• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1256791
審判番号 不服2011-588  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-11 
確定日 2012-05-07 
事件の表示 特願2010-52906号「調理用簀の子」拒絶査定不服審判事件〔平成22年6月3日出願公開、特開2010-119394号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件に係る出願(以下「本願」という。)は、出願日が平成19年7月23日である実願平2007-5631号(以下「原出願」という。)を平成22年3月10日に特許出願に変更したものであって、平成22年10月28日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年11月1日)、これに対し、平成23年1月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともにその審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。
それに対し、当審により、同年11月2日付けで拒絶理由通知がなされ、同年12月26日に意見、補正がなされ、さらに、平成24年1月19日付けで拒絶理由通知がなされ、同年2月3日に手続補正がなされたものである。

2 本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年2月3日の手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「多数の細帯片の各側辺部に隣接する細帯片との間に通口部と連結片とを介して全体を構成し、前記細帯片の一側表面部は凸形状に形成するとともに前記連結片は細帯片の高さの半分以下の厚さにして成る簀の子において、前記細帯片の一側表面部は凹凸部及びこの凹凸部の表面には小凸部をさらに形成したダブルエンボス面に形成し、前記細帯片の他側裏面部は平坦面に形成して成ることを特徴とする調理用簀の子。」

3 刊行物について
(1)当審による平成24年1月19日付け拒絶理由において提示され、原出願の出願前に頒布された刊行物である実願昭49-145669号(実開昭51-70296号)のマイクロフィルム(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「2 実用新案登録請求の範囲
複数本の棒状厚肉部が一定の間隔をあけて薄肉部で連結されるようにプラスチツクで一体成形されてなる寿司用巻簀。
3 考案の詳細な説明
本考案は新規な寿司用巻簀に関する。さらに詳しくは破損しにくくかつ安全で衛生的な寿司用巻簀に関する。」(第1ページ第4?11行)
イ 「さらに寿司飯および海苔その他の汚れを洗い落すには、水あるいは湯の中にかなりの時間つけておかないときれいに取除くことができず、…問題もある。」(第2ページ第13?19行)
ウ 「本考案はこのような問題の解決のためになされたものであり、巻簀をプラスチツクで一体成形したものである。すなわち、本考案の寿司用巻簀は複数本の棒状厚肉部が一定の間隔をあけて薄肉部で連結されるようにプラスチツクで一体成形されてなるものであり、このようなプラスチツク材としてはナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどが好適に使用される。
つぎにこれを図面によつて説明する。第1図は本考案の寿司用巻簀の一実施例を示す部分平面図、第2図はそのA-A線断面図、第3図は他の実施例を示す部分斜視図である。図面において1は棒状厚肉部、2は該棒状厚肉部1を連結する薄肉部であり、これらはプラスチツクで一体に成形されている。棒状厚肉部1は長軸が約4mm、短軸が約3mmの楕円形で長さ250mm程度に形成されており、1mm?2mm程度の間隔があくように薄肉部2で連結され、約50本順次並べられている。薄肉部2は0.2?1mm程度の肉厚で形成され、棒状厚肉部1と直交するように複数枚(本実施例では4枚で、うち2枚のみ図示されている)等間隔で配置されている。」(第3ページ第2行?第4ページ第4行)
エ 「さらに巻簀をプラスチツクでつくると表面に付着した汚れを簡単に洗い落とすことができ、しかも綿糸や竹棒を使用していないため、水気をふきとるだけですぐに使用できるので、連続作業にも適している。
なお、本実施例においては棒状厚肉部の断面形状は楕円形としているが必らずしも楕円形にする必要はなく、円形、台形、角形など種々のものを採用することができ、厚肉部としては中実のものだけでなく中空のものとしてもよい。また、棒状厚肉部のサイズ、使用本数は製造する巻簀の大きさによつて変化するのはもちろんであり、薄肉部の巾、使用枚数も任意であり、その取付位置も本実施例のごとく棒状厚肉部の中央部だけでなく、その上部あるいは下部に設けるようにしてもよい。また薄肉部は棒状厚肉部相互の間隔を完全に埋めるようなものとしてもよい。…以上述べたごとく、本考案の寿司用巻簀は棒状厚肉部と薄肉部とをプラスチツクで一体成形したもので、破損しにくく、安全で衛生的であるのできわめて好ましいものである。」(第5ページ第3行?第6ページ第11ページ)
オ 上記記載事項エにおいて、「棒状厚肉部の断面形状は楕円形としているが必らずしも楕円形にする必要はなく、円形、台形、角形など種々のものを採用することができ」とあることから、棒状厚肉部1の断面形状として台形のものを認定できる。
そして、「薄肉部の巾、使用枚数も任意であり、その取付位置も本実施例のごとく棒状厚肉部の中央部だけでなく、その上部あるいは下部に設けるようにしてもよい。」の記載からみて、棒状厚肉部1が台形の場合、薄肉部2は下部に設けられるものと認められる。

上記ア?エの記載事項、上記オの認定事項、及び、図面の図示内容を総合勘案すると刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「複数本の棒状厚肉部1が一定の間隔をあけて薄肉部2で連結され、薄肉部2は、棒状厚肉部1と直交するように複数枚等間隔で配置され、棒状厚肉部1の断面形状は台形であり、棒状厚肉部1や薄肉部2は、ポリエチレン、ポリプロピレンといったプラスチツク材で一体成形されてなる寿司用巻簀において、
薄肉部2の棒状厚肉部1への取付位置を棒状厚肉部1の下部とし、表面に付着した寿司飯及び海苔その他の汚れを簡単に洗い落とすことができる寿司用巻簀。」

(2)同じく、当審による平成24年1月19日付け拒絶理由において提示され、原出願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-288216号公報には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】巻き寿司を作るための巻き寿司成形具であって、弾性変形可能なシート体から成り、このシート体の表面には、飯の付着を抑制するための付着抑制手段が形成されていることを特徴とする巻き寿司成形具。
【請求項2】
付着抑制手段が、シート体の表面に対して突出する多数の突部から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の巻き寿司成形具。」(段落【特許請求の範囲】)
イ 「【発明が解決しようとする課題】
本発明は以上の実情に鑑みて開発したものであって、目的とするところは、飯が不用意に付着するのを抑制して、裏まきの巻き寿司を簡単且つ容易に作ることの出来る巻き寿司成形具を提供することにある。
」(段落【0005】)
ウ 「 図1は巻き寿司成形具の表面側を見た斜視図、図2は寿司成形具の背面側を見た斜視図、図3は巻き寿司成形具の要部を拡大して示す断面図であって、この巻き寿司成形具1、基本的には可撓性材料からなり弾性的に変形可能な成形シート2から構成されている。
図に示す成形シート2は、発泡させた軟質のポリエチレン樹脂材料から平面視長方形に形成されたものであって、手で簡単に湾曲状に変形することが可能で、また湾曲状に変形させた状態から手を離すと簡単に元の平面状に弾性的に変形するものとしている。
そして成形シート2は、厚肉に形成され、その表面には、飯の付着を抑制するための付着抑制手段として、多数の小さな突起3が突設されている。
図に示すこれら突起3は、成形シート2の表面から半球状に突出している。
また成形シート2の裏面には、手が滑るのを抑制するための滑り止め手段として、成形シート2の幅方向(図2において矢印X方向)に延びる多数の凸条4が突設されているのであって、これら凸条4は、手の滑り止めの外に、成形シート2の幅方向への撓みを規制する一方、成形シート2の長さ方向での撓みを許容して、例えば渦巻き状に自由に巻けるように弾性変形自由としている。
また実施形態では、前述の付着抑制手段として、更に成形シート2の表面にフッ素樹脂のコーティング処理が施されて、より一層、成形シート2の表面に飯などが付着し難くされている。」(段落【0013】?【0018】)

上記ア?ウの記載事項及び図面の図示内容を総合勘案すると刊行物2には、次の発明が記載されていると認められる。
「巻き寿司を作るための巻き寿司成形具1であって、弾性変形可能な成形シート2から成り、この成形シート2の表面には、飯の付着を抑制するための付着抑制手段として、多数の小さな突起3が突設されている巻き寿司成形具1。」

4 対比
本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。
刊行物1に記載された発明の「複数本の棒状厚肉部1が一定の間隔をあけて薄肉部2で連結され、薄肉部2は、棒状厚肉部1と直交するように複数枚等間隔で配置され」ることは、複数枚等間隔で配置される薄肉部2の間に開口部が形成されるものであるから、本願発明の「多数の細帯片の各側辺部に隣接する細帯片との間に通口部と連結片とを介して全体を構成」することに相当し、以下同様に、
「棒状厚肉部1の断面形状は台形であ」ることは、台形の上面部は凸状に形成されるものであるから、「細帯片の一側表面部は凸形状に形成する」ことに、
「簀の子」は、「寿司用巻簀」に、
「薄肉部2の棒状厚肉部1への取付位置を棒状厚肉部1の下部と」することは、棒状厚肉部1の断面形状は台形であり、その底面は平坦面であるといえ、しかも、薄肉部2は、棒状厚肉部1の下部に取り付けられていることから、寿司用巻簀は、全体としてみると、他側裏面部が平坦面に形成されているといえるから、「細帯片の他側裏面部は平坦面に形成して成る」ことに、
それぞれ相当する。

したがって、両者の一致点および相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「多数の細帯片の各側辺部に隣接する細帯片との間に通口部と連結片とを介して全体を構成し、前記細帯片の一側表面部は凸形状に形成して成る簀の子において、前記細帯片の他側裏面部は平坦面に形成して成ることを特徴とする調理用簀の子。」

[相違点1]
本願発明では、連結片は細帯片の高さの半分以下の厚さにして成るのに対して、刊行物1に記載された発明では、棒状厚肉部1の高さと薄肉部2の肉厚との関係は不明である点。

[相違点2]
本願発明では、細帯片の一側表面部は凹凸部及びこの凹凸部の表面には小凸部をさらに形成したダブルエンボス面に形成されるのに対して、刊行物1に記載された発明では、棒状厚肉部1の一側表面部はダブルエンボス面に形成されていない点。

5 当審による判断
(1)上記相違点1について
刊行物1には、棒状厚肉部1の断面形状として楕円形を採用した場合、「短軸が約3mm」であり、「薄肉部2は0.2?1mm程度の肉厚」であること(前記3 ウを参照。)が記載されている。
ところで、上記「棒状厚肉部1」は、本願発明の「細帯片」に相当し、上記「楕円形の短軸」は、本願発明の「細帯片の高さ」に相当し、上記「薄肉部2」は、本願発明の「連結片」に相当するから、上記記載事項は、連結片が細帯片の高さの半分以下であることを示している。
これは、寿司用巻簀を、容易に巻けるようにするためであると認められるが、棒状厚肉部1の断面形状を台形にしたものにおいても同様である。
そうすると、刊行物1に記載された発明において、寿司用巻簀を、容易に巻けるように形成するために、薄肉部2を棒状厚肉部1の高さの半分以下の厚さとすることは当業者が容易になし得たものである。

(2)上記相違点2について
刊行物1に記載された発明は、棒状厚肉部1をプラスチツク材でつくることにより、表面に付着した寿司飯及び海苔その他の汚れを簡単に洗い落とすことができるものである。
そして、刊行物2に記載された発明は、巻き寿司成形具1の表面に多数の小さな突起3を突設して、飯の付着を抑制するものである。
また、飯を扱う調理用器具の技術分野において、飯等の食材の表面への付着を防止するために、調理用器具の表面部に、凹凸部を形成するとともに、この凹凸部の表面には小凸部をさらに形成したダブルエンボス面を形成することは、当審による平成24年1月19日付け拒絶理由において提示したように(特開2001-269274号公報の段落【0005】、【0012】?【0013】、【図6】や、特開2006-314691号公報の段落【0002】?【0005】、【0011】?【0013】、図面を参照。)、原出願の出願前に周知の技術事項である。
してみると、刊行物1に記載された発明の寿司用巻簀において、表面に付着した飯等の食材の汚れを簡単に洗い落とすことができるように、刊行物2に記載された発明を適用して、棒状厚肉部1の一側表面部に、飯の付着を抑制するための多数の小さな突起3を形成すること、その際に、周知の技術事項に倣って、棒状厚肉部1の一側表面部に形成される多数の小さな突起をダブルエンボスにより形成し、ダブルエンボス面とすることは当業者が容易になし得たものである。
そして、本願発明の効果についてみても、刊行物1?2に記載された発明及び周知の技術事項から当業者が予測できた効果の範囲内のものである。

なお、簀の子の「表裏両面を使い分ける」という、課題及び効果は、当審による平成24年1月19日付け拒絶理由において提示され、原出願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-201662号公報に、断面形状が山形となっている表面を伊達巻きを巻く面として使用し、平たい面となっている裏面5を、海苔巻き、ロール巻などを巻く面として使用する、表裏両面を使い分ける巻具が示されているように格別のものではない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1?2に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-13 
結審通知日 2012-03-14 
審決日 2012-03-27 
出願番号 特願2010-52906(P2010-52906)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 一ノ瀬 覚  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 長崎 洋一
佐野 遵
発明の名称 調理用簀の子  
代理人 牛木 理一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ