそれらの誘導体、カフェイン酸エステル及びそれらの誘導体、並びにこれらの化合物の混合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物の使用。
・・・
4.PCOがブドウ種子由来のPCO又は緑茶由来のPCOであることを特徴とする、前記いずれかの請求項に記載の使用。
・・・
14.HSP32又はそのような蛋白質の機能的なペプチド断片の内因的合成を活性化し得る少なくとも1つの化合物、及び医薬上及び/又は化粧品学上許容される賦形剤を、・・・-ツボクサ抽出物・・・から選択される少なくとも1つの成分と組み合わせて含有することを特徴とする皮膚科学的又は美容用組成物。
・・・
23.照射、特に紫外照射の有害な影響に対して皮膚又は外皮を防御するためにそれらを処置する美容方法であって、請求項14?22の一に記載の美容用組成物の少なくとも1つの有効量を、当該照射に曝される前に又はそれと同時に、局所的に適用することを特徴とする方法。
・・・・・
25.皮膚の光線老化の防止又は遅延、特に紫外照射の有害な影響によって引き起こされる皺の出現の防止又は遅延を意図することを特徴とする、請求項23記載の方法。」(請求項1、4、14、23、25)

(3b)「【0001】本発明は、光線防御の分野において有用な組成物、特に皮膚美容用組成物に関し、また、太陽照射に曝された皮膚を処置するための美容方法に関する。」(第1頁4?6行)

(3c)「【0020】本発明の組成物は、いくつかの「活性化」化合物の組み合わせ及び他の有利な成分との組み合わせを含み得る。」(第3頁31?33行)

3 対比・判断
刊行物1の上記記載事項(特に(1a))から、刊行物1には、
「ビティス・ビニフェラ(Vitis vinifera)から抽出されたフラボノイド類と植物性、動物性または合成ホスホリピド類との複合体を含有する医薬用および化粧品用組成物」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

そこで、本願発明と、刊行物1発明とを比較する。
(ア)本願発明の「a)ブドウ(Vitis vinifera)の標準化抽出物のリン脂質複合体」は、本願明細書段落【0008】に、「ブドウ(Vitis vinifera)の標準化抽出物のリン脂質複合体(以下、「成分a」という)はヨーロッパ特許275,224に開示されている。」と記載されている。ヨーロッパ特許275,224は、刊行物1の対応特許明細書(パテントファミリー)であり、その特許請求の範囲の請求項1には、刊行物1の特許請求の範囲の請求項1と同じ「ビティス・ビフェラ(Vitis vinifera)から抽出されたフラボノイド類と植物性、動物性または合成ホスホリピド類との複合体」(第12頁4行?5行の日本語訳)と記載されている。
そうすると、刊行物1発明の「ビティス・ビニフェラ(Vitis vinifera)から抽出されたフラボノイド類と植物性、動物性または合成ホスホリピド類との複合体」は、本願発明の「ブドウ(Vitis vinifera)の標準化抽出物のリン脂質複合体」に相当する。
(イ)刊行物1発明の「医薬用および化粧品用組成物」は、医薬用や化粧品用の組成物を製造する場合、活性成分や任意成分の他に賦形剤や担体を配合することは常套手段であることから、「通常の賦形剤(excipient)および担体」を組み合わせて用いているといえる。
(ウ)刊行物1には、「魚軟骨(fish cartilage)抽出物」を含有することについて一切記載がなく、このような抽出物は医薬用および化粧品用組成物に、通常配合されるものとはいえないから、刊行物1発明は、「配合物は魚軟骨(fish cartilage)抽出物を含まない」といえる。

そうすると、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
通常の賦形剤(excipient)および担体と組み合わさって、下記の植物由来成分を含む医薬用および化粧品用配合物:a)ブドウ(Vitis vinifera)の標準化抽出物のリン脂質複合体。(但し、該配合物は魚軟骨(fish cartilage)抽出物を含まない。)である点。

(相違点1)
「a)ブドウ(Vitis vinifera)の標準化抽出物のリン脂質複合体」が、本願発明では、0.1?2.5%含有されるのに対して、刊行物1発明では、含有量を規定していない点。

(相違点2)
本願発明は、「b)ツボクサ(Centella asiatica)の標準化抽出物のリン脂質複合体 0.1?2.5%」を含有しているのに対して、刊行物1発明は、これを含有していない点。

そこで、上記相違点について、まとめて検討する。
刊行物2には、つぼくさ等から誘導されたサポニンとりん脂質との複合体が記載され(上記(2a))、実施例11には、「センテラ アシアティカ」由来のものとリン脂質との複合体の合成方法として、アシアティコシドを40%、アシアティク酸を30%、そしてマデカシック酸を30%含有する混合物を、大豆ホスファチジルコリンと一緒に溶解して、センテラアシアティカ由来のテルペン留分と大豆ホスファチジルコリンとの複合体を合成することが記載されている(上記(2g))。ここで、「センテラ アシアティカ」は、本願明細書において、「ツボクサ(Centella asiatica)」と記載されていることから、ツボクサを意味していることは明らかである。
一方、本願発明のb)成分について、本願明細書段落【0010】には、「ツボクサ(Centella asiatica)の標準化抽出物のリン脂質複合体(以下、「成分b」という)はヨーロッパ特許283,713に開示されている。」と記載されている。そして、ヨーロッパ特許283,713は、刊行物2の対応特許明細書(パテントファミリー)であり、その実施例11には、刊行物2の実施例11と同様に以下のように記載されている。
「実施例11 センテラ アシアティカ由来のテルペン留分と大豆ホスファチジルコリンとの複合体の合成
アシアティコシドを40%、アシアティク酸を30%、そしてマデカシック酸を30%からなる混合物の8gを、50mlのジオキサンに9gの大豆ホスファチジルコリン(力価95%)と一緒に溶解した。得られた溶液を凍結乾燥した。16.5gのサポニンとトリテルペン酸との複合体が得られた。その溶解性及びスペクトロスコピーは複合体と一致した。複合体のm.p.=182-186℃」(第7頁52行?第8頁2行の日本語訳)
そうすると、刊行物2に記載された、センテラ アシアティカ由来のテルペン留分と大豆ホスファチジルコリンとの複合体」は、本願発明の「b)ツボクサ(Centella asiatica)の標準化抽出物のリン脂質複合体」に相当する。
さらに、刊行物2には、この複合体を活性成分として含有する薬学複合体または化粧品複合体が記載され(上記(2e))、具体例として、実施例18には、実施例11で得られた複合体、つまり、ツボクサの標準化抽出物のリン脂質複合体、に蒸留水及び他の成分を加え、局所投与用に使用されるミクロ分散液を製造したことが記載されている(上記(2h))。
ところで、刊行物1には、刊行物1発明の「複合体を含む医薬用および化粧品用組成物」について、「複合体は、抗オキシダント作用、遊離ラジカル捕捉作用および皮ふ脂質保護作用を有するので、皮ふに対する侵害剤の攻撃作用を軽減し、また老化を遅延する。」こと(上記(1c))、「太陽にさらされる前または後の日光保護剤」となり、「皮ふ毛細管の保護作用を有するので、抗紅斑製品に含ませて有利な結果を得る」こと(上記(1d))が記載されている。
一方、刊行物2には、サポニンとリン脂質との複合体について、実験的な傷に局所的に投与した、つぼくさからのサポニンの複合体が高い活性を示し、UV放射に対する防護テストにおいても同様の結果が得られたことが記載されている(上記(2c))。また、ニンジン由来のサポニンではあるが、ギンセノサイドの複合体は、真皮に対し湿潤性を与える効果を示し、化粧品として局所的に投与すると弾性を高くする作用があり、この作用は主に上皮での繊維芽球増殖刺激によるものであり、真皮に活力を与えるプロテオグリカンおよびコラーゲン合成を増大することが記載され、複合体の作用メカニズムについて言及されている(上記(2d))。これらの記載から、刊行物2に記載された、つぼくさ由来サポニンとリン脂質の複合体は、刊行物1発明と同様に、日光から皮膚を保護することができるものといえる。
そして、化粧料の分野において、類似の効能を有する有効物質を複数種類組み合わせて、初期の作用効果を有する化粧用組成物とすることは、本願優先日前の常套手段であるところ(必要であれば、例えば、特開平6-24937号公報【請求項1】?【請求項3】、特開2001-89369号公報【0052】参照。)、刊行物3(上記(3a)(3b)(3c))には、ブドウ種子や緑茶由来のPCO(「PCO」は、「プロシアニドールオリゴマー」の略である。)と、ツボクサ抽出物等の化合物を組み合わせて、紫外線照射された皮膚を処置するための「皮膚科学的又は美容用組成物」とすることが記載されている。
そうすると、、抗オキシダント作用、遊離ラジカル捕捉作用および皮ふ脂質保護作用を有し、太陽にさらされる前または後の日光保護剤となる、刊行物1発明の医薬用および化粧品用組成物において、刊行物2に記載された、日光から皮膚を保護することができる、つぼくさ由来のサポニンとリン脂質の複合体を組み合わせることは容易になし得たことといえる。
そして、刊行物1には、局所投与用医薬は複合体を0.1-10重量%を含むこと(上記(1b))、化粧品は複合体を0.01-1重量%含むこと(上記(1d))が記載され、実施例6では、局所適用クリームに全100g中2g、つまり2%含有させ、実施例7ないし9では、太陽保護用乳液、太陽保護用ゲル及び日常保護クリーム全100g中0.2g、つまり0.2%含有させることが記載されており(上記(1f))、また、刊行物2には、複合体を0.1?30%含有した化粧目的用のゲルや水性ミクロ分散物とすること(上記(2e))が記載され、実施例18(上記(2h))では、局所投与用分散液であって、400mlの蒸留水、つぼくさ由来のトリテルペンとリン脂質の複合体6g、濃厚化剤0.6g、保存剤0.6mlの合計約407.2g中に、複合体6gを含有する、つまり、約1.5%含有するものが記載されているから、これらの配合量を参考にして、日光保護剤として充分な効果得られるように、両複合体の含有量を最適化して、それぞれ0.1?2.5%とすることは、当業者が適宜になし得ることとえる。

(本願発明の効果について)
本願明細書には、本願発明の効果が何ら記載されていないが、技術背景である、
段落【0003】の「皮膚老化は皮膚の種々の層を冒す複合した生物的過程であり、その主たる影響は皮膚に見られる。同時に起きる2つの生物学的に独立した老化過程がある。第一は本態的老化であり、それは、多分、内部器官と同様に、皮膚を冒す。第二は自然力(the elements)、主として紫外線照射に曝される結果である外的老化あるいは光老化である。本態的な老化の結果は、太陽から保護された領域を含む、皮膚の全部に観察することができる。太陽に曝された領域、特に顔および手の甲では、光老化のダメージが本質的老化に帰さるべき組織退化(tissue degeneration)に加わる。つまり、顔および首の皮膚、すなわち患者が気遣う根本領域への最も顕著な変化は、本態的老化過程と外的老化過程の結合から起きる。他の要因(例えば、喫煙)が若年シワ(premature wrinkling)の一因となるけれど、およそ80%の顔面老化は太陽に曝されることに帰するといわれている。」、
段落【0004】の「生化学的見地から、光老化は、主として、いくつかのプロテアーゼ、主にメタロプロテアーゼが紫外線照射との相互作用と相まって角質化細胞(keratinocytes)および線維芽細胞(fibroblasts)で過剰に生産され、過剰に放出されることにより(これらプロテアーゼは、コラーゲン、エラスチン(elastin)およびヒアルロン酸を非可逆的に破壊し、真皮瘢痕(dermis scars)や顕著なシワをもたらす分解酵素である);およびきわめて短い間通常の皮膚の酸化抵抗を低減することが可能な酸化ストレスにより、引き起こされると考えられている。」
との記載から、光老化を問題としているといえる。
そして、発明が解決しようとする課題として、
段落【0005】に「これらの基本的考えに基づいて、真皮に対するプロテアーゼの作用(新しいコラーゲンの繊維を生産し、分泌する繊維芽細胞の可能性を増す間の)および皮膚から酸化防止機構の消滅に対し抵抗できる手段により若年老化から皮膚を守る必要があることは明らかである。」
と記載されていることから、本願発明の目的は、光老化のような若年老化から皮膚を守ることといえるので、この目的と対応する効果について検討する。
刊行物1には、ブドウ抽出物とリン脂質の複合体が、太陽にさらされた後の日光保護剤であることが記載され(上記(1d))、刊行物2には、つぼくさ抽出物とリン脂質の複合体が、血管防護および末梢血管浸透性並びにUV放射に対する防護作用があること(上記(2c))、炎症状態、変性毛細管脆弱性および浸透性の治療に使用できること(上記(2f))が記載されていることから、本願発明の上記効果は、それぞれの成分の効果から予測することができるものであり、格別顕著なものとはいえない。

(請求人の主張について)
請求人は審判請求の理由(審査における意見書でも同じものを提示している。)で、a)及びb)成分の併用が「皺の改善」に関して「相乗作用効果」を示すことを実証する実験試験結果を提示しているので検討する。
本願明細書には、「皺」に関する記載は、背景技術として、段落【0003】に、若年シワの原因の80%は太陽光によることが記載され、段落【0004】に、光老化による皺について、生化学的見地からのメカニズムを考察した記載があるだけであり、これらの記載は、いすれも太陽光による光老化の皺についてのものである。
そして、本願明細書には、本願発明の効果について何ら記載されておらず、上記段落【0003】、【0004】に加え、段落【0005】の記載から把握できる本願発明の目的が光老化のような若年老化から皮膚を守ることといえ、この目的と対応する効果をようやく認識しうる程度であることは、上記(本願発明の効果について)でも記載したとおりであり、ましてや、2つの有効成分を組み合わせることにより、「皺の改善」について、予想外の効果が得られることについては何ら記載がない。そして、請求人が提出した実験結果は、請求人の主張(平成20年11月13日付けの審判請求の請求理由を補正する手続補正書の第9頁下から5行?11頁下から13行の「実験試験」の項目)によれば、「皺の改善」について、加算を越えて目ざましく高い効果が奏されることから、このような効果は、本願明細書全体の記載、特に生化学的メカニズムについての記載からも推論できるものではなく、参酌すべきでない。
さらに、刊行物1及び2は、本願明細書の段落【0008】及び【0010】に従来技術として引用されたヨーロッパ特許明細書の対応日本公報であり、刊行物1及び2を請求人は本願出願時にすでに知っていたのであるから、これらを組み合わせることで相乗効果があるというのであれば、本願明細書にそのことが記載されてしかるべきである。
また、仮に、提出された実験結果を参酌すべきであったとしても、請求人が提示した実験結果は、「10人の女性からなる4つのグループ」に対する実験であることが記載されるだけであり、それぞれのグループの女性の年齢構成や太陽に曝された程度がどのようであるか等明らかでなく、提出された【表1】のデータを評価することができない。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1ないし3に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-22 
結審通知日 2011-11-29 
審決日 2011-12-12 
出願番号 特願2002-588961(P2002-588961)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 美穂北畑 勝彦  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 杉江 渉
関 美祝
発明の名称 皮膚老化防止用医薬用および化粧品用配合物  
代理人 緒方 雅昭  
復代理人 太田 顕学  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 石橋 政幸  

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