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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 D01F
管理番号 1257489
審判番号 不服2009-21504  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-05 
確定日 2012-05-23 
事件の表示 特願2004-520161「セルロース成型体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月22日国際公開、WO2004/007818、平成17年11月17日国内公表、特表2005-534818〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2003年7月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年7月12日、オーストリア)を国際出願日とする出願であって、平成21年6月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成21年11月5日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成21年11月5日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
「アミンオキシド製法によるセルロース成型体の製造方法であって、以下の:
? 水溶性第3級アミンオキシドにおいてセルロース溶液を成型する工程と;
? 前記成型された溶液を沈殿させる工程と;
? このようにして得られた前記成型体を洗浄する工程と;
? 前記成型体を乾燥させる工程と;
を含み、
乾燥前に、
キトソニウム(chitosonium)ポリマーをセルロース溶液および/または前記溶液の前駆体に加え、
および/または成型体をキトソニウムポリマーで処理し、かつキトソニウムポリマーは実質的に標準的な原液に完全に溶解可能であることを特徴とするセルロース成型体の製造方法。」

3.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である米国特許第5795522号明細書(以下、「引用例」という。)には、以下の事項及び引用発明が記載されている(括弧内は日本語訳)。

(1)「According to the invention, the object is also attained by means of a process for the production of a cellulose moulded body according to the amine-oxide process, wherein a suspension of cellulose in an aqueous tertiary amine-oxide is transformed into a spinnable solution, extruded through a spinneret and the moulded body obtained is conducted through a precipitation bath, which process is characterized in that
(a) functional groups which are more nucleophilic than the hydroxy groups of the cellulose are incorporated into the moulded body obtained, or
(b) the moulded body obtained is contacted with an oligomer or a polymer carrying functional groups which are more nucleophilic than the hydroxy groups of the cellulose, whereafter
the moulded body is treated with a crosslinking agent which reacts with the nucleophilic groups, provided that it substantially does not react with the hydroxy groups of the cellulose.」(本発明によると、アミンオキサイド法に従ったセルロース成形体の製造方法によって本発明の目的を達成することもでき、ここで水性第3アミンオキサイド中のセルロースの懸濁液は紡糸可能溶液に変えられ、紡糸口金を介して押し出され、得られた成形体は沈殿浴に導かれる。この方法は、以下を特徴とする。
(a)セルロースのヒドロキシ基よりも求核性が高い官能基を得られた成形体に組み込むか又は
(b)セルロースのヒドロキシ基よりも求核性が高い官能基を有するオリゴマー又はポリマーに得られた成形体を接触させ、
この後に、セルロースのヒドロキシ基と実質的に反応しないという条件で、求核基と反応する架橋剤を用いて成形体を処理する。)(第4欄第4?22行)

(2)「For the purposes of the present specification and claims, the term "moulded body" denotes particularly fibres and films. In the following, the term "fibres" denotes fibres, films and also other moulded bodies.」(本発明の明細書及び請求の範囲の目的に関して、「成形体」という用語は特にファイバー及びフィルムを示している。以下において、「ファイバー」という用語はファイバー、フィルム及び他の成形体も示している。)(第4欄第26?29行)

(3)「Thus there are several possibilities to incorporate the nucleophilic groups capable of crosslinking according to the invention:
・・・
c) The amino groups (or other more nucleophilic groups than the hydroxy groups of the cellulose) may be incorporated into the never dried fibre also in the fibre post-treatment after removing the NMMO attached after fibre regeneration. E.g., the fibre may be treated in a never dried state with an acidic solution of chitosans which is rendered insoluble in and on the fibre by a subsequent treatment with water whereto a base has been added. Then the fibres modified with nucleophilic groups thus obtained may be reacted with the crosslinking chemicals according to the invention.」(従って、本発明に従って架橋結合が可能な求核基を組み込むにはいくつかの可能性がある。
・・・
c)ファイバーの後処理において、添加されたNMMOをファイバーの再生後に除去した後にアミノ基(又はセルロースのヒドロキシ基よりも求核性の高い他の基)を未乾燥のファイバーに組み込むことができる。例えば、キトサンの酸性溶液を用いてファイバーを未乾燥の状態において処理することができ、この溶液は塩基を添加した水を用いる次の処理によってファイバー中及びファイバー上で不溶性にされる。次に、このようにして得られた求核基によって変性したファイバーを、本発明に従った架橋結合化学薬品と反応させることが可能である。)(第5欄第5行?第6欄第3行)

(4)「EXAMPLE 4
A cellulose fibre (Lyocell fibre) was impregnated with a 0.5% acetic chitosan solution (pH 5) for a period of 10 minutes at 40℃. and was squeezed out to a residual moisture content of 130%, was subsequently heated in the drying chamber for a period of 5 minutes at 100℃. and finally rinsed.
The fibre thus modified with chitosan was impregnated with a solution containing 2,4-dichloro-6-aminobenzene-4'-sulfatoethylsulphone-s-triazine (10 g/l) and soda (20 g/l) for a period of 2 minutes, was squeezed out to a residual moisture content of 130% and heated in the drying chamber for a period of 10 minutes at 120℃.
This fibre modified with chitosan exhibited an enhanced reactivity to the crosslinking agent used here and also to other, similar crosslinking agents.」(セルロースファイバー(リオセルファイバー)を40℃で10分間0.5%の酢酸キトサン溶液(pH5)に含浸させ、圧搾して130%の残留含水率にし、続いて100℃で5分間乾燥室で加熱し、最後にすすぎ洗いをした。
キトサンによってこのように変性されたファイバーを、2,4-ジクロロ-6-アミノベンゼン-4’-スルファトエチルスルホン-s-トリアジン(10g/リットル)及びソーダ(20g/リットル)を含有する溶液に2分間含浸させ、圧搾して130%の残留含水率にし、120℃で10分間乾燥室で加熱した。
キトサンによって変性されたこのファイバーは、ここで使用された架橋剤及び他の類似した架橋剤に対する反応性を高めた。)(第8欄第19?35行)

以上の記載から、引用例には、
「水性第3アミンオキサイド中のセルロースの懸濁液が紡糸可能溶液に変えられ、紡糸口金を介して押し出され、得られた成形体が沈殿浴に導かれるアミンオキサイド法によるセルロース成形体の製造方法において、
上記セルロース成形体は、ファイバーであって、
ファイバーの後処理において、添加されたNMMOをファイバーの再生後に除去した後に、ファイバーを未乾燥の状態において酢酸キトサン溶液(pH5)に含浸させ、圧搾し、続いて乾燥室で加熱し、最後にすすぎ洗いをすることにより、ファイバーをキトサンによって変性し、該キトサンによって変性されたファイバーを、2,4-ジクロロ-6-アミノベンゼン-4’-スルファトエチルスルホン-s-トリアジン及びソーダを含有する溶液に含浸させ、圧搾し、乾燥室で加熱したセルロース成形体の製造方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「水性第3アミンオキサイド」、「アミンオキサイド法」及び「セルロース成形体」は、それぞれ引用発明の「水溶性第3級アミンオキシド」、「アミンオキシド製法」及び「セルロース成型体」に相当し、
また、引用発明の「酢酸キトサン」について検討すると、本願明細書の段落【0031】に「『キトソニウムポリマー』は,無機および/または有機酸を含むキトサン塩を指し」との定義があり、本願発明の「キトソニウムポリマー」の例として、本願の出願当初の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項10に「酢酸キトソニウム」が記載され、ここで該「酢酸キトソニウム」は「酢酸キトサン」と同義の物質と認められ、また、本願明細書の段落【0042】にも「酢酸キトサン」が好適である旨の記載があることから、引用発明の「酢酸キトサン」は、本願発明の「キトソニウムポリマー」に包含される物質と認められる。
そして、引用発明の「水性第3アミンオキサイド中のセルロースの懸濁液は紡糸可能溶液に変えられ、紡糸口金を介して押し出され」ることは、本願発明でいう「溶性第3級アミンオキシドにおいてセルロース溶液を成型する工程」に対応し、
引用発明の「得られた成形体が沈殿浴に導かれる」ことは、本願発明でいう「成型された溶液を沈殿させる工程」に対応し、
NMMO等の溶媒の除去は、通常洗浄により行われること、
引用発明のファイバーを「乾燥室で加熱」することは、本願発明の「乾燥させる工程」に対応し、
引用発明の「ファイバーを未乾燥の状態において酢酸キトサン溶液(pH5)に含浸させ」ることは、本願発明でいう「乾燥前に、成型体をキトソニウムポリマーで処理」することに対応するものである。
よって、両者は、
「アミンオキシド製法によるセルロース成型体の製造方法であって、以下の:
? 水溶性第3級アミンオキシドにおいてセルロース溶液を成型する工程と;
? 前記成型された溶液を沈殿させる工程と;
? このようにして得られた前記成型体を洗浄する工程と;
? 前記成型体を乾燥させる工程と;
を含み、
乾燥前に、
成型体をキトソニウムポリマーで処理したセルロース成型体の製造方法。」である点で一致し、以下の点で一応相違する。

相違点;本願発明では、キトソニウムポリマーは実質的に標準的な原液に完全に溶解可能であるとされているのに対して、引用発明では、そのような特定がない点。

そこで、上記相違点について検討すると、
「酢酸キトサン」は、上記したように出願当初の特許請求の範囲及び本願明細書において、本願発明の「キトソニウムポリマー」に包含される物質であり、「実質的に標準的な原液に完全に溶解可能である」とされた物質であること、また、本願明細書に記載された「酢酸キトサン」は、標準的な原液に溶解可能とするために特別な処理などが施されているものとも認められないことより、引用発明の「酢酸キトサン」についても、本願発明でいう「標準的な原液」に対して本願明細書に記載された「酢酸キトサン」と同様な溶解性を示すものと解される。
よって、上記相違点は、実質的な相違ではない。
そうすると、本願発明は、引用例に記載された発明である。

なお、請求人は、審判請求書において「本願の請求項1に係る発明で用いられるキトソニウムポリマーは,酸性以外の溶液下でも可溶なポリマーであって,引用文献1に記載の発明のポリマーとは異なる」との主張をしているが、平成23年6月2日付けで「同じ名前のポリマーを採用するにもかかわらず、本願に記載の酢酸キトサンと引用文献1に記載の酢酸キトサンとが何故に違うのかについて依然として具体的に示しているとはいえない」との審尋を通知し、回答を求めたが、請求人からは、指定した期間内に何らの回答もない。
また、本願発明は、「キトソニウムポリマーをセルロース溶液および/または前記溶液の前駆体に加え」るもの、すなわちキトソニウムポリマーを原液に溶解させるものに限定されるものではなく、「成型体をキトソニウムポリマーで処理」するもの、すなわちキトソニウムポリマーを原液に溶解させないものも包含するものであることから、上記「キトソニウムポリマーは実質的に標準的な原液に完全に溶解可能である」ことについて、必ずしも技術的な意義が認められるものではない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、原査定は妥当であり、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-26 
結審通知日 2011-12-27 
審決日 2012-01-10 
出願番号 特願2004-520161(P2004-520161)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (D01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 政志平井 裕彰  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 佐野 健治
一ノ瀬 薫
発明の名称 セルロース成型体の製造方法  
代理人 亀谷 美明  

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