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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1257349
審判番号 不服2011-1639  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-24 
確定日 2012-05-24 
事件の表示 特願2005-334571「固定式等速自在継手」拒絶査定不服審判事件〔平成19年6月7日出願公開、特開2007-139092〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成17年11月18日の出願であって、平成22年10月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年1月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

II.平成23年1月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年1月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
複数のトラック溝が形成された球状内面を備えた外方部材と、複数のトラック溝が形成された球状外面を備えた内方部材と、外方部材のトラック溝と内方部材のトラック溝の協働で形成された楔形のボールトラックに配置したボールと、外方部材の球状内面と内方部材の球状外面との間に配置され、ボールを保持する保持器とを備え、弾性的な押圧力を軸方向に作用させる押圧部を前記内方部材側に設け、かつ、押圧部からの押圧力を受ける受け部材を保持器の内径に嵌合させた固定式等速自在継手において、前記保持器の受け部材嵌合部の内径に、等速自在継手を組み立てるまでに前記受け部材が保持器から抜脱することを防止する抜け止め機構を設けたことを特徴とする固定式等速自在継手。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
複数のトラック溝が形成された球状内面を備えた外方部材と、複数のトラック溝が形成された球状外面を備えた内方部材と、外方部材のトラック溝と内方部材のトラック溝の協働で形成された楔形のボールトラックに配置したボールと、外方部材の球状内面と内方部材の球状外面との間に配置され、ボールを保持する保持器とを備え、弾性的な押圧力を軸方向に作用させる押圧部を前記内方部材側に設け、かつ、押圧部からの押圧力を受ける受け部材を保持器の内径に嵌合させた固定式等速自在継手において、前記保持器の受け部材嵌合部の仕上げ加工なしの内径に、等速自在継手を組み立てるまでに前記受け部材が保持器から抜脱することを防止する抜け止め機構を設け、前記抜け止め機構は、受け部材の挿入方向と反対側への移動を規制することにより前記受け部材を係止する段差としたことを特徴とする固定式等速自在継手。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明特定事項である「保持器の受け部材嵌合部の内径」を「保持器の受け部材嵌合部の仕上げ加工なしの内径」(下線部のみ)とするとともに、同じく「抜け止め機構」を「受け部材の挿入方向と反対側への移動を規制することにより前記受け部材を係止する段差とした」とすることにより、その構成を限定的に減縮するものである。
これに関して、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「研削あるいは焼入れ鋼切削などの仕上げ加工なしで」(段落【0031】参照)、及び「この受け部材の抜け止め機構としては、受け部材の挿入方向と反対側への移動を規制することにより受け部材を係止する段差とした構造が望ましい。」(段落【0014】参照)と記載されている。
結局、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止の規定に違反するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開2003-130082号公報
(2)刊行物2:特開2001-246906号公報
(3)刊行物3:特開平2-161180号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「固定型等速自在継手」に関して、図面(特に、図1、2、及び5を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「本発明は固定型等速自在継手、およびこれを有するステアリング装置に関し、特に回転バックラッシュを嫌う用途に好適な固定型等速自在継手に関する。」(第2頁第1欄第35?38行、段落【0001】参照)
(b)「【0019】図1に示すように、このタイプの等速自在継手は、複数のトラック溝1aを形成した球状内面1bを備える外方部材としての外輪1と、複数のトラック溝2aを形成した球状外面2bを備える内輪2と、外輪1のトラック溝1aと内輪2のトラック溝2aとの協働で形成されるボールトラックに配された複数のボール3と、外輪1の球状内面1bと内輪2の球状外面2bとの間に配置され、ボール3を収容するためのポケット4aを円周方向等間隔に有する保持器4とを主要な構成要素とするものである。トラック溝1a,2aは軸方向に延びる曲線状をなし、通常は6本(または8本)がそれぞれ球状内面1bおよび球状外面2bに形成される。内輪2の内周にセレーションやスプライン等のトルク伝達手段を介してシャフト5を結合することにより、内方部材6が構成される。」(第3頁第4欄第10?24行、段落【0019】参照)
(c)「【0022】以上から、一対のトラック溝1a,2aにより外輪1の開口側から奥部側へ縮小する楔状のボールトラックが形成され、このボールトラックに各ボール3が転動可能に組み込まれる。」(第3頁第4欄第42?45行、段落【0022】参照)
(d)「【0026】図1に示すように、内方部材6を構成するシャフト5の軸端(外輪奥部側)には、押圧部材10が取り付けられる。図示例の押圧部材10は、図2に示すように円筒状の胴部10aと、これよりも外径側に張り出した頭部10bとを具備しており、シャフト5と同軸に配置した状態で胴部10aがシャフト軸端に軸方向へスライド可能に挿入されている。頭部10bとシャフト軸端との間には弾性部材12としてコイルバネが介装され、この弾性部材12は押圧部材10を軸方向の外輪奥部側へ押圧する弾性力の発生源となる。頭部10bの端面は凸球面状に形成され、この凸球面部分が弾性的な押圧力を軸方向に作用させる押圧部11として機能する。
【0027】保持器4の外輪奥部側の端部には、受け部材14が取り付けられる。この受け部材14は、保持器4の外輪奥部側の端部開口を覆う蓋状をなし、部分球面状の球面部14aとその外周に環状に形成された取付け部14bとで構成される。球面部14aの内面(シャフト5と対向する面)は凹球面状で、この凹球面部は押圧部11からの押圧力を受ける受け部15として機能する。取付け部14bは、保持器4の端部に圧入、溶接等の適宜の手段で固定されている。」(第4頁第5欄第15?35行、段落【0026】及び【0027】参照)
(e)「【0033】図5は、本発明の他の実施形態を示すもので、弾性部材12としてのコイルバネをシャフト5の軸端に埋め込んだ点が図1に示す実施形態と異なる。この実施形態においては、軸端に円筒状の収容部材17が埋め込まれており、この収容部材17の内部に押圧部材10および弾性部材12が収容される。収容部材17の先端は内径側に折り曲げて押圧部材10を案内する案内部17aとしている。この実施形態によっても図1の実施形態と同様にトラック間の隙間を詰めて、回転バックラッシュを防止することができる。また、図示は省略するが、押圧部材10と受け部材14の間の滑り抵抗を低減させるため、押圧部材10をボール(球)とし、これを受け部材14の凹球面で転がすようにすることもできる。」(第4頁第6欄第37?50行、段落【0033】参照)
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
複数のトラック溝1aが形成された球状内面1bを備えた外輪1と、複数のトラック溝2aが形成された球状外面2bを備えた内輪2と、外輪1のトラック溝1aと内輪2のトラック溝2aの協働で形成された楔状のボールトラックに配置したボール3と、外輪1の球状内面1bと内輪2の球状外面2bとの間に配置され、ボール3を保持する保持器4とを備え、弾性的な押圧力を軸方向に作用させる押圧部11を前記内輪2側に設け、かつ、押圧部11からの押圧力を受ける受け部材14を保持器4の内径に嵌合させた固定型等速自在継手において、前記保持器4の内径に、前記受け部材14が圧入等で固定されている固定型等速自在継手。

(刊行物2)
刊行物2には、「車輪駆動用軸受ユニット」に関して、図面(特に、図1?5を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(f)「この発明に係る車輪駆動用軸受ユニットは、等速ジョイントとハブユニットとを一体化したもので、独立懸架式サスペンションに支持された駆動輪{FF車(前置エンジン前輪駆動車)の前輪、FR車(前置エンジン後輪駆動車)及びRR車(後置エンジン後輪駆動車)の後輪、4WD車(四輪駆動車)の全輪}を懸架装置に対して回転自在に支持すると共に、上記駆動輪を回転駆動する為に利用する。」(第3頁第3欄第8?15行、段落【0001】参照)
(g)「【0030】一方、前記ハブ4の外端部内周面で上記外周側円筒面部46に対向する部分には、内周側円筒面部50を形成している。この内周側円筒面部50の内径は、前記スプライン孔14の内径よりも十分に大きくしている。そして、これら内周側円筒面部50とスプライン孔14との軸方向端縁同士を、外径側係合部である段差面51により連続させている。又、上記内周側円筒面部50の内半部の内径は、外半部の内径よりも僅かに(例えば0.1?0.2mm程度)大きくしている。そして、この様な内半部に、抜け止め部材である係止環47の外周縁部を内嵌固定している。」(第6頁第10欄第17?27行、段落【0030】参照)

(刊行物3)
刊行物3には、「ボールジョイントピストン」に関して、図面(特に、第3及び9図を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(h)「本発明は、ボールジョイントピストンに係り、特に、例えば密閉形圧縮機に用いられ、信頼性をたかめ組立性を向上するのに好適なボールジョイントピストンに関するものである。」(第2頁左上欄第2?5行)
(i)「第9図に示すボールジョイントピストンでは、ピストン3内径に圧入されたほぼ円筒形状の圧着ばね5”により球体2が係止されている。」(第2頁右上欄第6?8行)
(j)「第9図に示すように、係止部材として圧着ばね5”をピストン内壁の段付き部を利用して係止した」(第2頁左下欄第8?10行)
(k)「係止部材に係る係止ばね5の球体保持部51はロッド1先端の球体2を保持している。係止ばね5の係止部53は、ピストンスカート32の内周に形成された内径段差部に係る溝33の底に押付力fによって圧接される。」(第3頁左上欄第16?20行)
(l)「その係止方法は、ピストン内壁に係るピストンスカート32の内周に、その内径より大なる径で、ピストン中心軸に対し同一高さの溝33を設け、この溝33と前記ピストンスカート32内径との段差部に、係止ばね5の弾性を有する係止部53、腕端部52aを当接させるものである。」(第4頁左上欄第9?15行)
(m)「係止ばね5の装着に当っては、腕端部52aの端を治具で押してピストン内壁へ挿入し、係止部53が内径段差部すなわち溝33に達すると、第3図に示す係止状態になる。」(第4頁右上欄第11?14行)

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「トラック溝1a」は本願補正発明の「トラック溝」に相当し、以下同様にして、「球状内面1b」は「球状内面」に、「外輪1」は「外方部材」に、「トラック溝2a」は「トラック溝」に、「球状外面2b」は「球状外面」に、「内輪2」は「内方部材」に、「楔状」は「楔形」に、「ボール3」は「ボール」に、「保持器4」は「保持器」に、「押圧部11」は「押圧部」に、「受け部材14」は「受け部材」に、「固定型等速自在継手」は「固定式等速自在継手」に、それぞれ相当するので、両者は、下記の一致点、及び相違点を有する。
<一致点>
複数のトラック溝が形成された球状内面を備えた外方部材と、複数のトラック溝が形成された球状外面を備えた内方部材と、外方部材のトラック溝と内方部材のトラック溝の協働で形成された楔形のボールトラックに配置したボールと、外方部材の球状内面と内方部材の球状外面との間に配置され、ボールを保持する保持器とを備え、弾性的な押圧力を軸方向に作用させる押圧部を前記内方部材側に設け、かつ、押圧部からの押圧力を受ける受け部材を保持器の内径に嵌合させた固定式等速自在継手。
(相違点)
本願補正発明は、「前記保持器の受け部材嵌合部の仕上げ加工なしの内径に、等速自在継手を組み立てるまでに前記受け部材が保持器から抜脱することを防止する抜け止め機構を設け、前記抜け止め機構は、受け部材の挿入方向と反対側への移動を規制することにより前記受け部材を係止する段差とした」のに対し、引用発明は、保持器4の内径に、受け部材14が圧入等で固定されているものの、本願補正発明のような構成を具備していない点。
以下、上記相違点について検討する。
(相違点について)
刊行物1には、受け部材14の「取付け部14bは、保持器4の端部に圧入、溶接等の適宜の手段で固定されている。」(第4頁第5欄第34及び35、段落【0027】、上記摘記事項(d)参照)と記載され、また、図1及び2の記載から、受け部材14は図中右側から左側に挿入され、圧入等で保持器4の端部に固定され、等速自在継手を組み立てるまでに受け部材14が保持器4から抜脱することを防止していることが記載又は示唆されている。
固定の技術分野において、円筒部を有する部材が抜脱することを防止するために、挿入方向と反対側への移動を規制することができる段差による抜け止め機構とすることは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物2には、「上記内周側円筒面部50の内半部の内径は、外半部の内径よりも僅かに(例えば0.1?0.2mm程度)大きくしている。そして、この様な内半部に、抜け止め部材である係止環47の外周縁部を内嵌固定している。」(第6頁第10欄第23?25行、段落【0030】、上記摘記事項(g)参照)と記載され、図1、2、4及び5には、内周側円筒面部50、及び係止環47が図示されている。刊行物3には、上記摘記事項(j)(k)(l)及び(m)の記載とともに、第3図には、内径段差部すなわち溝33が、第9図には、段付き部が図示されている。)にすぎない。
刊行物2には、内周側円筒面部50に仕上げ加工を施すことは記載も示唆もされていないし、刊行物3には、内径段差部に係る溝33や段付き部に仕上げ加工を施すことは記載も示唆もされていないことから、段差による抜け止め機構において、嵌合部の内径を仕上げ加工なしとすることは、当業者が必要に応じて適宜選定し得る設計的事項にすぎないものである。
さらに、等速自在継手において、研削加工等によって滑らかに仕上げ加工をする際に、仕上げ加工を省略しても問題が生じないと考えられる場合には、仕上げ加工なしとすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計変更の範囲内の事項(例えば、特開平11-93964号公報には、「熱処理後、研削による仕上げ加工を行なう必要があった。」[第2頁第2欄第3及び4行、段落【0006】参照]、及び「熱処理後の精度確保のための加工(研削加工等)を簡略化し又は省略することができる。」[第3頁第4欄第40?42行、段落【0025】参照]と記載されている。特開平11-294476号公報には、「熱処理後、研削による仕上げ加工を行なう必要があった。・・・ポケットの軸方向両側のポケット面は、トルク伝達ボールの位置を制御する関係上、所要の精度が必要とされるが、加工工程の簡略化を図るため、熱処理後の研削加工を省略する場合が多い。」[第2頁第2欄第27?32行、段落【0005】参照]と記載されている。特開2000-220654号公報には、「熱処理後、研削による仕上げ加工を行う必要があった。・・・例えば保持器のポケットのうち、軸方向両側のポケット面は、トルク伝達ボールの位置を制御する関係上、所要の精度が必要とされるが、加工工程の簡略化を図るため、熱処理後の研削加工を省略する場合がある。」[第2頁第2欄第36?42行、段落【0004】及び【0005】参照]と記載されている。特開2000-230570号公報には、「本発明によれば、上記のように保持器5の耐久性を向上させ得るため、外側部材2の球面状内周面2aおよび案内溝2bの何れか一方において、研削等の仕上げ加工を省略し、鍛造表面(鍛造肌)のままで使用しても継手全体の耐久性に特に問題は生じないと考えられる。」[第3頁第4欄第30?35行、段落【0016】参照]と記載されている。)にすぎない。そして、仕上げ加工をしない場合には、加工工程の簡略化が図れて製品コストが低減できることは、技術的に自明の事項にすぎない。
してみれば、引用発明の保持器4と受け部材14との嵌合部に、固定の技術分野における従来周知の技術手段を適用して、保持器4の受け部材14嵌合部の仕上げ加工なしの内径に、等速自在継手を組み立てるまでに受け部材14が保持器4から抜脱することを防止する抜け止め機構を設け、抜け止め機構は、受け部材14の挿入方向と反対側への移動を規制することにより受け部材14を係止する段差とすることにより、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明、及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、当審における審尋に対する平成23年8月2日付けの回答書(以下、「回答書」という。)において、「引用文献2(注:本審決の「刊行物2」に対応する。以下同様。)における抜け止め部材である係止環47は、本願発明(注:本審決の「本願補正発明」に対応する。以下同様。)の受け部材のように弾性的な押圧力を軸方向に作用させる押圧部からの押圧力を受ける機能を有するものではありません。この係止環47は、ハブ4に対してスプライン軸17を単に係止する機能を有するものに過ぎません。この引用文献2と本願発明とでは全く別異の抜け止め機構であります。また、引用文献3(注:本審決の「刊行物3」に対応する。以下同様。)では、ピストンからの抜け力Fにより係止ばね自体がばね要素として機能するものであります。つまり、引用文献3の係止ばねは、本願発明の受け部材のように弾性的な押圧力を軸方向に作用させる押圧部からの押圧力を受ける機能を有するものではありません。この引用文献3と本願発明とでは全く別異の抜け止め機構であります。」(いずれも、(2)の項参照)と主張している。
しかしながら、審判請求人は、本願補正発明と刊行物2及び3に記載された発明とを対比して、両者の相違について主張するのみであり、引用発明の受け部材14は、本願補正発明の受け部材のように弾性的な押圧力を軸方向に作用させる押圧部11からの押圧力を受ける機能を有するものであるところ、引用発明に、固定の技術分野における、例えば、刊行物2や刊行物3に記載されたような従来周知の技術手段を適用することに関しては特段の主張をしていない。本願補正発明は、上記(相違点について)において述べたように、刊行物1に記載された発明に、固定の技術分野における従来周知の技術手段を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本願補正発明の構成を備えることによって、本願補正発明が、従前知られていた構成が奏する効果を併せたものとは異なる、相乗的で、当業者が予測できる範囲を超えた効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
平成23年1月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成22年6月21日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
複数のトラック溝が形成された球状内面を備えた外方部材と、複数のトラック溝が形成された球状外面を備えた内方部材と、外方部材のトラック溝と内方部材のトラック溝の協働で形成された楔形のボールトラックに配置したボールと、外方部材の球状内面と内方部材の球状外面との間に配置され、ボールを保持する保持器とを備え、弾性的な押圧力を軸方向に作用させる押圧部を前記内方部材側に設け、かつ、押圧部からの押圧力を受ける受け部材を保持器の内径に嵌合させた固定式等速自在継手において、前記保持器の受け部材嵌合部の内径に、等速自在継手を組み立てるまでに前記受け部材が保持器から抜脱することを防止する抜け止め機構を設けたことを特徴とする固定式等速自在継手。」

1.刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである。
2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明の発明特定事項の一部である「保持器の受け部材嵌合部の内径」に関し、「仕上げ加工なしの」との構成を削除するとともに、同じく「抜け止め機構」に関し、「前記抜け止め機構は、受け部材の挿入方向と反対側への移動を規制することにより前記受け部材を係止する段差とした」との構成を削除することにより拡張するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?4に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-29 
結審通知日 2012-03-30 
審決日 2012-04-12 
出願番号 特願2005-334571(P2005-334571)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16D)
P 1 8・ 575- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 倉田 和博
常盤 務
発明の名称 固定式等速自在継手  
代理人 城村 邦彦  
代理人 熊野 剛  

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