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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1256883
審判番号 不服2010-15763  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-13 
確定日 2012-05-09 
事件の表示 特願2000-223365「診療状況通知システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月 8日出願公開、特開2002- 41651〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年7月25日の出願であって、平成21年12月2日付けの拒絶理由通知に対して、平成22年2月8日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年3月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 平成22年7月13日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年7月13日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の補正内容
平成22年7月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、以下のとおり、特許請求の範囲の請求項1を、平成22年2月8日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1(以下、「補正前の請求項1」という。)から補正後の請求項1に変更する補正事項を含むものである。

<補正前の請求項1>
「 【請求項1】医療機関に設置されてインターネットに接続可能なモニタ、キーボードやマウス等の入力装置、通信装置およびそれらの動作を制御する制御部を有する端末機および診療受付をした患者に順次整理番号を付与する手段と、情報サービス機関に設置されて各医療機関における診療科毎の診療状況等の診療データベースが記憶される記憶装置とこれらの処理装置とを有するインターネットを介して前記医療機関に設置された端末機および患者が所有する端末機を含む任意の端末機から接続可能であるインターネットサーバとからなり、各医療機関がそれらの医療機関に設置された端末機の入力装置から各医療機関における診療科目毎の診療の受付情報ならびに進行状況を示すデータが各医療機関の識別コードなどを用いてインターネットを介して前記情報サービス機関に設置されているインターネットサーバーに送信されて前記処理装置により数理処理して求めた診療予想時刻などの診療進行状況を前記記憶装置の診療データベースに順次、記憶されるとともに、患者等が端末機を用いてインターネットを介して前記インターネットサーバに接続し各医療機関の識別コードを用いて前記記憶装置の診療データベースに順次記憶されている診療進行状況を確認できることを特徴とする診療状況通知システム。」

<補正後の請求項1>
「 【請求項1】医療機関に設置されてインターネットに接続可能なモニタ、キーボードやマウス等の入力装置、通信装置およびそれらの動作を制御する制御部を有する端末機および診療受付をした患者に順次整理番号を付与する手段と、情報サービス機関に設置されて各医療機関における診療科毎の診療状況等の診療データベースが記憶される記憶装置とこれらの処理装置とを有するインターネットを介して前記医療機関に設置された端末機および患者が所有する端末機を含む任意の端末機から接続可能であるインターネットサーバとからなり、各医療機関がそれらの医療機関に設置された端末機の入力装置から各医療機関における診療科目毎の診療の受付情報ならびに進行状況を示すデータが各医療機関の識別コードなどを用いてインターネットを介して前記情報サービス機関に設置されているインターネットサーバーに送信されて前記処理装置により診療進行状況、数理処理して求めた診療予想時刻などを前記記憶装置の診療データベースに順次、記憶されるとともに、患者等が端末機を用いてインターネットを介して前記インターネットサーバに接続し各医療機関および診療科目名の識別コードを用いて前記記憶装置の診療データベースに順次記憶されている受付け済み患者の人数や担当医師の情報などの診療進行状況や診療予想時刻などを確認できることを特徴とする診療状況通知システム。」

2.本件補正内容についての判断
上記補正後の請求項1の記載において、下線部が新たに加わった補正事項であり、その内容は、以下のとおりである。
ア 「識別コード」について、「各医療機関の識別コード」から「各医療機関および診療科目名の識別コード」へ補正したこと(以下、「補正事項A」という。)
イ 「「診療データベース」に記憶されるデータを、「処理装置により数理処理して求めた診療予想時刻などの診療進行状況」から「処理装置により診療進行状況、数理処理して求めた診療予想時刻など」へ補正し、併せて、該「診療進行状況」について、それを「処理装置により数理処理して求めた診療予想時刻などの診療進行状況」から「受付け済み患者の人数や担当医師の情報などの診療進行状況」へ補正すると共に、「診療予想時刻」を該「診療進行状況」と切り離して別のデータ項目として、「記憶装置の診療データベースに順次記憶されている診療進行状況を確認できる」から「記憶装置の診療データベースに順次記憶されている受付け済み患者の人数や担当医師の情報などの診療進行状況や診療予想時刻などを確認できる」へ補正したこと(以下、「補正事項B」という。)
この内、補正事項Aは、「識別コード」により限定を加えたものであるが、補正事項Bは、「診療進行状況」の意味内容が、補正前は「診療予想時刻」を含む内容であったものから、補正後は、該「診療予想時刻」を「診療進行状況」とは別のデータ項目として取り扱い、代わって「受付け済み患者の人数や担当医師の情報」を含む内容へ変更されたものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項で規定する、いわゆる「限定的減縮」の要件に該当しない。
以下、この点を、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして確認する。
まず、【0023】には、「殊に、インターネットサーバ20側では、診療の進行状況について、簡易グラフ表示や、回帰分析などの数理処理を用いて診療予想時刻を表示を以て患者に知らせることも可能であり、これらの場合には、患者は診療の進行状況をより簡単且つ確実に確認することができる。」とあるから、「診療予想時刻」は、「診療進行状況」に関連するデータであることに明らかであるが、それに明らかに含まれるデータとまではいえない。
しかしながら、続く【0024】には、「また、各医療機関1は、端末機10を用いて、患者の診療が済む度に、その患者の診療科および整理番号を入力し、インターネットサーバ20へ送信する。更に、診療データベース22に、受付済み患者の人数や担当医師等の情報を入力しておくと、患者が、例えばすいている時間を見計らって医療機関1の受付に行ったり、自分の担当医師が休診していないかどうかを医療機関1へ行く前に確認したりすることができる。」とあるところ、「受付済み患者の人数や担当医師等の情報」と「診療進行状況」との関係の明示はないが、「受付済み患者の人数」については、「患者が、例えばすいている時間を見計らって医療機関1の受付に行ったり」の記載から、「診療進行状況」に関するデータであることの示唆といえるとしても、「担当医師等の情報」については、「自分の担当医師が休診していないかどうかを医療機関1へ行く前に確認したりすることができる」の記載から鑑みても、「診療進行状況」に関するデータといえるものではなく、またそれを示唆するものでもない。
そうすると、補正事項Bは、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、「限定的減縮」の要件を満足するものとはいえない。
また、補正事項Bは、上記改正前の特許法第17条の2第4項第1号で規定する「請求項の削除」、同第3号で規定する「誤記の訂正」、及び、同第4号に規定する「明りょうでない記載の釈明」のいずれにも該当しないことも明らかである。
以上のとおりであるから、本件補正事項Bは、上記改正前の特許法第17条の2第4項の規定に適合するものではない。

3.独立特許要件についての判断
仮に、上記「2.」で示した補正事項Bが、上記改正前の特許法第17条の2第4項の規定に適合するものとした場合において、上記補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかについても、以下に検討する。

3-1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-308344号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア 「【0030】以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
実施の形態1.図1は本発明に係る順番待ち情報配信条件設定装置および順番待ち情報配信方式の概要図であり、詳しくは、待ち情報配信基地の一例として病院を考えた場合のシステム構成の一例を示したものである。図において、1は自宅、2は一般電話、3は携帯電話、4は公衆回線、5は待ち情報配信基地で本実施の形態1では病院、6は情報管理サーバである。
【0031】図2は実施の形態1の情報管理サーバ6のブロック構成図である。図において、11はカルテ情報等の病院管理情報の入力端子、12は病院管理情報の出力端子、13は患者により入力される診察予約(初診登録を含む)、診察順番待ち状態の確認、呼出し変更等の利用者要求、および個人情報の入力端子、14は待ち情報の出力端子、15は現在の待ち番号の入力端子、17は入力端子13より入力される利用者要求を受け付ける要求受付部、16は入力端子11より入力されるカルテ情報等の病院管理情報を受け付け、また医師等の要求に応じて病院管理情報を出力端子12に出力する情報入出力部である。また、情報入出力部16では、初診の患者の場合に要求受付部17より処理が移され、患者の氏名、年齢、住所、電話番号を含む個人情報の入力を行なう。18は情報処理部19で得られた待ち情報を出力端子14に出力する情報送出部、19は入力端子15より入力される現在の待ち番号、要求受付部17より入力される利用者要求にもとづき、診察予約や、呼出し条件の設定、情報送出部18への待ち情報の出力を行なう情報処理部、20は患者の氏名、年齢、住所、電話番号などの個人情報と、患者のカルテ情報などの病院管理情報からなるデータベースである。
【0032】図3は上記情報処理部19のブロック構成図である。図において、31は診察予約(初診登録を含む)、診察順番待ち状態の確認、呼出し変更等の利用者要求の入力端子、32は待ち情報の出力端子、33は現在の待ち番号の入力端子、34はデータベース20に対して個人情報と病院管理情報の検索を行なうときの検索制御信号の出力端子、35はデータベース20から入力される上記検索結果の入力端子、38は入力端子31より入力される利用者要求により、データベース20から個人情報の検索を行ない、検索結果を呼出し条件推測部36に出力する個人情報検索部、37はデータベース20に格納された個人情報、病院管理情報をもとに統計データを作成する待ち時間統計部、36は入力端子31より入力される利用者要求に従い、待ち時間統計部37から出力される統計データに基づいて、待ち情報を出力端子32に出力する呼出し条件を導出、推測する呼出し条件推測部である。39は呼出し条件推測部36より出力された呼出し条件、あるいは利用者からの診察順番待ち状態の確認要求により、呼出し条件推測部36に対して出力端子32への診察順番待ち状態の出力を命令する呼出し部である。
【0033】以下、図1から図3を用いて、本実施の形態1の動作を説明する。患者は自宅1あるいは外出先から、一般電話2あるいは携帯電話3の通信手段を用いて、公衆回線4経由で病院5に設置された情報管理サーバ6に対して、診察の予約を行なう。予約の際、患者は順番待ち情報の配信条件を入力する。情報管理サーバ6は、配信条件が満足された場合に公衆回線4を通じて順番待ち情報を患者に対して配信する。また、患者は情報管理サーバ6に対して、現在の順番待ち情報の確認、ならびに配信条件の変更を行なうことができる。詳細はフローチャートを使って後述する。
【0034】次に、図2、3を用いて、情報管理サーバ6の詳細な動作について説明する。患者のカルテ情報等の病院管理情報は、入力端子11を介して情報入出力部16に入力され、データベース20に格納される。反対に、医師等から病院管理情報の出力要求があった場合、個人情報はデータベース20より情報入出力部16に入力され、出力端子12を介して出力される。
【0035】患者からの診察予約、診察順番待ち状態の確認、呼出し変更等の利用者要求は入力端子13を介して、要求受付部17に入力される。要求受付部17で受け付けた患者が初診の場合には、個人情報の作成のため処理が情報入出力部16に移され、情報入出力部16において、住所、氏名、年齢、電話番号等、患者自身が情報提供する必要のある個人情報を入力する。初診登録が行なわれると患者ひとりひとりを区別するためのID番号が発行される。入力された上記個人情報はデータベース20に格納される。以降、診察予約、診察順番待ち状態の確認、呼出し変更等の利用者要求は上記ID番号をもとにデータベース20を検索することにより、患者の判別を行なう。」
イ 「【0037】待ち時間統計部37では、入力端子35を介して入力された、データベース20に格納されている患者の個人情報や病院管理情報をもとに、診察科単位の一人あたりの平均診察時間、診察内容別一人当たりの平均診察時間、薬の調合時間、会計時間、事務手続き時間などの統計データを作成する。」
ウ 「【0041】次に、要求受付部17に入力された利用者要求が現在の待ち状態の確認要求の場合について説明する。要求受付部17で待ち番号が入力され、情報処理部19に処理が移る。以下、図3を用いて、利用者要求が現在の待ち状態確認の場合の情報処理部19の動作について説明する。
【0042】入力端子31より入力された待ち番号は呼出し条件推測部36に入力される。呼出し条件推測部36では、待ち時間統計部37より出力される統計データをもとに、現在時刻、入力端子33より呼出し部39経由で入力される現在の待ち番号から、現在の待ち情報を求め、出力端子32より出力する。例えば、患者が一人当たりの平均診察時間が10分である診察科に対して、診察予約をしたときに発行された診察番号が20番で、待ち状態の確認を行なったときに診察を受けている患者の診察番号が15番のとき、呼出し条件推測部36では、「現在の診察番号15番、患者の診察まであと50分」という情報を現在の待ち情報として設定する。ただし、待ち情報はこれに限るものではない。」
エ 「【0044】診察予約の場合には、ステップ107でどのような状態で呼び出すのかという呼出し条件の入力を行なう。図5に呼出し条件入力に関するフローチャートを示す。ステップ300で呼出し条件入力に入ると、診察予約の場合には、まずステップ301で待ち番号を取得する。後述する呼出し条件の変更の場合には再度同じ待ち番号が発行される。次にステップ302に移行する。ステップ302では、「自分の診察の何分まえに通知してください」という時間前呼出しの場合にはステップ303に、「自分の診察の何人まえに通知してください」という番号前呼出しの場合にはステップ305に移行する。ステップ303では「何分まえか?」を入力する時間前条件の入力を要求され、ステップ304に移行する。ステップ304では診察科の統計データから得られる一人当たりの平均診察時間にもとづき、上記ステップ303で入力した時間前条件に合致する待ち番号、呼出し時間を推測し、ステップ308に移行する。呼出し条件として番号前呼出しを選択した場合にはステップ305で「何人まえか?」を入力する番号前条件の入力を要求され、ステップ306に移行する。ステップ306ではステップ305の番号前条件に合致する待ち番号を算出し、ステップ307に移行する。ステップ307では診察科の統計データから得られる一人当たりの平均診察時間から上記番号前条件に合致する待ち時間を推測し、ステップ308に移行する。ステップ308では、上記時間前呼出し、番号前呼出しに合致する呼出し条件を設定する。ステップ309に移行して呼出し条件入力を終了する。
【0045】ステップ107で呼出し条件入力により呼出し条件が設定されたのち、ステップ108に移行する。ステップ108では上記ステップ301で取得した待ち番号とともに現在の診察番号、待ち時間等の待ち情報を患者に通知する。最後にステップ109に移行し、診察予約を終了する。
【0046】診察順番待ち状態の確認要求の場合には、ステップ201において診察予約の際に発行された待ち番号を入力し、ステップ202に移行する。ステップ202では現在診察を受けている待ち番号、患者の診察までの推測時間等の待ち情報の通知が行なわれる。待ち情報通知の後、ステップ203に移行し、診察番号待ち状態の確認を終了する。」
オ 「【0049】呼出し部39における待ち行列の一構成例を図7に示す。図7は統計データを用いた呼出し条件の設定法を説明する図であり、ある時間帯の待ち行列を抜き出したものである。患者Aから患者Iまでの人が内科、外科、皮膚科に、ある受付時間に診察予約を行なったとする。診察予約受付の際に、それぞれ、待ち番号(診察番号)が発行される。待ち番号はアルファベット一文字と数字から構成され、アルファベットは診察科を、数字はそれぞれの診察科内での待ち番号を表わすものとする。待ち番号は必ずしもこれに限るものではなく、病院全体で通し番号になっていても構わないし、担当医師別に区別された番号であっても構わない。患者Aから患者Iは、自宅から病院までの時間や、番号前呼出しか時間前呼出しの選択の違いによって、異なった呼出し条件の設定を行なっている。また、待ち時間統計部37から得られる統計的な各診察科の一人当たりの平均診察時間が、内科10分、外科10分、皮膚科5分であったとする。この過去の診察結果から導き出される統計データをもとに、呼出し時刻、あるいは呼出し番号(呼出し条件に合致して、呼出し部39から呼出し条件推測部36へ待ち情報の出力を促すときの待ち番号)を推測する。図7記載の呼出時刻、呼出時点の診察番号がこれに相当する。呼出し順は待ち行列にならぶ順番を表わしたものである。
【0050】呼出し条件として時間前待ちを設定した患者Aを例にとって呼出時刻、呼出時点の診察番号の導出、推測の仕方を具体的に説明する。患者Aは内科に対して、10:00に診察予約を行なった。この時点での診察番号はA3、患者Aに発行された待ち番号はA15である。患者Aは図4のステップ107の呼出し条件入力で60分前の時間前呼出しに設定した。このとき、内科の統計データから患者Aの診察の60分前には待ち番号A9を持っている人が診察を受けていると推測される。待ち番号A9の人が診察の順番になるには現時点からあと6人目なので、およそ60分後の11:00に呼び出せばよいことになる。つまり、患者がある診察科に対して診察予約を行なった時点の時刻をT1、そのときに診察を受けている人の待ち番号をN1、診察予約を行なった人の待ち番号N2、上記診察科の一人当たりの平均診察時間をX(時間/番号)、呼出し条件としてY時間前の時間前呼出しを設定した場合に、呼出時点の待ち番号NはN=N2-Y/Xであり、呼出時刻TはT=T1+X×(N2-N1)-Yで表現される。」
カ 「【0074】また、実施の形態1および実施の形態2では、順番待ちの登録、状況確認、呼出し変更を行なう端末として電話を用いたがこれに限るものではなく、携帯情報端末、PDA、パソコンなど、順番待ち情報を配信するサーバと通信し、上記順番待ちの登録、状況確認、呼出し変更等の要求ができるものであればその形態を問わず、同様の効果を奏することは言うまでもない。また、電話の場合にも一般電話、公衆電話、携帯電話、PHS等電話の種類を問わないことは言うまでもない。
【0075】また、実施の形態1および実施の形態2では、順番待ち情報を配信する装置と順番待ちを伴うサービスを提供する場所が同じであるよう構成したがこれに限るものではなく、上記装置と場所が離れていても同様の効果を奏することは言うまでもない。
【0076】また、利用者データベースをローカルに持っている必要はなく、ネットワークで電子的に接続されていても構わない。」

上記ア?カで摘示した記載事項及びそこで示される図面の記載を勘案すると、引用例には、以下の発明(以下、「引用例記載発明」という。)が記載されている。
「病院に設置されて公衆回線に接続可能な入力部、出力部およびそれらへの入出力信号に対する動作を制御する情報処理部、患者の個人情報と病院管理情報が記憶されるデータベースおよび診察予約をした患者に順次待ち番号(診察番号)を付与する手段を有し、公衆回線を介して患者が所有する通信手段と接続可能である情報管理サーバを構成し、上記入力部から待ち番号(診察番号)ならびに現在診察を受けている患者の待ち番号(診察番号)を示すデータが入力されて前記情報処理部により、現在の待ち情報を前記データベースに基づいて求める処理を実行するものであって、患者が通信手段を用いて公衆回線に接続し診察予約の際に発行された待ち番号(診察番号)を入力することにより、上記現在診察を受けている患者の待ち番号および現在の待ち情報を確認できるようにした順番待ち情報配信方式。」

3-2.対比
本願補正発明と引用例記載発明を対比すると、以下の対応関係を導き出すことができる。
ア 引用例記載発明の「病院」、「情報処理部」、「データベース」、「配信方式」は、それぞれ、本願補正発明の「医療機関」、「制御部」、「診療データベース」、「通知システム」に相当し、ここで、一般に、データベースが記憶装置に記憶されるものであることは自明な技術事項であるから、引用例記載発明の「データベース」も記憶装置に記憶されるものであることは明らかである。
イ 引用例記載発明の患者が用いる「通信手段」は、上記「3-1.」の「カ」によれば、「携帯情報端末、PDA、パソコンなど」、いわゆる「端末機」と呼ばれるものが含まれるのであるから、本願補正発明の「端末機」に相当する。
ウ 引用例記載発明の「公衆回線」と本願補正発明の「インターネット」とは、通信のための「ネットワーク」である点において共通する。
エ 引用例記載発明の「情報管理サーバ」と本願補正発明の「インターネットサーバ」とは、共にネットワークに接続される「ネットワークサーバ」である点において共通し、また、引用例記載発明の「情報管理サーバ」は、図1に示されるシステム構成にあって病院側の装置であり、患者側の通信手段とデータの送受を行うものであるから、当然のことながら通信装置を備えたものであることは明らかである。
オ 引用例記載発明の「診察予約をした患者に順次待ち番号(診察番号)を付与する手段」は、その診察予約が診察受付の一つの態様といえるものであり、また、その待ち番号(診察番号)は整理番号と捉えることができるものであるから、本願補正発明の「診療受付をした患者に順次整理番号を付与する手段」に相当する。
カ 引用例記載発明の「待ち番号(診察番号)」は、診察予約をした患者に付与されるものであるところ、上記「3-1.」の「オ」によれば、当該「待ち番号(診察番号)」は、「待ち番号はアルファベット一文字と数字から構成され、アルファベットは診察科を、数字はそれぞれの診察科内での待ち番号を表わすものとする。」(【0049】)とあるように、本願補正発明の「医療機関における診療科目毎の診療の受付情報」に相当する。
キ 引用例記載発明の「現在診察を受けている患者の待ち番号」は、時々刻々と変化し現在の診察(診療)の進行状況を表しているものであることが明らかであるから、本願補正発明の「診療進行状況」に相当する。また、引用例記載発明の「順番待ち情報」は、本願補正発明の「診療状況」に相当する。
ク 引用例記載発明の「現在の待ち情報」に関して、上記「3-1.」の「ウ」には、「患者が一人当たりの平均診察時間が10分である診察科に対して、診察予約をしたときに発行された診察番号が20番で、待ち状態の確認を行なったときに診察を受けている患者の診察番号が15番のとき、呼出し条件推測部36では、『現在の診察番号15番、患者の診察まであと50分』という情報を現在の待ち情報として設定する。」(【0042】)との記載があり、また、続く「エ」には、「自分の診察までの推測時間等の待ち情報」(【0047】)との記載があり、そしてまた、続く「オ」には、「患者がある診察科に対して診察予約を行なった時点の時刻をT1、そのときに診察を受けている人の待ち番号をN1、診察予約を行なった人の待ち番号N2、上記診察科の一人当たりの平均診察時間をX(時間/番号)、呼出し条件としてY時間前の時間前呼出しを設定した場合に、呼出時点の待ち番号NはN=N2-Y/Xであり、呼出時刻TはT=T1+X×(N2-N1)-Yで表現される。」(【0050】)との記載があることから、当該「現在の待ち情報」としては、自分の診察までの推測時間を数式による演算を用いて算出処理しているもの、換言すれば数理処理して求めたものを包含する。そうすると、引用例記載発明の「現在の待ち情報」は、本願補正発明の「数理処理して求めた診療予想時刻」に相当するといえるものである。

以上のア?クの対応関係から、本願補正発明と引用例記載発明との一致点、及び、相違点を整理すると、以下のようになる。
(一致点)
ネットワークに接続可能な通信装置および制御部、診療受付をした患者に順次整理番号を付与する手段と、記憶装置に記憶される診療データベースを備え、医療機関および患者が所有する端末機を含む任意の端末機から接続可能なネットワークサーバを構成し、該ネットワークサーバは、医療機関から診療科目毎の診療の受付情報ならびに進行状況を示すデータが入力されて、数理処理により診療予想時刻を求める処理を行い、患者が端末機を用いてネットワークに接続し医療機関における診療科目毎の診療の受付情報を入力することにより、診療進行状況や診療予想時刻を確認できるようにした診療状況通知システム。

(相違点1)
ネットワークサーバと医療機関のシステム構成について、本願補正発明は、該ネットワークサーバが、インターネットサーバであり、医療機関とは別の情報サービス機関に設置され、診療データベースが記憶される記憶装置とこれらの処理装置とを有する構成であり、該医療機関が、各医療機関毎に、インターネットに接続可能なモニタ、キーボードやマウス等の入力装置、通信装置およびそれらの動作を制御する制御部を有する端末機および診療受付をした患者に順次整理番号を付与する手段を有する構成であるのに対し、引用例記載発明は、ネットワークサーバと医療機関のシステム構成が、ネットワークに接続可能な通信装置および制御部、診療受付をした患者に順次整理番号を付与する手段と、記憶装置に記憶される診療データベースを備えた情報管理サーバとして、全てが一つの医療機関に設置され、ネットワークに接続されたものである点。

(相違点2)
診療データベースへのデータ記憶について、本願補正発明は、診療進行状況、数理処理して求めた診療予想時刻などを診療データベースに順次記憶するものであるのに対し、引用例記載発明は、その点の明記がない点。

(相違点3)
医療機関における診療科目毎の診療の受付情報が、本願補正発明は、各医療機関および診療科目名の識別コードであるのに対し、引用例記載発明は、待ち番号(診察番号)である点。

(相違点4)
診療進行状況の情報として、本願補正発明は、受付け済み患者の人数や担当医師の情報などを示すのに対し、引用例記載発明は、そのような明記はない点。

3-3.当審の判断
(1)上記「3-2.」で抽出した相違点について、以下に検討する。
ア (相違点1)について
上記「3-1.」の「カ」で摘示したとおり、引用例の【0076】には、「また、利用者データベースをローカルに持っている必要はなく、ネットワークで電子的に接続されていても構わない。」との記載があることから、引用例記載発明の診療データベースを医療機関にローカルに設けるのではなく、ネットワークで別にサーバとして構成してもよいことが示唆されており、当該医療データベースを医療機関から切り離し、ネットワーク上でネットワークサーバとして構成し、ユーザ(患者)からのアクセスを処理するように変更することに対して、技術的に阻害する要因はない。
また、一般に、複数の病院(医療機関)をネットワークで接続し、複数の病院(医療機関)に関するデータベースを備えたネットワークサーバやセンタシステムを介して、ユーザ(例えば、患者)からの病院予約(診察予約)や病院情報(医療情報)等に係るアクセスを可能にしたシステムは、例えば、特開平10-149391号、特開平10-312430号、特開平9-305627号、特開平11-338916号の各公報に示されているように、当該技術分野において周知技術である。加えて、ネットワークとしてインターネットも周知慣用のコンピュータネットワークであるから(例えば、上記特開平10-149391号公報(【0040】)及び上記特開平10-312430号(【0007】等)においても、インターネットを用いる旨が示されている)、ネットワークとしてインターネットを採用することに格別の技術的困難性はない。
そしてまた、ネットワークを介してネットワークサーバとデータの送受を行うユーザ端末装置の構成として、本願補正発明に係る医療機関が備えているような、モニタ、キーボードやマウス等の入力装置、通信装置およびそれらの動作を制御する制御部を有することも、当該技術分野において極めて普通に採用されている周知慣用の構成に過ぎず、何ら格別のものではない。
そうすると、引用例記載発明において、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、上記各周知の技術事項から、当業者が容易に想到し得ることである。

イ (相違点2)について
引用例記載発明には、患者からの問い合わせに対して提供する、診療進行状況、数理処理して求めた診療予想時刻を、診療データベースに順次記憶させる点までの明示はないところ、それらの情報(データ)を診療データベースに記憶させることを排除する技術的要因は見当たらず、その点は当業者が適宜に採用し得る設計的事項の範疇に属するものである。
そうすると、引用例記載発明において、相違点2に係る本願補正発明のようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

ウ (相違点3)について
引用例記載発明の待ち番号(診察番号)は、上記「3-2.」の「カ」で説示のとおり、「待ち番号はアルファベット一文字と数字から構成され、アルファベットは診察科を、数字はそれぞれの診察科内での待ち番号を表わすもの」であるから、診察科すなわち診療科目を考慮したものである。そして、患者が問い合わせる医療機関が複数であれば、その医療機関を識別することが必要となることは当然の事項であり、ここで、上記アで判断したとおり、引用例記載発明における医療機関を複数とすることは、当業者が容易に想到し得ることであることを勘案すると、引用例記載発明において、本願補正発明の各医療機関および診療科目名の識別コードを採用することに何らの技術的困難性はなく、それを採用することは適宜になし得ることである。

エ (相違点4)について
上記「3-1.」の「オ」で摘記し、また、「3-2.」の「カ」でも指摘したとおり、引用例には、診療予想時刻の推測に当たり、「診察予約を行なった人の待ち番号」を用いているところ、当該番号は、まさに、「受付け済み患者の人数」に相当するものであるから、これを「診療進行状況」の情報として提供することは、適宜に採用し得る設計的事項といえることである。
また、上記「3-1.」の「オ」で摘記した【0049】には、待ち番号(診察番号)について、「待ち番号は必ずしもこれに限るものではなく、病院全体で通し番号になっていても構わないし、担当医師別に区別された番号であっても構わない。」と記載されているように、担当医師の情報を用いることが示されているから、この「担当医師の情報」についても、それを「診療進行状況」の情報として提供することは、適宜に採用し得る設計的事項といえることである。
そうすると、引用例記載発明において、相違点4に係る本願補正発明の情報を提供することは、当業者が容易に想到し得ることである。

オ 本願補正発明の効果について
本願補正発明の構成によってもたらされる効果は、引用例の記載事項及び上記した周知の技術事項から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用例記載発明及び上記した周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)請求人の主張に対して
請求人は、平成22年9月2日付け手続補正書(方式)において、以下のアの主張を、また、審尋に対する平成24年2月24日付け回答書において、以下のイの主張をしているので、検討する
ア 「即ち、引用文献1に記載の発明と補正発明とは、順番待ち情報を配信するという点において共通しております。しかしながら、引用文献1に記載の発明では、特に、順番待ち患者の住所などの条件を考慮して診察予定時刻を通知することが発明の主たるものであって、順番待ち情報は、段落〔0049〕に記載されているように、過去の統計的な診察時間に基づいて待ち時間を推測するものである。
これに対して、本願発明では、順番待ちの患者は「記憶装置の診療データベースに順次記憶されている受付け済み患者の人数や担当医師の情報などの診療進行状況や診療予想時刻など」を入手可能であり、患者は引用文献1に記載の発明に比べてきわめて正確で確実な順番待ち情報を逐次入手することが可能です。」(3頁1?10行)
イ 「補正発明と引用文献1に記載の発明とでは、順番待ち情報の発信という点においては共通していますが、引用発明については、発信される待ち時間の情報を情報受取者のニーズに合わせて設定変更可能とし、その設定条件に適した呼出を行うことを特徴とし、病院内の状況についての情報については、あくまでも、過去の診察履歴から得られた平均値を元に算出しているのに対し、補正発明においては、病院内における受付状況の情報、診察状況の情報、投薬状況の情報等、患者に関連するあらゆる作業工程の情報がリアルタイムにインターネットサーバ上に送信され更新されることにより、通常の平均値を元にしたシステムにおいてはバラつきの一つとしてはじかれてしまうような、イレギュラーな状況に対しても、サーバー上の情報がリアルタイムに更新されていることによって、そのような情報も加味することが出来る点において、両発明の目的が異なることは勿論のこと、その構成においても著しい差異があり、従って、作用・効果においても、病院内における患者の待ち時間を予想して、診察状況を通知するシステムとしては、補正発明が引用文献1に記載の発明に対して優れていることは明白です。」(4頁2?16行)
しかしながら、本願補正発明が特定する「診療予想時刻」については、単に「数理計算して求めた」と限定されるのみで、どのような情報に基づいて予想されたものであるか何らの記載も示唆もないものであり、更に、本願明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、【0023】に、「回帰分析などの数理処理を用いて診療予想時刻を表示を以て患者に知らせる」と記載されているのみで、どのような情報に基づいて予想されたものであるかについては記載も示唆もない。そうすると、上記「3-2.」の「ク」で説示のとおり、引用例記載発明も本願補正発明も、「数理計算により診療予想時刻を求める」点において何ら相違するものではなく、その点を一致点としてことに誤りはない。
また、引用例記載発明において、「受付け済み患者の人数や担当医師の情報」を「診療進行状況」の情報として示すことは当業者が容易に想到し得ることである点は、上記「(相違点4)について」で説示したとおりである。
そしてまた、本願補正発明においては、「病院内における受付状況の情報、診察状況の情報、投薬状況の情報等、患者に関連するあらゆる作業工程の情報がリアルタイムにインターネットサーバ上に送信され更新されることにより、通常の平均値を元にしたシステムにおいてはバラつきの一つとしてはじかれてしまうような、イレギュラーな状況に対しても、サーバー上の情報がリアルタイムに更新されていることによって、そのような情報も加味することが出来る点」を主張しているが、「診察状況の情報」を考慮する点は、引用例記載発明と何ら相違せず、「受付状況の情報」を考慮する点は、上記「(相違点4)について」で説示したとおりであり、その他の「投薬状況の情報等、患者に関連するあらゆる作業工程の情報」については、本願補正発明においても本願明細書の発明の詳細な説明においても何ら記載も示唆もなされたものではなく、それらに基づく主張ではない。
以上のとおりであるから、請求人の上記ア及びイの主張を採用することはできない。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、上記改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるか、そうでないとしても、上記改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明
本件補正が上記「第2」のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年2月8日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、それは、上記「第2」の「1.」において、補正前の請求項1として転記したとおりのものである。

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例は、上記「第2」の「3.」の「3-1.」に摘示記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から、同じく「第2」の「2.」で示した補正事項により限定する事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに上記補正事項による限定を施したものに相当する本願補正発明が、上記「第2」の「3-2.」及び「3-3.」により判断したとおり、引用例記載発明及び上記した周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記本願発明は、引用例記載発明及び上記した周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載発明及び上記した周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-14 
結審通知日 2012-03-15 
審決日 2012-03-28 
出願番号 特願2000-223365(P2000-223365)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 575- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阿部 潤  
特許庁審判長 岩崎 伸二
特許庁審判官 飯田 清司
猪瀬 隆広
発明の名称 診療状況通知システム  
代理人 橋本 克彦  

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