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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01N |
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管理番号 | 1257210 |
審判番号 | 不服2010-24148 |
総通号数 | 151 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-10-27 |
確定日 | 2012-05-17 |
事件の表示 | 特願2005-177789「自動二輪車の排気装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月28日出願公開、特開2006-348883〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、平成17年6月17日の出願であって、平成22年4月21日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成22年6月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年7月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成22年10月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けの手続補正書によって明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成23年3月28日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成23年5月25日付けで回答書が提出され、平成23年10月18日付けで前記平成22年10月27日付け手続補正書による補正を却下する補正の却下の決定がなされ、平成23年11月1日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、これに対して平成24年1月10日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本件発明 本件出願の請求項1及び2に係る発明は、平成24年1月10日付けの手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。 「 【請求項1】 車体に搭載される並列複数気筒の水冷エンジンの前面に、排気をエンジンの排気ポートからエンジンの下方へ導出する1対以上の排気管を備え、かつ、前記エンジンのシリンダヘッドの前方にエンジン冷却水用のラジエータを備え、 前記エンジンの後面と後輪との間に、前記排気管の下流側に接続されて排気を消音したのち外部へ排出するマフラが配置され、 前記排気管は、前記排気ポートに接続された上流端部からエンジン下方の下流端部までの間に、前方から見て曲がった曲がり部を3つ以上有し、 前記排気管が、排気管の前記下流端部を通り車体中心面に平行な基準面に対して、この基準面の左右両側に突出するように曲がっており、 各1対を構成する2つの排気管は、上流端部が前記エンジンの左右方向に離間した2つの排気ポートにそれぞれ接続され、前記下流端部が前記上流端部と左右方向位置が入れ替わって集合した状態でエンジンの下方で前記マフラに接続されており、中間部が、前方から見て交差している自動二輪車の排気装置。」 第3 当審の判断 1.刊行物 (1)刊行物の記載事項 当審拒絶理由に引用された、本件出願の出願前に頒布された特開昭59-143722号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに、例えば、次の事項が記載されている。 (ア)「本発明はクランクケースの下方に消音器の膨張室を配置した自動二輪車に関する。 自動二輪車においては、実開昭52 - 86149 号公報あるいは特開昭56 - 149273 号公報に示されている如く、排気管に連なる消音器の膨張室部分をクランクケースの下方に配置し、バンク角を大きくとれるようにしたものが知られている。 ところで、このように膨張室部分をクランクケースの下方に配置すると、排気管の長さが短くなり、特に低速時の出力特性に悪影響を及ぼすことが考えられる。このため上記した実開昭52 - 86149 号公報の如き排気管と消音器とが別体構造のものでは、排気管の管長をなるべく確保するため、排気管をクランクケースの下方で消音器に連結していた。」(明細書第1ページ左下欄第17行ないし右下欄第12行) (イ)「図中1は車体としてのフレームであり、このフレーム1前端のステアリングヘッドパイプ2には、後方に向って延びる左右1対のタンクレ-ル3,3および下方に向って延びる左右1対のダウンチューブ4,4が連結されている。」(明細書第2ページ左上欄第13行ないし17行) (ウ)「一方、上記フレーム1のタンクレール3,3とダウンチューブ4,4とで囲まれた部分には、4サイクル単気筒エンジン13がマウントされている。」(明細書第2ページ右上欄第7行ないし10行) (エ)「本実施例のエンジン13は詳図しないが2つの吸気孔および排気孔を備えたいわゆる4バルブエンジンであり、各排気孔には排気管14,15が連結されている。これら排気管14,15は第2図に示したようにダウンチューブ4,4間を通ってエンジン13の前方に導出された後、一旦上方に立ち上げられており、この上端部はダウンチューブ4,4の離間幅内であり、かつエンジン13の前面と略平行な面内においてループ状に曲成されている。そして各排気管14,15のループ部16,17の下流端はダウンチューブ4,4に沿って下方に導びかれており、この下端部はクランクケース18の前方で互に集合されている。この集合部19にはクランプ金具20を介して消音器21が脱着可能に連結されている。」(明細書第2ページ右上欄第10行ないし左下欄第5行) (オ)「この消音器21は後方に進むに従って大径に形成されており、この大径部22内は所定容量の膨張室22aをなしているとともに、この膨張室22aの下流側には複数の隔壁によって仕切られた消音室が連続して形成されている。そしてこの消音器21は丁度前輪8と後輪10との間において、クランクケース18下側に回り込むダウンチュ-ブ4,4間に位置されており、その大径部22がブラケット24,24を介してダウンチューブ4,4に支持されている。また消音器22の後端部は後輪10の直前に位置し、この後端部には車体側方に向って開口する排気出口25が形成されている。したがって、この消音器21全体および排気出口25は車体幅よりも内側に収められている。」(明細書第2ページ左下欄第12行ないし右下欄第6行) (カ)「上記構成では排気管14,15をエンジン13から導出された後、エンジン13の前方においてループ状に曲成し、これらループ部16,17の下流端を下方に導いたので、排気管14,15の管長を消音器21と連結されるまでの間において充分に確保できる。したがって、排気脈動を有効に利用でき、エンジン特性に悪影響が生じることはない。しかもこの場合、排気管14,15のループ部16,17は左右のダウンチューブ4,4間であり、かつエンジン13の前面と略平行な面内で曲げられているので、排気管14,15の管長が増大したにも拘わらず、これら排気管14,15が車体側方に張り出すこともなく、限られたスペース内にコンパクトに収めることができる。」(明細書第2ページ右下欄第15行ないし第3ページ左上欄第10行) (キ)「また本実施例では、消音器21全体をクランクケース18の下方、つまり前輪8と後輪10との間に設けたので、消音器21が車体幅の内側に収まり、従来のように車体や後輪10の側方に張り出さずに済む。したがって、転倒した場合でも損傷し難くなるとともに、この消音器21が張り出さない分、二輪車の車幅が狭くなり、走行中の風力抵抗の渡少に寄与する。」(明細書第3ページ左上欄第11行ない18行) (ク)「なお、本発明は上記実施例に制約されない。例えばエンジンは単気筒エンジンに限らず、多気筒エンジンであっても良いとともに、2サイクルであっても良い。」(明細書第3ページ左上欄第19行ないし右上欄第2行) (ケ)「排気管の管長もエンジンの前面において充分に確保でき、エンジン特性に悪影響が生じることはないとともに、このように排気管の全長を増したにも拘わらず、排気管が車体側方に張り出すこともなく、限られたスペースにコンパクトに収容できる利点がある。」(明細書第3ページ右上欄第15行ないし20行) (2)上記(1)(ア)ないし(ケ)及び図面の記載より分かること (コ)上記(1)(ア)及び(エ)並びに第1及び2図の記載より、自動二輪車の車体にマウントされるエンジン13の排気孔に排気管14,15が連結され、該排気管14,15が消音器21に連結されることから、排気装置を有していることが分かる。 (サ)上記(1)(エ)及び(カ)並びに第2図の記載より、排気管14,15は、車体1にマウントされるエンジン13の排気孔に連結され、エンジン13の前方に導出された後、排気管14,15のループ部16,17の下流端を下方に導いて消音器21と連結されることから、車体1にマウントされるエンジン13の前面に、排気をエンジン13の排気孔からエンジン13の下方へ導出する排気管14,15を備えていることが分かる。 (シ)上記(1)(エ)及び(オ)並びに第1図の記載より、排気管14,15のループ部16,17の下流端は消音器21に連結され、該消音器21は前輪8と後輪10の間に位置され、消音器21の後端部に形成された排気出口25が後輪10の直前に位置していることから、前輪8と後輪10との間に、排気管14,15の下流側に連結されて排気を消音したのち外部へ排出する消音器21が配置されていることが分かる。 (ス)上記(1)(カ)及び第2図の記載より、排気管14,15は、その下端が集合部19付近において前方から見て曲がった曲がり部を有し、また、排気管14,15はループ状に曲成されていることから、排気管14,15には、前方から見て曲がった曲がり部を複数有していることが分かる。 (セ)上記(1)(エ)及び(カ)並び第2図の記載より、排気管14,15が、排気管14,15の下流端部を通り車体中心面に平行な基準面に対して、この基準面の左右両側に突出するように曲がっており、排気管14,15は、上流端部がエンジン13の左右方向に離間した2つの排気孔にそれぞれ連結され、前記下流端部が前記上流端部と左右方向位置が入れ替わって集合した状態で消音器21に連結されており、中間部が、前方から見て交差していることが分かる。 (3)刊行物に記載された発明 したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物には、次の発明が記載されているものと認められる(以下、「刊行物に記載された発明」という。)。 「車体(フレーム)1にマウントされるエンジン13の前面に、排気をエンジン13の排気孔からエンジン13の下方へ導出する排気管14,15を備え、 前輪8と後輪10との間に、前記排気管14,15の下流側に連結されて排気を消音したのち外部へ排出する消音器21が配置され、 前記排気管14,15は、前記排気孔に連結された上流端部からエンジン13下方の下流端部までの間に、前方から見て曲がった曲がり部を複数有し、 前記排気管14,15が、排気管14,15の前記下流端部を通り車体中心面に平行な基準面に対して、この基準面の左右両側に突出するように曲がっており、 排気管14,15は、上流端部が前記エンジン13の左右方向に離間した2つの排気孔にそれぞれ連結され、前記下流端部が前記上流端部と左右方向位置が入れ替わって集合した状態で前記消音器21に連結されており、中間部が、前方から見て交差している自動二輪車の排気装置。」 2.対比 本件発明と刊行物に記載された発明とを対比すると、刊行物に記載された発明における「車体(フレーム)1」は、その機能及び構造又は技術的意義からみて、本件発明における「車体」に相当し、以下同様に、「マウント」は「搭載」に、「排気管14,15」は「1対以上の排気管」または「各1対を構成する2つの排気管」に、「後輪10」は「後輪」に、「連結」は「接続」に、「排気孔」は「排気ポート」に、「消音器21」は「マフラ」に、それぞれ相当する。 また、刊行物に記載された発明における「エンジン13」は、「エンジン」という限りにおいて、本件発明における「並列複数気筒の水冷エンジン」に相当する。さらに、刊行物に記載された発明における「曲がり部を複数有し」は、「曲がり部を複数有し」という限りにおいて、本件発明における「曲がり部を3つ以上有し」に相当する。さらにまた、刊行物に記載された発明における「前輪8と後輪10との間」は、「前輪と後輪との間」という限りにおいて、本件発明における「エンジンの後面と後輪との間」に相当する。 してみると、本件発明と刊行物に記載された発明とは、 「車体に搭載されるエンジンの前面に、排気をエンジンの排気ポートからエンジンの下方へ導出する1対以上の排気管を備え、 前輪と後輪との間に、前記排気管の下流側に接続されて排気を消音したのち外部へ排出するマフラが配置され、 前記排気管は、前記排気ポートに接続された上流端部からエンジン下方の下流端部までの間に、前方から見て曲がった曲がり部を複数有し、 前記排気管が、排気管の前記下流端部を通り車体中心面に平行な基準面に対して、この基準面の左右両側に突出するように曲がっており、 各1対を構成する2つの排気管は、上流端部が前記エンジンの左右方向に離間した2つの排気ポートにそれぞれ接続され、前記下流端部が前記上流端部と左右方向位置が入れ替わって集合した状態で前記マフラに接続されており、中間部が、前方から見て交差している自動二輪車の排気装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 車体に搭載されるエンジンに関し、 本件発明においては、並列複数気筒の水冷エンジンであり、該エンジンのシリンダヘッドの前方にエンジン冷却水用のラジエータを備えているのに対し、 刊行物に記載された発明においては、エンジン13が並列複数気筒の水冷エンジンであるか否か、及び該エンジン13の前方にエンジン冷却水用のラジエータを備えているか否かが明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。 <相違点2> マフラの配置及び2つの排気管とマフラとの接続に関し、 本件発明においては、エンジンの後面と後輪との間にマフラが配置され、2つの排気管とマフラがエンジンの下方で接続されているのに対し、 刊行物に記載された発明においては、前輪8と後輪10との間に消音器21が配置され、排気管13,14と消音器21がエンジンの下方で接続されているか否か明らかでない点(以下、「相違点2」という)。 <相違点3> 排気管の前方から見て曲がった曲がり部に関し、 本件発明においては、3つ以上有しているのに対し、 刊行物に記載された発明においては、複数であるものの、3つ以上有しているか否かが明らかでない点(以下、「相違点3」という。)。 3.判断 上記各相違点について検討する。 <相違点1>について 自動二輪車の技術分野において、車体に水冷エンジンを搭載し、該水冷エンジンのシリンダヘッドの前方にエンジン冷却水用のラジエータを備えること、並列複数気筒の水冷エンジンを車体に搭載することは、それぞれ本件出願前に周知の技術(前者については、例えば、特開平6-280556号公報[特に、段落【0016】及び【0017】並びに図1]及び特開平6-280554号公報[特に、段落【0016】及び【0017】並びに図1]等参照。以下、「周知技術1」という。後者については、例えば、特開2002-127977号公報[特に、段落【0020】、【0021】及び【0025】並びに図2]及び特開2000-247281号公報[特に、【0016】及び【0018】並びに図2]等参照。以下、「周知技術2」という。)である。 したがって、刊行物に記載された発明において、上記周知技術1及び2を考慮して、車体に搭載するエンジンとして、並列複数気筒の水冷エンジンを採用し、該水冷エンジンの前方にエンジン冷却水用のラジエータを備えて、本件発明の上記相違点1に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 なお、請求人は、平成24年1月10日付け意見書において、「刊行物のエンジン13は空冷式と推察され、エンジン13の前方にラジエータがありません。したがって、排気管14,15を排気孔(排気ポート)から上方へ立ち上げてループ部16,17を形成することにより、排気管14,15の長さを大きくしています。このようなループ部は、本願請求項1の発明のような水冷エンジンでは、ラジエータと干渉することから採用できません。」と主張するが、上記周知技術1として提示した特開平6-280556号公報[特に、図1]及び特開平6-280554号公報[特に、図1]には、エンジンの前方で、排気管及びラジエータを干渉しないように配置することが開示されていることから、上記主張は受け入れられない。 <相違点2>について 自動二輪車の技術分野において、マフラをエンジンの後面と後輪との間に配置することは、本件出願前に周知の技術(例えば、特開2002-37174号公報[特に、図1]及び特開2002-37168号公報[特に、図1]等参照。以下、「周知技術3」という。)である。 そして、排気管とマフラとの接続部位は、排気管及びマフラの配置位置に応じて適宜決定し得る事項であるから、刊行物に記載された発明において、上記周知技術3を考慮して、本件発明の上記相違点2に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 <相違点3>について 刊行物の第2図を参酌して、例えば、排気管15に注目すると、その下端が集合部19近傍の符号15で示される付近において前方から見て下方から上方に向かって右に曲がった曲がり部を有し、また、排気管15は、その下流端部を通り車体中心面に平行な基準面に対して、この基準面の左右両側に突出するように曲がっていることから、少なくともその左右に突出している付近においても、それぞれ曲がり部を有しており、その結果、排気管15全体で、少なくとも3つ以上の曲がり部を有しているといえる。 してみると、上記相違点3は実質的な相違点ではない。 なお、仮に、刊行物の排気管14,15が3つ以上の曲がり部を有していなかったとしても、排気管に3つ以上の曲がり部を設けることは、自動二輪車の技術分野において本件出願前に周知の技術(例えば、特開昭58-43824号公報[特に、第2図の符号36A]等参照。以下、「周知技術4」という。)である。してみると、刊行物に記載された発明に、上記周知技術4を採用して、本件発明の上記相違点3に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物に記載された発明並びに周知技術1ないし3から又は刊行物に記載された発明並びに周知技術1ないし4から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。 以上のように、本件発明は、刊行物に記載された発明並びに周知技術1ないし3又は刊行物に記載された発明並びに周知技術1ないし4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 第4 むすび 以上のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-03-14 |
結審通知日 | 2012-03-21 |
審決日 | 2012-04-05 |
出願番号 | 特願2005-177789(P2005-177789) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F01N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 清水 富夫 |
特許庁審判長 |
伊藤 元人 |
特許庁審判官 |
柳田 利夫 岡崎 克彦 |
発明の名称 | 自動二輪車の排気装置 |
代理人 | 杉本 修司 |