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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1257353
審判番号 不服2011-4367  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-28 
確定日 2012-05-24 
事件の表示 特願2005- 76256「接着強度に優れた積層コア」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月 4日出願公開,特開2005-311319〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年3月17日(国内優先権主張:平成16年3月25日)の特許出願であって,平成22年7月16日付けで拒絶の理由が通知され,同年9月27日に意見書が提出されたが,同年11月17日付けで拒絶査定されたものである。その後,平成23年2月28日に前記拒絶査定に対する不服審判が請求されると共に手続補正がなされ,同年12月7日付けで審尋がおこなわれ,平成24年2月13日に回答書が提出されたものである。

第2 平成23年2月28日付けの手続補正についての却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成23年2月28日に提出された手続補正書でした補正を却下する。

[理 由]
1 本件手続補正の内容
平成23年2月28日に提出された手続補正書でした補正(以下「本件補正」という。)は,特許請求の範囲についてする補正を含むものであって,その特許請求の範囲についてする補正は,補正前に,
「【請求項1】
コア構成部材が板厚0.2mm以下の薄板からなり,前記コア構成部材どうしが接着剤で接着され,前記薄板を積層してなる積層コアであって,前記薄板の積層コアに対する占積率が93%以上97%以下であることを特徴とする接着強度に優れた積層コア。
【請求項2】
前記薄板はSiを2.5?7.0%含むことを特徴とする請求項1に記載の接着強度に優れた積層コア。」
とあったものを,補正後に,
「【請求項1】
コア構成部材が板厚0.1mm以下の薄板からなり,前記コア構成部材どうしが接着剤で接着され,前記薄板を積層してなる積層コアであって,前記薄板の積層コアに対する占積率が93%以上97%以下であることを特徴とする接着強度に優れた積層コア。
【請求項2】
前記薄板はSiを2.5?7.0%含むことを特徴とする請求項1に記載の接着強度に優れた積層コア。」
とするものである。

2 補正目的の適否について
上記補正の内,請求項1についてする補正は,補正前の請求項1に係る発明において,コア構成部材が「板厚0.2mm以下の薄板」であったものを,補正後に「板厚0.1mm以下の薄板」と限定するものであるから,上記補正は,特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とした補正といえる。

3 独立特許要件について
上記のとおり,請求項1についてした補正は,特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるから,この補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明1」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて更に検討する。

(1)引用例とその記載事項,及び,引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である下記の引用例1には,次の事項が記載されている。(なお,下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。)

ア 引用例1:特開平10-256053号公報
(1a)「【従来の技術】変圧器やリアクトル用の鉄心として,軟磁性薄板を用いた鉄心が電力分野を中心に広く使用されているが,昨今では,電源機器の小型化,高効率化を目的とした機器の高周波化が進んだことに伴い,変圧器やリアクトル用の鉄心の鉄損特性に対する要求が厳さを増している。従来,軟磁性薄板を用いた鉄心の鉄損特性は,素材である薄板自体の鉄損得性と比べて変動やばらつきが大きいため,出荷に際しては,鉄心を実際に励磁して鉄損特性を検査する方法を全製品に対して行うといった対策が採られている。
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,軟磁性薄板を用いた鉄心の鉄損特性のばらつきは高周波ほど大きくなる傾向があるため,鉄心を製造したものの鉄損特性検査の結果不合格品となってしまう頻度が,昨今の高周波用途の増加につれて増え,結果として製造コストの増加や納期の遅延を招くといった問題を生じていた。したがって本発明の目的は,鉄損特性のばらつきが小さく,変圧器やリアクトル用として好適な鉄心を提供することにある。
【課題を解決するための手段】本発明者らは,上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果,鉄心の占積率を素材薄板の板厚との関係で特定の範囲にすることにより,軟磁性薄板を積層した鉄心の鉄損特性のばらつきを極めて小さくすることができることを見い出した。本発明はこのような知見に基づきなされたもので,軟磁性薄板を積層した鉄心において,薄板の板厚をt(mm)としたとき,鉄心の占積率(%)が下記(1)式を満足することを特徴とする鉄損特性のばらつきが小さい鉄心である。
占積率(%)<79.8+19.98 exp(0.19 logt) … (1)」(【0002】-【0004】)

(1b)「以上のように,鉄心の占積率を素材薄板の板厚との関係で特定の値以下とすることにより鉄損のばらつきが極めて低くなる理由は,板厚との関係で占積率のレベルが低下することで鉄心の薄板間の絶縁抵抗が安定化するためであると考えられる。また,占積率を本発明が規定する範囲にするための方法は特に問わないが,例えば,巻鉄心の場合には型に巻き付ける時の張力を制御する,切り板を積層する積み鉄心の場合には鉄心を固定するボルトのかしめ圧を制御する等の方法が可能である。
なお,本発明では占積率の下限値は特に規定していないが,一般に鉄心の小型化という観点からは占積率が高いほど好ましく,したがって,占積率の下限値は80%,より好ましくは85%程度とすることが好ましい。また,図1?図3では鉄心を鉄損のばらつきのみで評価したが,鉄心の占積率を本発明条件で規定することにより,鉄損の絶対値が低い値で安定することは言うまでもない。本発明が対象とする鉄心には,カットコア,トロイダルコア等の巻鉄心及び積み鉄心が含まれる。」(【0009】-【0010】)

(1c)「【実施例】
[実施例1]板厚がそれぞれ0.05mm,0.1mmで,実質的にSiを6.5wt%含有するFe-Si合金薄板と板厚が0.2mm,0.3mmで,実質的にSiを5.0wt%含有するFe-Si合金薄板を用意した。これら4種類の薄板を用い,型に巻き付ける時の張力を制御することによって占積率を変えて,日本巻鉄心工業会規格CS50サイズのカットコアをそれぞれ10個ずつ作製した。その製造は,一般のカットコア製造工程と同様,巻き取り,歪み取り焼鈍,接着・硬化,切断,研磨,切断面エッチングからなる工程により行った。その製造条件の詳細を表1に示す。
各カットコアの鉄損を周波数10kHz,磁束密度0.1Tで測定し,個数10個の鉄損の平均値と最大値に対して鉄損のばらつきを,
{(最大値-平均値)/(平均値)}×100
と定義した。表2と図4に鉄心の占積率と鉄損のばらつきの測定結果を示す。図4中の実線は薄板の板厚をt(mm)としたときの下式を満足する曲線である。
占積率(%)=79.8+19.98 exp(0.19 logt)
表2および図4によれば,本発明の規定する占積率の範囲では鉄損のばらつきが極めて低くなることが判る。」(【0011】-【0012】)

(1d)【0015】の表1には,接着硬化の条件の詳細が,接着剤:ワニス,乾燥条件:170℃×2hrであることが示されている。

(1e)【0016】の表2には,薄板厚さが0.05mmで,占積率が87.9%,90.1%,91.1%,92.2%,93.1%の鉄心,及び,薄板厚さが0.1mmで占積率が89.3%,91.7%,92.5%,94.1%,94.8%の鉄心の鉄損平均値と鉄損のばらつきの測定結果が示されている。

イ 引用発明1
引用例1の上記摘記(1a)-(1e)の記載を総合勘案すれば,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「板厚がそれぞれ0.05mm,0.1mmで,実質的にSiを6.5wt%含有するFe-Si合金薄板を,一般のカットコア製造工程と同様,巻き取り,歪み取り焼鈍,接着・硬化,切断,研磨,切断面エッチングからなる工程により作製した日本巻鉄心工業会規格CS50サイズのカットコアであって,
前記接着は,接着剤としてワニスを使用し,
型に巻き付ける時の張力を制御することによって,薄板厚さが0.05mmのものについては,占積率を87.9%,90.1%,91.1%となるように,また,薄板厚さが0.1mmのものについては,占積率を89.3%,91.7%,92.5%とした,鉄損のバラツキが極めて低いカットコア。」

(2)対比
ア 引用発明1の「板厚がそれぞれ0.05mm,0.1mmで,実質的にSiを6.5wt%含有するFe-Si合金薄板」は,本願補正発明1の「板厚0.1mm以下の薄板からなるコア構成部材」といえる。

イ 引用発明1の「カットコア」と,本願補正発明1の「積層コア」は,「コア」である点で一致する。

ウ 引用発明1と本願補正発明1は,いずれも所定の占積率を有する点で一致する。

エ そうすると,本願補正発明1と,引用発明1との一致点と相違点は,次のとおりといえる。

<一致点>
「コア構成部材が板厚0.1mm以下の薄板からなり,前記コア構成部材どうしが接着剤で接着され,前記薄板のコアに対する占積率が所定値であるコア。」

<相違点>
・相違点1:本願補正発明1が,薄板を「積層してなる積層コア」であるのに対して,引用発明1は,薄板を「巻き取り,歪み取り焼鈍,接着・硬化,切断,研磨,切断面エッチングからなる工程により作製した」「カットコア」である点。

・相違点2:本願補正発明1が,薄板の積層コアに対する占積率が「93%以上97%以下」であるのに対して,引用発明1は,薄板厚さが0.05mmのものについては,占積率が「87.9%,90.1%,91.1%」,薄板厚さが0.1mmのものについては,占積率が「89.3%,91.7%,92.5%」である点。

・相違点3:本願補正発明1が,「接着強度に優れた」積層コアであるのに対して,引用発明1は,「鉄損のバラツキが極めて低い」カットコアである点。

(3)相違点についての判断
・相違点1について
引用例1の上記摘記(1b)には「本発明が対象とする鉄心には,カットコア,トロイダルコア等の巻鉄心及び積み鉄心が含まれる。」と記載されており,同摘記(1b)には,「切り板を積層する積み鉄心」と記載されていることから,引用発明1が,「切り板を積層する積み鉄心」,すなわち,薄板を「積層してなる積層コア」に適用することを前提としていることは明らかといえる。したがって,薄板の「巻き取り」を含む各工程により作製したカットコアに係る発明である引用発明1において,前記「巻き取り」に替えて薄板を「積層」して,「積層してなる積層コア」を作製すること,すなわち,引用発明1において,前記相違点1について,本願補正発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。また,このような構成としたことによる効果も,当業者が予測する範囲内のものといえる。

・相違点2について
ア 引用例1の上記摘記(1a)の「変圧器やリアクトル用の鉄心として,軟磁性薄板を用いた鉄心が電力分野を中心に広く使用されているが,昨今では,電源機器の小型化,高効率化を目的とした機器の高周波化が進んだ」との記載から,「鉄心の小型化」が周知の課題であったことが認められる。

イ 一方,引用例1の上記摘記(1a)には,「従来,軟磁性薄板を用いた鉄心の鉄損特性は,素材である薄板自体の鉄損得性と比べて変動やばらつきが大きいため,出荷に際しては,鉄心を実際に励磁して鉄損特性を検査する方法を全製品に対して行うといった対策が採られている。」,「軟磁性薄板を用いた鉄心の鉄損特性のばらつきは高周波ほど大きくなる傾向があるため,鉄心を製造したものの鉄損特性検査の結果不合格品となってしまう頻度が,昨今の高周波用途の増加につれて増え,結果として製造コストの増加や納期の遅延を招くといった問題を生じていた。」,及び,「本発明者らは,上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果,鉄心の占積率を素材薄板の板厚との関係で特定の範囲にすることにより,軟磁性薄板を積層した鉄心の鉄損特性のばらつきを極めて小さくすることができることを見い出した。」と記載されている。

ウ そうすると,引用発明1は,従来用いられていた鉄心の占積率と素材薄板の板厚の範囲内において,前記鉄心の占積率を素材薄板の板厚との関係で特定の範囲に限定して,軟磁性薄板を積層した鉄心の鉄損特性のばらつきを極めて小さくすることで,昨今の高周波用途の増加につれて増えていた鉄損特性検査の結果不合格品の増加等という課題を解決した発明であるといえる。

エ してみれば,引用例1において,比較例として示されている鉄心の占積率と素材薄板の板厚は,出荷に際して鉄心を実際に励磁して鉄損特性を検査する方法を全製品に対して行うといった対策を採ることが行われていた,従来用いられてきた鉄心の占積率と素材薄板の板厚の範囲に含まれるものと理解できる。また,下記の周知例1?3の記載からも,板厚0.1mm程度の薄板どうしを接着剤で接着して積層した積層コアにおいて,93%?97%程度の範囲に含まれる占積率の値は,本願の優先権主張の日以前において通常用いられている程度の値であることが認められる。

オ 他方,引用例1の上記摘記(1b)には,「一般に鉄心の小型化という観点からは占積率が高いほど好ましく」と記載されている。

カ そうすると,引用例1に接した当業者であれば,前記周知の課題である「鉄心の小型化」という課題の解決をより重視する必要がある場合,若しくは,鉄心が高周波用途でない場合等には,あえて前記引用発明1で規定する特定の範囲から離れて,より占積率の高い値として引用例1に比較例として示されている「薄板厚さが0.05mmで,占積率が93.1%,及び,薄板厚さが0.1mmで占積率が94.1%,94.8%」程度の値を選択すること,すなわち,引用発明1において,前記相違点2について,本願補正発明1の構成とすることは,前記周知例において当該範囲の占積率の値が本願の優先権主張の日以前において通常用いられている程度の値であることが認められることを併せて考慮すれば,当業者が容易に想到し得たことといえる。また,このような構成としたことによる効果も,当業者が予測する範囲内のものといえる。

・周知例1:国際公開第86/05314号
(周1a)「技術分野
この発明は,磁気特性に優れた非晶質合金薄帯を複数枚貼り合わせた積層板とその有利な製造方法,ならびに該積層板を使用したコアおよびその有利な製造方法に関するものである。」(第1頁第3-7行)

(周1b)「第2発明
複数枚の非晶質合金薄帯を接着して積層板を製造するに際し,一枚の非晶質合金薄帯の片面にボロシロキサン樹脂を主成分とする接着剤を塗布してから他の非晶質合金薄帯を重ね合わせたのち圧着する処理を,積層枚数に応じて行い,ついで熱処理を施して成る非晶質合金薄帯積層板の製造方法。
(省略)
また積層板としたのち,巻回しなどの成形加工を行わず,そのまま板として用いる場合に,接着による磁気特性の劣化を招かないためには,接着層の厚みが問題となる。
板厚:28μm,板幅:5cmのFe_(78)B_(12)Si_(10)組成のリボンを3枚用意し,そのうち1枚のリボンの両面全面にボロシロキサン樹脂を主成分とする接着剤を乾燥後の接着層の厚みが0?5.0μmとなるように0? g/m^(2)の範囲で種々に変化させて塗布し,風乾後,該リボンの両面に他のリボンを重ね合わせてから,圧着ロール間で圧下して3枚のリボンを貼り合わせた。ついで250℃で5分間加熱して接着したのち,200A/mの磁場中で370℃,1時間の焼鈍を施し,そのまま冷却した。
かくして得られた積層板における接着層の厚みと鉄損の関係について調べた結果を表1に示す。
(省略)
同表より明らかなように,接着層の厚みが2.0μm以下であれば接着による鉄損特性の劣化はみられない。しかしながら接着層厚みが0.05μmに満たない場合には,充分な接着強度が得られないので,全面塗布の場合には接着層の厚みは0.05?2μm程度とするのが好ましい。」(第4頁第3行-第5頁末行)
ここで,板厚28μm,接着層の厚みが0.05?2μmのとき,3枚のリボンを貼り合わせた積層板の占積率は95?99%程度と認められる。

・周知例2:特開平7-336969号公報
(周2a)「【請求項1】電磁鋼板素材(A)と,ウレタン結合(-NHCOO-)を3?45重量%含有するウレタン樹脂100重量部に対して,架橋剤を1?60重量部添加して形成された接着型絶縁皮膜層(B)とからなる接着鉄心用電磁鋼板。」(【特許請求の範囲】)

(周2b)「【産業上の利用分野】本発明は,電気機器等に使用される鉄心用電磁鋼板およびその製造方法に係わり,詳しくは電磁鋼板素材の表面に接着鉄心を製造するための接着型絶縁皮膜を形成してなる接着鉄心用電磁鋼板およびその製造方法に関する。このような接着鉄心用電磁鋼板は,切断または打ち抜き後,積層または巻加工され,その後加熱下で加圧(鉄心固着)されて接着鉄心となる。」(【0001】)

(周2c)「本発明の第1の態様においては,接着型絶縁皮膜層として,ウレタン結合(-NHCOO-)を3?45重量%含有するウレタン樹脂100重量部に対して,架橋剤を1?60重量部添加したものが用いられ,これが電磁鋼板素材の少なくとも一方の表面に形成される。」(【0019】)

(周2d)「かかる組成の水性塗料を電磁鋼板素材の表面に塗布し,加熱炉で乾燥して接着型絶縁皮膜層が形成される。塗布方法はロールコーター法,ロール絞り法,気体絞り法,静電塗布法など所定の皮膜厚に均一に塗布されればいずれの方法でもよい。また塗布後の乾燥は,ガス加熱方式やハースロール方式あるいは誘導加熱方式等によって塗膜が完全に強固に乾燥されるべく,通常は板温150?350℃範囲内で調整して行なわれる。乾燥加熱後は,通常板温を80℃以下に冷却してコイル状に巻き取られる。
皮膜の厚さは,特に限定されるものではないが,片面あたり0.3?10μmが適正である。0.3μm未満の場合,加熱接着時の皮膜流動の拡がり性が欠け接着強度が低下する。また10μmを超えて厚い場合,鉄心加工時に皮膜が凝集剥離を生じやすく発粉等の問題を生じる。皮膜の厚さは鋼板の表面粗さや所要層間絶縁抵抗あるいは該接着型皮膜の形成によってもたらされる磁気特性や制振性等の付加効果を考慮して適宜選択されるが,安定した接着強度を確保し,かつ占積率の低下を阻害しないためには,0.5?5μm範囲であることが望ましい。」(【0030】-【0031】)

(周2e)「本発明の第2の態様においては,接着形絶縁皮膜層として,ウレタン結合(-NHCOO-)を3?45重量%含有するウレタン樹脂100重量部に対して,架橋剤を1?60重量部および平均粒子径100nm以下の酸化物微粒子を5?30重量部添加したものが用いられ,これが電磁鋼板素材の少なくとも一方の表面に形成される。」(【0032】)

(周2f)「いずれの態様においても接着型絶縁皮膜を形成する電磁鋼板素材は,接着鉄心に供されるものであれば特に限定するものではなく無方向性電磁鋼板及び方向性電磁鋼板が主な対象となる。とりわけ6.5%Si鋼板などの高Si鋼板や板厚0.2mm以下の薄物電磁鋼板は,従来の溶接法やカシメ法では接合部の変形などによって鉄心の固着力が劣りまた磁気特性が低下することから,本発明における接着型絶縁皮膜を形成して接着鉄心として使用することが有効である。また汎用の無機系や無機有機系の絶縁皮膜が形成された無方向性電磁鋼板あるいは張力付加型皮膜が形成された方向性電磁鋼板の表面に本発明における接着型絶縁皮膜を形成することも本発明の範囲を超えるものではない。
このようにして得られた本発明の接着鉄心用電磁鋼板は,積層鉄心や巻鉄心として,切断または打ち抜き後,積層あるいは巻加工した状態において,通常板温200?350℃の加熱下で5?50kg/cm^(2) の加圧によって固着成形され,接着鉄心となる。」(【0038】-【0039】)
ここで,板厚0.2mm以下,片面あたりの皮膜の厚さが0.3?10μmのとき,多数の薄物電磁鋼板を積層した接着鉄心の占積率は95?99%程度と認められる。

・周知例3:特開2004-88970号公報
(周3a)「【請求項1】
表面に絶縁性皮膜が存在する電磁鋼板を積層してなる鉄心であって,
電磁鋼板間に少なくとも接着性有機物からなる有機物層が存在し,該有機物層の平均厚さが4μm以下であることを特徴とする積層鉄心。」(【特許請求の範囲】)

(周3b)「【請求項5】
電磁鋼板の板厚が0.35mm 以下であることを特徴とする請求項1記載の積層鉄心。」(【特許請求の範囲】)

(周3c)「電磁鋼板間の有機物単独層あるいは有機物と無機物粒子の混合層の厚さは,電磁鋼板の占積率やコアの熱伝導率の点からできるだけ薄い方がよい。特に,熱伝導率および接着強度の観点から接着樹脂の厚さは4μm以下が好ましい。」(【0019】)

(周3d)「電磁鋼板は,無方向性電磁鋼板や方向性電磁鋼板に限らず,電磁鋼板として使用できる薄板全般に適用することができる。本発明を用いるにあたり板厚は特に限定されないが,接着方法の効果を勘案すると,0.35mm 以下での適用が好ましく,0.2mm 以下がさらに好ましい。また,鉄心の鉄損を小さく押えるためには,絶縁皮膜が施された電磁鋼板を用いる必要がある。」(【0021】)

(周3e)「(実施例7)
片面約1μmの絶縁皮膜が施されている0.1mm の電磁鋼板を外径135mm,内径50mm,スロット外形90mm,スロット数12の固定子形状に打ち抜いた。これを治具を用いて,80mm積層し固定した。この治具ごと真空チャンバーに入れ,1Torr以下の真空で2時間真空脱気した。その後,粘度0.3Pa・s の樹脂を注入し,さらに1時間真空に保持した。その後,3気圧に加圧し1時間保持し,大気圧に戻しチャンバーから取り出した。取り出し後,210℃の恒温槽に入れ,4時間熱硬化させた。これにより得られた固定子鉄心は,樹脂厚さ1μm,せん断強度420kg/cm^(2) ,占積率97.2% であった。また,熱伝導率は2.3W/m・K であった。」(【0042】)

・相違点3について
引用発明1は,接着工程を有するものであるから,所定の接着強度が求められることは明らかである。してみれば,引用発明1において,接着強度を優れたものとすること,すなわち,引用発明1において,前記相違点3について,本願補正発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。また,このような構成としたことによる効果も,当業者が予測する範囲内のものといえる。

(4)まとめ
以上のとおり,本願補正発明1は,上記引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下についてのむすび
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成23年2月28日に提出された手続補正書でした補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1-2に係る発明は,平成17年3月17日に提出された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-2に記載されている事項により特定されるとおりのものであるところ,その内,請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,次のとおりである。

「コア構成部材が板厚0.2mm以下の薄板からなり,前記コア構成部材どうしが接着剤で接着され,前記薄板を積層してなる積層コアであって,前記薄板の積層コアに対する占積率が93%以上97%以下であることを特徴とする接着強度に優れた積層コア。」

2 進歩性について
(1)引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に頒布された刊行物である引用例1に記載されている事項は,上記「第2 3 (1)引用例とその記載事項,及び,引用発明」の項で指摘したとおりである。
そして,引用例1の上記摘記(1a)-(1e)の記載を総合勘案すれば,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「板厚が0.2mmの実質的にSiを5.0wt%含有するFe-Si合金薄板を,一般のカットコア製造工程と同様,巻き取り,歪み取り焼鈍,接着・硬化,切断,研磨,切断面エッチングからなる工程により作製した日本巻鉄心工業会規格CS50サイズのカットコアであって,
前記接着は,接着剤としてワニスを使用し,
型に巻き付ける時の張力を制御することによって,占積率を94.3とした,鉄損のバラツキが極めて低いカットコア。」

(2)対比
ア 引用発明2の「板厚が0.2mmの実質的にSiを5.0wt%含有するFe-Si合金薄板」は,本願発明1の「板厚0.2mm以下の薄板からなるコア構成部材」といえる。

イ 引用発明2の「カットコア」と,本願発明1の「積層コア」は,「コア」である点で一致する。

ウ 引用発明2の「占積率を94.3」は,本願発明1の「薄板の積層コアに対する占積率が93%以上97%以下である」という範囲に含まれるものである。

エ そうすると,本願発明1と,引用発明2との一致点と相違点は,次のとおりといえる。

<一致点>
「コア構成部材が板厚0.2mm以下の薄板からなり,前記コア構成部材どうしが接着剤で接着され,前記薄板のコアに対する占積率が93%以上97%以下であるコア。」

<相違点>
・相違点1:本願発明1が,薄板を「積層してなる積層コア」であるのに対して,引用発明2は,薄板を「巻き取り,歪み取り焼鈍,接着・硬化,切断,研磨,切断面エッチングからなる工程により作製した」「カットコア」である点。

・相違点2:本願発明1が,「接着強度に優れた」積層コアであるのに対して,引用発明2は,「鉄損のバラツキが極めて低い」カットコアである点。

(3)相違点についての判断
・相違点1について
引用例1の上記摘記(1b)には「本発明が対象とする鉄心には,カットコア,トロイダルコア等の巻鉄心及び積み鉄心が含まれる。」と記載されており,同摘記(1b)には,「切り板を積層する積み鉄心」と記載されていることから,引用発明2が,「切り板を積層する積み鉄心」,すなわち,薄板を「積層してなる積層コア」に適用することを前提としていることは明らかといえる。したがって,薄板の「巻き取り」を含む各工程により作製したカットコアに係る発明である引用発明2において,前記「巻き取り」に替えて薄板を「積層」して,「積層してなる積層コア」を作製すること,すなわち,引用発明2において,前記相違点1について,本願発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。また,このような構成としたことによる効果も,当業者が予測する範囲内のものといえる。

・相違点2について
引用発明2は,接着工程を有するものであるから,所定の接着強度が求められることは明らかである。してみれば,引用発明2において,接着強度を優れたものとすること,すなわち,引用発明2において,前記相違点2について,本願発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。また,このような構成としたことによる効果も,当業者が予測する範囲内のものといえる。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって,本願の他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-15 
結審通知日 2012-03-27 
審決日 2012-04-09 
出願番号 特願2005-76256(P2005-76256)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01F)
P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 昌晴  
特許庁審判長 齋藤 恭一
特許庁審判官 加藤 浩一
酒井 英夫
発明の名称 接着強度に優れた積層コア  
代理人 井上 茂  

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