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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  C07C
管理番号 1256938
審判番号 無効2010-800194  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-10-21 
確定日 2012-05-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第4140975号発明「フルオレン誘導体の結晶多形体およびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4140975号は、平成20年2月8日(優先権主張 平成19年2月15日)に出願され、平成20年6月20日に特許権の設定登録がなされたものであり、これに対して、平成22年10月21日に大阪ガスケミカル株式会社(以下、「請求人」という。)により本件特許を無効にすることについての審判の請求がなされたところ、その審判における手続の経緯は、以下のとおりである。

平成22年10月21日 審判請求書・甲第1?8号証提出(請求人)
平成23年 1月14日 答弁書・乙第1?5号証提出(被請求人)
平成23年 1月21日 上申書(1)(被請求人)
平成23年 2月23日 通知書(審理事項通知書)
平成23年 2月25日 上申書(2)(被請求人)
平成23年 3月11日 口頭審理陳述要領書・甲第9?15号証提出
(請求人)
平成23年 3月22日 口頭審理陳述要領書・乙第7?9号証提出
(被請求人)
平成23年 3月24日 上申書(3)・乙第6号証提出(被請求人)
平成23年 3月25日 口頭審理
平成23年 4月 8日 上申書(1)・参考資料1?9提出(請求人)
平成23年 4月22日 上申書(4)(被請求人)
平成23年 5月13日 上申書(2)・参考資料1提出(請求人)
平成23年 5月23日 審理終結通知書

なお、上申書については、提出日の順に「上申書(1)」のように括弧数字を付し、以下、同様に記す場合がある。
また、平成23年3月11日付けの口頭審理陳述要領書に添付された「参考資料1」ないし「参考資料7」は、それぞれ「甲第9号証」ないし「甲第15号証」とし、平成23年3月22日付けの口頭審理陳述要領書に添付された「資料1」ないし「資料3」は、それぞれ「乙第7号証」ないし「乙第9号証」とし、平成23年1月14日付けの審判事件答弁書に添付された「参考資料のCD」は「乙第5号証の2」とし、同答弁書に添付された「乙第5号証」は「乙第5号証の1」とし(口頭審理調書参照)、以下、同様に記す。
さらに、平成23年5月13日付けの上申書(2)に添付された「参考資料1」の表示については、資料番号の重複を避けるため「参考資料10」とし、以下、同様に記す。

第2 本件発明
本件特許第4140975号の請求項7に係る発明(以下、「本7発明」ということがある。)は、本件特許明細書の特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。

「示差走査熱分析による融解吸熱最大が160?166℃である9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶多形体。」

なお、化合物の名称である「9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン」という用語については、単に「BPEF」と略記することがある。

第3 請求人の主張の要点
1 本件審判の請求の趣旨
請求人が主張する本件審判における請求の趣旨は、「特許第4140975号の特許請求の範囲の請求項7に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」である。

2 請求人が主張する無効理由及び証拠方法の概要
請求人は、以下の無効理由1?2を主張し、証拠方法として甲第1号証?甲第15号証を提出するとともに、参考資料1?10を提出した。

(1)無効理由1
本件請求項7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、本件請求項7に係る発明についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)無効理由2
本件請求項7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、本件請求項7に係る発明についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(3)甲第1?15号証
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開平10-45655号公報
甲第2号証:特開2005-104898号公報
甲第3号証:平成20年5月15日付けの意見書(本件特許の審査段階において提出されたもの)
甲第4号証:本件特許において、『粗精製物』、『多形体B』、『多形体A』の「示差走査熱分析による融解吸熱最大(℃)」と純度の関係図
甲第5号証:2009年9月29日付けの実験成績証明書(大阪ガスケミカル株式会社 宮内信輔)の写し
甲第6号証:平成22年1月15日付けの実験報告書(近畿大学総合理工学研究科理学専攻教授 柏村成史)の写し
甲第7号証:2009年7月26日付けの実験成績証明書(大阪ガスケミカル株式会社 宮内信輔)の写し
甲第8号証:2010年01月15日付けの実験成績証明書(大阪ガスケミカル株式会社 宮内信輔)の写し
甲第9号証:平成23年2月26日付けの陳述書(近畿大学総合理工学研究科理学専攻教授 柏村成史)
甲第10号証:2011年3月10日付けの報告書「BPEF Wet晶 大気中放置時の揮発挙動と融点、結晶構造の変化」(大阪ガスケミカル株式会社 宮内信輔)
甲第11号証:2011年3月10日付けの報告書「BPEF 150℃乾燥機における溶解試験」(大阪ガスケミカル株式会社 宮内信輔)
甲第12号証:2011年3月10日付けの報告書「BPEF 150℃乾燥機における溶解試験」(大阪ガスケミカル株式会社 宮内信輔)
甲第13号証:2011年3月10日付けの報告書「BPEF 熱分析測定装置及び測定状況について」(大阪ガスケミカル株式会社 宮内信輔)
甲第14号証:平成22年(ワ)第9102号訴訟の甲第13号証〔平成23年1月7日付け実験証明書(田岡化学工業株式会社 山田好美)の写し〕
甲第15号証:社団法人日本化学会編「第5版 実験化学講座1 -基礎編I 実験・情報の基礎-」(丸善株式会社、平成15年9月25日発行)第163?167頁

(4)参考資料1?10
請求人が、提出した参考資料1?10は、以下のとおりである。
参考資料1:2011年4月5日付けの報告書「乙1の追試(追試5-1)で得られたBPEFの示差走査分析結果」(大阪ガスケミカル株式会社 宮内信輔)
参考資料2:社団法人日本化学会編「第5版 実験化学講座1 -基礎編I 実験・情報の基礎-」(丸善株式会社、平成15年9月25日発行)第165頁
参考資料3:2011年4月5日付けの報告書「乙2の追試(追試7-1)で得られたBPEFの示差走査分析結果」(大阪ガスケミカル株式会社 宮内信輔)
参考資料4:特願2007-34370号の写し
参考資料5:2011年4月5日付けの報告書「サンプルbの写真」(大阪ガスケミカル株式会社 宮内信輔)
参考資料6:2011年4月5日付けの報告書「サンプルaの写真」(大阪ガスケミカル株式会社 宮内信輔)
参考資料7:2011年4月5日付けの報告書「APHA標品の写真」(大阪ガスケミカル株式会社 宮内信輔)
参考資料8:2011年4月5日付けの報告書「溶解状態にあるサンプルaの写真」(大阪ガスケミカル株式会社 宮内信輔)
参考資料9:2011年4月5日付けの報告書「溶解状態にあるサンプルbの写真」(大阪ガスケミカル株式会社 宮内信輔)
参考資料10:日本工業標準調査会審議「化学分析用ガラス器具 JIS R3503-1994(2006確認)」(日本規格協会発行)

第4 被請求人の主張の要点
1 答弁の趣旨
被請求人が主張する答弁の趣旨は、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。との審決を求める。」である。

2 乙第1号証?乙第9号証
被請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
乙第1号証:平成22年12月24日付け「甲1の追試実験証明書」(田岡化学工業株式会社 山田好美)
乙第2号証:平成22年12月24日付け「甲2の追試実験証明書」(田岡化学工業株式会社 山田好美)
乙第3号証の1:久保田徳昭・松岡正邦共著「分かり易い晶析操作」(分離技術会、平成15年12月1日発行)第6?9及び44?47頁
乙第3号証の2:松岡正邦監修「結晶多形の最新技術と応用展開 -多形現象の基礎からデータベース情報まで-」(株式会社シーエムシー出版、2005年8月31日発行)第3?20、42?43、46?47、106?111及び154?157頁
乙第4号証の1:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典9」(共立出版株式会社、昭和52年9月20日縮刷版第21刷発行)第396?397頁及び不明頁(ユの頁)
乙第4号証の2:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典6」(共立出版株式会社、昭和52年9月20日縮刷版第21刷発行)第545?546頁
乙第5号証の1:平成23年1月7日付け「実験証明書」(田岡化学工業株式会社 山田好美)
乙第5号証の2:乙第5号証の1の試料2について撮影した動画を納めたCD-ROM
乙第6号証:平成23年3月24日付け「事実実験公正証書」(大阪法務局所属 公証人 本多英明)
乙第7号証:化学工学協会編「改訂五版 化学工学便覧」(丸善株式会社、昭和63年3月18日発行)第442頁
乙第8号証:特開平10-156103号公報
乙第9号証:特開2005-13781号公報

第5 甲号証及び乙号証に記載された事項
1 甲号証及びその記載事項
(1)甲第1号証
本件特許出願の優先権主張日前の平成10年2月17日に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の記載がある。

摘記1a:段落0021?0022
「【0021】
この再結晶精製方法の具体的な操作方法・条件については特に限定はないが、得られた粗製品に溶媒を加え、攪拌下加温して溶解させた後、熱濾過する。これらの濾過工程において、通常の精製方法において用いられる活性炭、活性白土、酸性白土、活性アルミナ、ゼオライト、イオン交換樹脂等による処理を併用することができる。
【0022】
目的物の取り出しは、得られた濾液を撹拌しながら室温もしくは冷水で徐々に冷却しながら固体を析出させ、次いで、得られた固形物を濾過し、乾燥させるのがよい。なお、本発明によれば、純度99.4%以上、残存硫酸量150ppm以下の目的とする〔9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン〕を得ることができる。」

摘記1b:段落0024?0026
「【0024】
【実施例】
実施例1
攪拌機、冷却管及び滴下ロートを備えた内容積1000mlの4つ口フラスコに純度99.5重量%のフルオレノン(フルオレンを液相空気酸化して得たもの)45g(0.25mol)とフェノキシエタノール(四日市合成株式会社製、PHE-G)138g(1.00mol)、β-メルカプトプロピオン酸0.2mlを仕込み、均一に溶解させてから95%硫酸45mlを30分かけて滴下した後、反応温度を65℃で4時間保温し、反応を続けて完結させた。
【0025】
次いで、反応液に水90ml、トルエン450mlを加え、80?85℃で30分間攪拌、水洗後、30分間静置して、下層の水層を分離した。更に2回同量の水を加えて水洗を繰り返し、硫酸を除去した。
反応液を室温まで冷却して結晶を析出させ、濾過後、70℃で1日間減圧乾燥した。
得られた粗結晶(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの純度は98.5%、収量は82.3g、収率74.5%であった。また、結晶中の残存硫酸は600ppmであった。
【0026】
得られた上記粗結晶50gをトルエン400mlからなる混合溶媒に攪拌、加熱下に溶解させた後、室温まで徐々に冷却して結晶を析出させる。該結晶を濾過し、70℃で1日間減圧乾燥した。
得られた結晶(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの純度は99.5%、収量は43.8g、収率65.9%であった。また、結晶中の残存硫酸は150ppmであった。」

(2)甲第2号証
本件特許出願の優先権主張日前の平成17年4月21日に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の記載がある。

摘記2a:段落0060?0062
「【0060】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、着色度は、JIS K1504に準拠して測定した。
【0061】
実施例1
攪拌機、冷却管及びビュレットを備えたガラス製反応器に純度99.5重量%のフルオレノン350g(1.94モル)とフェノキシエタノール1070g(7.78モル)を仕込み、β-メルカプトプロピオン酸2.3gを加えて撹拌した混合液に、反応温度を50℃に保持しつつ、98重量%の硫酸570gを60分かけて滴下した。滴下終了後、反応温度を50℃に保ち、さらに5時間撹拌することにより反応を完結させた。
【0062】
反応終了後、反応混合液に48重量%水酸化ナトリウム水溶液920gを温度80℃を保持しつつ滴下した。滴下終了後のpHは約8であった。メタノール2.5kgを加えて、10℃まで冷却したところ、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンと硫酸ナトリウムの混合結晶が析出した。ろ過により混合結晶を取り出したのち、トルエン3.5kg、水1.0kgを加えて85℃に加熱して硫酸ナトリウムを溶解させた。水相を除去したのち、有機相をさらに85℃の水で2回洗浄した。トルエン相を10℃に冷却することにより、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン700g(使用したフルオレノンに対する収率82%)が得られた。生成物を150℃に溶融させて、着色度を測定したところ、APHA値は10であり、光学樹脂原料として使用できる高い透明性を有することを確認した。」

(3)甲第3号証
平成20年5月15日付けの意見書は、被請求人によって提出された意見書であって、結晶多形体の制御についての記載がある。

(4)甲第4号証
作成日が不明の甲第4号証には、本件特許明細書に記載の実施例1?8及び比較例1の粗精製物結晶、多形体A、及び多形体Bの純度と示差走査熱分析による融解吸熱最大を軸としたグラフが示されている。

(5)甲第5号証
2009年9月29日に作成された実験成績証明書の写しである甲第5号証には、次の記載がある。

摘記3a:第1?2頁の表の右欄(「追試方法」の欄)
「攪拌機、冷却管及び滴下ロートを備えた内容積1000mlのフラスコに、純度99.8%のフルオレノン(JFEケミカル社製)45g(0.25mol)と、フェノキシエタノール(日本乳化剤株式会社製、フェニルグリコールS)138.0g(1.00mol)、β-メルカプトプロピオン酸0.2mlを仕込み、均一に溶解させてから98%硫酸45mlを30分かけて滴下した後、反応温度を60?65℃で4時間保温し、反応を続けて完結させた。次いで、反応液に水90ml、トルエン450mlを加え、80?83℃で30分間撹拌、水洗後、30分間静置して、下層の水層を分離した。更に2回同量の水を加えて水洗を繰り返し、硫酸を除去した。反応液を室温まで冷却して結晶を析出させ、濾過後、70℃で1日間減圧乾燥した。得られた粗結晶(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの純度は95.5%、収量は87.4g、収率79.1%であった。得られた上記粗結晶50gをトルエン400mlからなる混合溶媒に撹拌、加熱下に溶解させた後、大気中で24℃まで徐々に冷却して結晶を析出させる。該結晶を濾過し、70℃で6時間10分減圧乾燥した。得られた結晶(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの純度は99.1%、収量は38.5gであった。」

摘記3b:第3頁第7?11行
「結果
添付資料に、特開平10-45655号公報に実施例1として記載のBPEFの製造方法に従って製造されたBPEFの「示差走査熱分析」結果を示した。
製造されたBPEFの「示差走査熱分析による融解吸熱最大」が160.9℃であった。」

(6)甲第6号証
平成22年1月15日に作成された実験報告書の写しである甲第6号証には、次の記載がある。

摘記4a:第2?3頁の表1のH?M段の右欄(「追試験の製造方法」の欄)
「反応液を室温まで冷却して結晶を析出させ、濾過後、70℃で1日間減圧乾燥した。得られた結晶50gをトルエン400mlからなる混合溶媒に攪拌、加熱下で溶解させた後、室温まで徐々に冷却して結晶を析出させる。該結晶を濾過し、70℃で1日間減圧乾燥した。得られた結晶(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの純度は99%以上であった。収量は44g、収率67%であった。」

摘記4b:第6頁第6?9行
「工程Kは、再結晶の工程であるが、実施例1の製造方法と追試験の製造方法とは全く同一である。ここで、再結晶性は、粗結晶の純度により変化する場合があるが、後述の工程Mにおいて、いずれも高い純度のフルオレンが析出していることから、結果的に両者に差異は無かったものと推定できる。」

摘記4c:第7頁第2?3行
「図1に示すように、示差走査熱分析による融解吸熱最大は161.0℃となっている。この温度は、160-166℃の範囲内の温度である。」

(7)甲第7号証
2009年7月26日に作成された実験成績証明書の写しである甲第7号証には、次の記載がある。

摘記5a:第2頁の表の第5?7段の右欄(「追試方法」の欄)
「有機相をさらに85℃の水で2回洗浄した。トルエン相を10℃に冷却することにより、結晶を得た。該結晶を濾過し、80℃で8時間35分減圧乾燥した。9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン66.16gが得られた。この結晶の純度は99.8%、収率は、78%であった。」

(8)甲第8号証
2010年1月15日に作成された実験成績証明書の写しである甲第8号証には、次の記載がある。

摘記6a:第2頁の表の第6段の右欄?第3頁の表の第2段の右欄(「追試方法」の欄)
「有機相をさらに85℃の水で2回洗浄した。トルエン相を10℃に冷却し、ろ過することにより、111gの結晶を得た。…試料4:該結晶を10.0gサンプリングし、80℃で2時間減圧乾燥し、完全乾燥状態とした。試料5:該結晶を10.5gサンプリングし、乾燥操作を行わないまま150℃で1時間常圧で加温した。…試料4:9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン5.3gが得られた。この結晶の純度は99.7%であった。試料5:9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが液状となった。」

(9)甲第9号証
平成23年2月26日付けの陳述書である甲第9号証には、次の記載がある。

摘記7a:第19?21行
「イ、「室温まで徐々に冷却して結晶を析出」という手順は、アの加熱を終了した後、マントルヒーターによる加熱を停止し、90℃程度の状態で15分程度攪拌を行った後、攪拌を停止し、常温(20℃程度)、常圧の環境下に系を保持し結晶を析出させるものである。」

(10)甲第10号証
2011年3月10日付けの報告書である甲第10号証には、加熱残分84.5%の試料(BPEF Wet晶)を用いた自然乾燥前後での結晶構造の変化についての検証結果が示されている。

(11)甲第11号証
2011年3月10日付けの報告書である甲第11号証には、加熱残分57%のBPEFを、150℃に設定した乾燥機に導入した場合の溶融状態が示されている。

(12)甲第12号証
2011年3月10日付けの報告書である甲第12号証には、加熱残分70%のBPEFを、150℃に設定した乾燥機に導入した場合の溶融状態が示されている。

(13)甲第13号証
2011年3月10日付けの報告書である甲第13号証には、加熱残分84.5%のBPEFを、熱分析測定装置で測定した場合の測定状況が示されている。

(14)甲第14号証
平成23年1月7日付けの実験証明書の写しである甲第14号証には、次の記載がある。

摘記8a:第2頁の表
「[結果]各試料の150℃加熱時の状態について以下の結果を得た。
┌──┬────────┬─┬───────┬─┬──────┐
│試料│ 試料内容 │…│示差走査熱分析│…│150℃の油│
│番号│ │ │による融解吸熱│ │浴で加熱した│
│ │ │ │最大 │ │時の状態 │
├──┼────────┼─┼───────┼─┼──────┤
│ 1 │田岡化学工業(株│…│ 162.5℃ │…│12時間加熱│
│ │)製…の9,9-│ │(添付資料2)│ │を続けたが結│
│ │ビス(4-(2-│ │ │ │晶状態のまま│
│ │ヒドロキシエトキ│ │ │ │変化なし(写│
│ │シ)フェニル)フ│ │ │ │真2,3)。│
│ │ルオレン │ │ │ │ │
├──┼────────┼─┼───────┼─┼──────┤」

(15)甲第15号証
本件特許出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第15号証には、次の記載がある。

摘記9a:第162頁下から3行目?第166頁第2行
「2.6 再結晶 …
2.6.2 再結晶の実験操作-溶解と結晶の生成 …
(まる5)結晶の生成
再結晶のためにつくられた,熱い(一般には,沸点近くの温度の)飽和溶液を冷却して,目的とする物質を結晶として析出させる.
一般の場合には,室温に放置して,時々かき混ぜながらゆっくり温度を下げて,結晶を成長させる.ゆっくり温度を下げたほうが,結晶がきれいに大きくなって析出する.過冷却による油状になっての分離も起こりにくい.温度が室温程度に下がった後,必要なら氷などで冷やして,結晶の量をふやす.
急ぐときには,水や氷を張ったおけにフラスコを浸して,振り混ぜることによって急冷することもある.また,水道水の流れの中でフラスコを振り混ぜることによって,フラスコを冷やし結晶を析出させることもある.急冷して結晶をつくると,結晶が不完全な形で成長し,空洞ができたりして,溶媒や不純物を取り込んだりする危険性もあるといわれている.
2.6.3 油状析出に対する対策
前にも指摘したように,有機物質の中には,融点以下の温度になっても結晶化せず,油になって分離し,そのまま樹脂状に固まってしまう場合がかなりある.これに対する,特効薬がないのが現状であるが,次のような手段が考えられる.
(まる1)ゆっくり冷やす.
(まる2)ガラス棒やスパチュラで油をフラスコの壁でこすり合わせて,結晶化のための刺激を与え,結晶化のきっかけをつくる^(〔注〕).一箇所で結晶が析出しだすと急速に全体が結晶化する.
(まる3)もし,小さな結晶が残っていれば,それを種として入れると,種を中心に結晶化が始まることが多い.種は,少し不純なものでよいから,再結晶にかかる前に,少量の”種”になる試料を残しておくのも一つの考えである.
結晶化に手こずった物質でもいっぺん結晶化に成功すると,2回目からは素直に結晶するといわれている.」

2 乙号証及びその記載事項
(1)乙第1号証
平成22年12月24日に作成された追試実験証明書である乙第1号証には、次の記載がある。

摘記10a:第2頁の表の第8段の右欄?第3頁の表の第3段の右欄(「追試方法 実験番号:K101101 実施日:2010年11月1日」の欄)
「得られた粗結晶(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの純度は95.9%、収量は98.3g、収率89.8%であった。得られた上記粗結晶50gをトルエン400mlからなる混合溶媒に攪拌、加熱下に溶解させた後、特段の温度制御はせずに室温(24.8℃)まで徐々に冷却して結晶を析出させる。結晶は38.6℃で析出を開始し、36.8℃までの間に大量の結晶が析出した。該結晶を濾過し、70℃で1日間(24時間42分)減圧乾燥した。得られた結晶(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの純度は99.1%、収量は38.6g、収率69.3%であった。」

摘記10b:第3頁下から6?5行目
「製造された9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの「示差走査熱分析による融解吸熱最大」は、108.4℃であった。」

(2)乙第2号証
平成22年12月24日に作成された追試実験証明書である乙第2号証には、次の記載がある。

摘記11a:第2頁の表の第7段の右欄(「追試方法 実験番号:K101020 実施日:2010年10月20日」の欄)
「有機相をさらに85℃の水で2回洗浄した。トルエン相を室温まで放置して冷却後,氷水浴で10℃にまで冷却することにより、結晶を得た。」

(3)乙第3号証の1
本件特許出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である乙第3号証の1には、次の記載がある。

摘記12a:第8頁下から10?7行目
「機能および粉体特性の点から,多形の制御は工業的に重要である.しかし,制御は難しい.溶媒を変えたり,冷却速度を変化させるなどして目的の多形を析出させているが,多分に経験的といわざるを得ない.」

摘記12b:第45頁下から16?10行目
「結晶多形の制御も簡単ではない.結晶析出以前の過飽和溶液における溶液の構造,すなわち,溶液中で結晶構成成分の分子がどのような並び方をしているかが多形析出のカギを握っていると思われるが,溶液の構造を制御する手段を持たないため,多形析出の制御は以前として難しいといわざるを得ない.実際には,経験的な手法で多形を作り分けている.たとえば,溶液を急冷したり,または,結晶析出温度を高くあるいは低く設定したりして実験的に望みの多形の析出条件を見つけだしている.」

(4)乙第3号証の2
本件特許出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である乙第3号証の2には、次の記載がある。

摘記13a:第154頁第12行?第156頁第19行
「3 結晶多形の溶媒媒介転移に及ぼす溶媒組成,晶析温度,不純物,撹拌速度の影響
多形の析出は,溶媒とその組成,晶析温度,過飽和度,不純物の存在と濃度,撹拌速度,pHなど,晶析の操作パラメータ全般に支配されている。中でも,溶媒の種類と混合溶媒組成は,多形に大きく影響し,慎重な選択が必要である。溶媒の種類や混合組成を変えると新しく多形が「発見される」ということは珍しくない。…
3.3 撹拌の影響
転移に及ぼす撹拌の影響についての報告例は少ない。図9は,タルチレリンのα形からβ形への転移に及ぼす攪拌の影響を示したものである^(3))。撹拌速度の増大とともに,転移速度は増大し,転移が始まるまでの待ち時間は短くなっている。転移の開始が安定結晶(ここではβ形)の核発生にあり,転移の律速段階が安定結晶の成長にあるとすると,数100回転の撹拌がこれらに影響を与えたことになる。撹拌が境膜物質移動を促進した結果,成長速度を増大させたと考えられる。しかし,この程度の撹拌が核発生を促進するメカニズムはわかっていない。
3.4 不純物の影響
不純物が転移を抑制する場合がある。溶液の純度を上げることによって新しい多形が出現し,純度が低い溶液から回収していた結晶が得られなくなる,または,得にくくなることがある。これは,溶液を精製すると,不純物によって抑えられていた転移が進むようになるためである。」

(5)乙第5号証の1
平成23年1月7日付けの実験証明書である乙第5号証の1には、摘記8aに示した事項の記載があるとともに、さらに次の記載がある。

摘記14a:添付資料3(JIS K1504-1:2000)の第2頁下から11行目
「8.色 JIS K 0071-1に規定した方法による。」

摘記14b:添付資料4(JIS K0071-1:1998)の第4頁下から15行目
「c)固体試料の場合は,必要量を固体試料用比色管に入れふたをして,試験温度に調節した溶融装置で溶融させる。」

(6)乙第6号証
平成23年3月24日付けの事実実験公正証書である乙第6号証には、次の記載がある。

摘記15a:第6頁第5行?第8頁第9行
「2 精製工程
(1)攪拌・加熱工程
上記粗結晶50gをトルエン400mlと共に容量1000mlの四つ口フラスコに入れ、このフラスコをオイルバスにつけ、さらに、フラスコ内に入れた攪拌機により300回転/分の回転数で攪拌しながら加熱した(写真4)。加熱開始時刻は午前9時45分であったが、午前10時02分45秒には目視によりフラスコ内は完全に透明になり、白色結晶が確認できなくなったため、粗結晶が完全に溶解したと認められたので、オイルバスを外して加熱を止めた。このときのフラスコ内容物の温度は73.7℃であった(写真5)。
(2)結晶の析出工程
攪拌機による攪拌を中断し、フラスコ内容物は完全に無色透明であることを確認した。次に、再びフラスコ内容物の温度の均一性を保つために攪拌機により攪拌(300回転/分)を継続しながら、上記フラスコを室温雰囲気下(21.6℃)で自然冷却した。フラスコ内容物の温度を最初は10分毎、放冷1時間目以降は1時間毎に測定した。その結果は下記のとおりである。なお、午後0時02分45秒と午後1時02分45秒のフラスコ内容物の温度については、下記のとおりドラフトチャンバーの封印を行った状態で確認した。
午前10時12分45秒 63.2℃
午前10時22分45秒 53.2℃
午前10時32分45秒 46.3℃
午前10時42分45秒 41.7℃
午前10時52分45秒 39.7℃
午前11時02分45秒 36.9℃
午後 0時02分45秒 28.3℃
午後 1時02分45秒 26.2℃
午後 2時02分45秒 25.2℃
午前10時39分52秒、白色の結晶が析出を開始した(僅かな白濁状態を示した)。このときのフラスコ内容物の温度は42.8℃であった(写真6)。そして、午前10時44分35秒までの間にフラスコ内容物は完全に白濁し、大量の結晶が析出したと認められた。このときのフラスコ内容物の温度は41.4℃であった(写真7)。午後2時02分、フラスコ内容物の温度が25.2℃となり、ほぼ室温(23.8℃)に等しくなった。」

摘記15b:第13頁第20行?第14頁第13行
「2 目的結晶のDSCへのセットと測定結果
午前11時26分、目的結晶の入ったナス型フラスコから分析用サンプル4.8mgを、電子天ビン(分析天ビン)を用いて採取し、これを所定のサンプルセル(アルミパン)に収納した。このサンプルセルと空のセルをDSCにセットして測定を開始した(写真22)。午前11時58分、DSCによる測定終了を確認した。この際、DSCのデータ処理を行うパソコンのディスプレイ(モニター)には複数のグラフが表示されたが、そのうち「DSCmW」とのグラフのみ表示するように設定し(写真23)、当該測定データをプリンターで印刷したものが本書に添付する別紙2である。」

摘記15c:第17頁別紙2
「サンプル名:精製結晶…108.5Cel」

第6 当審の判断
1 無効理由1について
(1)甲第1号証に記載された発明
摘記1bの「実施例1 …得られた結晶(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの純度は99.5%、収量は43.8g、収率65.9%であった。」との記載からみて、甲第1号証には、「実施例1」として、
『9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶。』についての発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)本7発明と甲1発明との対比
本7発明と甲1発明とを対比すると、両者は『9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶。』である点において一致し、結晶の物性ないし形態が、本7発明においては、「示差走査熱分析による融解吸熱最大が160?166℃」である「結晶多形体」であるのに対して、甲1発明においては、示差走査熱分析による融解吸熱最大の数値範囲及びその結晶形態が明らかでない点、において相違している。

(3)相違点に関する請求人の主張について
上記相違点に関して、請求人は次のように主張している。

ア 甲第1号証の実施例1についての追試に基づく主張
請求人は、平成22年10月21日付けの審判請求書の請求の理由の第9頁下から6行目?第10頁第5行において、『甲第1号証に実施例1として記載のBPEFの製造方法に従って製造されたBPEFは、甲第5号証の添付資料に示すように、当該BPEFの「示差走査熱分析による融解吸熱最大」が160.9℃であった。…よって、甲第1号証の実施例1として記載されるBPEFは、本件特許発明の全ての発明特定要件を満たし、両者に相違点はなく、本件特許発明と同一である。』と主張し、
同10頁下から6行目?第11頁第5行において、『甲第1号証に実施例1として記載のBPEFの製造方法に従って製造されたBPEFは、甲第6号証の図1に示すように、当該BPEFの「示差走査熱分析による融解吸熱最大」が161.0℃である。…よって、甲第1号証の実施例1として記載されるBPEFは、本件特許発明の全ての発明特定要件を満たし、両者に相違点はなく、本件特許発明と同一である。』と主張している。
そして、請求人は、平成23年3月11日付けの口頭審理陳述要領書の第3頁第8?15行において、『(1)甲5の実験成績証明書…イ、ウ「大気中で」、「24℃まで徐々に冷却して」とは、『アの加熱を停止した後、攪拌を停止し、24℃まで、常温、常圧の環境下に系を保持し結晶を析出させる』の意味である。』との説明を行い、
同4頁下から11?1行目において、『(2)甲6の実験成績証明書…イ、「室温まで徐々に冷却して結晶を析出」という手順は、『アの加熱を終了した後、マントルヒーターによる加熱を停止し、90℃程度の状態で15分程度攪拌を行った後、攪拌を停止し、常温(20℃程度)、常圧の環境下に系を保持し結晶を析出』させるものである。』との説明を行い、
さらに、同16頁第9行?第17頁第6行において、『すなわち、結果が相反する実験が一つでもあれば実験の信用性が認められないというのではなく、実験が明細書の実施例に則した実験であるかどうかを検討して実験の信用性を評価すべきと考えます。その上で以下の判例が考慮されるべきと考えます。「引用例に記載があるものであれば、その記載に従っていなければならないことはもとより、引用例に明示の記載がないものであっても、それが引用例実験において当然採用されるであろうとの蓋然性が存在すること、すなわち、当該条件や方法が、引用例実験の施行当時の技術水準の範囲内におけるものであって、かつ、引用例の記載の趣旨に反しない限度で、その当時の技術常識に沿うものである必要である(平成11年(行ケ)第19号特許取消決定取消請求事件)」かどうかが検討されるべきと考えます。…この場合、参考資料7(審決註:甲第15号証)に示す、…「一般の場合には、室温に放置して、時々かきまぜながらゆっくり温度を下げて、結晶を成長させる、ゆっくり温度を下げたほうが、結晶がきれいに大きくなって析出する。・・・・・・」が参考になります。…「室温に放置して、時々かき混ぜながらゆっくり温度を下げ」が、当業者が当然に実施する形態であり、この手法が、甲1…においても当然に行われると考えるのが妥当です。』と主張している。

イ 基礎明細書(参考資料4)に基づく主張
また、請求人は、平成23年4月8日付けの上申書(1)の第11頁下から5行目?第13頁第12行において、『これらの実験結果の妥当性に関して、請求人の口頭審理陳述要領書の「第3 請求人及び被請求人の追試の妥当性」における主張に基づき、甲1、基礎出願(特願2007-34370号:参考資料4)及び優先権主張出願に於けるBPEFの再結晶過程の記載に関して比較・検討させていただきます。…基礎出願…懸濁液を90℃に加熱し溶解させた後同温で1時間攪拌した。この液を30℃まで徐冷して結晶を析出させ、同温度で1時間保温攪拌した。…即ち、両文献に記載の実施例においては、再結晶段階において結晶析出温度を50℃以上に制御する点に関して、何ら特別な操作が行われてはおりません。とすれば、甲1に開示の従来手法でも、再結晶段階において結晶析出温度は50℃以上となっていたと理解するのが自然であり、何らの制御を行うことなく、当然に多形体Bができていたと理解されます。』と主張している。

(4)追試方法の妥当性
次に、甲第5号証及び甲第6号証並びに乙第1号証及び乙第6号証の追試方法の妥当性について検討する。

ア 甲第5号証及び甲第6号証の追試方法
甲第5号証の追試方法における「大気中で24℃まで徐々に冷却して結晶を析出させる」という手順(摘記3a)、及び甲第6号証の追試方法における「室温まで徐々に冷却して結晶を析出」という手順(摘記4a)については、請求人の口頭審理陳述要領書の前記説明にあるように「攪拌を停止」して行ったものである。
これに対して、甲第15号証の「一般の場合には、室温に放置して、時々かきまぜながらゆっくり温度を下げて、結晶を成長させる」との記載(摘記9a)にあるように、結晶の析出に際しては攪拌しながら冷却を行うのが普通であり、請求人の口頭審理陳述要領書の前記「この手法が、甲1…においても当然に行われると考えるのが妥当です。」との主張のとおり、甲第1号証の実施例1においては結晶の析出時に「攪拌」が当然に行われると考えるのが妥当である。
加えて、甲第1号証の段落0022の「目的物の取り出しは、得られた濾液を撹拌しながら室温もしくは冷水で徐々に冷却しながら固体を析出させ、…乾燥させるのがよい」との記載(摘記1a)にあるように、甲第1号証においては「攪拌」しながら徐々に冷却して固体を析出するのがよいとされており、同段落0026の「得られた上記粗結晶50gをトルエン400mlからなる混合溶媒に攪拌、加熱下に溶解させた後、室温まで徐々に冷却して結晶を析出させる。」との記載(摘記1b)においては、徐々に冷却する前に攪拌を停止するとの記載がないから、甲第1号証の実施例1のものが「攪拌を停止」して結晶の析出を行っているとは解せない。
してみると、甲第5号証及び甲第6号証の追試方法は、甲第1号証の実施例1のように「攪拌」しながら結晶を析出させるものではないから、甲第1号証の実施例1に即した実験であるとは認められない。

イ 乙第1号証の追試方法
(ア)乙第1号証の追試方法の妥当性
乙第1号証の追試方法における「特段の温度制御はせずに室温(24.8℃)まで徐々に冷却して結晶を析出させる」という手順(摘記10a)については、被請求人提出の平成23年2月25日付けの上申書(2)の第3頁第9?10行の「この間,フラスコの内容物は攪拌翼にて攪拌(300rpm)を継続しました。」との記載にあるように「攪拌」しながら行ったものである。
そして、甲第1号証の実施例1のものは、「得られた粗結晶(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの純度は98.5%、収量は82.3g、収率74.5%であった。また、結晶中の残存硫酸は600ppmであった。得られた上記粗結晶50gをトルエン400mlからなる混合溶媒に攪拌、加熱下に溶解させた後、室温まで徐々に冷却して結晶を析出させる。該結晶を濾過し、70℃で1日間減圧乾燥した。得られた結晶(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの純度は99.5%、収量は43.8g、収率65.9%であった。また、結晶中の残存硫酸は150ppmであった。」という手順(摘記1b)により再結晶化を行ったものであり、
乙第1号証の追試方法のものは、「得られた粗結晶(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの純度は95.9%、収量は98.3g、収率89.8%であった。得られた上記粗結晶50gをトルエン400mlからなる混合溶媒に攪拌、加熱下に溶解させた後、特段の温度制御はせずに室温(24.8℃)まで徐々に冷却して結晶を析出させる。結晶は38.6℃で析出を開始し、36.8℃までの間に大量の結晶が析出した。該結晶を濾過し、70℃で1日間(24時間42分)減圧乾燥した。得られた結晶(9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの純度は99.1%、収量は38.6g、収率69.3%であった。」という手順(摘記10a)により再結晶化を行ったものである。
してみると、乙第1号証の追試方法は、甲第1号証の実施例1に即した実験であると認めることができる。

(イ)請求人の追試5-1を踏まえた検討
ここで、乙第1号証の追試方法に関して、平成23年2月23日付けの通知書(審理事項通知書)の1.(8)において、『被請求人は、乙第1号証を示して、その「実験番号:K101101」において、「特段の温度制御はせずに室温(24.8℃)まで徐々に冷却して結晶を析出させる。」という条件で得られた結晶が、「示差走査熱分析による融解吸熱最大が160℃?166℃」の範囲外の「108.4℃」になることを示しています。…ついては、下記2.(1)の点についての被請求人の上申書による回答を踏まえて、乙第1号証の「実験番号:K101101」の条件で追試を行い、この場合に得られる結晶が、「示差走査熱分析による融解吸熱最大が160℃?166℃」の範囲内になることを証明して、甲第1号証の実施例1に開示された条件さえ満たせば、どのような条件であっても必ず「示差走査熱分析による融解吸熱最大が160℃?166℃」の範囲内の結晶多形体が得られることを立証してください。』との審理事項が通知されたところ、
これに対して、請求人は、平成23年4月8日付けの上申書(1)の第3頁下から3行目?第4頁下から2行目において、『請求人は、上記上申書〔審決註:被請求人提出の上申書(2)〕の記載に基づいて乙1の追試を行いました。この追試を追試5-1と称します。…再結晶が始まった「濁り始め」は、液温55℃付近、自然放熱冷却開始後、16分程度(△印)である。さらに、「大量析出」は、液温45℃付近、自然放熱冷却開始後、27分程度(◇印)である。得られたBPEFの示差走査熱分析法に基づいた「示差走査分析」結果を参考資料1に示した。この分析に使用した機器及び分析条件は甲5と同じである。この追試5-1で得られたBPEFの融点は、161℃であった。』との報告をしている。
そこで、請求人提出の上申書(1)の追試5-1によって、乙第1号証の追試方法の結果が否定され得るか否かについて検討するに、被請求人提出の上申書(2)の第3頁下から11?2行目の「完全溶解後(この時の溶液温度は90.7℃),オイルバスを外して空気中で放冷を開始しました。その後の時間とフラスコ内部の液相部温度の推移は以下のとおりとなりました。19分後/59.9℃ 29分後/50.0℃ 46分後/40.0℃ 50分後/38.6℃(結晶析出開始) 56分後/36.8℃(結晶の大量析出) 112分後/30.4℃ 352分後/24.8℃」との回答、並びに請求人提出の上申書(1)の第4頁下から8?6行目の『「濁り始め」は、液温55℃付近、…16分程度(△印)である。さらに、「大量析出」は、液温45℃付近、…27分程度(◇印)である。』との記載、及び第6頁の図2の記載からみて、追試5-1は、乙第1号証の追試方法と異なる冷却速度の条件で、再結晶化を行っているものと認められる。
そして、乙第3号証の1の「冷却速度を変化させるなどして目的の多形を析出させている」との記載(摘記12a)、及び「実際には,経験的な手法で多形を作り分けている.たとえば,溶液を急冷したり,または,結晶析出温度を高くあるいは低く設定したりして実験的に望みの多形の析出条件を見つけだしている」との記載(摘記12b)にあるように、冷却速度を変化させることによって結晶多形を望みのものに作り分けることが可能になることが一般に知られているところ、冷却速度の条件が異なる追試5-1の結果によっては、乙第1号証の追試方法の結果を否定することはできない。

ウ 乙第6号証の追試方法
乙第6号証の事実実験公正証書は、被請求人提出の平成23年3月24日付けの上申書(3)の第2頁第11?12行の「甲第1号証の【0026】の記載の基づく結晶精製工程を、公証人立会のもと被請求人において追試し、その内容を事実実験公正証書とした」との記載にあるように、公証人立会のもとでの甲第1号証の実施例1の追試の結果を証するものである。
そして、乙第6号証の追試方法のものは、「上記粗結晶50gをトルエン400mlと共に容量1000mlの四つ口フラスコに入れ、このフラスコをオイルバスにつけ、さらに、フラスコ内に入れた攪拌機により300回転/分の回転数で攪拌しながら加熱した(写真4)。加熱開始時刻は午前9時45分であったが、午前10時02分45秒には目視によりフラスコ内は完全に透明になり、白色結晶が確認できなくなったため、粗結晶が完全に溶解したと認められたので、オイルバスを外して加熱を止めた。…次に、再びフラスコ内容物の温度の均一性を保つために攪拌機により攪拌(300回転/分)を継続しながら、上記フラスコを室温雰囲気下(21.6℃)で自然冷却した。…午前10時39分52秒、白色の結晶が析出を開始した(僅かな白濁状態を示した)。このときのフラスコ内容物の温度は42.8℃であった(写真6)。そして、午前10時44分35秒までの間にフラスコ内容物は完全に白濁し、大量の結晶が析出したと認められた。このときのフラスコ内容物の温度は41.4℃であった(写真7)。」という手順(摘記15a)により結晶を析出させているものであって、甲第1号証の実施例1のものの「得られた上記粗結晶50gをトルエン400mlからなる混合溶媒に攪拌、加熱下に溶解させた後、室温まで徐々に冷却して結晶を析出させる。」という手順(摘記1b)に即したものとなっている。
してみると、乙第6号証の追試方法は、甲第1号証の実施例1に即した実験であると認めることができる。

(5)本7発明と甲1発明の相違点についての検討
上記第6 1(4)における検討を踏まえて、本7発明と甲1発明の相違点について検討する。

まず、上記第6 1(4)イ(ア)?(イ)において検討したように、乙第1号証の追試方法については、甲第1号証の実施例1に即した実験であると認めることができるところ、乙第1号証の追試方法によって製造されたBPEFの「示差走査熱分析による融解吸熱最大」は「108.4℃」となっており(摘記10b)、本7発明の「示差走査熱分析による融解吸熱最大が160?166℃」という発明特定事項を満たすものではない。
加えて、上記第6 1(4)ウにおいて検討したように、乙第6号証の追試方法についても、甲第1号証の実施例1に即した実験であると認めることができるところ、乙第6号証の追試方法によって製造されたBPEFの示差走査熱分析による融解吸熱最大は「108.5℃」となっており(摘記15c)、これも本7発明の「示差走査熱分析による融解吸熱最大が160?166℃」という発明特定事項を満たすものではない。
そうしてみると、甲第1号証の実施例1の記載に従って製造されたBPEFの「示差走査熱分析による融解吸熱最大」が、必ずしも「160?166℃」の範囲内にならないことは明らかである。

これに対して、例えば、乙第3号証の2の「多形の析出は,溶媒とその組成,晶析温度,過飽和度,不純物の存在と濃度,撹拌速度,pHなど,晶析の操作パラメータ全般に支配されている。…図9は,タルチレリンのα形からβ形への転移に及ぼす攪拌の影響を示したもの」との記載(摘記13a)にあるように、攪拌条件の違いによって結晶多形が影響を受けることが一般に知られているところ、攪拌条件が甲第1号証のものと異なる甲第5号証及び甲第6号証の結果によっては、甲第1号証の実施例1の記載に従って製造されたBPEFの「示差走査熱分析による融解吸熱最大」が、本7発明の範囲内にあると推認することはできない。
それゆえ、上記第6 1(3)アの請求人の主張に関して、甲第5号証及び甲第6号証の追試方法に基づく請求人の「甲第1号証の実施例1として記載されるBPEFは、本件特許発明の全ての発明特定要件を満たし、両者に相違点はなく、本件特許発明と同一である。」との主張は採用できない。

加えて、例えば、甲第15号証には、「結晶化に手こずった物質でもいっぺん結晶化に成功すると,2回目からは素直に結晶するといわれている」との記載(摘記9a)があり、乙第3号証の1には、「多形の制御は工業的に重量である.しかし,制御は難しい.溶媒を変えたり,冷却速度を変化させるなどして目的の多形を析出させているが,多分に経験的といわざるを得ない」との記載(摘記12a)があるところ、一般に多形の制御は難しく、多分に経験的といわざるを得ないのが、当業者の技術常識である。
してみると、本件特許明細書の段落0009の「9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンには、従来から知られている融解吸熱最大が示差走査熱分析で100?130℃である結晶多形体(以下多形体Aと称する)の他に、融解吸熱最大が示差走査熱分析で150℃?180℃である新規な結晶多形体(以下多形体Bと称する)が存在する事を見出した」との記載における「多形体B」の存在が知見される以前の甲第1号証施行当時の技術水準において、甲第1号証に明示のない実験条件として当該「多形体B」を析出できる条件が採用されていた蓋然性は極めて低いものと解するのが自然である。
しかして、請求人提出の上申書(1)の追試5-1においては「攪拌」が行われ、得られたBPEFが当該「多形体B」の性状を有することが示されているが、本件特許明細書に開示された当該「多形体B」の存在を知見した後に、甲第1号証に明記のない冷却速度や結晶析出温度などの設定条件について多分の試行錯誤を行い、当該「多形体B」を得られる設定条件を経験的に求めてその再現を行うことは当業者にとって容易なことであって、このような経験的に得られた後知恵を排した条件下で甲第1号証の実施例1の再現を行ったとしても確実に当該「多形体B」の性状を有することまでもが、請求人の証拠方法によって明確かつ十分に立証されているとは認められない。

さらに、上記第6 1(3)イの請求人の主張に関して、冷却速度や結晶析出温度の設定により望みの多形の析出条件を制御することが一般に知られているところ、甲第1号証に記載された従来手法における冷却速度や結晶析出温度の設定が、前記「多形体B」を析出できる条件に設定されていたと認めるに足る合理的な理由は見当たらず、しかも、乙第1号証及び乙第6号証の追試方法においては何ら特別の操作を行うことなく前記「多形体B」に該当しないBPEFの精製物が得られているので、請求人の「甲1に開示の従来手法でも、再結晶段階において結晶析出温度は50℃以上となっていたと理解するのが自然であり、何らの制御を行うことなく、当然に多形体Bができていたと理解されます。」との主張は採用できない。

そして、その他、甲第2?15号証及び参考資料1?10に示された事項を総合的に斟酌しても、本7発明が、甲第1号証に記載された発明であると認めるに足る事項は見当たらない。

したがって、本7発明が甲1発明と実質的に同一であるということはできない。

(6)無効理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本7発明は、甲第1号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものではない。
したがって、本7発明についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものとはいえないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由1は理由がない。

2 無効理由2について
(1)甲第2号証に記載された発明
摘記2aの「本実施例において、着色度は、JIS K1504に準拠して測定した。…実施例1…9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン700g(使用したフルオレノンに対する収率82%)が得られた。生成物を150℃に溶融させて、着色度を測定した」との記載からみて、甲第2号証には、「実施例1」として、
『150℃に溶融させて、着色度をJIS K1504に準拠して測定できる9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン。』についての発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)本7発明と甲2発明との対比
本7発明と甲2発明とを対比すると、両者は『9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン。』である点において一致し、BPEFの物性ないし形態が、本7発明においては、「示差走査熱分析による融解吸熱最大が160?166℃」である「結晶多形体」であるのに対して、甲2発明においては、「150℃に溶融させて、着色度をJIS K1504に準拠して測定できる」ものであって、示差走査熱分析による融解吸熱最大の数値範囲及びその結晶形態が明らかでない点、において相違している。

(3)本7発明と甲2発明の相違点についての検討
上記相違点について検討するに、甲2発明ないし甲第2号証の実施例1のBPEFの生成物が「150℃に溶融」することができるものであることは上記のとおりであるところ、乙第5号証の1の添付資料3(JIS K1504-1:2000)の「8.色 JIS K 0071-1に規定した方法による。」との記載(摘記14a)、及び同添付資料4(JIS K0071-1:1998)の「c)固体試料の場合は,必要量を固体試料用比色管に入れふたをして,試験温度に調節した溶融装置で溶融させる。」との記載(摘記14b)にあるように、着色度をJIS K1504に準拠して測定する場合においては、固体試料を「溶融装置で溶融」させると明確に規定されているので、甲第2号証の「生成物を150℃に溶融させて」との記載における「溶融」が「溶解」の誤記であると解する余地はない。
しかして、甲第14号証には、示差走査熱分析による融解吸熱最大が162.5℃のBPEFを、150℃の油浴で12時間加熱を続けた場合に、結晶状態のまま変化がなかったことが報告されているところ(摘記8a)、物質の「示差走査熱分析による融解吸熱最大」よりも低い温度で当該物質が溶融することは科学的にあり得ないから、甲第2号証の「150℃に溶融」できるBPEFの生成物が、本7発明の「示差走査熱分析による融解吸熱最大が160?166℃」という発明特定事項を満し得るとは認められない。
したがって、本7発明が甲2発明と実質的に同一であるということはできない。

(4)請求人の主張について
ア 甲第2号証の実施例1についての追試に基づく主張
請求人は、平成22年10月21日付けの審判請求書の請求の理由の第12頁第11?21行において、『甲第2号証に実施例1として記載のBPEFの製造方法に従って製造されたBPEFは、甲第7号証の添付資料に示すように、当該BPEFの「示差走査熱分析による融解吸熱最大」が163.3℃であった。…よって、甲第2号証の実施例1として記載されるBPEFは、本件特許発明の全ての発明特定要件を満たし、両者に相違点はなく、本件特許発明と同一である。』と主張し、
同13頁第9行?第15頁第12行において、『そこで、請求人は甲2号証・実施例1で製造したBPEFが乾燥程度にかからわず本件特許発明の結晶多形体と同一であることを明らかにするため、請求人の社員により甲第8号証の実験を行った。その内容は以下の通りである。…乾燥の程度が低い場合は、「示差走査熱分析による融解吸熱最大」より低い温度である150℃程度でも溶解することを証明する。…次に、甲第8号証添付資料の1の図2には、「示差走査熱分析による融解吸熱最大」が160℃以上のBPEFについて、加熱残分が比較的低い52.6%のもの(試料5)の150℃における状態写真が示されている。「示差走査熱分析による融解吸熱最大」が160℃以上のBPEFであっても、加熱残分が比較的低い52.6%のものでは、150℃で溶解しており、液相となっていることが見て取れる。…甲第2号証には、確かに、実施例1のBPEFが「150℃で溶融する」との記載があるが、上記理由から、実施例1のBPEFが「150℃で溶融する」との記載があったとしても、溶媒成分が多い(加熱残分が少ない)未乾燥の結晶BPEFが溶媒に溶け込み、液相を示したにすぎず、この実施例1の製造方法で得られるBPEFの「示差走査熱分析による融解吸熱最大」が、150℃であったことを示すものではない。』と主張している。

しかしながら、甲第7号証の追試方法においては、生成物が「150℃に溶融」できることについての確認はなされていない(摘記5a)。
また、甲第8号証の追試方法においては、乾燥操作を行わない試料5のBPEFが液状となったことが示されているにすぎない(摘記6a)。
そして、この点に関して、審判請求書の請求の理由には、「加熱残分が比較的低い52.6%のもの(試料5)」では「150℃で溶解しており、液相となっている」との主張がなされているが、甲第2号証の実施例1の生成物は150℃の温度で「溶融」するものであって、「溶解」するものではないから、甲第8号証の追試方法においても、生成物が「150℃に溶融」できることについての確認がなされているとはいえない。
そして、甲第2号証の実施例1の「収率82%」の生成物は、その収率が算出されているとともに、JIS K1504に準拠した方法で着色度が測定されているものであることから、相当程度の乾燥処理を行った乾燥晶であると解するのが自然であり、これに対して、甲第8号証のように着色度の測定を湿潤晶のまま行うという方法が、甲第2号証の実施例1の施行当時の技術水準からみて、その当時の技術常識に沿うものであると認めるに足る事実は見当たらず、「150℃に溶融」できる物質が「示差走査熱分析による融解吸熱最大が160?166℃」という物性を有することが科学的に成り立つという根拠もない。
したがって、甲第2号証の実施例1についての追試と称する甲第7号証及び甲第8号証の追試方法に基づく請求人の「甲第2号証の実施例1として記載されるBPEFは、本件特許発明の全ての発明特定要件を満たし、両者に相違点はなく、本件特許発明と同一である。」との主張は採用できない。

イ JIS K1504に準拠した測定方法についての主張
また、請求人は、平成23年5月13日付けの上申書(2)の第4頁第3行?第5頁第16行において、『JIS K1504が引用するJIS K0071-1「化学製品の色試験方法」の”9.c)”には、「固体試料の場合は、必要量を固体試料用比色管に入れふたをして、試験温度に調節した溶融装置で溶融させる。」と規定されている(乙5の添付資料4 4頁9、
c))。…JISが比色に際してふたをすることを求めている理由は、単に試料に異物が混入することを阻止する目的と理解される。…以上より、甲8は甲2の方法を再現したものであり、その結果、甲2の生成物と同じものである。』と主張している。

ここで、JIS K1504に準拠した方法で固体試料の着色度を測定をする場合には、試料の「必要量を固体試験用比色管に入れふたをして、試験温度に調節した溶融装置で溶融」させることによって行われることについては請求人の主張のとおりである。
しかしながら、沸点が110.6℃のトルエンが多量に混在したままの湿潤晶を150℃の温度にまで加温することは、ふたの有無にかかわらず危険であると認識するのが当業者にとっての技術常識であり、多量の溶媒(トルエン)が混在しているにもかかわらず、沸点以上の高温で固体試料(BPEF)を「溶解」させるという甲第8号証の追試方法が、甲第2号証の実施例1の施行当時の技術水準からみて、その当時の技術常識に沿うものであると認めるに足る事実も見当たらない。
したがって、請求人の「甲8は甲2の方法を再現したもの」との主張も採用できない。

(5)無効理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、本7発明は、甲第2号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものではない。
したがって、本7発明についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものとはいえないから、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由2は理由がない。

第7 むすび
以上検討したように、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-23 
結審通知日 2011-05-25 
審決日 2011-06-07 
出願番号 特願2008-28246(P2008-28246)
審決分類 P 1 123・ 113- Y (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 直子  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 東 裕子
木村 敏康
登録日 2008-06-20 
登録番号 特許第4140975号(P4140975)
発明の名称 フルオレン誘導体の結晶多形体およびその製造方法  
代理人 田上 洋平  
代理人 太田 隆司  
代理人 重冨 貴光  
代理人 黒田 佑輝  
代理人 北村 修一郎  
代理人 東 邦彦  
代理人 松本 司  

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