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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05D |
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管理番号 | 1257208 |
審判番号 | 不服2010-22021 |
総通号数 | 151 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-09-30 |
確定日 | 2012-05-16 |
事件の表示 | 特願2006-317698「薄膜パターン層を有する基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月14日出願公開、特開2007-144418〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件審判に係る出願は、平成18年11月24日に出願(パリ条約による優先権主張2005年11月25日、台湾)されたもので、平成21年11月13日付け拒絶理由通知書が送付され、願書に添付した特許請求の範囲についての平成22年2月19日付け手続補正書が提出されたものの、平成22年6月4日付けで拒絶査定されたものである。 そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として請求されたもので、上記特許請求の範囲についての平成22年9月30日付け手続補正書が提出されている。 2.原査定 原査定の拒絶理由の1つは、以下のとおりのものと認める。 「この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2004-337780号公報に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」 「特開2004-337780号公報」を、以下、「引用刊行物1」という。 3.当審の判断 3-1.平成22年9月30日付け手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)について 本件補正は、以下に詳述するように、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3-1-1.本件補正の内容 本件補正は、以下の補正事項aを有するものと認める。 補正事項a;特許請求の範囲の記載につき、以下(cl)を(CL)と補正する。 (cl);「【請求項1】 撥インク性を有する複数の隔壁を有し、前記隣接する隔壁の間にそれぞれ収容空間を形成する予成形された基板を提供する工程と、 固化できる成分を含むインクを前記複数の収容空間にそれぞれ吐出する工程であって、前記各収容空間に収容されるインクの体積が前記収容空間の容積より大きいところの工程と、 前記インクを固化させ、前記インクの固化できる成分によって前記収容空間に薄膜パターン層を形成する工程と、 を含み、 前記インクの固化できる成分の体積は、それと対応する収容空間の容積の65%?135%であることを特徴とする薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項2】 前記インクの固化できる成分の体積は、それと対応する収容空間の容積の80%?120%であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項3】 前記インクとそれと対応する隔壁の接触角が15度?90度であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項4】 前記インクとそれと対応する隔壁の接触角が20度?65度であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項5】 前記隔壁が単層または多層からなることを特徴とする請求項1に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項6】 複数の隔壁を有し、前記隣接する隔壁の間にそれぞれ収容空間を形成する予成形された基板を提供する工程と、 固化できる成分を含むインクを前記複数の収容空間にそれぞれ吐出する工程であって、前記各収容空間に収容されるインクの固化できる成分の体積が前記収容空間の容積と略等しく、前記各収容空間に収容されるインクの体積がそれと対応する収容空間の容積より大きいところの工程と、 前記インクを固化させ、前記インクの固化できる成分によって前記収容空間に薄膜パターン層を形成する工程と、 を含むことを特徴とする薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項7】 前記インクの固化できる成分の体積は、前記インクの体積の二分の一より小さいことを特徴とする請求項1または請求項6に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項8】 前記各収容空間に収容されるインクの体積は、少なくとも、それと対応する収容空間の容積の二倍であることを特徴とする請求項1または請求項6に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項9】 前記予成形された基板の製造方法は、 基板を提供する工程と、 前記基板にフォトレジスト層を塗布する工程と、 フォトマスクを利用して、前記フォトレジスト層に露光を行う工程と、 前記フォトレジスト層に現像を行って、複数の隔壁を形成する工程と、 を含むことを特徴とする請求項1または請求項6に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項10】 前記予成形された基板は、塑性成型方法で製造されることを特徴とする請求項1または請求項6に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項11】 前記インクは、インクジェット装置を利用して、前記収容空間に吐出することを特徴とする請求項1または請求項6に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項12】 前記インクジェット装置は、熱式のインクジェット装置または圧電式のインクジェット装置であることを特徴とする請求項1または請求項6に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項13】 前記インクは、真空吸着装置、加熱装置または発光装置の一種または二種以上の装置を利用して固化を行うことを特徴とする請求項1または請求項6に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項14】 前記固化した後、前記基板の隔壁を部分的に除去することを特徴とする請求項1または請求項6に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項15】 前記各収容空間に吐出されたインクは、浮き出す液面を有することを特徴とする請求項1または請求項6に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項16】 前記薄膜パターン層の体積は、それと対応する収容空間の容積の50%?135%であることを特徴とする請求項1または請求項6に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項17】 前記薄膜パターン層の体積は、それと対応する収容空間の容積の70%?120%であることを特徴とする請求項1または請求項6に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項18】 前記薄膜パターン層の厚さは、それと対応する隔壁の高さの50%?135%であることを特徴とする請求項1または請求項6に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項19】 前記薄膜パターン層の厚さは、それと対応する隔壁の高さの70%?120%であることを特徴とする請求項1または請求項6に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項20】 撥インク性を有する複数の隔壁を有し、前記隣接する隔壁の間にそれぞれ収容空間を形成する予成形された基板を提供する工程と、 固化できる成分を含むインクを前記複数の収容空間にそれぞれ吐出する工程であって、前記各収容空間に収容されるインクの固化できる成分の体積が前記収容空間の容積と略等しく、前記各収容空間に収容されるインクの体積がそれと対応する前記収容空間の容積より大きいところの工程と、 前記インクを固化させ、前記インクの固化できる成分によって前記収容空間に薄膜パターン層を形成する工程と、 を含むことを特徴とする薄膜パターン層を有する基板の製造方法。」 (CL)「【請求項1】 撥インク性を有する複数の隔壁を有し、前記隣接する隔壁の間にそれぞれ収容空間を形成する予成形された基板を提供する工程と、 固化できる成分を含むインクを前記複数の収容空間にそれぞれ吐出する工程であって、前記各収容空間に収容されるインクの体積が前記収容空間の容積より大きいところの工程と、 前記インクを固化させ、前記インクの固化できる成分によって前記収容空間に薄膜パターン層を形成する工程と、 を含み、 前記インクの固化できる成分の体積は、それと対応する収容空間の容積の65%?135%であり、 前記インクとそれと対応する隔壁の接触角が20度?65度であることを特徴とする薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項2】 前記インクの固化できる成分の体積は、それと対応する収容空間の容積の80%?120%であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項3】 前記隔壁が単層または多層からなることを特徴とする請求項1に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項4】 複数の隔壁を有し、前記隣接する隔壁の間にそれぞれ収容空間を形成する予成形された基板を提供する工程と、 固化できる成分を含むインクを前記複数の収容空間にそれぞれ吐出する工程であって、前記各収容空間に収容されるインクの固化できる成分の体積が前記収容空間の容積と略等しく、前記各収容空間に収容されるインクの体積がそれと対応する収容空間の容積より大きいところの工程と、 前記インクを固化させ、前記インクの固化できる成分によって前記収容空間に薄膜パターン層を形成する工程と、 を含み、 前記インクとそれと対応する隔壁の接触角が20度?65度であることを特徴とする薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項5】 前記インクの固化できる成分の体積は、前記インクの体積の二分の一より小さいことを特徴とする請求項1または請求項4に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項6】 前記各収容空間に収容されるインクの体積は、少なくとも、それと対応する収容空間の容積の二倍であることを特徴とする請求項1または請求項4に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項7】 前記予成形された基板の製造方法は、 基板を提供する工程と、 前記基板にフォトレジスト層を塗布する工程と、 フォトマスクを利用して、前記フォトレジスト層に露光を行う工程と、 前記フォトレジスト層に現像を行って、複数の隔壁を形成する工程と、 を含むことを特徴とする請求項1または請求項4に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項8】 前記予成形された基板は、塑性成型方法で製造されることを特徴とする請求項1または請求項4に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項9】 前記インクは、インクジェット装置を利用して、前記収容空間に吐出することを特徴とする請求項1または請求項4に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項10】 前記インクジェット装置は、熱式のインクジェット装置または圧電式のインクジェット装置であることを特徴とする請求項1または請求項4に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項11】 前記インクは、真空吸着装置、加熱装置または発光装置の一種または二種以上の装置を利用して固化を行うことを特徴とする請求項1または請求項4に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項12】 前記固化した後、前記基板の隔壁を部分的に除去することを特徴とする請求項1または請求項4に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項13】 前記各収容空間に吐出されたインクは、浮き出す液面を有することを特徴とする請求項1または請求項4に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項14】 前記薄膜パターン層の体積は、それと対応する収容空間の容積の50%?135%であることを特徴とする請求項1または請求項4に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項15】 前記薄膜パターン層の体積は、それと対応する収容空間の容積の70%?120%であることを特徴とする請求項1または請求項4に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項16】 前記薄膜パターン層の厚さは、それと対応する隔壁の高さの50%?135%であることを特徴とする請求項1または請求項4に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項17】 前記薄膜パターン層の厚さは、それと対応する隔壁の高さの70%?120%であることを特徴とする請求項1または請求項4に記載の薄膜パターン層を有する基板の製造方法。 【請求項18】 撥インク性を有する複数の隔壁を有し、前記隣接する隔壁の間にそれぞれ収容空間を形成する予成形された基板を提供する工程と、 固化できる成分を含むインクを前記複数の収容空間にそれぞれ吐出する工程であって、前記各収容空間に収容されるインクの固化できる成分の体積が前記収容空間の容積と略等しく、前記各収容空間に収容されるインクの体積がそれと対応する前記収容空間の容積より大きいところの工程と、 前記インクを固化させ、前記インクの固化できる成分によって前記収容空間に薄膜パターン層を形成する工程と、 を含み、 前記インクとそれと対応する隔壁の接触角が20度?65度であることを特徴とする薄膜パターン層を有する基板の製造方法。」 ここ「3-1」では、本件補正前の請求項1を旧【請求項1】といい、本件補正後の請求項1を新【請求項1】という。 3-1-2.本件補正の適否 補正事項aは「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」(以下、「限定的減縮」という。)を目的としたものであるが、補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は、以下に述べるように、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 1)新【請求項1】に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、新【請求項1】に記載された事項により特定されるもので、同項の記載は、以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 撥インク性を有する複数の隔壁を有し、前記隣接する隔壁の間にそれぞれ収容空間を形成する予成形された基板を提供する工程と、 固化できる成分を含むインクを前記複数の収容空間にそれぞれ吐出する工程であって、前記各収容空間に収容されるインクの体積が前記収容空間の容積より大きいところの工程と、 前記インクを固化させ、前記インクの固化できる成分によって前記収容空間に薄膜パターン層を形成する工程と、 を含み、 前記インクの固化できる成分の体積は、それと対応する収容空間の容積の65%?135%であり、 前記インクとそれと対応する隔壁の接触角が20度?65度であることを特徴とする薄膜パターン層を有する基板の製造方法。」 2)本件審判に係る出願前に頒布された刊行物であることが明らかな引用刊行物1には、以下の記載a?d,fが認められ、図3が図示されている。 a;「【0005】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、上述したような従来技術には、以下のような問題が存在する。 細線化を図ってバンク間に形成される溝幅を小さくすると、吐出した液滴の直径が溝幅よりも大きくなることが考えられる。この場合、着弾した液滴がバンクの表面に溢れて残留する虞があり、隣り合う配線間のバンクで液滴が残留すると短絡の可能性もあるため、デバイスとしての品質を大きく低下させることになってしまう。」 「【0014】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の薄膜パターン形成方法、デバイスとその製造方法及び電気光学装置並びに電子機器の実施の形態を、図1ないし図11を参照して説明する。 (第1実施形態) 本実施の形態では、液滴吐出法によって液体吐出ヘッドのノズルから導電性微粒子を含む配線パターン(薄膜パターン)用インク(機能液)を液滴状に吐出し、基板上に導電性膜で形成された配線パターンを形成する場合の例を用いて説明する。 【0015】 この配線パターン用インクは、導電性微粒子を分散媒に分散させた分散液からなるものである。 本実施の形態では、導電性微粒子として、例えば、金、銀、銅、パラジウム、及びニッケルのうちのいずれかを含有する金属微粒子の他、これらの酸化物、並びに導電性ポリマーや超電導体の微粒子などが用いられる。」 b;「【0029】 次に、本発明の配線パターン形成方法(薄膜パターン形成方法)の実施形態の一例として、基板上に導電膜配線を形成する方法について図3及び図4を参照して説明する。本実施形態に係る配線パターン形成方法は、上述した配線パターン用のインクを基板P上に配置し、その基板P上に配線用の導電膜パターンを形成するものであり、バンク形成工程、残渣処理工程、撥液化処理工程、材料配置工程及び中間乾燥工程、焼成工程から概略構成される。 以下、各工程毎に詳細に説明する。 【0030】 (バンク形成工程) バンクは、仕切部材として機能する部材であり、バンクの形成はリソグラフィ法や印刷法等、任意の方法で行うことができる。例えば、リソグラフィ法を使用する場合は、スピンコート、スプレーコート、ロールコート、ダイコート、ディップコート等所定の方法で、基板P上にバンクの高さに合わせて有機系感光性材料を塗布し、その上にレジスト層を塗布する。そして、バンク形状(配線パターン)に合わせてマスクを施しレジストを露光・現像することによりバンク形状に合わせたレジストを残す。最後にエッチングしてマスク以外の部分のバンク材料を除去する。また、下層が無機物で上層が有機物で構成された2層以上でバンク(凸部)を形成してもよい。 【0031】 これにより、図3(a)に示されるように、配線パターンを形成すべき領域である溝31を囲むように、例えば15μm幅でバンクB、Bが突設される。 なお、基板Pに対しては、有機材料塗布前に表面改質処理として、HMDS処理((CH_(3))_(3)SiNHSi(CH_(3))_(3)を蒸気状にして塗布する方法)が施されているが、図3ではその図示を省略している。 【0032】 バンクを形成する有機材料としては、液体材料に対して撥液性を示す材料でも良いし、後述するように、プラズマ処理による撥液化が可能で下地基板との密着性が良くフォトリソグラフィによるパターニングがし易い絶縁有機材料でも良い。例えば、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、オレフィン樹脂、メラミン樹脂等の高分子材料を用いることが可能である。」 「【0038】 なお、バンクB、Bに対する撥液化処理により、先に親液化処理した基板P表面に対し多少は影響があるものの、特に基板Pがガラス等からなる場合には、撥液化処理によるフッ素基の導入が起こらないため、基板Pはその親液性、すなわち濡れ性が実質上損なわれることはない。 また、バンクB、Bについては、撥液性を有する材料(例えばフッ素基を有する樹脂材料)によって形成することにより、その撥液処理を省略するようにしてもよい。」 c;「【0039】 (材料配置工程及び中間乾燥工程) 次に、液滴吐出装置IJによる液滴吐出法を用いて、配線パターン形成材料を基板P上の溝31に塗布する。」 「【0041】 このような液滴32を液滴吐出ヘッド1から吐出し、溝部31内に液状体を配すと、バンク32、32の表面が撥液性となっておりしかもテーパ状になっていることから、これらバンクB、B上にのった液滴32部分がバンクB、Bからはじかれ、さらには溝31の毛細管現象によって該溝31内に流れ落ちる。 ところが、液滴32はその直径D’が溝部31の幅Wより大きいことから、図4(a)に示す(図3(c)中二点鎖線で示す)ように、吐出された液状体(符号32aで示す)の一部が溢れてバンクB、B上に残ることがある。 【0042】 そして、続いてピッチL離れた溝31内の位置に液滴32を吐出するが、この吐出ピッチLは、L>D’(液滴直径)とされ、溝31内に吐出された液状体(液滴)が塗れ拡がったときに、ピッチL離間して吐出された隣り合う液状体とつながる大きさに設定されており、予め実験等により求められているものである。 すなわち、図4(b)に示されるように、液状体32aに対して距離L離間して吐出された液状体(符号32bで示す)は、塗れ拡がることで、先に吐出された液状体32aとつながる。このとき、液状体32bにおいても、その一部が溢れてバンクB、B上に残る可能性があるが、液状体32a、32bがつながったときに接触部が引き合うことにより、バンクBに残った液状体が図中矢印で示すように、溝31内に引き込まれる。その結果、図3(c)及び図4(c)に符号32cで示すように、液状体はバンクBに溢れることなく溝31内に入り込んで線状に形成される。」 d;「【0044】 (中間乾燥工程) 基板Pに液滴を吐出した後、分散媒の除去及び膜厚確保のため、必要に応じて乾燥処理(中間乾燥)をする。乾燥処理は、例えば基板Pを加熱する通常のホットプレート、電気炉などによる処理の他、ランプアニールによって行なうこともできる。ランプアニールに使用する光の光源としては、特に限定されないが、赤外線ランプ、キセノンランプ、YAGレーザー、アルゴンレーザー、炭酸ガスレーザー、XeF、XeCl、XeBr、KrF、KrCl、ArF、ArClなどのエキシマレーザーなどを光源として使用することができる。これらの光源は一般には、出力10W以上5000W以下の範囲のものが用いられるが、本実施形態では100W以上1000W以下の範囲で十分である。 この中間乾燥工程と上記材料配置工程とを繰り返し行うことにより、配線パターンを所望の膜厚に形成することができる。 【0045】 (焼成工程) 吐出工程後の乾燥膜は、微粒子間の電気的接触をよくするために、分散媒を完全に除去する必要がある。また、導電性微粒子の表面に分散性を向上させるために有機物などのコーティング剤がコーティングされている場合には、このコーティング剤も除去する必要がある。そのため、吐出工程後の基板には熱処理及び/又は光処理が施される。 【0046】 熱処理及び/又は光処理は通常大気中で行なわれるが、必要に応じて、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気中で行なうこともできる。熱処理及び/又は光処理の処理温度は、分散媒の沸点(蒸気圧)、雰囲気ガスの種類や圧力、微粒子の分散性や酸化性等の熱的挙動、コーティング剤の有無や量、基材の耐熱温度などを考慮して適宜決定される。 たとえば、有機物からなるコーティング剤を除去するためには、約300℃で焼成することが必要である。また、プラスチックなどの基板を使用する場合には、室温以上100℃以下で行なうことが好ましい。 以上の工程により吐出工程後の乾燥膜は微粒子間の電気的接触が確保され、導電性膜に変換されることで、図3(d)に示すように、線状に連続した膜としての導電性パターン、すなわち配線パターン(薄膜パターン)33を得る。 【0047】 (実施例) バンクが形成されたガラス基板を、プラズマパワーが550W、4フッ化メタンガス流量が100ml/min、Heガス流量が10L/min、プラズマ放電電極に対する基体搬送速度が2mm/secの条件で実施した所、導電性微粒子材料に対する接触角は、撥液化処理前のバンクBが10°以下であったのに対し、撥液化処理後のバンクBが54.0°になった。また、純水に対する接触角は撥液化処理前のバンクBが69.3°であったのに対し、撥液化処理後のバンクBが104.1°になった。なお、いずれの場合もガラス基板の溝部31における接触角は15°以下であり、溝部31とバンクBとの接触角の差は40°以上となった。」 f:「【0005】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、上述したような従来技術には、以下のような問題が存在する。 細線化を図ってバンク間に形成される溝幅を小さくすると、吐出した液滴の直径が溝幅よりも大きくなることが考えられる。この場合、着弾した液滴がバンクの表面に溢れて残留する虞があり、隣り合う配線間のバンクで液滴が残留すると短絡の可能性もあるため、デバイスとしての品質を大きく低下させることになってしまう。」 3)引用刊行物1には、記載aによれば、薄膜パターン形成方法として、導電性微粒子を分散媒に分散させた薄膜パターン用インクを液滴状に吐出し基板上に形成することが記載され、記載b及び記載bにより参照される【図3】から薄膜パターン形成方法が、バンク形成工程、材料配置工程、中間乾燥工程、焼成工程を含むことが記載され、バンク形成工程では、基板上にパターンを形成すべき領域である溝を囲むように複数のバンクが突設され、バンクが撥液性を有することが記載され、記載dにおいて、撥液性処理後のバンクの接触角が54.0℃になったことが示され、記載c及び記載cにより参照される【図3】(c)によれば、材料配置工程において、液滴を吐出し溝内に液状体を配すと液状体がバンクに溢れることなく溝内に形成されることが示され、記載d及び記載dにより参照される【図3】(d)によれば、中間乾燥工程及び焼成工程によって、分散媒を除去し、薄膜パターンを形成することが示されているのであるから、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「パターンを形成すべき領域である溝を囲むように撥液性を有する複数のバンクが基板上に突設されるバンク形成工程、導電性微粒子を含む薄膜パターン用インクを液滴状に吐出し溝内に液状体を配すと液状体がバンクに溢れることなく溝内に形成される材料配置工程、分散媒を除去し、薄膜パターンを形成する中間乾燥工程及び焼成工程を含み、撥液性処理後のバンクの接触角が54.0°である薄膜パターン形成方法」 4)次に、補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「撥液性」「バンク」「パターンを形成すべき領域である溝」「バンク形成工程」「導電性微粒子を含む薄膜パターン用インク」「材料配置工程」「分散媒を除去し、薄膜パターンを形成する」「中間乾燥工程及び焼成工程」は、補正発明の「撥インク性」「隔壁」「収容空間」「予成形された基板を提供する工程」「固化できる成分を含むインク」「吐出する工程」「インクを固化させ、前記インクの固化できる成分によって、前記収容空間に薄膜パターン層を形成する」「薄膜パターン層を形成する工程」に、それぞれ対応し、引用発明1の「導電性微粒子を含む薄膜パターン用インクを液滴状に吐出し溝内に液状体を配すと液状体がバンクに溢れることなく溝内に形成される」とは、補正発明の「収容空間に収容されるインクの体積が前記収容空間の容積より大きい」ことを意味していることは明らかである。 また、引用発明1において、撥液性処理後のバンクの接触角が54.0°で、補正発明のインクとそれに対応する隔壁の接触角の特定された数値範囲に該当する。 以上のことから、補正発明は、引用発明1とは、 「撥インク性を有する複数の隔壁を有し、前記隣接する隔壁の間に収容空間を形成する予成形された基板を提供する工程と、 固化できる成分を含むインクを前記収容空間に吐出する工程であって、前記収容空間に収容されるインクの体積が前記収容空間の容積より大きいところの工程と、 前記インクを固化させ、前記インクの固化できる成分によって前記収容空間に薄膜パターン層を形成する工程と、 を含み、 前記インクとそれと対応する隔壁の接触角が20度?65度であることを特徴とする薄膜パターン層を有する基板の製造方法。」である点で一致し、以下の点において相違していると認められる。 相違点a;収容空間について、補正発明は、複数存在していることを特定している点。 相違点b;インクの固化できる成分の体積について、補正発明は、対応する収容空間の65%?135%であると特定している点 5)そこで、相違点aについて検討する。 記載fから、補正発明の収容空間に対応した溝に形成される配線に関して、隣り合う配線間のバンクでの液滴の残留が課題とされていることからみて、収容空間を複数設けることが示唆されており、同一技術文献において示唆されているのであるから、引用発明1において、溝つまり、収容空間を複数設けて薄膜パターンを形成することは当業者が容易になし得る事項である。 次に、相違点bについて検討する。 インクをインク収容空間に吐出して薄膜パターンを形成する方法の技術分野において、膜が形成された段階での膜厚を考慮して膜厚調整することは、引用刊行物1記載dに「中間乾燥工程と上記材料配置工程とを繰り返し行うことにより、配線パターンを所望の膜厚に形成することができる。」と記載されていることや、特開2004-151428号公報【0040】【0041】に「【0040】次に、上記機能性凸部で囲われた機能性内側領域4に、例えばインクジェット装置6等により、上記機能性凸部を形成したものと同様の機能性層形成用塗工液7を塗布し(図2(c))、機能性内側部8を形成する(図2(d))。上述したように、機能性層形成用塗工液7は、機能性凸部5により機能性内側領域4に留められることから、この機能性層形成用塗工液7の塗布する量により、形成される機能性内側領域8の膜厚等を調整することが可能となるのである。【0041】次に、上記機能性凸部5と機能性内側部8とからなる機能性層9を硬化する機能性層硬化工程を行う(図2(e))。上記機能性凸部5と機能性内側部8とが一体となり、機能性層9を形成することが可能となるのである。」と記載されていることを考慮すると、出願前当業者にとって周知技術であるといえる。 そして、例えば、特開2004-151428号公報においては、機能性凸部で囲われた機能性内側領域の容積と同程度の最終的な膜厚のものを形成していることが図示されており(図2(e))、本件明細書の【0017】【0019】に記載される固化できる成分の体積と収容空間と容積の関係に係る数値範囲の説明記載を考慮しても好ましい範囲という以上の技術的意義は読み取れないのであるから、引用発明1において、最終的な膜厚調整をするとき、具体的に、インクの固化できる成分の体積、つまり膜が形成された段階での体積を収容空間程度から一定の幅を持たせて数値範囲として特定すること自体は、当業者にとって、液の具体的組成や用途に応じて適宜設定できる設計的事項であるといえ、相違点bは、当業者が容易になし得るものである。 補正発明の作用効果を検討しても、引用発明1、及び前記周知技術からみて、撥インク性の隔壁内にインクを収容空間の容積を超えて確実に保持させること以上の当業者の予測を超える顕著な作用効果が得られたとはいえない。 6)してみると、補正発明は、引用発明1及び前記周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3-1-3.まとめ 補正事項aを有する本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第5項の規定に違反するもので、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3-2.原査定の拒絶理由について 3-2-1.本件の発明 本件補正は、先に「3-1」で述べたように却下すべきものであり、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本件補正前の、願書に添付した明細書の請求項1に記載の事項により特定されるものであって、同項の記載は、以下のとおりのものと認める。 「撥インク性を有する複数の隔壁を有し、前記隣接する隔壁の間にそれぞれ収容空間を形成する予成形された基板を提供する工程と、 固化できる成分を含むインクを前記複数の収容空間にそれぞれ吐出する工程であって、前記各収容空間に収容されるインクの体積が前記収容空間の容積より大きいところの工程と、 前記インクを固化させ、前記インクの固化できる成分によって前記収容空間に薄膜パターン層を形成する工程と、 を含み、 前記インクの固化できる成分の体積は、それと対応する収容空間の容積の65%?135%であることを特徴とする薄膜パターン層を有する基板の製造方法。」 3-2-2.引用刊行物1の記載 原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物1の記載事項は、前記「3-1-2 2)」に記載したとおりである。 3-2-3.対比・判断 本願発明は、前記「3-1」で検討した補正発明から「インクとそれと対応する隔壁の接触角が20度?65度である」との発明特定事項を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する補正発明が前記「3-1-2」に記載したとおり、引用発明1及び前記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1及び前記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 3-2-4.まとめ 本願発明は、引用発明1に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、原査定の拒絶理由は、相当である。 4.結び 原査定は、妥当である。 したがって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-12-14 |
結審通知日 | 2011-12-20 |
審決日 | 2012-01-05 |
出願番号 | 特願2006-317698(P2006-317698) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B05D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山本 晋也 |
特許庁審判長 |
栗林 敏彦 |
特許庁審判官 |
瀬良 聡機 ▲高▼辻 将人 |
発明の名称 | 薄膜パターン層を有する基板の製造方法 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 志賀 正武 |