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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1256777 |
審判番号 | 不服2010-20919 |
総通号数 | 151 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-09-16 |
確定日 | 2012-05-07 |
事件の表示 | 平成11年特許願第266982号「貼り合せSOIウェーハの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月 6日出願公開、特開2001- 93788〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成11年9月21日の出願であって、平成22年6月16日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月29日付けで拒絶査定がされ、それに対して、同年9月16日に審判が請求された。その後、平成23年11月14日付けで当審により拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、これに対して、同年12月16日に意見書が提出されたものである。 第2 本願発明 請求項1に係る発明は、平成22年6月16日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 ベースウェーハの表面と活性ウェーハの表面にそれぞれ酸化膜を形成し、該酸化膜を介して前記ベースウェーハと活性ウェーハを重ねて接着するとともに接着されたベースウェーハと活性ウェーハの表面を熱酸化する貼り合せSOIの製造方法において、前記ベースウェーハと活性ウェーハとの接着部に介設される中間酸化膜厚を3μm以上にし、前記接着するベースウェーハと活性ウェーハの各表面に形成する酸化膜の厚みの差を2μm以下とすることによって熱酸化後のベースウェーハと活性ウェーハの断面にベースウェーハと活性ウェーハを構成している原子のスリップ現象が発生することを抑制する貼り合せSOIウェーハの製造方法。」 第3 引用例の記載と引用発明 1 引用例1とその記載内容 当審拒絶理由に引用された、本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-45882号公報(以下「引用例1」という。)には、「半導体基板及びその製造方法」(発明の名称)について、図1、2及び5、表1とともに、次の記載がある(下線は当審で付加。以下同じ。)。 (1)発明の属する技術分野等 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は半導体基板及びその製造方法に係り、特にSOI(SiliconOn Insulator)ウェーハの製造方法に関する。」 「【0005】従来のSOIウェーハの製造方法には、支持基台側ウェーハと活性層側ウェーハとのうちいずれか一方に酸化絶縁膜を形成した後これらを接合する方法と、支持基台側ウェーハ及び活性層側ウェーハの両方に同一の膜厚の酸化絶縁膜を形成した後これらを接合する方法とがある。以下、図面を参照しながら前述のSOIウェーハの製造方法について、図面を参照しながら説明する。」 「【0011】第2の製造方法においては、支持基台側ウェーハ1及び活性層側ウェーハ2の両方に、約1100℃の温度条件の下で酸素/水素の燃焼酸化により酸化シリコン絶縁膜13、14を形成する(図5(a))。両方のウェーハに酸化シリコン絶縁膜13、14を形成する場合の酸化シリコン絶縁膜13、14は、それぞれ最終的に完成するSOIウェーハに必要な厚さの半分の厚さに形成する。したがって、酸化シリコン絶縁膜13、14は、それぞれ0.5?1.5μmの範囲の所定の厚さに形成されており、かつ、酸化シリコン絶縁膜13、14は同一の厚さである。 【0012】次に、支持基台側ウェーハ1上の酸化シリコン絶縁膜13と、活性層側ウェーハ2上の酸化シリコン絶縁膜14とを直接接着法により接合し、支持基台側ウェーハ1と活性層側ウェーハ2との間に酸化シリコン絶縁膜15を形成する。(図5(b))。 【0013】最後に、酸化シリコン絶縁膜14及び活性層側ウェーハ2を研摩加工し、厚さ約10μmの活性層16を形成して、SOIウェーハが完成する(図5(c))。」 「【0015】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の製造方法に係るSOIウェーハにおいては、反りの発生という問題点があり、その原因はシリコンと酸化シリコン絶縁膜の熱膨張率のちがいにより支持基台側ウェーハ10及び活性層20に作用する引っ張り応力と、酸化シリコン絶縁膜30に作用する圧縮応力との不均衡に起因すると考えられる。」 「【0020】本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、反りの発生を低減することができるSOIウェーハの製造方法を提供することである。」 (2)発明の実施の形態 「【0028】 【発明の実施の形態】以下、本発明に係る半導体基板及びその製造方法につき、図面及び表を参照しながら説明する。 【0029】図1は、本発明に係る半導体基板の製造方法の説明図であり、主な製造工程におけるシリコンウェーハ等の略断面図から構成されている。使用するシリコンウェーハは、従来例の場合と同様に、支持基台側ウェーハ1及び活性層側ウェーハ2として、6インチ、P型、面方位(100)、比抵抗5Ω・cm、厚さ625μmのシリコンウェーハを用いる。 【0030】本発明に係るSOIウェーハの製造方法においては、約1100℃の温度条件の下で酸素/水素の燃焼酸化により、支持基台側ウェーハ1には酸化シリコン絶縁膜3を、活性層側ウェーハ2には酸化シリコン絶縁膜4を、それぞれ形成する(図1(a))。この際、酸化シリコン絶縁膜4は、酸化シリコン絶縁膜3よりも厚く形成し、かつ、酸化シリコン絶縁膜3および4の膜厚の合計が、支持基台側ウェーハ1と活性層側ウェーハ2とを絶縁分離する絶縁膜の所定の厚さとなるようにする。 【0031】次に、支持基台側ウェーハ1上の酸化シリコン絶縁膜3と、活性層側ウェーハ2上の酸化シリコン絶縁膜4とを直接接着法により接合し、支持基台側ウェーハ1と活性層側ウェーハ2との間に酸化シリコン絶縁膜5を形成する。(図1(b))。 【0032】最後に、酸化シリコン絶縁膜4及び活性層側ウェーハ2を研摩加工し、厚さ約10μmの活性層6を形成して、SOIウェーハが完成する。(図1(c))。 【0033】図2及び表1は、本発明に係る半導体基板の製造方法と、従来の製造方法とによりそれぞれ製造したSOIウェーハに発生した反りの量の測定結果である。図2のグラフL1及び表1右欄は、本発明に係る半導体基板の製造方法により作製したSOIウェーハ、図2のグラフL2及び表1左欄は、従来の製造方法に係るSOIウェーハの反りの測定結果を示している。表1の左欄及び右欄の第1列の「SOIウェーハのSiO_(2 )膜厚(μm)」は完成したSOIウェーハの酸化シリコン絶縁膜の厚さ、第2列の「活性層ウェーハのSiO_(2 )膜厚(μm)」は、活性層側ウェーハに形成した酸化シリコン絶縁膜の厚さ、第3列の「基台ウェーハのSiO_(2 )膜厚(μm)」は支持基台側ウェーハに形成した酸化シリコン絶縁膜の厚さ、第4列の「反り(μm)」は、完成したSOIウェーハに発生した反りの測定結果をそれぞれ示している。」 「【0034】この測定結果から、反りは約40?70μmも低減されており、したがって、約30?45%と大幅な反りの低減が実現されていることがわかる。・・・」 (3)表1について 表1右欄は、本発明に係る半導体基板の製造方法により製造したSOIウェーハに発生した反りの量の測定結果を示している。 そして、「酸化シリコン絶縁膜5の膜厚」に対応する該右欄の第1列の「SOIウェーハのSiO_(2 )膜厚(μm)」は「3.0」、「酸化シリコン絶縁膜4の膜厚」に対応する該右欄の第2列の「活性層ウェーハのSiO_(2 )膜厚(μm)」は「2.0」、そして、「酸化シリコン絶縁膜3の膜厚」対応する該右欄の第3列の「基台ウェーハのSiO_(2 )膜厚(μm)」は「1.0」と、それぞれ記載されている。 2 引用発明 上記(1)?(3)によれば、引用例1には、次の発明が記載されているといえる(以下、この発明を「引用発明」という。)。 「支持基台側ウェーハ1には酸化シリコン絶縁膜3を、活性層側ウェーハ2には酸化シリコン絶縁膜4を、それぞれ形成し、 次に、支持基台側ウェーハ1上の酸化シリコン絶縁膜3と、活性層側ウェーハ2上の酸化シリコン絶縁膜4とを直接接着法により接合し、支持基台側ウェーハ1と活性層側ウェーハ2との間に酸化シリコン絶縁膜5を形成する、SOIウェーハの製造方法において、 支持基台側ウェーハ1と活性層側ウェーハ2との間の酸化シリコン絶縁膜5の膜厚が3.0μm、活性層側ウェーハ2には酸化シリコン絶縁膜4の膜厚が2.0μm、そして、支持基台側ウェーハ1上の酸化シリコン絶縁膜3の膜厚が1.0μmである、SOIウェーハの製造方法。」 3 引用例2とその記載内容 当審拒絶理由に引用された、本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-8124号公報(以下「引用例2」という。)には、「絶縁分離基板及びその製造方法」(発明の名称)について、図6とともに、次の記載がある。 ア 産業上の利用分野 「【0001】 【産業上の利用分野】この発明はウェハ貼り合わせ法で作製する絶縁分離基板及びその製造方法に関し、より詳細には基板の反りを容易に制御可能なウェハ貼り合わせ法で作製する絶縁分離基板及びその製造方法に関するものである。」 イ 実施例 「【0042】図6は、第3の実施例として、埋込み酸化膜の膜厚2.0μm、SOI層の厚み10μmの絶縁分離基板について、反り量をSOI層側に凹の状態で20μmに制御する場合について示したものである。 【0043】反り量をSOI層側に凹の状態で20μm、すなわち反り量を-20μmにするためには、上記関係式(1)から、膜厚差は-0.34μmとしなければならない。 【0044】したがって、図6(a)に示されるように、例えば第1シリコン基板65に膜厚0.2μmの酸化膜67、68を、第2シリコン基板66に膜厚1.8μmの酸化膜69、70を、酸化性雰囲気中で熱処理を施すことによって形成する。 【0045】次いで、図6(b)に示されるように、第1シリコン基板65と第2シリコン基板66を密着させる。次に、この状態で、上記第1シリコン基板65と第2シリコン基板66を直接接合をさせるための熱処理を行う。この熱処理を酸化性雰囲気中で行うことで、第2シリコン基板66の他方の面(絶縁分離基板の裏面)の酸化膜70の酸化膜厚を増大させて、1.8μmから2.34μmとする。 【0046】この後、図6(c)に示されるように、第1シリコン基板65の他方の面(酸化膜67′側)を研削する。次いで、この研削した面を研磨することにより、10μmのSOI層71を得る。 【0047】これにより、埋込み酸化膜72の膜厚2μm、裏面の酸化膜70′の膜厚2.34μm、膜厚差-0.34μmとなって、絶縁分離基板73の反りはSOI層71側に凹状で20μmとなる。」 ウ 上記イの段落【0045】の「熱処理を酸化雰囲気中で行う」との記載から、熱酸化していることが分かるから、引用例2には、以下の方法が記載されているといえる。 ウェハ貼り合わせ法で作製する絶縁分離基板の製造方法であって、第1シリコン基板65と第2シリコン基板66に、それぞれ酸化膜を形成し、次いで、第1シリコン基板65と第2シリコン基板66を密着させ、この状態で、上記第1シリコン基板65と第2シリコン基板66を直接接合をさせるための熱処理を酸化性雰囲気中で行うことで、第1のシリコン基板65と第2のシリコン基板66の表面を熱酸化する方法。 第4 対比 1 本願発明と引用発明とを対比すると、 ア 引用発明の「支持基台側ウェーハ1」、「活性層側ウェーハ2」は、それぞれ、本願発明の「ベースウェーハ」、「活性ウェーハ」に相当し、引用発明の「酸化シリコン絶縁膜3」及び「酸化シリコン絶縁膜4」は、共に本願発明の「酸化膜」に相当するから、引用発明の「支持基台側ウェーハ1には酸化シリコン絶縁膜3を、活性層側ウェーハ2には酸化シリコン絶縁膜4を、それぞれ形成」することは、本願発明の「ベースウェーハの表面と活性ウェーハの表面にそれぞれ酸化膜を形成」することに相当する。 イ 引用発明の「支持基台側ウェーハ1上の酸化シリコン絶縁膜3と、活性層側ウェーハ2上の酸化シリコン絶縁膜4とを直接接着法により接合し、支持基台側ウェーハ1と活性層側ウェーハ2との間に酸化シリコン絶縁膜5を形成」することは、本願発明の「該酸化膜を介して前記ベースウェーハと活性ウェーハを重ねて接着する」ことに相当する。 ウ 引用発明の「支持基台側ウェーハ1と活性層側ウェーハ2との間の酸化シリコン絶縁膜5の膜厚が3.0μm」であることは、本願発明の「前記ベースウェーハと活性ウェーハとの接着部に介設される中間酸化膜厚を3μm以上」であることに相当する。 エ 引用発明において、「活性層側ウェーハ2には酸化シリコン絶縁膜4の膜厚が2.0μm、そして、支持基台側ウェーハ1上の酸化シリコン絶縁膜3の膜厚が1.0μmである」から、「直接接着法により接合」する、「活性層側ウェーハ2」と「支持基台側ウェーハ1」の各表面に形成する「酸化シリコン絶縁膜4」と「酸化シリコン絶縁膜3」の厚みの差は、(2.0μm-1.0μm=)1.0μmとなる。 そうすると、引用発明の「活性層側ウェーハ2には酸化シリコン絶縁膜4の膜厚が2.0μm、そして、支持基台側ウェーハ1上の酸化シリコン絶縁膜3の膜厚が1.0μmである」ことは、本願発明の「前記接着するベースウェーハと活性ウェーハの各表面に形成する酸化膜の厚みの差を2μm以下」とすることに相当することが分かる。 2 したがって、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりとなる。 〈一致点〉 「ベースウェーハの表面と活性ウェーハの表面にそれぞれ酸化膜を形成し、該酸化膜を介して前記ベースウェーハと活性ウェーハを重ねて接着する貼り合せSOIの製造方法において、前記ベースウェーハと活性ウェーハとの接着部に介設される中間酸化膜厚を3μm以上にし、前記接着するベースウェーハと活性ウェーハの各表面に形成する酸化膜の厚みの差を2μm以下とする貼り合せSOIウェーハの製造方法。」 〈相違点〉 相違点1 本願発明は、「該酸化膜を介して前記ベースウェーハと活性ウェーハを重ねて接着するとともに接着されたベースウェーハと活性ウェーハの表面を熱酸化する」のに対し、引用発明では、「支持基台側ウェーハ1上の酸化シリコン絶縁膜3と、活性層側ウェーハ2上の酸化シリコン絶縁膜4とを直接接着法により接合」するものの、接合された「支持基台側ウェーハ1」と「活性層側ウェーハ2」の表面を熱酸化する構成がない点。 相違点2 本願発明は、「ベースウェーハと活性ウェーハの断面にベースウェーハと活性ウェーハを構成している原子のスリップ現象が発生することを抑制する」のに対し、引用発明では、「支持基台側ウェーハ1」と「活性層側ウェーハ2」の断面に「支持基台側ウェーハ1」と「活性層側ウェーハ2」を構成している原子のスリップ現象が発生することを抑制することについての特定がない点。 第5 相違点についての検討 (1)相違点1について ア まず、引用発明は、「支持基台側ウェーハ1上の酸化シリコン絶縁膜3と、活性層側ウェーハ2上の酸化シリコン絶縁膜4とを直接接着法により接合」する「SOIウェーハの製造方法」である。 イ そして、上記第3の3により、引用例2には、「ウェハ貼り合わせ法で作製する絶縁分離基板の製造方法であって、第1シリコン基板65に酸化膜を、第2シリコン基板66に酸化膜を、形成し、次いで、第1シリコン基板65と第2シリコン基板66を密着させ、この状態で、上記第1シリコン基板65と第2シリコン基板66を直接接合をさせるための熱処理を酸化性雰囲気中で行うことで、第1のシリコン基板65と第2のシリコン基板66の表面を熱酸化する方法」が記載されている。 ウ 引用発明と引用例2に記載の方法は、共に、貼り合せSOIウェーハの製造方法という点で共通する。 エ ここで、貼り合せSOIウェーハの製造方法である「直接接着法」において、貼り合せた後、熱処理を行うことは、例えば、以下の周知例1に記載されているように、本願の出願日前の周知技術として知られていたものである。 (周知例1:特開平9-223667号公報) 上記周知例1には、次の記載がある。 「【0002】 【従来の技術】図1に示したように、支持基板1、この支持基板1上に形成された絶縁膜2、およびこの絶縁膜2によって上記支持基板1から分離された薄い単結晶の半導体層3から構成された積層基板は、シリコン・オン・インシュレータ(SOIと略称される)基板として周知である。 【0003】このSOI基板を形成する方法としては、(a)支持基板1の内部に高濃度の酸素イオンを注入した後、高温熱処理を行って絶縁膜2を形成し、この絶縁膜2の表面上に薄い単結晶半導体層3を形成する方法、および(b)単結晶半導体基板3の表面上に絶縁膜2をあらかじめ形成しておき、上記支持基板1と絶縁膜3を互いに対向させて直接接着法によって張合わせた後、接着強度を大きくするための熱処理を行い、次に単結晶半導体基板3の裏面側から研削、研磨、およびプラズマエッチング等を順次行って、単結晶半導体基板3を薄くし、半導体層3とする方法、等が行われている。」 オ そうすると、上記ウの周知技術を勘案すれば、引用発明において、直接接着法により貼り合わせた後、熱処理を行うことは当業者であれば、普通に想起し得るものであり、その熱処理する手段として、引用例2に記載された、熱処理を酸化性雰囲気中で行い熱酸化する方法を採用することは、当業者が容易になし得たものである。 (3)相違点2について ア SOIの製造方法において、熱処理時の熱膨張係数の違いにより、応力が発生し、反りやスリップが生じることは、例えば、以下の周知例2に記載されているように、本願の出願日前に周知の課題として知られていたものである。 (周知例2:特開平7-235651号公報) 上記周知例2には、次の記載がある。 ・従来の技術 「【0006】また貼り合わせSOIにおいてもう1つの重要な問題がある。それは絶縁体基板とシリコン基板の熱膨張係数の違いである。支持体となる基板側にシリコン基板を用いる場合(即ちシリコン基板同志の貼り合わせ)にはこの熱膨張係数の違いは殆ど問題にならない。しかし、熱膨張係数の大きく違う基板同志を貼り合わせて、温度変化が起こった場合、両基板の熱膨張係数の違いに起因する応力が発生する。」 ・実施態様例 「【0043】(図1b) 以上のようにして形成した多孔質層101上に、非多孔質の単結晶シリコン層102をエピタキシャル成長させる。エピタキシャル成長は一般的な熱CVD、減圧CVD、プラズマCVD、分子線エピタキシー、スパッタ法等で行う。成長する膜厚はSOI層の設計値と同じくすれば良いが、好ましくは2μm以下の膜厚が良い。これは2μm以上の膜厚の単結晶シリコン膜がSiO_(2)を主成分とする絶縁体基板と密着している場合、これをデバイスプロセスで熱処理すると両材料の熱膨張係数の違いから貼り合わせ界面に大きな応力が発生し、シリコン膜の破壊、基板の反り、または界面での剥離等が起こってしまうからである。膜厚が2μm以下であれば応力は比較的小さいので、膜の破壊、剥離、反り等は起こりにくい。より好ましくは、0.5μm以下である。これは0.5μm以上の膜厚であると、後のアニールの際に剥離、破壊等が起こらなくても、微小な領域において結晶にスリップラインが生じやすくなるからである。」 イ そして、引用発明においては、引用例1の段落【0015】の「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の製造方法に係るSOIウェーハにおいては、反りの発生という問題点があり、その原因はシリコンと酸化シリコン絶縁膜の熱膨張率のちがいにより支持基台側ウェーハ10及び活性層20に作用する引っ張り応力と、酸化シリコン絶縁膜30に作用する圧縮応力との不均衡に起因すると考えられる。」と、段落【0020】の「本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、反りの発生を低減することができるSOIウェーハの製造方法を提供することである。」との記載から、熱膨張率のちがいにより作用する応力についての課題を有するとともに、反りの発生を低減していることが分かる。 ウ そうすると、上記アの周知の課題からも明らかなように、SOIの製造方法において、応力が発生すると、「反り」だけでなく「スリップ」も生じ得ることに鑑みれば、応力についての課題を有する引用発明において、「反りの発生の低減」を実現するとともに、「スリップ」の抑制も同様に実現しようとすることは、当業者が当然に考慮することといえる。 エ したがって、相違点2は、当業者が適宜なし得たものである。 (4)以上検討したとおり、本願発明は、周知技術を勘案することにより、引用発明及び引用例2に記載された発明に記載された技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第6 結言 以上のとおりであるから、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-02-23 |
結審通知日 | 2012-02-28 |
審決日 | 2012-03-21 |
出願番号 | 特願平11-266982 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大嶋 洋一 |
特許庁審判長 |
齋藤 恭一 |
特許庁審判官 |
松田 成正 近藤 幸浩 |
発明の名称 | 貼り合せSOIウェーハの製造方法 |
代理人 | 五十嵐 清 |