• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1257499
審判番号 不服2010-20911  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-16 
確定日 2012-05-23 
事件の表示 特願2007-290038「排気システム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月22日出願公開、特開2008-115866〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本件出願は、2001年10月25日(パリ条約による優先権主張2000年10月31日、ドイツ国)を国際出願日とする出願である特願2002-539045号の一部を平成19年11月7日に新たな特許出願としたものであって、平成22年1月27日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成22年4月30日付けで意見書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成22年5月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成22年9月16日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで手続補正書が提出されて明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成23年1月31日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成23年4月26日付けで回答書が提出されたものである。

2.本件発明

本件出願の請求項1に係る発明は、平成22年9月16日付けの手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、以下のとおりのものと認める(以下、「本件発明」という。)。

なお、平成22年9月16日付けで提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、本件補正前の請求項1ないし5及び7ないし10を削除した上で、本件補正前の請求項1を引用する請求項5を引用する請求項6を本件補正後の請求項1とするものであるから、特許請求の範囲の請求項1に関する本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的としたものである。

「【請求項1】
内燃機関の排気システムであって、内燃機関の少なくとも1つの燃焼室を大気に接続する排気管を含み、その中に、内燃機関からの排気ガス中に含まれる汚染物質を転換するための構成部品が配置され、
支持体が排気ガスの流れの方向で見て、内燃機関の下流に配置され、
支持体は、少なくとも1つの燃焼室から80cm未満の距離に配置され、かつ、
支持体は、内燃機関の少なくとも1つの燃焼室において生成される、排気ガス中の窒素酸化物を吸着するための吸着体材を有し、すべての燃焼室は全体でそれぞれの燃焼室の部分体積からなる燃焼室体積を有し、支持体は吸着体材と支持体に存在するいかなる空洞または通路とを含む吸着体体積を有し、
吸着体体積は、燃焼室体積の75%未満となるよう設計され、支持体は窒素酸化物を還元するための触媒活性塗膜を有し、吸着体材は、酸化カリウム成分を有しており、かつ、第1の区域に配置され、支持体は、排気ガスの流れの方向で見て下流に、触媒活性塗膜を備えた第2の区域を有する、排気システム。」

3.刊行物に記載された発明

(1)刊行物1の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された本件出願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第98/13128号(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

なお、以下の当審仮訳に際しては、刊行物1に対応する日本での公表公報である特表2004-518904号公報を参照した。

a)「Brennkraftmaschine mit einer Abgasanlage, ・・・・・中略・・・・・ Edelmetalls vorliegt.」(第25ページ第19行ないし26行)

(当審仮訳:「26.第一動作条件の下で内燃機関の導入された排気ガスからNOxを蓄え、第2条件の下で蓄えたNOxを還元するために再びNOxを放出するのに適したNOx貯蔵器を有する排気ガス装置を備えた内燃機関において、NOx貯蔵器が貴金属を少量を含むあるいは全く含まない少なくとも一つの領域を有し、この領域の下流にNOx貯蔵器のところあるいは後置配置されて多量の貴金属があることを特徴とする内燃機関。」)

b)「Aufgabe der vorliegenden ・・・・・中略・・・・・ des NOx und der Kohlenwasserstoffe erreicht.」(第3ページ下から2行ないし第4ページ第13行)

(当審仮訳:「この発明の課題は、NOx貯蔵器が流入するNOxの高い親和度および/または炭化水素の再生に対する高い変換率を有する窒素酸化物の吸収装置を備えた内燃機関を運転する方法を利用することにある。更に、この課題に対して対応する内燃機関も提供することにある。
冒頭に述べた種類の方法にあって上記の課題は請求項1および/または3の特徴構成により解決されている。内燃機関に関しては、上記の課題は請求項26項の構成により解決されている。
従属請求項は有利な実施態様を示すもので、この実施態様により、特に直接噴射内燃機関の場合のような非常に低い排気ガス温度でも、寒冷時始動後、吸収機能を早めに使用できる。更に、これ等の従属請求項により内燃機関の運転条件が異なっていても、NOx貯蔵器を快適に再生できる。その外、これ等の従属請求項によりNOxと炭化水素を低コストと高効率で変換できる。」)

c)「Mit verschiedenen Faktoren, ・・・・・中略・・・・・ zu absorbieren.」(第12ページ第5行ないし第13ページ下から10行)

(当審仮訳:「互いに組み合わせることのできる種々の要因により、特に直噴ディーゼルエンジンに対して排気ガス吸収体を最適化することが低経費で可能になる。 ・・・・・中略・・・・・ 吸収層に肉薄のセラミックス担体を使用する場合、即ち特に≦0.14mmの肉厚の担体を使用する場合、吸収層の温度上昇が早くなるだけでなく、厚い吸収層も使用できることが分かった。 ・・・・・中略・・・・・ 金属箔の担体を持つ吸収体が特に適している。 ・・・・・中略・・・・・ 吸収体の表面としては特にアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類および/またはランタンのグループの一つまたはそれ以上の元素を添加したγ酸化アルミニウムが適する。銅とマンガンも適した元素である。これ等の元素は通常酸化物として、炭酸塩や硝酸塩としても存在する。その場合、貯蔵作用は適当な硝酸塩や硫酸塩を形成して得られる。これ等は対応する反応条件の下で再び酸素あるいは炭化水素に移行する。これにより、特に少なくとも1%の酸素を含む排気ガスからNOxおよび/またはSOxを吸収することができる。」)

d)「Die Erfindung ・・・・・中略・・・・・ aufgebracht ist.」(第14ページ下から5行ないし第15ページ下から11行)

(当審仮訳:「以下、一実施例と図面に基づきこの発明をより詳しく説明する。
ここに示すのは、
図1,排気ガス浄化部と排気ガス再循環部を備えたディーゼル内燃機関、
図2,NOx貯蔵触媒を再生するブロック回路図、
図3,NOx貯蔵触媒の表面の原理断面図、および
図4,個々のエンジン特性のグラフ、
である。
図1に示す内燃機関1(1.9l,4気筒、ディーゼル直噴器、66kW)には空気導入通路2と排気ガス装置がある。この排気ガス装置3から排気ガス再循環導管4が空気導入通路2に通じている。この排気ガス再循環導管により結局NOxの粗放出の低減が行われる。
排気ガス装置3の中には変換器5がエンジン近くに配置されている。この変換器はディーゼル内燃機関1のシリンダー変位容積の15%の容積を持っている。排気ガス排出部6と変換器5の間の間隔は約20cmである。更に、この排気ガス装置3の中には変換器5の後ろ約70cmのところに通常のNOx貯蔵触媒7が配置され、この後で排気ガスが放出される。
変換器5には、白金装填量が70g/ft^(3)のγ酸化アルミニウム・ウォッシュコートを付けた金属箔担体がある。NOx貯蔵触媒はハニカム状のセラミックス担体で形成されている。このセラミックス担体上には、更に下で詳しく説明するγ酸化アルミニウム・ウォッシュコートが付けてある。」)

e)「Die in der Regenerationsphase ・・・・・中略・・・・・ des NOx-Speichers umgesetzt.」(第16ページ第19ないし25行)

(当審仮訳:「再生期間(第二動作条件)では、場合によって、排気ガス流中に未だある残留酸素が変換器5中で排気ガス流中にあるHCやCO放出物と共に変換される。その結果、NOx貯蔵器7の入口で(広帯域ラムダプローブ12により制御されて)酸素のない排気ガスを利用できる。特に排気ガス流中に未だ残っているCO放出物を用いて、また残留HCを用いても、NOx貯蔵器7の中に吸蔵されていた窒素酸化物がNOx貯蔵器の貴金属で変換される。」)

f)「Der in der Figur 3 ・・・・・中略・・・・・ der Regeneration weitgehend vermieden werden.」(第19ページ第18行ないし第20ページ下から4行)

(当審仮訳:「図3に詳しく示すNOx貯蔵器7は三領域触媒であり、そのコートの流れ通路の断面を原理図にして示す。矢印31は排気ガスの流れ方向を示す。
NOx貯蔵器7はハニカム状のセラミック担体32の上に形成されている。この担体の表面33に前方ウォッシュコート34と後方ウォッシュコート35が付けてある。前方ウォッシュコート34には、例えば欧州特許出願公開第195 22 913号明細書の第6頁、第41?46行に説明してあるような、γ酸化アルミニウムが実質上含まれている。後方ウォッシュコート35はこれに合わせて構成されているが、更にセリウム(酸化セリウムとして)を含む。その場合、セリウムの成分は好ましくは少なくとも1g/ft^(3)であり、特に3g/ft^(3)?8g/ft^(3)の範囲にある。変換器5を使用して、貯蔵触媒7は前方領域36で貴金属コートなしに形成されているか、あるいは貴金属コートが低く選択されている。例えば、40g/ft^(3)まで、特に20g/ft^(3)までに選択されている。これにより、NOx貯蔵器7の化学吸収率が向上する。NOx,特にNO_(2)を吸収するため、ウォッシュコート34は前方部分36にわたり(ウォッシュコート34上にただ記号で示すが実際にはその中に含まれている)バリウム、ランタンおよびナトリウムを含む。これ等の物質はNOx貯蔵器7が吸蔵する時に排気ガスのNO_(2)と共に対応する硝酸塩を形成し、第二動作条件の下で対応する酸化物に戻される。
NOx貯蔵器7の後方領域では、ウォッシュコート層34と35の上に貴金属コート37が付けてある。この貴金属コートは通常の三方触媒コートに対応する。この場合、貴金属は0.1n?10n,特に1nの周りの通常の粒径を持っている。貴金属としては、特に白金あるいは元素、ロジウムとパラジウムの少なくとも一つを伴う白金混合物を使用する。好ましければ、NOx貯蔵性のコート36は下流に置かれた層の中にも無害な状態で延びているので、NOx貯蔵器7の作製は難しくない。貴金属コート37は好ましくは30g/ft^(3)?100g/ft^(3)の範囲、この実施例では46g/ft^(3)である。
説明した構成により、NOx貯蔵器7の上には三つの区域、
前方 NOx貯蔵材料プラス通常のウォッシュコート、
中間 貴金属プラス通常のウォッシュコート、
後方 貴金属プラス酸素を蓄えたウォッシュコート、
が生じる。
酸素を蓄えたウォッシュコートにより、第二動作条件の間に排気ガスと共にNOx貯蔵器7に流入するNOxで変換せず、NOxの還元に使用されるCOとHCの残量は、それ自体と反応してCO_(2)と水になるため、層35の中に貯蔵された酸素で酸化するので、再生時のCOとHCの脈動は大幅に排除される。」)

(2)上記(1)a)ないしf)及び図面の記載より分かること

イ)上記(1)b)及びc)並びに図1の記載によれば、図1に示される排気ガス装置は、内燃機関1の少なくとも1つの燃焼室を大気に接続する排気管の中に、内燃機関1からの排気ガス中に含まれるNOxを変換するためのNOx貯蔵器7が配置されていることが分かる。

ロ)上記(1)d)の「ディーゼル内燃機関1のシリンダー変位容積」、上記(1)f)の「図3に詳しく示すNOx貯蔵器7は三領域触媒であり、そのコートの流れ通路の断面を原理図にして示す。矢印31は排気ガスの流れ方向を示す。」、「NOx貯蔵器7はハニカム状のセラミック担体32の上に形成されている。この担体の表面33に前方ウォッシュコート34と後方ウォッシュコート35が付けてある。」及び「NOx貯蔵性のコート36」並びに図1及び3の記載によれば、ディーゼル内燃機関1は燃焼室の部分体積であるシリンダー変位容積を有しており、NOx貯蔵器7はNOx貯蔵性のコート36を有しており、NOx貯蔵器7には空洞または通路が存在することが明らかであるから、ディーゼル内燃機関1のすべての燃焼室は全体でそれぞれの燃焼室の部分体積であるシリンダー変位容積からなる燃焼室体積を有し、NOx貯蔵器7はNOx貯蔵性のコート36とNOx貯蔵器7に存在するいかなる空洞または通路とを含む吸着体体積を有することが分かる。

ハ)上記(1)d)の「排気ガス排出部6と変換器5の間の間隔は約20cmである。更に、この排気ガス装置3の中には変換器5の後ろ約70cmのところに通常のNOx貯蔵触媒7が配置され、この後で排気ガスが放出される。」及び図1の記載によれば、排気ガス排出部6とNOx貯蔵触媒7との間隔は約90cmであるから、NOx貯蔵器7は、少なくとも1つの燃焼室から約90cmの距離に配置されていることが分かる。

(3)刊行物1に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されている。

<刊行物1に記載された発明>

「内燃機関1の排気ガス装置3であって、内燃機関1の少なくとも1つの燃焼室を大気に接続する排気管を含み、その中に、内燃機関1からの排気ガス中に含まれるNOxを変換するためのNOx貯蔵器7が配置され、
NOx貯蔵器7が排気ガスの流れの方向で見て、内燃機関1の下流に配置され、
NOx貯蔵器7は、少なくとも1つの燃焼室から約90cmの距離に配置され、かつ、
NOx貯蔵器7は、内燃機関1の少なくとも1つの燃焼室において生成される、排気ガス中のNOxを吸収するためのNOx貯蔵性のコート36を有し、すべての燃焼室は全体でそれぞれの燃焼室の部分体積からなる燃焼室体積を有し、NOx貯蔵器7はNOx貯蔵性のコート36とNOx貯蔵器7に存在するいかなる空洞または通路とを含む吸着体体積を有し、
NOx貯蔵器7はNOxを還元するための貴金属コート37を有し、NOx貯蔵性のコート36は、アルカリ金属の酸化物を有しており、かつ、前方領域に配置され、NOx貯蔵器7は、排気ガスの流れ方向31で見て下流に、貴金属コート37を備えた後方領域を有する、排気ガス装置3。」

(4)刊行物2の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-170528号公報(平成12年6月20日出願公開。以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「【0021】本発明に係る内燃機関の排気浄化装置では、前記吸蔵還元型NOx触媒は小容量で且つ触媒が高坦持されているのが好ましい。吸蔵還元型NOx触媒を小容量とすることにより熱容量を小さくすることができ、吸蔵還元型NOx触媒をより迅速に昇温することができるからである。また、触媒を高坦持にするのは、小容量化してもNOx浄化効率を低下させないようにするためである。前記吸蔵還元型NOx触媒の容量は内燃機関の排気量の20%以下とすることができ、排気量の5%程度まで小容量化は実現可能と思われる。前記「高坦持」とは、通常の触媒坦持率の2?8倍程度をいう。」(段落【0021】)

b)「【0037】第1触媒コンバータ20に収容されているNOx触媒21、即ち吸蔵還元型NOx触媒は、流入排気の空燃比(以下、排気空燃比と称す)がリーンのときはNOxを吸収し、流入排気の空燃比がストイキまたはリッチで排気中の酸素濃度が低下すると吸収したNOxを放出するNOxの吸放出作用を行う。・・・・・後略・・・・・」(段落【0037】)

(5)刊行物2に記載された発明

したがって、上記(4)を総合すると、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2に記載された発明」という。)が記載されている。

<刊行物2に記載された発明>

「吸蔵還元型NOx触媒を排気量の20%以下(5%程度まで実現可能)まで小容量化することにより熱容量を小さくすることができ、吸蔵還元型NOx触媒をより迅速に昇温する。」

4.対比・判断

本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明における「内燃機関1」、「排気ガス装置3」、「変換」、「NOx貯蔵器7」、「吸収」、「NOx貯蔵性のコート36」、「貴金属コート37」、「前方領域」、「排気ガスの流れ方向31」及び「後方領域」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、それぞれ、本件発明における「内燃機関」、「排気システム」、「転換」、「支持体」、「吸着」、「吸着体材」、「触媒活性塗膜」、「第1の区域」、「排気ガスの流れの方向」及び「第2の区域」に相当する。
また、刊行物1に記載された発明における「NOx」は、汚染物質であることが明らかであるから、本件発明における「汚染物質」及び「窒素酸化物」に相当する。
また、刊行物1に記載された発明における「NOx貯蔵器7」は、内燃機関1からの排気ガス中に含まれるNOxを変換するための構成部品であることが明らかであるから、本件発明における「構成部品」に相当する。
また、刊行物1に記載された発明における「約90cmの距離」は、「所定の距離」という限りにおいて、本件発明における「80cm未満の距離」に相当する。
また、刊行物1に記載された発明における「アルカリ金属の酸化物」は、「アルカリ金属の酸化物」という限りにおいて、本件発明における「酸化カリウム成分」に相当する。

したがって、本件発明と刊行物1に記載された発明とは、
「内燃機関の排気システムであって、内燃機関の少なくとも1つの燃焼室を大気に接続する排気管を含み、その中に、内燃機関からの排気ガス中に含まれる汚染物質を転換するための構成部品が配置され、
支持体が排気ガスの流れの方向で見て、内燃機関の下流に配置され、
支持体は、少なくとも1つの燃焼室から所定の距離に配置され、かつ、
支持体は、内燃機関の少なくとも1つの燃焼室において生成される、排気ガス中の窒素酸化物を吸着するための吸着体材を有し、すべての燃焼室は全体でそれぞれの燃焼室の部分体積からなる燃焼室体積を有し、支持体は吸着体材と支持体に存在するいかなる空洞または通路とを含む吸着体体積を有し、
支持体は窒素酸化物を還元するための触媒活性塗膜を有し、吸着体材は、アルカリ金属の酸化物を有しており、かつ、第1の区域に配置され、支持体は、排気ガスの流れの方向で見て下流に、触媒活性塗膜を備えた第2の区域を有する、排気システム。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>

「支持体は、少なくとも1つの燃焼室から所定の距離に配置され」ることに関して、
本件発明においては、「支持体は、少なくとも1つの燃焼室から80cm未満の距離に配置され」ているのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「NOx貯蔵器7は、少なくとも1つの燃焼室から約90cmの距離に配置され」ている点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>

本件発明においては、「吸着体体積は、燃焼室体積の75%未満となるよう設計され」ているのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、そのように設計されているか否か不明である点(以下、「相違点2」という。)。

<相違点3>

「アルカリ金属の酸化物」に関し、
本件発明においては、「酸化カリウム成分」であるのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「アルカリ金属の酸化物」が「酸化カリウム成分」であるのか否か不明である点(以下、「相違点3」という。)。

まず、上記相違点1について検討する。

一般に、実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは当業者の通常の創作能力の発揮というべきであるから、公知技術に対して数値限定を加えることにより、特許を受けようとする発明が進歩性を有するというためには、当該数値範囲を選択することが当業者に容易であったとはいえないことが必要であり、これを基礎付ける事情として、当該数値範囲に臨界的意義があることが明細書に記載され、当該数値限定の技術的意義が明細書において明確にされていなければならないものと解するのが相当である。
一方、平成22年9月16日付けの手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面(以下、「本件明細書等」という。)を検討しても、本件発明において「支持体は、少なくとも1つの燃焼室から80cm未満の距離に配置され」と数値限定したことの臨界的意義が明らかにされているとは認められない。
ところで、内燃機関の排気システムにおいて、内燃機関の下流に配置される支持体と燃焼室との間の距離が短いほど、支持体に高温の排気ガスが流入し、支持体の温度が上昇する傾向にあること、及び、適当な温度環境下で支持体がその機能を発揮することは、本件出願の優先日前、当業者における技術常識の範疇に属する事項である。
そして、冷間始動(コールドスタート)時の内燃機関の排気システムにおける支持体の性能の発揮を目的として、内燃機関の下流に配置される支持体を燃焼室に近づけることは、本件出願の優先日前に周知の技術(例えば、実願平3-59948号(実開平5-6121号)のCD-ROM[特に、段落【0002】の「【従来の技術】・・・・・中略・・・・・冷間始動時の排ガス浄化効率を上げるためには、触媒コンバータをできるだけ急速に加熱・昇温し触媒活性を高めておく必要がある。その手段として、(1)触媒コンバータを排ガス通路のなるべく上流部に装着し機関燃焼室に近づける。・・・・・中略・・・・・などが提唱されている。」の記載。]及び特開2000-64830号公報[平成12年2月29日出願公開。特に、段落【0013】及び【0014】の「【発明の実施の形態】・・・・・中略・・・・・この前置触媒装置3の内部には、アルミナ表面に白金・ロジウム・パラジウムなどの貴金属を担持させてHC,COを酸化すると同時にNO_(x)を還元することのできる三元触媒が配置されている。また、前置触媒装置3のアルミナコート表面には細孔が形成されており、この細孔によりHCなどの有害物質を吸着することもできる。【0014】また、この前置触媒装置3は、エンジン1の燃焼室から排出された排気ガスの温度が低下しない位置、即ち、エンジンルーム内などのエンジン1の燃焼室に近い位置に配置されている。一般に触媒は、ある程度の高温(活性温度)にならないと、その酸化・還元作用が機能しない。このため、前置触媒装置3を燃焼室近傍に設置することにより、前置触媒装置3の温度を排気ガス自体の温度によってより早期に活性温度まで上昇させ、酸化・還元作用をより早期に機能させるようにしている。」の記載。]等参照。以下、「周知技術1」という。)である。
一方、上記3.(1)b)の「特に直接噴射内燃機関の場合のような非常に低い排気ガス温度でも、寒冷時始動後、吸収機能を早めに使用できる。更に、これ等の従属請求項により内燃機関の運転条件が異なっていても、NOx貯蔵器を快適に再生できる。その外、これ等の従属請求項によりNOxと炭化水素を低コストと高効率で変換できる。」の記載によれば、刊行物1は、寒冷時始動後の迅速なNOx貯蔵器の性能の発揮、換言すれば、冷間始動時の内燃機関の排気システムにおける支持体の性能の発揮という課題を示唆していることから、刊行物1に記載された発明においても、この課題が内在されているものといえる。
してみると、「支持体は、少なくとも1つの燃焼室から所定の距離に配置され」ることに関し、冷間始動時の内燃機関の排気システムにおける支持体の性能の発揮という課題の下、上記技術常識及び周知技術1を考慮して、刊行物1に記載された発明において、NOx貯蔵器7の燃焼室からの距離を短縮して、上記相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたことである。

次に、上記相違点2について検討する。

前述のとおり、一般に、実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは当業者の通常の創作能力の発揮というべきであるから、公知技術に対して数値限定を加えることにより、特許を受けようとする発明が進歩性を有するというためには、当該数値範囲を選択することが当業者に容易であったとはいえないことが必要であり、これを基礎付ける事情として、当該数値範囲に臨界的意義があることが明細書に記載され、当該数値限定の技術的意義が明細書において明確にされていなければならないものと解するのが相当である。
一方、本件明細書等を検討しても、本件発明において「吸着体体積は、燃焼室体積の75%未満となるよう設計され」と数値限定したことの臨界的意義が明らかにされているとは認められない。
ところで、刊行物2に記載された発明は上記3.(5)に記載したとおりであるから、「吸蔵還元型NOx触媒(本件発明における「支持体」に相当する。)をより迅速に昇温するために、吸蔵還元型NOx触媒の熱容量を小さく、具体的には、吸蔵還元型NOx触媒を排気量の20%以下(5%程度まで実現可能)まで小容量化する。」という技術思想を開示するものであるといえるので、刊行物2に記載された発明から、「排気システムにおける支持体をより迅速に昇温するために、支持体の熱容量を小さく、具体的には、支持体を排気量の20%以下(5%程度まで実現可能)まで小容量化する。」という技術(以下、「刊行物2の技術」という。)を導くことができる。
そして、冷間始動(コールドスタート)時の内燃機関の排気システムにおける支持体の性能の発揮を目的として、内燃機関の下流に配置される支持体を迅速に昇温することは、本件出願の優先日前に周知の技術(例えば、実願平3-59948号(実開平5-6121号)のCD-ROM[特に、段落【0002】の「【従来の技術】・・・・・中略・・・・・冷間始動時の排ガス浄化効率を上げるためには、触媒コンバータをできるだけ急速に加熱・昇温し触媒活性を高めておく必要がある。」の記載。]及び特開平9-192453号公報[特に、段落【0002】、【0006】、【0007】及び【0008】の「自動車エンジンが始動する際など、排気ガスが暖まっていない場合などでは、触媒要素30の触媒組成物が活性化せず、排気ガス中の汚染物質を除去することができない。そこで、ハニカムヒーター20が排気ガスを触媒組成物の着火温度以上に加熱して、触媒組成物が活性化し、排気ガス中の汚染物質の除去効率が向上する。」の記載。]等参照。以下、「周知技術2」という。)である。
一方、前述のとおり、刊行物1に記載された発明においても、冷間始動時の内燃機関の排気システムにおける支持体の性能の発揮という課題が内在されているものといえる。
してみると、「支持体体積」の設計に関し、冷間始動時の内燃機関の排気システムにおける支持体の性能の発揮という課題の下、上記周知技術2を考慮して、刊行物1に記載された発明において、支持体の迅速な昇温を目的とする刊行物2の技術を適用して、上記相違点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたことである。

最後に、上記相違点3について検討する。

排気ガス中の窒素酸化物を吸着するための吸着体材にアルカリ金属の酸化物である酸化カリウム成分を含有させることは、本件出願の優先日前に周知の技術(例えば、拒絶査定時に示した特開昭49-63685号公報[特に、特許請求の範囲第1、6及び9項並びに第4ページ左上欄第11ないし15行]及び特開平4-367707号公報[特に、【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項2】並びに段落【0005】]のほか、特開平11-156209号公報[特に、段落【0014】、【0016】及び【0021】]及び特開平6-31139号公報[特に、段落【0017】及び【0018】]等参照。以下、「周知技術3」という。)である。
してみると、刊行物1に記載された発明における「アルカリ金属の酸化物」について、上記周知技術3を適用して、上記相違点3に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたことである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明及び刊行物2の技術並びに周知技術1ないし3から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

5.むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2の技術並びに周知技術1ないし3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-14 
結審通知日 2011-12-20 
審決日 2012-01-06 
出願番号 特願2007-290038(P2007-290038)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二之湯 正俊岩▲崎▼ 則昌  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 中川 隆司
安井 寿儀
発明の名称 排気システム  
代理人 仲村 義平  
代理人 深見 久郎  
代理人 野田 久登  
代理人 森田 俊雄  
代理人 酒井 將行  
代理人 堀井 豊  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ