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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60G 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60G |
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管理番号 | 1257229 |
審判番号 | 不服2011-7781 |
総通号数 | 151 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-04-13 |
確定日 | 2012-05-16 |
事件の表示 | 特願2008- 25226「複数の入力信号を用いた車両用の電子式ハイトコントロールシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月30日出願公開、特開2008-260513〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は,平成20年2月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年4月12日,米国)の出願であって,平成23年1月12日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年4月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に特許請求の範囲を対象とする手続補正がなされたものである。 第2.原査定 原査定における拒絶の理由は,以下のとおりのものと認める。 「この出願の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 1.特表2005-515103号公報 2.特開平10-6951号公報」 第3.平成23年4月13日付け手続補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成23年4月13日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正の概要 本件補正は,平成22年9月21日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するもので,請求項1については,補正前に 「車両用の電子式サスペンションシステムであって, 車両アクスルと車両フレームとの間の距離を検出すると共にそれを表すセンサー信号を発生させるセンサーと, バルブであって,加圧流体源に接続された流入ポートと,前記車両アクスルと前記車両フレームとの間に配設された流体バッグに接続された作用ポートと,外気に接続された排出ポートと,を有するバルブと, 前記バルブに接続されたモーターであって,前記バルブを, 前記流入ポートが前記作用ポートに流体接続された充填ポジションと, 前記作用ポートが前記排出ポートに流体接続された排出ポジションと, 前記個々のポートが互いに流体的に隔離された中立ポジションと,の間で作動させるモーターと, 前記センサー信号を受け取るために前記センサーに接続されると共に前記モーターを制御するために出力信号を発生させるコントローラーと, ブレーキシステムによって発生させられかつ前記コントローラーに接続されたブレーキシステム信号であって,自動制動システム(ABS)信号,電子式制動システム(EBS)信号およびその組み合わせからなる群から選ばれたものであるブレーキシステム信号と, を具備してなることを特徴とする電子式サスペンションシステム。」 とあるのを 「車両用の電子式サスペンションシステムであって, 車両アクスルと車両フレームとの間の距離を検出すると共にそれを表すセンサー信号を発生させるセンサーと, バルブであって,加圧流体源に接続された流入ポートと,前記車両アクスルと前記車両フレームとの間に配設された流体バッグに接続された作用ポートと,外気に接続された排出ポートと,を有するバルブと, 前記バルブに接続されたモーターであって,前記バルブを, 前記流入ポートが前記作用ポートに流体接続された充填ポジションと, 前記作用ポートが前記排出ポートに流体接続された排出ポジションと, 前記個々のポートが互いに流体的に隔離された中立ポジションと,の間で選択的に作動させるモーターと, 前記センサー信号を受け取るために前記センサーに接続されたサスペンションコントローラーと, 前記サスペンションコントローラーに接続されたマスターコントローラーと, ブレーキシステムによって発生させられかつ前記コントローラーに接続されたブレーキシステム信号であって,自動制動システム(ABS)信号,電子式制動システム(EBS)信号およびその組み合わせからなる群から選ばれたものであるブレーキシステム信号と, 前記サスペンションコントローラーに遠隔設定値信号を選択的に提供する前記コントローラーに接続された遠隔設定ポイントと, を具備してなり, 前記サスペンションコントローラーは出力信号を発生させ,前記出力信号は,前記受け取ったセンサー信号および前記マスターコントローラーから送信されたブレーキ信号に基づいて発生させられ,前記出力信号は前記バルブを制御するために前記モーターに送信されることを特徴とする電子式サスペンションシステム。」 と補正するものである。 請求項1の補正は,上記各アンダーラインのとおりに限定を加えるもので,要するに,補正前の請求項1に記載された「コントローラー」を「サスペンションコントローラー」と「マスターコントローラー」の二つに分けるとともに,「遠隔設定ポイント」を具備することを特定し,この「サスペンションコントローラー」,「マスターコントローラー」及び「遠隔設定ポイント」と,補正前の請求項1に記載された「センサー信号」,「ブレーキシステム信号」及び「出力信号」との関係を特定したものである。そして,請求項1の補正が,産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでないことは明らかである。 したがって,少なくとも請求項1の補正に関する限り,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。 2.引用刊行物 (1)原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に頒布された刊行物である特表2005-515103号公報(以下「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。 1a)「【請求項1】 車両に対して地面に接するホイールを保持する軸を支持するサスペンション用の車両高さ制御システムであり,地面に対する基準車両高さ維持するための車両高さ制御システムにおいて,該サスペンションが, 現在の車両高さを検知しまたその現在の車両高さをあらわす出力信号を生成する高さセンサ(144)と, 上記軸と車両との間に作動可能に連結される膨張可能なエアバッグ(124)であって,該エアバッグに対するエアの送込み及び排出が,車両高さを調整すべく,それぞれ,軸と車両との間の相対的な距離を大きくする又は小さくする,エアバッグ(124)と, 上記エアバッグを膨らませるための圧縮エア源(304)と, 上記圧縮エア源又は大気に対してエアバッグを流体のやり取り可能に選択的に連結するバルブ(116)であって,これにより,それぞれ,エアバッグに対するエアの送込み又は排出がなされる,バルブ(116)と,を有しており, 上記高さセンサにまたバルブに連結されたバルブアクチュエータ(222)であって,入力として,高さセンサ出力信号を受信し,上記エアバッグが圧縮エア源又は大気に対して流体のやり取り可能に接続されないニュートラル位置,エアをエアバッグに送り込むべく,エアバッグが圧縮エア源に流体のやり取り可能に接続される充満位置,及び,エアをエアバッグから排出させるべく,エアバッグが大気に流体のやり取り可能に接続される排出位置の間で,バルブを選択式に作動させ,それにより,上記高さセンサにより検知される現在の車両高さからの車両高さを基準車両高さに対して調整するバルブアクチュエータ(222)により特徴付けられる車両高さ制御システム。」 1b)「【請求項3】 上記バルブアクチュエータは,更に,上記コントローラに作動可能に連結されまたバルブに接続されるモータ(224)を有し,該コントローラは,該バルブを選択的に作動させるべく,該モータを作動させる,請求項2記載の車両高さ制御システム。」 1c)「【0026】 好適な実施形態の説明 図2は,本発明に係るトレーリングアームサスペンション110を示す。トレーリングアームサスペンションは,車両フレーム114に取り付けられまた本発明によるモータ駆動式の高さ調整バルブを組み込む一対のトレーリングアームアッセンブリ(一方のみ示す)112を有している。トレーリングアームアッセンブリ112は,車両フレーム114から下方へ延びるフレームブラケット122へ入れ子式接続手段(bushed connection)120を介して回転可能に取付けられた一端部を備えたトレーリングアーム118を有している。トレーリングアーム118の一部に取り付けられたピストン126と,プレート130を介してフレーム114に取り付けられたエアバッグ128とを有するエアばね124が,トレーリングアーム118を車両フレーム114に接続する。軸ブラケット132が,一対の入れ子式接続手段134により,フレームブラケット122とエアばね124との間でトレーリングアーム118に取り付けられている。その軸ブラケットは,軸136を,車両の地面に接するホイール(不図示)が軸136に対して回転可能に取り付けられるように設定する。衝撃吸収手段138が,軸ブラケット132とフレームブラケット122との間に延びている。」 1d)「【0031】 高さ制御センサ144が,フレームブラケット122に取り付けられ,トレーリングアーム118に作動可能に接続され,その結果,センサ144は,トレーリングアームの向きを監視し,その向きに応じた信号を出力する。高さ制御センサ144は,モータ駆動される高さ制御バルブ116に電気的に接続され,高さ制御バルブ116に対して,トレーリングアームの位置を指示する信号を供給する。」 1e)「【0050】 図14は,サスペンション110用の高さ制御システムを模式的に示す図であり,主車両コントローラ300,サスペンションコントローラ240,高さセンサ144及びバルブアッセンブリ212間の相互接続を示している。模式図は,また,クリープ防止デバイスのアーム142の位置を検知するためのセンサ302を含んでいる。エア貯留器304が設けられ,それは,サスペンションエアシステム及びブレーキエアシステムへ圧縮エアを供給する。 【0051】 主車両コントローラ300は,車両の作動部分の多くの作動を制御する。この主車両コントローラ300は,典型的には,特定の作動部分の作動を制御する複数の別個のコントローラ(例えばサスペンションコントローラ240)に接続される。主車両コントローラ300は,サスペンションコントローラ240に電力を供給する電力路310を有している。データ接続手段312,314が,サスペンションコントローラ240に対して,データを(出力へ)提供し,データを(入力から)受ける。好ましくは,出力接続手段312が,主コントローラ300からサスペンションコントローラ240へ,ユーザが選択した機能/モードのデータ信号を送る。サスペンションコントローラ240は,それを,その作動モードを判定するために用いる。好ましくは,入力接続手段314が,サスペンションコントローラ240から主コントローラ300へ,高さデータ,モードデータ及び/又はエアデータを提供する。 1f)「【0056】 作動に際して,車両のユーザは,まず,サスペンションの作動モードを選択する。その作動モードは,その後に,サスペンションコントローラ240へ伝送される。モードの選択は,予め設定される車両の正確な高さを含むことができる。その代わりとして,現在の車両高さに等しなるように,好適な車両高さ及び入力がユーザにより設定されてもよい。最初の作動モード及び車両高さが設定されると,サスペンション114の制御は,その後,サスペンションコントローラ240へ受け継がれる。」 【0057】 サスペンションコントローラ240が,サスペンションが関係する多くの動作を制御し得るが,本発明による高さ制御システムの目的のために,サスペンションコントローラ240により制御されるほとんどの関係動作が,高さセンサ144により供給される車両高さデータに応じた車両高さの制御,及び,それに対応した,エアばねのエアバッグ24内の容量を制御することによる車両高さの調整である。サスペンションコントローラ240は,好ましくは,データ接続手段318を通じて,高さセンサ144からの車両高さデータのストリームを受信する。車両高さデータのストリームは,車両高さにおける高周波及び低周波の両方をモニタするために,サスペンションコントローラ240により解析される。好ましくは,サスペンションコントローラ240は,車両高さデータのストリームに対してフィルタを適用し,車両高さの高周波の変化に関係するデータポイントを除去する。車両高さの高周波の変化は,典型的には,現在の車両高さの変化を保証しない現象により導かれる。 【0058】 濾波された車両高さのデータは,その後,モニタされ,基準車両高さと比較される。現在の車両高さの変化が,基準車両高さを所定量“デルタ”だけ越えると,サスペンションコントローラ240は,エアばね24に対する圧縮エアの送込み又は排出を行なうことにより,現在の車両高さを調整する。通常,現在の車両高さは,所定期間“サンプル時間”にわたってモニタされ,それにより,基準車両高さに対する現在の車両高さの変化が一時的なものでないことが保証される。もし現在の車両高さがサンプル時間の間に越えれば,それは,通常,車両高さの継続する変化が存在し,現在の車両高さが基準車両高さに対して調整される必要があることを示している。注目されるのは,デルタの絶対値が,現在の車両高さが基準車両高さを越えるか否かにかかわらず,通常同じであるということである。しかし,現在の車両高さが基準車両高さを越えるか否かに依存して,デルタが異なる値を有することは,本発明の要旨を逸脱するものでない。デルタの値は,典型的には,ユーザにより規定され,車両,サスペンション,動作環境又は他の要因に依存して可変であることに注目すべきである。 【0059】 もしサンプル時間の間に現在の車両高さが基準高さをデルタより大きい量だけ越えれば,現在の車両高さが高すぎ,基準車両高さまで下げなければならない。サスペンションを基準高さまで移動させるために,サスペンションコントローラ240は,接続手段233に沿って,バルブアッセンブリ212へ制御信号を送る。これにより,モータ224が駆動され,エアばね口216が排出口212と流体のやり取り可能な状態にある排出位置へバルブを移動させるべく,動的なディスク273の回転作用がもたらされ,その結果,エアバッグ24からエアが排出され,現在の車両高さが基準高さまで下げられる。サスペンションコントローラ240は,高さセンサ144から高さデータを受信し続け,その間に,エアはバルブアッセンブリ212を通じてエアバッグ24から排出される。サスペンションコントローラ240が,高さデータに基づき,現在の車両高さが実質的に基準車両高さと等しいことを判断すると,サスペンションコントローラ240は,モータ224に制御信号を送り,これにより,動的なシヤディスク273が,エアバッグ24からのエアの排出を停止するために,ニュートラル位置へ移動させられる。 【0060】 もしサンプル時間の間に現在の車両高さが基準車両高さよりデルタよりも大きい値だけ小さくなれば,現在の車両高さが低すぎ,それを基準車両高さまで上げる必要がある。サスペンションを基準車両高さまで移動させるために,サスペンションコントローラ240は,接続手段233に沿って,バルブアッセンブリ212へ制御信号を送る。これにより,モータ224が駆動され,エアばね口216が入口214と流体のやり取り可能な状態にある充満位置にバルブを配置させるべく,動的なディスク273の回転作用がもたらされ,その結果,エアバッグ24にエアが送り込まれ,現在の車両高さが基準高さまで上げられる。サスペンションコントローラ240は,高さセンサ144から高さデータを受信し続け,その間に,エアはバルブアッセンブリ212を通じてエアバッグ24から排出される。サスペンションコントローラ240が,高さデータに基づき,現在の車両高さが実質的に基準車両高さと等しいことを判断すると,サスペンションコントローラ240は,モータ224に制御信号を送り,これにより,動的なシヤディスク273が,エアバッグ24からのエアの排出を停止するために,ニュートラル位置へ移動させられる。」 上記記載事項1a?1f及び図面の記載によれば,引用例1には以下の発明が記載されているといえる(以下「引用発明」という。)。 「主車両コントローラ300とサスペンションコントローラ240を備えた車両高さ制御システムであって,ホイールを回転可能に支持する軸136が取り付けられたトレーリングアーム118が,エアバッグにより車両フレーム114に接続され,トレーリングアーム118の向きに応じた信号,すなわち車両高さデータを出力する高さセンサ144が,車両フレーム114から下方に延びるフレームブラケット122に取り付けられ,エアバッグを圧縮エア源または大気に対して選択的に連結するバルブ116が設けられ,エアバッグを圧縮エア源に接続する充満位置,エアバッグを大気に接続する排出位置及びニュートラル位置の間でバルブ116を選択的に駆動するモータ224が設けられ,主車両コントローラ300は,サスペンションコントローラ240を含めた複数のコントローラに接続され,主車両コントローラ300は,サスペンションコントローラ240に対してユーザが選択した機能/モードのデータ信号を送り,サスペンションコントローラ240は,高さセンサ144から車両高さデータを受信し,現在の車両高さと基準車両高さとの関係を判定してモータ224に制御信号を送るようにした車両高さ制御システム。」 (2)同じく原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-6951号公報(以下「引用例2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。 2a)「【0017】この制御装置は,駆動源としての一つの電動モータ110と,同モータ110の回転軸にそれぞれ接続された第1及び第2のポンプ120,130を備えている。第1のポンプ120は,電動モータ110の作動時に,作動流体としてのエアを外気中からフィルタ140を介して吸入して車高調整用の流体式制御装置(第1の流体式制御装置)200に吐出する。この流体式制御装置200は車高を調整するためのもので,その作動が,電動モータ110と共に第1の電気制御装置300により電気的に制御されるようになっている。第2のポンプ130は,電動モータ110の作動時に,作動流体としての作動油をリザーバ150から汲み出してアンチロックブレーキ用の流体式制御装置(第2の流体式制御装置)400に吐出する。この流体式制御装置400は車輪がロックしないように車輪の制動力を制御するためのもので,その作動が,電動モータ110と共に第2の電気制御装置500により電気的に制御されるようになっている。」 2b)「【0026】車高調整用の電気制御装置300は,図1に示すように,各車輪位置の車高値H1,H2,H3,H4を検出する車高センサ301,302,303,304と,同センサ301,302,303,304に接続された車高調整用の電気制御回路310とからなる。電気制御回路310はマイクロコンピュータを主要部品とするもので,図6?8に示すフローチャートに対応したプログラムの実行により,駆動回路160を介した電動モータ110の作動及び車高調整用の流体式制御装置200の作動を電気的に制御する。」 2c)「【0032】アンチロックブレーキ用の電気制御装置500は,図1に示すように,ブレーキペダルスイッチ501と,車輪速センサ502,503,504,505と,アンチロックブレーキ用の電気制御回路510とを備えている。・・・電気制御回路510は,電動モータ110及び流体式制御装置400の作動制御中には,同制御中を表す信号ABSを車高調整用の電気制御回路310に出力する。」(段落【0032】) 2d)「【0044】ステップ346においては,アンチロックブレーキ用の電気制御回路510からの信号ABSの有無により,電気制御回路510がアンチロックブレーキ用の流体式制御装置400の作動を制御中であるか否かを判定する。いま,同流体式制御装置400の作動を制御中でなければ,ステップ348?352からなる循環処理により,前記最大の偏差ΔH1(又はΔH2?ΔH4)に対応した車輪位置の車体を上昇制御する。」 2e)「【0047】一方,前記のような車高の上昇制御前及び上昇制御中に,アンチロックブレーキ用の電気制御回路510がアンチロックブレーキ用の流体式制御装置400の作動を制御し始めて同作動制御を表す信号ABSを出力し始めると,電気制御回路310はステップ346にて「YES」と判定し,ステップ356にて前記ステップ354と同様の上昇制御終了処理を実行する。これにより,アンチロックブレーキ用の流体式制御装置400の作動制御中には,上昇側の車高調整が禁止されることになる。また,前記ステップ356の処理後,電気制御回路310はステップ358にて前記ステップ328と同様な排出制御処理を実行する。これにより,この場合も,電磁切り換え弁212が図4の状態に設定されて,電動モータ110の負荷が軽減される。」 2f)「【0054】また,車高調整用及びアンチロックブレーキ用の各流体式制御装置200,400の作動が同時に必要となっても,車高調整用の電気制御回路310は,ステップ346,356,374,384の処理により,第1のポンプ120によるエアの吐出を必要とする車高調整のうちの上昇制御を中断して,第2のポンプ130による作動油の吐出を確保するようにしたので,アンチロックブレーキ用の流体式制御装置400の作動が優先して確保される。その結果,アンチロックブレーキ機能が車高調整機能より優先され,車両の走行安定性が確保されるとともに,電動モータ110として比較的小型のものを用いることができる。」 3.対比・判断 本願補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「ホイールを回転可能に支持する軸136」,「車両フレーム114」,「車両高さデータ」,「高さセンサ144」,「バルブ116」,「エアバッグ128」,「モータ224」,「サスペンションコントローラ240」,「主車両コントローラ300」,「制御信号」,「車両高さ制御システム」は,それぞれ本願補正発明の「車両アクスル」,「車両フレーム」,「センサー信号」,「センサー」,「バルブ」,「流体バッグ」,「モーター」,「サスペンションコントローラー」,「マスターコントローラー」,「出力信号」,「電子式サスペンションシステム」に相当する。 引用発明の高さセンサ144は,ホイールを回転可能に支持する軸136が取り付けられ,かつ,車両フレーム114に接続されるトレーリングアーム118の向きに応じた信号を出力するものであるから,引用発明は,本願補正発明における「車両アクスルと車両フレームとの間の距離を検出する」「センサー」との要件を備える。 引用発明のエアバッグは,トレーリングアーム118を車両フレーム114に接続するものであるから,本願補正発明における「車両アクスルと車両フレームとの間に配設された流体バッグ」との要件を備える。 引用発明は,エアバッグを圧縮エア源または大気に対して選択的に連結するバルブ116が設けられ,エアバッグを圧縮エア源に接続する充満位置,エアバッグを大気に接続する排出位置及びニュートラル位置の間でバルブ116を選択的に駆動するモータ224が設けられるものであるから,本願補正発明における「加圧流体源に接続された流入ポートと」「流体バッグに接続された作用ポートと,外気に接続された排出ポートと,を有するバルブ」との要件及び「流入ポートが作用ポートに流体接続された充填ポジションと,作用ポートが排出ポートに流体接続された排出ポジションと,個々のポートが互いに流体的に隔離された中立ポジションと,の間で選択的に作動させるモーター」との要件を備えることは明らかである。 したがって,本願補正発明と引用発明は,本願補正発明の表記にしたがえば, 「車両用の電子式サスペンションシステムであって,車両アクスルと車両フレームとの間の距離を検出すると共にそれを表すセンサー信号を発生させるセンサーと,バルブであって,加圧流体源に接続された流入ポートと,前記車両アクスルと前記車両フレームとの間に配設された流体バッグに接続された作用ポートと,外気に接続された排出ポートと,を有するバルブと,前記バルブに接続されたモーターであって,前記バルブを,前記流入ポートが前記作用ポートに流体接続された充填ポジションと,前記作用ポートが前記排出ポートに流体接続された排出ポジションと,前記個々のポートが互いに流体的に隔離された中立ポジションと,の間で選択的に作動させるモーターと,前記センサー信号を受け取るために前記センサーに接続されたサスペンションコントローラーと,前記サスペンションコントローラーに接続されたマスターコントローラーとを具備してなり,前記サスペンションコントローラーは出力信号を発生させ,前記出力信号は,前記受け取ったセンサー信号に基づいて発生させられ,前記出力信号は前記バルブを制御するために前記モーターに送信される電子式サスペンションシステム。」 である点で一致し,以下の点で相違する。 なお,本願補正発明の「ブレーキシステムによって発生させられかつ前記コントローラーに接続されたブレーキシステム信号」及び「サスペンションコントローラーに遠隔設定値信号を選択的に提供する前記コントローラーに接続された遠隔設定ポイント」における「前記コントローラー」は,実施例も参酌しつつ,請求項1全体の記載から判断すると,いずれも「マスターコントローラー」のことと解される。また,本願補正発明の「ブレーキシステム信号」と「ブレーキ信号」は,同じものをいうと解される。 [相違点1] 本願補正発明は,サスペンションコントローラーに遠隔設定値信号を選択的に提供するマスターコントローラーに接続された遠隔設定ポイントを具備するのに対して,引用発明は,そのようなものを具備するか否か必ずしも明確でない点。 [相違点2] 本願補正発明は,ブレーキシステムによって発生させられかつマスターコントローラーに接続されたブレーキシステム信号であって,自動制動システム(ABS)信号,電子式制動システム(EBS)信号およびその組み合わせからなる群から選ばれたものであるブレーキシステム信号を具備し,サスペンションコントローラーの出力信号は,マスターコントローラーから送信されたブレーキ信号に基づいて発生させられるのに対して,引用発明は,ブレーキシステム信号を具備しない点。 相違点1について検討する。 引用発明は,主車両コントローラがサスペンションコントローラに対してユーザが選択した機能/モードのデータ信号を送るものであるところ,そのような作用を奏するためには,ユーザが機能/モードを選択するためのスイッチ等の入力手段,すなわち,本願補正発明でいう「遠隔設定ポイント」が主車両コントローラに接続されていることが必要と考えられる。したがって,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。 相違点2について検討する。 引用例2には,車高調整用の流体(エア)制御装置に用いられるポンプとアンチロックブレーキ用の流体制御装置に用いられるポンプとを共通の電動モータにより駆動する車両の制御装置であって,ABS信号がアンチロックブレーキ用の電気制御回路から車高調整用の電気制御回路に出力され,アンチロックブレーキ用の流体式制御装置が作動制御中であるときは,所定の車高制御を禁止することにより,アンチロックブレーキ機能を車高調整機能よりも優先して車両の走行安定性を確保するとともに,電動モータを小型化する車両の制御装置が記載されている。この「ABS信号」,「車高調整用の電気制御回路」は,それぞれ本願補正発明の「自動制動システム(ABS)信号,電子式制動システム(EBS)信号およびその組み合わせからなる群から選ばれたものであるブレーキシステム信号」,「サスペンションコントローラー」に相当する。 引用発明は,サスペンションコントローラを含めた複数のコントローラが主車両コントローラに接続されるものであり,複数のコントローラの一つとしてブレーキコントローラを容易に想定し得るところ,引用例2に記載された上記ブレーキとサスペンションの関連制御を,主車両コントローラを備えた引用発明に適用する場合,ABS信号を,ブレーキコントローラからサスペンションコントローラに直接出力するのではなく,ブレーキコントローラから主車両コントローラを介してサスペンションコントローラに出力する方が自然な手法というべきである。したがって,相違点2は,引用例2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。 以上のことから,本願補正発明は,引用発明及び引用例2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。 なお,本願補正発明における「サスペンションコントローラーは出力信号を発生させ,出力信号は,受け取ったセンサー信号およびマスターコントローラーから送信されたブレーキ信号に基づいて発生させられ」とは,「出力信号」が「受け取ったセンサー信号に基づいて発生させられ」るものでもあるし,「マスターコントローラーから送信されたブレーキ信号に基づいて発生させられ」るものでもあるという意味に過ぎず,明細書の詳細な説明を参酌しても,出力信号が「センサー信号」と「ブレーキ信号」の組み合わせに応じたものであるとは解されない。 請求人は,平成23年10月31日付け回答書において,引用例1には「政府規制では,ブレーキエアラインが,サスペンションエアラインを含む全てのエアラインから分離することが要求されている」と記載されていること(段落【0055】),引用例2に記載されたデバイスにおいては,車高調整用の流体制御装置に圧縮エアを供給する第1のポンプと,アンチロックブレーキ用の流体制御装置に作動油を供給する第2のポンプは,一つの電動モータで駆動されることから,引用例1と引用例2は技術思想が相違している旨主張するが,前記のとおり,引用例1からは,ブレーキエアラインとは関係のない「引用発明」を認定することができ,また,本願補正発明におけるブレーキシステムもエアラインを用いたものに限られない。引用例2に記載されたブレーキとサスペンションの関連制御を引用発明に適用することに特に阻害要件があるとはいえない。 4.むすび 以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第4.本願発明 本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成22年9月21日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下「本願発明」という。「第3」の「1.本件補正の概要」参照。)。 第5.引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は,前記「第3」の「2.引用刊行物」に記載したとおりである。 第6.対比・判断 本願発明は,本願補正発明から,前記「第3」の「1.本件補正の概要」に記載した限定を外したものである。 してみると,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「第3」の「3.対比・判断」に記載したとおり,引用発明及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由で当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7.むすび 以上のとおり,本願発明は,引用発明及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 したがって,原査定は妥当であり,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-12-14 |
結審通知日 | 2011-12-20 |
審決日 | 2012-01-05 |
出願番号 | 特願2008-25226(P2008-25226) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(B60G)
P 1 8・ 121- Z (B60G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 近藤 利充 |
特許庁審判長 |
千馬 隆之 |
特許庁審判官 |
栗山 卓也 小関 峰夫 |
発明の名称 | 複数の入力信号を用いた車両用の電子式ハイトコントロールシステム |
代理人 | 渡邊 隆 |