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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1257018
審判番号 不服2010-20284  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-09 
確定日 2012-05-11 
事件の表示 特願2004-240368「表面実装薄型コンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月 2日出願公開、特開2006- 60017〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成16年8月20日の出願であって、平成21年10月13日付けの拒絶理由通知に対して同年12月21日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年6月10日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年9月9日に審判請求がされると共に手続補正書が提出され、平成23年10月28日付けで当審がした審尋に対して同年12月21日に回答書が提出されたものである。


第2.平成22年9月9日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものを含み、その内容は以下のとおりである。

〈補正事項a〉
本件補正前の請求項1の「前記素子補強用金属板の前記導電体層に接続される前記抜き孔の内側部分には、外形面の側からは凹部となり、前記導電体層の側からは凸部となる段差部が少なくとも1個設けられた」を、
本件補正後の請求項1の「前記素子補強用金属板の前記導電体層に接続される部分には、外形面の側からは凹部となり、前記導電体層の側からは凸部となる段差部が少なくとも1個設けられ、前記抜き孔の内側に、前記凸部が挿入された」と補正する。

〈補正事項b〉
本件補正前の請求項3の「前記素子補強用金属板の前記導電体層に接続される前記抜き孔の内側部分には、前記導電体層の側からは凸部となる肉厚の増加部が少なくとも1個設けられた」を、
本件補正後の請求項3の「前記素子補強用金属板の前記導電体層に接続される部分には、前記導電体層の側からは凸部となる肉厚の増加部が少なくとも1個設けられ、前記抜き孔の内側に、前記凸部が挿入された」と補正する。

2.新規事項の有無
(1)補正事項aについて
ア.補正事項aについての本件補正は、本願の願書に最初に添付した図面の図1に記載した事項に基づくと認められる。

イ.補正事項bについての本件補正は、本願の願書に最初に添付した図面の図2に記載した事項に基づくと認められる。

ウ.以上のとおりであるから、補正事項a及び補正事項bについての本件補正は、本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものと認められる。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

3.補正の目的
ア.補正事項aの本件補正によって、本件補正前の「前記素子補強用金属板の前記導電体層に接続される前記抜き孔の内側部分には、外形面の側からは凹部となり、前記導電体層の側からは凸部となる段差部が少なくとも1個設けられた」は、本件補正後にあっては「前記素子補強用金属板の前記導電体層に接続される部分には、外形面の側からは凹部となり、前記導電体層の側からは凸部となる段差部が少なくとも1個設けられ、前記抜き孔の内側に、前記凸部が挿入された」と補正された。
すなわち、本件補正前の「前記素子補強用金属板の前記導電体層に接続される前記抜き孔の内側部分」という構成における「前記抜き孔の内側」の記載を削除する一方、本件補正前の「段差部が少なくとも1個設けられ」という構成に「前記抜き孔の内側に、前記凸部が挿入された」という記載を追加した。
したがって、本件補正前の「外形面の側からは凹部となり、前記導電体層の側からは凸部となる段差部」は、本件補正後の請求項1においては、「前記素子補強用金属板の前記導電体層に接続される部分」に「設けられ」、かつ、「前記抜き孔の内側に、前記凸部が挿入された」と補正されている。ここで、本件補正後の請求項1において、「前記素子補強用金属板」に「設けられ」た「段差部」である「凸部」が、「前記抜き孔の内側」に「挿入された」のであるから、本件補正後の請求項1においても、本件補正前の請求項1と同様に、前記「段差部」は、「前記素子補強用金属板の前記導電体層に接続され」る「前記抜き孔の内側」の「部分」に「設けられ」ていると認められる。
よって、補正事項aの本件補正は、本件補正前の請求項1における「凸部」が、本件補正後の請求項1においては、「前記抜き孔の内側」に「挿入された」ものであることを限定するものである。

イ.同様に、本件補正前の「前記素子補強用金属板の前記導電体層に接続される前記抜き孔の内側部分」という構成における「前記抜き孔の内側」の記載を削除する一方、本件補正前の「肉厚の増加部が少なくとも1個設けられ」という構成に「前記抜き孔の内側に、前記凸部が挿入された」という記載を追加した補正事項bの本件補正は、本件補正前の請求項3における「凸部」が、本件補正後の請求項3においては、「前記抜き孔の内側」に「挿入された」ものであることを限定するものである。

ウ.したがって、補正事項a及び補正事項bについての本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮(請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的とする補正であると認められる。

4.独立特許要件
以上のように、本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であると認められる。
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものかどうかを、本件補正後の請求項3に係る発明について検討する。

(1)本件補正発明
本件補正後の請求項3に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、平成22年9月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項3に記載された、次のとおりのものである。

【請求項3】
「板状または箔状の弁作用を有する拡面化した金属からなる陽極体と、前記陽極体表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層上に形成された固体電解質層と、前記固体電解質層を覆う導電体層と、前記導電体層の一面を覆うように配設された素子補強用金属板とを備える表面実装薄型コンデンサにおいて、前記陽極体及び前記導電体層上に、抜き孔を有する熱接着性絶縁樹脂含浸テープが、前記導電体層上に前記抜き孔が位置するように貼り付けられ、前記抜き孔に導電ペーストが充填され、前記熱接着性絶縁樹脂含浸テープ及び導電ペースト上に、前記素子補強用金属板が貼り付けられてなり、前記素子補強用金属板は、前記導電ペーストを介して前記導電体層に接続されると共に、前記熱接着性絶縁樹脂含浸テープから形成された樹脂層を介して前記陽極体の一部および前記導電体層の一部に固定され、前記素子補強用金属板の前記導電体層に接続される部分には、前記導電体層の側からは凸部となる肉厚の増加部が少なくとも1個設けられ、前記抜き孔の内側に、前記凸部が挿入されたことを特徴とする表面実装薄型コンデンサ。」

(2)引用例の表示
引用例1:特開2004-055699号公報
引用例2:実願平04-006911号(実開平05-062027号)のCD-ROM
引用例3:特開平05-343271号公報
引用例4:実願昭63-157126号(実開平02-076832号)のマイクロフィルム

(3)各引用例の記載と引用発明
(3-1)引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2004-055699号公報(以下「引用例1」という。)には、「固体電解コンデンサとその製造方法」(発明の名称)に関して、図1、図4及び図5と共に、次の記載がある(下線は、参考のため、当審において付したもの。以下、他の刊行物についても同様である。)。

発明の属する技術分野
ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体電解コンデンサとその製造方法に関し、特に、扁平な形状のコンデンサ素子を用いた固体電解コンデンサの封止、外装の技術に関する。」

発明が解決しようとする課題
イ.「【0013】
従って、本発明は、扁平な固体電解コンデンサ素子を用いた表面実装型の固体電解コンデンサにおいて、外装をトランスファモールディングによることをなくして、外装にともなう素子へのストレス増加や良品率の低下なしに、コンデンサ全体の厚さを従来より薄くできるようにすることを目的とするものである。
【0014】
本発明は、また、扁平な固体電解コンデンサ素子を用いた表面実装型の固体電解コンデンサにおいて、封止性を従来より高めることを目的とする。」

発明の実施の形態
ウ.「【0017】
先ず、コンデンサ素子は陽極側電極にエッチドアルミニウム箔を用い、固体電解質に導電性高分子を用いたものであり、従来公知の方法で、以下のようにして準備した。すなわち、始めに陽極側電極となるアルミニウム箔1をエッチングして、拡面化する。エッチング液には、塩酸の水溶液などを用いる。そして、そのアルミニウム箔1の所定の領域(容量発現領域:図1(a)の紙面右側の大部)を陽極酸化して、そこに酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )の皮膜2を形成する。陽極酸化には、例えばアジピン酸や、クエン酸や、リン酸などのアンモニウム塩の水溶液を化成液に用いる。
【0018】
次いで、上記陽極酸化アルミニウム皮膜2の上に、固体電解質としての導電性高分子の層3を形成し、更にその上にグラファイトの層4と銀ペーストの層5とを積層して、エッチドアルミニウム箔1を陽極側電極とし、酸化アルミニウム皮膜2を誘電体とし、導電性高分子層3とグラファイト層4と銀ペースと層5とを陰極側電極とする固体電解コンデンサ素子を得る。本実施例においては、導電性高分子にピロールモノマーを化学酸化重合させて得たポリピロールを用いたが、他の例えばポリチオフェン或いポリアニリンなどを用いることもできる。また、形成方法についても、化学酸化重合に限らず、電解酸化重合によって形成することもできる。尚、本実施例においては、導電性高分子層3の形成に先立って、容量発現領域の隣りの部分(この例の場合は、ポリピロール層3などが形成されている部分の左側)に、後に外部陽極端子6を取り付けるだけの分をあけて、予めエポキシ樹脂のような絶縁性樹脂を塗布し、硬化させてマスキングのための絶縁樹脂体12を設けておいた。このようにしておくと、陽極側電極であるアルミニウム箔1と陰極側電極との間の短絡を防ぐことができるので、製造が容易になり良品率が向上する。
【0019】
その後、アルミニウム箔1の上記外部陽極端子取付けのために空けておいた部分に、外部陽極端子6を取り付ける。外部陽極端子6は、例えば42合金や銅の板にはんだめっきを施したもののような、はんだ付け可能な材料でできている。平板状で、アルミニウム箔1には超音波溶接や電気抵抗溶接などによって接合する。
【0020】
そして、コンデンサ素子の上面(外部陽極端子6が取り付けられている面とは反対側の面)に、エポキシ樹脂を含浸させた両面熱接着性テ-プ(プリプレグ)10を貼り付け、更にそのプリプレグ10の上面に、プリプレグの接着性を利用して、素子の強度補強のための平板状の補強板9を貼り付ける。このとき、プリプレグ10と補強板9とは、図1(a)に示す縦断面図および図1(b)に示す横断面図に見られるように、コンデンサ素子の陰極側電極からはみ出す大きさにし、また、アルミニウム箔1の外部陽極端子6の取付け部分まで伸ばして、その取付け部分を裏打ちできるようにしておく。なお、本実施例では、エポキシ樹脂を含浸させたプリプレグを用いたが、含浸剤は、例えばポリイミド樹脂のような耐熱性のあるものであれば、別の熱硬化性樹脂でもよい。プリプレグ10の上面に貼り付ける補強板9は、コンデンサ素子の強度補強という目的から、プリプレグ10やアルミニウム箔1より剛性が高く、外力によって変形したり撓んだりしないことが必要である。本実施例では、厚さ0.1mmの銅板を用いた。また、本実施例においては、先にプリプレグ10をコンデンサ素子に貼り付けた後に、そのプリプレグに補強板9を貼着したが、この方法に限らず、予め補強板9にプリプレグ10を貼り付けておいて、そのプリプレグ付きの補強板9を、コンデンサ素子に貼着するようにしてもよい。このようにすると、予めプリプレグ付きの大きな補強板からコンデンサ素子の平面形状に合う寸法のものを切り出しておいて、それを素子に貼り付けるという工法を採ることができるので、コンデンサ素子に先ずプリプレグを貼り付け、その後に補強板を貼り付けるという工法によったときとは違って、プリプレグ10と補強板9との位置合せなどの困難さがなくなり作業能率が向上するので、都合がよい。
【0021】
次に、外部陰極端子7にすべき平板状の補強板に予め銀ペーストなどの導電性接着剤8を塗布したものを用意しておき、これを素子の下面(プリプレグ貼着面とは反対の面)に仮接着する。この外部陰極端子7も、外部陽極端子6と同じはんだめっき可能な金属材料で作る。
【0022】
そして、コンデンサ素子の上面側の補強板9と下面側の外部陰極端子7との間に加熱しながら圧力を加える。加熱、加圧にあたっては、加工対象であるコンデンサ素子の上面及び下面に平坦性のよい剛体(図示せず)をあてがうなどして、加熱、加圧が均一に行われるようにする。この加熱、加圧によって、プリプレグ10に含浸されていたエポキシ樹脂が溶出して、素子の側面の、補強板9と外部陰極端子7とが素子から張り出している部分どうしの間の空間が、溶出エポキシ樹脂11Aで埋められる。また、補強板9と、アルミニウム箔1の外部陽極端子6取付け部の裏側との間の空間も、プリプレグ10からの溶出エポキシ樹脂11Bで埋められる。同時に、外部陰極端子7とコンデンサ素子との間に介在している銀ペースト(導電性接着剤8)が硬化して、外部陰極端子7が素子の陰極側電極に固着され、外装と同時に外部陰極端子7の取付けがなされて、本実施例に係る表面実装型のアルミニウム固体電解コンデンサが完成する。」

エ.「【0029】
次に、本発明の第3の実施例(実施例3)に係るアルミニウム固体電解コンデンサの縦断面図を示す図4(a)及び、これに用いたプリプレグの平面図を示す図4(b)を参照して、本実施例に係る固体電解コンデンサは、プリプレグ10に表裏を通じる開口13をあけ、その開口13内に導電性接着剤である銀ペ-スト14を充填して、補強板9とコンデンサ素子の最外層の銀ペースト層5とを導電的に結合した点が、実施例1に係る固体電解コンデンサと異なっている。かかる構造にすることで、コンデンサ素子に発生する熱を、プリプレグより熱伝導率の高い銀ペーストによって効率よく補強板9へ伝えることができ、放熱をよくすることができる。
【0030】
一般に、動作中のコンデンサにはリプル電流(サージ電流)が流れるのであるが、リプル電流iが流れると、コンデンサには、コンデンサ自体の等価直列抵抗rに対応して、次式に従う温度上昇△Tが生じる。
△T=(i^(2) r)/b・S(℃)
ここで、bはコンデンサの放熱係数、Sはコンデンサの放熱面積である。導電性高分子を固体電解質とするコンデンサは、等価直列抵抗が小さく、低インピーダンスで周波数特性が良好であることが特徴のコンデンサであるが、温度が高くなるほど等価直列抵抗の経時変化が大きくなる傾向にある。そこで、上述の温度上昇△Tを抑制することは、コンデンサの長寿命化、高信頼化のために重要になるのであるが、本実施例に係る固体電解コンデンサの構造は、そのような温度上昇抑制に大きな効果をもたらす。」

オ.「【0031】
実施例3に係る固体電解コンデンサに取り入れた技術、すなわち、プリプレグ10に開口13を設け、その開口に銀ペースト14などの導電性接着剤を充填して、補強板9とコンデンサ素子の陰極側電極とを導電的に結合する技術を用いると、次に述べる第4の実施例(実施例4)に係るコンデンサのように、外部陰極端子7とコンデンサ素子との間にもプリプレグを介挿させて、封止性をより高めることができる。実施例4に係るアルミニウム固体電解コンデンサの縦断面図を示す図5を参照して、本実施例に係る固体電解コンデンサは、コンデンサ素子の外部陰極端子7側の面にもプリプレグ10Bを貼着し、そのプリプレグ10Bによって外部陰極端子7をコンデンサ素子に貼着している点が、これまでの実施例と異なっている。外部陰極端子7側のプリプレグ10Bには、実施例3におけると同じように、表裏を通じる開口が設けてあり、その開口に導電性接着剤である銀ペースト14が充填してある。外部陰極端子7は、この銀ペースト14によってコンデンサ素子の陰極側電極と電気的に導通している。本実施例のような構造にすることによって、素子の側面の、補強板9と外部陰極端子との間の空間は、上下両方のプリプレグ10A,10Bから十分な量の溶出エポキシ樹脂を供給される。同時に、容量発現領域と外部陰極端子接続領域との間に設けられたマスキング材のエポキシ樹脂体12の上にもプリプレグ10Bが貼着され、これら二つの作用で、封止性がより向上する。本実施例においては、外部陰極端子7側のプリプレグ10Bにのみ開口を設け、銀ペースト14を充填したが、勿論、上面側(外部陰極端子7とは反対側の面)のプリプレグ10Aにも開口をあけ、銀ペーストを充填するようにしてもよい。」

(3-2)引用発明
上記ア?オによれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「エッチングして拡面化した陽極側電極となるアルミニウム箔1と、前記アルミニウム箔1の所定の領域を陽極酸化して形成した酸化アルミニウムの皮膜2と、前記酸化アルミニウムの皮膜2の上に形成した固体電解質としての導電性高分子の層3と、前記導電性高分子の層3の上に積層したグラファイトの層4と銀ペーストの層5とからなる陰極側電極とを有する、固体電解コンデンサ素子と、
前記固体電解コンデンサ素子の上面に貼り付けた、前記固体電解コンデンサ素子の強度補強のための平板状の銅製の補強板9と、
前記固体電解コンデンサ素子の下面に接着される外部陰極端子7と、
を備える表面実装型の固体電解コンデンサにおいて、
前記固体電解コンデンサ素子の上面に、表裏を通じる開口13をあけると共にエポキシ樹脂を含浸させた両面熱接着性テ-プ10を貼り付け、その開口13内に導電性接着剤である銀ペ-スト14を充填し、前記両面熱接着性テ-プ10の上面に前記補強板9を貼り付け、
前記固体電解コンデンサ素子と前記補強板9と前記外部陰極端子7とを加熱・加圧して、前記両面熱接着性テ-プ10に含浸されていたエポキシ樹脂により、前記固体電解コンデンサを封止、外装して、
前記充填した銀ペースト14によって、前記補強板9と前記固体電解コンデンサ素子の最外層の前記銀ペースト層5とを導電的に結合すると共に、前記固体電解コンデンサ素子に発生する熱を前記補強板9へ伝えることを特徴とする表面実装型の固体電解コンデンサ。」

(3-3)引用例2の記載
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である、実願平04-006911号(実開平05-062027号)のCD-ROM(以下「引用例2」という。)には、「固体電解コンデンサ」(考案の名称)に関して、図1?図8と共に、次の記載がある。

カ.「【0003】
【考案が解決しようとする課題】
上記構成の固体電解コンデンサは先端が偏平状の陰極リードとコンデンサ素子の陰極導電層とを銀ペイントで接着して、陰極リードを引き出す構造であるため、素子の状態において、偏平状の陰極リードと銀ペイントとの接着強度が充分でないと、リード線がはがれ易くなるという欠点があった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本考案は上記の問題を解決するもので……(中略)……電解重合などで処理したもう一方の側に銀ペイントにより偏平形状のリード線を接着し陰極とすることを特徴とする固体電解コンデンサにおいて、陰極引き出しに用いるリード線の先端を、プレス面に凹凸をつけたプレス機などにより偏平形状にし、リード線偏平部表面の両面または片面に角型、円型、または波型の凹凸を少なくとも1個以上つけたことを特徴とする固体電解コンデンサである。
【0005】
【作用】
上記のように構成することにより、銀ペイントとリード線偏平部との接着面積広がり、銀ペイントとリード線との接着強度が増加する。」

キ.「【0007】
……(中略)…… 電解重合などの処理を施した側に、両面に図2?図7に示す凹凸のついた偏平リード線6を銀ペイントにより接続した。次にエポキシ樹脂により外装し、エージングを施して固体電解コンデンサを製作した。
【0008】
【考案の効果】
本考案によれば、コンデンサ素子表面の陰極導電層に対する陰極リードの接触面積が増して機械的強度が増し、固体電解コンデンサ製作工程において、コンデンサ素子の陰極リード線はがれを大幅に減少できる。」

ク.図4(ロ)、図7(ロ)及び図8(ロ)には、リード線偏平部表面に設けた凸部は、肉厚の厚み増加部となっていることが図示されている。

(3-4)引用例3の記載
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平05-343271号公報(以下「引用例3」という。)には、「モールドチップ型固体電解コンデンサ」(発明の名称)に関して、図1、図2と共に、次の記載がある。

ケ.「【0005】
【発明が解決しようとする課題】この従来のコンデンサ素子と陰極リード端子との接続構造では、コンデンサ素子と陰極リード端子に介在する導電性接着剤を押さえたまま接続するため、押さえる構造のバラツキにより、導電性接着剤がはみ出すこと、又銀粒子の配向により押えた部分で樹脂分のみがはみ出すことにより、接続が不十分となり、接着強度にバラツキを生じる要因となっていた。
【0006】さらには、このバラツキにより、コンデンサ製造工程の外装前及び外装時の機械的ストレスにより、接続部が剥れるという欠点があった。」

コ.「【実施例】次に本発明について、モールドチップ型タンタル固体電解コンデンサを例に図面を参照して説明する。
【0010】図1は、本発明の一実施例の断面図である。また、図2は図1に示す第1の実施例に使用する陰極リード端子の斜視図である。陰極リード端子5の、コンデンサ素子取り付け部に図2に示す如く突起部1aと1bを設ける。この突起部1a,1bの寸法は陰極リード端子5の寸法,長さ1.2mm,幅2.0mm,厚さ0.1mmに対して、高さ0.05mm,長さ方向1.2mmに対してセンター振り分けで0.5mmの間隔で形成させる。
【0011】この陰極リード端子5上に、突起部1a,1bではさまれた部分の容量以上の導電性接着剤6を塗布し、コンデンサ素子3を載せ、治具等で押えたまま、150℃30分の条件で加熱硬化し陰極接続を行なった。
【0012】この後、エポキシ材からなる外装樹脂8でモールド成形し、次いでリード成形を行ないモールドチップ型タンタル固体電解コンデンサを製造した。」

サ.「【0019】
【発明の効果】以上説明してきた本発明は、陰極リード端子のコンデンサ取り付け部の陰極リード上に突起部又は凹部を設けたことにより、導電性接着剤のはみ出し及び接着部の樹脂分のはみ出しが防止され接着強度のバラツキが大幅に低減した。その結果
(1)外装工程に入る前でのコンデンサ素子と陰極リード端子の剥れ不良率が低減し、歩留を向上させることができる。
(2)製造工程での陰極接続不完全に起因する市場での不良発生を抑えることで、製品の信頼性を改善することができる。
という、極めて大きな効果がある。」

(3-5)引用例4の記載
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である、実願昭63-157126号(実開平02-076832号)のマイクロフィルム(以下「引用例4」という。)には、「チップ型固体電解コンデンサ」(考案の名称)に関して、図1、図2と共に、次の記載がある。

シ.「通常、この種コンデンサは、第4図に示す様な、複数本の陽極金属端子3を連結したリードフレーム3aと、対向的に複数本の陰極金属端子4を連結したリードフレーム4aとを用い、それぞれの陰極金属端子4の先端に、導電性接着剤6を塗布し、その上にコンデンサ素子1を載置し、先ず、陽極リ-ド2を陽極金属端子3に溶接後、導電性接着剤6を熱硬化させ、コンデンサ素子1の電極引出層5と陰極金属端子4とを接続させて製造している。この為、特に、コンデンサ素子1の電極引出層5と陰極金属端子4との接着力は、端子が薄く接合面積が少ないので、接合及び接着力が弱い。従って、これらのチップ型固体電解コンデンサを回路基板等に実装する際の機械的ストレス、及び半田付けする際の熱による導電性接着剤6と陰極金属端子4との熱膨脹率の差によるストレスにより、コンデンサ素子1の電極引出層5と陰極金属端子4とに剥離が生じる。
又、導電性接着剤6がコンデンサ素子1と陰極金属端子4により押し出され、外装樹脂材7から露呈してしまうことがある。」(明細書の第2頁第15行?第3頁第16行)

ス.「先ず、薄い金属板をプレス加工等の工法により平面状に切断し、階段状に屈折加工して陰、陽極金属端子13、14を形成し、同時に陰極金属端子14の所定の位置に波形状面18を形成した陽、陰極リードフレーム13a、14aを用意する。
次に……(中略)……このコンデンサ素子11に前述の陰、陽極金属端子13、14をそれぞれ溶接、及び導電性接着剤16にて接合する。」(明細書の第5頁第8行?第6頁第1行)

セ.「本考案によれば、陰極金属端子14に波形状面18が形成されているので、接合面積が増大され、陰極金属端了l4と導電性接着剤16との接着性にすぐれている。
また、導電性接着剤16が陰極金属端子14の波形状面18の凹部に保持され、外装樹脂材17の外部にはみ出すことを防止できる。
従って、本考案のチップ型固体電解コンデンサは、チップ型特有の機械的、及び熱的ストレスに対して充分耐える効果を示し、回路基板等に実装する際の不良削減に多大な成果をもたらす効果がある。」(明細書の第6頁第9?20行)

(4)対比
(4-1)本件補正発明と引用発明との対比
次に、本件補正発明と引用発明とを対比する。

アルミニウムは弁金属の一つであるから、引用発明の「エッチングして拡面化した陽極側電極となるアルミニウム箔1」は、本件補正発明の「板状または箔状の弁作用を有する拡面化した金属からなる陽極体」に相当する。
酸化アルミニウムは誘電体であるから、引用発明の「前記アルミニウム箔1の所定の領域を陽極酸化して形成した酸化アルミニウムの皮膜2」は、本件補正発明の「前記陽極体表面に形成された誘電体層」に相当する。
引用発明の「前記酸化アルミニウムの皮膜2の上に形成した固体電解質としての導電性高分子の層3」は、本件補正発明の「前記誘電体層上に形成された固体電解質層」に相当する。
引用発明の「前記導電性高分子の層3の上に積層したグラファイトの層4と銀ペーストの層5とからなる陰極側電極」は、本件補正発明の「前記固体電解質層を覆う導電体層」に相当する。
引用発明の「前記固体電解コンデンサ素子の強度補強のための平板状の銅製の補強板9」は「前記固体電解コンデンサ素子の上面に貼り付け」られるが、「前記固体電解コンデンサ素子」の「最外層」は「銀ペースト層5」である。したがって、引用発明の「前記固体電解コンデンサ素子の上面に貼り付けた、前記固体電解コンデンサ素子の強度補強のための平板状の銅製の補強板9」は、本件補正発明の「前記導電体層の一面を覆うように配設された素子補強用金属板」に相当する。

引用発明の「両面熱接着性テ-プ10」は、「表裏を通じる開口13をあける」と共に、「前記固体電解コンデンサ素子の上面」に「貼り付け」られるものである。ここで、前記「開口13」内に「充填し」た「導電性接着剤である銀ペ-スト14」により、「補強板9と前記固体電解コンデンサ素子の最外層の前記銀ペースト層5」とが「導電的に結合」されるから、前記「両面熱接着性テ-プ10」の「開口13」が「銀ペースト層5」上に位置するように、当該「両面熱接着性テ-プ10」が「前記固体電解コンデンサ素子の上面」に「貼り付け」られることは明らかである。
また、前記「両面熱接着性テ-プ10」に「含浸」させた「エポキシ樹脂」自体は絶縁体であるが、該「両面熱接着性テ-プ10」には、「固体電解コンデンサ素子の最外層の前記銀ペースト層5とを導電的に結合する」ために、わざわざ、「開口13をあけ」ているから、該「両面熱接着性テ-プ10」も絶縁材料で形成されていることは明らかである。
したがって、引用発明の「前記固体電解コンデンサ素子の上面に、表裏を通じる開口13をあけると共にエポキシ樹脂を含浸させた両面熱接着性テ-プ10を貼り付け」ることは、本件補正発明の「前記陽極体及び前記導電体層上に、抜き孔を有する熱接着性絶縁樹脂含浸テープが、前記導電体層上に前記抜き孔が位置するように貼り付けられ」ることに相当する。

引用発明の「その開口13内に導電性接着剤である銀ペ-スト14を充填」することは、本件補正発明の「前記抜き孔に導電ペーストが充填され」ることに相当する。
引用発明の「その開口13内に導電性接着剤である銀ペ-スト14を充填」された「前記両面熱接着性テ-プ10の上面に前記補強板9を貼り付けること」は、本件補正発明の「前記熱接着性絶縁樹脂含浸テープ及び導電ペースト上に、前記素子補強用金属板が貼り付けられてなり」に相当する。

引用発明の「前記充填した銀ペースト14によって、前記補強板9と前記固体電解コンデンサ素子の最外層の前記銀ペースト層5とを導電的に結合する」ことは、本件補正発明の「前記素子補強用金属板は、前記導電ペーストを介して前記導電体層に接続される」ことに相当する。

引用発明において、「前記固体電解コンデンサ素子と前記補強板9と前記外部陰極端子7とを加熱・加圧して、前記両面熱接着性テ-プ10に含浸されていたエポキシ樹脂により、前記固体電解コンデンサを封止、外装」することにより、「前記補強板9」は、「前記両面熱接着性テ-プ10に含浸されていたエポキシ樹脂」により、「陽極側電極となるアルミニウム箔1」及び「最外層の前記銀ペースト層5」を有する「前記固体電解コンデンサ素子」と、構造的に接続・固定されると認められる。
したがって、引用発明の「前記固体電解コンデンサ素子と前記補強板9と前記外部陰極端子7とを加熱・加圧して、前記両面熱接着性テ-プ10に含浸されていたエポキシ樹脂により、前記固体電解コンデンサを封止、外装」することは、本件補正発明の「前記素子補強用金属板」は「前記熱接着性絶縁樹脂含浸テープから形成された樹脂層を介して前記陽極体の一部および前記導電体層の一部に固定され」ることに相当する。

前記「(3-1)引用例1の記載」の項のアで摘記したように、引用例1には、「本発明は、固体電解コンデンサとその製造方法に関し、特に、扁平な形状のコンデンサ素子を用いた固体電解コンデンサの封止、外装の技術に関する。」と記載されている。したがって、引用発明の「固体電解コンデンサ素子」は扁平な形状を有すると認められる。してみれば、引用発明の「表面実装型の固体電解コンデンサ」は、その「固体電解コンデンサ素子」が扁平な形状を有するという意味において、薄型であると認められる。
よって、引用発明の「表面実装型の固体電解コンデンサ」と、本件補正発明の「表面実装薄型コンデンサ」とは、いずれも、表面実装薄型コンデンサである点で一致する。

(4-2)一致点と相違点
そうすると、本件補正発明と引用発明の一致点と相違点は、次のとおりとなる。

《一致点》
「板状または箔状の弁作用を有する拡面化した金属からなる陽極体と、前記陽極体表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層上に形成された固体電解質層と、前記固体電解質層を覆う導電体層と、前記導電体層の一面を覆うように配設された素子補強用金属板とを備える表面実装薄型コンデンサにおいて、前記陽極体及び前記導電体層上に、抜き孔を有する熱接着性絶縁樹脂含浸テープが、前記導電体層上に前記抜き孔が位置するように貼り付けられ、前記抜き孔に導電ペーストが充填され、前記熱接着性絶縁樹脂含浸テープ及び導電ペースト上に、前記素子補強用金属板が貼り付けられてなり、前記素子補強用金属板は、前記導電ペーストを介して前記導電体層に接続されると共に、前記熱接着性絶縁樹脂含浸テープから形成された樹脂層を介して前記陽極体の一部および前記導電体層の一部に固定されることを特徴とする表面実装薄型コンデンサ。」

《相違点》
《相違点1》
本件補正発明においては、「前記素子補強用金属板の前記導電体層に接続される部分には、前記導電体層の側からは凸部となる肉厚の増加部が少なくとも1個設けられ、前記抜き孔の内側に、前記凸部が挿入された」のに対して、引用発明の「平板状の銅製の補強板9」は、「平板状」であり、凸部となる肉厚の増加部を有していない点。

(5)相違点についての判断
ア.引用発明の「平板状の銅製の補強板9」は、「前記充填した銀ペースト14」によって「前記固体電解コンデンサ素子の最外層の前記銀ペースト層5」と「導電的に結合」されると共に、「前記固体電解コンデンサ素子に発生する熱」が「前記充填した銀ペースト14」を介して「伝え」られるものである。
したがって、引用発明において、前記「平板状の銅製の補強板9」は、「固体電解コンデンサ素子の強度補強」と、「最外層の前記銀ペースト層5」と「導電的に結合」されることによる「固体電解コンデンサ素子」の電気的特性への寄与と共に、前記「固体電解コンデンサ素子」の放熱板としての役割も担っていると解される。

イ.引用発明は、「導電性接着剤である銀ペ-スト14」により前記「補強板9」と「最外層の前記銀ペースト層5」とを「接着」している。
よって、前記「補強板9」と前記「最外層の前記銀ペースト層5」との「導電的」な「結合」と、「前記固体電解コンデンサ素子に発生する熱」の前記「補強板9」への熱伝導とを確実なものにするために、前記「補強板9」と前記「導電性接着剤である銀ペ-スト14」、及び、前記「最外層の前記銀ペースト層5」と前記「導電性接着剤である銀ペ-スト14」との導電的・熱的な「接着」接合をより確実にすることは、引用発明が当然に有する課題である。

ウ.引用例2には、前記「(3-3)引用例2の記載」の項におけるカ?クで摘記したとおり、固体電解コンデンサ素子の陰極導電層に銀ペイントで接着する陰極リードのリード線偏平部表面のうち、少なくとも前記陰極導電層に接着する側の表面に、角型、円型、または波型の凸部となる肉厚の厚み増加部を設けることで、銀ペイントとリード線偏平部との接着面積が広がり、銀ペイントとリード線との接着強度を増加させるとともに、前記コンデンサ素子表面の陰極導電層に対する陰極リードの接触面積が増して機械的強度を増加させる、という公知技術が記載されている。

エ.なお、固体電解コンデンサの陰極側電極の側からは凸部となる突起部を金属板に設けることにより、前記陰極側電極に導電性接着剤により前記金属板を接着固定するに際しての前記導電性接着剤のはみ出しを防止すると共に、前記金属板と前記導電性接着剤との接合面積を大きくして接着強度を高めることが、前記「(3-4)引用例3の記載」、「(3-5)引用例4の記載」の項におけるケ?セで摘記したとおり、引用例3及び引用例4記載されており、固体電解コンデンサの技術分野においては、周知技術であったと認められる。
そして、引用例2に記載の公知技術も、前記ウのように、固体電解コンデンサ素子の陰極導電層の側からは凸部となる前記肉厚の厚み増加部を設けることで、銀ペイントと陰極リードのリード線偏平部との接着面積が広がるから、この接着面積が広がった分だけ多くの前記銀ペイントが保持されるものと認められる。したがって、引用例2に記載の公知技術が、陰極導電層に前記リード線偏平部を銀ペイントという導電性接着剤によって接着固定するに際して、当該銀ペイントのはみ出しを防止できるという作用をもたらすことは、当業者には明らかな事項であったものと認められる。

オ.さて、引用発明において、「平板状の銅製の補強板9」と「前記充填した銀ペースト14」との接合面積が大きいほど、両者が構造的によりしっかりと固定されて、両者がより良好に「導電的に結合」されると共に、両者間の熱伝導がより良好になることは明らかである。
そして、引用例2の凸部となる肉厚の厚み増加部のような固体電解コンデンサの陰極側電極の側からは凸部となる突起部を、金属板に設けることにより、前記陰極側電極に導電性接着剤により前記金属板を接着固定するに際して、前記金属板と前記導電性接着剤との接合面積を大きくして接着強度を高めることが、前記エで指摘したように周知技術であったことを考慮すれば、引用発明において、前記イの、前記「補強板9」と前記「最外層の前記銀ペースト層5」との「導電的」な「結合」と、「前記固体電解コンデンサ素子に発生する熱」の前記「補強板9」への熱伝導とを確実なものにするという課題を達成するために、前記「補強板9」に、引用例2のように、「陰極側端子」となる「最外層の前記銀ペースト層5」の側からは凸部となる肉厚の厚み増加部を設けることを想起することは、当業者であれば当然になし得たものである。

カ.このとき、引用発明の前記「補強板9」が「貼り付け」られる「エポキシ樹脂を含浸させた両面熱接着性テ-プ10」は、「表裏を通じる開口13」を有し、「その開口13内に導電性接着剤である銀ペ-スト14を充填し」たものであるから、前記「最外層の前記銀ペースト層5」の側からは凸部となる肉厚の厚み増加部が、前記「開口13」に対してでなく、前記「両面熱接着性テ-プ10」に対して突出している場合は、前記「開口13」に「充填」された「導電性接着剤」により、「最外層の前記銀ペースト層5」との導通性をより高めることや、前記「補強板9」への熱伝導をより高めることに、寄与しないことは自明である。
そして、板状の金属板と電子部品とを、開口部を有する絶縁部材を介して、前記開口部内に充填した導電性接着剤によって電気的・熱的に接続するに際して、前記板状の金属板に設けた少なくとも1個の肉厚の厚み増加部を、すべて、前記開口部内に挿入して接着・固定することで、前記板状の金属板を前記電子部品の電気的な端子とするか、前記板状の金属板を前記電子部品の放熱板とすることは、以下のク?コに記載されるように、慣用手段にすぎない。
したがって、前記「補強板9」に設ける、「最外層の前記銀ペースト層5」の側からみて凸部となる、少なくとも1個の肉厚の厚み増加部を、すべて、「開口13」に対して突出させることを発想することは、当業者であれば、ごく自然であると認められる。

キ.以上から、引用発明において、「平板状の銅製の補強板9」に、「陰極側端子」となる「最外層の前記銀ペースト層5」の側からは凸部となる肉厚の厚み増加部を、「開口13」の部分である「最外層の前記銀ペースト層5とを導電的に結合」させる部分に、少なくとも1個設けて、前記凸部となる肉厚の厚み増加部をすべて前記「開口13」に対して突出させることで、「両面熱接着性テ-プ10」の前記「開口13」内に前記少なくとも1個の前記凸部となる肉厚の厚み増加部をすべて挿入することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
なお、このとき、前記凸部となる肉厚の厚み増加部により、前記「補強板9」と「導電性接着剤」との接着面積が広がるから、前記「両面熱接着性テ-プ10」の「開口13内」に「充填」された「導電性接着剤」のはみ出しが防止されることは、前記エのように、当業者が予期し得たものと認められる。

ク.本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭64-007645号公報には、たとえば、第4図、第5図と共に、次の記載がある。

・「第4図に示したように、リードフレーム1のリードの先端部はリードフレームの板厚方向にエッチングすることによって、先端突起部7を形成した。この時のエッチングは周知のエッチング技術によるもので、突起部を形成すべきリード7の表面に所望形状のマスクを形成しておけば、マスク形状に応じた形状の突起部を形成することができる。例えば円形のマスクを形成しておくことにより、図示のごとき、円柱状の突起を実現することができる。この突起の高さは、エッチングの時間等、エッチング条件を適宜選択することにより調節できる。このときのエッチング深さ6は30μm、フレームの材質として無酸素銅、厚さ150μm、表面処理としてニッケルめっき5μm、スズめっき5μmの処理を施したものを用いた。
第5図にリード先端突起部7とLSIチップ2のAlボンディングパッド8との接合部の断面図を示す。リード先端突起部7とAlボンディングパッド8とは、軟質銀ペースト11を介して接合され、リードフレーム1の裏面1bとLSIチップ表面2aとはエッチング深さ30μm程度、離れており、直接、接触しない構造となる。
銀ペーストとしては弾性率が350kgf/mm^(2)のポリイミド系銀ペースト(日立化成(株)製の商品名、RZ041C)を用いた。
LSIチップ表面には、プラズマ形成したSiO(シリコンナイトライド)無機パッシベーション膜9の上に、さらに日立化成(株)製の登録商標PIQ膜すなわちポリイミドパッシベーション膜10を2.3μm厚さで形成したチップを用いた。」(第6頁上右欄第19行?同頁下右欄第8行)
・図5には、LSIチップ2の上に形成されたポリイミドパッシベーション膜10に設けられた開口から露出するAlボンディングパッド8と、リードフレーム1の先端の肉厚の厚みが増加している1個の突起部7とが、軟質銀ペースト11を介して接合されること、及び、前記突起部7が前記開口内に挿入されていること、が図示されている。

ケ.本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭54-162470号公報には、第3図、第4図と共に、次の記載がある。

・「第2図および第3図を参照すると、外部取り出しリード24の先端に、金属ロウ材23を介して半導体素子2lが電気的、熱的に接着されている。該半導体素子21の表面電極と、外部取り出しリード25,28とが金属細線26によって接続されている。半導体素子21及び金属細線26の一部に、シリコーンゴムコンパウンド31が塗布されている。該シリコーンゴムコンパウンド31に覆われた半導体素子21、金属細線26、外部取り出しリード25,28、ただし外部取り出しリード24はその半導体素子21載置部近辺の下面だけは外部露出させ、全体をシリコーン又はエポキシモールディングコンパウンド27で樹脂封止する。その結果、外部取り出しリード24の下面の露出部に、シリコーン又はエポキシモールディングコンパウンド27によって構成された台円錐状の丸穴が生じる。この丸穴と嵌合する突起部30を設けた銅、アルミなど高熱伝導性の材質よりなる放熱用金属板22の突起部30が丸穴に銀ペーストなどの導電性接着剤29によって嵌合、接着される。」(第2頁上左欄第12行?同頁上右欄第12行)
・第3図には、放熱用金属板22の突起部30は、肉厚の厚み増加部となっていることが図示されている。

コ.本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-152365号公報には、図7?図9と共に、次の記載がある。

・「【0033】なお、大スルーホール26の表面には熱伝導の良い接着剤、例えばクリームはんだ、導電性ペースト等を施しておく。
【0034】図7はヒートシンク27の底面側から見た斜視図で、上面に従来と同様に放熱フィン28を設け、底面に複数の例えば円柱状の突起部29を設けている。
【0035】突起部29はプリント配線板21の大スルーホール26に入る大きさに形成され、かつ大スルーホール26に対応するように配置される。
【0036】次に組立てについて説明すると、電子回路パッケージ22のはんだボール24とプリント配線板21の小スルーホール25が正しく対向するように、電子回路パッケージ22をプリント配線板21に実装する。この際、はんだボール24のはんだが溶けてはんだボール24と小スルーホール25ははんだ付けされる。
【0037】プリント配線板21にヒートシンク27を取付けるには、図8に示すように、突起部29を下側にしてプリント配線板21と位置合わせをし、矢印のように上方からヒートシンク27を下降させ、図9に示すように突起部29を大スルーホール26に嵌合する。
【0038】大スルーホール26には熱伝導の良い接着剤を施してあるので、突起部29は大スルーホール26に接着剤により固定され、ヒートシンク27はプリント配線板21に安定的に取付けられる。
【0039】冷却動作について説明すると、まず電子回路パッケージ22が導電することにより発熱する。その発した熱は電子回路パッケージ22のアース面23に伝わる。
【0040】次に熱はアース面23上に設けられたはんだボール24に伝わり、更にはんだボール24に対向しているプリント配線板21の小スルーホール25に伝わる。
【0041】次に熱は小スルーホール25に連なる大スルーホール26に伝わり、大スルーホール26に嵌合している突起部29からヒートシンク27に伝わる。
【0042】ヒートシンク27は上面に放熱フィン28を備えており、表面積が広くなるように構成されているので、熱は順次放熱され、電子回路パッケージ22は冷却される。
【0043】以上のように第2の実施形態によれば、ヒートシンク27の底面に設けた突起部29をプリント配線板21の大スルーホール26に嵌合して固定するので、ねじや熱伝導マット等の固定部材を削減し、ヒートシンク27へのタップ加工をなくし、組立て工数を低減することができる。」

(6)審判請求人の主張について
ア.審判請求人は、審判請求書において、
「即ち、引用文献1?4には、抜き孔の内側部分に素子補強用金属板の肉厚部の凸部を挿入するという構成を採用し、熱接着性絶縁樹脂含浸テープの抜き孔及び素子補強用金属板に囲まれた部分に入り込む空気の量を少なく抑えるという、本願請求項1特有の構成、効果は、開示も示唆もされていない。」、
と主張している。(審決注:「素子補強用金属板」の「肉厚」部の「凸部」の記載は、本件補正後の請求項3に記載されているから、前記「本願請求項1」の記載は、本願請求項3の誤記と認められる。)

イ.前記の主張において、「熱接着性絶縁樹脂含浸テープの抜き孔及び素子補強用金属板に囲まれた部分に入り込む空気の量」は、主に、前記「抜き孔」内に充填する導電性接着剤である銀ペ-ストの量に依存することは、本願明細書の段落【0007】に記載されるとおりである。
一方、引用発明は、前記「(5)相違点についての判断」の項のイで指摘したとおり、「最外層の前記銀ペースト層5」と前記「補強板9」との導通性をより高め、また、前記「補強板9」の放熱効果をより高める」ことを課題としている。ここで、製造過程において、前記「熱接着性絶縁樹脂含浸テープの抜き孔及び素子補強用金属板に囲まれた部分」に空気が入り込んだ場合、前記「最外層の前記銀ペースト層5」と「補強板9」との導通性や、前記「補強板9」の放熱効果を大きく阻害することは、明らかである。
したがって、引用発明において、「その開口13内」に「充填」する「導電性接着剤である銀ペ-スト14」の量を、製造過程において、はみ出したり空気が入らないように、適切に設定することは、当然に考慮されると認められる。

ウ.そして、前記「(5)相違点についての判断」の項で述べたとおり、引用発明において、「両面熱接着性テ-プ10」の「開口13内」に前記少なくとも1個の肉厚の厚み増加部をすべて挿入するという構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

エ.なお、審判請求人は、平成23年12月21日に提出された回答書において、本件補正後の請求項3の「前記抜き孔の内側に、前記凸部が挿入された」との記載を、「前記抜き孔の内側に、前記凸部の全数が挿入された」と補正するとの補正案を提示している。
しかし、上記のとおり、引用発明において、「両面熱接着性テ-プ10」の「開口13内」に前記少なくとも1個の肉厚の厚み増加部をすべて挿入するという構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものと認められるから、前記補正案を採用することはできない。

(7)独立特許要件の検討のまとめ
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用例2に記載の公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2号の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.小括
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

したがって、補正却下の決定の結論のとおり、本件補正を却下する。


第3.本願発明について
1.本願発明
以上のとおり、本件補正(平成22年9月9日に提出された手続補正書による補正)は却下されたので、本願の請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の請求項3(平成21年12月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項3)に記載された、次のとおりのものである。

【請求項3】
「板状または箔状の弁作用を有する拡面化した金属からなる陽極体と、前記陽極体表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層上に形成された固体電解質層と、前記固体電解質層を覆う導電体層と、前記導電体層の一面を覆うように配設された素子補強用金属板とを備える表面実装薄型コンデンサにおいて、前記陽極体及び前記導電体層上に、抜き孔を有する熱接着性絶縁樹脂含浸テープが、前記導電体層上に前記抜き孔が位置するように貼り付けられ、前記抜き孔に導電ペーストが充填され、前記熱接着性絶縁樹脂含浸テープ及び導電ペースト上に、前記素子補強用金属板が貼り付けられてなり、前記素子補強用金属板は、前記導電ペーストを介して前記導電体層に接続されると共に、前記熱接着性絶縁樹脂含浸テープから形成された樹脂層を介して前記陽極体の一部および前記導電体層の一部に固定され、前記素子補強用金属板の前記導電体層に接続される前記抜き孔の内側部分には、前記導電体層の側からは凸部となる肉厚の増加部が少なくとも1個設けられたことを特徴とする表面実装薄型コンデンサ。」

2.引用例の表示
引用例1:特開2004-055699号公報
引用例2:実願平04-006911号(実開平05-062027号)のCD-ROM
引用例3:特開平05-343271号公報
引用例4:実願昭63-157126号(実開平02-076832号)のマイクロフィルム

3.各引用例の記載、引用発明
引用例1ないし引用例4の記載、引用発明については、前記「第2.平成22年9月9日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定」の「4.独立特許要件」の「(3)各引用例の記載と引用発明」における「(3-1)引用例1の記載」?「(3-5)引用例4の記載」の各項において、摘記及び認定したとおりである。

3.対比・判断
前記「第2.平成22年9月9日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定」の「3.補正の目的」の項におけるイで検討したように、本件補正発明は、本願発明における「凸部」が、「前記抜き孔の内側」に「挿入された」ものであることを限定したものである。
したがって、本願発明は、本件補正発明の前記「凸部」が「前記抜き孔の内側」に「挿入された」ものであるというを限定を削除した発明である。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、これをより限定したものである本件補正発明が、前記「第2.平成22年9月9日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定」の「4.独立特許要件」における各項で検討したとおり、引用発明及び引用例2に記載の公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び引用例2に記載の公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4.結言
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載の公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-13 
結審通知日 2012-03-14 
審決日 2012-03-28 
出願番号 特願2004-240368(P2004-240368)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01G)
P 1 8・ 575- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹口 泰裕酒井 朋広  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 酒井 英夫
近藤 幸浩
発明の名称 表面実装薄型コンデンサ  

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