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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1257212 |
審判番号 | 不服2010-24964 |
総通号数 | 151 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-11-05 |
確定日 | 2012-05-16 |
事件の表示 | 特願2003-406447「磁気トンネル接合構造体及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月24日出願公開,特開2004-266252〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,平成15年12月4日(パリ条約による優先権主張2003年3月3日,米国)の出願であって,平成21年5月13日付けで拒絶理由が通知され,これに対して,同年8月6日に手続補正がされたが,平成22年6月30日付けで拒絶査定がされ,それに対して同年11月5日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 2 本願発明 本願の請求項1?10,11?15,16?21に係る発明は,平成21年8月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲1?10,11?15,16?21に記載された事項により特定されるとおりのものであり,そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 下部電極,ピニング層パターン,固定層パターン,トンネル層パターン,自由層パターン,キャッピング層パターン,上部電極が順次積層されてなる磁気トンネル接合(MTJ)構造体を持つ磁気ラムにおいて, 前記磁気トンネル接合構造体は,チタニウム窒化層よりも小さいRMS(root mean square)表面荒さを持つ下部電極を含み,外部磁界の入力なしで,互いに違う二つの磁気モーメントとなる第1及び第2磁気モーメントを持つヒステリシスループを示し,前記第1磁気モーメントは前記第2磁気モーメントよりも大きく, 前記下部電極は直流マグネトロンスパッタリング(DC magnetron sputtering)技術を使用して5-6mTorrのチェンバー圧力及び250℃の蒸着温度下で蒸着することで形成されることを特徴とする磁気ラム。」 3 引用例に記載された発明 (1) 引用例に記載された発明 本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され,原査定の根拠となった平成21年5月13日付けの拒絶の理由において引用された特開2002-84016号公報(以下「引用例」という。)には,「強磁性トンネル接合素子及びその製造方法」(発明の名称)に関して,図1とともに,以下の記載がある(なお,下線は当合議体にて付加したものである。以下同様。)。 ア 「【請求項1】強磁性層/絶縁層/強磁性層からなる積層構造をもつ強磁性トンネル接合素子に於いて, 絶縁層に於ける表面粗さRaが1.0〔nm〕以下であることを特徴とする強磁性トンネル接合素子。」 イ 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,高密度磁気記録の読み出しヘッド,磁場感知用のセンサ,磁気メモリなどとして有用な強磁性トンネル接合素子及びその製造方法に関する。」 ウ 「【0011】然しながら,強磁性トンネル効果を実現するには,極めて薄い絶縁層が必要であることから,大きなMR比を示す強磁性トンネル接合を作成することは困難であり,例えば,成膜条件や材料に依って,強磁性接合のMR比は大きく異なり,特に,トンネル抵抗を小さくする為に絶縁層を薄くした場合,ピンホールが生成され易くなり,そのピンホールが強磁性トンネル接合の特性を劣化させる。 【0012】 【発明が解決しようとする課題】本発明は,強磁性トンネル接合に於ける絶縁層の平坦性を向上させる旨の簡単な手段を採ることに依って,抵抗変化率が大きく,且つ,トンネル抵抗値が低い強磁性トンネル接合素子を実現しようとする。 【0013】 【課題を解決するための手段】本発明では,強磁性層/絶縁層/強磁性層からなる積層構造に於ける絶縁層の表面粗さ(平均粗さRa)で1.0〔nm〕以下とし,また,下地材料を適切に選択することが基本になっている。 【0014】前記手段を採ることに依り,小さなトンネル抵抗値をもち,且つ,大きなMR比を示す強磁性トンネル接合を再現性良く安定に実現することができる。 【0015】 【発明の実施の形態】実施の形態1 スパッタリング法を適用することに依り,Si基板上に厚さ約40〔nm〕の下地材料層を堆積し,その上にNiFe層(厚さ4.0〔nm〕)/CoFe層(厚さ3.0〔nm〕)/Al-AlO層/CoFe層(厚さ2.5〔nm〕)/IrMn層(厚さ15〔nm〕)/Au層(厚さ10〔nm〕)からなる積層構造のトンネル接合を作成した。 【0016】この場合,到達真空度1×10^(-4)〔Pa〕,プロセスガスとしてArを0.2〔Pa〕,成膜速度を0.1〔nm/秒〕?10〔nm/秒〕とすることで,平均粗さRaとして0.1〔nm〕?5〔nm〕程度を得た。」 エ 「【0020】下地材料を変えることで,層の表面状態もMR比も異なった接合を得ることができ,そして,これら各試料に於けるトンネル抵抗値は100〔Ωμm^(2) 〕以下を示した。 【0021】図1は下地材料を換えた場合に於ける表面粗さ(平均粗さRa)とMR比との相関を表す線図であり,横軸には平均粗さRaを,縦軸にはMR比をそれぞれ採ってある。 【0022】図中に記載された元素記号に付記されている数字,例えば「Cr10」に於ける「10」は,Crの厚さ〔nm〕を示している。但し,Cu_(80)Al_(20)に於ける「80」と「20」はCuAl合金に於ける割合を示している。 【0023】図に依れば,粗さが1.0〔nm〕程度以下になるとMR比が大きくなっていることが看取される。」 オ 「【0024】実施の形態1に於いて採用した下地材料は,Al,Cu,Cr,Ta,Ti,Ru,Pt及びそれ等を積層した層であるが,平均粗さRaを小さくすることができる材料であれば,上掲の材料に固執する必要はなく,前記図中には見られないが,例えばCr/Au,Cr/Cu,Cr/Pt,Cr/Pd,Ta/Cuなどの積層構造も全く同じ効果を奏することができる。」 カ イによれば,「強磁性トンネル接合素子」は磁気メモリに適用可能であることが分かるので,「強磁性トンネル接合素子」を持つ「磁気メモリ」が記載されていると認められる。 以上を総合すると,引用例には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「下地材料層上に,強磁性層/絶縁層/強磁性層からなる積層構造をもつ強磁性トンネル接合素子に於いて,絶縁層に於ける表面粗さRaが平均粗さRaとして0.1〔nm〕?5〔nm〕であり, スパッタリング法を適用することに依り,下地材料層を堆積したことを特徴とする強磁性トンネル接合素子を持つ磁気メモリ。」 4 対比・判断 (1) 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「強磁性トンネル接合素子」,「磁気メモリ」,「下地材料層」は,それぞれ本願発明の「磁気トンネル接合(MTJ)構造体」,「磁気ラム」,「下部電極」に相当する。 3(1)アによれば,引用発明の「強磁性層/絶縁層/強磁性層」は磁性トンネル接合素子を形成するのであるから,それぞれ固定層/トンネル層/自由層に対応し,これらは本願発明の「固定層パターン,トンネル層パターン,自由層パターン」に相当する。 また,引用発明は磁性トンネル接合素子であるから,当然上部電極を含んでいることは明らかである。 3(1)ウによれば,引用発明は「下地材料を適切に選択することにより」,「絶縁層の平坦性を向上させ」ていることから,表面荒さが小さい下地材料を選択することにより,その上に積層する「絶縁層の表面粗さ(平均粗さRa)」(以下本願明細書の記載に合わせ「表面粗さ」は「表面荒さ」と表記する。)を減少させ「1.0[nm]以下」としていることが分かり,本願発明は,段落【0010】の記載から,「減少した表面荒さを提供する下部電極を形成する」ものであるから,両者は,減少した表面荒さをもつ下部電極を形成する点で共通する。 したがって,本願発明と引用発明とは, (一致点) 「下部電極,固定層パターン,トンネル層パターン,自由層パターン,上部電極が積層されてなる磁気トンネル接合(MTJ)構造体を持つ磁気ラムにおいて, 前記磁気トンネル接合構造体は,減少した表面荒さを持つ下部電極を含むことを特徴とする磁気ラム。」 である点で一致し,以下の点で相違する。 (相違点1) 本願発明は,「磁気トンネル接合(MTJ)構造体」が「下部電極,ピニング層パターン,固定層パターン,トンネル層パターン,自由層パターン,キャッピング層パターン,上部電極が順次積層され」たものであるのに対して,引用発明は下部電極上に「ピニング層」を,自由層上に「キャッピング層」を積層することが特定されていない点。 (相違点2) 本願発明は,「チタニウム窒化層より小さいRMS表面荒さを持つ下部電極」であるのに対して,引用発明は,「絶縁層に於ける」表面荒さが「0.1〔nm〕?5〔nm〕」である点 (相違点3) 本願発明は,磁気トンネル接合が,「外部磁界の入力なしで,互いに違う二つの磁気モーメントとなる第1及び第2磁気モーメントを持つヒステリシスループを示し,前記第1磁気モーメントは前記第2磁気モーメントよりも大き」いものであるのに対して,引用発明は磁気トンネル接合の磁気特性について特定されていない点。 (相違点4) 本願発明は,下部電極を「直流マグネトロンスパッタリング(DC magnetron sputtering)技術を使用して5-6mTorrのチェンバー圧力及び250℃の蒸着温度下で蒸着することで形成」しているのに対して,引用発明は下部電極の形成方法について特定がない点。 (2) 判断 ア 相違点1について 磁気トンネル接合構造体の構造として「下部電極」,「ピニング層」,「固定層」,「トンネル層」,「自由層」,「キャッピング層」,「上部電極」の順に積層したものは,以下の周知例1にも記載されているように周知の技術である。 したがって,引用発明のものにおいて,上記周知の技術を勘案し,磁気トンネル接合構造体として下部電極,ピニング層,固定層,トンネル層,自由層,キャッピング層,上部電極を順に積層した構造とすることは当業者が適宜なし得たことである。 (ア) 周知例1:特開2002-204010号公報 周知例1には,図1とともに以下の記載がある。 a 「【0102】 【実施例】(実施例1)マグネトロンスパッタリング法によりSi熱酸化基板上に以下のMR素子を作製した。この素子の主要な層を図1に示す。 【0103】(サンプル1) Ta(3)/Cu(500)/Ta(3)/PtMn(30)/CoFe(3)/Ru(0.7)/CoFe(3)/Al_(2)O_(3)(1)/NiFe(8)/Ta(3) …(中略)… (括弧内は膜厚で単位はnm;膜構成は基板側から表示;以下同様)ここで,Ta(3)/Cu(500)/Ta(3)は,基板104上の下部電極兼下地層103,PtMnは反強磁性体,CoFe(3)/Ru(0.7)/CoFe(3)は固定磁性層107,Al_(2)O_(3)は中間層106,残りが自由磁性層105(最表面Ta(3)は保護膜)である。」 b 「【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の垂直電流型磁気抵抗素子の一形態の断面図である。 …(中略)… 【符合の説明】 101 上部電極 102 層間絶縁膜 103 下部電極兼下地層 104 基板 105 自由磁性層 106 中間層 107 固定磁性層」 イ 相違点2について 引用発明の絶縁層に於ける表面荒さは0.1〔nm〕?5〔nm〕(換算すると1?50(Å))であって,絶縁層が下部電極の上に積層されることからみて,下部電極の表面荒さは,絶縁層に於ける表面荒さと同等か,それより小さいことは明らかである。 また,引用例には,「1.0〔nm〕」(換算すると10(Å))「程度以下になると,MR比が大きくな」り望ましい旨記載があり,図1から,表面荒さは1.0〔nm〕よりも小さければ小さい程MR比が良くなるという傾向があることも分かる。 そうすると,引用発明において,磁気特性向上のために下部電極の表面荒さが10(Å)よりも小さいものとすることは,当業者ならば直ちに想起し得たといる。 一方,本願明細書の段落【0017】の【表1】からチタニウム窒化層のRMS表面荒さが6?7(Å)であることから,本願発明の「チタニウム窒化層より小さいRMS表面荒さ」は,6?7(Å)より小さいRMS表面荒さを意味することは明らかである。 そして,本願発明は,従来技術であるチタニウム窒化層よりも表面荒さが小さい材料を選択することにより,磁気特性を改善しているものであるが,従来技術としてチタニウム窒化層を前提とした発明であるため,表面荒さをチタニウム窒化層より小さいと限定しているものであって,チタニウム窒化層より小さいRMS表面荒さとした点に,臨界的意義は認められない。 以上から,引用発明において磁気特性を良くするために,下部電極の表面荒さを10(Å)よりもさらに小さいチタニウム窒化層の表面荒さより小さいものとすることは当業者が容易になし得たことといえる。 ウ 相違点3について 磁気ラムの磁気トンネル接合の求められる特性としては,外部磁界の入力がないときに2つの磁気モーメントの状態が得られるようなヒステリシスループであることは明らかである。なぜならば,外部磁界の入力がないときに2つの磁気モーメントの状態が得られなければ,記憶状態を保つために常にバイアス磁界をかけておかなければならなくなるからである。 そうすると,「外部磁界の入力なしで,互いに違う二つの磁気モーメントとなる第1及び第2磁気モーメントを持つヒステリシスループを示し,前記第1磁気モーメントは前記第2磁気モーメントよりも大き」いという磁気特性に関する限定は,磁気ラムの磁気トンネル接合として,当然に当業者が求める通常の特性にすぎない。 したがって,引用発明において,磁気ラムに用いる磁気トンネル接合の特性を,外部磁界の入力なしで,互いに違う二つの磁気モーメントとなる第1及び第2磁気モーメントを持つヒステリシスループを示し,前記第1磁気モーメントは前記第2磁気モーメントよりも大きいものとすることは,当業者が容易になし得たことである。 エ 相違点4について 3(1)ウの記載によれば,引用発明は,プロセスガスの圧力が0.2[Pa](換算すると1.5mTorr)でスパッタリング法を用いて成膜しており,本願発明の成膜条件と近いことが分かる。 そして,下部電極を「直流マグネトロンスパッタリング(DC magnetron sputtering)技術を使用して5-6mTorrのチェンバー圧力及び250℃の蒸着温度下で蒸着することで形成」することは,拒絶査定で提示された以下の周知例2にも記載されているように,電極膜形成の方法として周知の方法である。 そして,本願明細書の記載を見ても,チャンバー圧力を5-6mTorrとしたこと,蒸着温度を250℃としたことについての臨界的意義も認められない。 したがって,引用発明において,上記周知の技術を勘案し,電極の形成方法として,直流マグネトロンスパッタリング技術を使用し,5-6mTorrのチェンバー圧力及び250℃の蒸着温度下で蒸着することは,当業者が容易になし得たことである。 (ア) 周知例2:特開平9-331034号公報 周知例2には,以下の記載がある。 a「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,酸化物誘電体材料から成る誘電体薄膜から構成されるDRAM等の誘電体薄膜素子に用いられる酸化物電極膜の形成方法に関するものである。」 b「【0047】また,基板温度が200℃より高く400℃より低い温度範囲で,スパッタガスの全圧が1Pa以下で形成したRuO_(2)膜は,スパッタガス全圧が1Paより高い条件で形成したものよりと比較して,平坦性が更に優れ,かつ比抵抗は同程度に良好で,酸素雰囲気中の高温処理耐性もより優れており,PZT,SrBi_(2)Ta_(2)O_(9),Bi_(4)Ti_(3)O_(12)等から成る酸化物強誘電体薄膜をその上部に成膜するプロセスに耐え得る膜が形成可能であることが示された。 【0048】なお,上記実施形態では,スパッタガス全圧に関し0.4Paが最低圧力として示したが,これに限定されるものではなく,成膜が可能であればこれよりも低い圧力でも良い。また,基板としては,SiO_(2)/Siを用いたが,これに限定されるものではなく,Si基板又はGaAs基板等の半導体基板,半導体基板上にpoly-Siや層間絶縁膜を形成したもの,メタル基板(半導体基板上にメタル膜を形成したもの)などを用いても良い。また,成膜方法としてRF-反応性マグネトロンスパッタ法を用いたが,これに限定されるものではなく,DC-反応性マグネトロンスパッタ法を用いても良く,スパッタターゲットもRuメタルターゲット以外にRuO_(2)ターゲットを用いることもできる。」 c ここで,1Paは,換算すると7.5mTorrであるから,1Pa以下は,7.5mTorr以下ということになる。 (3) 判断についてのまとめ 以上検討したとおり,本願発明は,周知の技術を勘案し,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 5 むすび 以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-12-16 |
結審通知日 | 2011-12-20 |
審決日 | 2012-01-05 |
出願番号 | 特願2003-406447(P2003-406447) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 三浦 尊裕 |
特許庁審判長 |
齋藤 恭一 |
特許庁審判官 |
西脇 博志 小川 将之 |
発明の名称 | 磁気トンネル接合構造体及びその製造方法 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 実広 信哉 |