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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65D
管理番号 1257362
審判番号 不服2011-11863  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-03 
確定日 2012-05-24 
事件の表示 特願2000-344661「液体紙容器」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月22日出願公開、特開2002-145248〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件審判に係る出願は、平成12年11月13日に出願されたもので、平成22年8月11日付け拒絶理由通知書が送付され、願書に添付した明細書についての同年10月15日付け手続補正書が提出されたものの、平成23年3月2日付けで、拒絶査定されたものである。
そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として平成23年6月3日に請求されたもので、上記明細書についての同日付け手続補正書が提出されている。

2.当審の判断
2-1.平成23年6月3日付け手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)について
本件補正は、以下に詳述するように、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

2-1-1.本件補正の内容
本件補正は、以下の補正事項aを有するものと認める。
補正事項a;特許請求の範囲の記載につき、以下(cl)を(CL)と補正する。
(cl);「【請求項1】 少なくとも、最外層、
紙基材、
エチレン-不飽和カルボン酸またはそのエステル化物との共重合体による300℃以下で溶融押出した樹脂層からなる接着剤層、
基材フィルムの一方の面に、蒸着モノマ-ガスとして有機珪素化合物を使用し、化学気相成長法により形成した酸化珪素を主体とし、これに、更に、炭素、水素、珪素または酸素の1種類、または、その2種類以上の元素からなる化合物を少なくとも1種類を化学結合により含有する可撓性に富む蒸着膜からなる無機酸化物の蒸着膜と、少なくとも、ポリビニルアルコ-ル系樹脂と、一般式R^(1) m M(OR^(2) )n (式中、Mは、金属原子を表し、R^(1)は、同一または異なり、炭素数1?8の有機基を表し、R^(2)は、同一または異なり、炭素数1?5のアルキル基または炭素数1?6のアシル基もしくはフェニル基を表し、mおよびnは、それぞれ0以上の整数を表し、m+nは、Mの原子価を表す。)で表される金属アルコレ-ト、該金属アルコレ-トの加水分解物、該金属アルコレ-トの縮合物、該金属アルコレ-トのキレ-ト化合物、該キレ-ト化合物の加水分解物および金属アシレ-トの群から選ばれた少なくとも1種とを含有するガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜とを設けた構成からなるバリア性層、
および、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン-α・オレフィン共重合体層からなる最内層を順次に積層して積層材を構成し、
更に、該積層材を使用し、これを製函してなること
を特徴とする液体紙容器。
【請求項2】 バリア性層を構成するガスバリア性塗布膜が、紙基材の面に対向して積層した積層材からなることを特徴とする上記の請求項1に記載する液体紙容器。
【請求項3】 最外層が、ヒ-トシ-ル性を有するポリオレフィン系樹脂層からなることを特徴とする上記の請求項1?2のいずれか1項に記載する液体紙容器。
【請求項4】 紙基材が、坪量80?600g/m^(2)の紙基材からなることを特徴とする上記の請求項1?3のいずれか1項に記載する液体紙容器。
【請求項5】 基材フィルムが、2軸延伸加工した樹脂のフィルムないしシ-トからなることを特徴とする上記の請求項1?4のいずれか1項に記載する液体紙容器。」

(CL)「【請求項1】 少なくとも、最外層、
紙基材、
エチレン-不飽和カルボン酸またはそのエステル化物との共重合体による300℃以下で溶融押出した樹脂層からなる接着剤層、
基材フィルムの一方の面に、蒸着モノマ-ガスとして有機珪素化合物を使用し、化学気相成長法により形成した酸化珪素を主体とし、これに、更に、炭素、水素、珪素または酸素の1種類、または、その2種類以上の元素からなる化合物を少なくとも1種類を化学結合により含有する可撓性に富む蒸着膜からなる無機酸化物の蒸着膜と、少なくとも、ポリビニルアルコ-ル系樹脂と、一般式R^(1)mM(OR^(2))n(式中、Mは、金属原子を表し、R^(1)は、同一または異なり、炭素数1?8の有機基を表し、R^(2)は、同一または異なり、炭素数1?5のアルキル基または炭素数1?6のアシル基もしくはフェニル基を表し、mおよびnは、それぞれ0以上の整数を表し、m+nは、Mの原子価を表す。)で表される金属アルコレ-ト、該金属アルコレ-トの加水分解物、該金属アルコレ-トの縮合物、該金属アルコレ-トのキレ-ト化合物、該キレ-ト化合物の加水分解物および金属アシレ-トの群から選ばれた少なくとも1種とを含有するガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜とを設けた構成からなるバリア性層、
および、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン-α・オレフィン共重合体層からなる最内層を順次に積層し、
かつ、上記のバリア性層を構成するガスバリア性塗布膜が、上記の紙基材の面に対向して積層した積層材を構成し、
更に、該積層材を使用し、これを製函してなること
を特徴とする液体紙容器。
【請求項2】 最外層が、ヒ-トシ-ル性を有するポリオレフィン系樹脂層からなることを特徴とする上記の請求項1に記載する液体紙容器。
【請求項3】 紙基材が、坪量80?600g/m^(2)の紙基材からなることを特徴とする上記の請求項1?2のいずれか1項に記載する液体紙容器。
【請求項4】 基材フィルムが、2軸延伸加工した樹脂のフィルムないしシ-トからなることを特徴とする上記の請求項1?3のいずれか1項に記載する液体紙容器。」

ここ「2-1」では、本件補正前の請求項1を旧【請求項1】といい、本件補正後の請求項1を新【請求項1】という。

2-1-2.本件補正の適否
補正事項aは「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」(以下、「限定的減縮」という。)を目的としたものであるが、補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は、以下に述べるように、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

1)新【請求項1】に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、新【請求項1】に記載された事項により特定されるもので、同項の記載は、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】 少なくとも、最外層、
紙基材、
エチレン-不飽和カルボン酸またはそのエステル化物との共重合体による300℃以下で溶融押出した樹脂層からなる接着剤層、
基材フィルムの一方の面に、蒸着モノマ-ガスとして有機珪素化合物を使用し、化学気相成長法により形成した酸化珪素を主体とし、これに、更に、炭素、水素、珪素または酸素の1種類、または、その2種類以上の元素からなる化合物を少なくとも1種類を化学結合により含有する可撓性に富む蒸着膜からなる無機酸化物の蒸着膜と、少なくとも、ポリビニルアルコ-ル系樹脂と、一般式R^(1)mM(OR^(2))n(式中、Mは、金属原子を表し、R^(1)は、同一または異なり、炭素数1?8の有機基を表し、R^(2)は、同一または異なり、炭素数1?5のアルキル基または炭素数1?6のアシル基もしくはフェニル基を表し、mおよびnは、それぞれ0以上の整数を表し、m+nは、Mの原子価を表す。)で表される金属アルコレ-ト、該金属アルコレ-トの加水分解物、該金属アルコレ-トの縮合物、該金属アルコレ-トのキレ-ト化合物、該キレ-ト化合物の加水分解物および金属アシレ-トの群から選ばれた少なくとも1種とを含有するガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜とを設けた構成からなるバリア性層、
および、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン-α・オレフィン共重合体層からなる最内層を順次に積層し、
かつ、上記のバリア性層を構成するガスバリア性塗布膜が、上記の紙基材の面に対向して積層した積層材を構成し、
更に、該積層材を使用し、これを製函してなること
を特徴とする液体紙容器。」

2)本件審判に係る出願前に頒布された刊行物であることが明らかな特開2000-95232号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、以下の記載a?dが認められる。
記載a;「【0010】本発明の液体用紙容器の実施形態の積層構成は、図1に示すように、外面から順にポリエチレン層1と紙層2と接着樹脂層3と金属酸化物蒸着層4とプラスチックフィルム層5とポリエチレン層6とからなり、」
記載b;「この積層体を使用して作製される液体用紙容器の形状としては、ゲーベルトップ型、フラットトップ型(ブリック型)等任意である。」(第3頁右欄第3?5行)
記載c;「【0011】実施形態の積層構成において、ポリエチレン層1としては低密度ポリエチレンが使用され、ポリエチレン層6としては低密度ポリエチレン、中低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、シングルサイト触媒を用いて重合したエチレン-αオレフイン共重合体等が使用されるが、ポリエチレン層6としてシングルサイト触媒を用いて重合したエチレン-αオレフイン共重合体を使用するのが最も好ましい。紙層2としては250?450g/m^(2) の板紙が使用される。
【0012】溶融押出しにより接着樹脂層3を形成するのに使用される樹脂としては、低密度ポリエチレン、アイオノマー、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)等である。接着樹脂層3としてポリエチレンが使用される場合は、溶融押出し温度を290?305℃に設定することにより、また接着樹脂層3としてアイオノマー、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体を使用する場合には、溶融押出し温度を260?290℃に設定することにより、接着樹脂層3と金属酸化物蒸着層4間の接着強度を50?200g/15mmに調整することができる。
【0013】積層体にガスバリアー性を付与するための層としては、アルミニウム蒸着層、酸化珪素蒸着層、酸化アルミニウム蒸着層等を形成した2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルムまたは2軸延伸ナイロンフイルムが使用可能であるが、中でも酸化珪素蒸着層、酸化アルミニウム蒸着層等の金属酸化物による蒸着層を形成したものが、頂部及び底部形成時の加熱による接着強度の変化が少なく好ましいものである。」
記載d;「【0019】
【実施例】実施例1
400gの板紙の一方の面に30μのポリエチレンを押出しコートにより積層し、板紙の他方の面と酸化珪素蒸着2軸延伸ポリエチレンテレフタレート12μの酸化珪素蒸着面をエチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)を25μ厚さで285℃の樹脂温度で押出しラミネーションして積層した後、ポリエチレンテレフタレート面とポリエチレンフィルム40μを、ポリエチレンを25μ厚さで押出しラミネーションして積層することにより、ポリエチレン30μ/板紙400g/エチレン-メタクリル酸共重合体25μ/酸化珪素蒸着2軸延伸ポリエチレンテレフタレート12μ/ポリエチレン20μ/ポリエチレンフィルム40μからなる積層体を作製した。」

3)引用刊行物1には、記載aによれば、液体用紙容器の積層構成として、外面から順に、ポリエチレン層1、紙層、接着樹脂層、金属酸化物蒸着層、プラスチックフィルム層、ポリエチレン層6からなるものが記載され、記載bによれば、積層体を使用してゲーベルトップ型、フラットトップ型(ブリック型)等の各種型の形状の液体用紙容器が作製されるとの記載があり、記載cによれば、ポリエチレン層6として、シングルサイト触媒を用いて重合したエチレン-αオレフイン共重合体を使用するのが最も好ましいこと、接着樹脂層3としてエチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体等を使用する場合に、溶融押出し温度を260?290℃に設定すること、積層体にガスバリアー性を付与するための層として、酸化珪素蒸着層等を形成した2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルムまたは2軸延伸ナイロンフイルムが使用可能であるとされているのであり、金属酸化物蒸着層として、酸化珪素蒸着層、酸化アルミニウム蒸着層等が好ましい例とされ、記載dから、酸化珪素を蒸着したものが実施例として記載されているのであるから、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「外面から、順にポリエチレン層1、紙層、溶融押出し温度260?290℃で溶融押し出ししたエチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体等の接着樹脂層、積層体にガスバリアー性を付与するための層としての酸化珪素蒸着層及びプラスチックフィルム層、シングルサイト触媒を用いて重合したエチレン-αオレフイン共重合体を使用したポリエチレン層6からなる積層体を作製し、該積層体から作製した液体用紙容器」

4)次に、補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「ポリエチレン層1」「紙層」「溶融押出し温度260?290℃で溶融押し出ししたエチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体等の接着樹脂層」「酸化珪素蒸着層」「プラスチックフィルム層」「積層体にガスバリアー性を付与するための層」「積層体」「該積層体から作製した液体用紙容器」は、それぞれ、補正発明の「最外層」「紙基材」「エチレン-不飽和カルボン酸またはそのエステル化物との共重合体による300℃以下で溶融押出した樹脂層からなる接着剤層」「無機酸化物の蒸着膜」「基材フィルム」「バリア性層」「積層材」「該積層材を使用し、これを製函してなる・・・液体紙容器」に相当し、ポリエチレン製造におけるシングルサイト触媒とは、メタロセン触媒のことであるから、引用発明1の「シングルサイト触媒を用いて重合したエチレン-αオレフイン共重合体を使用したポリエチレン層6」とは、補正発明の「メタロセン触媒を使用して重合したエチレン-α・オレフィン共重合体層からなる最内層」に対応している。
以上のことから、補正発明は、引用発明1とは、
「少なくとも、最外層、
紙基材、
エチレン-不飽和カルボン酸またはそのエステル化物との共重合体による300℃以下で溶融押出した樹脂層からなる接着剤層、
基材フィルムの一方の面に、無機酸化物の蒸着膜を設けた構成からなるバリア性層、
および、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン-α・オレフィン共重合体層からなる最内層を順次に積層し、かつ、上記のバリア性層を上記の紙基材の面に対向して積層した積層材を構成し、更に、該積層材を使用し、これを製函してなる液体紙容器。」である点で一致し、以下の点において相違していると認められる。

相違点a;無機酸化物の蒸着膜について、補正発明においては、蒸着モノマ-ガスとして有機珪素化合物を使用し、化学気相成長法により形成した酸化珪素を主体とし、これに、更に、炭素、水素、珪素または酸素の1種類、または、その2種類以上の元素からなる化合物を少なくとも1種類を化学結合により含有する可撓性に富む蒸着膜からなると特定しているのに対して、引用発明1では、酸化珪素蒸着層であるとされている点。
相違点b;バリア性層について、補正発明においては、少なくとも、ポリビニルアルコ-ル系樹脂と、一般式R^(1)mM(OR^(2))n(式中、Mは、金属原子を表し、R^(1)は、同一または異なり、炭素数1?8の有機基を表し、R^(2)は、同一または異なり、炭素数1?5のアルキル基または炭素数1?6のアシル基もしくはフェニル基を表し、mおよびnは、それぞれ0以上の整数を表し、m+nは、Mの原子価を表す。)で表される金属アルコレ-ト、該金属アルコレ-トの加水分解物、該金属アルコレ-トの縮合物、該金属アルコレ-トのキレ-ト化合物、該キレ-ト化合物の加水分解物および金属アシレ-トの群から選ばれた少なくとも1種とを含有するガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜とを設けたとされているのに対して、引用発明1においては、バリア性層として無機酸化物の蒸着膜上にガスバリア性塗布膜を設けるとはされていない点。

5)そこで、まず、相違点aについて検討する。
バリア性積層フィルムの技術分野において、無機酸化物蒸着膜形成にあたって、化学気相成長法により、有機珪素化合物を蒸着用モノマーガスとして使用することで、酸化珪素の蒸着膜に、Si,O以外にC,Hが含有することで、それらの化合物を含有させ、柔軟性、耐衝撃性、延展性に富む蒸着膜が形成でき、バリア性を維持できることは、周知技術であるので(特開平8-142254号公報【特許請求の範囲】【0007】【0013】?【0015】、特開平8-174748号公報【特許請求の範囲】【0006】【0010】?【0012】【0017】、特開2000-127287号公報【請求項6】【0014】【0015】参照)、引用発明1のガスバリア性を付与する層としての酸化珪素蒸着層を形成する際に、前記周知技術を適用し、蒸着モノマ-ガスとして有機珪素化合物を使用し、化学気相成長法により形成することで、酸化珪素を主体とし、これに、更に、炭素、水素、珪素または酸素の1種類、または、その2種類以上の元素からなる化合物を少なくとも1種類を化学結合により含有する可撓性に富むものとして、バリア性を維持することは、当業者であれば容易に想到しうるものであり、相違点aは容易になしうる。

6)次に、相違点bについて検討する。
バリア性積層フィルムの技術分野において、酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜のバリア性を向上させるために、該蒸着膜表面に、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子と金属アルコキシド等からなる被覆層を形成することは、周知技術であるので(特開2000-238172号公報【特許請求の範囲】【0005】【0041】?【0045】、特開2000-63753号公報【特許請求の範囲】【0019】?【0021】【0045】【0046】、特開平10-167257号公報【0001】【0010】【0011】、特開平10-53243号公報【特許請求の範囲】【0001】【0010】【0012】参照)、引用発明1のガスバリア性を付与する層としての酸化珪素蒸着層のバリア性を向上させるために、該蒸着膜表面に、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子と金属アルコキシド等からなる被覆層を形成することは、当業者が容易に想到しうるものといえ、相違点bは容易になしうる。

7)また、適用したことによる作用効果を検討しても、本件明細書【0080】【0082】の記載から補正発明は、蒸着膜のクラック等を防止され、酸素ガス、水蒸気等の透過を阻止するバリア性が優れたものが形成できたことを示しているだけであり、前記周知技術が、蒸着膜の柔軟性の向上、酸素透過率、水蒸気透過率を小さくするバリア性の向上のためのものであることを考慮すると、当業者の予測を超える格別顕著なものとはいえない。

さらに、請求人は、平成23年6月3日付け審判請求書18頁、平成24年2月2日付け回答書13?14頁において、引用刊行物1が蒸着層と接着樹脂層との界面で分離可能にすることを課題としている点で、補正発明と異なる旨の主張をしているが、引用刊行物1の【0020】に「液体用紙容器としての実用性を損なうことなく、使用済み後に接着樹脂層と金属または金属酸化物からなる蒸着層との間で積層体を剥離し」と記載されるように、使用時の実用性を前提として、使用済み後の分離に関して述べたものにすぎず、使用時においては、ガスバリア性を付与する層に対して、バリア性向上技術を適用することには、動機付けがあり、請求人の前記主張は採用できない。

8)してみると、補正発明は、引用発明1及び前記周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-1-3.まとめ
補正事項aを有する本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第5項の規定に違反するもので、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

2-2.原査定について
2-2-1.本件の発明
本件補正は、先に「2-1」で述べたように却下すべきものであり、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本件補正前の、願書に添付した明細書の請求項1に記載の事項により特定されるものであって、同項の記載は、以下のとおりのものと認める。
「少なくとも、最外層、
紙基材、
エチレン-不飽和カルボン酸またはそのエステル化物との共重合体による300℃以下で溶融押出した樹脂層からなる接着剤層、
基材フィルムの一方の面に、蒸着モノマ-ガスとして有機珪素化合物を使用し、化学気相成長法により形成した酸化珪素を主体とし、これに、更に、炭素、水素、珪素または酸素の1種類、または、その2種類以上の元素からなる化合物を少なくとも1種類を化学結合により含有する可撓性に富む蒸着膜からなる無機酸化物の蒸着膜と、少なくとも、ポリビニルアルコ-ル系樹脂と、一般式R^(1) m M(OR^(2) )n (式中、Mは、金属原子を表し、R^(1)は、同一または異なり、炭素数1?8の有機基を表し、R^(2)は、同一または異なり、炭素数1?5のアルキル基または炭素数1?6のアシル基もしくはフェニル基を表し、mおよびnは、それぞれ0以上の整数を表し、m+nは、Mの原子価を表す。)で表される金属アルコレ-ト、該金属アルコレ-トの加水分解物、該金属アルコレ-トの縮合物、該金属アルコレ-トのキレ-ト化合物、該キレ-ト化合物の加水分解物および金属アシレ-トの群から選ばれた少なくとも1種とを含有するガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜とを設けた構成からなるバリア性層、
および、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン-α・オレフィン共重合体層からなる最内層を順次に積層して積層材を構成し、
更に、該積層材を使用し、これを製函してなること
を特徴とする液体紙容器。」

2-2-2.引用刊行物1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物1の記載事項は、前記「2-1-2 2)」に記載したとおりである。

2-2-3.対比・判断
本願発明は、前記「2-1」で検討した補正発明から「バリア性層を構成するガスバリア性塗布膜が、上記の紙基材の面に対向して積層した」との発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する補正発明が前記「2-1-2」に記載したとおり、引用発明1及び前記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1及び前記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

2-2-4.まとめ
本願発明は、引用発明1に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、原査定の拒絶理由は、相当である。

3.結び
原査定は、妥当である。
したがって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-16 
結審通知日 2012-03-21 
審決日 2012-04-06 
出願番号 特願2000-344661(P2000-344661)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾形 元柳本 幸雄  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 瀬良 聡機
▲高▼辻 将人
発明の名称 液体紙容器  
代理人 金山 聡  

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