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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1256783
審判番号 不服2010-24662  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-02 
確定日 2012-05-07 
事件の表示 特願2006-117471「送信装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月10日出願公開、特開2006-211726〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成17年6月21日(優先日:平成16年6月28日)に出願した特願2005-180550号の一部を平成18年4月21日に新たな特許出願としたものであって、平成22年4月6日付けで拒絶理由通知がなされ、平成22年6月11日付けで手続補正がなされたが、同年7月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月2日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成22年6月11日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲及び明細書並びに図面の記載からみて、次の事項により特定されるものである。(以下、「本願発明」という。)

(本願発明)
「非MIMO通信システムで規定された第1の伝送路特性推定用の既知信号と、前記非MIMO通信システムとは異なったMIMO通信システムで規定された第2の伝送路特性推定用の既知信号とを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶した第1の伝送路特性推定用の既知信号の後段に、前記記憶部に記憶した第2の伝送路特性推定用の既知信号が配置され、かつ第2の伝送路特性推定用の既知信号の後段にデータが配置された第1のパケットフォーマット、前記記憶部に記憶した第1の伝送路特性推定用の既知信号が配置されずに、前記記憶部に記憶した第2の伝送路特性推定用の既知信号が配置され、かつ第2の伝送路特性推定用の既知信号の後段にデータが配置された第2のパケットフォーマット、前記記憶部に記憶した第2の伝送路特性推定用の既知信号が配置されずに、前記記憶部に記憶した第1の伝送路特性推定用の既知信号が配置された第3のパケットフォーマットのいずれかの信号を生成する生成部と、
前記生成部において生成した信号を送信する送信部と、
を備えることを特徴とする送信装置。」


第3.引用刊行物記載の発明
A.原査定の平成22年4月6日付けの拒絶理由に引用文献1として引用された、Jianhua Liu, Jian Li, Petre Stoica,“A MIMO SYSTEM WITH BACKWARD COMPATIBILITY FOR OFDM BASED WLANS”,2003 4th IEEE Workshop on Signal Processing Advances In Wireless Communications, SPAWC 2003,IEEE,2003年 6月18日,pp. 130-134(以下「引用例1」という。)は、「A MIMO SYSTEM WITH BACKWARD COMPATIBILITY FOR OFDM BASED WLANS」(訳文:OFDMベースのWLANに後方互換性を有するMIMOシステム)に関するもので、図面とともに以下の記載がある。

a.「Orthogonal frequency-division multiplexing (OFDM) has been selected as the basis for the new IEEE 802.11a standard for highspeed wireless local area networks (WLANs). We consider doubling the data rate of the IEEE 802.11a system by using a multi-input multi-output (MIMO) system with two transmit and two receive antennas. We propose a preamble design for this MIMO system that is backward compatible with its single-input single-output (SISO) counterpart as specified by the IEEE 802.11a standard. Based on this preamble design, we devise a sequential method for the estimation of the carrier frequency offset (CFO), symbol timing, and channel response.」(130頁左欄2?12行)
(訳文:直交周波数分割多重方式(OFDM)は、高速無線構内通信網(WLAN)用の新しいIEEE802.11aシステムの基礎として採用された。我々は、2つの送信アンテナと2つの受信アンテナの複数入力複数出力(MIMO)システムを用いることにより、IEEE802.11a規格のデータレートを2倍にすることを検討する。我々は、IEEE802.11a規格に規定された単一入力単一出力(SISO)の相手に対して後方互換性を有するこのMIMOシステム用のプリアンブル設計を提案する。このプリアンブル設計を基礎として、我々はキャリア周波数オフセット(CFO)、シンボルタイミング、及び、チャンネル応答推定の一連の方法を考案する。)

b.「Orthogonal frequency-division multiplexing (OFDM) has been selected as the basis for the IEEE 802.11a 5 GHz band high-speed wireless local area network (WLAN) standard [1]. This standard supports a data rate up to 54 Mbps by using a single-input single output (SISO) system.
Transmission data rates higher than 54 Mbps are of particular importance for future WLANs. Deploying multiple antennas at both the transmitter and the receiver is a promising way to achieve a high transmission data rate for multipath-rich wireless channels without increasing the total transmission power or bandwidth [2]. The corresponding system is referred to as a multi-input multi-output (MIMO) wireless communication system.」(130頁左欄18?29行)
(訳文:直交周波数分割多重方式(OFDM)は、IEEE802.11a 5GHz帯高速無線構内通信網(WLAN)規格用の基礎として採用された[1]。この規格は、単一入力単一出力(SISO)システムを用いることにより54Mbpsまでのデータレートに対応している。
54Mbpsを超える送信データレートは、将来のWLANのために特に重要である。送信機及び受信機の双方に複数のアンテナを配置することが、マルチパスの多い無線チャネルにおいて、全体の送信電力又は帯域幅を増加させずに高い送信データレートを達成する有望な方法である。対応するシステムは、複数入力複数出力(MIMO)無線通信システムと呼ばれている。)

c.「Our focus herein is on doubling the data rate of the SISO system as specified by the IEEE 802.11a standard by using two transmit and two receive antennas (referred to as the MlMO system in the sequel) based on the BLAST scheme. We propose a preamble design for this MIMO system that is backward compatible with its SISO counterpart as specified by the IEEE 802.11a standard. That is, a SISO receiver can perform CFO, symbol timing, and channel response estimation based on the proposed preamble design and can detect up to the SIGNAL field. The SlSO receiver is then informed, by using, e.g., the reserved bit in the SIGNAL field, that a transmission is a SISO or not. Our preamble design can be used with two transmit and any number of receive antennas. However, we mainly focus on the two receive antenna case herein.」(130頁左欄40行?右欄10行)
(訳文:ここにおける我々の焦点は、BLASTスキームを基礎として、(後述においてMIMOシステムと呼ばれる)2つの送信アンテナと2つの受信アンテナを用いることにより、IEEE802.11a規格で規定されたSISOシステムのデータレートを2倍にすることである。我々は、IEEE802.11a規格に規定されたそのSISOの相手に対して後方互換性を有するこのMIMOシステム用のプリアンブル設計を提案する。すなわち、SISO受信機は、提案されたプリアンブル設計に基づいてCFO、シンボルタイミング、及び、チャンネル応答の推定を行うことができ、SIGNALフィールドまで検出することができる。そしてSISO受信機は、例えば、SIGNALフィールド内の予約ビットを用いて、送信がSISOであるか否かが知らされる。我々のプリアンブル設計は、2つの送信アンテナと任意数の受信アンテナとともに用いられ得る。しかし、我々はここで主として2つの受信アンテナのケースに焦点を絞る。)

d.「2.1. IEEE 802.11a Standard
The OFDM based WLAN system, as specified by the IEEE 802.11a standard, uses packet-based transmission. Fig. 1 shows the packet structure specified by the standard. The nominal bandwidth of the OFDM signal is 20 MHz and the I/Q sampling interval t_(s) is 50 ns. The OFDM packet preamble consists of 10 identical short OFDM training symbols t_(i),i = 1 , 2 , . . . ,10, each of which contains N_(c) = 16 samples, and 2 identical long OFDM training symbols T_(i),i = 1,2, each of which contains N_(s) = 64 samples. Between the short and long OFDM training symbols there is a long guard interval (GI2) consisting of 2N_(c) = 32 data samples. GI2 is the cyclic prefix (CP) for the long OFDM training symbol T_(1), i.e., it is the exact replica of the last 2N_(c) samples of T_(1).」(130頁右欄30?42行)
(訳文:2.1 IEEE802.11a規格
IEEE802.11a規格で規定されている、OFDMを基礎としたWLANシステムは、パケットベースの送信を用いる。図1は、当該規格で規定されたパケット構造を示す。OFDM信号の公称帯域幅は20MHzでありI/Qサンプリング間隔t_(s)は50nsである。OFDMパケットプリアンブルは、それぞれN_(c)=16サンプルを含む10の同一のショートOFDMトレーニングシンボルt_(i)(i=1,2,...,10)と、それぞれN_(s)=64サンプルを含む2つの同一のロングOFDMトレーニングシンボルT_(i)(i=1,2)から構成される。ショートOFDMトレーニングシンボルとロングOFDMトレーニングシンボルの間には、2N_(c)=32データサンプルで構成されたロングガードインターバル(GI2)がある。GI2は、ロングOFDMトレーニングシンボルT_(1)用サイクリックプレフィックス(CP)、すなわち、T_(1)の最後の2N_(c)サンプルの正確なレプリカである。)

e.「The SIGNAL field contains the information including the transmission data rate and data length of the packet. The information is encoded in 16 binary bits. There is also a reserved bit (which can be used to distinguish the MIMO from SISO transmissions) and a parity check bit.」(131頁左欄18?22行)
(訳文:SIGNALフィールドは、送信データレートとパケット長を含む情報を包含している。その情報は、16バイナリビットでエンコードされている。(MIMO送信をSISO送信と区別するために用いることが可能な)予約ビットとパリティチェックビットも存在する。)

f.「2.3. MIMO Preamble Design
For the IEEE 802.11a based SlSO system, the short training symbols can be used to detect the arrival of the packet, set up AGC, compute a coarse CFO estimate, and obtain a coarse symbol timing, whereas the long training symbols can be used to calculate a fine CFO estimate, refine the coarse symbol timing, and estimate the SlSO channel.
The MIMO system considered herein has two transmit and two receive antennas. Two packets are transmitted simultaneously from the two transmit antennas. We design two preambles, one for each transmit antenna. We assume that the receiver antenna outputs suffer from the same CFO and has the same symbol timing. To be backward compatible with the SlSO system, we use the same short training symbols as in the SlSO preamble for both of the MIMO transmit antennas, as shown in Fig. 2.
Channel estimation for MIMO systems has attracted much research interest lately. Orthogonal training sequences tend to give the best performance (see, e.g., [6] and the references therein). We also adopt this idea of orthogonal training sequences in our preamble design. In the interest of backward compatibility, we use the same T_(1) and T_(2) as for the SISO system for both of the two transmit antennas before the SIGNAL field, as shown in Fig. 2. After the SIGNAL field, we use T_(1) and T_(2) for one transmit antenna and -T_(1) and -T_(2) for the other. This way, when the simultaneously transmitted packets are received by a single SISO receiver, the SlSO receiver can successfully detect up to the SIGNAL field, which is designed to be the same for both transmit antennas. The reserved bit in the SIGNAL field can tell the SlSO receiver to stop its operation whenever a MIMO transmission follows or otherwise to continue its operation. The long training symbols before and after the SIGNAL field are used in the MIMO receivers for channel estimation.」(131頁右欄9?40行)
(訳文:2.3.MIMOプリアンブル設計
IEEE802.11aベースのSISOシステムにおいて、ショートトレーニングシンボルは、パケットの到来、AGCのセットアップ、粗CFO推定値の計算、及び、粗シンボルタイミングを得るために用いることができるのに対し、ロングトレーニングシンボルは、精密CFO推定値の計算、粗シンボルタイミングの精緻化、及びSISOチャネルの推定に用いることができる。
ここで検討されるMIMOシステムは、2つの送信アンテナと2つの受信アンテナを有する。2つのパケットは2つの送信アンテナから同時に送信される。我々は、2つのプリアンブルを設計し、一つは各送信アンテナ用である。我々は、受信アンテナ出力は同じCFOの影響を受け同じシンボルタイミングを有すると仮定する。SISOシステムと後方互換性を保つために、図2に示されるように、我々は両方のMIMO送信アンテナ用に、SISOプリアンブル内のものと同じショートトレーニングシンボルを用いる。
MIMOシステムのチャネル推定は、最近多くの研究の関心を集めている。直交トレーニングシーケンスが最も良い性能を示す傾向がある(例えば[6]及びその中の参考文献参照)。我々は、我々のプリアンブル設計にこの直交トレーニングシーケンスの考え方も取り入れる。後方互換性のために、Fig.2に示されるように、我々はSIGNALフィールドの前に、2つの送信アンテナ両方に対してSISOシステム用に同じT_(1)及びT_(2)を用いる。SIGNALフィールドの後に、我々は一方の送信アンテナにはT_(1)及びT_(2)を用い、他方には-T_(1)及び-T_(2)を用いる。このように、単一のSISO受信機によって同時に送信されたパケットが受信されたときに、SISO受信機はSIGNALフィールドまでうまく検出することができ、それは両方の送信アンテナ用に同じように設計されている。SIGNALフィールド内の予約ビットによって、MIMO送信が続くときにはいつでもSISO受信機に動作を停止するよう指示し、そうでないときは動作を続けるよう指示することができる。SIGNALフィールド前後のロングトレーニングシンボルは、MIMO受信機においてチャネル推定に用いられる。)


上記摘記事項a.?f.の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記引用例1には、高速無線構内通信網(WLAN)用の送信機が送信する信号のプリアンブルの設計について記載されている。

また、上記摘記事項d.、及び、131頁Fig.1を参照すると、上記引用例1には、ショートOFDMトレーニングシンボルt_(i)(i=1,2,...,10)と、ロングOFDMトレーニングシンボルT_(i)(i=1,2)から構成される、単一入力単一出力(SISO)システムに用いるIEEE802.11a規格によるOFDMパケットプリアンブルが配置されたパケット構造が記載されているといえる。

ここで、上記摘記事項f.を参照すると、ロングトレーニングシンボルは、SISOチャネルの推定に用いるものであるから、上記「OFDMパケットプリアンブル」は、SISOシステムのチャネル推定に用いられるプリアンブルであるといえる。

また、上記摘記事項e.、及び、131頁Fig.1を参照すると、上記「OFDMパケットプリアンブル」の後ろには、MIMO送信をSISO送信と区別するために用いることが可能な「SIGNALフィールド」が設けられているから、上記「OFDMパケットプリアンブル」を含むFig.1記載のIEEE802.11a規格のパケット構造は、MIMO送信をSISO送信と区別しなければならない環境で用いられ得るといえる。

また、上記摘記事項f.、及び、131頁Fig.2を参照すると、上記引用例1には、SISOシステム用に用いられるIEEE802.11a互換パケットプリアンブル(IEEE 802.11a compatible packet preamble)、その後段にSIGNALフィールド、その後段にMIMO受信機においてチャネル推定に用いられるロングトレーニングシンボルブロック2(Long training symbol block 2)、その後段にOFDMデータが配置されたパケット構造が記載されており、ここで、上記「IEEE802.11a互換パケットプリアンブル」は、IEEE802.11a規格で規定された上記「OFDMパケットプリアンブル」と互換性を有するものであるといえる。

そして、送信機が、信号を生成する生成手段と、生成手段で生成された信号を送信する送信手段を備えることは、この分野における技術常識であるといえる。

したがって、上記摘記事項a.?f.の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記引用例1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が開示されている。

(引用発明1)
「SISOシステムのチャネル推定に用いられるOFDMパケットプリアンブルと互換性を有するパケットプリアンブルの後段に、MIMOシステムのチャネル推定に用いられるロングトレーニングシンボルが配置され、かつMIMOシステムのチャネル推定に用いられるロングトレーニングシンボルの後段にデータが配置されたパケット構造の信号を生成する生成手段と、前記生成手段において生成された信号を送信する送信手段を備える送信機。」

B.原査定の平成22年4月6日付けの拒絶理由に引用文献2として引用された、Tsuguhide Aoki 外3名,“New preamble structure for AGC in a MIMO-OFDM system”,IEEE 802.11-00/xxx,IEEE,2004年 1月,Slides 1-5(以下「引用例2」という。)は、「New preamble structure for AGC in a MIMO-OFDM system」(訳文:MIMO-OFDMシステムにおけるAGC用の新しいプリアンブル構造)に関するもので、図面とともに以下の記載がある。

まず、Slide 3には、Example of preamble structure for MIMO system(訳文:MIMOシステム用プリアンブル構造の例)が記載されている。

このSlide 3において、以下四角の枠を「[]」、四角内の縦線を「|」として表現すると、TX1の行には、
[SP][GI|LP|LP][Sig][Sig2][G|LP][G|LP][G|LP][G|LP][DATA]
と記載されるとともに、「[SP][GI|LP|LP][Sig]」の列をまとめた吹き出し内に、
「Same as 11a → Backward compatibility」
(訳文:11aと同じ → 後方互換性)
と記載され、「[G|LP][G|LP][G|LP][G|LP]」の列をまとめて、
「Channel estimation for MIMO signals」
(訳文:MIMO信号用のチャネル推定)
と記載されている。

また、TX2の行には、[G|LP][G|LP][G|-LP][G|-LP][DATA]と、
TX3の行には、[G|LP][G|-LP][G|-LP][G|LP][DATA]と、
TX4の行には、[G|LP][G|-LP][G|LP][G|-LP][DATA]とそれぞれ記載されているとともに、[G|LP]から[DATA]の前までの列は、TX1の列と同様「Channel estimation for MIMO signals」(訳文:MIMO信号用のチャネル推定)であることが理解される。

ここで、引用例2はIEEE802.11規格に関するものであること、及び、この分野の技術常識を考慮すれば、上記「11a」とは「IEEE802.11a」を意味し、「TX」とは「送信」を意味するといえる。

また、「Same as 11a」として表現されている部分は、IEEE802.11a規格と互換性のある信号であると理解され、「Channel estimation for MIMO signals」として表現されている部分は、MIMOチャネル推定用の信号であると理解されるといえる。

そして、Slide 4に記載されたプリアンブル構造は、最初の[G|LP]の前に[2^(nd)SP]が配置されている点を除いては、Slide 3に記載されたプリアンブル構造と同様であるといえる。

したがって、上記引用例2の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記引用例2には以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が開示されている。

(引用発明2)
「IEEE802.11a規格と互換性のある信号の後段にMIMOチャネル推定用の信号が配置され、かつMIMOチャネル推定用の信号の後段にデータが配置されたプリアンブル構造と、IEEE802.11a規格と互換性のある信号が配置されずにMIMOチャネル推定用の信号が配置され、かつMIMOチャネル推定用の信号の後段にデータが配置されたプリアンブル構造の信号を送信する手段。」


第4.対比及び判断
1.対比
本願発明と引用発明1とを対比する。

引用発明1の「SISOシステム」はMIMO通信システムではないから、本願発明の「非MIMO通信システム」に相当する。

チャネル推定に既知信号であるプリアンブルを用いることはこの分野における技術常識であるといえ(請求人も、平成22年11月2日付け審判請求書の請求の理由欄において、『審査官殿のご指摘のとおり、「引用文献1の図2には、後方互換性を維持するために、OFDMで規定された第1の既知信号、シグナルフィールド、MIMOで規定された第2の既知信号、データからなるパケットフォーマットを用いることが記載されて」います。また、「引用文献1の図1には従来のOFDM信号フォーマットとしてOFDMで規定された第1の既知信号のみを用いるフォーマットも記載されて」います。』(平成22年12月6日付け手続補正書3頁10?14行参照)と述べるように、上記引用例1に「既知信号」が記載されていることについては争っていない。)、引用発明1の「チャネル推定に用いられるOFDMパケットプリアンブル」に関し、SISOシステムの「チャネル推定」を「第1の伝送路特性推定」と称することは任意であるから、引用発明1の「SISOシステムのチャネル推定に用いられるOFDMパケットプリアンブルと互換性を有するパケットプリアンブル」は、本願発明の「非MIMO通信システムで規定された第1の伝送路特性推定用の既知信号」に相当する。

引用発明1の「MIMOシステム」は通信に用いられるシステムであるから、本願発明の「MIMO通信システム」に相当する。

「ロングトレーニングシンボル」は、トレーニングを行うために規定され既知信号であることはこの分野における技術常識であるといえ、MIMOシステムは非MIMO通信システムと異なることは当然であって、MIMOシステムの「チャネル推定」を「第2の伝送路特性推定」と称することは任意であるから、引用発明1の「MIMOシステムのチャネル推定に用いられるロングトレーニングシンボル」は、本願発明の「非MIMO通信システムとは異なったMIMO通信システムで規定された第2の伝送路特性推定用の既知信号」に相当する。

「フォーマット」は「構造」を含む概念であるといえるから、引用発明1の「パケット構造」は、本願発明の「パケットフォーマット」に相当するとともに、「SISOシステムのチャネル推定に用いられるOFDMパケットプリアンブルの後段に、MIMOシステムのチャネル推定に用いられるロングトレーニングシンボルが配置され、かつMIMOシステムのチャネル推定に用いられるロングトレーニングシンボルの後段にデータが配置されたパケット構造」を「第1のパケットフォーマット」と称することは任意である。

引用発明1の「生成手段」と本願発明の「生成部」は、ともに所定の信号を生成する生成部であるといえるから、「所定信号生成部」である点で共通する。

引用発明1の「送信手段」、及び「送信機」は、本願発明の「送信部」、及び「送信装置」にそれぞれ相当する。


したがって、本願発明と引用発明1は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「非MIMO通信システムで規定された第1の伝送路特性推定用の既知信号の後段に、前記非MIMO通信システムとは異なったMIMO通信システムで規定された第2の伝送路特性推定用の既知信号が配置され、かつ第2の伝送路特性推定用の既知信号の後段にデータが配置された第1のパケットフォーマットの信号を生成する所定信号生成部と、
前記所定信号生成部において生成した信号を送信する送信部と、
を備える送信装置。」

(相違点)
(1)本願発明は「非MIMO通信システムで規定された第1の伝送路特性推定用の既知信号と、前記非MIMO通信システムとは異なったMIMO通信システムで規定された第2の伝送路特性推定用の既知信号とを記憶する記憶部」を備えているのに対し、引用発明1はそのような記憶部を備えているか不明である点。

(2)「所定信号生成部」に関し、本願発明の「生成部」は、記憶した既知信号を用いて信号を生成するのに対し、引用発明1の「生成手段」は、記憶した既知信号を用いているか不明である点。

(3)「所定信号生成部」に関し、本願発明の「生成部」は、
「第2の伝送路特性推定用の既知信号が配置され、かつ第2の伝送路特性推定用の既知信号の後段にデータが配置された第1のパケットフォーマット」、
「第1の伝送路特性推定用の既知信号が配置されずに、」「第2の伝送路特性推定用の既知信号が配置され、かつ第2の伝送路特性推定用の既知信号の後段にデータが配置された第2のパケットフォーマット」、
「第2の伝送路特性推定用の既知信号が配置されずに、」「第1の伝送路特性推定用の既知信号が配置された第3のパケットフォーマット」
のいずれかの信号を生成するものであるのに対し、
引用発明1の「生成手段」は、
上記第1のパケットフォーマットは生成するものの、
上記第2のパケットフォーマット、
上記第3のパケットフォーマット
を生成するものであるか不明である点。


2.判断
まず、相違点(1)及び(2)について以下検討する。

例えば、本願の原出願の優先日以前に公開された特開2003-51806号公報(特に、5頁7欄段落【0018】の記載参照。)、特開2004-64466号公報(特に、8頁14欄段落【0061】?9頁15欄段落【0066】の記載参照。)の記載からもわかるように、プリアンブルを記憶部に記憶し、前記記憶部に記憶されたプリアンブルを用いて信号を生成する手段は当業者に周知(以下「周知事項」という。)である。

したがって、引用発明1において、上記周知事項を参照し、伝送路特性推定用の既知信号を記憶する記憶部を備え、生成手段が、前記記憶部に記憶した既知信号を用いて生成するようにすることは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。

次に、相違点(3)について以下検討する。

(i)まず、上記引用発明1における、上記第1のパケットフォーマットに相当する構造を有する信号は、「SISOシステムのチャネル推定に用いられるOFDMパケットプリアンブル」、すなわち、非MIMO通信システムで規定された第1の伝送路特性推定用の既知信号が配置された上記第3のパケットフォーマットの信号と互換性があることから、上記第1又は第3パケットフォーマットの信号を用いることも行われ得るといえるから、上記引用発明1において、第1及び第3のフォーマットのいずれかの信号を生成するようにすることは、当業者にとって容易であるといえる。

(ii)次に、上記「第3.引用刊行物記載の発明」欄内の「B.」欄で「引用発明2」として記載したとおり、上記引用例2には
「IEEE802.11a規格と互換性のある信号の後段にMIMOチャネル推定用の信号が配置され、かつMIMOチャネル推定用の信号の後段にデータが配置されたプリアンブル構造と、IEEE802.11a規格と互換性のある信号が配置されずにMIMOチャネル推定用の信号が配置され、かつMIMOチャネル推定用の信号の後段にデータが配置されたプリアンブル構造の信号を送信する手段。」
が記載されている。

ここで、引用発明1の「SISOシステムのチャネル推定に用いられるOFDMパケットプリアンブルと互換性を有するパケットプリアンブル」は、上記「第3.引用刊行物記載の発明」欄内の「A.」欄において既述のとおり「IEEE802.11a互換パケットプリアンブル」であり、IEEE802.11a規格と互換性のあるSISO通信システムに用いられる信号であるから、引用発明2の「IEEE802.11a規格と互換性のある信号」は上記引用発明1の「SISOシステムのチャネル推定に用いられるOFDMパケットプリアンブルと互換性を有するパケットプリアンブル」と同様のものであり、本願発明の「非MIMO通信システムで規定された第1の伝送路特性推定用の既知信号」に相当するものであるといえる。

また、引用発明2の「MIMOチャネル推定用の信号」は、MIMOシステムのチャネル推定に用いられるロングトレーニングシンボルと同様のものであるといえるから、上記引用発明1の「MIMOシステムのチャネル推定に用いられるロングトレーニングシンボル」と同様のものであり、本願発明の「非MIMO通信システムとは異なったMIMO通信システムで規定された第2の伝送路特性推定用の既知信号」に相当するものであるといえる。

そして、引用発明2の「IEEE802.11a規格と互換性のある信号の後段にMIMOチャネル推定用の信号が配置され、かつMIMOチャネル推定用の信号の後段にデータが配置されたプリアンブル構造」は、「非MIMO通信システムで規定された第1の伝送路特性推定用の既知信号の後段に非MIMO通信システムとは異なったMIMO通信システムで規定された第2の伝送路特性推定用の既知信号が配置され、かつ非MIMO通信システムとは異なったMIMO通信システムで規定された第2の伝送路特性推定用の既知信号の後段にデータが配置されたプリアンブル構造」、すなわち、本願発明の「第1のパケットフォーマット」に相当するものであり、
引用発明2の「IEEE802.11a規格と互換性のある信号が配置されずにMIMOチャネル推定用の信号が配置され、かつMIMOチャネル推定用の信号の後段にデータが配置されたプリアンブル構造」は、「非MIMO通信システムで規定された第1の伝送路特性推定用の既知信号が配置されずに非MIMO通信システムとは異なったMIMO通信システムで規定された第2の伝送路特性推定用の既知信号が配置され、かつ非MIMO通信システムとは異なったMIMO通信システムで規定された第2の伝送路特性推定用の既知信号の後段にデータが配置されたプリアンブル構造」、すなわち、本願発明の「第2のパケットフォーマット」に相当するものであるといえる。

ここで、上記引用発明1及び2は、IEEE802.11a規格と後方互換性を持たせたMIMOシステム用のプリアンブル構造を設計するという共通の技術課題を有するものであり、上記引用発明1に上記引用発明2を適用する際格別の阻害要因も認められないから、引用発明1において、MIMO通信システムのためのものとして、上記引用発明2のように、各送信チャネルにおいて、上記第1のパケットフォーマット、上記第2のパケットフォーマットのいずれかの信号を生成するようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

よって、上記(i)及び(ii)より、引用発明1の生成手段が第1ないし第3のパケットフォーマットのいずれかの信号を生成することは、当業者が適宜なし得ることである。

したがって、上記各相違点は格別なものでなく、本願発明が奏する効果も、引用発明1,2及び周知事項から当業者が予測できる範囲内のものである。


第5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1,2及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-28 
結審通知日 2012-03-06 
審決日 2012-03-19 
出願番号 特願2006-117471(P2006-117471)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 龍一菊地 陽一岡 裕之  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 新川 圭二
神谷 健一
発明の名称 送信装置  
代理人 宗田 悟志  
代理人 森下 賢樹  

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