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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F28F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F28F
管理番号 1257000
審判番号 不服2011-1076  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-17 
確定日 2012-05-09 
事件の表示 特願2006-535296号「プレート熱交換器」拒絶査定不服審判事件〔平成17年4月28日国際公開、WO2005/038382号、平成19年4月5日国内公表、特表2007-508523号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件に係る出願(以下「本願」という。)は、2004年9月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年10月17日、スウェーデン)を国際出願日とする出願であって、平成22年9月7日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年9月15日)、これに対し、平成23年1月17日に拒絶査定不服の審判の請求がなされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2.平成23年1月17日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年1月17日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前に「互いに隣接して配置され、かつろう付け結合によって互いに結合された多数の熱交換プレート(1,1',1)を含んでいるプレート熱交換器であって、前記熱交換プレート(1,1',1)はクロムを含んでいるステンレス鋼で実質的に作られており、前記プレート熱交換器は、少なくとも数枚の前記熱交換プレートを通って延びている多数のポートチャネル(4)を含んでおり、1または2以上の前記ポートチャネル(4)は、前記ポートチャネルを管部材(6)に連結する連結面(5)によって取り囲まれているプレート熱交換器において、前記連結面(5)は、ニッケルを有する、ステンレス鋼よりも簡単な手法で前記管部材(6)を前記連結面(5)にろう付けすることを可能にする材料を含んでおり、該材料は二酸化クロムよりも還元されやすいことを特徴とするプレート熱交換器。」とあったものを「互いに隣接して配置され、かつろう付け結合によって互いに結合された多数の熱交換プレート(1,1',1)を含んでいるプレート熱交換器であって、前記熱交換プレート(1,1',1)はクロムを含んでいるステンレス鋼で実質的に作られており、前記プレート熱交換器は、少なくとも数枚の前記熱交換プレートを通って延びている多数のポートチャネル(4)を含んでおり、1または2以上の前記ポートチャネル(4)は、前記ポートチャネルを管部材(6)に後に連結するために用意された連結面(5)によって取り囲まれており、前記連結面(5)は、ステンレス鋼よりも簡単な手法で前記管部材(6)を前記連結面(5)にろう付けすることを可能にする材料を含んでおり、該材料は二酸化クロムよりも還元されやすく、かつ、ニッケルを含んでおり、20μmから50μmの厚さを有するニッケルの層で形成されており、前記材料は、前記材料から前記ステンレス鋼へ及び前記ステンレス鋼から前記材料への原子の拡散によって前記ステンレス鋼に連結され、かつ、前記管部材(6)との連結時に該材料が溶融しない溶融温度を有している、プレート熱交換器。」
と補正することを含むものである。
上記補正について検討する。
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、連結面(5)について、「管部材(6)に連結する連結面(5)」とあったものを「管部材(6)に後に連結するために用意された連結面(5)」と限定し、ろう付けすることを可能にする材料について、「材料は二酸化クロムよりも還元されやすいこと」とあったものを「材料は二酸化クロムよりも還元されやすく、かつ、ニッケルを含んでおり、20μmから50μmの厚さを有するニッケルの層で形成されており、前記材料は、前記材料から前記ステンレス鋼へ及び前記ステンレス鋼から前記材料への原子の拡散によって前記ステンレス鋼に連結され、かつ、前記管部材(6)との連結時に該材料が溶融しない溶融温度を有している」と限定することを含むものであり、かつ、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて検討する。

2.刊行物に記載された発明
(1)原査定の拒絶理由において提示された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2000-105090号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
a)「【請求項1】永久接合されるブレージングプレート式熱交換器において、ステンレス鋼製の銅管差込ノズルに銅被覆を施したことを特徴とするプレート式熱交換器。」(【特許請求の範囲】。下線は当審にて付与。以下同様。)
b)「【発明の属する技術分野】本発明は、銅ろう、あるいはニッケルろう材等により永久接合されるブレージングプレート式熱交換器の改良に関するものであり、詳しくは、ブレージングプレート式熱交換器の流体出入口となる銅管差込ノズルの改良に関するものである。」(段落【0001】)
c)「【従来の技術】ブレージングプレート式熱交換器とは、ろう材を塗布した多数枚の伝熱プレートを両側の本体フレーム間に積層配置し、伝熱プレートの周囲及び伝熱プレートに開口形成されている通路孔周辺部、場合により伝熱面全体を高温・真空下で一斉に溶融接合して、一工程で接合を行い、ガスケットを不要化したことを特徴とするプレート式熱交換器である。
従来のブレージングプレート式熱交換器1の銅管差込ノズル2は、図3の(A)に示すように、本体と同じステンレス鋼製であり、現場での銅管4のろう付けには、ステンレス鋼の酸化皮膜除去のためフラックスをノズル内面3へ塗布する必要があり、フラックス塗布後、一般には、図3の(B)に示すように、BAg(銀ろう5)を用いて銅管4を銅管差込ノズル2にろう付けしている。
【発明が解決しようとする課題】ここで問題点として、酸化物除去に用いられるフラックスは、弗化物系が多く用いられ、残留フラックスによる腐食を防ぐため、ろう付け後、残留したフラックスを洗浄除去する必要がある。
本発明は、銅管差込ノズル内面への酸化物除去用のフラックスの塗布を不要化し、銅管のろう付け後の残留フラックスの除去のためのノズル内面の洗浄を不要化したプレート式熱交換器を提供することを目的としている。」(段落【0002】?【0005】)
d)「【発明の実施の形態】図1の(A)は本発明に係るブレージングプレート式熱交換器の正面図、(B)はその側面図を示している。
ブレージングプレート式熱交換器は、図1の(A)(B)に示すように、ろう材を塗布した多数枚の伝熱プレート1aを両側の本体フレーム1b、1c間に積層配置し、伝熱プレート1aの周囲及び伝熱プレート1aに開口形成されている通路孔周辺部(図示省略)、場合により伝熱面全体を高温・真空下で一斉に溶融接合して、一工程で接合を行い、ガスケットを不要化している。そして、正面側の本体フレーム1bには、流体出入口となる銅管差込ノズル2が4個同時にろう付け接合されている。各伝熱プレート1a及び両側の本体フレーム1b、1c並びに銅管差込ノズル2は、ステンレス鋼製である。銅管差込ノズル2は本体フレーム1cに接合することもある。
本発明は、上記銅管差込ノズル2の内面3に、図2の(A)に示すように、銅被覆6を施すものである。この様に、銅管差込ノズル2の内面3ヘ銅被覆6を施すことにより、図2の(B)に示すように、銅管4とのろう付けは、銅ー銅のろう付けでよくなり、ろう材7として、BCuP(リン銅ろう)が使用できることになり、フラックスは不要となる。」(段落【0010】?【0012】)
e)「【発明の効果】本発明によれば、従来、フラックスを塗布していた銅管差込ノズルの内面ヘ銅被覆を施すことにより、銅管とのろう付けは、銅ー銅のろう付けでBCuP(リン銅ろう)が使用できることになり、フラックスは不要となる。
なお、上記銅管差込ノズルに銅被覆をするには、銅メッキを施したり、銅リング、銅箔等の置きろうで皮膜を形成させるものである。
また、本体ろう付けと同時に銅被覆を形成させる場合、銅管差込ノズルの表面を12.5μm Ry以上の粗面とすることにより、溶融した銅の流れ落ちを防止して銅皮膜の形成を確実に行うことができる。」(段落【0016】?【0018】)

上記a?eの記載事項及び図面の図示内容を総合勘案すると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「両側の本体フレーム1b、1cと、本体フレーム1b、1c間に積層配置された多数枚の伝熱プレート1aとを一斉に溶融接合する、ブレージングプレート式熱交換器であって、
両側の本体フレーム1b、1c及び各伝熱プレート1aは、ステンレス鋼製であり、
ブレージングプレート式熱交換器は、多数枚の伝熱プレート1aに開口形成されている通路孔と本体フレーム1bに接合される銅管差込ノズル2とを備え、
銅管差込ノズル2は、銅管4とろう付けされる内面3を有し、
本体フレーム1bに、流体出入口となる銅管差込ノズル2はろう付け接合され、銅管差込ノズル2の内面3は銅被覆が施されたブレージングプレート式熱交換器。」

(2)同じく、原査定の拒絶理由において提示された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平1-157768号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
a)「2.特許請求の範囲
ステンレス鋼・耐熱鋼と他金属をロウづけするにあたり、予め、ステンレス鋼・耐熱鋼側に厚さ100μm以下のニッケルクラッド層を施し、次いで、該ニッケルクラッド層を介して他金属とロウづけすることを特徴とするロウづけ方法。」(第1ページ左下欄第4?9行)
b)「(産業上の利用分野)
本発明は、ステンレス鋼および耐熱鋼(以下、単に「ステンレス鋼・耐熱鋼」と言う)と他金属とのロウづけあるいはハンダづけ(以下、単に「ロウづけ」と言う)方法の改善に関する。ここで他金属とは、例えば銅および銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金、炭素鋼および合金鋼、鋳鉄などの各種で、またロウづけの種類としては、銀ロウづけ、銅ロウづけ、黄銅ロウづけ、ニッケルロウづけ、アルミニウムロウづけ、ハンダづけなどを含む。
(従来技術とその問題点)
ステンレス鋼・耐熱鋼と他金属とのロウづけ性は、ステンレス鋼・耐熱鋼が含有するクロムのために不働態化皮膜が表面に形成され、良好ではない。これは、不働態化皮膜がステンレス鋼の地金とロウの直接接触を妨げるためで、通常フラックスの使用が不可欠である。しかし、フラックスを使用してもしばしばロウづけ不良に遭遇することがある。また、金属メツキを施す方法もあるが、これもロウづけ部分のメツキが剥がれるなどの問題があり万全ではない。
(発明の目的)
本発明は、ステンレス鋼・耐熱鋼と他金属とのロウづけ性を改善する、新規で安価な方法を提供するものである。」(第1ページ左下欄第11行?同右下欄第18行)
c)「(発明の構成)
本発明の要旨は、予めステンレス鋼・耐熱鋼の表面に100μm以下の薄いニッケルのクラッド層を施し、このニッケル層を介して他金属とロウづけする方法にある。ニッケルもステンレス同様不働態化皮膜を形成する性質はあるが、その程度はステンレス鋼に比し、はるかに軽度であり、ステンレス鋼地肌に直接ロウづけするよりも一段とロウづけしやすくなる。
本発明でニッケルクラッド層の厚みを100μm以下と規定したのは、クラッド層の厚みが数μm程度と薄くても、充分ロウづけ性の改善効果があり、100μm以上と厚くしても、経済的に無駄で且つそれ以上の効果が得られないからである。
一般にロウづけ性の良否およびロウづけ部分の健全性を評価する方法としては、ロウの広がり性(JIS Z23191による)試験とロウ継手の引張試験による比較が行なわれる。次に、実施例によって本発明をより詳細に説明する。
(実施例)
(実施例1)
SUS304およびニッケルクラッド(ニッケルの厚さ5μm)したSUS304について、それぞれ厚さ0.25mm、巾、長さ各50mmの試験片を準備し、この上に銀ロウ2種およびハンダ3種のロウを置いてロウの広がり性を調べた。(ニッケルクラッドのニッケルの厚さの大きいものについても試験したが、結果に大きな差は認められなかった)
試験方法は、JIS Z23191を参考にした。すなわち試験片50mm×50mmの中央部に0.1±0.001gのロウを乗せ、電気炉にて、ロウの液相線温度より50℃上の温度に加熱し、ロウが溶け始めてから30秒保持した後、炉内から取り出し、ロウの広がり面積を測定した。広がり面積は試験片数n=3の平均値で、表1にその測定結果を示す。なお、ヤニ入りハンダ以外はいずれもフラックスを使用した。」(第2ページ左上欄第1?同右上欄第19行)
d)「表1から明らかなように同1条件でロウづけした場合、単なるSUS304板に比し、ニッケルクラッドしたSUS304の方が、ロウ広がり面積は大きく、ロウづけ性は改善されている。このことはロウづけの生産性の向上、不良率の減少が期待されることを示すものである。」(第2ページ左下欄下から8行?同欄下から3行)
e)「(発明の効果)
本発明のニッケルクラッド化したステンレス鋼・耐熱鋼は、従来のステンレス鋼だけのものと比較してロウづけ作業性が良く、接合部の劣化がないことにより、その部分の信頼性も高まり、品質的に安定でしかも安価に製作できるので、その効果が大である。」(第3ページ右下欄第6?12行)
f)上記c?dの記載事項によると、ロウとしてヤニ入りハンダを用いた場合、ニッケルのクラッド層表面でのロウ広がり面積は大きく、ロウづけ性が改善されていることが示されている。

上記a?eの記載事項、上記fの認定事項、及び、図面の図示内容を総合勘案すると、刊行物2には、次の発明が記載されていると認められる。
「ステンレス鋼が含有するクロムのために表面に形成される、不働態被膜がステンレス鋼の地金とロウとの直接接触を妨げることのないように、ステンレス鋼と、例えば銅および銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金、炭素鋼および合金鋼、鋳鉄などの各種の他金属のうちの銅とをロウづけするにあたり、ステンレス鋼に比し、不働態化皮膜を形成する程度がはるかに軽度であり、厚さ数μm?100μm以下の薄いニッケルのクラッド層をステンレス鋼の表面に施し、ニッケルのクラッド層を介して、ステンレス鋼と銅とを、ニッケルのクラッド層表面でのロウ広がり面積が大きく、ロウづけ性が改善されている、フラックスを用いない、ヤニ入りハンダを用いてロウづけする方法。」

3.対比
本件補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。
刊行物1に記載された発明の「両側の本体フレーム1b、1cと、本体フレーム1b、1c間に積層配置された多数枚の伝熱プレート1aとを一斉に溶融接合する」ことは、本体フレーム1b、1c間に、多数枚の伝熱プレート1aが積層され、互いに隣接して配置されているといえるから、本件補正発明の「互いに隣接して配置され、かつろう付け結合によって互いに結合された多数の熱交換プレート(1,1',1)を含んでいる」ことに相当し、以下同様に、
「ブレージングプレート式熱交換器」は、その構成及び機能からみて、「プレート熱交換器」に、
「両側の本体フレーム1b、1c及び各伝熱プレート1aは、ステンレス鋼製」であることは、ステンレス鋼が、耐食性にすぐれた合金鋼で、クロム系とニッケル‐クロム系とに大別され([株式会社岩波書店 広辞苑第六版])、いずれもクロムを含有するものであることから、「クロムを含んでいるステンレス鋼で実質的に作られ」ていることに、
「多数枚の伝熱プレート1aに開口形成されている通路孔」は、多数の「通路孔」が、各伝熱プレート1aを通して延びていることから、「少なくとも数枚の熱交換プレートを通って延びている多数のポートチャネル(4)」に、
それぞれ相当する。
そして、刊行物1に記載された発明の「銅管差込ノズル2の内面3は銅被膜が施された」ことと、本件補正発明の「連結面(5)は、ステンレス鋼よりも簡単な手法で管部材(6)を連結面(5)にろう付けすることを可能にする材料を含んでおり、該材料は二酸化クロムよりも還元されやすく、かつ、ニッケルを含んでおり、20μmから50μmの厚さを有するニッケルの層で形成されて」いることとは、前者において、「銅管差込ノズル2」は、銅管を連結する内面である連結面を有する部材といえることから、両者は、「管部材に連結する連結面は、管部材(6)をろう付けすることを可能にする金属層で形成されている」ことで共通する。

したがって、両者の一致点および相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「互いに隣接して配置され、かつろう付け結合によって互いに結合された多数の熱交換プレートを含んでいるプレート熱交換器であって、前記熱交換プレートはクロムを含んでいるステンレス鋼で実質的に作られており、前記プレート熱交換器は、少なくとも数枚の前記熱交換プレートを通って延びている多数のポートチャネルを含んでおり、管部材に連結する連結面は、管部材をろう付けすることを可能にする金属層で形成されているプレート熱交換器。」

[相違点1]
管部材に連結する連結面が、本件補正発明では、1または2以上のポートチャネル(4)は、ポートチャネルを管部材(6)に後に連結するために用意された連結面(5)であって、その連結面はポートチャンネルを取り囲んでいるのに対して、刊行物1に記載された発明では、本体フレーム1bにろう付けされた銅管差込ノズル2の、銅管4とろう付けされる内面3である点。

[相違点2]
連結面のろう付けすることを可能にする金属層が、本件補正発明では、ステンレス鋼よりも簡単な手法で管部材(6)を連結面(5)にろう付けすることを可能にする材料を含んでおり、該材料は二酸化クロムよりも還元されやすく、かつ、ニッケルを含んでおり、20μmから50μmの厚さを有するニッケルの層で形成されており、材料は、材料からステンレス鋼へ及びステンレス鋼から材料への原子の拡散によってステンレス鋼に連結され、かつ、管部材(6)との連結時に該材料が溶融しない溶融温度を有しているのに対して、刊行物1に記載された発明では、銅被膜である点。

4.当審の判断
(1)上記相違点1について
プレート式熱交換器の技術分野において、プレートのポートチャンネルを、管部材に後に連結されるために用意された連結面により取り囲むことは、本願の優先権主張の日前に周知の技術事項である(例えば、実願昭58-150231号(実開昭60-60592号)のマイクロフィルムには、開口5?8の周りに管体11をろう付け接続することが記載され、特開平7-190651号公報には、蓋部材62に形成した穴72?75の周りにそれぞれ管67?70をろう付け接合することが記載されている。以下「周知の技術事項1」という。)。
そして、刊行物1に記載された発明において、上記周知の技術事項1に倣って、本体フレーム1bに銅管4とろう付けされる内面3を有する銅管差込ノズル2を備えることに換えて、管部材に後に連結されるために用意された連結面により取り囲まれたポートチャネルを備えることは、当業者が容易になし得たものである。

(2)上記相違点2について
上記(1)において検討したように、刊行物1に記載された発明において、本体フレーム1bに、管部材に後に連結されるために用意された連結面により取り囲まれたポートチャネルを備えることは、当業者が容易になし得たものである。
ここで、本件補正発明と刊行物2に記載された発明とを対比する。
刊行物2に記載された発明の「ステンレス鋼に比し、不働態化皮膜を形成する程度がはるかに軽度」である「ニッケルのクラッド層」は、ニッケルのクラッド層表面に形成される酸化ニッケルの膜厚が、ステンレス鋼に含有されるクロムにより形成される二酸化クロムの膜厚よりも薄いことを意味し、また、二酸化クロムに比して、酸化ニッケルが酸素を奪われニッケル単体へ戻すこと、すなわち、還元が行われやすいことは明らかであり、本件補正発明の「ろう付けすることを可能にする」「材料は二酸化クロムよりも還元されやすく、かつ、ニッケルを含んで」いる「ニッケルの層」に相当する。
したがって、刊行物2に記載された発明は、「ステンレス鋼が含有するクロムのために表面に形成される、不働態被膜がステンレス鋼の地金とロウとの直接接触を妨げることのないように、ステンレス鋼と銅とをロウづけするにあたり、ろう付けすることを可能にする材料は二酸化クロムよりも還元されやすく、かつ、ニッケルを含んでおり、数μm?100μm以下の厚さを有するニッケルの層をステンレス鋼の表面に施し、ニッケルのクラッド層を介して、ステンレス鋼と銅とをヤニ入りハンダを使用してロウづけする方法。」と言い替えることができる。
そして、刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明とは、ステンレス鋼に形成された金属膜と銅管とのロウづけ接合という同一の技術分野に属する発明である。
また、刊行物1に記載された発明は、上記2.(1)c)の記載事項によると、「弗化物系」「フラックスの塗布を不要化し、銅管のろう付け後の残留フラックスの除去のためのノズル内面の洗浄を不要化」するなる課題を解決するものであり、刊行物2に記載された発明は、ロウとして、「フラックスを使用しないヤニ入りハンダを用い」るものであるから、両者は、ロウづけに弗化物系のフラックスを使用しないという共通の課題を解決するものである。
また、異種金属からなるクラッド材の技術分野において、強力な結合を得るために、金属を金属拡散接合により接合することは、本願の優先権主張の日前に周知の技術事項である(例えば、特開平3-20482号公報の第2頁左下欄第17行?同右下欄第3行や、特開平3-146619号公報の第1ページ右下欄第17?19行や、特開平7-1649号公報の段落【0009】を参照。以下「周知の技術事項2」という。)。
さらに、本件補正発明が、ニッケルの層を「20μmから50μmの厚さを有する」こととしたのは、本願明細書の発明の詳細な説明に、「外面領域を、たとえばニッケルの薄い層で被覆することができる。この層は、約20?50μmの厚さを有していてもよい。」(段落【0020】)と記載されているように、その数値範囲の上限値及び下限値に臨界的意義を有するものではない。
してみると、刊行物1に記載された発明に、ステンレス鋼に含有されるクロムのために、ステンレス鋼表面に形成される不働態被膜が、ステンレス鋼の地金とロウとの直接接触を妨げることのないように、弗化物系のフラックスを使用しない刊行物2に記載されたロウづけ方法を適用して、銅管4を接合する面に銅被覆に換えてニッケルのクラッド層を形成するとともに、ロウとして、弗化物系のフラックスを使用しない、ヤニ入りハンダを用いることは、当業者が容易になし得たものである。
そして、その際に、上記周知の技術事項2のように、ステンレス鋼とニッケルとを強力に結合するために、両者を金属拡散により接合させること、経済性、ロウづけ性の改善効果等を考慮して、ニッケルのクラッド層の厚みを20?50μmと限定すること、さらに、銅管4との連結時に、ニッケルのクラッド層が溶融しない温度でロウづけすることは当業者が適宜なし得たものである。

(3)小括
本件補正発明の奏する効果は、刊行物1?2に記載された発明及び周知の技術事項から当業者が予測できた効果の範囲内のものである。
したがって、本件補正発明は、刊行物1?2に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年5月7日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「互いに隣接して配置され、かつろう付け結合によって互いに結合された多数の熱交換プレート(1,1',1)を含んでいるプレート熱交換器であって、前記熱交換プレート(1,1',1)はクロムを含んでいるステンレス鋼で実質的に作られており、前記プレート熱交換器は、少なくとも数枚の前記熱交換プレートを通って延びている多数のポートチャネル(4)を含んでおり、1または2以上の前記ポートチャネル(4)は、前記ポートチャネルを管部材(6)に連結する連結面(5)によって取り囲まれているプレート熱交換器において、前記連結面(5)は、ニッケルを有する、ステンレス鋼よりも簡単な手法で前記管部材(6)を前記連結面(5)にろう付けすることを可能にする材料を含んでおり、該材料は二酸化クロムよりも還元されやすいことを特徴とするプレート熱交換器。」

2.刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物1?2、刊行物1?2の記載事項及び刊行物1?2に記載された発明は、前記「第2.[理由]2.刊行物に記載された発明」に記載したとおりである。

3.対比および判断
本願発明は、前記「第2.[理由]」において検討した本件補正発明において、連結面(5)について、「管部材(6)に後に連結するために用意された連結面(5)」とあったものを「管部材(6)に連結する連結面(5)」とその限定を省き、ろう付けすることを可能にする材料について、「材料は二酸化クロムよりも還元されやすく、かつ、ニッケルを含んでおり、20μmから50μmの厚さを有するニッケルの層で形成されており、前記材料は、前記材料から前記ステンレス鋼へ及び前記ステンレス鋼から前記材料への原子の拡散によって前記ステンレス鋼に連結され、かつ、前記管部材(6)との連結時に該材料が溶融しない溶融温度を有している」とあったものを「材料は二酸化クロムよりも還元されやすいこと」とその限定を省くものである。
そうすると、実質的に本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2.[理由]3.対比および4.当審の判断」に記載したとおり、刊行物1?2に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に、刊行物1?2に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1?2に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-07 
結審通知日 2011-12-13 
審決日 2011-12-28 
出願番号 特願2006-535296(P2006-535296)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F28F)
P 1 8・ 575- Z (F28F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新井 浩士  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 松下 聡
長崎 洋一
発明の名称 プレート熱交換器  
代理人 石橋 政幸  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  

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