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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 B82B
管理番号 1257340
審判番号 不服2010-16278  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-20 
確定日 2012-05-24 
事件の表示 特願2006-259090「薄膜の作製方法、並びに微粒子の堆積方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年2月22日出願公開、特開2007-44871〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成15年3月14日に出願された特願2003-70723号の一部を新たな特許出願として、平成18年9月25日に適法に出願された、いわゆる分割出願であって、平成21年6月25日付けで手続補正がなされた後に通知された、平成21年9月25日付け拒絶理由通知(最後)に対して同年11月26日付けで意見書の提出及び手続補正がなされたものの、平成22年4月16日付けで、前記11月26日付け手続補正について補正の却下の決定がなされるとともに、拒絶査定がなされた。
本件は、前記拒絶査定を不服として平成22年7月20日に請求された拒絶査定不服審判事件であって、当該請求と同時に手続補正がなされた。その後、当審において平成23年5月9日付けで前置報告書の内容について意見を求めるための審尋を行ったところ、同年7月7日付けで回答書が提出された。また、本件について、平成23年11月18日付けで上申書が提出され、平成24年2月6日に面接が行われ、同年2月23日に上申書がFAX送信されている。なお、上記FAX送信された上申書と同じ内容の上申書が、平成24年3月23日付けでオンライン提出されている。

第2 本願発明
1 平成22年7月20日付け手続補正の内容と目的
平成22年7月20日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1及び明細書の記載を補正するものであって、その請求項1についてする補正は、実質的に、前記平成21年9月25日付け拒絶理由で示された事項について、補正前(平成21年6月25日付け手続補正書で補正。)の請求項1、5に記載された、照射する光の波長に関する「電場強度比が最大となる」という発明特定事項を、「電場強度比の絶対値の二乗が最大となる」と補正するものであり、その補正に係る技術的事項は本件出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項から明らかな事項であるといえるから、本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第4号に掲げる明りようでない記載の釈明を目的とするものである。また、明細書についてする補正の、当該請求項1に関する補正事項と同様の補正以外の補正についても、いわゆる新規事項を含まない補正であるといえる。
したがって、本件補正は適法になされたものである。

2 本願発明の認定
したがって、本件出願の発明は、平成22年7月20日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「ナノオーダの微粒子を基板表面に堆積させて構成した薄膜の作製方法において、
ナノメータサイズの凹凸部又は不純物層が予め形成された基板表面へ上記微粒子を堆積させると共に光を照射する堆積工程を有し、
上記堆積工程では、照射する光の波長を制御し、下記の(1)式を満たすサイズのナノオーダの微粒子において、当該ナノオーダの微粒子の電場を上記基板表面上の電場で除した電場強度比の絶対値の二乗が最大となるような波長の光を照射し、照射する光の波長に共鳴する所定のサイズを有する微粒子のみを消失させ、上記サイズ以外の上記微粒子を堆積させて、堆積する微粒子のサイズを制御すること
を特徴とする薄膜の作製方法。
【数1】


但し、a、bは、それぞれ上記ナノオーダの微粒子の短手方向及び長手方向のサイズを示し、λは、上記堆積工程によって照射される光の波長を示し、ε_(s)は、上記基板表面上の誘電率を示し、ε_(m)は、上記ナノオーダの微粒子の誘電率を示し、E_(0)は、上記基板表面上の電場を示し、E_(Tip)は、上記ナノオーダの微粒子の電場を示している。」

3 本件出願の拒絶査定の理由
本件出願の平成22年4月16日付け拒絶査定の理由3(以下「理由」という。)は、「請求項1、5において「電場強度比が最大となるような波長の光を照射し、照射する光の波長に共鳴する所定のサイズを有する微粒子のみを消失させ」と記載されているが、発明の詳細な説明には、当業者が「電場強度比が最大となるような波長の光を照射し、照射する光の波長に共鳴する所定のサイズを有する微粒子のみを消失させ」ることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本件出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」というものである。
そして、上記「電場強度比が最大となるような波長の光を照射し、照射する光の波長に共鳴する所定のサイズを有する微粒子のみを消失させ」るのは、前記消失とともに「上記サイズ以外の上記微粒子を堆積させて、堆積する微粒子のサイズを制御する」ためであることは、上記本願発明の記載からして明らかであるから、以下、本件出願の発明の詳細な説明の記載に関し、「電場強度比が最大となるような波長の光を照射し、照射する光の波長に共鳴する所定のサイズを有する微粒子のみを消失させ」るとともに「上記サイズ以外の上記微粒子を堆積させて、堆積する微粒子のサイズを制御する」ことについて、上記理由を検討する。

4 本件出願の発明の詳細な説明の記載
(1)「電場強度比が最大となるような波長の光を照射し、照射する光の波長に共鳴する所定のサイズを有する微粒子のみを消失させ」るとともに「上記サイズ以外の上記微粒子を堆積させて、堆積する微粒子のサイズを制御する」ことに関して、本件出願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施の形態として、本発明を適用した薄膜の作製方法、並びに微粒子の堆積方法を図1に示したCVD(Chemical Vapor Deposition)装置1を用いて実現する例につき説明する。
【0021】
CVD装置1は、チャンバ11内に、基板13と、上記基板13を載置するためのステージ14とを配設して構成され、またこのチャンバ11の外部において基板13表面に対向する側に配設された光発振器16と、光発振器16により発振された光の偏光方向を変えて、これを基板13へ照射する波長板17と、例えばZn微粒子を堆積させる場合にジエチル亜鉛(DEZn)雰囲気をチャンバ11へ注入するためのガス供給部18を備えて構成されている。
【0022】
チャンバ11は、充填するガスの濃度等を均一化するために設けられたものである。なお、チャンバ11内のガスの濃度を均一化させることにより、ガス分子と光の波長との関係において基板13への吸着状態を制御すべく、チャンバ11には、ガスの濃度を制御するための図示しない調整弁が付設されている。またこのチャンバ11には、内部の圧力を制御するための図示しない圧力弁が付設され、減圧下で成膜するCVDプロセスに鑑みてチャンバ11内の圧力は、例えばDEZn雰囲気において例えば5mTorr程度となるように制御される。このチャンバ11には、基板13表面に対向する面において窓11aがさらに配設されており、この窓11aを介して光発振器16から光を入射させることができる。
【0023】
基板13は、例えば透明なガラス基板等の絶縁材料により構成される。ちなみに、この基板13として、ガラス以外に、シリコン、GaAs、GaN、ZnO等、光によって電子を誘起可能な物質を用いてもよいことは勿論である。」
「【0025】
ステージ14は、基板13を載置するための図示しない載置部や、基板13を加熱するための図示しない加熱機構が設けられており、CVDによりラジカル化させたガス分子の成膜状況をコントロールすることができる。
【0026】
光発振器16は、図示しない電源装置を介して受給した駆動電源に基づき光発振し、例えば、Nd:YAG等の固体レーザ、GaAs等の半導体レーザ、ArF等のガスレーザ等の各種レーザ、さらには、LEDもしくはキセノンランプ等の光を出射する光源である。この光発振器16から出射される光の波長の詳細については後述する。」
「【0028】
このようなCVD装置1において、ステージ14上に基板13を載置して、ガス供給部18からチャンバ11内へガスを充填させる。そして、充填させたガスに対してエネルギーを与えることで化学反応を起こさせ、ガス分子を分解させる。そしてこの分解により得られる分解生成物としての微粒子を基板13上に堆積させて薄膜を作製する。ちなみに熱CVD法に基づき成膜する場合において、この充填させたガスに与えるエネルギーは熱である。また光CVD法に基づき成膜する場合において、この充填させたガスに与えるエネルギーは光である。
【0029】
また本発明では、ナノメータサイズの核が形成された基板13に対して、上述したCVD装置1により微粒子を堆積させると共に、この核が形成されている領域について光発振器16から発振された光を照射する。これにより、核をいわゆる起点として微粒子の堆積傾向が照射される光により誘起されることになり、ひいては堆積させる微粒子の成長方向、サイズ、微粒子の種類、さらには堆積させる微粒子の形状等が制御されることになる。
【0030】
さらに本発明では、光を発振する光発振器16をコントロールすることにより、基板13へ照射する光の波長、パルス幅、強度を制御する。またこのCVD装置1では、光発振器16から発振される光につき、波長板17の回転角を調整することにより、基板13へ照射する光の偏光成分を制御する。さらに、このCVD装置1では、光発振器16から発振される光の伝搬方向を図示しない反射板等で調整することにより、基板13へ照射する光の入射角を制御する。即ち、上述したこの光の偏光成分、波長、パルス幅、強度、入射角の5つのパラメータを自在に組み合わせて選択し、またこれらを制御することにより、微粒子を選択的に堆積させる。」
「【0036】
次に、照射する光の波長を制御することにより、堆積させる微粒子のサイズをコントロールする場合につき説明をする。
【0037】
基板上に実際に堆積される微粒子のサイズは多岐に亘り、各サイズの微粒子における基底準位と励起準位のエネルギーギャップは、相互に異なる。このため、照射する光の波長に共鳴する微粒子は、基底準位にある励起子が励起準位へ励起して温度が上昇して融点を超える結果、そのまま蒸発して消失することになる。一方、照射する光の波長に共鳴しない微粒子は、基底準位にある励起子が励起しないため、消失せずにそのまま残存することになる。
【0038】
ちなみに、この照射する光に共鳴する微粒子のサイズと波長の関係は、光を照射することによる微粒子の電場強度の増大により説明することもできる。横方向a、縦方向bのサイズで構成される微粒子に照射される光の波長をλとし、また基板13上の電場E_(0)に対して微粒子の電場をE_(Tip)とし、基板13上の誘電率をε_(s)とし、微粒子の誘電率をεmとしたとき、微粒子の電場強度比E_(Tip)/E_(0)は、G.T.Boydによって提案されている式(1)で表すことができる(例えば、G.T.Boyd et al., PRB 30, 519(1984)参照。)。
【0039】
【数1】
(当審注:上記「2 本願発明の認定」の【数1】と同じであるため、省略。)
【0040】
この式(1)で示されるように、微粒子の電場強度比E_(Tip)/E_(0)は、照射する光の波長λと、微粒子の楕円比m(=b/a)に支配される。換言すれば、電場が増強される波長は、微粒子の楕円比mに依存することになる。
【0041】
図5は、この式(1)に基づいて計算した微粒子の横方向のサイズaに対する電場強度比E_(Tip)/E_(0)の関係を示している。ちなみに、この計算では、微粒子の誘電率ε_(m)として亜鉛の誘電率を用いており、また楕円比mを1.01と仮定している。この図5に示すように、照射する波長に応じて、電場強度比E_(Tip)/E_(0)が増大するサイズaは異なる。すなわち、各微粒子は、ある一定の電場強度比に到達したときに蒸発して消失し、各波長間において消失する微粒子のサイズが互いに異なる。
【0042】
このため、照射する光の波長を制御することにより、電場強度比が増大するサイズaからなる微粒子のみ選択的に励起させて消失させることができ、ひいては、基板13上に堆積される微粒子のサイズをコントロールすることが可能になる。ちなみに、近接場光プローブ(例えば、特開平10-082792号公報参照。)を用いて、局所領域に発生させる近接場光の波長を制御することにより、当該局所領域において堆積される微粒子のサイズを選択することも可能となる。」
「【0049】
なお、本発明を適用した薄膜の作製方法、並びに微粒子の堆積方法をCVD装置1を用いて実現する例を挙げて説明をしたが、かかる実施例に限定されるものではなく、例えば図9に示すようなスパッタリング装置3を用いて実現するようにしてもよい。
【0050】
このスパッタリング装置3は、チャンバ31内に基板13と、上記基板13を載置するためのステージ32と、基板13に対向する側に配設されたターゲット34と、このターゲット34が装着される電極35とを配設して構成され、またこのチャンバ31の外部において、電極35と接続されて配設されるRF又はDC電源36と、チャンバ31の側面等に配される光発振器37と、光発振器37から出射される光を窓31aを介して基板13上へ導くための反射板38と、さらにはこの基板13へ導く光の偏光成分を制御するための波長板39とを備えて構成される。
【0051】
このスパッタリング装置3では、チャンバ31内を約10^(-2)Torrまで排気した後に、Ar等の不活性ガスを導入し、さらにRF又はDC電源36により電極に対してRF又はDCを印加し放電させる。これにより、ターゲット34表面近傍において、プラズマ状態を作り出すことができる。この生成されたプラズマの電位は、通常ターゲット34表面より高くなるため、プラズマとターゲット34との間で直流的な電界が生じることになる。不活性ガス中のAr^(+)等の正イオンは、この生じた電界により加速されて、ターゲット34表面に衝突し、その結果スパッタリングが起こるため、ターゲット34上の微粒子が順次放出される。ちなみに、この放出された微粒子は、不活性ガスの分子と衝突することなく、基板13上に堆積されることになる。
【0052】
また、このスパッタリング装置3においても同様に、ナノメータサイズの核が形成された基板13に対して、上述した微粒子を堆積させると共に、この核が形成されている領域について光発振器37から発振された光を照射する。これにより、核をいわゆる起点として照射される光により微粒子の堆積が誘起されることになり、上述した光CVD装置1と同様に、堆積させる微粒子の成長方向、サイズ、微粒子の種類、さらには堆積させる微粒子の形状等を制御することができる。」
「【0059】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、気相における微粒子の堆積方法として、MBE(molecular beam epitaxial)法、ボート加熱蒸着、E-beam蒸着、イオンプレーティング等を用いてもよく、また、固相における微粒子の堆積方法として、光を照射すると互いに異なる成分に分離する相変化材料(光メモリ)等を用いてもよく、さらに液層(当審注:「液相」の誤記と認める。)における微粒子の堆積方法として、メッキ等を用いてもよい。
【0060】
また、上述したナノメータサイズの核が予め形成された基板表面へ微粒子を堆積させると共に光を照射する堆積工程を有するいかなる薄膜の作製方法並びに微粒子の堆積方法に適用してもよいことは勿論である。」
「【図5】




(2)また、照射する光の波長を制御することにより、基板上に堆積させる微粒子の形状を制御し、六角形状の微粒子を消失させて、微小な円形状の微粒子のみを選択的に堆積させた例として、次の図が図示されている。(段落【0045】参照)
「【図7】




5 本願発明に関する本件出願の発明の詳細な説明の記載要件充足性
(1)本願発明の技術的意義
本願発明は、薄膜の作製方法において、「(所定の)波長の光を照射し、照射する光の波長に共鳴する所定のサイズを有する微粒子のみを消失させ、上記サイズ以外の上記微粒子を堆積させて、堆積する微粒子のサイズを制御する」ことを発明特定事項とするものであるが、最初に、当該発明特定事項の技術的意義について検討する。
ア 本件出願の発明の詳細な説明の上記【0037】には、「実際に堆積される微粒子のサイズは多岐に亘り」と記載されていることからして、多岐に亘るサイズの微粒子中の特定サイズの微粒子のみを消失させたとしても、「多岐に亘るサイズ」の微粒子が得られることに変わりはなく、「堆積する微粒子のサイズを制御」したことにならないこと、ならびに、同【0045】及び【図7】には、「照射する光の波長を制御することにより」「微小な円形状の微粒子のみ選択的に堆積させる」ことが記載されていることからして、本願発明の前記発明特定事項による技術的意義は、所定のサイズの微粒子を選択的に堆積させるように制御することであって、所定のサイズの微粒子のみを選択的に排除し、その他の多岐に亘る様々なサイズの微粒子を堆積せしめることを意味するものではないことは明らかであるといえる。
イ そして、本願発明の技術的意義が、所定のサイズの微粒子のみを選択的に排除し、その他の多岐に亘る様々なサイズの微粒子を堆積せしめる点にないことは、平成21年11月26日付け意見書、審判請求書の、「本願発明によると、堆積する微粒子の粒径は照射する光の波長によって制御され、その粒径よりも大きな粒径が形成されないようになる」旨の主張内容からしても首肯し得る事項である。

(2)本件出願の発明の詳細な説明から理解できる事項
そこで、本願発明の「消失」及び「堆積」に関して、上記発明の詳細な説明の記載を検討すると、以下の事項が理解できる。
ア 本願発明の薄膜の作製方法における堆積は、CVD装置、スパッタリング装置、MBE(molecular beam epitaxial)法、ボート加熱蒸着、E-beam蒸着、イオンプレーティング等の気相堆積方法のみならず、光を照射すると互いに異なる成分に分離する相変化材料(光メモリ)等を用いた固相堆積方法や、メッキ等の液相堆積方法をすべからく意味するものである。
イ 特にCVD装置を用いた光CVD法に基づいて微粒子を堆積させる場合、照射する光は、CVD装置のチャンバ内に充填せしめられたガスに対して化学反応を起こさせ、ガス分子を分解させるエネルギーを与えるために用いられるものであり、微粒子の堆積傾向は照射される光により誘起される。
ウ 基板上に実際に堆積される微粒子のサイズは多岐に亘るものの、微粒子のサイズによって基底準位と励起準位のエネルギーギャップは相互に異なり、照射する光の波長に共鳴する微粒子は、基底準位にある励起子が励起準位へ励起して温度が上昇して融点を超えるため蒸発して消失し、照射する光の波長に共鳴しない微粒子は、基底準位にある励起子が励起しないため、消失せずにそのまま残存する。
エ 照射する光の波長と、共鳴する微粒子のサイズの関係は、【数1】の電場強度比E_(Tip)/E_(0)によって示され、各微粒子は、ある一定の電場強度比に到達したときに蒸発して消失する。
オ これらの事項からして、本願発明の薄膜の作製方法は、気相、固相、液相での堆積において用いられる堆積方法であって、気相では、照射される光は化学反応(分子の分解)のエネルギー源として作用するとともに堆積傾向を誘起し、その照射される光の波長において、「消失」は、【数1】で示されている電場強度比E_(Tip)/E_(0)が所定値に到達する微粒子について生じ、「堆積」は、当該電場強度比が所定値に到達しない微粒子について生じる、と理解できる。
カ そうすると、本件出願の発明の詳細な説明には、照射する光の波長を制御することにより、「所定のサイズを有する微粒子のみを消失させ、その他の多岐に亘る様々なサイズの微粒子を堆積させる」方法について、一応、記載されていると考えられる。

(3)本願発明と、本件出願の発明の詳細な説明から理解できる事項の対比・検討
ア 上記(1)、(2)で述べた技術的意義を有する本願発明と、発明の詳細な説明から理解できる事項を対比すると、本件出願の発明の詳細な説明に記載されていると考えられる、「所定のサイズを有する微粒子のみを消失させ、その他の多岐に亘る様々なサイズの微粒子を堆積させる」方法は、本願発明の技術的意義と解することができない、所定のサイズの微粒子のみを選択的に排除し、その他の多岐に亘る様々なサイズの微粒子を堆積せしめることに相当する事項であるといえるから、本件出願の発明の詳細な説明には、本願発明の技術的意義とは一致しない具体的方法が記載されていることになる。
イ そうすると、本件出願の発明の詳細な説明は、照射する光の波長を制御することにより、所定のサイズの微粒子を堆積させるように制御するという技術的意義を達成する本願発明について明確かつ十分な具体性をもって記載したものとはいえず、当業者といえども、その記載に基づいて、その実施をすることができるとはいえない。

(4)請求人の主張に関する検討
ア 本願発明の技術的意義と認められる、「照射する光の波長を制御することにより、所定のサイズの微粒子を堆積させるように制御すること」について、請求人の提出した資料及び主張を勘案し、当業者の技術常識に照らすことにより、上記本件出願の発明の詳細な説明が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえるか否かについて、さらに検討する。
イ 請求人は、平成21年11月26日付け意見書、審判請求書、及び、平成23年11月18日付け上申書において、参考資料(実験結果)を示しつつ、基板上に堆積した小さな微粒子が成長する過程において、光の波長を制御して照射すると、当該波長において共鳴する大きさまで成長した微粒子が消失することにより、その大きさよりも微粒子が成長することなく堆積されるため、所定のサイズ(以下の)の微粒子のみを堆積させることができる旨主張し、また、平成24年2月23日にFAX送信された上申書において、さらに参考資料(学術論文)を提示しつつ、微粒子を堆積させる堆積工程において、初期に堆積した微小堆積核を起点として結晶成長が進むことは本件出願前に当業者に周知の事項である旨、主張している。
ウ 上記主張について検討するに、請求人が前記平成23年11月18日付け上申書において提示した参考資料中の参考資料1は、照射する光の波長に応じて所定の粒径の微粒子のみが選択的に堆積することを示すものであって、主張内容と一致しない上、本件出願の発明の詳細な説明には、「化学気相成長法」(【0004】)、「微粒子の成長方向」(【0029】、【0052】)という記載はあるものの、微粒子の消失について、基板上に堆積した小さな微粒子が成長する過程において消失することは何ら記載されていない。また、上記(2)で既に述べたとおり、本件出願の発明の詳細な説明の記載から理解できる事項は、気相、固相、液相での堆積において用いられる堆積方法であって、気相では、照射される光は化学反応(分子の分解)のエネルギー源として作用するとともに堆積傾向を誘起し、その照射される光の波長において、「消失」は、【数1】で示されている電場強度比E_(Tip)/E_(0)が所定値に到達する微粒子について生じ、「堆積」は、当該電場強度比が所定値に到達しない微粒子について生じるというものであり、さらに、上記「4」の「(1)」に摘記した【0023】の記載からして、前記消失や堆積を生じせしめる基板に、ガラス基板の他、シリコン、GaAs、GaN、ZnO等、光によって電子を誘起可能な物質を用いるものであるのに対し、平成24年2月23日にFAX送信された上申書に添付された参考資料は、結晶基板上に結晶成長するエピタキシャル成長に関する文献である。
エ そして、例えば液相におけるメッキは、イオン化した物質が基板上に、必ずしも結晶化することなく単に堆積して層状に形成される事象であることは周知の事項であるし、また、ガラスは、一般にアモルファス材料と考えられることからして、本件出願の発明の詳細な説明が、エピタキシャル成長のような成長過程を経ることを前提として記載されたものであるとも考えられない。
オ そうすると、当業者といえども、本件出願の発明の詳細な説明の記載から、そこに記載された「堆積」が「堆積した小さな微粒子が成長する過程」を意味するものと理解することはできないから、本件出願の発明の詳細な説明は、当業者の技術常識に照らしても、所定の技術的意義を達成する本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

6 むすび
以上のとおり、本件出願の発明の詳細な説明の記載は、本件出願の請求項1に係る発明について、特許法第36条第4項第1号に規定する記載要件を充足していない。
したがって、本件出願は原査定のとおり、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-26 
結審通知日 2012-03-27 
審決日 2012-04-09 
出願番号 特願2006-259090(P2006-259090)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (B82B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 久則  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 神 悦彦
吉川 陽吾
発明の名称 薄膜の作製方法、並びに微粒子の堆積方法  
代理人 藤井 稔也  
代理人 伊賀 誠司  
代理人 小池 晃  
代理人 祐成 篤哉  
代理人 野口 信博  

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