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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1256869
審判番号 不服2010-4167  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-25 
確定日 2012-05-09 
事件の表示 特願2004-137168「表示フレーム調整方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月21日出願公開、特開2005-196105〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・原査定の拒絶の理由

本件審判事件の手続の概要は、以下のとおりである。

平成16年 5月 6日 特許出願(パリ条約による優先権主張2003年12月29日(以下、「優先日」という。)、台湾)
平成19年 7月11日 最初の拒絶理由通知(同年7月17日発送)
平成19年10月24日 意見書・手続補正書(以下、「補正1」という。)
平成20年 7月22日 最後の拒絶理由通知(同年7月29日発送)
平成20年12月 4日 意見書・手続補正書(以下、「補正2」という。)
平成21年10月22日 補正2についての補正却下の決定・拒絶査定(同年10月27日送達)
平成22年 2月25日 本件審判請求・手続補正書(以下、「本件補正」という。)
平成23年 2月 1日 審尋(同年2月8日発送)
平成23年 8月15日 審尋(同年8月16日発送)

そして、原査定の拒絶の理由は、補正1が特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、かつ、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、かつ、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないというものであり、同日付けでなされた上記補正却下の決定の理由は、補正2が特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないというものである。

なお、平成23年8月15日付け審尋において、本件の明細書における記載内容が不明な箇所を指摘し、不明な箇所の意味について釈明をする旨の回答書を提出する機会を請求人に期限を指定し与えたが、指定された期限を過ぎても、請求人から回答書が提出されなかった。

2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

本件補正を却下する。

[理由]新規事項の追加

(1)補正の内容

ア 本件補正は、本件補正前の明細書(補正1によって補正された明細書)を次のとおりに補正することを含むものである。
(本件補正前)
「【0013】
・・・
ステップS12:表示フレームの水平同期周波数、水平画像タイミング、垂直同期周波数、垂直画像タイミング、を測定する。マイクロプロセッサ26が入力信号に対して測定し、表示フレームの現在の水平同期周波数、水平画像タイミング、垂直同期周波数、垂直画像タイミングを取得する。
・・・
ステップS30:表示フレームの水平サイズの調整を開始する。
ステップS31:この周波数セグメントの参考点及びその対応する傾斜率を読み取る。そのうち、周波数セグメントは水平画像タイミングに対応する。
ステップS32:水平同期周波数、水平画像タイミングが対応する参考点上にあるかを判断し、ノーであればステップS33を実行し、イエスであればステップS34を実行する。図5に示されるように、各周波数セグメント中には極大値(例えば37.5KHz)及び参考点(例えば35KHz)が設けられている。使用者が設定する表示フレームの水平同期周波数はこの周波数セグメントの範囲内にある時、水平同期周波数は正常であり、続いて以下のステップS33を実行し、そうでなければステップS34を実行する。
ステップS33:水平同期周波数、水平画像タイミング、参考点、及び対応する傾斜率により表示フレームの水平サイズを調整し、並びにステップS35を実行する。図5に示されるように、周波数セグメントの起点(即ち参考点)、対応する傾斜率、水平画像タイミング、及び現在の水平同期周波数(例えば37KHz)は既知であるため、マイクロプロセッサ26はこの水平同期周波数の下で、表示フレームが有すべき水平サイズ(例えば350nm)を計算する。
ステップS34:予め設定された水平同期周波数、水平画像タイミング、参考点、及び対応する傾斜率、及び調整表示フレームの水平サイズを調整し、ステップS35に進む。使用者が設定した表示フレームの水平同期周波数が周波数セグメントの範囲外にある時、使用者が設定した水平同期周波数を受け入れず、並びに予め設定された水平同期周波数により表示フレームの水平サイズを設定する。そのうち、予め設定された水平同期周波数は該周波数セグメントの中間値(例えば36.25KHz)とされ、並びにステップS31を実行する。
・・・」
(本件補正後)
「【0013】
・・・
ステップS12:表示フレームの水平同期周波数、水平画像タイミング、垂直同期周波数、垂直画像タイミング、を測定する。マイクロプロセッサ26が入力信号に対して測定し、表示フレームの現在の水平同期周波数、水平画像タイミング、垂直同期周波数、垂直画像タイミングを取得する。
・・・
ステップS30:表示フレームの水平サイズの調整を開始する。
ステップS31:この周波数セグメントの参考点(Hf1,Hf2,...Hfn及びその対応するHSr1,HSr2,...HSrn)及びその対応する傾斜率(S1,S2,...Srn)を読み取る。そのうち、周波数セグメントは水平画像タイミングに対応する。
ステップS32:水平同期周波数(Hfx)、水平画像タイミングが対応する参考点(Hf1,Hf2,...Hfn)上にあるかを判断し、ノーであればステップS33を実行し、イエスであればステップS34を実行する。図5に示されるように、各周波数セグメント中には極大値(例えばHf3は37.5KHz)及び参考点(例えばHf2は35KHz)が設けられている。使用者が設定する表示フレームの水平同期周波数(Hfx)はこの周波数セグメントの範囲内にある時、水平同期周波数(Hfx)は正常であり、続いて以下のステップS33を実行し、そうでなければステップS34を実行する。
ステップS33:水平同期周波数(Hfx)、水平画像タイミング、参考点(Hf1,Hf2,...Hfnの対応するHSr1,HSr2,...HSrn)、及び対応する傾斜率(S1,S2,...Srn)により表示フレームの水平サイズを調整し、並びにステップS35を実行する。図5に示されるように、周波数セグメントの起点(即ち参考点)、対応する傾斜率、水平画像タイミング、及び現在の水平同期周波数(例えばHfxは37KHz)は既知であるため、マイクロプロセッサ26はこの水平同期周波数の下で、表示フレームが有すべき水平サイズ(例えばHfxは350nm)を計算する。
ステップS34:予め設定された水平同期周波数(Hf1,Hf2,...Hfn)、水平画像タイミング、対応する傾斜率(S1,S2,...Srn)及びこれら、参考点(HSr1,HSr2,...HSrn)により、メモリ中より該予め設定された水平同期周波数に対応する水平サイズを読み取り、並びにこれにより表示フレームの水平サイズを調整し、ステップS35に進む。使用者が設定した表示フレームの水平同期周波数(Hfx)が周波数セグメントの範囲外にある時、使用者が設定した水平同期周波数を受け入れず、並びに予め設定された水平同期周波数(Hf1,Hf2,...Hfn)により表示フレームの水平サイズ(HSr1,HSr2,...HSrn)を設定する。そのうち、予め設定された水平同期周波数は該周波数セグメントの中間値(例えばHf1+(Hf2-Hf1)/2は36.25KHz)とされ、並びにステップS31を実行する。
・・・」
(下線は、補正箇所を明示するために請求人が付した。)

イ 上記アによれば、本件補正後の段落【0013】には、以下の事項が記載されているものと認められる。(なお、以下の事項が記載されているものと認められることは、本件補正前の補正1によって補正された明細書の段落【0013】においても同様である。)

「ステップS32で行われる処理として、ステップS12で取得された現在の水平同期周波数(Hfx)、水平画像タイミングが、ステップS31で読み取られた、水平画像タイミングに対応する周波数セグメントの参考点(Hf1,Hf2,...Hfn)上にあるかを判断し、上記判断において参考点上にないと判断されれば(例えば、Hf2=35KHz、Hf3=37.5KHzなる参考点に対して、Hfx=37KHzであれば)、ステップS33に進んで、現在の水平同期周波数(Hfx=37KHz)と、対応する周波数セグメントの参考点(Hf2=35KHz、Hf3=37.5KHzの点)と該周波数セグメントの傾斜率(本件補正により補正された図5におけるS2)に基づいて内挿法等により現在の水平同期周波数(Hfx=37KHz)に対応する水平サイズ(350nm)を求めること、上記判断において参考点上にあると判断されれば(例えば、Hf2=35KHz、Hf3=37.5KHzなる参考点に対して、Hfx=35KHzもしくは37.5KHzであれば)、ステップS34に進んで、使用者が設定した水平同期周波数を受け入れずに(35KHzや37.5KHzではなく)、該周波数セグメントの中間値(Hf2+(Hf3-Hf2)/2=35+(37.5-35)/2=36.25KHz)等の、予め設定された水平同期周波数に水平同期周波数を変更し、予め設定された水平同期周波数に対応する水平サイズ(36.25KHzに対応する水平サイズ)に変更すること」(以下、「技術事項A」という。)

(2)当審の判断

ア 当初明細書等の記載事項
上記技術事項Aに関して、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、以下の記載がある。

(ア)
「【請求項1】
表示フレーム調整方法において、該表示フレーム調整方法は、ディスプレイのメモリ中に、複数組の参考点とそれに対応する複数の傾斜率を保存して表示フレームのサイズ及び位置の調整を行なう方法であり、
(A)表示フレームの自動調整を実行するかを判断し、実行しなければ(I)のステップを実行するステップ、
(B)表示フレームの水平同期周波数、水平画像タイミング、垂直同期周波数、垂直画像タイミングを測定するステップ、
(C)参考点及び対応する傾斜率を読み取るステップ、
(D)水平同期周波数、垂直同期周波数、水平画像タイミング、垂直画像タイミングが正常であるかを判断し、正常でなければ(I)のステップを実行するステップ、
(E)水平同期周波数、水平画像タイミング、参考点、及び対応する傾斜率により表示フレームの水平サイズを設定するステップ、
(F)水平同期周波数、水平画像タイミング、参考点、及び対応する傾斜率により表示フレームの水平位置を設定するステップ、
(G)垂直同期周波数、垂直画像タイミング、参考点、及び対応する傾斜率により表示フレームの垂直サイズを設定するステップ、
(H)垂直同期周波数、垂直画像タイミング、参考点、及び対応する傾斜率により表示フレームの垂直位置を設定するステップ、
(I)表示フレームの調整を完成するステップ、
以上のステップを具えたことを特徴とする、表示フレーム調整方法。
【請求項2】
請求項1記載の表示フレーム調整方法において、(E)のステップは、
(E1)水平画像タイミングに対応する参考点と対応する傾斜率を読み取るステップ、
(E2)水平同期周波数、水平画像タイミング、対応する傾斜率が正常であるかを判断し、不正常であれば(E4)のステップを実行するステップ、
(E3)水平同期周波数、水平画像タイミング、参考点、及び対応する傾斜率により表示フレームの水平サイズを調整し並びに(E5)のステップを実行するステップ、
(E4)予め設定された水平同期周波数、水平画像タイミング、参考点、及び対応する傾斜率により表示フレームの水平サイズを調整するステップ、
(E5)許容誤差範囲内に調整されたかを判断し、調整されていなければ(E1)のステップを実行するステップ、
(E6)表示フレームの水平サイズの調整を終了するステップ、
以上のステップを具えたことを特徴とする、表示フレーム調整方法。」

(イ)
「【0001】
本発明は一種の表示フレーム調整方法に係り、特に表示フレームの急速な調整が行なえる表示フレーム調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示されるように、コンピュータ装置10はCPU12、ディスプレイドライバ14、メモリ16、及び通信コントローラ18を具えている。ディスプレイ20は偏向回路22、画像回路24、マイクロプロセッサ26、メモリ28、ディスプレイスクリーン30、及び通信コントローラ32を具えている。そのうち、ディスプレイスクリーン30は画像を表示し、通信コントローラ18は通信コントローラ32とデータ通信を行なう。ディスプレイドライバ14は同期信号を偏向回路22に出力して表示フレームの水平同期周波数、水平画像タイミング、垂直同期周波数、及び垂直画像タイミングを設定し、並びに画像信号を画像回路24に出力して表示フレームの色彩値を設定する。このほか、マイクロプロセッサ26はオンスクリーンディスプレイ(OSD)からの調整信号を受け取り、並びにこれにより偏向回路22及び画像回路24の出力を改変し、表示フレームのサイズ(大きさ)或いは位置を調整する。
【0003】
図2に示されるように表示フレームに対応する水平画像時間(符号C)は水平同期時間の範囲内に置かれ、これにより表示フレームの正常表示が確保される。そのうち、空白時間(blanking time)は同期パルス時間(符号A)、前入口時間(符号B)、及び後入口時間(D)を具え、表示フレームの表示に必要なフライバック(flyback time)時間を提供する。該同期パルス時間、前入口時間、水平画像時間、及び後入口時間の総計が水平同期時間である。そのうち、水平画像時間は一行の表示フレームを表示するのに必要な時間であり、垂直画像時間の特性と水平画像時間は相似であり、垂直画像時間は一幅(frame)の表示フレームを表示するのに必要な時間であるが、詳しい説明は省略する。
【0004】
使用者がOSDにより表示フレームを調整する時、表示フレームの水平画像タイミングが同期パルス時間より先んじるか後になるためにディスプレイ20が正常に表示フレームを表示できなくなる。当然、画像の垂直画像タイミングにも類似の問題が存在しうる。しかし、現在このような問題の発生を防止する有効な方法はない。このほか、表示フレームのサイズ及び位置を調整する方法は多くあり、例えば特許文献1中には、マイクロプロセッサによる表示フレームのサイズ及び位置の調整過程中に、マイクロプロセッサが同期時間に対してサンプリングを行ない、表示フレームの上下左右の往復切り換えを形成する方法が記載されているが、これは時間がかかり、面倒である。」

(ウ)
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主要な目的は、一種の表示フレーム調整方法を提供することにあり、それは表示フレームを適当なサイズ及び大きさに速やかに調整できる方法であるものとする。」

(エ)
「【0012】
本発明の表示フレーム調整方法によると、メーカーがディスプレイを製造し並びに自動調整を行なう時或いは表示フレームを試験する時に、コンピュータ装置10により表示フレームの調整を行ない、並びに良好なサイズと位置を設定し、且つこのサイズ或いは位置を参考点として確定する。表示フレームの同期タイミング変更時には、表示フレームのサイズ或いは位置上に発生する変化を測定することで、傾斜率を取得して同期タイミングとサイズ変化或いは位置変化の関係を表示する。そのうち、参考点と傾斜率は、メーカーが生産時に自動調整を行なうか或いは修理時の手動調整後に計算により得られる値であり、ディスプレイ20のメモリ28内に予め保存される。最後に全ての参考点及び対応する傾斜率がディスプレイ20のメモリ28に保存される。こうして、起点、対応する傾斜率が既知とされ、マイクロプロセッサ26は水平同期タイミング及び垂直同期タイミングを一回サンプリングし、並びに参考点と対応する傾斜率の計算を組み合わせることで、この水平同期タイミング及び垂直同期タイミング下での好ましい表示フレームのサイズ及び位置を得ることができる。本発明の表示フレーム調整方法は、僅かに水平同期タイミングと垂直同期タイミングを一回サンプリングするだけで表示フレームに対して速やかに好ましいサイズと位置を設定でき、周知の表示フレーム調整方法に較べて顕著な進歩性を有している。」

(オ)
「【0013】
図3は本発明の表示フレーム調整方法を示し、それは以下のステップを具えている。
・・・
ステップS12:表示フレームの水平同期周波数、水平画像タイミング、垂直同期周波数、垂直画像タイミング、を測定する。マイクロプロセッサ26が入力信号に対して測定し、表示フレームの現在の水平同期周波数、水平画像タイミング、垂直同期周波数、垂直画像タイミングを取得する。
ステップS14:複数組の参考点及びその対応する傾斜率を読み取る。マイクロプロセッサ26がメモリ28中の複数組の参考点及びその対応する傾斜率を読み取る。異なる水平同期周波数或いは異なる垂直同期周波数は異なる周波数セグメントに対応し、異なるキャパソタンス(当審注:「キャパシタンス」の誤記と認める。)は異なる作業特性及び反応速度を発生し、異なる周波数セグメントに対応させることができ、ゆえに周波数セグメントはキャパシタセグメント(capacitor segment;CS)とも称される。これによりディスプレイ20が提供する水平同期周波数は複数の周波数セグメントに分割され、各参考点は各設定周波数セグメントの起点とされ、傾斜率は各設定周波数セグメントが対応する傾斜率とされる。設定周波数セグメントの起点、傾斜率は既知であるため、ディスプレイ20のマイクロプロセッサ26は現在の周波数セグメントの終点及び現在の水平同期周波数、水平画像タイミングを測定するだけで、好ましい水平サイズ及び水平位置を獲得できる。表示フレームの好ましい垂直サイズ及び垂直位置は上述の技術と相似であるため、説明を省略する。
・・・
ステップS20:水平同期周波数、水平画像タイミング、複数組の参考点及びその対応する傾斜率により表示フレームの水平サイズを設定する。ステップS20の細部は図4及び図5を参照して後述する。」

(カ)
「【0013】
・・・
ステップS30:表示フレームの水平サイズの調整を開始する。
ステップS31:この周波数セグメントの参考点及びその対応する傾斜率を読み取る。そのうち、周波数セグメントは水平画像タイミングに対応する。
ステップS32:水平同期周波数、水平画像タイミング及び対応する傾斜率が正常であるかを判断し、正常であればステップS33を実行し、不正常であればステップS34を実行する。図5に示されるように、各周波数セグメント中には極大値(例えば37.5KHz)及び参考点(例えば35KHz)が設けられている。使用者が設定する表示フレームの水平同期周波数はこの周波数セグメントの範囲内にある時、水平同期周波数は正常であり、続いて以下のステップS33を実行し、そうでなければステップS34を実行する。
ステップS33:水平同期周波数、水平画像タイミング、参考点、及び対応する傾斜率により表示フレームの水平サイズを調整し、並びにステップS35を実行する。図5に示されるように、周波数セグメントの起点(即ち参考点)、対応する傾斜率、水平画像タイミング、及び現在の水平同期周波数(例えば37KHz)は既知であるため、マイクロプロセッサ26はこの水平同期周波数の下で、表示フレームが有すべき水平サイズ(例えば350nm)を計算する。
ステップS34:予め設定された水平同期周波数、水平画像タイミング、参考点、及び対応する傾斜率、及び調整表示フレームの水平サイズを調整し、ステップS35に進む。使用者が設定した表示フレームの水平同期周波数が周波数セグメントの範囲外にある時、使用者が設定した水平同期周波数を受け入れず、並びに予め設定された水平同期周波数により表示フレームの水平サイズを設定する。そのうち、予め設定された水平同期周波数は該周波数セグメントの中間値(例えば36.25KHz)とされ、並びにステップS31を実行する。
ステップS35:許容誤差範囲内に調整されたかを判断する。調整されていればステップS36を実行し、調整されていなければステップS31を実行する。ステップS33或いはステップS34の実行の後、表示フレームの水平サイズが正確であるかを検査し、許容誤差範囲内を超えていれば表示フレームの水平サイズを新たに調整し、表示フレームの水平サイズと理想水平サイズの差異が許容誤差範囲内になるまでこれを続けてからステップS36を実行する。
ステップS36:表示フレームの水平サイズの調整を終了する。」

イ 当初明細書等の記載から把握できる技術的事項
(ア)上記ア(イ)によれば、「画像タイミング」とは、同期パルス時間(水平同期信号(符号A)、垂直同期信号)に対して同期時間(水平同期時間、垂直同期時間)内の画像信号において表示フレームが存在する水平画像時間(符号C)、垂直画像期間のタイミングを規定する情報であって、前入口時間(符号B)や後入口時間(符号D)により把握されるものと認められる。(同旨の主張が、平成19年10月24日付けの意見書の「二.2.」等においてもなされている。)

(イ)上記ア(イ)、(エ)、(オ)によれば、「表示フレーム」のタイミングに関わる用語として、当初明細書等には、「水平同期周波数」、「水平画像タイミング」、「水平同期タイミング」、「垂直同期周波数」、「垂直画像タイミング」、「垂直同期タイミング」なる用語が記載されている。
しかしながら、当初明細書等の記載だけからは、「水平同期タイミング」、「垂直同期タイミング」なる用語により把握される技術事項と、「水平同期周波数」、「水平画像タイミング」、「垂直同期周波数」、「垂直画像タイミング」なる用語により把握される技術事項との関係(いずれかと一致する関係にあるのか、一方が他方を包含する関係にあるのか、等)までは明らかではない。(事実、補正1では、当初明細書等の段落【0012】の「水平同期タイミング」、「垂直同期タイミング」なる記載をそれぞれ、「水平同期周波数」、「垂直同期周波数」なる記載に補正し、「同期タイミング」なる記載を「画像タイミング」なる記載に補正しており、当初明細書等では、各用語により把握される技術事項が混乱していたものと認められる。)

(ウ)上記ア(エ)、(オ)によれば、当初明細書等の段落【0012】に記載された、メモリ28に格納される全ての参考点及び対応する傾斜率のデータは、工場での製造時の自動調整時、修理時の手動調整時などに取得される、水平同期周波数、垂直同期周波数の値を、その横軸に、かつ、これらの値における水平サイズ、水平位置、垂直サイズ、垂直位置の調整パラメータを、その縦軸に対応付けてプロットした複数の参考点からなる特性図(図5、7、9、11)において、各参考点間の横軸方向の数値範囲を周波数セグメント(図5で言えば、水平同期周波数が35KHzを起点とし、37.5KHzを終点とした数値範囲が、その一例である)に分割して、各周波数セグメントにおいて、起点と終点の横軸方向の座標、及び、起点と終点(極大値)間の直線の傾きを傾斜率として記憶したもの、すなわち、各周波数セグメントは、起点と終点(極大値)の水平同期周波数、または、垂直同期周波数の値、及び、参考点間を結ぶ水平サイズ、水平位置、垂直サイズ、垂直位置の調整パラメータの傾斜率を、そのデータとして持つものと認められる。(同旨の主張が、平成19年10月24日付けの意見書の「二.1.」等においてもなされている。)
しかしながら、かかる周波数セグメントに対して、水平画像タイミング、垂直画像タイミングの値がどのように関係するものであるのか、いいかえれば、かかる周波数セグメントの参考点の値(水平同期周波数、または、垂直同期周波数の値と、参考点間を結ぶ水平サイズ、水平位置、垂直サイズ、垂直位置の調整パラメータに関する傾斜率)と、水平画像タイミング、垂直画像タイミングの値とが、どのような関係にあるのか(例えば、各周波数セグメントに設定されるデータとして、水平画像タイミング、垂直画像タイミングの値が設定されるものか否か、そして、仮に、設定されているとしても、どのように設定されているのか、例えば、各周波数セグメントに1個の水平画像タイミングの値が設定されており、水平画像タイミングの値が異なれば、水平同期周波数、水平サイズの調整パラメータ等の参考点の値が異なるという関係にあるのか、または、各周波数セグメントに水平画像タイミング、垂直画像タイミングの所定の数値範囲が設定されるような関係にあるのか、あるいは、各周波数セグメントには、水平画像タイミング、垂直画像タイミングの一方のみが設定されているのか、それとも、双方が設定されているのか、等)、一切不明である。

(エ)上記ア(オ)、(カ)によれば、当初明細書等の段落【0013】に記載されたステップS12において、表示フレームの現在の水平同期周波数、水平画像タイミング、垂直同期周波数、垂直画像タイミングが取得され、ステップS31において、取得された水平同期周波数、水平画像タイミングの値に応じて、ある特定の周波数セグメントが選択され、選択された周波数セグメントの参考点の水平同期周波数の値と、水平サイズの調整パラメータの傾斜率とが読み取られるものと認められる。
しかしながら、上記段落【0013】には「ステップS31:この周波数セグメントの参考点及びその対応する傾斜率を読み取る。そのうち、周波数セグメントは、水平画像タイミングに対応する。」なる記載があるものの、上記(ウ)で述べたように、周波数セグメントと、水平画像タイミングの値との関係がいかなるものか一切不明であるから、水平画像タイミングの値に対応して、どのような周波数セグメントが読み取られるのか(どの周波数セグメントが選択されるのか、選択される周波数セグメントの数は1個なのか、複数なのか、等)も、一切不明である。

(オ)上記ア(カ)によれば、当初明細書等の段落【0013】には、
・ステップS32において、水平同期周波数、水平画像タイミング及び対応する傾斜率が正常であるか否かが判断されるが、その判断は、ステップS12において取得された現在の水平同期周波数(37KHz)が、ステップS31において読み取られた周波数セグメントの参考点(例えば、35KHz)と極大値(例えば、37.5KHz)の水平同期周波数の範囲内にあるか否かによって判断されること、
・上記判断において、範囲内と判断された場合は、正常であると判断され、ステップS33に進んで、読み取られた周波数セグメントの参考点及び極大値の水平同期周波数(35KHzと37.5KHz)と傾斜率と、現在の水平同期周波数(37KHz)に基づいて、内挿法等を用いて、現在の水平同期周波数(37KHz)に応じた水平サイズの調整パラメータを求めること、
・上記判断において、範囲外と判断された場合(例えば、現在の水平同期周波数が、30KHzであって、35KHzと37.5KHzの間にない場合)は、正常でないと判断され、ステップS34に進んで、読み取られた周波数セグメントの中間値(35KHzと37.5KHzの中間値である36.25KHz)等の、予め設定された水平同期周波数に、現在の水平同期周波数を設定し直し、水平サイズの調整パラメータとしても、予め設定された水平同期周波数に対応するものが設定されること
が認められる。

ウ 判断
上記イ(オ)によれば、当初明細書等には、
・ステップS32で行われる処理として、ステップS12において取得された現在の水平同期周波数と、ステップS31において読み取られた周波数セグメントの参考点と極大値の水平同期周波数の範囲内にあるか否かを判断すること、
・上記判断において、範囲内と判断された場合は、ステップS33に進んで、読み取られた周波数セグメントの参考点及び極大値の水平同期周波数と傾斜率と、現在の水平同期周波数に基づいて、内挿法等を用いて、現在の水平同期周波数に応じた水平サイズの調整パラメータを求めること、
・上記判断において、範囲外と判断された場合は、ステップS34に進んで、読み取られた周波数セグメントの中間値等の、予め設定された水平同期周波数に、現在の水平同期周波数を設定し直し、水平サイズの調整パラメータとしても、予め設定された水平同期周波数に対応するものを設定すること
は記載されている。
しかしながら、ステップS32?S34で行われる処理として、以下の事項については、一切、記載されていないし、示唆されてもいない。すなわち、
・ステップS32で行われる処理として、ステップS12において取得された現在の水平同期周波数、水平画像タイミングが、ステップS31において読み取られた、水平画像タイミングに対応する周波数セグメントの参考点上にあるか(ステップS12において取得された現在の水平同期周波数が、ステップS31において読み取られた周波数セグメントの参考点と極大値の水平同期周波数と一致するか否か)を判断すること、
・上記判断において、参考点上にないと判断されれば(現在の水平同期周波数と、周波数セグメントの参考点と極大値の水平同期周波数とが一致しなければ)、ステップS33に進んで、現在の水平同期周波数に対応する周波数セグメントの参考点の水平同期周波数と該周波数セグメントの傾斜率に基づいて内挿法等により水平サイズの調整パラメータを求めること、
・上記判断において、参考点上にあると判断されれば(現在の水平同期周波数と、周波数セグメントの参考点と極大値の水平同期周波数とが一致すれば)、ステップS34に進んで、使用者が設定した水平同期周波数を受け入れずに、該周波数セグメントの中間値等の、予め設定された水平同期周波数に水平同期周波数を変更し、かつ、予め設定された水平同期周波数に対応する水平サイズに変更する処理を行うこと
については、一切、記載されていないし、示唆されてもいない。

そもそも、ステップS32?S34で行う処理として、ステップS12で取得された現在の水平同期周波数が、ステップS31で読み取られた周波数セグメントの参考点の水平同期周波数と一致する場合に、その参考点の水平同期周波数に対応した水平サイズの調整パラメータを設定するのではなく、わざわざ、参考点と一致していた現在の水平同期周波数を、該周波数セグメントの中間点の水平同期周波数に変更した上で、しかも、該参考点とは異なる周波数セグメントの中間点に対応した水平サイズの調整パラメータを設定することは、調整済みのパラメータに一致していた参考点の水平同期周波数から乖離する方向に、現在の水平同期周波数を再設定するものである。よって、自動調整において、パラメータを、正常に動作する調整済みのパラメータに漸近させるのではなく、乖離させるものである、かかる処理は、到底、自動調整後の表示フレームが正常に動作するものとは認めらないから、かかる処理の技術的意義は不明であるといわざるをえない。また、本願の優先日当時の技術常識を参酌しても、その技術的意義は不明である。

したがって、「ステップS32で行われる処理として、ステップS12で取得された現在の水平同期周波数(Hfx)、水平画像タイミングが、ステップS31で読み取られた、水平画像タイミングに対応する周波数セグメントの参考点(Hf1,Hf2,...Hfn)上にあるかを判断し、上記判断において参考点上にないと判断されれば(例えば、Hf2=35KHz、Hf3=37.5KHzなる参考点に対して、Hfx=37KHzであれば)、ステップS33に進んで、現在の水平同期周波数(Hfx=37KHz)と、対応する周波数セグメントの参考点(Hf2=35KHz、Hf3=37.5KHzの点)と該周波数セグメントの傾斜率(本件補正により補正された図5におけるS2)に基づいて内挿法等により現在の水平同期周波数(Hfx=37KHz)に対応する水平サイズ(350nm)を求めること、上記判断において参考点上にあると判断されれば(例えば、Hf2=35KHz、Hf3=37.5KHzなる参考点に対して、Hfx=35KHzもしくは37.5KHzであれば)、ステップS34に進んで、使用者が設定した水平同期周波数を受け入れずに(35KHzや37.5KHzではなく)、該周波数セグメントの中間値(Hf2+(Hf3-Hf2)/2=35+(37.5-35)/2=36.25KHz)等の、予め設定された水平同期周波数に水平同期周波数を変更し、予め設定された水平同期周波数に対応する水平サイズ(36.25KHzに対応する水平サイズ)に変更すること」なる上記技術事項Aは、およそ、当初明細書等に記載された事項ではなく、しかも、本願の優先日当時の技術常識に照らしても、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるということはできない。

よって、上記技術事項Aを導入する本件補正は、新たな技術的事項を導入したものというべきであって、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

(3)むすび
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 本願について

(1)特許法第17条の2第3項に規定する要件について

ア 補正1の内容
補正1は、補正1前の明細書(願書に最初に添付した明細書)を次のとおりに補正することを含むものである。
(補正1前)
「【0013】
・・・
ステップS12:表示フレームの水平同期周波数、水平画像タイミング、垂直同期周波数、垂直画像タイミング、を測定する。マイクロプロセッサ26が入力信号に対して測定し、表示フレームの現在の水平同期周波数、水平画像タイミング、垂直同期周波数、垂直画像タイミングを取得する。
・・・
ステップS30:表示フレームの水平サイズの調整を開始する。
ステップS31:この周波数セグメントの参考点及びその対応する傾斜率を読み取る。そのうち、周波数セグメントは水平画像タイミングに対応する。
ステップS32:水平同期周波数、水平画像タイミング及び対応する傾斜率が正常であるかを判断し、正常であればステップS33を実行し、不正常であればステップS34を実行する。図5に示されるように、各周波数セグメント中には極大値(例えば37.5KHz)及び参考点(例えば35KHz)が設けられている。使用者が設定する表示フレームの水平同期周波数はこの周波数セグメントの範囲内にある時、水平同期周波数は正常であり、続いて以下のステップS33を実行し、そうでなければステップS34を実行する。
・・・」
(補正1後)
「【0013】
・・・
ステップS12:表示フレームの水平同期周波数、水平画像タイミング、垂直同期周波数、垂直画像タイミング、を測定する。マイクロプロセッサ26が入力信号に対して測定し、表示フレームの現在の水平同期周波数、水平画像タイミング、垂直同期周波数、垂直画像タイミングを取得する。
・・・
ステップS30:表示フレームの水平サイズの調整を開始する。
ステップS31:この周波数セグメントの参考点及びその対応する傾斜率を読み取る。そのうち、周波数セグメントは水平画像タイミングに対応する。
ステップS32:水平同期周波数、水平画像タイミングが対応する参考点上にあるかを判断し、ノーであればステップS33を実行し、イエスであればステップS34を実行する。図5に示されるように、各周波数セグメント中には極大値(例えば37.5KHz)及び参考点(例えば35KHz)が設けられている。使用者が設定する表示フレームの水平同期周波数はこの周波数セグメントの範囲内にある時、水平同期周波数は正常であり、続いて以下のステップS33を実行し、そうでなければステップS34を実行する。
・・・」(下線は、補正箇所を明示するために請求人が付した。)

したがって、補正1は、
「ステップS32で行われる処理として、ステップS12において取得された現在の水平同期周波数、水平画像タイミングが、ステップS31において読み取られた、水平画像タイミングに対応する周波数セグメントの参考点上にあるか(ステップS12において取得された現在の水平同期周波数が、ステップS31において読み取られた周波数セグメントの参考点と極大値の水平同期周波数と一致するか否か)を判断し、参考点上になければ(現在の水平同期周波数と、周波数セグメントの参考点と極大値の水平同期周波数とが一致しなければ)、ステップS33に進むこと、参考点上にあれば(現在の水平同期周波数と、周波数セグメントの参考点と極大値の水平同期周波数とが一致すれば)、ステップS34に進むこと」との技術事項
を導入するものである。

イ 当審の判断
補正1によって導入される上記技術事項は、実質的に、「2(1)イ」にて指摘した技術事項Aと同じものである。

してみると、「2(2)ウ」における検討と同様の理由により、補正1によって導入される上記技術事項は、およそ、当初明細書等に記載された事項ではなく、しかも、本願の優先日当時の技術常識に照らしても、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるということはできない。

したがって、上記技術事項を導入する補正1は、新たな技術的事項を導入したものというべきであって、補正1は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

ウ 小括
以上のとおり、補正1は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

(2)特許法第36条第4項第1号に規定する要件について

ア 補正1によって補正された特許請求の範囲の記載事項
補正1によって補正された特許請求の範囲には、以下の記載がある。

「【請求項2】
請求項1記載の表示フレーム調整方法において、(E)のステップは、
(E1)現在の水平作業周波数、水平画像タイミングを、メモリ中より読み取った該水平画像タイミングに対応するこれら参考点と対比するステップ、
(E2)該水平同期周波数、該水平画像タイミングが対応する参考点上にあるかを判断し、イエスであれば(E4)のステップを実行し、ノーであれば(E3)のステップを実行するステップ、
(E3)該水平同期周波数、該水平画像タイミング、これら参考点、及びこれら対応する傾斜率により該水平同期周波数に対応する水平サイズを計算し、並びに該表示フレームの水平サイズを調整し並びに(E5)のステップを実行するステップ、
(E4)予め設定された該水平同期周波数、該水平画像タイミング、これら参考点、及びこれら対応する傾斜率により、メモリ中より予め設定された該水平同期周波数に対応する水平サイズを読み取り、並びにそれに基づき該表示フレームの水平サイズを調整するステップ、
(E5)許容誤差範囲内に調整されたかを判断し、ノーであれば(E1)のステップを実行し、イエスであれば(E6)のステップを実行するステップ、
(E6)表示フレームの水平サイズの調整を終了するステップ、
以上のステップを具えたことを特徴とする、表示フレーム調整方法。」

イ 補正1によって補正された明細書等の記載事項
上記請求項2に係る特定事項に関して、補正1によって補正された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「補正1によって補正された明細書等」という。)には、以下の記載がある。

(ア)
「【0012】
本発明の表示フレーム調整方法によると、メーカーがディスプレイを製造し並びに自動調整を行なう時或いは表示フレームを試験する時に、コンピュータ装置10により表示フレームの調整を行ない、並びに良好なサイズと位置を設定し、且つこのサイズ或いは位置を参考点として確定する。表示フレームの画像タイミング変更時には、表示フレームのサイズ或いは位置上に発生する変化を測定することで、傾斜率を取得して同期周波数とサイズ変化或いは位置変化の関係を表示する。そのうち、参考点と傾斜率は、メーカーが生産時に自動調整を行なうか或いは修理時の手動調整後に計算により得られる値であり、ディスプレイ20のメモリ28内に予め保存される。最後に全ての参考点及び対応する傾斜率がディスプレイ20のメモリ28に保存される。こうして、起点、対応する傾斜率が既知とされ、マイクロプロセッサ26は水平同期周波数及び垂直同期周波数を一回サンプリングし、並びに参考点と対応する傾斜率の計算を組み合わせることで、この水平同期周波数及び垂直同期周波数下での好ましい表示フレームのサイズ及び位置を得ることができる。本発明の表示フレーム調整方法は、僅かに水平同期周波数と垂直同期周波数を一回サンプリングするだけで表示フレームに対して速やかに好ましいサイズと位置を設定でき、周知の表示フレーム調整方法に較べて顕著な進歩性を有している。
【0013】
図3は本発明の表示フレーム調整方法を示し、それは以下のステップを具えている。
・・・
ステップS12:表示フレームの水平同期周波数、水平画像タイミング、垂直同期周波数、垂直画像タイミング、を測定する。マイクロプロセッサ26が入力信号に対して測定し、表示フレームの現在の水平同期周波数、水平画像タイミング、垂直同期周波数、垂直画像タイミングを取得する。
ステップS14:複数組の参考点及びその対応する傾斜率を読み取る。マイクロプロセッサ26がメモリ28中の複数組の参考点及びその対応する傾斜率を読み取る。異なる水平同期周波数或いは異なる垂直同期周波数は異なる周波数セグメントに対応し、異なるキャパソタンスは異なる作業特性及び反応速度を発生し、異なる周波数セグメントに対応させることができ、ゆえに周波数セグメントはキャパシタセグメント(capacitor segment;CS)とも称される。これによりディスプレイ20が提供する水平同期周波数は複数の周波数セグメントに分割され、各参考点は各設定周波数セグメントの起点とされ、傾斜率は各設定周波数セグメントが対応する傾斜率とされる。設定周波数セグメントの起点、傾斜率は既知であるため、ディスプレイ20のマイクロプロセッサ26は現在の周波数セグメントの終点及び現在の水平同期周波数、水平画像タイミングを測定するだけで、好ましい水平サイズ及び水平位置を獲得できる。表示フレームの好ましい垂直サイズ及び垂直位置は上述の技術と相似であるため、説明を省略する。
・・・」

(イ)
「【0013】
・・・
ステップS30:表示フレームの水平サイズの調整を開始する。
ステップS31:この周波数セグメントの参考点及びその対応する傾斜率を読み取る。そのうち、周波数セグメントは水平画像タイミングに対応する。
ステップS32:水平同期周波数、水平画像タイミングが対応する参考点上にあるかを判断し、ノーであればステップS33を実行し、イエスであればステップS34を実行する。図5に示されるように、各周波数セグメント中には極大値(例えば37.5KHz)及び参考点(例えば35KHz)が設けられている。使用者が設定する表示フレームの水平同期周波数はこの周波数セグメントの範囲内にある時、水平同期周波数は正常であり、続いて以下のステップS33を実行し、そうでなければステップS34を実行する。
ステップS33:水平同期周波数、水平画像タイミング、参考点、及び対応する傾斜率により表示フレームの水平サイズを調整し、並びにステップS35を実行する。図5に示されるように、周波数セグメントの起点(即ち参考点)、対応する傾斜率、水平画像タイミング、及び現在の水平同期周波数(例えば37KHz)は既知であるため、マイクロプロセッサ26はこの水平同期周波数の下で、表示フレームが有すべき水平サイズ(例えば350nm)を計算する。
ステップS34:予め設定された水平同期周波数、水平画像タイミング、参考点、及び対応する傾斜率、及び調整表示フレームの水平サイズを調整し、ステップS35に進む。使用者が設定した表示フレームの水平同期周波数が周波数セグメントの範囲外にある時、使用者が設定した水平同期周波数を受け入れず、並びに予め設定された水平同期周波数により表示フレームの水平サイズを設定する。そのうち、予め設定された水平同期周波数は該周波数セグメントの中間値(例えば36.25KHz)とされ、並びにステップS31を実行する。
・・・
ステップS36:表示フレームの水平サイズの調整を終了する。
・・・」

ウ 当審の判断
上記(ア)、(イ)によれば、「2(2)イ(ウ)」と同様に、補正1によって補正された明細書等において、メモリ28に格納される全ての参考点及び対応する傾斜率のデータは、工場での製造時の自動調整時、修理時の手動調整時などに取得される、水平同期周波数、垂直同期周波数の値を、その横軸に、かつ、これらの値における水平サイズ、水平位置、垂直サイズ、垂直位置の調整パラメータを、その縦軸に対応付けてプロットした複数の参考点からなる特性図(図5、7、9、11)において、各参考点間の横軸方向の数値範囲を周波数セグメント(図5で言えば、水平同期周波数が35KHzを起点とし、37.5KHzを終点とした数値範囲が、その一例である)に分割して、各周波数セグメントにおいて、起点と終点の横軸方向の座標、及び、起点と終点(極大値)間の直線の傾きを傾斜率として記憶したもの、すなわち、各周波数セグメントは、起点と終点(極大値)の水平同期周波数、または、垂直同期周波数の値、及び、参考点間を結ぶ水平サイズ、水平位置、垂直サイズ、垂直位置の調整パラメータの傾斜率を、そのデータとして持つものと認められる。(同旨の主張が、平成19年10月24日付けの意見書の「二.1.」等においてもなされている。)
しかしながら、かかる周波数セグメントに対して、水平画像タイミング、垂直画像タイミングがどのように関係するものであるのか、いいかえれば、かかる周波数セグメントの参考点の値(水平同期周波数、または、垂直同期周波数の値と、参考点間を結ぶ水平サイズ、水平位置、垂直サイズ、垂直位置の調整パラメータに関する傾斜率)と、水平画像タイミング、垂直画像タイミングの値とが、どのような関係にあるのか(例えば、各周波数セグメントに設定されるデータとして、水平画像タイミング、垂直画像タイミングの値が設定されるものか否か、そして、仮に、設定されているとしても、どのように設定されているのか、例えば、各周波数セグメントに1個の水平画像タイミングの値が設定されており、水平画像タイミングの値が異なれば、水平同期周波数、水平サイズの調整パラメータ等の参考点の値が異なるという関係にあるのか、または、各周波数セグメントに水平画像タイミング、垂直画像タイミングの所定の数値範囲が設定されるような関係にあるのか、あるいは、各周波数セグメントには、水平画像タイミング、垂直画像タイミングの一方のみが設定されているのか、それとも、双方が設定されているのか、等)、一切不明である。

よって、「2(2)イ(エ)」と同様に、補正1によって補正された明細書等において、周波数セグメントと水平画像タイミングの値との関係がいかなるものか一切不明であるから、ステップS31において、水平画像タイミングに対応して、どのような周波数セグメントが読み取られるのか(どの周波数セグメントが選択されるのか、選択される周波数セグメントの数は1個なのか、複数なのか、等)も、一切不明である。

したがって、補正1によって補正された明細書等においては、請求項2の「(E1)現在の水平作業周波数、水平画像タイミングを、メモリ中より読み取った該水平画像タイミングに対応するこれら参考点と対比するステップ」なる特定事項における「メモリ中より読み取った該水平画像タイミングに対応するこれら参考点」が属する周波数セグメントがいかなるものか不明であるから、発明の詳細な説明は、当業者が、「現在の水平作業周波数、水平画像タイミングを、メモリ中より読み取った該水平画像タイミングに対応するこれら参考点と対比する」ことの実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものではない。

付言すれば、ステップS31以降のステップS32で使用される周波数セグメントもいかなるものであるか不明であって、該周波数セグメントに対応する水平サイズの調整パラメータを特定することもできないから、請求項2の「(E2)該水平同期周波数、該水平画像タイミングが対応する参考点上にあるかを判断し、イエスであれば(E4)のステップを実行し、ノーであれば(E3)のステップを実行するステップ、(E3)該水平同期周波数、該水平画像タイミング、これら参考点、及びこれら対応する傾斜率により該水平同期周波数に対応する水平サイズを計算し、並びに該表示フレームの水平サイズを調整し並びに(E5)のステップを実行するステップ、(E4)予め設定された該水平同期周波数、該水平画像タイミング、これら参考点、及びこれら対応する傾斜率により、メモリ中より予め設定された該水平同期周波数に対応する水平サイズを読み取り、並びにそれに基づき該表示フレームの水平サイズを調整するステップ」も、実施することができない。さらに、(E2)の「該水平同期周波数、該水平画像タイミングが対応する参考点上にあるか」の判断において、イエスである場合(現在の水平同期周波数と、ステップS31で読み取られた周波数セグメントの参考点の水平同期周波数とが一致する場合)に、(E4)のステップ(その参考点の水平同期周波数に対応した水平サイズの調整パラメータを設定するのではなく、わざわざ、参考点と一致していた現在の水平同期周波数を、該周波数セグメントの中間点の水平同期周波数に変更した上で、かつ、該参考点とは異なる周波数セグメントの中間点に対応した水平サイズの調整パラメータを設定する)を行う表示フレーム調整方法が、適正に、表示フレームを調整できるものとも認められない。

よって、補正1によって補正された明細書等の発明の詳細な説明は、当業者が、請求項2に係る発明の実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものではない。

エ 小括
以上のとおり、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、請求項に係る発明の実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものとはいえない。

4 むすび

以上のとおり、補正1は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。
また、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、請求項に係る発明の実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものとはいえない。

したがって、本願は、原査定の理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-12 
結審通知日 2011-12-13 
審決日 2011-12-27 
出願番号 特願2004-137168(P2004-137168)
審決分類 P 1 8・ 55- Z (G09G)
P 1 8・ 561- Z (G09G)
P 1 8・ 536- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福永 健司  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 中塚 直樹
後藤 亮治
発明の名称 表示フレーム調整方法  
代理人 あいわ特許業務法人  

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