• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02C
管理番号 1257303
審判番号 不服2011-16597  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-02 
確定日 2012-05-09 
事件の表示 特願2007-501415「可変焦点レンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月22日国際公開、WO2005/088388、平成19年 9月13日国内公表、特表2007-526517〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、2005年2月25日(パリ条約による優先権主張 2004年3月5日 英国、2004年10月18日 英国)を国際出願日とする出願であって、平成22年8月13日付けで通知した拒絶の理由に対して、同年11月17日付けで手続補正書が提出されたが、平成23年3月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月2日付けで審判請求がなされたものである。
本願の請求項1?23に係る発明は、上記手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?23に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
透明な後部の壁、透明な前部の壁、該透明な前部の壁と該透明な後部の壁との間に形成された空洞、該空洞に含有された異なる屈折率の第一の及び第二の不混和性の流体、並びに、該二つの流体の間における流体のメニスカスの曲率を変化させるために電圧を印加することができる電極を含む、目のための可変焦点レンズであって、少なくとも、当該レンズの該後部の壁は、生体親和性の材料を含み、該材料は、該目に対する当該レンズの生体親和性を提供する、可変焦点レンズ。」


2.引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、
Gleb Vdovin et al,"On the possibility of intraocular adaptive optics",OPTICS EXPRESS,2003年4月7日,Vol. 11,No. 7,p. 810-817(以下、「刊行物1」という)、
B. BERGE et al,"Variable focal lens controlled by an external voltage: An application of electrowetting" ,THE EUROPEAN PHYSICAL JOURNAL E,EDP Sciences,IT,2000年,Vol.3,N0.2,p. 159-163 (以下、「刊行物2」という)、
特表2001-519539号公報(以下、「刊行物3」という)
には、次の事項が記載されている。

(1)刊行物1
(1a)タイトル
「On the possibility of intraocular adaptive optics」

(当審による日本語訳)「眼内適用光学機器の可能性について」

(1b)「Abstract: We consider the technical possibility of an adaptive contact lens and an adaptive eye lens implant based on the modal liquid-crystal wavefront corrector, aimed to correct the accommodation loss and higher-order aberrations of human eye. Our first demonstrator with 5 mm optical aperture is capable of changing the focusing power in the range of 0 to +3 diopters and can be controlled via a wireless capacitive link.」(810頁)

「要約:我々は、人の目における視力調整の低下や高次の収差を修正することを目的として、液晶方式の波面修正器に基づいた適用性のあるコンタクトレンズと適用性のある眼用レンズ埋め込みの技術的可能性について検討する。5ミリの光学的開口を有する我々の最初の実証器は、0?+3ジオプトリーの範囲で焦点調整力を変化させることができ、無線の容量性リンクにより制御させることができる。」

(1c)「Here we present the first results of our experiments with wireless control of liquid-crystal wavefront corrector, proving the technical feasibility of dynamic correction of human-eye aberrations by placing the wavefront corrector directly into the pupil of the human eye. We consider two possibilities:
・A non-invasive way, which suggests integration of the wavefront corrector into a contact lens;
・the invasive approach, which suggests implantation of the wavefront corrector directly into human eye (see Fig.1)」(811頁最下行?812頁7行)

「ここで、我々は、液晶方式の波面修正器の無線制御を用いた最初の実験結果を示し、人の目の瞳孔に直接的に波面修正器を据えることにより、人の目の収差を動的に修正する技術的フィージビリティについて立証する。我々は2つの可能性を検討している。
・波面修正器をコンタクトレンズに統合することを提案する、非侵入的手法。
・波面修正器を直接的に人の目に埋め込むことを提案する、侵入的手法(図1参照)。」

(1d) Fig.1(図1)は次のとおり。

ここで、図1には、液晶方式の波面修正器を用いた眼内埋め込みレンズが記載されており、無線制御されていることが理解される。

(1e)「2. Liquid-crystal wavefront correctors
…………
The modal liquid-crystal lens [9] consists of two electrodes with an oriented layer of nematic LC between them. The top electrode is highly conductive, while the bottom electrode is formed by a conductive ring deposited over a highly resistive 1-10 MΩ/square electrode. ………… Since the orientation of the LC molecules follows the voltage distribution, a lens-like device is formed. …………
Although technically challenging, all optical and electrical parts of the liquid-crystal modal corrector, including wireless control, can be integrated between two thin sheets of transparent plastic with a total thickness of the order of tens of micrometers using a“Silicon-on-anything” technology[13].
In case the LC lens is implanted into the human eye or used as a contact lens, it should satisfy the following requirements:
・Both the LC material and the lens optics should be biologically compatible.」(812頁8行?813頁5行)

「2.液晶方式波面修正器
…………
液晶方式の波面修正器[9]は、2個の電極からなり、それらの間にネマチック液晶(LC)の配向層が設けられている。最上の電極は、高導電性であり、最下の電極は、1-10MΩ/□の抵抗を持つ電極の上に配置された導電性のリングで形成されている。…………LC分子の向きは、電圧分布に従うので、レンズのような装置が形成される。…………
技術的に挑戦的であるが、無線制御を含め、液晶方式波面修正器の全ての光学的及び電気的部品を、“シリコン・オン・エニシング(任意材料上のシリコン)”技術を用いて、数十ミクロンオーダーの総厚で、2枚の薄い透明な樹脂シートの間に統合させることができる[13]。
LCレンズが人の目に埋め込まれたり、コンタクトレンズとして使用される場合は、以下の要求を満たす必要がある:
・LC材料及びレンズ光学は、生物学的に適合性(親和性)があるべきである。」

(1f)「3. Wireless control
The adaptive lenses, described above can easily be fabricated to match the size of the human eye lens. However, it is much more difficult to organize the wireless control, as, we believe, no wires can be used in the human eye and no battery can be embedded into the lens.
…………
The following wireless link principles should be considered:
・An inductive link using linked coils - see Fig. 4 left. The transmitter coil is integrated into the frame of spectacles, while the receiver coil is integrated in the adaptive LC lens, around the optically active area. - see 3D model in Fig. 5.
・…………
・…………」(814頁1行?815頁5行)

「3.無線制御
上記の適合性のあるレンズは、人の目のレンズのサイズに合うように簡単に製造することができる。しかし、電線を人の目に使用しないことや電池をレンズ内に埋め込まないことという、我々が思うような無線制御を構築することは、非常に困難なことである。
…………
以下のような無線リンク原理が考慮される。
・リンクされたコイルを用いた誘導的リンク。図4の左図を参照。送信コイルは、眼鏡フレームに統合されており、受信コイルは、光学的に活性な領域で、適合性のあるLCレンズに統合されている。
・…………
・…………」

(1g) Fig4は次のとおり。


これら記載によれば、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「人の目における視力調整の低下や高次の収差を修正することを目的として、液晶方式の波面修正器を統合したコンタクトレンズや液晶方式の波面修正器を用いた眼内埋め込みレンズであって、
液晶方式の波面修正器は、
2個の電極の間にネマチック液晶(LC)の配向層が設けられており、最上の電極は、高導電性であり、最下の電極は、1-10MΩ/□の抵抗を持つ電極の上に配置された導電性のリングで形成されており、
LC分子の向きは、電圧分布に従うので、レンズのような装置に形成されており、
無線制御を含め、液晶方式の波面修正器の全ての光学的及び電気的部品を、“シリコン・オン・エニシング(任意材料上のシリコン)”技術を用いて、数十ミクロンオーダーの総厚で、2枚の薄い透明な樹脂シートの間に統合させたものであり、
LC材料及びレンズ光学は、生物学的に適合性(親和性)がある、
焦点調整力を変化させることができるレンズ。」

(2)刊行物2
(2a)タイトル
「Variable focal lens controlled by an external voltage: An application of electrowetting」

「外部電圧により制御される可変焦点レンズ:エレクトロウェッティングの応用」

(2b)「Recently it was realized that when inserting an insulating film between the electrode and electrolyte, electrowetting induces large effect, modifying the contact angles by more than 50゜. ………… We present an application of this effect, where we use the drop as an optical lens. Changes of the contact angle of drop induce changes of the radius of curvature of a liquid-liquid interface, changing its resulting focal length.」(159頁左欄13?23行)

「絶縁膜を電極と電解質との間に挿入するときに、エレクトロウェッティングが、接触角を50°以上も変更するという大きな効果を引き起こすことが、最近分かった。…………我々は、液滴を光学レンズとして用いるという、当該効果の応用を示す。液滴の接触角の変化は、液液界面の曲率半径の変化をもたらし、その結果として焦点距離を変化させる。」

(2c)「Numerous solutions have been proposed by injecting fluids in a deformable transparent chamber, requiring an external pump [12]. More recently, the high birefringence of liquid crystals [13] was used to build micro-lens arrays, limited to very small lens sizes. …………The alternative presented here could fulfill the need for adjustable optical systems without mobile parts, in the 0.1-to-10mm size range approximately.」(159頁右欄2?12行)

「外部ポンプを必要とし、変形可能なチャンバー内に流体を注入することによる、多数の解決策が提案されている[12]。最近は、液晶の高い複屈折性[13]が、非常に小さいレンズサイズに限られるものの、マイクロレンズアレイの作製に利用されている。………… ここで示す代替策は、約0.1?10mmの範囲において可動部品なしに光学システムを調整できるという要請を満たすものである。」

(2d)「2. Principle and realization
Figure 1a is a schematic representation explaining the principle of operation of the liquid lens. A cell contains two non-miscible liquids, one is insulating and non-polar 1(当審注:四角囲みの1である。), the other is a conducting water solution 2 (当審注:四角囲みの2である。). The liquids are transparent with different index of refraction, but with the same density, such that gravity does not deform the liquid-liquid interface, which remains spherical whatever the orientation of the cell. The insulating liquid has the shape of a drop in contact with a thin insulating window (in gray in Fig. 1a). The window’s surface is hydrophobic, so that naturally the insulating liquid will sit on it. A transparent electrode is deposited on the external side of the window, we call it the counter-electrode. Application of a voltage between the counter-electrode and the conducting liquid favors the wettability of the surface by this same liquid. This deforms the interface from shape A to shape B (Fig. 1a) and thus changes the focal length. 」(159頁右欄15行?160頁左欄2行)

「2.原理と具体化
図1aは、液体レンズの作用原理を説明する略図である。セルは2つの非混和性の液体を含み、一方は、絶縁性の非極性の液体1 (当審注:四角囲みの1である。)で、他方は、導電性の水溶液2 (当審注:四角囲みの2である。)である。これら液体は、透明で、互いに異なる屈折率を有しているが、同一の比重を有しており、重力が液液界面を変形せず、セルが如何なる向きにあっても、球形をとどめている。絶縁性の液体は、薄い絶縁性の窓(図1aでは灰色)に接触している液滴の形状を有している。当該窓の表面は疎水性であり、したがって、絶縁性の液体は自然に窓の上に位置している。対向電極と呼ばれる透明電極が、窓の外側に設置されている。対向電極と絶縁性の液体との間に印可される電圧により、この液体による窓表面の濡れ性が影響される。これが界面を形状Aから形状Bに変形し(図1a)、かくして焦点距離が変化する。」

(2e)Fig.1は次のとおり。

(2f)「3. Characterization
We measure the focal length by using the set-up of Figure 2a. We use the variable lens as a magnifying glass.」(160頁右欄44?46行)

「3.評価
我々は図2の装置を用いて焦点距離を測定する。我々は可変レンズを拡大鏡として用いた。」


(3)刊行物3
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 第1の液体(13)が充填されたチャンバ(12)と、チャンバの絶縁壁の第1の表面の領域に静止して配置された第2の液体(11)の液滴とを含む可変焦点レンズであって、第1の液体と第2の液体が混和せず、かつ異なる屈折率およびほぼ同じ密度をもっており、
第1の液体が導電性であり、
第2の液体が絶縁性であり、
導体液体と、前記壁の第2の表面に配置された電極(16、26、35?37、75?79)との間に電圧を印加するための手段と、
電圧が印加される間に液滴の縁部の心合わせを維持し、かつその形状を制御するための心合わせ手段と
を含むことを特徴とする、可変焦点レンズ。」

(3b)「【0006】
本発明の目的は、エレクトロウェッティング現象を用いることによって電気的制御の関数として焦点を連続的に変化させることができるレンズを提供することである。」

(3c)「【0020】
図1は、本発明の第1の実施形態による可変焦点液体レンズの略横断面図を示す。絶縁液体11の液滴は、導体液体13が充填された誘電体チャンバ12の壁の内側表面に位置している。絶縁液体11と導体液体13は両方とも透明であって、混和せず、かつ異なる屈折率およびほぼ同じ密度をもっている。誘電体12はもともと導体液体13に対して低いぬれを有している。導体液体13に対して誘電体チャンバの壁のぬれが高いことを確実なものにする表面処理14は、絶縁液体の液滴11とチャンバ12の壁との間の接触域15を取り囲んでいる。表面処理14は液滴11の位置決めを維持し、絶縁液体が所望の接触面を超えて広がるのを防止する。システムが停止している時、絶縁液体の液滴11は自然に参照符号Aで表される形になる。「O」は、接触域15に垂直かつ、接触域15の中心を貫通する軸を表す。停止中、絶縁液体の液滴11は、デバイスの光軸を構成する軸Oを中心として心合わせされる。軸Oに隣接するデバイスの要素は透明である。軸Oの付近の光を通す電極16は、誘電体チャンバ12の壁の外側表面に配置され、前記誘電体チャンバ12上に絶縁液体の液滴11が位置している。電極17は導体液体13と接触している。電極17を液体13に浸漬すること、またはチャンバ12の内側壁に達成される導体堆積とすることができる。
【0021】
電極16と電極17の間に電圧Vが定立した時、電界が生じ、前記電界は上述のエレクトロウェッティングの原理によって導体液体13に対する領域15のぬれを高める。その結果、導体液体13が移動し、絶縁液体の液滴11を変形させる。したがって、レンズの焦点の変化が得られる。
【0022】
しかしながら、変形する間に液滴の中心は軸Oに対して移動しがちである。さらに、液滴が変形する間に、接触面の輪郭は環状という特性を失いがちである。本発明の態様は、領域15の中心に向かって半径方向に減少する電界を発生させることによって液滴の形が変化する間に、液滴の真円度と軸Oに対する液滴の同心度を維持することである。
【0023】
これを回避するため、本発明の態様によって、液滴11用の心合わせ手段が追加的に設けられている。かかる心合わせ手段の例は、あとで記載される本発明の第2から第6の実施形態に出てくる。」

(3d)図1は次のとおり。

(3e)「 【0024】
図2は、本発明の第2の実施形態による可変焦点液体レンズの略横断面図を示す。液滴11、軸O、チャンバ12、導体液体13、表面処理14、接触域15、電極17などの要素は、図1に例示した実施形態のものと同じである。位置Aと位置Bもまたそれぞれ、液滴11の静止位置と液滴11の限界位置に対応している。この第2の実施形態では、領域15の中心に向かって半径方向に減少する電界の発生が心合わせ手段に含まれている。この目的のため、軸Oに近づきながら領域15の表面から次第に離れる表面を有する電極26が設けられている。例えば軸Oを中心として心合わせされ、かつ液滴11が配置されたチャンバ12の壁の外側表面に達成されるテーパの側壁上に金属薄膜を堆積することによってかかる電極26を得ることができる。別の実施形態は、軸Oを中心として心合わせされ、かつ液滴11が配置されたチャンバ12の壁の外側表面に取り付けられる透明な誘電性樹脂の液滴の表面に金属薄膜を堆積することにある。樹脂の液滴の頂点は軸Oの付近に計画され、光を通す。
【0025】
電圧Vを0ボルトから、使われている材料に依存する最大電圧へ高めることができる。最大電圧に達した時、絶縁液体の液滴11は限界位置(参照符号Bで表す)に達する。電圧Vが0ボルトとその最大値の間を連続的に変化する時、絶縁液体の液滴11は連続的に位置Aから位置Bへ変形する。液滴が導体液体でできている場合に起こることとは異なり(上述のVallet、Berge、Vovelleの論文を参照)、液滴11は絶縁液体でできており、電圧が高い時、その周縁には微小な液滴が生じないことに留意されたい。」

(3f)図2は次のとおり。


3.対比
本願発明1と刊行物1記載の発明とを対比する。

刊行物1記載の発明における液晶方式の波面修正器は、2個の電極の間にネマチック液晶(LC)の配向層が設けられたものが、2枚の薄い透明な樹脂シートの間に配置されているものであり、いわゆる液晶レンズとして機能するものであるから、
刊行物1記載の発明の「2枚の薄い透明な樹脂シート」は、本願発明1の「透明な後部の壁」及び「透明な前部の壁」に相当し、「2枚の薄い透明な樹脂シートの間」には、本願発明1と同様に、「該透明な前部の壁と該透明な後部の壁との間に形成された空洞」を有するものといえる。
また、両発明は、「空洞にレンズの焦点を変更するための材料を含有する」点で共通するといえる。
さらに、刊行物1記載の発明には、ネマチック液晶(LC)分子の向きを変化させるのに用いる電極が設けられているから、この電極と、本願発明1の「該二つの流体の間における流体のメニスカスの曲率を変化させるために電圧を印加することができる電極」とは、「レンズの焦点を変更するために電圧を印加することができる電極」点で共通するといえる。
そして、刊行物1記載の発明の「焦点調整力を変化させることができるレンズ」は、本願発明1の「目のための可変焦点レンズ」に相当する。
また、本願発明1のレンズは、生体親和性の材料を含んでおり、また、明細書の【0001】の技術分野の記載から、刊行物1記載の発明と同様、コンタクトレンズや眼内埋め込みレンズを用途に含むものである。
してみると、両発明の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「透明な後部の壁、透明な前部の壁、該透明な前部の壁と該透明な後部の壁との間に形成された空洞、空洞に含有されたレンズの焦点を変更するための材料、並びに、レンズの焦点を変更するために電圧を印加することができる電極を含む、目のための可変焦点レンズであって、コンタクトレンズや眼内埋め込みレンズを用途に含む、可変焦点レンズ。」

[相違点1]
本願発明1は、空洞に含有された異なる屈折率の第一の及び第二の不混和性の流体、並びに、該二つの流体の間における流体のメニスカスの曲率を変化させるために電圧を印加することができる電極を含む、いわゆる「エレクトロウェッティングの原理を用いた2液性の可変焦点レンズ」であるのに対して、
刊行物1記載の発明は、空洞にはネマチック液晶(LC)等が含有されており、電圧を印加することができる電極は、LC分子の向きを変化させるためのもので、いわゆる液晶レンズである点。
つまり、両発明は、レンズの方式が異なる。

[相違点2]
本願発明1は、少なくとも、当該レンズの該後部の壁は、生体親和性の材料を含み、該材料は、該目に対する当該レンズの生体親和性を提供するものであるが、
刊行物1記載の発明は、コンタクトレンズや眼内埋め込みレンズを用途とするものであるが、少なくとも当該レンズの透明な後部の壁が生体親和性の材料を含むかどうかまでは特定できない点。


4.当審の判断
(1)相違点についての検討
上記相違点1,2について検討する。

刊行物2,3には、可変焦点の光学レンズとして、いわゆる「エレクトロウェッティングの原理を用いた2液性の可変焦点レンズ」が開示されている。
ここで、刊行物2,3には、可変焦点の光学レンズの用途として、コンタクトレンズや眼内埋め込みレンズは明記されていないものの、可変焦点の光学レンズの点で、刊行物1記載の発明の液晶レンズと共通する技術分野にあるといえる。
そして、刊行物1と刊行物2,3の両方に接した当業者であれば、刊行物1で、液晶レンズにより、コンタクトレンズや眼内埋め込みレンズへの適用が可能とされているから、同じく可変焦点の光学レンズである「エレクトロウェッティングの原理を用いた2液性の可変焦点レンズ」でも、それらへの適用が可能と考えるものである。
なお、刊行物2では、変形可能なチャンバー内に流体を注入することによる、多数の解決策が既に提案されているとして、その例として、液晶の高い複屈折性を利用したマイクロレンズアレイがあげられた上で、別の解決策として、エレクトロウェッティングの原理を用いた2液性の光学レンズが提案されている((2b)参照)。この記載からすると、刊行物2では、液晶レンズと、「エレクトロウェッティングの原理を用いた2液性の可変焦点レンズ」は、類似する技術として考えられているといえる。
そして、「エレクトロウェッティングの原理を用いた2液性の可変焦点レンズ」のコンタクトレンズや眼内埋め込みレンズへの適用に当たって、技術的な障害になるのは、レンズに対する制御手法であるというべきであるところ、その課題は、刊行物1において、液晶レンズのコンタクトレンズや眼内埋め込みレンズへの適用における課題として検討されており、原理的には解決策が提案されているといえる((1f)(1g)参照)から、上記障害は特にないと当業者は考えるものである。
また、刊行物2,3に開示される「エレクトロウェッティングの原理を用いた2液性の可変焦点レンズ」は、セル又はチャンバー内に液体を封入したものであり、セル又はチャンバーには、剛性が高い材料が使用されている蓋然性があり、また、電極がセル又はチャンバーの壁の外側に露出して設けられているものである。しかし、コンタクトレンズや眼内埋め込みレンズへの適用に際しては、刊行物1で課題としている、生体への適合性(親和性)を考慮して、生体親和性の材料でセル又はチャンバーや電極を覆うか、あるいは、セル又はチャンバー自体を生体親和性の材料とし、電極はセル又はチャンバーの壁の内側に設けるようにすることは、当業者であれば難なく思い付くことである。

これらのことから、刊行物1記載の発明において、可変焦点レンズとして、液晶レンズに換えて、「エレクトロウェッティングの原理を用いた2液性の可変焦点レンズ」(相違点1)を用いるとともに、コンタクトレンズや眼内埋め込みレンズとして人体に悪影響を及ぼさないように、「少なくとも、レンズの後部の壁は、生体親和性の材料を含み、該材料は、目に対する当該レンズの生体親和性を提供する」(相違点2)ようになすことは、当業者が容易に想到し得ることであると言わざるをえない。

(2)請求人の主張、本願発明1の効果について
請求人は、審判請求の理由として、次のように主張する。
「刊行物1は、生体適合(親和)性を有する液晶レンズについて記載しています。しかし刊行物1記載の液晶レンズには、本願明細書[0006]に記載されているように、(1)切り替え時間が十分に少ないため、薄いものでなければならず、結果としてレンズの光学的なパワーの範囲が、約3ジオプトリーに締めつけられること、及び(2)光線がその液晶レンズに斜めに入るとき、非点収差の効果を生じさせる、という問題点が存在します。
上記課題を解決するため、本願発明は、液晶レンズを使用しない構成をとっています。その点において、本願発明は、刊行物1に記載された発明にはない新規な構成及び作用効果を有し、刊行物1に記載の発明から容易に想到できたことの論理付けを行い得るものではないものと思います。
さらに刊行物2,3には液体レンズが記載されておりますが、刊行物1乃至3には、本願明細書[0006]に記載されている課題の解決について、記載も示唆もありません。よって当業者は、刊行物1乃至3に基づいて、本願明細書[0006]に記載されている課題を解決するために本願発明に想到することはないと思料いたします。」

請求人の主張は、要するに、刊行物1の液晶レンズについての問題点に着目しなければ、当業者が、液晶レンズに換えて、刊行物2,3の「エレクトロウェッティングの原理を用いた2液性の可変焦点レンズ」を用いることを発想することがない、というものである。
しかしながら、請求人の主張するような液晶レンズの問題点を把握しなくても、上記(1)のとおり、可変焦点レンズとして共通する技術である「エレクトロウェッティングの原理を用いた2液性の可変焦点レンズ」に変更することは、当業者であれば難なく想起することである。
また、構成の容易想到性が論理付けられる以上、本願発明1の効果を格別なものということはできない。

(3)まとめ
したがって、本願発明1は、刊行物1?3に記載された発明、または、刊行物1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


5.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-28 
結審通知日 2011-11-29 
審決日 2011-12-13 
出願番号 特願2007-501415(P2007-501415)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 邦久  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 清水 康司
金高 敏康
発明の名称 可変焦点レンズ  
代理人 伊東 忠彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ