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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1257129
審判番号 不服2008-32274  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-22 
確定日 2012-05-18 
事件の表示 特願2003-339511「油性化粧料」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月21日出願公開、特開2005-104894〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成15年9月30日の出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成20年3月19日付け 拒絶理由通知
平成20年6月4日 意見書、手続補正書
平成20年10月29日付け 拒絶査定
平成20年12月22日 審判請求書
平成21年1月20日 手続補正書(方式)、手続補正書
平成21年1月22日 手続補足書
平成21年2月18日付け 前置審査移管
平成21年3月5日付け 前置報告書
平成21年3月13日付け 前置審査解除
平成23年2月22日付け 審尋
平成23年4月5日 回答書


第2 平成21年1月20日付け手続補正書についての補正の却下の決定
[結論]
平成21年1月20日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 本件補正
平成21年1月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の

「イヌリン脂肪酸エステル及び環状シリコーンを含有する半固形状の剤型に、油溶性ビタミンC及びビタミンEを除く油溶性ビタミン、又は油溶性ビタミンCと油溶性ビタミンC以外の油溶性ビタミンとの組合せからなる油溶性ビタミン類、粉体原料をそれぞれ1種類以上配合したことを特徴とする油性化粧料。」

「イヌリン脂肪酸エステル及び環状シリコーンを含有する半固形状の剤型に、ビタミンA類、油溶性ビタミンC類、ビタミンD類、ビタミンE類の組合せからなるものであって、ビタミンEが天然ビタミンEからなる油溶性ビタミン類、粉体原料を配合したことを特徴とする油性化粧料。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
(1)補正の目的の適否
上記補正後の「ビタミンA類、油溶性ビタミンC類、ビタミンD類、ビタミンE類の組合せからなるもの」は「該4種類のビタミン類の組合せの全てを含むもの」であると解され(平成23年4月5日付け回答書の「2)平成21年1月20日付補正が補正前請求項1の限定的減縮であることについて」を参照)、補正前の「油溶性ビタミンCと油溶性ビタミンC以外の油溶性ビタミンとの組合せからなる油溶性ビタミン類」は「油溶性ビタミンC」を必須成分とし、それ以外の「油溶性ビタミン」のあらゆる組合せを含むものであると解される。そうすると、上記補正は、「油溶性ビタミン類」の組合せについて、補正前の「溶性ビタミンC及びビタミンEを除く油溶性ビタミン、又は油溶性ビタミンCと油溶性ビタミンC以外の油溶性ビタミンとの組合せ」について、その前段の「溶性ビタミンC及びビタミンEを除く油溶性ビタミン」を削除し、その後段の「油溶性ビタミンCと油溶性ビタミンC以外の油溶性ビタミンとの組合せ」から「ビタミンA類、油溶性ビタミンC類、ビタミンD類、ビタミンE類の組合せからなるもの」と特定するものであるといえる。さらに、「油溶性ビタミンC以外の油溶性ビタミン」のうちの「ビタミンE類」について、「天然ビタミンEからなる」ものに特定するものである。
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であり、補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項である「油溶性ビタミン類」の組合せを特定するものである。
したがって、上記補正は、平成18年法律55号改正附則第3条第1項により、なお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものである。

そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」といい、本件補正後の明細書を「本願補正明細書」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法第17条の2第5項の規定に適合するか否か)、具体的には、本願補正発明が、本願出願前に頒布された刊行物に基づいて当業者が容易に発明をすることができたか否かについて、以下に検討する。

(2)刊行物に記載された事項
(ア)刊行物1に記載された事項
本願の出願前である平成15年4月9日に頒布された刊行物である特開2003-104825号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】次の成分(A)?(D);
(A)一単糖単位あたりの脂肪酸エステル化度が2.2以上の、イヌリン及び/又は加水分解イヌリン糖脂肪酸エステルであり、該エステルのアシル基において、総アシル基の60モル%以上が、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、エイコサノイル基、ドコサノイル基から選ばれる一種又は二種以上であるイヌリン及び/又は加水分解イヌリン糖脂肪酸エステル
(B)下記の成分(a)及び(b)を必須成分として共重合して得られる、アクリル-シリコーン系グラフト共重合体
成分(a):下記一般式で表される、分子中にラジカル重合性基を有するオルガノポリシロキサン化合物
【化1】

(式中、R_(1)は水素原子又はメチル基。R_(2)は場合によりエーテル結合1個又は2個で遮断されている直鎖状又は分岐鎖状の炭素鎖を有する炭素原子1?10個の2価の飽和炭化水素基。R_(3)は、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のハロゲン置換アルキル基、オルガノポリシロキシ基、2価アルキル基で連結されるオルガノポリシロキシ基から選ばれる、互いに異なっていても良い、一種又は二種以上の置換基。nは1.5?2.5、mは1?300。)
成分(b):N-ビニルピロリドン、N-ビニルアセトアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、マレイン酸、マレイン酸ハーフエステル、フマール酸、イタコン酸、クロトン酸、グリセロールモノアクリレート、グリセロールモノメタクリレート、N-ビニルホルムアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド四級塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート四級塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド四級塩、リン酸基含有ラジカル重合性モノマー、スルホン酸基含有ラジカル重合性モノマーから選ばれる水溶性ラジカル重合性モノマーの一種又は二種以上の組合わせ。
(C)揮発性環状シリコーン
(D)化粧料用粉体
を含有することを特徴とする化粧料。
【請求項2】成分(A)のイヌリン及び/又は加水分解イヌリン糖脂肪酸エステルのアシル基において、総アシル基の60モル%以上が、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、エイコサノイル基、ドコサノイル基から選ばれる一種又は二種以上の組合わせであり、残アシル基40モル%中に、分岐炭化水素骨格を有するアシル基を含有しているイヌリン及び/又は加水分解イヌリン糖脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1記載の化粧料。
【請求項3】成分(C)が、オクタメチルシクロテトラシロキサン及び/又はデカメチルシクロペンタシロキサンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の化粧料。」(【特許請求の範囲】)

(1b)「本発明に使用される成分(A)は、一単糖単位あたりの脂肪酸エステル化度が2.2以上である、イヌリン及び/又は加水分解イヌリン脂肪酸エステルであり、成分(C)の揮発性環状シリコーンのゲル構造付与剤として機能する。成分(A)に用いられるイヌリン及び/又は加水分解イヌリンは、多糖類の一種であり、D-フルクトースを主要構成糖とするオリゴ糖及びその加水分解物である。イヌリンは、β-1、2結合したフラノイドフルクトース単位の鎖から成り、還元末端において蔗糖結合したα-D-グルコースを有する構造のものである。イヌリンは、キク科植物、例えばチコリ、ダリヤ等の植物から得られる。本発明に使用するイヌリン及び加水分解イヌリンは、フラノイドフルクトース単位が2?60程度のものが好適に使用できる。成分(A)に用いられる脂肪酸は、炭素数16、18、20、22の直鎖脂肪酸が好ましい。また、成分(A)における、イヌリン及び/又は加水分解イヌリンのフルクトース単位当りの脂肪酸の置換度は、2.2以上が好ましい。置換度が2.2より低いと、揮発性環状シリコーンへの溶解性及びゲル構造性の付与が充分でなく、本発明の目的である分散安定性の確保が困難である。」(段落【0011】)

(1c)「本発明に配合される成分(B)は、以下の成分(a)及び(b)を必須成分として共重合して得られるアクリル-シリコーン系グラフト共重合体である。本発明における成分(B)の配合目的は、化粧料並びに化粧料用組成物中での粉体分散性の向上及び確保である。」(段落【0017】)

(1d)「本発明においては、成分(D)として化粧料用粉体が配合される。化粧料用粉体は、化粧料用組成物の着色、化粧料へ配合した時のメイクアップ効果、紫外線防止効果、感触改良等を目的とするものである。本発明に配合可能な化粧料用粉体は、球状、板状、針状等の形状、煙霧状、微粒子、顔料級等の粒子径、多孔質、無孔質等の粒子構造、等により特に限定されず、無機粉体類、光輝性粉体類、有機粉体類、色素粉体類、複合粉体類、等が挙げられる。具体的には、着色剤として、酸化チタン、黒酸化チタン、コンジョウ、群青、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化クロム、水酸化クロム、カーボンブラック、タール系色素等、感触調整剤として、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、マイカ、合成マイカ、合成セリサイト、セリサイト、タルク、炭化珪素、窒化硼素、ナイロンパウダー、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル-メタクリル酸共重合体パウダー、塩化ビニリデン-メタクリル酸共重合体パウダー、ウールパウダー、シルクパウダー、結晶セルロース、N-アシルリジン等、光輝性粉体として、オキシ塩化ビスマス、雲母チタン、酸化鉄コーティング雲母、酸化鉄雲母チタン、有機顔料処理雲母チタン、アルミニウムパウダー等、紫外線遮断剤として、微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛、微粒子酸化チタン被覆雲母チタン、微粒子酸化亜鉛被覆雲母チタン、硫酸バリウム被覆雲母チタン等の複合粉体等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を配合することができる。尚、これら粉体は、分散性や付着性を改良するために、シリコーン類、フッ素化合物類、金属石鹸類、油剤類等の通常公知の方法により、表面処理して用いても良い。」(段落【0034】)

(1e)「本発明の化粧料は、上記必須成分を含有して、油性化粧料、油中水型乳化化粧料、水中油型乳化化粧料とすることができ、それらの中でも、より好ましい化粧料の剤型は、油中水型乳化化粧料である。」(段落【0036】)

(1f)「さらに、本発明の化粧料においては、上記必須成分の他、ゲル化剤、界面活性剤、多価アルコール、水溶性高分子、油溶性高分子、水性成分、水、防腐防黴剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、美肌成分、香料、色素等を本発明の効果を妨げない範囲で配合することが可能である。」(段落【0038】)

(1g)「実施例5:ハンドガード
(成分) (質量%)
1.加水分解イヌリンパルミチン酸/2-エチルヘキサン酸 12.0
エステル(参考例5)
2.イソオクタン酸セチル 8.0
3.ジ-2-エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール 12.0
4.オクタメチルシクロテトラシロキサン 30.0
5.デカメチルシクロペンタシロキサン 残量
6.アクリル-シリコーン系グラフト共重合体(参考例6) 7.0
7.ビタミンEアセテート 0.2
8.パーフルオロポリエーテル 0.05
(フォンブリンHC/04:アウシモント社製)
9.グリセリン 0.05
10.疎水性無水ケイ酸 5.0
(AEROSIL R974:日本アエロジル社製)
(製造方法)
A:成分8、9を混合する。
B:成分1?7を加熱溶解して均一に混合する。
C:Bに成分10を加え、均一に混合後、Aを加え、ハンドガードとした。
実施例5のハンドガードは、長時間、手をガードするものであり、安定性にも優れるものであった。」(段落【0070】?【0072】)

(イ)刊行物2に記載された事項
本願の出願前である昭和59年5月25日に頒布された刊行物である杉浦衛、上田宏編、「最新香粧品科学」、廣川書店、昭和59(1984)年5月25日、第176頁、第179頁(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(2a)「非常に多くのビタミン類が化粧品に添加されている。」(第176頁最終行)

(2b)「しかしながら、・・・また、酸化されやすいビタミン(ビタミンA、D、E、C)などは、化学的に不安定であるので十分注意する必要がある。
ビタミンA
ビタミンAは角化症に対して有効であり、表皮細胞の分裂や発育の重要な因子であることが報告されている。
ビタミンE
ビタミンEは脂質の代謝における重要な因子で、抗酸化作用を有しており、皮膚の過酸化脂質生成に対して抑制的に作用することが明らかにされている。また皮膚の老化に伴う皮膚の弾力性の低下、皮脂腺の作用減退、保水能の減少、過剰色素沈着等に対しても効果が期待されている。さらに、養毛、育毛効果や、抗炎症作用、わきがに対する消臭効果についても報告されている。
・・・
ビタミンC
ビタミンCによる皮膚の異常色素沈着抑制作用はよく知られている。その作用は、メラニン産生を抑制するためであり、しみ、そばかす等の色素沈着抑制を目的として化粧品に配合される。」(第179頁第2?25行)

(3)刊行物1に記載された発明
刊行物1の上記摘記事項(1a)には、請求項1として、「次の成分(A)?(D);
(A)・・・イヌリン及び/又は加水分解イヌリン糖脂肪酸エステル
(B)下記の成分(a)及び(b)を必須成分として共重合して得られる、アクリル-シリコーン系グラフト共重合体
・・・
(C)揮発性環状シリコーン
(D)化粧料用粉体
を含有することを特徴とする化粧料」が記載されているから、刊行物1には、
「次の成分(A)?(D);
(A)イヌリン糖脂肪酸エステル
(B)アクリル-シリコーン系グラフト共重合体
(C)揮発性環状シリコーン
(D)化粧料用粉体
を含有することを特徴とする化粧料」の発明(以下「引用発明」という)が記載されているといえる。

(4)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「(A)イヌリン糖脂肪酸エステル」は、刊行物1の上記摘記事項(1b)の「成分(A)に用いられるイヌリン及び/又は加水分解イヌリンは、多糖類の一種であり、D-フルクトースを主要構成糖とするオリゴ糖及びその加水分解物である。・・・イヌリンは、キク科植物、例えばチコリ、ダリヤ等の植物から得られる。・・・また、成分(A)における、イヌリン及び/又は加水分解イヌリンのフルクトース単位当りの脂肪酸の置換度は、2.2以上が好ましい」との記載、及び本願補正明細書の段落【0030】の「本発明に使用される半固形状の剤型成分、イヌリン脂肪酸エステルは、一単糖単位あたりの脂肪酸エステル化度が2.2以上であり、揮発性の環状シリコーンのゲル構造付与剤として機能していることは既に知られている。イヌリンはキク科植物、例えばチコリ、ダリヤなどの植物から得られる多糖類の一種であり、D-フルクト-スを主要構成糖とするオリゴ糖である。」との記載からみて、本願補正発明の「イヌリン脂肪酸エステル」に相当する。

引用発明の「(C)揮発性環状シリコーン」について、刊行物1の上記摘記事項(1a)の【請求項3】には、「成分(C)が、オクタメチルシクロテトラシロキサン及び/又はデカメチルシクロペンタシロキサンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の化粧料」と記載されており、一方、本願補正明細書の段落【0033】には、「本発明の半固形状の剤型成分に使用される環状シリコーンは、・・・。一般に揮発性環状シリコーンとも呼ばれており、・・・。揮発性環状シリコーンとして用いられるものとして、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、・・・などが挙げられ、これら1種又は2種類以上を適宜選択して使用する。本発明ではオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンが好ましい」と記載されているから、引用発明の「(C)揮発性環状シリコーン」は、本願補正発明の「環状シリコーン」に相当するといえる。

引用発明の「化粧用粉体」は、刊行物1の上記摘記事項(1d)の「本発明に配合可能な化粧料用粉体は、・・・、無機粉体類、光輝性粉体類、有機粉体類、色素粉体類、複合粉体類、等が挙げられる」との記載及び本願補正明細書の段落【0022】の「本発明に使用される粉体成分としては、体質顔料、無機顔料、パール顔料、表面処理顔料、複合顔料が対象となる」との記載からみて、本願補正発明の「粉体原料」に相当するといえる。

さらに、引用発明は、「(B)アクリル-シリコーン系グラフト共重合体」を含むものであるが、「(B)アクリル-シリコーン系グラフト共重合体」について、刊行物1の上記摘記事項(1c)には、「本発明における成分(B)の配合目的は、化粧料並びに化粧料用組成物中での粉体分散性の向上及び確保である」と記載されている。一方、本願補正明細書の段落【0027】には顔料の処理についてであるが「界面活性剤処理:例えば無機顔料と油のなじみをよくする、油の中に分散させる、もしくは水に分散させるなど、用途に応じて界面活性剤を吸着させる」と、段落【0036】の「本発明の油性化粧料には、本発明の効果を妨げない範囲で通常の化粧料に使用される成分、・・・、界面活性剤、・・・などを添加することが可能である」と記載されているから、本願補正発明は、界面活性剤等の「無機顔料」等の粉体成分と「油のなじみをよくする、油の中に分散させる」ための成分を含有する態様を包含しているから、「(B)アクリル-シリコーン系グラフト共重合体」を含有する態様を包含するものであるといえる。

したがって、両者は、
「イヌリン脂肪酸エステル及び環状シリコーン、粉体原料を配合したことを特徴とする化粧料」

という点で一致するが、以下の点で相違する。

相違点1:化粧料の剤型について、本願補正発明では「イヌリン脂肪酸エステル及び環状シリコーンを含有する半固形状の剤型」の「油性化粧料」であるのに対し、引用発明では剤型が明らかでない点。

相違点2:化粧料中に、本願補正発明は、「ビタミンA類、油溶性ビタミンC類、ビタミンD類、ビタミンE類の組合せからなるものであって、ビタミンEが天然ビタミンEからなる」「油溶性ビタミン類」を配合しているのに対し、引用発明では、「ビタミン類」の配合について規定されていない点。

(5)判断
(ア)相違点1について
刊行物1の上記摘記事項(1e)には、「本発明の化粧料は、上記必須成分を含有して、油性化粧料、・・・とすることができ」と記載されている。
また、刊行物1の上記摘記事項(1g)には、引用発明の具体的な実施態様である実施例5として「ハンドガード」の組成が記載されており、その組成からみて、水を含むものではなく、油性の成分を多く配合しているから、「油性化粧料」であるといえる。
そして、実施例5の組成のうち、「加水分解イヌリンパルミチン酸/2-エチルヘキサン酸エステル」は「加水分解イヌリン脂肪酸エステル」であり、「加水分解イヌリン脂肪酸エステル」は刊行物1の上記摘記事項(1a)の【請求項1】及び(1b)の記載からみて、「イヌリン脂肪酸エステル」と同等のものであるといえる。この実施例5において、「加水分解イヌリンパルミチン酸/2-エチルヘキサン酸エステル」は「12.0質量%」含まれており、「環状シリコーン」である「オクタメチルシクロテトラシロキサン」、「デカメチルシクロペンタシロキサン」は、それぞれ「30質量%」、「残量」すなわち「25.7質量%」、合計で「55.7質量%」含まれている。
一方、本願補正発明の「油性化粧料」について、本願補正明細書の段落【0006】の「・・・新しい剤型として、イヌリン脂肪酸エステル及び環状シリコーンからなる半固形状の剤型を選び・・・」、段落【0030】及び【0031】の「本発明に使用される半固形状の剤型成分、イヌリン脂肪酸エステル・・・」、段落【0032】の「本発明の油性化粧料に用いるイヌリン脂肪酸エステルの配合量は、油性化粧料の剤型、用途、使用感により異なるが、5.0?30.0重量%の範囲であり、好ましくは7.0?25.0重量%、より好ましくは10.0?20.0重量%である」、段落【0033】の「本発明の半固形状の剤型成分に使用される環状シリコーンは・・・」、段落【0034】の「本発明の油性化粧料における環状シリコーンの配合量は、イヌリン脂肪酸エステルとの配合バランス、油性化粧料の剤型、用途、使用感により異なるが、30.0?80.0重量%の範囲であり、好ましくは40.0?70.0重量%、さらに好ましくは50.0?65.0重量%である」との記載からみて、本願補正発明の「油性化粧料」の「剤型」は「イヌリン脂肪酸エステル及び環状シリコーンからなる半固形状」のものであり、「イヌリン脂肪酸エステル」の配合量は、「5.0?30.0重量%の範囲であり、好ましくは7.0?25.0重量%、より好ましくは10.0?20.0重量%」の範囲であり、「環状シリコーン」の配合量は「30.0?80.0重量%の範囲であり、好ましくは40.0?70.0重量%、さらに好ましくは50.0?65.0重量%」の範囲であるといえる。
引用発明の具体的な実施態様である実施例5の「ハンドガード」には、「イヌリン脂肪酸エステル」と同等のものである「加水分解イヌリン脂肪酸エステル」及び「環状シリコーン」が上記範囲に配合されていることになるから、本願補正発明と同様に、「イヌリン脂肪酸エステル」及び「環状シリコーン」により「半固形状の剤型」になっていると認められる。
そうすると、引用発明は、「イヌリン脂肪酸エステル及び環状シリコーンを含有する半固形状の剤型」の「油性化粧料」の態様も包含しているといえる。

(イ)相違点2について
刊行物1の上記摘記事項(1f)には、「本発明の化粧料においては、上記必須成分の他、・・・、美肌成分、・・・等を本発明の効果を妨げない範囲で配合することが可能である」ことが記載されており、刊行物1の上記摘記事項(1g)には、引用発明の具体的な実施態様である実施例5の「ハンドガード」中に、「油溶性ビタミン類」である「ビタミンEアセテート」を配合することが記載されている。

また、刊行物2の上記摘記事項(2a)及び(2b)の記載からみて、化粧品に、「ビタミンA類」、「ビタミンC類」、「ビタミンD類」、「ビタミンE類」を添加することは本願の出願当時によく知られていたことといえる(さらに、平成20年10月29日付け拒絶査定で提示された特開平5-51312号公報の段落【0031】?【0032】及び【0034】?【0039】の実施例1?5、特開平10-101524号公報の段落の特許請求の範囲、段落【0001】?【0003】、【0019】?【0020】も参照)。
さらに、化粧品に「ビタミンA類」、「ビタミンC類」、「ビタミンD類」、「ビタミンE類」の全てを添加したものも本願の出願当時知られており(特開平5-51312号公報の実施例1?5を参照。)、「ビタミンC類」として「油溶性ビタミンC」を(例えば、特開平5-51312号公報の段落【0008】を参照)、「ビタミンE類」として「天然ビタミンE」を(特開平10-265324号公報の段落【0024】?【0025】の実施例6?7、特開2001-187712号公報の段落【0023】の実施例8を参照)用いることも本願の出願当時知られていたといえる。
そうすると、引用発明において、「美肌成分」としての機能を有する「ビタミン類」として、「ビタミンA類」、「ビタミンC類」、「ビタミンD類」、「ビタミンE類」の全てを配合すること、「ビタミンC類」として油性化粧料との相溶性等を考慮して「油溶性ビタミンC」を用いること、「ビタミンE類」として「天然ビタミンE」を用いることは当業者が適宜になし得たこといえる。

(ウ)本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は、本願補正明細書の段落【0009】?【0012】の記載からみて、ビタミン類を配合することの効果については、「ビタミンA類、油溶性ビタミンC類、ビタミンD類、ビタミンE類及びビタミンK類を対象とした油溶性ビタミン類を1種類又は2種類以上配合することで、一種類の化粧料で肌に対するあらゆる効果、とりわけビタミンA類による肌にハリを与え、シワを改善、目立たなくする、ビタミンC類によるチロシナーゼ活性抑制により、しみ・そばかすを防ぎ、美白効果を与える、ビタミンE類による肌の内側と表面の酸化を防ぎ、活性酸素を抑制する、ビタミンD類により皮膚コンディションを整える、などといった効果を一挙に得ることが可能となる」(段落【0009】)効果であると認められ、このことは、段落【0039】?【0042】の実施例1?3、5と比較例1?2、7の結果の評価からも裏付けられると認められる。
一方、本願補正発明の「粉体原料」及び「半固形状の剤型を構成するベース成分として、イヌリン脂肪酸エステル、環状シリコーン」を配合することによる効果は、「肌のキメを整え、展延性、効果効能の持続性、皮脂吸収、テカリ防止、良好な仕上がり感、サラサラ感、マット感(塗布して延ばしても油分特有のテカリが見られず、皮膚の凹凸を平らに滑らかにしてくれる様)など、使用感向上を図ることが可能となる」(段落【0010】)、「これまでの液状やジェル状とは異なる使用感。とりわけ上記の粉体との相乗効果を見出すことが可能となる。また、部分使用、ポイント使用、顔全体使用など塗布量、塗布範囲がコントロール可能となる」効果(段落【0011】)であると認められ、このことは、段落【0043】?【0049】の実施例6?11と比較例3?6の結果の評価からも裏付けられる。
そして、本願補正発明全体の効果は、「半固形状の剤型を構成し、なおかつ油溶性ビタミン類と粉体原料をそれぞれ1種類又は2種類以上配合することで、肌の保護、すなわち充分な保湿維持や各種有効な成分の効果効能の持続性という目的と、肌のキメを整え、展延性や仕上がり感に優れ、メイク前の下地効果を有するといった、2つの目的を兼ね備えた化粧料が可能となる」(段落【0012】)ものであると認められる。

引用発明は、上記(4)?(5)(ア)(イ)で検討したとおり、本願補正発明と引用発明の相違点は、実質的に、「油溶性ビタミン類」として、本願補正発明は「ビタミンA類、油溶性ビタミンC類、ビタミンD類、ビタミンE類の組合せからなるものであって、ビタミンEが天然ビタミンEからなる」ものを用いるのに対し、引用発明では「ビタミン類」について規定していない点(相違点2)のみであるから、本願補正発明のビタミン類を配合することの効果について検討する。
各種ビタミン類が皮膚に対して各種の効果を奏することは、刊行物2の上記摘記事項(2b)に記載されているとおり本願出願当時において知られていたことであり(特開平5-51312号公報の段落【0031】?【0032】も併せて参照)、「油溶性ビタミン類を1種類又は2種類以上配合することで、一種類の化粧料で肌に対するあらゆる効果・・・一挙に得ることが可能となる」ことは当業者が予測し得る範囲内の効果であり、本願補正発明の効果は格別顕著なものであるとは認められない。
「ビタミンEが天然ビタミンEからなる」ことに関連して、請求人は、平成21年1月22日付け手続補足書を提出して、「油溶性ビタミン類」として、「ビタミンA油」と「ビタミンCテトラヘキシルデカノエート」、「ビタミンD2」、「天然ビタミンE」の全てを含む実施例1と、「酢酸トコフェロール(ビタミンEアセテート)」のみ配合した比較例を示すとともに、平成20年12月22日付け審判請求書についての平成21年1月20日付け手続補正書(方式)において、「ビタミンEアセテート(酢酸トコフェロール)は肌刺激があり、化粧品、医薬部外品の製剤に配合するにあたっては、これを表示する義務があるとされており、これを使用する引用文献1及び2では実験成績書比較例(検体2)にある通り、刺激感(かゆみ、赤み/はれ、ピリピリ感ヒリヒリ感)があり、好ましくないものとなり、その点でも本願発明の化粧料が優れていることは明白である。」と主張している。
しかしながら、上述のとおり、化粧品に「ビタミンA類」、「ビタミンC類」、「ビタミンD類」、「ビタミンE類」の全てを添加したものも本願の出願当時知られており、化粧品に用いる「ビタミンE類」として「天然ビタミンE」は周知のものであり、ビタミン類を全て配合した方が機能性が向上すること、「ビタミンEアセテート(酢酸トコフェロール)」よりも「天然ビタミンE」の方が皮膚への刺激感が少ないことは当業者であれば予測し得ることといえる。
したがって、この主張も採用することができない。

(6)まとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物1?2に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
以上のとおり、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、本件補正は、その余のことを検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成21年1月20日付け手続補正書は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成20年6月4日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。なお、本願の明細書を「本願明細書」という。)は、以下のとおりである。

「イヌリン脂肪酸エステル及び環状シリコーンを含有する半固形状の剤型に、油溶性ビタミンC及びビタミンEを除く油溶性ビタミン、又は油溶性ビタミンCと油溶性ビタミンC以外の油溶性ビタミンとの組合せからなる油溶性ビタミン類、粉体原料をそれぞれ1種類以上配合したことを特徴とする油性化粧料。」

2 原査定の概要
原査定における拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された以下の刊行物である引用文献1?3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとするものである。

1.特開2003-104825号公報(上記「刊行物1」に同じ。)
2.特開2002-265317号公報
3.最新香粧品化学,日本,1984年 5月25日,初版,第176、179頁(上記「刊行物2」に同じ。)

3 引用文献及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(上記「刊行物1」に同じ)の記載事項は、「第2 平成21年1月20日付け手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「(2)刊行物に記載された事項」に記載したとおりであり、引用発明は同「(3)刊行物1に記載された発明」に記載したとおりである。

4 対比・判断
前記「第2 平成21年1月20日付け手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「(1)補正の目的の適否」で検討したように、本願補正発明は、本願発明を特定するために必要な事項を限定したものであるから、本願発明は本願補正発明を包含するものである。

そうすると、本願発明の構成要件の全てを含み、さらに構成要件を減縮したものに相当する本願補正発明は、前記「第2 平成21年1月20日付け手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「(4)対比」?「(5)判断」に記載したとおり、刊行物1?2に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これを包含する本願発明も、同様の理由により、本願の出願前に頒布された刊行物1?2に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余のことについて検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-08 
結審通知日 2012-02-28 
審決日 2012-03-12 
出願番号 特願2003-339511(P2003-339511)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 秀次原口 美和  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 杉江 渉
関 美祝
発明の名称 油性化粧料  
代理人 大多和 明敏  
代理人 大多和 曉子  

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