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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K
管理番号 1256808
審判番号 不服2011-6605  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-29 
確定日 2012-05-07 
事件の表示 特願2005-205496「車両制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月 1日出願公開、特開2007- 22255〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成17年7月14日の出願であって、平成20年6月18日付けで手続補正がなされ、平成22年5月12日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対し、同年7月16日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成22年12月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年3月29日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に同日付けの手続補正がなされ、当審における平成23年11月21日付けの書面による審尋に対して、平成24年1月12日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成23年3月29日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年3月29日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正
(1)本件補正の内容
平成23年3月29日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前(すなわち、平成22年7月16日付け)の下記(a)を、下記(b)と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
エンジンを制御するエンジン制御ECU(42)と、前記エンジンの回転を変速して駆動輪に伝達する無段変速機(1)を制御する駆動系制御ECU(17)とを有する車両制御装置において、
前記エンジン制御ECU(42)内に設けられ、複数の走行モードにそれぞれ対応したエンジン制御パラメータを出力するエンジン制御マップ(48、49)と、
前記駆動系制御ECU(17)内に設けられ、複数の走行モードにそれぞれ対応した複数の駆動系制御パラメータを出力する駆動系制御マップ(45)と、
前記エンジン制御マップ(48、49)および前記駆動系制御マップ(45)から走行モードに応じてエンジン制御パラメータおよび駆動系制御パラメータをそれぞれ選択するために走行モードを入力するモードスイッチ(19)とを備え、
前記エンジン制御ECU(41)および前記駆動系制御ECU(17)が、前記モードスイッチ(19)で選択された走行モードに応じたエンジン制御パラメータおよび駆動系制御パラメータに従ってそれぞれ制御されることを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記無段変速機(1)の変速比を調節するアクチュエータ(7)を備え、
前記駆動系制御パラメータが、走行モードに応じた目標エンジン回転数であり、
前記駆動制御ECU(17)が、エンジンの実回転数を目標エンジン回転数に収斂させるように前記アクチュエータ(7)に駆動指示を供給するドライバ(46)を有しており、
前記エンジン制御パラメータが、走行モードに応じた点火時期および燃料噴射時間であり、
前記エンジン制御ECU(42)が、前記点火時期に従って点火プラグに駆動信号を供給する点火ドライバ(50)と、前記燃料噴射時間に従って燃料噴射弁に駆動信号を供給する噴射弁ドライバ(52)とを有していることを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
エンジンを制御するエンジン制御ECU(42)と、前記エンジンの回転を変速して駆動輪に伝達する無段変速機(1)を制御する駆動系制御ECU(17)とを有する車両制御装置において、
前記エンジン制御ECU(42)内に設けられ、複数の走行モードにそれぞれ対応したエンジン制御パラメータを出力するエンジン制御マップ(48、49)と、
前記駆動系制御ECU(17)内に設けられ、複数の走行モードにそれぞれ対応した駆動系制御パラメータを出力する駆動系制御マップ(45)と、
前記エンジン制御マップ(48、49)および前記駆動系制御マップ(45)から走行モードに応じてエンジン制御パラメータおよび駆動系制御パラメータをそれぞれ選択するために走行モードを前記駆動系制御ECU(17)に入力するモードスイッチ(19)とを備え、
前記駆動系制御ECU(17)が、前記モードスイッチ(19)で選択された走行モードに応じて、前記エンジン制御系ECU(42)に複数の走行モードにそれぞれ対応して設けられた複数のエンジン制御マップ(48、49)から走行モードに応じたエンジン制御マップを選択する選択信号を出力するエンジン制御マップ選択部(47)を有しており、 前記エンジン制御ECU(41)および前記駆動系制御ECU(17)が、前記モードスイッチ(19)で選択された走行モードに応じたエンジン制御パラメータおよび駆動系制御パラメータに従ってそれぞれ制御されることを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記無段変速機(1)の変速比を調節するアクチュエータ(7)を備え、
前記駆動系制御パラメータが、走行モードに応じた目標エンジン回転数であり、
前記駆動制御ECU(17)が、エンジンの実回転数を目標エンジン回転数に収斂させるように前記アクチュエータ(7)に駆動指示を供給するドライバ(46)を有しており、
前記エンジン制御パラメータが、走行モードに応じた点火時期および燃料噴射時間であり、
前記エンジン制御ECU(42)が、前記点火時期に従って点火プラグに駆動信号を供給する点火ドライバ(50)と、前記燃料噴射時間に従って燃料噴射弁に駆動信号を供給する噴射弁ドライバ(52)とを有していることを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。」
なお、下線は請求人が補正個所を明確化するために付した。

(2)本件補正の目的
本件補正は、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「走行モードを入力する」について「前記駆動系制御ECU(17)に」との限定を付加する補正事項、同じく「前記駆動系制御ECU(17)」について「前記モードスイッチ(19)で選択された走行モードに応じて、前記エンジン制御系ECU(42)に複数の走行モードにそれぞれ対応して設けられた複数のエンジン制御マップ(48、49)から走行モードに応じたエンジン制御マップを選択する選択信号を出力するエンジン制御マップ選択部(47)を有しており、」との限定を付加する補正事項を含むものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-82193号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
なお、下線は、発明の理解の一助として当審において付したものである。

ア.「【0006】本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、可変バルブタイミング機構を制御する際、運転者の意志を反映した制御を行うことのできる可変バルブタイミング機構付きエンジン搭載車の制御装置を提供することを目的としている。」(段落【0006】)

イ.「【0046】そして、以下のエンジン制御用の電子制御装置(以下、「ECU」と略記する)60において、・・(略)・・。
【0047】ECU60は、前述のインジェクタ11、点火プラグ12、アイドル制御弁10、可変バルブタイミング機構27に供給する油圧を調節するためのオイルフロー制御弁36R,36L等のアクチュエータ類に対する制御量の演算、制御信号の出力、すなわち、燃料噴射制御、点火時期制御、アイドル回転数制御、吸気バルブ25に対するバルブタイミング制御等を行うものであり、図16に示すように、・・(略)・・。
【0052】モードセレクトスイッチ56は、予め設定された複数のバルブタイミング特性の中から運転者が所望の特性を手動操作によって選択可能な切換えスイッチユニットであり、例えば、インストルメントパネルやその周辺部に設けられている。本形態では、通常走行に対応するバルブタイミング特性のノーマルモードと、燃費を重視した走行に対応するバルブタイミング特性のエコノミーモードと、エンジン出力を重視したパワー走行に対応するバルブタイミング特性のパワーモードとの3つのモードに対応するスイッチが設けられており、モードセレクトスイッチ56によって選択されたモードに対応するスイッチ信号がI/Oインターフェイス66Aの入力ポートを介してECU60に入力される。
【0053】また、符号80は、変速機制御用の電子制御装置(TCU)であり、エンジン制御用のECU60と同様、マイクロコンピュータを中心として構成され、エンジン制御用のECU60に、SCI66Bを介して互いにデータ交換可能に接続されている。
【0054】本形態では、エンジン1の出力軸に連設される変速駆動系として、インペラとタービンとを係合するためのロックアップクラッチ85を備えたトルクコンバータ86に、前進・後退の切換や変速切り換えを行うための各種油圧クラッチや各種油圧ブレーキ等からなるクラッチ機構部とプラネタリーギヤ等からなる主変速機構部とを備えた自動変速機90が連設されている。自動変速機90には、各機構部へのライン圧やパイロット圧を制御する各種コントロール弁を一体的に形成した油圧制御部95が連設されている。
【0055】変速機制御用のTCU80には、ECU60と共用するスロットル開度センサ48、冷却水温センサ51、及び車速センサ54からの各信号が入力されると共に、タービン回転数信号、ATF油温信号、ブレーキ信号、セレクト機構部96の操作位置(変速レンジ位置)を示す信号等が入力され、更に、SCI66Bを介してECU60から送信されるモードセレクトデータ(モードセレクトスイッチ56によって選択されたモードを示す信号)を受信し、モードに応じた変速特性で、油圧制御部95を介してロックアップクラッチ85の締結・スリップ・解放を制御すると共に自動変速機90の変速制御を行う。また、TCU80からは、SCI66Bを介して変速制御データや操作位置(レンジ位置)データ、ロックアップクラッチ85の制御データ等をECU60に送信する。」(段落【0046】ないし【0055】)

ウ.「【0060】以下、運転者によって選択されたモードに対するECU60によるバルブタイミング制御及びTCU80による変速制御について、図1及び図2に示すフローチャートに従って説明する。
【0061】図1は、ECU60において所定時間毎に実行されるバルブタイミング制御ルーチンであり、このルーチンでは、先ず、ステップS101で、モードセレクトスイッチ56からの信号を読込み、選択されているバルブタイミング特性のモードがパワーモードか否かを調べる。
【0062】そして、ステップS101において、パワーモードの場合には、ステップS102で、エンジン負荷を表す基本燃料噴射パルス幅Tp(=K×Q/NE;Qは吸入空気量、Kはインジェクタ特性補正定数)とエンジン回転数NEとに基づいてパワーモード目標バルブタイミングテーブルTBLVTPOWを検索し、補間計算により目標バルブタイミング(目標変位角)VTTGTを設定する(VTTGT←TBLVTPOW(Tp,NE))。
【0063】また、選択されているバルブタイミング特性がパワーモードでない場合には、ステップS101からステップS103へ進んでノーマルモードか否かを調べ、ノーマルモードの場合には、ステップS104で基本燃料噴射パルス幅Tpとエンジン回転数NEとに基づいてノーマルモード目標バルブタイミングテーブルTBLVTNORを検索し、補間計算により目標バルブタイミングVTTGTを設定する(VTTGT←TBLVTNOR(Tp,NE))。
【0064】更に、ステップS103において、パワーモードでもノーマルモードでない場合、すなわちエコノミーモードの場合には、ステップS103からステップS105へ進んで基本燃料噴射パルス幅Tpとエンジン回転数NEとに基づいてエコノミーモード目標バルブタイミングテーブルTBLVTECOを検索し、補間計算によりエコノミーモードの目標バルブタイミングVTTGTを設定する(VTTGT←TBLVTECO(Tp,NE))。
・・(略)・・。
【0067】そして、モードセレクトスイッチ56によってパワーモードが選択されている場合には、図3に示すように、ノーマルモードに対し、進角量大の領域を拡大して相対的にバルブタイミングの進角量を増加させ、全ての運転領域において、その運転領域でエンジン1の最大出力を得るに適切な目標バルブタイミングがパワーモード目標バルブタイミングテーブルTBLVTPOWによって設定される。また、エコノミーモードが選択されている場合には、ノーマルモードに対し、進角量が小?中の領域を拡大して相対的にバルブタイミングの進角量を減じて、全ての運転領域において、その運転領域でエンジン1の燃費が最良となるに適切な目標バルブタイミングがエコノミーモード目標バルブタイミングテーブルTBLVTECOによって設定される。
【0068】選択されたモードに対応する目標バルブタイミングVTTGTを設定した後は、ステップS102,S104,S105中の該当ステップからステップS106へ進み、クランク角センサ44から出力されるクランクパルスとカム位置センサ46R(46L)から出力されるカム位置パルスとに基づき、クランク軸18に対する吸気カム軸19の実バルブタイミング(実変位角)VTを算出する。
・・(略)・・。
【0070】その後、ステップS107へ進み、オイルフロー制御弁36R(36L)の保持電流値IVTHに、目標バルブタイミングVTTGTと実バルブタイミングVTとの偏差に比例ゲインKを乗算したフィードバック電流値(K×(VTTGT-VT))を加算し、オイルフロー制御弁36R(36L)の制御電流値IVTを算出する。そして、ステップS108で、制御電流値IVTによる制御電流を駆動回路68を介してオイルフロー制御弁36R(36L)に出力すべく、制御電流値をセットして、ルーチンを抜ける。
・・(略)・・。
【0078】次に、TCU80による変速制御について説明する。ECU60による各モードに応じたバルブタイミング特性への制御に対し、TCU80は、図2に示す変速制御ルーチンにより、各モードに対応する変速特性で変速制御を行う。すなわち、モードに応じたECU60によるバルブタイミング制御とTCU80による変速制御とが実現される。
【0079】TCU80における変速制御ルーチンでは、先ず、ステップS201で、ECU60から送信されたモードセレクトデータを参照し、現在、選択されているモードがパワーモードか否かを調べる。そして、パワーモードの場合には、ステップS202でパワーモード変速特性マップMPPOWを選択し、パワーモードでない場合、ステップS203でノーマルモードか否かを調べる。
【0080】その結果、ステップS203において、ノーマルモードの場合には、ステップS204へ進んでノーマルモード変速特性マップMPNORを選択し、ノーマルモードでない場合、すなわち、パワーモードでもなくノーマルモードでもないエコノミーモードの場合には、ステップS205でエコノミーモード変速特性マップMPECOを選択する。
【0081】ノーマルモード変速特性マップMPNORによるノーマルモードの変速パターンは、図6に示され、1速←→2速、2速←→3速、3速←→4速のアップシフト(図中、実線で示す)及びダウンシフト(図中破線で示す)の変速線が車速とスロットル開度とをパラメータとして予め設定されている。
【0082】このノーマルモードの変速パターンに対し、エンジン出力重視のパワーモードの変速パターンは、図7の破線で示すように、車速の上昇に対して遅めにアップシフトしてパワー走行に適した加速性能とエンジン出力を確保し、また、図8の破線で示すように、車速の低下に対して早めにダウンシフトして十分な再加速性とエンジンブレーキ力とを得ることができるよう、パワーモード変速特性マップMPPOWによって変速線が設定される。
【0083】また、燃費重視のエコノミーモードの変速パターンは、ノーマルモードの変速パターンに対し、図7の一点鎖線で示すように、車速の上昇に対して早めにアップシフトし、また、図8の一点鎖線で示すように、車速の低下に対して遅めにダウンシフトすることで、エンジン回転の上昇を抑制して燃費を低減するよう、エコノミーモード変速特性マップMPECOに変速線が設定される。
【0084】そして、ステップS202,S204,S205のいずれかでモードに応じた変速特性マップを選択した後は、ステップS206へ進み、選択された変速特性マップに基づいて変速制御を実行する。
【0085】すなわち、モードセレクトスイッチ56を介して運転者が選択したモードに対応してバルブタイミング特性を切換えると共に、選択したモードに対応して変速特性を切換えることにより、エンジンと変速機との統合制御を可能とし、エコノミーモードにおいては、より燃費を向上させることができ、また、パワーモードにおいては、エンジン出力の大きい領域をより拡大して走行性能を更に向上させることができる。」(段落【0060】ないし【0085】)

上記記載事項ア.ないしウ.及び図面を参酌すると、引用文献には、以下の発明が記載されているといえる。
「エンジンを制御するECU60と、前記エンジンの回転を変速して駆動輪に伝達する自動変速機90を制御するTCU80とを有する可変バルブタイミング機構付きエンジン搭載車の制御装置において、
前記ECU60内に設けられ、複数の走行モードにそれぞれ対応した目標バルブタイミングVTTGTを出力する目標バルブタイミングテーブル[TBLVTPOW,TBLVTNOR,TBLVTECO、エンジン負荷を表す基本燃料噴射パルス幅Tp(=K×Q/NE;Qは吸入空気量、Kはインジェクタ特性補正定数)とエンジン回転数NEとに基づいて検索される]と、
前記TCU80内に設けられ、複数の走行モードにそれぞれ対応した変速特性を出力する変速特性マップ[MPPOW,MPNOR,MPECO]と、
前記目標バルブタイミングテーブル[TBLVTPOW,TBLVTNOR,TBLVTECO]および前記変速特性マップ[MPPOW,MPNOR,MPECO]から走行モードに応じて目標バルブタイミングVTTGTおよび変速特性をそれぞれ選択するために走行モードを前記ECU60に入力するモードセレクトスイッチ56とを備え、
前記ECU60が、前記モードセレクトスイッチ56で選択された走行モードに応じて、前記TCU80に複数の走行モードにそれぞれ対応して設けられた複数の変速特性マップ[MPPOW,MPNOR,MPECO]から走行モードに応じた変速特性マップ[MPPOW,MPNOR,MPECO]を選択する選択信号を出力するSCI66Bを有しており、
前記ECU60および前記TCU80が、前記モードセレクトスイッチ56で選択された走行モードに応じた目標バルブタイミングVTTGTおよび変速特性に従ってそれぞれ制御される制御装置。」(以下、「引用文献に記載された発明」という。)

3.対比
本願補正発明と引用文献に記載された発明とを対比すると、引用文献に記載された発明における「ECU60」は、その技術的意義からみて、本願補正発明における「エンジン制御ECU(42)」に相当し、以下同様に、「TCU80」は「駆動系制御ECU(17)」に、「可変バルブタイミング機構付きエンジン搭載車の制御装置」は「車両制御装置」に、「目標バルブタイミングVTTGT」は「エンジン制御パラメータ」に、「目標バルブタイミングテーブル[TBLVTPOW,TBLVTNOR,TBLVTECO]」は「エンジン制御マップ(48、49)」に、「変速特性」は「駆動系制御パラメータ」に、「変速特性マップ[MPPOW,MPNOR,MPECO]」は「駆動系制御マップ(45)」に、「モードセレクトスイッチ56」は「モードスイッチ(19)」に、それぞれ、相当する。また、引用文献に記載された発明における「自動変速機90」は、本願補正発明における「無段変速機」に、「変速機」の限りにおいて相当する。

してみると、両者は、
「エンジンを制御するエンジン制御ECUと、前記エンジンの回転を変速して駆動輪に伝達する変速機を制御する駆動系制御ECUとを有する車両制御装置において、
前記エンジン制御ECU内に設けられ、複数の走行モードにそれぞれ対応したエンジン制御パラメータを出力するエンジン制御マップと、
前記駆動系制御ECU内に設けられ、複数の走行モードにそれぞれ対応した駆動系制御パラメータを出力する駆動系制御マップと、
前記エンジン制御マップおよび前記駆動系制御マップから走行モードに応じてエンジン制御パラメータおよび駆動系制御パラメータをそれぞれ選択するために走行モードを入力するモードスイッチとを備え、
前記エンジン制御ECUおよび前記駆動系制御ECUが、前記モードスイッチで選択された走行モードに応じたエンジン制御パラメータおよび駆動系制御パラメータに従ってそれぞれ制御される車両制御装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

〈相違点〉
(1)本願補正発明においては、駆動系制御ECUが無段変速機を制御するのに対し、引用文献に記載された発明においては、駆動系制御ECUが自動変速機を制御する点(以下、「相違点1」という。)。

(2)本願補正発明においては、モードスイッチで選択された走行モードを駆動系制御ECUに入力するものであって、前記駆動系制御ECUが、前記モードスイッチで選択された走行モードに応じて、エンジン制御ECUに複数の走行モードにそれぞれ対応して設けられた複数のエンジン制御マップから走行モードに応じたエンジン制御マップを選択する選択信号を出力するエンジン制御マップ選択部を有しているのに対し、
引用文献に記載された発明においては、モードスイッチで選択された走行モードをエンジン制御ECUに入力するものであって、前記エンジン制御ECUが、前記モードスイッチで選択された走行モードに応じて、駆動系制御ECUに複数の走行モードにそれぞれ対応して設けられた複数の駆動系制御マップから走行モードに応じた駆動系制御マップを選択する信号を出力するSCI66Bを有している点(以下、「相違点2」という。)。

4.判断
相違点について検討する。
(1)相違点1について
エンジンの回転を変速して駆動輪に伝達する無段変速機を制御する駆動系制御ECUを有する車両制御装置は、例示するまでもなく周知である。
そうすると、変速機として、自動変速機に代えて無段変速機を採用することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

(2)相違点2について
モードスイッチで選択された走行モードを、駆動系制御ECUに入力するか、エンジン制御ECUに入力するかは、本願明細書の段落【0031】にも記載されているように、当業者が適宜選択し得る設計的事項にすぎない。
そして、引用文献に記載された発明の「SCI66B」は、走行モードに応じた駆動系制御マップを選択する選択信号を出力する「マップ選択部」としての機能を有している。
そうすると、引用文献に記載された発明において、モードスイッチで選択された走行モードを駆動系制御ECUに入力するようにすると共に、SCI66Bを駆動系制御ECUに有するようにし、もって、「モードスイッチで選択された走行モードを駆動系制御ECUに入力するものであって、前記駆動系制御ECUが、前記モードスイッチで選択された走行モードに応じて、エンジン制御系ECUに複数の走行モードにそれぞれ対応して設けられた複数のエンジン制御マップから走行モードに応じたエンジン制御マップを選択する選択信号を出力するエンジン制御マップ選択部を有する」ように構成することは、当業者が格別困難なく想到し得るものである。

なお、請求人は、平成23年3月29日付け審判請求書、及び平成24年1月12日付け回答書において、「引用文献の段落【0056】等の記載によると、引用文献に記載された発明においては、ECU60は、走行モードに応じてTCU80で決定された変速制御データや操作位置データ等を受信し、これらに基づいて燃料噴射量、点火時期、アイドル制御弁10に対する制御信号のデューティ比、オイルフロー制御弁36R,36Lに対する制御電流値等を演算し、エンジン制御を行うものであり、TCU80から送信される変速制御データや操作位置データ等を使用しない本願補正発明とは明らかに異なる。」旨の主張をしている。
しかしながら、引用文献に記載された発明においては、複数の走行モードにそれぞれ対応した目標バルブタイミングVTTGTを出力する目標バルブタイミングテーブル[TBLVTPOW,TBLVTNOR,TBLVTECO]は、エンジン負荷を表す基本燃料噴射パルス幅Tp(=K×Q/NE;Qは吸入空気量、Kはインジェクタ特性補正定数)とエンジン回転数NEとに基づいて検索されるものであり、変速制御データや操作位置データを使用しておらず、本願補正発明と相違するものでない。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用文献に記載された発明から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成23年3月29日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、前記第2.1.(a)における請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及び、その記載事項は、前記第2.2に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.1.(2)で検討した本願補正発明から「走行モードを入力する」の限定事項である「前記駆動系制御ECU(17)に」との事項を省き、「前記駆動系制御ECU(17)」の限定事項である「前記モードスイッチ(19)で選択された走行モードに応じて、前記エンジン制御系ECU(42)に複数の走行モードにそれぞれ対応して設けられた複数のエンジン制御マップ(48、49)から走行モードに応じたエンジン制御マップを選択する選択信号を出力するエンジン制御マップ選択部を有しており、」との事項を省いたものである。
なお、本願発明における「複数の走行モードにそれぞれ対応した複数の駆動系制御パラメータ」の事項は、本願補正発明において「複数の走行モードにそれぞれ対応した駆動系制御パラメータ」と補正されているが、当該補正事項は、誤記の訂正、若しくは明りょうでない記載の釈明を目的としてなされたものであり、進歩性の判断について影響を与えるものでない。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2.4.に記載したとおり、引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2012-02-29 
結審通知日 2012-03-07 
審決日 2012-03-22 
出願番号 特願2005-205496(P2005-205496)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60K)
P 1 8・ 121- Z (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉村 俊厚大山 健  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 岡崎 克彦
金澤 俊郎
発明の名称 車両制御装置  
代理人 田中 香樹  
代理人 田邉 壽二  
代理人 阪本 清孝  

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