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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1257177
審判番号 不服2009-19424  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-09 
確定日 2012-05-16 
事件の表示 特願2004-539213「充電式装置の保持に関する改良」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月 8日国際公開、WO2004/030176、平成18年 1月 5日国内公表、特表2006-500894〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2003年9月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年9月27日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成21年6月2日付けで拒絶査定がなされ、同年10月9日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成22年12月15日付けで当審の拒絶理由が通知され、平成23年5月13日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年5月13日付け手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲、及び、図面によれば、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「電力伝送面と電磁誘導により電力を供給する電磁誘導電力供給源とを備える主装置から電力を受信する携帯型の電気又は電子機器であって、
前記機器は、前記主装置から分離可能であるとともに、前記機器が前記電力伝送面上またはその近傍に配置される際に電磁誘導結合によって前記電磁誘導電力供給源から電力を受信する電磁誘導電力受信器を有し、
前記機器は、電磁誘導によって前記電磁誘導電力供給源から電力を受信するために、前記電力伝送面の連続した二次元領域内の任意の位置に配置され得るようになっており、
前記機器は、吸着盤、又は繰り返し粘着可能なのり又はVelcro(登録商標)又はゴム面を含む少なくとも1つの接続要素を備え、前記接続要素は、前記機器が前記電力伝送面上または近傍に配置されるように、前記領域内の任意の前記位置で前記機器を前記主装置に解除可能に一時的に接続し、
前記少なくとも1つの接続要素は、前記領域内の任意の前記位置で前記機器が前記主装置と接続される際に、非重力的力を供給し、前記機器が前記電力伝送面から電力伝送面に略直交する方向に移動することを防ぐように作動する携帯型の電気又は電子機器。」

3.引用例
当審の拒絶理由に引用した特開平9-321851号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電話装置に関し、特に、磁力を利用してハンドセットを所定位置に保持する電話装置に関する。」

・「【0010】
【発明の実施の形態】以下、図面にもとづいて本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる電話装置を適用した携帯電話とアダプタを概略図により示している。同図において、ハンドセットに該当する携帯電話10は、細長い概略矩形箱形に形成され、一面が通話者の顔面側面に対応して凹型形状となっている。この表面の一端には受話部11が形成され、他端には送話部12が形成され、間にダイヤルボタンなどの操作部13が形成されている。また、内部には背面側にマイクロストリップアンテナ14を内蔵し、同マイクロストリップアンテナ14は内部の送受信回路15に接続されている。ここにおいて、同マイクロストリップアンテナ14は磁性体にて板状に形成され、当該携帯電話10の背面に最も近づくように配置されている。
【0011】受け台に該当するアダプタ20は、車載用アダプタであり、上記携帯電話10の上部2/3程度を載置できる載置面21を有しているとともに、同載置面21の一端から上方に突き出る突き当て壁22を有している。また、このアダプタ20の載置面21裏側であって、上記携帯電話10を載置したときに上記マイクロストリップアンテナ14に対面する部分に磁石23を内蔵している。
【0012】次に、上記構成からなる本実施形態の動作を説明する。携帯電話10を、その上端を突き当て壁22に突き当てるようにしながらアダプタ20の載置面21上に置くと、磁石23とマイクロストリップアンテナ14とが近接することになり、磁気吸着力が作用して携帯電話10は固定される。この場合、携帯電話10内のマイクロストリップアンテナ14自体は必然的な構成物であり、磁気固定するために採用したものではない。特に、マイクロストリップアンテナ14自体を磁性体、例えば鉄で構成することにも何ら問題はない。従って、大型化したり、重くなったりすることなく磁気固定可能となる。
【0013】上述した実施形態においては、ハンドセットの一例として携帯電話10に適用しているが、磁性体からなる板状のアンテナを利用するものであれば良く、例えば、コードレスホンのハンドセットなどであっても良い。また、受け台の一例として車載用アダプタに適用しているが、家庭用のACアダプタなどであっても構わない。
【0014】次に、図2は本発明の変形例にかかる携帯電話装置を概略図により示している。この例においては、アダプタ120が外部アンテナ124を備えており、載置面121上には接続端子124aを突出せしめて保持している。一方、携帯電話110の背面には同接続端子124aに対面する部分に接続端子116を備えており、この接続端子とマイクロストリップアンテナ114はリードスイッチ117を解して送受信回路115に接続されている。
【0015】同リードスイッチ117は、図2に示すように、通常時は送受信回路115をマイクロストリップアンテナ114に接続している。しかし、図3に示すように、当該携帯電話110を車載用アダプタ120上に載置したときには磁石123の磁力により、送受信回路115を接続端子116の側に切り換える。同接続端子116は携帯電話110をアダプタ120上に載置したときに載置面121上の接続端子124aと当接して接続されているので、上記送受信回路115は外部アンテナ124に接続されることになる。
【0016】すなわち、携帯電話110をアダプタ120上におくと、磁気吸着による固定とともに、アンテナの接続切換まで行われ、大変便利になる。上述した実施形態においては、磁力を作用する磁石として永久磁石を採用しているが、磁力を作用することができればよいので、電磁石であっても構わない。
【0017】図4は、本発明の変形例にかかる携帯電話装置を概略図により示している。この例においては、アダプタ220内に交流磁界を発生するための交流電流発生回路225aと電磁コイル225bとを備えており、直流電源226に接続されている。一方、携帯電話210においてもマイクロストリップアンテナ214と並んで発電コイル217を備えており、同発電コイル217の端部には充電回路218が接続されている。
【0018】携帯電話やコードレスホンでは充電電池が必要であり、適宜、充電する必要がある。しかし、このような構成とすると、交流磁界によって吸着と電力の供給とを同時に実現可能となり、コードレスで充電可能となる。
【0019】このように、携帯電話10などのハンドセット内には磁性体からなる板状のアンテナとしてマイクロストリップアンテナ14が内蔵され、アダプタ20の側には磁石23が内蔵され、磁気吸着力によって同携帯電話10を載置面21上に固定する。携帯電話10自身はアンテナを必要としているので、磁気吸着力による固定だけのために磁性体を内蔵するわけではなく、大型化したり重くなったりすることを防止できる。
【0020】
【発明の効果】以上説明したように本発明は、磁力で吸着するだけのために磁性体を備えるわけではなく、必然的に備えている構成部品を利用して吸着可能となるので、不要に大型化したり重くなったりすることを防止することが可能な電話装置を提供することができる。また、請求項2及び請求項3にかかる発明によれば、吸着だけでなく外部アンテナへ自動的に接続切り替えできるようになる。
【0021】さらに、請求項4にかかる発明によれば、吸着だけでなく給電も可能となる。」

・図1には、携帯電話10が、平らな面である載置面21上に突き当て壁22に接した位置に配置され得る点、及び、少なくとも1個の磁石23が、磁性体よりなる携帯電話10に設けられたマイクロストリップアンテナ14を磁気吸着力によって吸着することにより、携帯電話10を載置面21上に固定する点が示されている。そして、図4に、点線で記載されている電磁誘導結合によって、携帯電話210が電磁コイル225bから電力を受信する点が示されている。

・図1ないし図5では、同一の構成に図毎に異なる番号が付与されていることから、表示を簡単にするため、携帯電話10、マイクロストリップアンテナ14、アダプタ20に表示を統一して検討を行う。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「平らな載置面21と電磁誘導により電力を供給する交流電流発生回路225aと電磁コイル225bとを備えるアダプタ20から電力を受信する携帯電話10であって、
前記携帯電話10は、前記アダプタ20から分離可能であるとともに、前記携帯電話10が前記平らな載置面21上に配置される際に電磁誘導結合によって前記交流電流発生回路225aと電磁コイル225bから電力を受信する充電回路218に接続された発電コイル217を有し、
前記携帯電話10は、交流磁界によって前記交流電流発生回路225aと電磁コイル225bから電力を受信するために、平らな面である載置面21上に突き当て壁22に接した位置で配置され得るようになっており、
前記携帯電話10は、磁気吸着力によって携帯電話10を載置面21上に固定するために、磁石23に吸着されるマイクロストリップアンテナ14を備え、前記磁石23は、前記携帯電話10が前記載置面21上に配置されるように、載置面21上の突き当て壁22に接した位置で前記携帯電話10を前記アダプタ20に接続し、
前記磁石23は、載置面21上の突き当て壁22に接した位置で前記携帯電話10が前記アダプタ20と接続される際に、磁気吸着力によって携帯電話10を載置面21上に固定する携帯電話10。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

(ア)後者の「載置面21」は、前者の「電力伝送面」に相当する。
後者の「携帯電話10」は前者の「携帯型の電気又は電子機器」、及び、「機器」に相当する。
後者の「アダプタ20」は、前者の「主装置」に相当する。
後者の「交流電流発生回路225aと電磁コイル225b」が前者の「電磁誘導電力供給源」に相当する。

(イ)後者の「平らな載置面21上に配置される」態様は、択一的な記載である、前者の「電力伝送面上またはその近傍に配置される」態様に相当する。
後者の「充電回路218に接続された発電コイル217」が前者の「電磁誘導電力受信器」に相当する。
したがって、後者の「携帯電話10は、アダプタ20から分離可能であるとともに、前記携帯電話10が平らな載置面21上に配置される際に電磁誘導結合によって交流電流発生回路225aと電磁コイル225bから電力を受信する充電回路218に接続された発電コイル217を有し」た態様が前者の「機器は、主装置から分離可能であるとともに、前記機器が電力伝送面上またはその近傍に配置される際に電磁誘導結合によって電磁誘導電力供給源から電力を受信する電磁誘導電力受信器を有し」た態様に相当する。

(ウ)後者の「携帯電話10は、交流磁界によって交流電流発生回路225aと電磁コイル225bから電力を受信するために、平らな面である載置面21上に突き当て壁22に接した位置で配置され得る」との態様と
前者の「機器は、電磁誘導によって電磁誘導電力供給源から電力を受信するために、電力伝送面の連続した二次元領域内の任意の位置に配置され得る」態様とは、
「機器は、電磁誘導によって電磁誘導電力供給源から電力を受信するために、電力伝送面の位置に配置され得る」との概念で共通する。

(エ)後者の「磁石23」は携帯電話10を固定するものであるので、前者の「吸着盤、又は繰り返し粘着可能なのり又はVelcro(登録商標)又はゴム面を含む少なくとも1つの接続要素」とは、「少なくとも1つの接続要素」なる概念で共通するといえることから、
後者の「携帯電話10は、磁気吸着力によって携帯電話10を載置面21上に固定するために、磁石23に吸着されるマイクロストリップアンテナ14を備え」た態様と
前者の「機器は、吸着盤、又は繰り返し粘着可能なのり又はVelcro(登録商標)又はゴム面を含む少なくとも1つの接続要素を備え」た態様とは、
「機器は、少なくとも1つの接続要素を備え」ているとの概念で共通する。

(オ)後者の「磁石23は、携帯電話10が載置面21上に配置されるように、載置面21上の突き当て壁22に接した位置で前記携帯電話10をアダプタ20に接続し」た態様によれば、解除可能に一時的に接続していることは明らかである。
したがって、後者の「磁石23は、携帯電話10が載置面21上に配置されるように、載置面21上の突き当て壁22に接した位置で前記携帯電話10をアダプタ20に接続し」た態様と
前者の「接続要素は、機器が電力伝送面上または近傍に配置されるように、領域内の任意の位置で前記機器を主装置に解除可能に一時的に接続し」た態様とは、
「接続要素は、機器が電力伝送面上または近傍に配置されるように、領域内の位置で前記機器を主装置に解除可能に一時的に接続し」ているとの概念で共通する。

(カ)後者の「磁気吸着力によって携帯電話10を載置面21上に固定」すれば、非重力的力を供給し、機器が電力伝送面から電力伝送面に略直交する方向に移動することを防ぐように作動することは自明であるといえる。
したがって、後者の「磁石23は、載置面21上の突き当て壁22に接した位置で携帯電話10が前記アダプタ20と接続される際に、磁気吸着力によって携帯電話10を載置面21上に固定する」態様と
前者の「少なくとも1つの接続要素は、領域内の任意の位置で機器が前記主装置と接続される際に、非重力的力を供給し、機器が電力伝送面から電力伝送面に略直交する方向に移動することを防ぐように作動する」態様とは、
「少なくとも1つの接続要素は、領域内の位置で機器が主装置と接続される際に、非重力的力を供給し、機器が電力伝送面から電力伝送面に略直交する方向に移動することを防ぐように作動する」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「電力伝送面と電磁誘導により電力を供給する電磁誘導電力供給源とを備える主装置から電力を受信する携帯型の電気又は電子機器であって、
前記機器は、前記主装置から分離可能であるとともに、前記機器が前記電力伝送面上またはその近傍に配置される際に電磁誘導結合によって前記電磁誘導電力供給源から電力を受信する電磁誘導電力受信器を有し、
前記機器は、電磁誘導によって前記電磁誘導電力供給源から電力を受信するために、電力伝送面の位置に配置され得るようになっており、
前記機器は、少なくとも1つの接続要素を備え、前記接続要素は、前記機器が前記電力伝送面上または近傍に配置されるように、前記領域内の前記位置で前記機器を前記主装置に解除可能に一時的に接続し、
前記少なくとも1つの接続要素は、前記領域内の前記位置で前記機器が前記主装置と接続される際に、非重力的力を供給し、前記機器が前記電力伝送面から電力伝送面に略直交する方向に移動することを防ぐように作動する携帯型の電気又は電子機器。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
電力伝送面に機器を配置する位置に関し、本願発明では、電力伝送面「の連続した二次元領域内の任意」の位置に配置され得るようになっているのに対し、引用発明では、平らな面である載置面21上に突き当て壁22に接して配置され得るようになっている点。

[相違点2]
接続要素に関し、本願発明では「吸着盤、又は繰り返し粘着可能なのり又はVelcro又はゴム面を含む」のに対し、引用発明では磁気吸着力により固定する磁石23である点。

[相違点3]
接続要素が解除可能に一時的に接続する位置に関し、本願発明では、領域内の「任意の」位置であるのに対し、引用発明では、そのような特定はなされていない点。

5.判断
[相違点1、及び、3]について
本願発明において、機器が、電磁誘導によって電磁誘導電力供給源から電力を受信するために、電力伝送面の連続した二次元領域内の任意の位置に配置され得ることによる技術的な意義は出願当初の明細書の【0007】によれば、「非接触型充電手段は、装置及び充電器を正確に位置合わせする必要がない。このような解決策は、設計者及びユーザに対し著しい自由度を与える。例えば、充電手段は薄膜層とすることができ、その上に装置が任意の位置及び方向に設置可能である。この開示例として、2001年11月27日付けの英国特許出願第1283175号がある。この出願は、他の充電に関する解決策が必要とする揺りかご形状のホルダー、コネクタ、クリップ等の明白な機械的接合による制限を回避しており、装置と機械的なソケットとを正確に位置合わせするよりも、装置を表面上に気軽にどこにでも設置する方が簡便であるので、ユーザに対しより利便性を高くしている。さらに、機械的な配置の必要性をなくしているので、他の利点をもたらす。例えば、複数の装置を同時に充電する能力及び/又は同じ充電器上に異なる種類の装置を充電する能力が挙げられる。」と記載されているように、電磁誘導によって電磁誘導電力供給源から電力を受信する装置は、装置及び充電器を正確に位置合わせする必要がなく、かつ、複数の装置を同時に充電する能力及び/又は同じ充電器上に異なる種類の装置を充電するためのものと解することができるが、このようなことは周知の技術にすぎない(この点は、当審からの拒絶の理由に引用した特開2001-190029号公報の【0008】に「被充電体を容器の空間内に任意に投入、載置するだけで充電することができる。したがって、接点や治具の位置あわせなどの面倒な作業が不要になる。」と記載され、【0027】には、「被充電体として携帯電話機を例に説明したが、本発明はその他の被充電体、例えば電動歯ブラシや電気シェーバなどの充電にも適用できる。」と記載され、さらに、図5には、機器は、電磁誘導によって電磁誘導電力供給源から電力を受信するために、電力伝送面の連続した二次元領域内の任意の位置に配置され得る点が示されているので参照されたい。)
そして、「携帯電話10は、交流磁界によって前記交流電流発生回路225aと電磁コイル225bから電力を受信するために、平らな面である載置面21上に突き当て壁22に接した位置で配置され得るようになって」いる引用発明も、平らな面である載置面21上に配置するものであり、突き当て壁22に接した位置以外の位置にも突き当て壁22と干渉しない場所なら配置でき、さらに、載置面21の面積をどのようにするのかは任意であるから、任意の位置に配置することが示唆されているといえる。そして、請求人が出願当初の明細書の【0007】に「複数の装置を同時に充電する能力及び/又は同じ充電器上に異なる種類の装置を充電する能力」があると記載するように、出願前において非接触型充電手段が持つ一般的な課題を解決するための周知の技術にすぎないといえる。
そうすると、引用発明において複数の装置を同時に充電する能力及び/又は同じ充電器上に異なる種類の装置を充電するという一般的な課題を解決するために、引用発明に上記周知の技術を採用することにより相違点1、及び、3に係る本願発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

[相違点2]について
本願発明において、吸着盤、又は繰り返し粘着可能なのり又はVelcro又はゴム面を含む少なくとも1つの接続要素を備えたことによる技術的な意義は出願当初の明細書の【0008】の「しかし、時として、表面のような明白な機械的な保持手段が欠けることは、ユーザに対し不利になることがある。例えば、
・平面状の充電器の表面は、装置がその表面から滑り落ちないように実質上水平でなければならない。しかし、この要件はユーザに対し、不都合である場合がある。例えば、机の上に充電器を置くと他に有効に活用されるべき空間を占有することである。その面を開放し、任意の場所に設置すること可能となれば、ユーザは他に有効に活用されるべき空間をより自由自在に利用できる可能性がある。例えば、面を壁に垂直に設置する、さらには、車の屋根上に配置することも考慮できる。」なる記載、及び、【0009】の「・携帯型充電器の表面が、移動の対象(衝撃を受ける可能性があるテーブルの天板、車、飛行機、衛星等の車内)となる時、装置が落下する可能性がある。」なる記載からみて、携帯形の電気又は電子機器が落下することを防止するものと解することができる。しかしながら、「吸着盤、又は繰り返し粘着可能なのり又はVelcro又はゴム面を含む」少なくとも1つの接続要素なる本願発明の発明特定事項において、接続要素を選択形式であるが、列挙している。これらの接続要素の種類を特定したことによる作用効果としては【0032】及び【0033】の記載は請求項2に対応するものと解され、請求項1に係る本願発明については出願当初の明細書には明りょうに記載されているとは認められないことから、単に携帯形の電気又は電子機器が落下することを防止することができるような手段であればよいものといえる。
一方、当審の拒絶の理由に引用した特開2002-27674号公報の【0010】には、「保持部材6は携帯電話2に押しつけたときに携帯電話の形状に合わせて容易に変形できる弾性を有すると共に、携帯電話2を一時的に保持してその重量(最大約150g)を支持できるに十分な粘着性を有することが必要である。このような弾性と粘着性を有する材料には、粘弾性樹脂、例えば粘弾性ポリウレタン樹脂がある。例えば三進興産(株)よりソルボセイン(商品名)として市販されている粘着性弾性材料があり、また例えば特開昭58-194913号や特開昭60-67524号等に記載がある。この材料は粘着性が高いので携帯電話のケース面に良く粘着するが、程良い弾性を有するので、携帯電話の背面の種々の形状に良く馴染み、良好な保持作用を発揮できる。またこの材料の一体性が高いので表面の材料が電話器へ移行することはない(「繰り返し粘着可能なのり」又は「ゴム面」に相当)。一方、この材料は永久変形を起こすことが無く、外力が除去されると原形に復帰するので、繰り返し使用に適している。」と記載され、【0012】には、「又必要ならば粘着力を補助するために適宜な大きさの底のある穴12を設けることにより吸盤の作用(「吸着盤」に相当)を持たせても良い。」と記載され、同じく引用された登録実用新案第3055250号公報の【0008】には、「携帯電話用充電器の側面と携帯電話の背面には夫々面ファスナー4(本願の出願当初の明細書の【0031】を参照すると、「Velcro」に相当)が設けられ、携帯電話用充電器を使用して携帯電話を使用するときこの携帯電話用充電器が邪魔にならないように携帯電話の裏面に携帯電話用充電器を取着しておくようになされている。」と記載されているように、充電中の携帯電話を吸着盤、又は繰り返し粘着可能なのり又はVelcro又はゴム面により固定することは常套手段であるといえる。
そして、「磁気吸着力によって携帯電話10を載置面21上に固定する磁石23を備え、前記磁石23は、前記携帯電話10が前記載置面21上に配置されるように、載置面21上の突き当て壁22に接した位置で前記携帯電話10をアダプタ20に接続し」ている引用発明も、充電中に固定するものであるので、携帯形の電気又は電子機器が落下することを防止するという本願発明の課題を解決するものであり、固定手段として常套手段のものからどのような手段を選定するのかは任意であるといえる。現に、本願の出願当初の明細書の【0026】には、「もう一つとの方法として、接続手段は、装置の表面及び/又は充電器の表面の下に付加される手段を備えることがあり、その手段はある距離を置いて作動することができる。本発明の実施例の接続手段の例として、永久磁石、永久磁石の配列、電磁石、電磁石の配列、若しくは静電気的に帯電した端子が含まれる。」と記載されているように、本願発明と磁石で固定する引用発明との間に格別なる作用効果上の差異は認められない。さらに、出願当初の明細書には択一的な特定である「吸着盤、又は繰り返し粘着可能なのり又はVelcro又はゴム面により」固定する場合に共通する新規な課題もしくはそれによる技術的な意義は記載されていない。
そうすると、引用発明に上記常套手段を採用することにより相違点2に係る本願発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

そして、本願発明の全体構成により奏される作用効果も引用発明、上記周知の技術、及び、上記常套手段から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。

したがって、本願発明は、引用発明、上記周知の技術、及び、上記常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

6.まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、上記周知の技術、及び、上記常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-19 
結審通知日 2011-12-20 
審決日 2012-01-05 
出願番号 特願2004-539213(P2004-539213)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 矢島 伸一  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 大河原 裕
倉橋 紀夫
発明の名称 充電式装置の保持に関する改良  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 古川 秀利  
代理人 曾我 道治  
代理人 田口 雅啓  
代理人 梶並 順  

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