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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B
管理番号 1256788
審判番号 不服2010-26466  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-24 
確定日 2012-05-07 
事件の表示 特願2003-193406「往復動内燃機関の作動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月12日出願公開、特開2004- 44594〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願(以下、「本願」という。)は、平成15年7月8日(パリ条約による優先権主張2002年7月9日、欧州特許庁)の出願であって、平成21年1月7日付けで拒絶理由が通知され、平成21年6月8日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成21年9月24日付けで拒絶理由が通知され、平成22年1月29日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成22年2月25日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成22年6月30日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年7月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年11月24日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に、同日付けで明細書を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において、平成23年2月14日付けで書面による審尋がなされ、平成23年5月10日付けで回答書が提出されたものである。


第2 平成22年11月24日付け手続補正について
(1)平成22年11月24日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成22年6月30日付けの手続補正書によって補正された)特許請求の範囲の以下の(a)に示す請求項1ないし8を、(b)に示す請求項1ないし6に補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】 往復動内燃機関(1)の作動方法にして、該往復動内燃機関は、出口弁(3)を有するシリンダ(2)を含み、該シリンダ(2)は、その内部にピストン(5)を有し、該ピストン(5)と協働して燃焼室(22)を画成し、該ピストン(5)が下死点(UT)と上死点(OT)との間で往復移動可能に配置され、かつ該シリンダ(2)には、該下死点(UT)近くでかつその上方に掃気開口(4)が設けられており、さらに該往復動内燃機関は、タービン(9)を有する過給機系統を含み、該過給機系統は、前記シリンダ(2)内の燃焼室(22)からの排気ガス(8)で該タービン(9)が回転させられることにより駆動され、前記ピストン(5)が前記掃気開口(4)を開放した際に、圧縮空気を掃気として燃焼室(22)内に該掃気開口(4)通して送り込むようになっている、往復動内燃機関(1)を作動させる方法において、
該往復動内燃機関(1)の低負荷作動領域で、前記過給機系統(7)が充分に機能を発揮できない所定回転速度限界以下の速度で前記シリンダ(2)が、燃焼段階に次ぐ掃気前段階(V)にて作動され、該掃気前段階において、前記燃焼段階に引き続いて前記出口弁(3)が開放され、排気ガス(8)が前記燃焼室(22)から前記過給機系統(7)へ導入されることを特徴とする、往復動内燃機関(1)の作動方法。
【請求項2】 前記シリンダ(2)は、2行程方式で作動させることを特徴とする、請求項1に記載の往復動内燃機関(1)の作動方法。
【請求項3】 前記シリンダ(2)は、4行程方式で作動させることを特徴とする、請求項1に記載の往復動内燃機関(1)の作動方法。
【請求項4】 掃気段階が、前記掃気前段階に引き続いて行われることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】 前記掃気段階において、前記出口弁(3)が開放され、次いで閉鎖されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】 前記掃気前段階(V)中、前記出口弁(3)が、前記燃焼段階に引き続き開放された後に閉鎖されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】 出口弁(3)の作動およびシリンダ(2)の燃焼室(22)への燃料の噴射時期が、往復動内燃機関(1)の回転速度および/またはクランク角度(Kw)および/またはシリンダ(2)の燃焼室(22)のガス圧および/またはシリンダ(2)の燃焼室(22)の温度および/または過給機系統(7)の回転速度および/または過給機系統(7)のガス圧および/または過給機系統(7)の温度および/または往復動内燃機関(1)のその他の作動パラメータに依存して、プログラム可能な制御装置によって、制御および/または調整されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】 出口弁(3)が、前記ピストン(5)が前記下死点位置(UT)近傍に位置する時点で開放され、次いで該ピストン(5)が掃気段階の開位置の近傍にある時点で閉鎖されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】 往復動内燃機関(1)の作動方法にして、該往復動内燃機関は、出口弁(3)を有するシリンダ(2)を含み、該シリンダ(2)は、その内部にピストン(5)を有し、該ピストン(5)と協働して燃焼室(22)を画成し、該ピストン(5)が下死点(UT)と上死点(OT)との間で往復移動可能に配置され、かつ該シリンダ(2)には、該下死点(UT)近くでかつその上方に掃気開口(4)が設けられており、さらに該往復動内燃機関は、タービン(9)を有する過給機系統を含み、該過給機系統は、前記シリンダ(2)内の燃焼室(22)からの排気ガス(8)で該タービン(9)が回転させられることにより駆動され、前記ピストン(5)が前記掃気開口(4)を開放した際に、圧縮空気を掃気として燃焼室(22)内に該掃気開口(4)を通して送り込むようになっている、往復動内燃機関(1)を作動させる方法において、
該往復動内燃機関(1)の低負荷作動領域で、前記過給機系統(7)が充分に機能を発揮できない所定回転速度限界以下の速度で該往復動内燃機関(1)が運転されている時、前記燃焼室(22)に噴射された燃料が燃焼される燃焼段階後で該ピストン(5)が前記掃気開口(4)を開放するまでの期間で掃気前段階(V)を定義し、該掃気前段階の開始時前記出口弁(3)が開放され、排気ガス(8)が該記(審決注:「該」の誤記と認められる。)出口弁(3)を通して前記燃焼室(22)から前記過給機系統(7)へ導入されることを特徴とする、往復動内燃機関(1)の作動方法。
【請求項2】 前記シリンダ(2)は、2行程方式で作動させることを特徴とする、請求項1に記載の往復動内燃機関(1)の作動方法。
【請求項3】 前記シリンダ(2)は、4行程方式で作動させることを特徴とする、請求項1に記載の往復動内燃機関(1)の作動方法。
【請求項4】 前記掃気段階(V)において、前記出口弁(3)が開放され、次いで閉鎖されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】 前記出口弁(3)の作動およびシリンダ(2)の燃焼室(22)への燃料の噴射時期が、往復動内燃機関(1)の回転速度および/またはクランク角度(Kw)および/またはシリンダ(2)の燃焼室(22)のガス圧および/またはシリンダ(2)の燃焼室(22)の温度および/または過給機系統(7)の回転速度および/または過給機系統(7)のガス圧および/または過給機系統(7)の温度および/または往復動内燃機関(1)のその他の作動パラメータに依存して、プログラム可能な制御装置によって、制御および/または調整されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】 前記出口弁(3)が、前記ピストン(5)が前記下死点位置(UT)近傍に位置する時点で開放され、次いで該ピストン(5)が掃気段階の開始置の近傍にある時点で閉鎖されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。」(下線は補正箇所を示すために請求人が付したものに追加して当審で付したものである。)

(2)本件補正の目的
特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の「該掃気開口(4)通して送り込む」という記載を、誤記の訂正を目的として、本件補正後の「該掃気開口(4)を通して送り込む」と補正するとともに、拒絶査定における理由2(特許法第36条第6項第2号)に対応して、本件補正前の「前記シリンダ(2)が、燃焼段階に次ぐ掃気前段階(V)にて作動され、該掃気前段階において、前記燃焼段階に引き続いて前記出口弁(3)が開放され」という記載を、明りようでない記載の釈明を目的として、本件補正後の「該往復動内燃機関(1)が運転されている時、前記燃焼室(22)に噴射された燃料が燃焼される燃焼段階後で該ピストン(5)が前記掃気開口(4)を開放するまでの期間で掃気前段階(V)を定義し、該掃気前段階の開始時前記出口弁(3)が開放され」という記載に補正するものである。
したがって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第3号に掲げる誤記の訂正及び同法同条同項第4号に掲げる明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
(以下、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明を、「本願発明」という。)


第3 刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平2-298629号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに、例えば、次のような事項が記載されている。(なお、下線は理解の一助のため当審で付した。)

(a)「特許請求の範囲
(1)気筒上部に開閉時期可変の排気口と、燃料噴射時期可変の噴射ノズルと、ピストンの下死点近傍に設けられた吸気口からの吸気を過給する過給装置を有するエンジンのサイクルを変更するエンジンのサイクル制御装置において、エンジンの回転数が所定値より小の場合には、排気口の開閉及び燃料噴射をエンジンの1回転毎に実行せしめ、所定値以上の場合には排気口の開閉及び燃料噴射をエンジンの2回転毎に実行せしめる制御信号を出力する信号出力手段を有するエンジンのサイクル制御装置。
(2)過給装置を付勢する回転電機を有し、エンジン負荷が所定値以上の場合に該回転電機により過給装置を付勢することを特徴とする請求項(1)項記載のエンジンのサイクル制御装置。」(特許請求の範囲の請求項1及び2)

(b)「(産業上の利用分野)
本発明は、エンジンの回転数が所定回転数以下の場合には2サイクル、所定回転数以上の場合には4サイクルで稼動するエンジンのサイクルを変更するエンジンのサイクル制御装置に関する。
(中略)
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、所定回転数以下の領域においては2サイクルエンジンとして運転し、該所定回転数以上の領域においては4サイクルエンジンとして運転することのできるエンジンのサイクル制御装置を提供しようとするものである。」(第1ページ右下欄第1行ないし第2ページ左上欄第11行)

(c)「(課題を解決するための手段)
本発明によれば、気筒上部に開閉時期可変の排気口と、燃料噴射時期可変の噴射ノズルと、ピストンの下死点近傍に設けられた吸気口からの吸気を過給する過給装置を有するエンジンのサイクルを変更するエンジンのサイクル制御装置において、エンジンの回転数が所定値より小の場合には、排気口の開閉及び燃料噴射をエンジンの1回転毎に実行せしめ、所定値以上の場合には排気口の開閉及び燃料噴射をエンジンの2回転毎に実行せしめる制御信号を出力する信号出力手段を有するエンジンのサイクル制御装置を提供できる。
(作用)
本発明のエンジンのサイクル制御装置は、2サイクルエンジンしても4サイクルエンジンとしても運転可能なサイクル数可変エンジンを制御し、所定回転数以下の領域においては2サイクルエンジンとして、該所定回転数以上の領域においては4サイクルエンジンとして運転させ、低中回転数領域ではエンジン回転速度が円滑な高トルクエンジンとし、中高回転数領域では燃料消費率が小である高効率エンジンとする作用がある。」(第2ページ左上欄第12行ないし右上欄第13行)

(d)「シリンダ1の内周面にはシリンダスリーブ11が配設されており、該シリンダスリーブ11の下死点近傍におけるピストンヘッドの位置には吸気口13が周設されている。該吸気口13は吸入された吸気が時計回りに旋回するように傾斜して開口している。
シリンダ1の上部中央には副燃焼室2が設けられており、該副燃焼室2の内面は耐熱断熱材のセラミックス等からなるスリーブ21で被覆されている。該スリーブ21とシリンダスリーブ11との間は断熱ガスケット12を介して接続している。副燃焼室2の側部には該副燃焼室2内部へ燃料を時計回りに噴射する噴射ノズル22が配設されており、該噴射ノズル22は燃料の噴射タイミング及び噴射量が可変である燃料ポンプ23と接続されている。また、該副燃焼室2には副燃焼室2を介して排気を排出するための排気口が設けられており、該排気口は排気バルブ24により開閉される。そして、該排気バルブ24は軸部に配設されたバルブ駆動装置6により開閉駆動される。
前記シリンダ1内部にはピストン3が配設されており、該ピストン3のピストンヘッド面は副燃焼室2と同様に耐熱断熱材のセラミックス等により被覆されている。また、ピストンヘッド中央部には突起31が形成されており、ピストン3が上死点近傍にあるときに副燃焼室2の開口部を狭窄する。」(第2ページ左下欄第1行ないし右下欄第7行)

(e)「前記排気口より排出された排気ガスは排気管路41によりターボチャージャ4のタービンへと導かれる。該ターボチャージャ4の回転軸には回転電機(TCG)43が接続しており、外部からの電力供給により過給圧を発生させることが可能な構造を有している。また、ターボチャージャ4を通過した排気ガスは回収タービン44に導かれ、未だ排気ガスの有するエネルギを電気エネルギに変換しコントロールユニット5を介して回生する。尚、ターボチャージャ4は排気ガスあるいは外部からの電力によりコンプレッサを回転させ吸気に過給圧を付与し、該吸気を吸気管路42を経て吸気口13へと供給する。」(第2ページ右下欄第8行ないし第20行)

(f)「次に、本発明によるエンジンを、2サイクルエンジンとして運転する場合について説明する。
膨張行程が終了しピストン3が下死点近傍になると、吸気口13より過給圧が付加された吸気がシリンダ内へと流入し円周方向の旋回流となる。次に、ピストン3の上昇に伴ない排気ガスを押し上げ排気口より掃気する。そして、ピストン上昇途中で排気バルブ24により排気口を閉鎖して圧縮行程に移行し吸気を圧縮する。ピストン3の上昇に伴ないシリンダ1内の旋回流は加速され副燃焼室2内へと流入する。圧縮行程後半には該流入量は減少するが、ピストンヘッドに形成された突起31が副燃焼室2の開口面積を狭窄し、副燃焼室2へ流入する旋回流の流速を加速する。
次に、噴射ノズル22から旋回流方向に燃料を噴射すると、燃料は燃焼し膨張行程に移行する。噴射された燃料は副燃焼室2内で全て燃焼し燃焼ガスとなりピストン3を降下させる。すると、突起31により狭窄されていた副燃焼室2の開口部面積はピストン3の降下により拡大され、燃焼ガスは速やかにシリンダ内へ拡散する。そして、ピストン3の降下途中にて排気バルブ24を駆動し排気口を開放し排気ガスを排出する。そして、前記の吸気行程に連続し上記サイクルを繰換す(審決注:「繰り返す」の誤記と認められる。)。」(第3ページ右上欄第14行ないし左下欄第17行)

(g)「図面の簡単な説明
第1図は、本発明の一実施例を示すブロック図、第2図は、第1図におけるI-I断面図、第3図は、第1図におけるII-II断面図、第4図は、バルブ駆動装置の詳細図、第5図は、4サイクルエンジンのp-v線図、第6図は、4サイクルエンジンの一部を示す図、第7図は、制御内容を示すフロー図である。
1…シリンダ、2…副燃焼室、3…ピストン、4…ターボチャージャ、5…コントロールユニット、6…バルブ駆動装置。」(第4ページ右下欄第20行ないし第5ページ左上欄第10行)

上記(a)ないし(g)及び図面から分かること。

(ア)上記(a)ないし(g)及び図面から、刊行物には、往復動エンジンの作動方法が記載されていることが分かる。なお、刊行物に記載されたエンジンは、ピストンが往復動する、いわゆる「往復動エンジン」であることは技術常識から明らかである。

(イ)上記(a)ないし(g)及び図面から、刊行物に記載された往復動エンジンは、排気バルブ24を有するシリンダ1を含み、該シリンダ1はその内部にピストン3を有し、該ピストン3と協働して燃焼室を画成し、該ピストン3が下死点と上死点との間で往復移動可能に配置され、かつ該シリンダ1には、該下死点近くでかつその上方に吸気口13が設けられていることが分かる。

(ウ)上記(a)ないし(g)及び図面から、刊行物に記載された往復動エンジンは、タービンを有するターボチャージャー4を含み、該ターボチャージャー4は、前記シリンダ1内の燃焼室からの排気ガスで該タービンが回転させられることにより駆動され、前記ピストン3が前記吸気口13を開放した際に、過給圧を付与した吸気を掃気として燃焼室内に該吸気口13を通して送り込むようになっていることが分かる。

(エ)上記(a)ないし(g)及び図面から、刊行物に記載された往復動エンジンは、エンジンの回転数が所定回転数以下の領域においては、2サイクルエンジンとして運転され、該2サイクルエンジンとして運転される場合、噴射ノズル22から燃焼室に噴射された燃料が燃焼し、燃焼ガスとしてピストン3を降下させる途中にて排気バルブ24を駆動し排気口を開放し排気ガスを排出し、膨張行程が終了しピストン3が下死点近傍になると、吸気口13より過給圧が付与された吸気がシリンダ内へと流入することが分かる。なお、上記「エンジンの回転数が所定回転数以下の領域」が低負荷領域であり、ターボチャージャー4が充分に機能を発揮できない速度でエンジンが運転されている時であることは明細書の記載及び技術常識から明らかである。

(オ)上記(a)ないし(g)、(ウ)及び(エ)並びに図面から、刊行物に記載された往復動エンジンは、該往復動エンジンの低負荷領域で、前記ターボチャージャー4が充分に機能を発揮できない所定回転数以下の速度で往復動エンジンが運転されている時、前記燃焼室に噴射された燃料が燃焼される燃焼行程後で該ピストンが前記吸気口13を開放するまでの期間である吸気前の段階で排気バルブ24が開放され、排気ガスが該排気バルブ24を通して前記燃焼室から前記ターボチャージャー4へ導入されることが分かる。

上記(a)ないし(g)及び(ア)ないし(オ)並びに図面から、刊行物には、次の発明(以下、「刊行物に記載された発明」という。)が記載されているといえる。

「往復動エンジンの作動方法にして、該往復動エンジンは、排気バルブ24を有するシリンダ1を含み、該シリンダ1はその内部にピストン3を有し、該ピストン3と協働して燃焼室を画成し、該ピストン3が下死点と上死点との間で往復移動可能に配置され、かつ該シリンダ1には、該下死点近くでかつその上方に吸気口13が設けられており、さらに該往復動エンジンは、タービンを有するターボチャージャー4を含み、該ターボチャージャー4は、前記シリンダ1内の燃焼室からの排気ガスで該タービンが回転させられることにより駆動され、前記ピストン3が前記吸気口13を開放した際に、過給圧を付与した吸気を掃気として燃焼室内に該吸気口13を通して送り込むようになっている、往復動エンジンを作動させる方法において、
該往復動エンジンの低負荷領域で、前記ターボチャージャー4が充分に機能を発揮できない所定回転数以下の速度で往復動エンジンが運転されている時、前記燃焼室に噴射された燃料が燃焼される燃焼行程後で該ピストンが前記吸気口13を開放するまでの期間である吸気前の段階で排気バルブ24が開放され、排気ガスが該排気バルブ24を通して前記燃焼室から前記ターボチャージャー4へ導入される、往復動エンジンの作動方法。」


第4 本願発明と刊行物に記載された発明との対比
本願発明と刊行物に記載された発明とを対比するに、刊行物に記載された発明における「往復動エンジン」は、形状、構造又は技術的意義からみて、本願発明における「往復動内燃機関(1)」に相当し、以下同様に、「排気バルブ24」は「出口弁(3)」に、「シリンダ1」は「シリンダ(2)」に、「ピストン3」は「ピストン(5)」に、「燃焼室」は「燃焼室(22)」に、「下死点」は「下死点(UT)」に、「上死点」は「上死点(OT)」に、「吸気口13」は「掃気開口(4)」に、「タービン」は「タービン(9)」に、「ターボチャージャー4」は「過給器系統」に、「排気ガス」は「排気ガス(8)」に、「過給圧を付与した吸気」は「圧縮空気」に、「低負荷領域」は「低負荷作動領域」に、「燃焼行程」は「燃焼段階」に、それぞれ相当する。
また、刊行物に記載された発明における「ターボチャージャー4が充分に機能を発揮できない所定回転数以下の速度で往復動エンジンが運転されている時」は、「過給器系統が充分に機能を発揮できない所定回転速度以下の速度で該往復動内燃機関が運転されている時」である限りにおいて、本願発明における「過給機系統(7)が充分に機能を発揮できない所定回転速度限界以下の速度で該往復動内燃機関(1)が運転されている時」に相当する。
また、刊行物に記載された発明における「前記燃焼室に噴射された燃料が燃焼される燃焼行程後で該ピストンが前記吸気口13を開放するまでの期間である吸気前の段階で排気バルブ24が開放され」は、「前記燃焼室に噴射された燃料が燃焼される燃焼段階後で該ピストンが前記掃気開口を開放するまでの期間である吸気前の段階で出口弁が開放され」である限りにおいて、本願発明における「前記燃焼室(22)に噴射された燃料が燃焼される燃焼段階後で該ピストン(5)が前記掃気開口(4)を開放するまでの期間で掃気前段階(V)を定義し、該掃気前段階の開始時前記出口弁(3)が開放され」に相当する。

してみると、本願発明と刊行物に記載された発明は、
「往復動内燃機関の作動方法にして、該往復動内燃機関は、出口弁を有するシリンダを含み、該シリンダは、その内部にピストンを有し、該ピストンと協働して燃焼室を画成し、該ピストンが下死点と上死点との間で往復移動可能に配置され、かつ該シリンダには、該下死点近くでかつその上方に掃気開口が設けられており、さらに該往復動内燃機関は、タービンを有する過給機系統を含み、該過給機系統は、前記シリンダ内の燃焼室からの排気ガスで該タービンが回転させられることにより駆動され、前記ピストンが前記掃気開口を開放した際に、圧縮空気を掃気として燃焼室内に該掃気開口を通して送り込むようになっている、往復動内燃機関を作動させる方法において、
該往復動内燃機関の低負荷作動領域で、前記過給機系統が充分に機能を発揮できない所定回転速度以下の速度で該往復動内燃機関が運転されている時、前記燃焼室に噴射された燃料が燃焼される燃焼段階後で該ピストンが前記掃気開口を開放するまでの期間である掃気前の段階で前記出口弁が開放され、排気ガスが該出口弁を通して前記燃焼室から前記過給機系統へ導入される、往復動内燃機関の作動方法。」
である点で一致し、次の(a)及び(b)の点で相違する。

<相違点>
(a)「該往復動内燃機関の低負荷作動領域で、前記過給機系統が充分に機能を発揮できない所定回転速度以下の速度で該往復動内燃機関が運転されている時」における「所定回転速度以下の速度」に関して、本願発明においては、「所定回転速度限界以下の速度」であるのに対し、刊行物に記載された発明においては、「所定回転速度以下の速度」ではあるが、「所定回転速度限界以下の速度」と同じ速度であるかどうか不明である点(以下、「相違点1」という。)。

(b)「前記燃焼室に噴射された燃料が燃焼される燃焼段階後で該ピストンが前記掃気開口を開放するまでの期間である掃気前の段階で前記出口弁が開放され」に関して、本願発明においては、「前記燃焼室(22)に噴射された燃料が燃焼される燃焼段階後で該ピストン(5)が前記掃気開口(4)を開放するまでの期間で掃気前段階(V)を定義し、該掃気前段階の開始時前記出口弁(3)が開放され」であるのに対し、刊行物に記載された発明においては、「掃気前段階(V)」が格別定義されておらず、「該掃気前段階の開始時」に、本願発明の出口弁(3)に相当する排気バルブ24が開放されるかどうか明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。


第5 相違点についての検討・判断
(a)相違点1について
本願発明における「所定回転速度限界」は、明細書中の「第1の所定回転速度限界」に対応していると考えられる。
平成22年1月29日付け手続補正書により補正された明細書の段落【0009】には、次のように記載されている。
「本発明の方法は、好ましくは、出口弁の作動および燃料噴射時間が、第1の所定回転速度限界よりも低い底負荷領域、例えば、大型ディーゼルエンジンの起動後に連携して制御および/または調整されるような、大型ディーゼルエンジン、特に、クロスヘッド大型ディーゼルエンジンの作動において用いられる。底負荷領域は、例えば、往復動内燃機関が最大限到達できるフルパワーの略10パーセントまでの負荷領域を含むことが出来るが、このフルパワーの10パーセントの負荷領域に限定すべきものでない。エンジンのシリンダの燃焼室から排出される高温排気ガスによって駆動されるターボ過給機は、第1回転速度限界よりも少なくとも低い速度では要求出力を提供し得ず、・・・(以下略)・・・」(段落【0009】)
つまり、「第1の所定回転速度限界」は、「例えば、最大に到達できる往復動内燃機関のフルパワーの略10パーセントまでの負荷領域」である「底負荷領域」を規定するものであるが、10パーセントまでの負荷領域に限定されるものではないことが分かる。
このように、本願発明における「所定回転速度限界」において、「限界」という語には格別な意味はないことが分かる。

一方、「第3 刊行物に記載された発明」において検討したように、刊行物に記載された発明における「所定回転数以下の速度」は、「ターボチャージャー4が充分に機能を発揮できない所定回転数以下の速度」であることは明細書の記載及び当該技術分野における技術常識から明らかであって、両者は「該往復動内燃機関の低負荷作動領域で、前記過給機系統が充分に機能を発揮できない所定回転速度以下の速度」であることで一致している。

また、少なくとも、本願発明における「所定回転速度限界以下の速度」は、刊行物に記載された発明における「所定回転数以下の速度」と重複している。

してみると、刊行物に記載された発明における「前記ターボチャージャー4が充分に機能を発揮できない所定回転数以下の速度」における「所定回転数以下の速度」を、「所定回転速度限界以下の速度」とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

よって、刊行物に記載された発明において、「前記ターボチャージャー4が充分に機能を発揮できない所定回転数以下の速度」を、「前記過給機系統が充分に機能を発揮できない所定回転速度限界以下の速度」とすることにより、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。


(b)相違点2について
本願発明においては、「前記燃焼室(22)に噴射された燃料が燃焼される燃焼段階後で該ピストン(5)が前記掃気開口(4)を開放するまでの期間で掃気前段階(V)を定義」されているが、燃焼段階後のいつの時点で掃気前段階(V)が開始するのかは限定されていない。つまり、本願発明における「掃気前段階(V)」は、燃焼段階後のある時点から該ピストン(5)が前記掃気開口(4)を開放するまでの期間を「掃気前段階(V)」と定義しているにすぎない。したがって、出口弁が開放される「掃気前段階の開始時」は、「燃焼段階後で該ピストン(5)が前記掃気開口(4)を開放するまでの期間の開始時」ということになるが、該「掃気前段階の開始時」が燃焼段階後のいつの時点であるかは特定されていない。
これに対し、刊行物に記載された発明においては、「掃気前段階を定義する」構成は有していないが、本願発明における「燃焼段階後で該ピストンが前記掃気開口を開放するまでの期間の開始時」に相当する「前記燃焼室に噴射された燃料が燃焼される燃焼行程後で該ピストンが前記吸気口13を開放するまでの期間である吸気前の段階」において、本願発明における「出口弁(3)」に相当する「排気バルブ24」が開放されるという構成を有している。したがって、「前記燃焼室に噴射された燃料が燃焼される燃焼段階後で該ピストンが前記掃気開口を開放するまでの期間」である「掃気前段階の開始時」に「前記出口弁が開放され」る点では両者は実質的に一致しているといえる。

また、「掃気前段階」という用語を定義して用いることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

よって、刊行物に記載された発明において、「前記燃焼室に噴射された燃料が燃焼される燃焼段階後で該ピストンが前記掃気開口を開放するまでの期間で掃気前段階を定義し」、「該掃気前段階の開始時前記出口弁が開放され」とすることにより、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。

また、本願発明を全体としてみても、刊行物に記載された発明から想定される以上の格別の作用効果を奏するものとは認められない。

したがって、本願発明は、刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-06 
結審通知日 2011-12-09 
審決日 2011-12-21 
出願番号 特願2003-193406(P2003-193406)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 淳  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 金澤 俊郎
安井 寿儀
発明の名称 往復動内燃機関の作動方法  
代理人 森 徹  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 肇  
代理人 吉田 裕  

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