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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1256834
審判番号 不服2007-30051  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-05 
確定日 2012-05-09 
事件の表示 特願2002-540701「シート状パック剤」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月16日国際公開、WO02/38111〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、2001(平成13)年11月7日(優先権主張2000年11月9日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成19年8月2日付けで拒絶査定がなされ(発送日:平成19年8月7日)、これに対し、平成19年11月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成19年12月5日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成19年12月5日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年12月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲請求項1の記載(平成19年5月21日付け手続補正書によるもの):
「【請求項1】膏体に、ゼラチン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム及びデンプン・アクリル酸ナトリウムグラフト重合体から選ばれる水溶性高分子、水および有効成分としてユビキノン10を配合してなる肌の小じわ防止および改善効果を有するシート状パック剤。」を、
「【請求項1】膏体に、ゼラチン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩およびカルボキシメチルセルロースナトリウムからなる水溶性高分子、あるいはポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩およびカルボキシメチルセルロースナトリウムからなる水溶性高分子、水および有効成分としてユビキノン10を配合してなる肌の小じわ防止および改善効果を有するシート状パック剤。」
と補正することを含むものである。なお、下線部は補正箇所を示す。

2.補正の適否
(1)本件補正の目的について
特許請求の範囲請求項1についての上記の補正は、「ゼラチン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム及びデンプン・アクリル酸ナトリウムグラフト重合体から選ばれる水溶性高分子」を、「ゼラチン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩およびカルボキシメチルセルロースナトリウムからなる水溶性高分子、あるいはポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩およびカルボキシメチルセルロースナトリウムからなる水溶性高分子」に限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件についての検討
そこで、本件補正後の特許請求の範囲請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2-1)引用刊行物等の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された特開2000-63230号公報(原査定の刊行物3である。以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】しわ改善剤及び親水性ゲル形成剤を、その液状成分中に含むシート状化粧料。」(特許請求の範囲【請求項1】)

(1b)「【0008】なお、本発明において、「しわの改善」とは、広く皮膚におけるしわの発生及び進行を抑制する概念であり、しわの発生の予防、しわの進行の抑制、しわの消失・減少等を全て含む概念である。また、本発明において、「液状成分」とは、必ずしも純然たる液体のみを意味するものではなく、例えば、ゾルやゲルも含む概念である。」(明細書段落【0008】)

(1c)「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明シート状化粧料の液状成分中に配合される、「しわ改善剤」は、皮膚と接触することにより、しわの改善作用が認められる成分であれば特に限定されるものではないが、典型的なしわ改善剤に認められる機能としては、例えば、皮膚におけるコラーゲンの生成を促進したり、エラスチンの分解酵素であるエラスターゼを抑制したりすること等により、皮膚に弾力を与えて、たるみを予防し、さらに、加齢に伴い重層化した角質層を本来の状態に戻し、最終的に角質を軟化して、しわを目立たない状態にすること等が挙げられる。」(明細書段落【0009】)

(1d)「【0010】具体的に、このような「しわ改善剤」としては、例えば、ローズヒップオイル、クララエキス、スギナエキス、カラスムギエキス、シモツケエキス、西洋キヅタエキス、クレマチスエキス等の、特定の植物抽出物を挙げることができる。これらの特定の植物抽出物は、加齢に伴い重層化した角質層を正常レベルに戻し、最終的に角質を軟化する作用を有する。」(明細書段落【0010】)

(1e)「【0015】本発明シート状化粧料に配合され得る親水性ゲル形成剤は、それを配合することにより、親水性のゲルを形成する成分であれば特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ゼラチン、・・・・・・、ポリアクリル酸ナトリウム、・・・・・等の高分子物質及び天然ラテックスや、酢酸ビニル樹脂等のエマルジョン等を挙げることができる。
【0016】これらの中でも、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体は、本発明シート状化粧料において用いる水溶性ゲル形成剤として好ましい。上記の水溶性ゲル形成剤は、通常公知の方法により製造することが可能である。また、これらの水溶性ゲル形成剤のうち、市販されているものに関しては、その市販品を用いることも可能である。」(明細書段落【0015】【0016】)

(1f)「【0017】これらの親水性ゲル形成剤は、本発明シート状化粧品の液状成分として配合されることにより、本発明シート状化粧品が、加齢に伴い、皮膚表面にしわとして現れた皮溝の部分を覆い包み、同時にその液状成分中に含まれている保湿剤や水分の経皮吸収性を向上させ、物理的に皮膚のしわ部分を伸ばしたり、膨潤させる等の作用を発揮させることが可能になる。そして、その結果として、本発明シート状化粧料の使用者の皮膚のしわを目立たなくし、さらに、その繰り返し使用により、使用者の皮溝の部分を正常レベルに戻し、しわを改善することが可能になる。」(明細書段落【0017】)

(1g)「【0050】
〔処方例8〕 パック成分含有シート状化粧料
配合成分 配合量(重量%)
スギナエキス 0.5
クララエキス 0.1
カラスムギエキス 2.0
シモツケエキス 1.0
西洋キズタエキス 0.5
ポリアクリル酸ナトリウム 6.5
ポリビニルアルコール 2.0
ポリビニルピロリドン 1.0
ヒドロキシプロピルセルロース 1.0
混合粉末 10.0
乾燥水酸化アルミニウムゲル 適 量
防腐剤 適 量
精製水 残 余
<製法>スギナエキス、クララエキス、カラスムギエキス、シモツケエキス、西洋キズタエキス、混合粉末、乾燥水酸化アルミニウムゲル、防腐剤及び精製水(一部)を混合し、残りの成分を85℃で混合溶解し、室温まで冷却して、両混合物を混合して、パック類似処方物を得て、これを、レーヨン、コットン及びポリエチレンの混紡の不織布に延展して、パック成分含有シート状化粧料を得た。」(明細書段落【0050】)

(1h)「【0051】このシート状化粧料において、上記の3項目の試験を行ったところ、このシート状化粧料には、優れたしわ改善効果が認められるのと同時に、肌のはり及び肌のなめらかさも増進させることが明らかになった。なお、上記のパック類似処方物をそのまま用いても、シート状化粧料として用いた場合ほどの、しわ改善効果や、肌のはり及び肌のなめらかさの増進効果は認められなかった。」(明細書段落【0051】)

原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された特開昭58-180410号公報(原査定の刊行物1である。以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が記載されている。

(2a)「化学式(式省略)で表わされる補酵素Q_(10)(化学名ユビキノン)を配合することを特徴とする化粧料。」(公報1頁左下欄5行?7行)

(2b)「以上の実験結果から、本発明者らは補酵素Q_(10)を化粧品に配合することにより、適度な経皮吸収を経て皮膚細胞の新陳代謝を活発化し、又過酸化脂質生成を抑制することにより、皮膚の老化を予防する効果が期待できるという新規な知見を得ることができた。」(公報4頁左上欄4行?9行)

(2c)「実施例3 パック
補酵素Q_(10) 0.5
酢酸ビニル樹脂エマルジョン 15
ポリビニルアルコール 10
オリーブ油 5
グリセリン 5
亜鉛華 6
カオリン 7
エタノール 5
香料、防腐剤 適量
精製水 46.5」
(公報5頁右上欄9行?19行)

原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された特表平9-510725号公報(原査定の刊行物2である。以下、「引用例3」という。)には、下記の事項が記載されている。

(3a)「驚くべきことに、ユビキノン類及びそれらの誘導体類は、皮膚の年令的な老化、なかでも光線による老化による損傷から皮膚を防護するのみならず、老年性皮膚乾燥症及び外因性皮膚老化により皮膚に既に誘起された損傷の修復をもたらすことが発見され、その事実はこれまでの当該技術の欠点を著しく改善する。老年の皮膚の構造的変化に対するこれらの群の物質のこの作用は特に好都合である。・・・・・老年性皮膚乾燥症において、なかでも下記の年令関連の構造的損傷及び機能障害が誘起される;a)乾燥、肌荒れ及び小さな皺類の発現・・・;c)皮膚の弛緩及び皺の発現;・・・・e)機械的なストレスに対する感受性増加(例えばひび割れ)。」(公報4頁24行?5頁13行)

原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された特開平8-188527号公報(原査定の刊行物4である。以下「引用例4」という。)には、下記の事項が記載されている。

(4a)「【請求項1】水溶性高分子と、多価アルコールと、保湿成分と、架橋剤と、美肌成分と、水と、を必須成分として含有することを特徴とするシート状パック剤。」(特許請求の範囲【請求項1】)

(4b)「【0006】ここで、水溶性高分子としては、ゼラチン、ポリアクリル酸塩があげられ、各々単独で又はこれらを配合して使用することができる。ポリアクリル酸塩の塩類としては、ナトリウム、リチウム、カリウム等の金属塩が好ましく、その平均重合度は1000?100000のものが好適に用いられる。これら水溶性高分子の配合量としては3?25重量%、好ましくは5?20重量%、より好ましくは5?10重量%において使用される。」(明細書段落【0006】前段)

(4c)「【0021】
【作用】この構成によって、本発明の高含水のシート状パック剤は以下の優れた作用を示すことができる。水溶性高分子としては、製剤中に3?25重量%が配合されていることにより粘着性、凝集性、保型性を高めることができるとともに、吸水能の低下、膏体の不均一化を防止し使用感を高めることができる。また、水溶性高分子としてポリアクリル酸の金属塩を所定量配合することによりこれらの作用を更に高めることができる。」(明細書段落【0021】前段)

原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された特開平11-228340号公報(原査定の刊行物5である。以下、「引用例5」という。)には、下記の事項が記載されている。

(5a)「【請求項1】ポリアクリル酸および/またはポリアクリル酸塩、多価アルコール類、水、外部架橋剤を必須成分として含有し、さらに必要に応じて角質軟化剤、細胞賦活成分およびオイル成分から選ばれる少なくとも一種を配合してなるゲル状組成物からなる層を、支持体上および/または支持体内に形成してなることを特徴とする化粧用ゲルシート。」(特許請求の範囲【請求項1】)

(5b)「【0008】このようなポリアクリル酸および/またはポリアクリル酸塩としては、重量平均分子量が2?1000万、好ましくは100?700万のものを用いることが望ましい。また、ゲル状組成物からなる層中には、2?30重量%、好ましくは3?10重量%程度の濃度となるように調整することが望ましい。上記範囲の重量平均分子量のものを用い、濃度を上記範囲内に調整することによって、最適な三次元骨格化ができて各成分を有効に保持することができるのである。」(明細書段落【0008】)

(5c)「【0022】本発明では上記成分以外に、血行促進剤としてのビタミンEや、抗炎症剤としてのグリチルリチン酸などを適宜配合することができる。また、ゲル強度を向上させるためにゼラチンやカルボキシメチルセルロース(またはその塩)、公知の充填剤の他、染料や顔料なども配合することもできる。」(明細書段落【0022】)

原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された特開昭59-93012号公報(原査定の刊行物6である。以下、「引用例6」という。)には、下記の事項が記載されている。

(6a)「(1)基剤全量に対しポリアクリル酸ナトリウム1?10重量%と、水酸化アルミニウムゲル0.01?1重量%と、軽質無水硅酸または(および)含水硅酸0.1?5重量%とからなる賦形剤を主体とし、かつ少なくとも水分55重量%以上を含有することを特徴とするパック用基剤。」(特許請求の範囲第1項)

(6b)「本発明のパック用基剤にあっては、上記の諸成分に加え、パック剤に望まれる諸性質をより向上させるため、更に次の成分を加えることができる。・・・・・さらに、基剤の貼着性と保形性とを一層補強するためカルボキシビニールポリマー、ポリビニールピロリドン、アルギン酸ナトリウム、グアーガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ハイドロキシプロピルメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物を加えることもできる。・・・・・パックの目的および効果などとの関係において、これらの基剤の成分および配合量は、適宜選択することが可能である。」(公報3頁左下欄11行?右下欄9行)

原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された特開昭54-49334号公報(原査定の刊行物7である。以下、「引用例7」という。)には、下記の事項が記載されている。

(7a)「(1)ポリアクリル酸塩、多価アルコールおよび水を主成分とすることを特徴とするパック剤。」(特許請求の範囲第1項)

(7b)「本発明のパック剤には、上記主成分に加えて粘度を高めたい場合にはメチルセルロース或いはカルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース誘導体を、そして保水性を高めたい場合にはアルギン酸ナトリウムを、更にまた美容効果を高めるためには種々の栄養素を含有させることができる。」(公報2頁右上欄16行?左下欄2行)

(7c)「以上述べた如く本発明のパック剤は、使用時間中を通じて適度な水分を保ち、その安定した保水性と保温性とによって皮膚の血行が促進されパック剤に含まれる栄養素が吸収されやすくなると共に、皮脂腺、汗腺の機能が調節されて皮膚の老化を防止し、また刺激的な増粘剤の添加や乾燥促進のためのアルコールの添加等の必要がないため皮膚に無用な刺激や抵抗感を与えず、更に剥離の際も皮膚を痛めることなく、皮膚面の塵埃、分泌物を取り除くと共に表皮の第一角質層のみをおだやかに剥離して新しい表皮細胞の形性を促進する等多くの利点を併有する。」(公報3頁右上欄5行?16行)

前置報告書において引用された、本願優先日前に頒布された国際公開第00/48580号(以下、「引用例8」という。)には、下記の事項が記載されている。

(8a)「本発明はシート状貼付剤に関するものである。更に詳細には、貼付時において心地よい清涼感を与え、かつ肌にしっとり感を与えるものであり、整肌および美容のために用いる化粧品用、医薬品用又は医薬部外品用として使用されるシート状貼付剤に関するものである。」(1頁4?7行)

(8b)「本発明のシート状貼付剤は、典型的には保湿剤を含む基剤、即ち、保湿剤、水、水溶性高分子、架橋剤および防腐剤より構成される。また、必要に応じ美肌成分、保湿成分、酸化防止剤、粘着付与剤、溶解剤、色素、香料、界面活性剤、紫外線吸収剤、無機充填剤およびpH調整剤を配合することができる。本発明では、これらの材料を適宜配合することにより、前記の水分蒸発に要する熱量が所定の範囲になるように調整する。」(3頁12行?17行)

(8c)「また水溶性高分子としては、ゼラチン、ポリアクリル酸又はその塩、あるいは部分中和物等が挙げられ、各々単独あるいは2種以上配合することにより使用することができる。ポリアクリル酸塩の塩類としては、ナトリウム、リチウム、カリウムなどの金属塩が好ましく、その平均重合度は1000?100000のものが好適に用いられる。これら水溶性高分子の配合量は、製剤の粘着性や凝集性、保型性、吸水能、膏体の不均一化、作業性の低下、使用感の低下、製造中の粘性等を考慮して決定されるが、3?25重量%、好ましくは5?20重量%、より好ましくは5?10重量%で使用される。」(5頁4行?11行)

(8d)「本発明のシート状貼付剤は、上記の基剤成分に加えて、前記のとおり貼付剤の用途に応じ、従来公知である薬効成分、美肌成分、保湿成分、清涼剤または冷感剤、酸化防止剤、粘着付与剤、溶解剤、色素、香料、界面活性剤、紫外線吸収剤、無機充填剤およびpH調整剤等を適宜適量配合することができる。」(6頁23行?26行)

(8e)「粘着付与剤としてはカゼイン、プルラン、寒天、デキストラン、アルギン酸ソーダ、可溶性デンプン、カルボキシデンプン、デキストリン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルエーテル、ポリマレイン酸共重合体、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体、イソブチレン無水マレイン酸共重合体、ポリエチレンイミン等を配合できる。」(9頁15行?22行)

(8f)「実施例7 精製水49.7重量%にカオリン5重量%を分散させ、これにゼラチン2重量%およびメチルパラベン0.5重量%を加え溶解した後、ポリアクリル酸2重量%、カルボキシメチルセルロースナトリウム0.5重量%、ポリアクリル酸ナトリウム3.5重量%、ポリビニルピロリドン1重量%およびグリセリン35重量%の混合物を加え、更にサリチル酸グリコール0.5重量%と酢酸トコフェロール0.3重量%の混合溶液を加え均一になるまで攪拌する。次に、これを基布上に厚み約1mmになるように展延し、フィルムを貼着する。また貼着後は10cm×14cmの形に裁断しシート状貼付剤を得た。」(14頁9行?17行)

(2-2)対比・判断
上記引用例1には、「しわ改善剤及び親水性ゲル形成剤を、その液状成分中に含むシート状化粧料」が記載されており(上記記載(1a)参照)、ここで「しわ改善」とは、「広く皮膚におけるしわの発生及び進行を抑制する概念であり、しわの発生の予防、しわの進行の抑制、しわの消失・減少等を全て含む概念である」(上記記載(1b)参照)こと、「シート状化粧料」には〔処方例8〕のようにパック成分を含有するものも含まれること(上記記載(1g)(1h)参照)から、上記の「シート状化粧料」には「肌の小じわ防止および改善効果を有するシート状パック剤」が含まれるものであり、また、「親水性ゲル形成剤」には「水溶性高分子」が含まれることは明らかである(上記記載(1e)参照)から、上記引用例1には、「しわ改善剤及び水溶性高分子を、その液状成分中に含む肌の小じわ防止および改善効果を有するシート状パック剤」の発明が記載されているものと認められる(以下、この発明を「引用発明1」という)。

そこで本願補正発明と、引用発明1とを対比すると、引用例1には、「液状成分」とは「必ずしも純然たる液体のみを意味するものではなく、例えば、ゾルやゲルも含む概念である」と記載されている(上記記載(1b)参照)ことから、引用発明1における「液状成分」は本願補正発明における「膏体」に相当するものであり、また、引用例1の「これらの親水性ゲル形成剤は、本発明シート状化粧品の液状成分として配合されることにより、本発明シート状化粧品が、加齢に伴い、皮膚表面にしわとして現れた皮溝の部分を覆い包み、同時にその液状成分中に含まれている保湿剤や水分の経皮吸収性を向上させ、物理的に皮膚のしわ部分を伸ばしたり、膨潤させる等の作用を発揮させることが可能になる。」という記載(上記記載(1f)参照。下線は当審で付した。)や、引用例1に記載されたすべての処方例において「精製水」を配合している(上記記載(1g)参照)ことからみて、引用発明1には、「水」が含まれているといえるから、両者は、

「膏体に、水溶性高分子、水および有効成分としてしわ改善剤を配合してなる肌の小じわ防止および改善効果を有するシート状パック剤」

である点で一致し、一方、次の点で相違している。

(相違点1)
本願補正発明においては、水溶性高分子が「ゼラチン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩およびカルボキシメチルセルロースナトリウムからなる水溶性高分子、あるいはポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩およびカルボキシメチルセルロースナトリウムからなる水溶性高分子」という4種の水溶性高分子の組合せ又はその4種からゼラチンを除いた3種の水溶性高分子の組合せであるのに対して、引用発明1においては、水溶性高分子として、上記4種又は3種の組合せとすることについては特定されていない点。

(相違点2)
本願補正発明においては、有効成分として「ユビキノン10」を配合しているのに対して、引用発明1においては、有効成分として「しわ改善剤」を配合している点。

<相違点1についての検討>
引用例1においては、親水性ゲル形成剤について、「本発明シート状化粧料に配合され得る親水性ゲル形成剤は、それを配合することにより、親水性のゲルを形成する成分であれば特に限定されるものではない」が、その中で「ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体は、本発明シート状化粧料において用いる水溶性ゲル形成剤として好ましい」と記載され(上記記載(1e)参照。下線は当審で付した。)、本願補正発明において用いられる4種の水溶性高分子のうち、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース及びポリアクリル酸塩は、引用例1において親水性ゲル形成剤の好ましいものとして記載されている。
また、水溶性高分子と水を含む基剤を用いたシート状パック剤は、上記引用例1の他にも、例えば引用例4ないし8に記載されているように本件優先日前広く知られているものであり、それに用いられる水溶性高分子として、引用例4においては、ゼラチン及びポリアクリル酸塩(上記記載(4b)参照)が、引用例5においては、ポリアクリル酸および/またはポリアクリル酸塩(上記記載(5a)参照)が、引用例6においては、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム(上記記載(6a)(6b)参照)が、引用例7においては、ポリアクリル酸塩、カルボキシメチルセルロースナトリウム(上記記載(7a)(7b)参照)が、引用例8においては、ゼラチン、ポリアクリル酸又はその塩(上記記載(8b)参照)がそれぞれ例示されるように、本願補正発明において用いられる4種の水溶性高分子、すなわち、ゼラチン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩及びカルボキシメチルセルロースナトリウムは、いずれも、水溶性高分子と水を含む基剤を用いたシート状パック剤の配合成分として周知のものと認められる。
そして、これらの水溶性高分子を併用することについては、引用例4に「ゼラチン、ポリアクリル酸塩があげられ、各々単独で又はこれらを配合して使用することができ」(上記記載(4b)参照)、「水溶性高分子としては、製剤中に3?25重量%が配合されていることにより粘着性、凝集性、保型性を高めることができるとともに、吸水能の低下、膏体の不均一化を防止し使用感を高めることができる。また、水溶性高分子としてポリアクリル酸の金属塩を所定量配合することによりこれらの作用を更に高める」(上記記載(4c)参照)と記載されていること、引用例5に「ポリアクリル酸および/またはポリアクリル酸塩としては、重量平均分子量が2?1000万、好ましくは100?700万のものを用いることが望ましい。また、ゲル状組成物からなる層中には、2?30重量%、好ましくは3?10重量%程度の濃度となるように調整することが望ましい。上記範囲の重量平均分子量のものを用い、濃度を上記範囲内に調整することによって、最適な三次元骨格化ができて各成分を有効に保持することができるのである。」(上記記載(5b)参照)と記載されていること、及び、引用例5にはゲル強度を向上させるためにゼラチンやカルボキシメチルセルロース(またはその塩)を配合すること(上記記載(5c)参照)、引用例6には基剤の貼着性と保形性とを一層補強するためカルボキシメチルセルロースナトリウムなどの水溶性高分子化合物を加えること(上記記載(6b)参照)、引用例7には粘度を高めたい場合にはメチルセルロース或いはカルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース誘導体を含有させること(上記記載(7b)参照)が記載されていることから、当業者は、シート状パック剤に水溶性高分子を配合する際に、必要に応じて適宜組み合わせて使用していたものと認められる。さらに、引用例8には、実施例7として、ゼラチン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウムを含有するシート状貼付剤が記載されている(上記記載(8e)参照)ように、本願補正発明において用いられる4種の水溶性高分子を併用した例も公知であったことを勘案すると、引用発明1において、水溶性高分子として、「ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩およびカルボキシメチルセルロースナトリウムの組合せ、あるいはこれにさらにゼラチンを加えた組合せ」を用いること、すなわち上記相違点1に挙げられた構成を採用することは、当業者が容易になし得ることである。

<相違点2についての検討>
引用発明1において、シート状化粧料の液状成分中に配合される「しわ改善剤」は、「皮膚と接触することにより、しわの改善作用が認められる成分であれば特に限定されるものではない」とされており(上記記載(1c)参照)、具体例として「ローズヒップオイル、クララエキス、スギナエキス、カラスムギエキス、シモツケエキス、西洋キヅタエキス、クレマチスエキス等の、特定の植物抽出物」が挙げられている(上記記載(1d)参照)。
一方、引用例2には、「補酵素Q_(10)(化学名ユビキノン)を配合」した化粧料が記載され(上記記載(2a)参照)、ユビキノンを配合することにより「適度な経皮吸収を経て皮膚細胞の新陳代謝を活発化し、又過酸化脂質生成を抑制することにより、皮膚の老化を予防する効果が期待できる」という効果のあることが記載されており(上記記載(2b)参照)、また、引用例3には、ユビキノン類及びそれらの誘導体類は、老年性皮膚乾燥症により誘起される皮膚の皺及び小さな皺を防護または修復する作用のあることが記載されている(上記記載(3a)参照)ことから、「ユビキノン10」が皮膚の小じわを防止及び改善する作用を有することは明らかであり、さらに引用例2にはパック剤としての用途も記載されている(上記記載(2c)参照)ことを勘案すると、「ユビキノン10」が、引用例1において例示されているような特定の植物抽出物と同じように「しわ改善剤」として利用できることは当業者に明らかである。
したがって、引用発明1において「しわ改善剤」として「ユビキノン10」を用いること、すなわち上記相違点2に挙げられた構成を採用することは、引用例2,3の記載に基づいて当業者が容易になし得ることである。

<効果についての検討>
本願補正発明の効果について、明細書には「ユビキノン10を配合したシート状パック剤は、(ユビキノン10を除いた)比較例2のパック剤に比べて小じわの防止および改善効果がはるかに高く、またヒアルロン酸を配合した比較例3のパック剤よりも優れた効果を示した」と記載され(国際公開第02/38111号の第9頁末行?第10頁3行参照)、「本発明のシート状パック剤を使用することによって、太陽光による紫外線ストレスによる皮膚劣化を防止し、また膏体組成中の水によって皮膚への水分供給を行なうことにより優れた小じわ防止および改善作用を示すことができる」と記載されている(同第10頁6行?8行参照)。
しかし、ユビキノン10が優れた小じわ防止および改善作用を示すことは上記<相違点2についての検討>で述べたとおりであり、また、シート状化粧品に水溶性高分子を配合させることで、「加齢に伴い、皮膚表面にしわとして現れた皮溝の部分を覆い包み、同時にその液状成分中に含まれている保湿剤や水分の経皮吸収性を向上させ、物理的に皮膚のしわ部分を伸ばしたり、膨潤させる等の作用を発揮させることが可能になる。そして、その結果として、本発明シート状化粧料の使用者の皮膚のしわを目立たなくし、さらに、その繰り返し使用により、使用者の皮溝の部分を正常レベルに戻し、しわを改善することが可能になる。」(上記記載(1f)参照)という効果や、「使用時間中を通じて適度な水分を保ち、その安定した保水性と保温性とによって皮膚の血行が促進されパック剤に含まれる栄養素が吸収されやすくなると共に、皮脂腺、汗腺の機能が調節されて皮膚の老化を防止」する(上記記載(7c)参照)という効果があることは、この出願前に既に広く知られていることであるから、配合成分としてユビキノン10と水溶性高分子を組合せてなる本願補正発明のパック剤の全体としての上記効果も、これらの固有の効果の総和にすぎないものであって、一般に広く知られている効果以外の予測されない顕著な効果があるわけではないから、本願発明において上記相違点1及び2に挙げられた構成を採用したことによる効果は、予測された範囲内のものである。

<請求人の主張について>
請求人は、請求の理由において、「本願発明を構成する各成分について、それぞれの作用、効果が公知であるとしても、本願発明はユビキノン10と特定の成分からなる水溶性高分子のコンビで初めてその効果が発揮されるのであり、その優れた効果を各引例の開示に基づき、あるいは各引例をいかように組合せても、容易に推考することが当業者にとって不可能である」と主張している。
しかしながら、請求人の主張する「特定の成分からなる水溶性高分子」とは、好ましいとされる水溶性高分子の中から実施例において実際に使用されているものを単に特定しただけであって、この「特定の成分からなる水溶性高分子」が、好ましいとされる水溶性高分子の別の組合せと比較して顕著な効果を有するものであるという根拠はなく、また、ユビキノン10との組合せにおいても、特に「特定の成分からなる水溶性高分子」とのコンビで初めてその効果が発揮されたとする根拠はない。
そして、上記<相違点1についての検討>においても述べたように、ポリアクリル酸やポリアクリル酸塩は、シート状パック剤に配合される水溶性高分子として既知のものであり、ゼラチンやカルボキシセルロースナトリウムが粘度や粘着性を調整する化合物として知られていることから、これらの組合せを当業者が見いだすことは容易であり、かつその組合せの効果も予測された効果よりも格別顕著なものではないから、請求人の上記主張は理由がないものである。

以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用例1ないし8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2-3)むすび
したがって本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
平成19年12月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成19年5月21日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項1に係る発明は以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】膏体に、ゼラチン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム及びデンプン・アクリル酸ナトリウムグラフト重合体から選ばれる水溶性高分子、水および有効成分としてユビキノン10を配合してなる肌の小じわ防止および改善効果を有するシート状パック剤。」(以下、「本願発明」という)

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1ないし3およびその記載事項は、前記II.2.(2-1)に記載したとおりである。
そして、引用例1の上記記載(1g)には、水溶性高分子としてポリアクリル酸ナトリウムが用いられていることから、引用例1には、
「膏体に、ポリアクリル酸ナトリウム、水および有効成分としてしわ改善剤を配合してなる肌の小じわ防止および改善効果を有するシート状パック剤」の発明(以下、「引用発明1’」という。)が記載されているといえる。

3.本願発明と引用発明1’との対比・判断
そこで、本願発明と引用発明1’とを対比すると、引用発明1’において用いられているポリアクリル酸ナトリウムは、ポリアクリル酸塩の一種であるから、両者は、

「膏体に、ポリアクリル酸塩、水および有効成分としてしわ改善剤を配合してなる肌の小じわ防止および改善効果を有するシート状パック剤」

である点で一致し、一方、次の点で相違している。

(相違点)
本願発明においては、有効成分として「ユビキノン10」を配合しているのに対して、引用発明1’においては、有効成分として「しわ改善剤」を配合している点。

以下、この相違点について検討する。
この相違点は、本願補正発明と引用発明1との相違点2に相当するものであり、前記II.2.(2-2)において本願補正発明と引用発明1との相違点2について検討したのと同様の理由により、引用発明1’において「しわ改善剤」として「ユビキノン10」を用いること、すなわち上記相違点に係る構成を採用することは、引用例2,3の記載に基づいて当業者が容易になし得ることである。
そして、効果についても、上記相違点に係る構成を採用したことにより格別顕著な効果を奏したものとは認められない。
したがって、本願発明は、引用例1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願優先日前に頒布された上記引用例1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-12 
結審通知日 2011-12-13 
審決日 2011-12-27 
出願番号 特願2002-540701(P2002-540701)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 榎本 佳予子  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 穴吹 智子
上條 のぶよ
発明の名称 シート状パック剤  
代理人 青山 葆  
代理人 坪井 有四郎  
代理人 青山 葆  
代理人 田村 恭生  
代理人 坪井 有四郎  
代理人 田村 恭生  

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